テストテストテスト152

『さっき情報が入ったわ。山本奴隷六号以下、舎弟たち全員現地入りしたって』

「ぎ、犠牲者は?」

『幸いなことにその話はない。でも正直、本番は到着して以降から。寧ろこれからの方がこたえる』


 三縞校生徒会室、自らの執務で仕事に集中する魅卯は、親友の《ショートカット風紀委員長》(一徹称)の呼びかけに一瞬ホッとし、すぐに固まった。


『まだ生きているのは分かってる。でも、つまりはこれからいつ死んでしまうかもしれない恐怖を、待つ身はずっと抱えなくてはならない』


 魅卯の反応を前に、《ショートカット風紀委員長》は不憫そうな表情を浮かべた。


『嫌なことを言う。でも、私達の稼業ってそういうもの。どこかで割り切らなくてはならないとは思わない?』

「それは分かってるけど……」

『魅卯のポジションならとりわけ。幾多まとめ上げることを求められた将官は、誰かが倒れる度に揺らいじゃダメ。その揺らぎによって采配を誤った結果、全体が崩壊する可能性もある』


 しょんぼりを見せる魅卯の居たたまれなさに、負けたとばかりに《ショートカット風紀委員長》は噴き出した。


『ま、でもわたしも・・・・好きな人が戦地に行ったら同じ感じになるんだろうな』

「へ?」


 いきなりベクトルの違う話題。

 拍子抜けの表情で向けられた魅卯の顏に、《ショートカット風紀委員長》はニヤリ笑いながら前かがみ。自らの顔を近づけた。


『魅卯さぁ、奴隷六号のこと好きでしょ・・・・・・・・・・・・?』

「えぇっ!?」


 執務机とセットの椅子は、座る魅卯がピンと背筋をただしたことでガタンと音を鳴らす。

 図星を付かれてびっくりした証だ。


『魅卯を見てれば判る。付き合いだって長いんだから。多分ハッキリしたのは文化祭の時じゃない?』

「い、いや、あのっ」

『まったく、アイツのどこがいいんだか。顔は十人並み。ゴリラマッチョは私の好みじゃないし……』

「み、《ガンス水瀬君》の体格だって」

『……ん♡?』

「な、なんでもないよ」

『基本、大馬鹿。な・の・に、どういうわけか結構女の子から評判良いよねぇ』


 《ショートカット風紀委員長》は冷めた目の薄ら笑い。


『どうせあれよ。トリスクトさんとの関係がバイアスになってるだけじゃない? 『あんなに綺麗な娘が惚れちゃうくらいだから、とんでもない男子に違いない』って。まぁ、締めるときに締めるギャップだけは定評あるかもね?』

「ち、違うよ! 私は別に、山本君の事なんてっ……」

『魅卯は頭もいいし可愛いし。優しい。私が見ても羨ましい程の完璧な女の子なんだから。どう考えても奴隷六号じゃ、魅卯の想いを受け止める存在として到底相応しくないと思うんだけど』

「わ、私、完璧なんかじゃ……」

『でもアレか、久我舘隆蓮ダメンズが婚約者じゃ、奴隷六号でもいい男に見えるのか』

「ちょ、ちょっと!」

『そう言えば、魅卯とは付き合い長いけど、恋バナとかしたことなかったね?』


 からかう親友に、顔を真っ赤に魅卯はわたわた必死。


『でももし本当にそうなら、魅卯、凄い大変。ライバルは何と言ったってあのトリスクトさんなんだから。魅卯だって見たでしょ? 奴隷六号が陛下から勅命を頂いた後、彼女が見せた……全国視聴者前での奴隷六号への公開告・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ッツ!?」

『実はここに来たのは、それも理由の一つだった。報道陣が、奴隷六号の情報を聞き出そうと躍起になってる』


 が、話がここまで来ると、からかいがちだった《ショートカット風紀委員長》は苦しそうに嗤った。


『全国的に人気絶頂中のトリスクトさんの婚約者にて、フランベルジュ教官が好きを生放送で公言しちゃった相手。ちょっと前に出た二人のスキャンダル。相手は、謎に包まれていたじゃない?』

「正体は、その時の映像で明るみになってしまった?」

『だけじゃない。正体たる奴隷六号は今朝の陛下の演説の折、その御手に口づけした。手の甲には違いないけど、アイツのために新設された役目。歳が近いこともある。現代の逆シンデレラ・ストーリー。ロイヤルロマンスかって』


 それは一徹らが知らない物語。

 四季が一徹に忠誠のキスを許した直後、ルーリィ達が憤慨した後に連なったある意味での放送事故・・・・・・・・・・

 その時一徹は組員を率い、四國搬送ヘリに搭乗するまで学院ブリーフィングルームで会議中だったのだ。


『いまだ久我舘隆蓮ダメンズの婚約者には違いない。東北桜州退魔の姫にも取れる魅卯なら、恐れ多くも陛下含めた3人の奴隷六号争奪戦に加わるに、立場としては見劣りしない』

「……隆蓮様の話はしないで」


 話を続けて、《ショートカット風紀委員長》はハッと目を見開く。やれやれと、ため息がちに首を振った。


 二つ理由がある。

 こう言った争いごと、魅卯は人となりから嫌がるはずだった。

 隆蓮がいまだ魅卯の婚約者であることには違いない。しかしこの話題ではどうやら、その名を聞きたくないらしい。


 つまるところ……


「実はね、この前トリスクトさんには名乗りを上げていたんだ」

『そう。覚悟は決めていたのね。まさか魅卯が、魅卯の方から喧嘩を売るとは思ってもみなかった』

「いわゆるbitchかな。私」

「どーだろ。好きになったら一直線と言えば聞こえはいいけど。でもそうね。自己嫌悪を魅卯が感じていて、責められることで少しでも良心の呵責を感じたいなら責めてあげる。このメス豚がYou bitch

「うん、ありがとう」


 久我舘隆蓮への感情などどうでもいい。だが婚約関係が続いている以上、それは魅卯が浮気か不倫の関係を一徹に対し望・・・・・・・・・・・・・・・・・・んでいることに等しい・・・・・・・・・・


『トリスクトさんから……奪い取りたい。どちらにも婚約者がいる。ダブル不倫よ・・・・・・。まさか普通科高校なら高三の私たちの世代で、そんな言葉が持ちあがるとは。正直筋にはもとってる・・・・・。応援は……ゴメン。出来ない。でも、悔いなく行きなさいよ』

「ん」

『なら、いよいよ心配は募る。なんとしてでも、奴隷六号には帰ってきてもらわないと』

「だけじゃない。《山本組員ヤンチャ君たち》にも何かあっちゃいけないんだ。取り返しつかないことが起きたら、山本君にも致命的な精神的ダメージがあるはずだから」

『最悪、魅卯が好きな奴隷六号が、帰ってくる頃には変わってしまっているかもしれない……か』


 その為なら取り合い合戦大いに上等ということなのだ。


「あ、じゃあ……」


 セリフと表情。魅卯の想いは十分すぎるほど理解した《ショートカット風紀委員長》だが、


「奪い取るってことは、や、やっぱり魅卯の方から奴隷六号を寝取るの・・・・・・・・・・・・・・・? 俗に言うNTRって奴?」

「え゛っ?」


 ふと思ってしまった疑問をそのまま口にしてしまったこと。


「そ、その、私達多くの女子が羨ましくてならない、その無駄に大きな胸を利用して……」

「ちょっ! いきなり下世話になってる! っていうか無駄って何!?」


 緊迫に満ちた空気は、一気におかしなものへと変わってしまった。



「本当にアンタたちと来たら、いろいろあり過ぎて退屈する暇もないわよ。それこそ心配でいつ押しつぶされてしまうかレベルに」

「「スマナイ/申し訳ありません」」


 三縞市内は、先日一徹がトモカの旦那に引っ張られて入った店。トモカの旦那の知り合いが経営している会員制のバー。


「いくらこの国での生活に慣れてきたからって、やっぱりアンタたちの文明レベル差は、瞬間的な行動や判断に出てきちゃうか」

「生放送ということは分かっていたが」

「感情が先走り、後先が一瞬では考えられませんでした」


 交際発覚? 恋愛沙汰? 

 全国的に名が売れ過ぎた、「「守ろう私たちが/守ります私たちが」」のキャッチフレーズを持ち、今年の流行語大賞にもノミネートが期待される《守ってくれる系女子》のアイコン二人のホットすぎる話題。

 報道人間から取材殺到格好の的だ。


「キー局の朝の生放送で、一徹大好き宣言しちゃったからなぁ。どうせそこまでやってしまったなら、いっそのこと一徹に届いてほしいものだけど」


 二人が三泉温泉ホテル旧館を下宿にしていることは、三縞の中では暗黙の了解。

 なんなら同じ屋根の下、一徹と共同生活もしていた。


 情報が漏れてしまったこともあるだろう。


 桐京から三縞に急いで帰り、三縞校に顔を見せた二人は三泉温泉ホテルに戻った。取材陣が待ち構えていて、取り囲まれた。

 緊急事態としホテルスタッフが車で送り届けたのが、秘密順守徹底されたこの店だった。


 どんな思惑かは関係ない。人が殺到するだけでストレスではないか。

 トモカも、最近生まれたばかりの赤ん坊を抱いて避難した。


「にしてもシキか。文化祭期間中気楽に呼んでたけど、正体は女皇陛下だもんなぁ。直々のご指名ってなら、ルーリィやシャリエールでも止めるのは難しかった」

「……すまない。トモカ殿から、私が託されていたのに」

「過ぎた後悔は取り戻せないとも言いますが、悔しいです。私達には皇は関係ない。ならば何があっても一徹様の傍にいるべきだった。誓っていたのに」

「実は私も気になってた。どこか最近のアンタたち、一徹と距離を置きたかったように見えた。最近の一徹は私にも距離を置いてた。まさかまた反抗期? 前回下宿を逃げた時みたいな」


 フォローを見せつつ、トモカの目は真剣。眼差しを受けるルーリィ達は罰が悪かった。


「どうしたの?」

「実は……」


 やがてルーリィとシャリエール。犬猿の仲が目を配せ合うから、トモカは首を傾げ怪訝な顏。


「その期間、表に出ていたのは……《記憶をなくす前本来の一徹》だった」

「ッツ!?」


 一言。

 ヒュっと息を飲み込み、トモカは絶句し固まった。


「そう……なの……」


 その数秒後、知らずのうちに握った拳を胸に当てていた。


「トモカ殿。私達は……」

「いい。わかった。『ありがとう』か、『会ってみたかった』か。なんて言えばいいか分からないから。今は事実を事実として受け止める」


 次いで目を閉じ、下唇を噛む。

 言われてから、短い沈黙が降りた。


「私の事を心配して、だから相談できなかった。痛かったよね。苦しみを、アンタたちは自分の胸にだけ仕舞ってこらえてくれていた」

「それも私たちの責任だからです。第一に、トモカ様にはトモカ様が選んだご主人様がいらっしゃいます。お二人の間にその子も生まれました」

「第二に、《記憶をなくす前本来の一徹》はもう、トモカ殿の恋人ではない。第三、婚約者はこの私だ」

「私は所詮2番手でも構いません。でもその想いはトリスクト様にも負けはしない」

「なのにアンタたちは距離を置いた。何か並々ならない事情があったのね?」


 テーブルにホットチョコレートとホットミルクが届く。「トモカの旦那大将にツケるんで、好きにやってください」と笑っていた。


「どうやら私たちは、《記憶を無くしたこの世界での一徹》と長く居すぎてしまったらしい」

「《記憶を無くしたこの世界での一徹様》の事も、愛してしまった」

「そういうこと……か」


 出されたホットチョコレートに、トモカだけが口付けた。


「《記憶をなくす前本来の一徹》が現れるということは、《記憶を無くしたこの世界での一徹》が消えることと同義なのね」


 一息つくと、改めて椅子の背もたれに身体を預けた。


「こう言っては何ですが、私達は何度も《記憶をなくす前の一徹様旦那様》を失っています」

「私は故郷、《ルアファ王国》から忽然と姿を消した一徹と再会したのが、3年ぶりということもあった。その時の彼は、彼が亡命した別の国に籍を持っていたな」

「私はとある事件によって、旦那様が亡くなったとの報せを耳にしました。それからまさか再会するまでの1年、私は私の生きる居場所セカイを失っていたのです」

「「そうして私たちは……一徹を殺した/旦那様を殺しました・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「うん、そんな話も、聞いてこなかったわけじゃない」


 変わってルーリィ、シャリエールは、マグカップに手を付けなかった。

 冷めても、手を伸ばすことはないのかもしれない。


「言い方は酷いですが、そういう意味で《記憶をなくす前の一徹様旦那様》が目の前から居なくなることにある程度の耐性はあったかも知れません」

「《記憶をなくす前本来の一徹》が私達との記憶を無くしたことに対しても、なんとか耐えられた。だが今回は……」

「《記憶を無くしたこの世界での一徹》を失う事への恐れに耐えきれなかった。旦那と出逢う前の私も、一徹を突然失った時耐えられなかった。気持ちはわかるかな」


 重い話をしている。


「アンタたちがここにいる理由は、一徹に記憶を取り戻させるため。でも、真っ新な一徹が元の記憶を取り戻すその時、急に色々思いだす過程での負担で精神崩壊するのを防ぎたかった」

「地獄という言葉では足りないほどの仕打ちを、《記憶をなくす前の一徹様旦那様》は強いられてきましたから」

「だけど、状況は大きく変わった」

「こちら側で出逢ったばかりの頃の《記憶を無くしたこの世界での一徹》は、アンタたちにとって単なる中継ぎでしかなかった。でも長く一緒にいることで、どちらの一徹も本命になった」


 が、ホットミルクをトモカに含ませてもらって赤ん坊がご機嫌なのが、違和感をもたらした。


「複雑……だねぇ。私には、私が望んで一緒になった旦那がいる。だから《記憶をなくす前本来の一徹》には会えないよ。会ってはならない。子供までいて、旦那と同じ敷地内に、記憶を取り戻した元カレ。一体なんて修羅場?」


 うんうんと頷き、状況を理解していく。


「《記憶をなくす前本来の一徹》も、トモカ殿にご主人とその子がいることを知っている」

「マジっ!?」

「ご安心下さい。既にそのことにはご自身で折り合いを付けられたご様子。ここに居られる最後その時まで、眠りにつかれることを約束されました」

「状況は分かった」


 そこまで聞いて、今度トモカは疲れ切ったように息を吐いた。


「《記憶をなくす前本来の一徹》が出てきたことで、私に相談は出来なかった。《記憶を無くしたこの世界での一徹》がいなくなったことで、本気で《記憶をなくす前本来の一徹》だけを想うことに迷いが生じた」

「私達の間に距離が出来てしまった。最後にやっと、《記憶を無くしたこの世界での一徹》に会えた……のに……」

「その隙に、アイツはシキに目を付けられた……か」


 正直なところ、この時点での結末。すなわち皇に見込まれたという事実は、再び一徹を奪い返そうとするにあまりに障害として大きすぎると思った。


こちら側の元正ヒロインとして・・・・・・・・・・・・・・アチラ側で現正ヒロインになった・・・・・・・・・・・・・・・ルーリィとシャリエールの立場を守ってあげたかった。一徹を守るにも繋がるだろうから。だから《記憶を無くしたこの世界での一徹》の初恋の女の子、魅卯ちゃんを警戒してたんだけど」


 思わずトモカは舌を打つ。

 

「私の目の前から消えたあの時、こちらの世界籍から外れた・・・・・・・・・・・・以上、決定的な繋がりをこちら側で作らせちゃいけないのに。よりにもよって女皇とか。もう! 有栖刻は一体何してたわけ!?」

「お、有栖刻お義兄様が?」

「恐らく、あの人は一徹の正体に気付いてる。《対転脅》長官として皇にも近い。牽制するなら、あの人がしなきゃならなかった」


 新米ママは御立腹過ぎた。

 何か察知したか。入れ墨モンモン入りまくったマスターが、どこかからか持って来たのは古いタイプのベビーカー。ふんわりとした毛布も添えて。


「こちら側で現正ヒロインたりえるのは、魅卯ちゃんじゃなくてシキだったか。一国民の私じゃ手が出ない。有栖刻も動かなかった以上、あとはもう、ヴァラシスィに頼るしかないかも。一徹が生きている間・・・・・・・・・世界籍はあの娘が握ってる・・・・・・・・・・・・


 トモカはさっさと子供をベビーカーに乗せる。毛布でくるんだ。自身から離すことはしなかった。離したら、多分、泣く。


「ごめんなさい。ここから先、私に出来るのは悩みを聞くことくらい。『頑張って』としか言えないのが歯がゆい。それでも私はアンタたちを応援する。アイツの、アチラ側の元正ヒロインの呪いを打ち破ったんだから」


 ルーリィとシャリエール。二人ともビクリと身体を波打たせた。

 「アチラ側の元正ヒロイン・・・・・・・・・・・」という発言。

 折角「悩みだけは聞いてあげるから何でも言って発散しなさい」とトモカは言ってくれたが、そのことだけは言い出せなかった。


 一徹の、アチラ側でのかつての正ヒロインの影。一度も出逢ったこと無いルーリィとシャリエールだが、日に日に強く色濃く感じる・・・・・・・・・・・・それもこちら側で・・・・・・・・



「陛下、山本特務はじめ《山本組》の四國到着の一報が入りました」

「問題は?」

「ありません」

「そか、ならよかった」


 午前中三縞校で演説した四季。とんでもなく高そうな国産車に同乗するネネからの報せに安堵した。


「あの、それで」

「ちょ、待って。心の準備をさせてくんない? どうせ悪い知らせでしょ?」


 一徹たちの戦場に降り立つ話を耳にしたのは、桐京と志津岡を結ぶ桐名高速で神那河県を抜ける直前。


「……五日出聖訓練生らも現地にいるみたいです」

「……誰だっけ?」

「いたでしょう? 昨日アラハバキで行動を共にした、ヒジキという同い年男子」

「ゲッ!? 嘘ぉっ!? 貴桜都の!?」


 話題は、昨日仲悪さ極まった男の話だったから、名前を聞いては反応できない。

 ヒジキと聞いてやっと思い出した。


「なんで? いや、そういうのはいい。私の一徹君の貞操の危機っ!? こうしちゃいられない! すぐに一徹君に緊急通信をっ!?」

「いや、貞操の危機は無いと思います。徹、そっちの気はないみたいですから・・・・・・・・・・・・・・・

「だとしてもだっ! 一徹君の奴、女の子に一喜一憂しまくる傍ら、漢の友情ブラザーフッドとか優先しがちじゃん! 次代は正化を超え英光だっていうのに。昭和かっつーの!?」


 報告したネネの方はゲンナリだ。


「徹の傍に凄腕がいることが、徹の生存率向上につながると思って報告したのに」


 一徹はヒジキをランクS訓練生とも評価した。

 頼もしい戦力が一徹の手元にあることに、シキが喜ぶのではないかと思っていた。


「カムバーック一徹君! あのクソゴリラとの関係を断って私のところに帰ってきたら、私の何もかも捧げてあげる!」


 冗談にも聞こえるシキの発言が、実は真剣だというのがわかる。

 真剣に不真面目発言をするのが親友で皇。ネネの頭が痛くならないわけがない。



「せっかく前に来てもらって出鼻挫くつもりもないけんど」

「ハイ?」

「伊達や酔狂で出張ってくるなら、下がった方がいい。ランクべへモス。第三形態だ」


 千数百メートルからの落下。地面への衝突。さすが第三形態か。それでもまだまだ動けそうだった。

 決して傷は浅くないらしい。だから焦り故か、目の前の敵生体は確実にイキり立っていた。

 

「『手負いの獣は危ないバイヤー』っていう。一撃でも喰ったら最悪は死。良くても大怪我だ」

「それは、貴方や貴方を信じて付いてきた後輩方も同じではないのですか?」

「えっ?」


 とはいえそれでも手負いの獣。ここでキッチリ駆逐したかった。


 《山本組》実力トップ5人の《古参幹部衆バカ共》が俺に続いてくれるって言うじゃないの。いつ飛び込むか。タイミングを伺った。

 そのさなか見知らぬ女の子が隣に立ったから、一応の注意喚起だった。


「ご安心ください。だからわたくしはここにいます・・・・・・・・・・・・・・


(あ……れ?)


「先ほどは空で、わたくしの隊長が紹介しましたが、改めて自己紹介させてください」


(なん……だ? この……感覚……)


 ヒデェ物言いをしよう。

 美少女にゃちげぇねぇ。でも、トリスクトさんやシャリエール。《山本小隊》に三年三組女子、《蓮静院小隊オペラ》三人娘。月城さんレベルには届かない……はずなのに。


「エレハイム・禁区キングと申します」

「や、山本一徹……」


 桐桜花皇国人の、アジア的な流れはきっと汲んでいない。多分トリスクトさんやシャリエール達と同じ、桐桜華皇国以外異なる場所がルーツかもしれない。


(初めて……会った……よな?)


「そうですか。一徹様・・・ですか……」


(ッツゥ!?)


「エレハイムでは呼びにくいかもしれません。どうぞ、わたくしのことはエリィとお呼びください」


 場違いだってぇのは分かってる。

 これから俺たち、対峙している第三形態を駆逐しなくてはならない。向こうさんも俺達をる気満々だ。


 なのに……


「エリィ……キング?」

「ハイ。どうしましたか一徹様・・・?」


 思わず、大戦斧を持っていない方の掌で口元を覆っちまった。

 俺が名を呼んで、だから名を呼び返されて。それがたまらなく嬉しくて・・・・・・・・・声が出そうになった。


「な、なんでもない」


 ふうわりとした長い髪の色。収穫期まで良く実った小麦畑を彷彿とさせる温かみがあって、撫でてしまいたいくらいだった。

 鼻周りに散ったソバカス・・・・・・・・・・・は女の子の美貌を貶めるか? 

 とんでもない。純朴さを併せ持つそのチャーミングさに、可愛らしいしか覚えない・・・・・・・・・・・


(いよいよ本当、トリスクトさんたちと離れ久しいからっておかしくなったかよ)


 この胸の高鳴り。嫌じゃない息苦しさ。いつ以来だろう。

 

(そうだ。初めて月城さんと出逢った時の・・・・・・・・・・・・・・……編入日当日・・・・・トリスクトさんに手を取られた時の・・・・・・・・・・・・・・・・・……シャリエールには抱きしめてもらって・・・・・・・・・・・・・・・・・……)


 ちょっと待て。節操がなさすぎる。


(…………)


 俺は、犠牲者も出まくってるこの地獄に置いて、たった一目で惚れちまったとでも言うの・・・・・・・・・・・・・・・・・・かよ・・

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