テストテストテスト149

――お前、以前俺を『イケメン』だの言ってたな。この顔を殴りたいと思ったこともあるはずだ。今殴った一発に対し、好きなだけお返しさせてやる……から、必ず生きて帰って来い――


「イツツゥ……」


 頬にあてがった布地を手のひらで覆う。


(った、スマートそうな見た目に反して、やることが不器用だよなぁアイツ)


「クク……」


【痛そうにしながら笑っているとか、マゾヒストですか?】


「いよいよもって、ほんにお前は俺に対し遠慮なくなったね。一月ちょっと前、出会ったばかりの時は可愛かったもんだが」


【ご心配なく。紗千香はいつでも可愛いです。それにちゃんと一徹先輩以外にはニャンニャン言ってます】

 

 バラバラってイメージのプロペラ音ってなぁ、持ち上げる機体がデカけりゃデカいほどにドドドっと重低音になるのね。


 防衛省御用達の大型輸送ヘリ、CH-47TKの3機。

 俺ら《山本組》は、《アンインバイテッド》を専門としない通常の陸上自衛隊部隊のパイロット操縦で任務地に向かっていた。


(可愛くないねぇ。だが……)


 なおプロペラ音がヤバすぎて、普通の声量じゃ至近距離すら会話が通らない。

 50センチも離れてない紗千香と、インカムマイクを利用して会話する理由。


(紗千香の皮肉も聞けなくなるかもしれない。甘んじて受けておくかね)


「あ~あ、ったくよぅ。まいったねぇどうも。参っちゃうよほんと。『断ってくれた方がありがたい』って言ったろうが。付いてきやがって」


 そんなことを思うと、無性に後輩共と関わりたくなった。

 万が一……が発生したら、二度と馬鹿も言えなくなっちまうかもしれないから。

 

(まぁ、そんなこと……絶対にさせるつもりもないけどね)


【それを言うならお人が悪いんは兄貴の方でっせ】


【勅命が下るような頼み事なら、俺達も迷わなかったってもんでさぁ】


まったくはっしゃによう。まさか、御殿ウドンが出てくるとはおもわんやっし】


「バカでしょおまいら。陛下の名前を出したら辞退できなくなるじゃん。せ~っかく、その猶予を作ってやったっちゅうに」


 早速回答してくれたのは、他の2機にそれぞれ分かれて乗っている2年生の古参幹部衆だった。


「ぶっちゃけ死ぬ戦場だ・・・・・。なのにおまいらと来たら、朝の朝礼で陛下の呼びかけで出て来やがって。あのタイミングで前に出なけりゃ、ケツゥまくれたんだ」


【前に出た意味はありました。世が世なら《近衛師団》とも指されていい。正直、僕たち大した出世を果たしたんです】


【兄貴が将軍。俺らがまさか……皇直属遊撃部隊だべ? 今でもまだ信じられないじゃん。今年の三月まで全校ワーストFラン校生だったじゃん?】


 付いてこないなら越したことは無い。それは本気だった。

 でもコイツラはもう、既に決心固めて俺のもとに集ってしまった。


 本当はね、そんな舎弟どもに密かなれど盛大な頼もしさと感謝を感じているのだが、内緒です。


(バレたら絶対調子乗る)


【ククッ……カッハハ! これから死地に身ぃ投じるっちゅうねん! 気負うどころかやる気満々かい。組長が大馬鹿野郎なら若衆も大馬鹿野郎かよ。敵わんのぅ《山本組》にゃ】


「おん?」


 俺なりの後輩共への気遣いとやり取りを、新たな声が笑って飛ばす。

 それが……物凄く聞き覚えのある声なんですな?


「ブホゥッ!?」


【んおっ!? ええ反応やんけ山ちゃん! リアクション芸人めざせんでぇ!? あ、操縦補助席からこ~んにちわぁ!】


 ヘリの最前席からずっと進行方向を見ている数名。初めは俺達を戦場に連れる自衛官なのだと思っていた。


 以外や以外。

 操縦補助席から通路にヘルメットかぶったままの頭がにょきっと現れたかと思うと、その者は席を立ち、通路から俺たちの座るエリアまでやってきた。

 

「ヒジキぃぃぃぃぃっ!?」


 ヘルメットをカポッと外したその正体を一目見た瞬間だった。


【うーいっ! やっまっちゃ~ん。昨日振りやねぇ。会いたかったかぁ? 会いたかったやろ】


 何か胸に熱いものを感じた。


 ち、違うんだからね!? 男の子が好きとか、そんなんじゃないんだから!? 

 万が一んな関係に成ったとしてそれは……俺が湿布を顔に張る原因、陛下ご指名後から俺がヘリに搭乗する前にぶん殴ってきた《刀坂ヤマト主人公》以外いないんだから(いや、それもねーけど)。

 

「どーしたよ? 昨日の今日で、何だってこんな場所にいる? っていうか悪かったな。いきなりアラハバキから離れて」


【あぁ、そんなんええよ。山ちゃんがしっかり防衛拠点構想を練っとってくれたさかい。後はヌルゲーみたいなもんやった。それに、昨日の今日言うたら、山ちゃんかて同じやろ?】


「片道特急、行先は四國だぞ?」


【ンカカ。んなこと、分からいでか】


 でもね、どうしても浮足立っちまうのよ。

 「分からいでか」と言った。ならばこの先がどのような地獄になろうが、覚悟のうえでヒジキも向かっているという事。


 さらに俺は昨日、ヒジキと共に炎上するアラハバキを駆け抜けた。

 どれだけ優秀で、戦闘力もピカイチで、信のおける奴なのかを知っていた。


【っとぉ山ちゃん、組員たちに挨拶させてもらってええか? 組頭が知っとっても、弟分が了承せにゃ怖くて隣に立てへんよ】


「隣に立ってくれるのかよ?」


【当たり前やがな】


(それはぶっちゃけ……心強いしかないぞ)


 拳を俺に向かって突き出すヒジキに、俺も拳を打ち付けることで挨拶とする。


【それにもう2機の方にそれぞれ、連れも乗っておるしの】


「え? お前が来てるってなら弓親さんとして、もう一人は?」


【貴桜都校あるある。その他全てを上から目線で見下しがち、は無いから安心してな。礼儀正しゅうて、ええ奴やで】


「そか、なら良かった」


「ま、仲良くしたってな」


 俺が拳打ち付けたことにニカッと笑った野郎は、インカムを手で押さえ、口を開く。


【lady and gentlemen. this is captain Seigo Idzuruhi speaking】


(おヒ、鋭語で喋るな鋭語で)


【well come onboard air flight to the dead end四國. we would like…… 】


「桐桜華皇国語でおk」


【ごぶぅっ!?】


 そんなねぇ、いきなり飛行機国際線の機長の離陸前の挨拶みたいに飛ばすもんじゃありません。


 挨拶したいってんで時間取ったのに、いきなりボケをかますもんだから、反射的にグーパンを奴さんの鼻っ面に付き込んじゃった。


【いかんでぇ山ちゃん。自分鋭語がわからんからって無理やりシャットダウンするんわ】


「いや、パー璧わからないわけじゃねけぇど。って言うかセイゴ・イヅルヒって誰よ?」


【oops、みくびも過ぎたな。なんや鋭語もいける口かよ。遊んだつもりが、ボロ出す所だった】


「なんだよ」


【なんでも? んで……あ~……四國便に乗っとる三縞校の女子、男子訓練生一同、五日出聖言います。第二学院貴桜都校。山ちゃんとはまぁ、本人に確認してもらっても構わないかめへんけど、相思相愛の仲で】


「違います」


【桐京校文化祭。そして昨日はアラハバキと、二度ほど互いに背中預けて戦火を駆け抜けた。もうこれは戦友で親友やね。いや、親友というより……兄弟だ。学院代紋違いの兄弟分】


(うん、いちいちヤの付く職業を想起させるようなこと言わないで)


【ラノベが好きや。アニメにマンガにゲームも少々。ドエロエロが大好物。嫌いなもんは刀坂ヤマト・・・・・・・・・・・。ワイというもんがありながら、山ちゃんは野郎を1番目の男として見てるらしい】


「だから俺にはソッチの気はないっつ~の」


【最後に……】


 とうとうと続けるヒジキは俺から離れる。

 突然の出現に目を丸くする後輩集団に向かって近づくと、胸に手を当てる。朗らかに笑って見せて……


「この俺がホレるくらいの漢だから。そんな山本一徹のもとに集った組員一同が凡夫であるはずがない。《山本組》と戦場を共にする……光栄だ・・・


『『『『『ッツゥ!?』』』』』


(……上手い……)


 これだ。こういうところも得難かったりする。


 多分、俺と舎弟どもは関係が近すぎて深すぎる。


 俺が誠心誠意後輩たちの優秀さに脱帽して褒めたたえたところで「いやいや兄貴、親心も過ぎるでしょ」となってしまわないか。

 ある意味で《山本組》の主観で、自身を甘めに評価するにも近しい。


「貴桜都校から下されたオーダーで、これからしばらく、隊長の俺はじめ、副長の弓親静流、隊員のエレハイム禁紅キング含めた3人も《山本組》と同じく四國で活動することになった」


 が、このタイミングにて第三者から改めてホメられること。

 客観性は、他者からも認められているという充足感と一種の自信を後輩たちに植え付けてくれる。

 

【山ちゃん。いや、《山本組》組頭。将軍、山本一徹特別任務臨時皇宮護衛官】


「うん?」


【よろしくお頼み申す】


「頭ぁ上げて頂戴よ」


『『『『『なぁっ!?』』』』』


 まさか、相当なる役者だった。

 ヒジキが俺の名と身分を改まって口にし、深々と頭を下げた。


 上位感覚が抜けず、周りを見下すが貴桜都校とは有名な話し。

 その生徒が頭をわざわざ下げた……ということ。


 目の当たりにした同じヘリに登場した後輩たち。

 あ・え・て「頭ぁ上げて頂戴よ」ということで、俺がヒジキが頭を下げたのだと耳で知った他のヘリ登場の組員も驚きの声を上げていた。


(これから戦場に降り立つに先がけ「お前たちは凄いからなぁ」と言って貰えりゃ、微々たる程度でも、不安は和らぐかもしれないな)


「第二学院貴桜都校、《五日出小隊》隊長。五日出聖訓練生」


【うっしゃ】


「感謝しかない。こちらこそ、宜しく頼む」


『『『『『よろしくおねがいします!』』』』』


 ヒジキの気遣いが、機内の空気を大きく変えてくれたような感覚。


 突然出現したヒジキだが、一発で組員共の心を掴み、歓迎を物にした。


 同乗している後輩だけじゃない。その他2機に搭乗の後輩たちからも気持ちのいい挨拶が返ってくる。

 5人の古参幹部衆の声も明るかった。


 本来なら反発必至な他校生同士の邂逅は、この挨拶により問題が起きることもなく融和する。


「上手くやろ~よ。互いにお手て取り合ってね」


【それはこちらがお願いしたいことやよ。山ちゃんとはずっと仲良くしたいなぁ。ずっとず~っと……俺の隣で・・・・


「んが?」


【何でもあらへんよ】


「たりめぇだ。ケツ隠すぞ?」


「き、聞こえとんのかい。しかもそういう意味ちゃうし」


 望むべくもない。

 俺にとって、《山本組俺達》にとって最高の共闘戦力が現れた心地に、もう一度拳をぶつけあった。



「あ、お帰りルーリィ。シャル教官」


 女皇の生放送から2時間経つ頃、やっと三縞に戻れたルーリィとシャリエール。


「その、生放送中のスタジオから、あんな形で飛び出してよかったの・・・・・・・・・・・・・・・?」


 飛び入った三年三組の教室にて向けられたのは、クラスメイト達からの不憫そうな眼差し。


「そんなことどうでもいい。アレは一体どういうことだい?」


「まさかこんな事になろうとは私達も思わなかったの」


 なんとか最初に声をかけられたのは、ルーリィの親友。灯里のみ。


「フン。正直、最近のあの阿呆については、誰の目にも映らなかったのだ」


「ん、皇都、桐京校にいたなら私達の目は届かないね」


「陛下との関係を、あそこまで深くしていたなんて」


「なんだと?」


「あ、ゴメッ……」


 一人目が切り出せたから、少しずつ皆思いを漏らし始める 


 夕希が溢したのは失言。

 目ですら殺せそうなルーリィとシャリエールに睨まれ、身体が強張ったところ、視線を遮るように斗真が間に入った。

 

「気持ちは察するが押さえてくれ二人共。今は争いの縁を生み出すときではないはずだ」


 普段は誰より大人な二人。

 そのタガを唯一外してしまうのが、一徹ごと。

 隠すこともしないで舌を打った。


「皇宮護衛官。宗次さんが言った『遠い存在になる』とはこう言う事だったのか。言い給えよ。水臭いじゃないか」


「言いたくても言えないわよ。アイツはなんだかんだボッチを怖がる。この中で一人抜きんでた特務皇宮護衛官という立場、異端。文化祭にトモカさんの出産日もそう。アイツはいつも、私達と共にあることに必死だった」


「孤高とは……孤独か。確かにあの間抜けた阿呆に似合わん空気だ」


 正太郎、綾人が苦しげな顔するのもそう。

 一徹は、いつも何かで誰もを悩ませる。


 無力無能者の編入に、「学院に適応できるか?」と悩ませる。


 「なぜルーリィやシャリエールなど美女に囲まれているのか?」と首を傾げさせた。


 「なぜ無力無能が、無理難題を攻略し続けられるのか?」と視線を集めさせ、「記憶を失う前と後とで違う人格」による付き合い方で苦悩させた。


 今回……ハッキリと、英雄三組を抜き去り、置き去りにした事実に、全員の思考を停止させた。


「考えても仕方ないことかもしれない。俺達は、俺達が出来ることをするしかない」


 沈んだ空気を新たなステージに進めることで払拭しようと試みたのはヤマト。


「三縞と志津岡の守護を山本から託された。『帰る場所を守って欲しい』と。まずそこに注力するところから始めないか?」


 このクラスには二人の主人公がいる。いつしか、誰かが、そう言った。

 

 一徹が後出しの主人公なら、ヤマトは既出の主人公。

 ヤマトはこのクラスのリーダー。一徹がいては分散される皆の注目も、今はヤマト一人に注がれる。


「山本が心配なのは分かる。でもそれが山本の望み。だから今は志津岡防衛という、言わば俺たちサイドのすべきことに注力してくれないかトリスクト? シャル教官も、お願いします」


「わかっていますよ刀坂君。それくらい」


 ヤマトの物言いは、有無を言わせぬほど正しいのかもしれない。


「……わかっている。魅卯少女や君の指示があれば従ってやってもいい……が、腹の虫は正直収まらない。その前に、一言だけ言わせてもらう」


 それでも、一徹がルーリィにシャリエールを置いて戦場に行ってしまった憤り。抱えるルーリィは、納得しても快く応えられるわけがなかった。


「なんて体たらく。ふがいないよ刀坂ヤマト・・・・・・・・・・・


「「「「「「「えっ!?」」」」」」」


 発言1フレーズが、全員の耳を奪い取る。

 残った主人公の一人を、扱き下ろしたからだ。


「る、ルーリィ?」


「スマナイ灯里。でも言わせてほしい」


 当然かもしれない。

 ルーリィ達にとっては一徹こそが既出の主人公で、ヤマトは後発に過ぎない。


「本当は君が四國の戦場に出るはずだった。出るべきだった。一徹がもしこの学院に居さえしなければ」


「くっ!?」


「いや、一徹がいようがいまいが関係ない。一徹がいてもなお、先ほど四季に選ばれるべきは君でなければならなかった」


「そ、それはどういう……ぐっ」


「ルーリィっ!?」


 灯里が悲鳴を上げるわけである。

 ヤマトの胸倉を掴み、顔を引き寄せさせたルーリィの顏には、美少女に備わるはずのない凄みと激怒が沸き立っていた。


「口惜しい。貴様・・がもっと強ければ。もっと……一徹が憧れるほどの主人公像を体現しきる存在であったなら」


 結局、兵を束ねて戦場で活躍できそうな一徹と比べ、ヤマトには可能性を感じなかった。


 ヤマトを選ばなかった。


 総合的に見て、ヤマトが……一徹よりも弱いと見立てた、それがシキの判断。

 

「一徹がいることが当たり前だと思うなよ? 本当なら四國に置いて身命を張るのは貴様であるはずだった」


 だからルーリィとシャリエールはある意味ヤマトに失望した。恨みをぶつけたくなった。


 女皇に選ばれるに足る強さを保持していないヤマトなど、二人にとって後発主人公にも思えなかった。


「本来、私達のクラスに山本一徹は所属しえなかった。今回の四國出征、ある意味イベントとでも表しましょうか? 彼がいなければ、本来出張っていたのはヤマトさん。それが……本来の因果律の導きですか・・・・・・・・・・・? お二方?」


「「ッツ!?」」


 ずっと黙っていた富緒。剣呑とした空気にありながら、静かに紡いだ。

 

「導き? なにぃ? ソレ?」


「ん、因果律?」


「因果? 縁とは……違うようだが……」


「蓮静院、独り言があるなら話し給え」


「フン、知りたいなら教えを乞え……と、言いたいところだが。因果律? なんだ、どこかで……聞いたような。灯里は何か知っているか?」


「わ、私? し、知らないわよ。そ、それよりも富緒、なにを……さ、探って」


 ルーリィとシャリエールはギョッとしたような面持ちで富緒に目をやる。

 真剣な表情で見つめ返す富緒は、明らかに狼狽えた灯里に目をやって、再びルーリィとシャリエールと見つめ合った。


「因果律……知っているかい? シャリエール」


「初めて聞く言葉ではありますが、単語を頭で巡らせる間、少し昂ぶりも落ち着いたんじゃないですか?」


「……かもしれないね」


 フゥっとルーリィは息を吐く。

 掴んだ胸倉を離すと、廊下へと向かっていく。


「トモカ殿が心配だ。一度下宿に戻るとしよう」


「そうですね。戦闘配備中は授業はないみたいですし、作戦が発令される頃に連絡をください」


「そうそうイベントと言えば、一徹が前にプレーしていたゲームでこんなことがあったよ」


 廊下への引き戸に手を掛けたところで、ルーリィは立ち止まり、三組全員に振り返った。


主人公よりお気に入りのキャラに重要なイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ベントで戦わせて経験値を稼がせた・・・・・・・・・・・・・・・・。やがてどこかで主人公一人だけで立ち向かわなければならない強ボスがいて、詰んだこともあったかもね・・・・・・・・・・・・?」


「いつ、そのキャラクターがいなくなってしまうかですね。では皆さん、失礼します」


 いきなりゲームに例えられたことが、皆を再び分からなくさせる。


 理解したかどうかなど関係ない。

 今度こそルーリィ、シャリエールは教室を出て行ってしまった。



【一徹先輩】


「さ~ちかっ?」


【パイロットから中継、木之元ネネ様から通信です】


「受ける」


 死地に出向くってのに、割かし機内での後輩たちとの談笑は盛り上がった。

 何よりヒジキが自己紹介のあと、俺との関りを面白おかしく話してくれたことが良い話題となったようだ。


 なんならまだまだ話足りない。

 というか、夢と思いたい戦場への身投げをするくらいなら、ずっとずっとこうして馬鹿笑いしたい。

 そう思うさなか、紗千香が呼びかけた。


【さっきのブリーフィングの通り、今回の作戦は勅命勅令のものです。皇ご用達の名のもと、精鋭部隊の自覚と認識をもって遂行してください】


 通信に集中する。

 木之元さんの声は実に機械的だったが、それで構わない。


【まもなく高智県空域に入ります。低空帯には飛翔する《アンインバイテッド》が多数確認されており、搭乗3機からのバックアップも有りません。自力で降下、帰投してください】


(なんでも自分たちで何とかしろってこと。いい。んなことわかってた)


【当然、敵勢力である《アンインバイテッド》群だけでなく、多数開通した《境界虚穴ホール》による《マギステルシンドローム》によって先祖返りした妖魔群との攻撃も想定されます。くれぐれもお気をつけて】


(妖魔との戦闘……妖魔ヒトと、殺し合うことも往々にして考えられる・・・・・・・・・・・・・・・・・わけか)


「心配はいらないよ。俺たちは必ず生き延びる」


 笑うでもない、悲しむでもない。変に感情が乗ってしまうより、機械的に指示を貰えた方が、俺としても感情のブレをきたさないと思った。


【ネネ様、再確認します。私ら、ポイントORZ4649に向かえばいいんですね?】


(ポイントORZ4649オーアールゼットヨロシク、高智市中心街だったか)


【ハイ、目標地点には現在、一般市民生存者防衛のため魔装士官学院四國校部隊が展開中です。まずその救護と市民の治療を最優先としてください】


【チィッ、かなりウェイトが重い】


【可能なかぎり……です】


(こればかりはやってみるしかない……か。『もしこれが三縞だったら』と、俺が感じるだろう焦りを、四國校の連中はもう何日も背負い続けてるんだから)


【その後、これは状況次第ですが、素崎すざき市は音無おとなし然社に急行、殿内で祈禱中の奥の院を保護、救出してください】


【なっ!? これだけ《境界虚穴ホール》が頻発していて、生きているわけがないっ!? 組員を最悪無駄死にさせる可能性も……】


「お前が、昂るな。紗千香。お前はこの組では俺ともう一人の指揮官。お前が不安になって組員たちに伝播したらどーする」


【でも、一徹先輩】


オクノイン・・・・・ってぇのはよーけわからんが、話を聞くに、生きていればありがたぁい存在っぽいじゃない。生死わからなくて可能性を放棄した時、本当に生きてたとしたら見殺しにしたことになる」


【それはっ……そうですが……】


「無駄足を踏むかもしれない。でも駆け付けて、億が一まだ生きてて保護が出来たなら上等。《山本組》了解だ」


【……ありがとう。徹】


 本当、そのオクノインって誰ぞって奴。たVIPっぽっつーのは理解出来た。

 

(こういう時、刀坂ヤマト俺の主人公なら絶対に助ける決断をする)


「納得いかないって顔してるな紗千香」


 ただ俺の決断は紗千香にとって容認できるものではなかったらしい。

 

「ク……ククッ」


【なんですか? 何も面白くないんですけど】


「いや、組員たちの命と身体の無事を何より切に願う……ね? 自覚出て来たじゃないの紗千香2代目


【わぷっ! あ、あのねぇ、そんな当たり前に女の子の髪を撫でないで!】


「偉いぞぉ?」


【紗千香に魂売って逆ハーレム誓った幹部衆5人が一徹先輩を叩きのめしますっ!】


「おっとぉ? そーなのおまいら」


【【【【【複雑なんで、ノーコメントでお願いしますオナシャス】】】】】


「クハハッ! いーじゃない。大切にしてやれよ6人とも。互いに、互いを」


 なるほど、紗千香ってなぁホント、凄い奴かもしんない。

 女狐だのとはよく言われるもの。編入一月半でここまで組の皆の心を奪ってしまう。

 

 構わない。

 紗千香自身が組を本気で心配してるってんだから、俺だってこれ以上望むことは無い。


(もう、安心して組を託せそうだ)


「さ……てぇ? 《山本組》任務内容確認済み。降下要請」


【降下要請確認。ハッチ、開きます】


 ヘリ内における俺の中での締めの言葉に、パイロットが応える。

 自動的にヘリコプターの搭乗ハッチがゆっくり開きだした。


【【【【【うわぁっ!?】】】】】


 高度がどれほどか聞きそびれた。

 そんななかハッチ開くもんだから、機内に吹込み、搭乗員全てを空に引きずり出してしかねない程の大風に、全員悲鳴を上げた。


「パラシュート装備、装着を再確認。いつでもどうぞ」


【了解。これより、その他2機も搭乗員の降下準備体勢に入ります。ご武運を】


 さぁ、あとはもう飛び降りるだけ。


 昨日アバキで縦軸の行動が出来て良かった。桐京タワー第一展望台と同じ高さまで空を飛んだこともあった。


「皆、聞けぇぃっ!」


 さぁ、吠えてみた。


「我らはっ、想像だにしない阿鼻叫喚に降り立つことになる! 遺体、遺骸、滅び、怒り、慟哭。全ての負の坩堝るつぼに困惑と恐れを感じるだろう。だがっ!?」


 意外と飛び降りの覚悟は簡単に決まったからだった。


「まずは、この俺だけを見ていろ・・・・・・・・・・っ!?」


 全員が、俺に注目した。

 

 機内の手すりを掴みながら、解放済みハッチまで何とか辿り着く。ヘルメットをかぶった。


 ……そうして……


「準備は良いかっ!? 野郎どもっ!?」


 それだけを吠え残す。

 程なく敢行してみせた。大空に向かっての捨て身タックル。


 なお、ヘリから飛び降りて降下する中、ヘリ見上げる必要はない。


【【【【【うぉわぁぁぁぁぁぁぁ! /だから紗千香は野郎じゃないって! /やっぱええのぅ山ちゃん!?】】】】】


 頭おかしい、狂声が幾重にも重なって俺のインカムで耳に入ってくれば、それでいいのだから。

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