英雄三組最後の10人目。将軍 山本一徹。テストテストテスト148
「陛下から昨夜下された命について、一切の情報統制を現刻持って解除いたします」
「状況は刻一刻と極まっているというに、登場と自らの存在を勿体ぶる時間は無い。戯れも過ぎるぞ愚か者」
皆整列する前に立つ、女皇とその傍付きの発言。
どのような展開になっているか分からず、不安げに全訓練生が騒めく中、一人「あちゃあ」と一徹はため息をついた。
「悪いねぇ。我が愛しの
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
「ちょびーっくら、
自衛官養成学校の一つ。
皆しっかり背筋を正し立つ隊列は美しいもの。
故、ただの一人が異なる動きをすると、とても目立ってしまう。
「桐桜花皇国防衛省、陸上自衛隊内……」
シキがお目当ての特務の正体を告げ始める。
「《対異世界転生脅威防衛室》直参、第三魔装士官学院三縞校組内、《生徒会》直系……」
「あーはいはい。わざわざ名乗らなくたっていいのに」
恥ずかしくなって一徹は髪をボサリボサリかいた。
「何をしている山本。どこへ行くつもりだ? 陛下の御前にあって隊列をみだすな。早く所定の位置に戻って……」
一徹が動き出すこと、三年三組の殆どが拍子抜けた声を挙げた。
ヤマトだけは違った。委員長は別にいるが、実質リーダーで正義感が強いことも一徹を呼び止めた理由。
「《山本組》初代組頭……」
「……はっ?」
しかし続くシキの声に、目を開き凍り付いた
「ま、そういうこと。ワリィな刀坂。ご指名みたいだ」
悪意があって呼び止められたわけでないと一徹も分かっている。
だから最近仲違いしてしまって、まだ関係改善にまるで動けていない元親友に対し、クシャッと笑った。
「ご指名? 一体、何を言って……」
互いに笑い合えなくなってしまった相手。
一徹にとって刀坂ヤマトという男はそれでも憧れの存在。惚れ込んだ、男の中の男。
なれば……
「
「なっ」
「そんかわし
一徹は完全なる信頼を、ヤマトに寄せることが出来た。
友情が損なわれてしまった今、しかし仕事という意味でこれ以上一徹が頼もしく思える仲間はヤマト以外にいない。
気持ちが入ったから、最近使わなくなった《主人公》呼びが思わず出てしまった。
「山本一徹……特別任務臨時皇宮護衛官」
『『『『『なぁっ!?』』』』』
一徹の発言の意図が掴めない。しかしシキが言い切った相手が一徹だったことを知るや否や、ヤマトも三年三組も、三縞校全員が悲鳴にも似た声をあげた。
ポンと、一徹はヤマトの肩を軽く叩き、横をゆっくりとした足取りで通り過ぎる。
隊列を組む三縞校集団より身一つ前に出た。
既に片膝を付く魅卯の背中を、柔らかい笑顔で見下ろしながら、魅卯の横も通り過ぎる。シキの正面にて止まり、片膝を付いた。
「……はっ。山本一徹、ただいま参上つかまつりました。我らが皇よ」
☆
その報せは、三縞から離れた遠くにも及んだ。
「ちょっと待ちなさい!? 一体何なのこの流れ!?」
国の女皇は、一方で第一魔装士官学院桐京校の生徒会長。
ライブ映像が報道されるなら、当然桐京校訓練生らも教室で固唾を飲んでテレビなり、学院支給の携帯端末で動画を見た。
声を張り上げたのは海姫。
動画に噛り付いた。
「なんで、どうして……私たちは普通に、学院に登校しているのに……」
シキが言を放つからだけじゃない。問題はシキが、一徹の名を呼んだから。
「陛下は……昨日山本隊長さんを駆り出してなお、更に頼ろうとしている?」
「悔しい……な。シーちゃんが今本当に必要としているのは、僕達じゃない。山もっちゃんなんだ」
昨日、アラハバキと大帝国ホテルにおいて数時間生死を伴にした三人は既に分かっていた。
一徹は、陸華や海姫みたいな超が付く優良戦闘員ではないかも知れない……が、状況を吸収し、瞬時に最適な手を考え付き実行に移せる類まれな指揮官。
シキはその面を一徹に求め、期待した。
「陛下のスピーチが終わり次第、山本に電話する。私達も連れていってもらわないと……」
海姫はポケットに手をやる。
シキのスピーチが終るのを今か今かと待っていた。本当に、電話するタイミングを伺っていた。
「待ってください。多分
不意なる空麗の呟きに、二人は目をやる。
「私もそうですが、お二人共山本隊長さんを
「「えっ?」」
「確かに私達と山本隊長さんはタイプが違う。でも真に気になってしまうのは、山本隊長さんが無力無能者に違いなくて、今回の陛下からの呼び出しが、無力無能者にとって無防備強いられる戦場に、再び駆り出されことになってしまうから」
「なんでわざわざ昨日の今日でまた、死ぬような場所に身を投じなければならないのよ。立て続けじゃない。哀れんではいけないと言うの?」
指摘に、海姫は困った様に眉を
「いけないわけではありません。でも哀れむことは、山本隊長さんを一層過渡に心配してしまうことに繋がります。それを、山本隊長さんはどう思うでしょう?」
「山もっちゃん、気にしぃだから。きっと僕たちに申し訳ないと思うかもね。そうして、気にしなくていいことをきにしちゃう」
「……哀れむことをすぐ辞めることは無理でしょう。そんな状態の私たちを『連れて行け』と山本隊長さんに言いますか? 山本隊長さんは、私達を率いながら、哀れまれることを
空麗の言いたいこと、陸華が補足を入れることで分かってしまう。
海姫は困った顔から、苦しげなものに移り変わった。
「で、でも昨日は……」
「その場にいる私たちを即席の戦力としただけ。違う。
「くっ」
ここまで言われ、海姫は携帯端末をポケットに収めた。
「昨日、大帝国ホテルで力を使い果たした僕ら、まゆちゃんの実家に運ばれたじゃん。お屋敷で今朝目覚めたときにはもう、山もっちゃんはいなかった」
「残されていたのは、私達あての書置きのみ」
「何が『昨日はお疲れ様。三縞に帰る。一週間アリガト』よ。書置きしたためた時にはもう、この流れは決まってたってことじゃない!?」
三人とも打ちのめされてならない。
圧倒的なリーダーシップを見せつけてくれた。だから皇に認められ、今、スクリーン内でシキに呼びつけられていた。
冗談を言い合える仲の良い男の子が、三人がちょっと気を緩めていた間に、一気に遠い存在になってしまった。
『おいたわしや陛下』
『無力無能に頼らざるを得ない程、全国的な戦況は良くないのか』
さぁ、三人が一徹に対しこのように話している外、生放送への中傷は始まっていた。
『あの山本って下等種、本当に上手いことやったよな。《アンインバイテッド》に対し、
『どんな手使って取り入ったか知らないけど。一昨日までこのクラスにいたじゃん。
『何期待しているか知らないけど、辞めた方がいいのに。劣等種じゃ、《転召脅威》になんにもできない。命じた陛下が恥ずかしい思いするだけ』
ただ異能力がある……
「皆、言葉を慎みなさい。わずか二日前まで共に学んだ。なら山本君はまごうこと無き、私達のクラスメイトなのよ?」
これに反論したのは、同じく登校したまゆらだけ。
『あはは、優しいな玉響さん』
『折角最上ともいえるレベルの異能力があるんだ。最下層民なんてフォローしなくていいのに』
それでも、クラスメイト達は一徹をコケにすることを辞めなかった。
『いや、これぞ玉響家たるゆえんだな。『力ある者はない者を守る』と。《
「……だまりなさい」
ダァンッ! と、海姫が自身の文机を両手で思い切り叩き、立ち上がるまでの話。
『た、高虎さん……どうしたんだい?』
『私達、何か気に障るようなことした?』
馬鹿にする一団のもとにツカツカと歩いては、
「女の嫉妬って見れたものじゃないけど、それ以上に男の嫉妬ほど醜いものは無いわね。アイツの事ロクに知りもせずに扱き下ろす? ダッサ。笑い話にもならないし、犬も食わない」
『『『『『ッツゥ!?』』』』』
侮蔑の目で……見下した。
『し、知らなくたってわかる。無能力者が《アンインバイテッド》に非力なのは事実じゃないか。僕も昨日都内の戦場に出た。第一形態は20体駆逐した。仲間と協力し、第二形態も2体撃滅した!』
『わかり切った無力無能の討伐可能数ゼロを前提に、私たち自身の活躍を、私たち自身が誇って何が悪い訳?』
「勝手に誇れば良い。でも別に、アイツを侮る理由にはならないわよ。道理も立たない」
折角誰かをネタに楽しんでいたというのに、海姫が水を差したことで多くの者は機嫌を悪くする。
「なに、私に文句あるの? 私は貴方たちに文句あるけど」
問題はなかった。
三縞校と同様、桐京校も各学年の1組は退魔の名門出身が出そろう。
海姫の一族は経済界の名門であり、異能力者としては海姫は突然変異的に発現したのだが、力の強さは海姫が彼らを圧倒していた。
「
『えっ?』
「《アンインバイテッド》を何体狩れたかはわかった。それが何人の命を救うことに繋がった?」
『そ、そんなこと僕の知るところじゃない。求められるのは《アンインバイテッド》を駆逐すること。駆逐すれば自ずと、多くの者が助かっているはず』
「そう。見てるとこが違うのよ。例えば昨日の山本は確かに1体も狩れなかった。私達が狩らせなかったこともあるけど……
静かに紡ぐ海姫の話。クラスメイト達は信じられないとばかりに目を見開き、口も半開いた。
「アイツは、
『『『『『え゛っ!?』』』』』
「因みにその鼻っ柱を折ってあげる。そのエリアでの私の駆逐数は、ざっと数百を超える」
『ぐぅっ』
「でも断言できる。私がただ数百討っただけじゃ、万を超える避難員は守れなかった。アイツがいなかったら、『やりきった』と胸を張って私も学院に来れなかった。なのにアイツったら、
先ほど机を叩いてしまったほどの感情の爆発を、何とか声に乗せないよう海姫は務めた……
「人々を守る策を常に弄してくれた。だから私は、『その策の一助としてこの身と力があるんだ』って思い切り闘うことが出来た。貴方たちが嘲笑するアイツは……ホントはそういう奴なんですけれど?」
が、醸す空気に怒気が孕んでいるから多くの者が言葉を失った。
「……第二形態数十体がひしめく、狭い場所に単身飛び込んだことあります?」
海姫が噛みついたからか、いつもは冷静に遠巻きから物事を解析するような空麗まで非難に加わった。
「秒も許されない。
『そ、そんなこと信じられない。信じられるわけがないっ!』
「確かに話だけじゃ信じられないよね。
「うわぁ、それは本当にお寒いわよ。陸華」
『う、うるさい! さっきから失礼じゃないか君たち!?』
更に三人目。陸華まで登場したことに、噛みつかれた者達は顔をひきつらせた。
「そうそう。昨日僕たちね、
『……へ……?』
「僕たちの力じゃ、第三形態には流石にとどかない。シーちゃんの力があったこともあるけど、山もっちゃんの策が無ければ叶わなかったんじゃないかな?」
「
「えっと……なんだったけ? 山本は第三形態を15体以上殲滅して、万を超す人々を守り切って見せたけど。貴方は第一形態を20体。第二形態はたったの2体撃滅?」
『うっ』
三人寄れば
女三人というなら性差別になってしまうだろうか?
「「「あまり私の隊長を舐めないで頂戴/僕の隊長を舐めない方がいい/
しかし確かに海姫、陸華、空麗が合わさると、誰もが押し黙ってしまった。
「あ、貴女たちの所属正体は《蓮静院(弟)小隊》で、隊長は綾人様でしょうが」
なおその脇で、桐京校の《蓮静院小隊》副隊長、玉響まゆらが悩まし気な顏でため息をつきながら、右手を額に当てているのは内緒だ。
☆
「驚く者は多い様だ。が、釈然としない者は訓練生の中では恐らく居なかろう」
場所を三縞校に移す。
「一月半前を思い出すな。あの時もお前にはしてやられた」
「陛下には、ご心労をお掛け致しました」
「良い。平時は離れた場所におれど、忠誠心は常に余のそばにあった。あの時の誓いをお前は行動に示し続けてくれる。此度も馳せ参じてくれた。心より喜ばしく思う」
「過分なお褒めなれば」
皇の声と想いを、身じろぎせず一徹が受ける様。皆が息を飲み込み注視した。
「いじけるなよ。これまでは誰もお前を認めなかった。余は違うぞ?
「
「否。事は《転召脅威》と。ならば『これは異能力者事』だと自らの領域とし、それ以外の参入を許さず排他的になり、意地でもお前の功績を認めない。そんな頭の硬い者が多すぎたのだ。悪いのは余か? それとも
シキが「彼の者ら」と口にした瞬間、これまで一徹に辛く当たって来た教官の殆どが、顔をサッと青くした。
編入当初から一度も一徹に声を掛けなかった学院長など悔しそうに歯噛みし、打ち震える。
先程一徹に謹慎を告げた教官など、卒倒して死んでしまうのではないかレベルに目を白黒させていた。
「夏祭り、本学文化祭、季節外れの夜間台風に置いてもそう。お前は常に認められなかった。確かに《アンインバイテッド》を駆逐しきる戦闘力はないでな、武功は立たず、目立たないところもあったろう」
別に「教官達」とは口にしていないが、過剰反応する小物ぶりよ。シキの眼中に入らない。
「とはいえ、
「恐れながら、ご発言は慎重に。失言と思われ、撮影映像を切り抜かれます。陛下」
「わかっているよネネ」
スピーチを始め、調子が出てきたのか、踏み込みすぎた発言にネネは苦笑い。
シキは、楽しげだ。
そうして……
「
計り知れない展開に静まりかえった朝礼。呼びかけはキレイに染み渡った。
「陛下が先に挙げた3事件において、国政、地方行政から山本訓練生が
間髪入れず、ここにネネが言を挟む。
「加えて昨日、皇都でも最大級の危険エリアにて、無力無能者の身にも関わらず戦火に飛び込み、
『『『『『ツッ!?』』』』』
「更に、その場の異能力者数人を戦力として組み上げた即席小隊で、奇跡的な采配をもって第三形態15体以上討滅するという異彩を放ち、
『『『『『んなぁっ!?』』』』』
それは、その場の全員が知り得ない、一徹が生死をくぐり抜けてきた話。
当然だ。
ピンピンして登校してきた一徹。実は前日、死ぬ思いを通していたのだ。
皇も感銘を禁じえない、誰であってもまず達成不可能な金字塔を打ち立てていた。
「まさか、山本が?」と、誰もがショックに飛び上がりそうになった。
「これまでの全武勲を称え、皇室は、
「そういうわけだ。喫緊で時間もないゆえ、簡略的なのは許して欲しい。山本一徹……
「はっ」
「月城生徒会長も起立を願います」
「えっ?」
一徹はシキの言葉で、魅卯はネネの声で立ち上がる。
一徹は毅然としたものだが、不安げな魅卯は、気持ちの悪い流れを感じていた。
「本来、卒業もなく《皇宮護衛官》にはなり得ない。そしてお前用にこれまで設けていた、存在しない《臨時特別任務皇宮護衛官》と言う建前を、この度正式なものとする。
「ありがたく」
整列する訓練生、発現した感情は2種。
《山本組》全員、喜びに打ち震えた。
その他全て、驚きに凍りついた。
「ネネ、制服を」
「ハイ陛下。山本特務。上着を召し替えます」
終わらない。
言われ、一徹は制服の上着を脱いだ。
三縞校の制服だ。
「それは、
「「ツッゥ!?」」
示され、二人共ビクリ体を震わせる。だが、やがて一徹はおもむろにジャケットを脱ぐと……
「ゴメンな?」
「う……そ……」
魅卯に、畳んで丁寧に渡した。
「それでは……」
流れる動きで、ネネは一徹の後ろから《皇宮護衛官》のジャケットを着せた。
「おおっ」と、《山本組》全員は喜びに沸き立つ。
「気持ちも新たに。特務、山本一徹特別任務臨時皇宮護衛官!」
「ハッ、
着せるネネの笑みには期待が、眺めるシキには満足気が満ち満ちていた。
「
その場の全員、シキもネネも一徹も置いて行ってしまう。
「意中の統率対象
いや、シキの追言が、
「……バカ……野郎どもがぁっ……」
整列から、自ずと皆、前に出てしまう。
《山本組》全員。1年生から2年生から。
それぞれが、まちまちの顔していた。
嬉しむ者。苦笑いするもの。感情浮かべず、目を閉じる者。
紗千香と、取り巻く古参幹部5人衆を筆答。
百を超す若者が、膝する一徹の背に横並び、
「認めよう! 《山本組》はこれより、余の直下! この
……成り上がりもすぎる。
無力無能な三年生と、他校からバカにされ、魔装士官訓練生であることを腐ってしまった2年生が、エッチな盗撮写真で知り合ったのが、《山本組》の黎明だった。
それが今や、
組員ひとりひとり、分かってしまうから、片膝付きながらバチバチと昂りを発していた。
「答えを聞こう。山本?」
「……恐悦至極に存じますれば」
死ぬ危険しかない特別任務。
なんなら辞退してくれたほうが良いと言った一徹だから、全員が前に出た事に重みを感じているようだった。
「陛下! そのオーダーはあんまりではないですかっ!?」
「うん?」
「四國は激戦区と聞き及んでいます! 本職すら全滅に追い込まれるような戦場に、山本訓練生以下、下級生たちには荷が重すぎます!」
ここまで至って、やっと魅卯は声をひり出せた。
「これは皇と我が親衛隊員との間の話。貴官が出る幕ではないな。控えてもらおう。月城魅卯訓練生?」
しかして、皇は聞く耳を持たないのだが。
「山本が三縞校のジャケットを脱ぎ、新たな制服を纏いて今回の特別任務を受けた時点で、《臨時特別任務皇宮護衛官》は私の
寧ろ更に……
歩を刻み、頭を垂れる一徹の前まで立つと……
「なぁ? 山本」
スウッと、
この動きに、一徹はギョッと息を呑む。一徹だけでない。
《山本組》も、三年三組含めた全ても。
それでもなお一徹は……
(ちょっと待って……山本君……)
差し出された左手を自らの両手で包み恭しく掲げると……
(嫌……ヤダ……)
「……御心のままに……」
「クッ……クフウッ……!?」
魅卯は見逃さなかった。
誓いのキスを左手にウケたシキが、壊れたような笑顔で天を仰ぎ、ゾクッ、ビクンと体を波打たせたことを。
カメラのシャッターはまた、狂ったまでに
シキの喜び。
それは……一徹が愛し、一徹を愛す相思相愛の少女たちから、完膚なきまでに一徹を、しかも目の前で簒奪しきってみせた快楽と優越感ゆえ。
いつだったか。
一徹が恋した魅卯の唇は、一徹の目の前で久我舘隆蓮に奪われた。
まさか逆転する日が来るとは。
此度は、魅卯が恋した一徹の唇が、魅卯の目の前で日輪弦状四季に奪われたのだ。
一徹は深々と頭を下げると、はずみでゆっくり立ち上がった。
いつの間にか《銀色マンジュウ》を変態させた大戦斧を、妹分弟分たちへ振り返ると同時に天に掲げた。
「《山本組ぃぃぃ》っ!?」
『『『『『しゃあぁぁぁぁっ!』』』』』
併せ、組員全員も《
「いま、
『『『『『うぉぉぉぉわぁぁぁっ!』』』』』
皆、恐れも不安も、号砲放つ事で振り切った。
その他大勢は、狂ったまでの気合の入り様に、引いてしまっていた。
魅卯は、皆を扇動する一徹を呆然と眺めるしか出来ない。
ぎゅうっと、一徹が脱ぎ捨てたばかりの制服のジャケットを胸に抱きしめた。
「
今日この桐桜華に、新たな益荒男が生まれ落つる。
名を山本一徹。
……
このような危機的さなかには不謹慎ではありつつも、唯一シキだけが、展開に悦に入った。
☆
「ふっざっけるなぁぁぁぁっ!」
結果に、三縞校全体が熱狂とダンマリに支配された。
これを生放送として、行く末を見ることしかできなかったルーリィは、拳を硬め、自ら付いたテーブルに叩きつける。
ルーリィとシャリエールを含め、キャスターたちにカメラを向けていたニュース番組撮影スタジオ内は、驚きと静寂に囚われた。
そんなこと……どうでもいい。
こんな展開は許されない。
ルーリィと、同じく見せつけられたシャリエールにとって、許されようはずがない。
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