テストテストテスト147

「また謹慎ですか。今度は、一か月」


 三縞校じゃ訓練生とは何とか良い感じにやれている俺も、教官職からの評判はすこぶる良くない。

 グレてるわけでもないし、わざと悪ぶって困らせる、反発なんかもしていないが、そういうことじゃないんだろう。


(単純に無力無能な俺がこの学院にいるだけで目に付く。そういうことなんだろうな)


 だから俺にとって教官室ってのは立ち入るにメッチャ気が滅入るのね?

 つーか、学院長なんて編入してから今日までこのかた一度だって俺に声を掛けやしない。

 

(俺に断りもなしに、好き放題俺の隊員を戦場に送ってるクセしてな)


 今まではシャリエールが教官室にいることも多かったから何とか入れた。

 その味方がいない今、俺に集まるほとんどの教官からの敵意の視線。居心地悪いしかない。


 訓練生とは年齢が近い。芸能や時事ネタで趣味が合うこともある。

 仲良くなれる要素はあるが、教官職にとってはやはり、無力無能者は蔑視に値する存在なのね。


(にしてもまた謹慎か。好きだね俺も。全然好きじゃねぇけど)


『話は以上だ。部屋を出たら教室に戻り荷物を纏め、帰れ』

「了解しました。山本訓練生、この後の全体朝礼終了後、帰宅します」


(ま、でもね……)


『んんっ? 貴様はすぐに帰れと……』

「失礼します」

『おい、話はまだ終わって……クッ! 陛下がお認めにならなければこの学院に残ることもなかった。調子に乗るなよ!? 貴様は退学にできないだけで、いないも同然なんだからな!』


 なんだろう。

 謹慎処分を書類と共に教官Aに言い渡されてなお、まるで興味が無い。


今回の謹慎は取り下げられる・・・・・・・・・・・・・


 そんなことにはならないことを俺は既に知っていたし、何よりこれから起こるであろう出来事・・・・・・・・・・・・・・を考えたら、謹慎発令なんてかわいく思えた。


 相手にするだけ、馬鹿馬鹿しい。


(さて、この後・・・どうなるかだ。教官連中一同、俺に対する扱いが手のひら返しになったら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、指差し捧腹絶倒ものだねどうも)


「やっぱりシャリエールが教官であったことはデカいなぁ」


 教官室を出て廊下に立つ。

 いよいよ、この後の朝礼が近付いてくることに、胸のドキドキが抑えられない。

 期待からのワクワクじゃない。


「シャリエールからもトリスクトさんからも嫌われた……ね? 卒業まで《記憶を無くした一徹今の俺》として生きる猶予はくれたみたいだが、お前のせいで滅茶苦茶だよ。《記憶喪失前の一徹前の俺》」


 恐怖からだ。内側から胸がドンドンとノックされているようで苦しくて痛い。



 これは前日、一徹が大帝国ホテルの事件を解決した後の話。


 シキと有栖刻長官を一徹が救いきって見せたと同じタイミングで、大帝国ホテルに大勢の救援の者が到着した。

 到着したというより、第一フロアが第三形態がひしめいていたため突入できず、タイミングを伺っていたらしい。


 その後、一徹とシキたちが搬送されたのは玉響一族本家の屋敷。

 陰陽薬師の最名門たる、玉響まゆらの実家。


「どうしたんだい一徹君。浮かない顔しているじゃない。私のヒーロー・・・・・・がそんな顔しては心配になるなぁ」

「……トリスクトさん達と連絡がつかなくてな」

「どの道最近は全く連絡がつかないんだろう? それに《記憶喪失前の一徹君の正体》の一件もあって、顔を会わせづらいって言っていたじゃないか」

「わがままで道理が立たねぇっつーのは分かってる。だけど会いたい時もあんだよ」

「フゥン……で?」

「玉響さんに連絡してみた。各国大使の護衛をするため、皇居内で彼女たちも一緒に保護されているって話だった。変わってくれって頼んだよ」

「それでそれでぇ?」

「『すまないが出たくない・・・・・・・・・』……だそーだ」


 力を使い果たし、意識を失った《オペラ》は治療と共に、何処かに運ばれ休息しているということでいない。

 無力無能者が《アンインバイテッド》と闘えば軽く見積もって一触即死。ゆえ、生きているということは無傷な一徹。

 軽い手当を施して貰ってからは、辛そうに項垂れていた。


「へ、へぇっ」


 項垂れている一徹の目には入らないから、聞いたシキの歯は浮いてしまった・・・・・・・・・・・・・・・


「そうなんだ♪ それは悲しいねぇ」


 声に悦楽が交わらないよう努めてみるも、中々抑えられない。


「でもさ、考え方を変えて見なよ。『ただ一緒にいたいだけじゃ辛くなってきた』って、一徹君もホテルで言ってたじゃないか。いっそのこと本格的に距離を置いてみたら?」

「えっ?」

「中途半端に離れて会えない。中途半端に相手への注意と想いが残る。苦しい理由だよ」

「それは……」

「勿論、二人が既に恋仲だったら・・・・・・・・・・・私もこんなことは言わない。でも、違うんだろう・・・・・・・・・?」

「違うには……違いねぇ」

「それにルーリィ君の婚約者やシャリエール君にも想いを送るのは本来一徹君じゃない・・・・・・・


 もう少し一徹が精神的に参っていなかったら、「何を阿呆なこと言ってるんだ」とでもいうだろう。

 精神的に打ちのめされ、黙って聞いている今の状況は、シキが畳みかける絶好のチャンスだった。


「まぁ、モチあの二人を、山本小隊を忘れろ……なぁんて言わない……けど、私達がいるよ・・・・・・?」 

「ん?」


 シキの命を賭けた秘策は効果を発揮した。


 大帝国ホテルでの戦いを映像としてルーリィとシャリエールに届けたこと。

 彼女たちが存分にこれまで受益していた、一徹からの特別の一つ一つを奪ってやった。


 一徹の周りに存在する意味と必要性というものを、ルーリィやシャリエールが一徹に感じさせる以上に、シキは鮮烈に見せつけてやった。


「私に、ネネ。君が望むなら高虎か竜胆も筆頭に、亀蛇も加えよう。君にはもう、

新しい山本小隊がいる・・・・・・・・・・

「な、何を言って……」


 だからルーリィとシャリエールは一徹からの連絡を拒絶した。


 一徹からの存在価値、一徹の隣に立つ存在理由が、一徹の中で薄らいでしまったかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恐れ・・がそうさせたと、シキは予測できた。

 饒舌は……それゆえ止まらない。


「陛下、申し上げます!」


 時間の許す限り甘い言葉を囁き、言を持って一徹を惑わしたいシキ、しかし許されない。


 なんと失礼ではあるが、それほどに緊急の用だった。

 ノックもしないで二人だけの部屋に飛び込んできたのは、傍付きで親友の木之元ネネ。


「四國地方は本州との懸け橋は崩落! 海岸線、空港なども《アンインバイテッド》の密集により、援軍いまだ到着せず!」


 実のところ今の一徹の意識をもぎ取ってしまうのは、シキの黄色い声ではなかったかもしれない。


 突然の入室にシキも一徹も目をやってしまう。


高智県こうちけん作戦展開中の現地退魔師は全滅・・・・・・・・・・・・・・! 魔装士官学院四国校は半壊・・・・・・・・・・・・! 学院生の約3分の1以上……」


 まず、一方を耳に二人とも目を見開く。


討死っ・・!」

「「ッツゥ!?」」


 破顔した。


「四國駐在の本職部隊および現地退魔師集団の嘉川かがわ愛姫えひめ徳縞とくしま展開分はいまだ戦況膠着状態にありますが、高智こうちへ配置転換した場合、それらの膠着状態が破綻。四國は一層の混沌に落ちる可能性あり!」


 凍り付いた二人。

 絶句してしまって、やっとシキが声を挙げられるまでに10秒以上かかった。


「報告ご苦労。下がってよい」

「ハイッ」


 機に乗じて必死に一徹を口説こうとしたシキは、だがしかしその報告を耳にし、ネネがいなくなった途端、床絨毯に膝から崩れ落ちた。


「……まだ、皇都の争乱だって収まっていないのに……」


 そうなのだ。

 所詮は一徹に皇一行は助けられただけ。

 桐京都内でも未だ千の無力無能者、万の民が逃げ惑い、近づく死の足音に怯えていた。


「……パワードスーツ、もいっぺん貸してくんない?」

「……え……?」

「トリスクトさんとフランベルジュ教官を、三縞に返してくれないかなぁ」

「い……ってつ……くん?」


 いている民がいる。

 おもんばかるだけで、シキ一人の身では耐え切れない。その肩に一徹は手を置いて、語り掛ける。


「ウチの三縞校もそうだけど、各学年に約100人チョット。四國校約3分の1ってことはそれくらいってことか。同い年の訃報ふほうってぇのは……クるね?」


 語気は諭すように柔らかい。


「今のとこ、志津岡はまだ《転召脅威》が発現していない。とはいえ戦力を甘く見積もるのもご法度。ただウチの学院には我が愛しの三年三組マイスイートたちがいる。トリスクトさんやシャリエール併せると、訓練生150人分くらいになるだろ」

「君、それは……」

「なんと言えばいいかな。他校比250%の全体戦力。それから野郎どもを100人チョットゴッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソリ引き抜いて・・・・・・・も、抜けた穴を埋めて戦力は余りあるんじゃない?」 

「まさか……」

「ま、舎弟どもの何人が乗ってくれるか。乗って欲しくないけど・・・・・・・・・・。それ次第だね。これは賭け。俺だって喪いたくない」


 その申し出は、あまりにシキにとって望むべきものすぎた。驚き、シキは見上げる。


「でもさ、ことが《転召脅威》ってなら、そんなことも言ってられないっしょ」 


 一徹は困った笑顔。否、それは諦めからかもしれない。

 

「……ちょっと先ほどまで、君は死ぬか生きるかの瀬戸際だったのに」

「対抗策たる正規魔装士官、魔装士官訓練生がその場にいないなら、常に泣くのは無辜むこの民。何の罪もない、無力無能だ」

「あ、セイ兄……」


 何ともまぁ、民を愛しむその発言。まるで統べる者目線・・・・・・・・・のようにも思えたシキは、ポカンと一徹を見上げる。

 見上げて……


「……シキ?」


 思わず肩に乗せられた一徹の手に両手を重ねてしまった。

 

「助けてよ……一徹君」

刀坂ヤマトラノベみたいな主人公なら、『任せろ』なんて言うんだろうな。俺みたいにモブ散らかした雑魚じゃ『やれるだけやってみる』って返すだけで精いっぱいだ。ま、せいぜい抗って見せるさ」


 今の一徹の意識をもぎ取ってしまうのは、異性からの甘く黄色い声ではない。

 自分の存在意義を推し量れる話か否か……なのかもしれない。



「山本君っ!」

「んっ、月城さん久しぶり」


 昨夜の事を思いだす中、張り上がった声に視線がいった。


「久しぶ……って、もっとお話したいけどそれは後! とんでもないことが起きたの!?」

「とんでもないこと?」

「陛下がお越しになったの! 陛下に釣られてキー局のレポーターやメジャー所の記者まで。ゴシック誌や芸能新聞の記者も押しのける勢いで殺到して……」


(……来たか……)


 そのスケジュール。俺だけは分かっていた。

 あらかじめ知っていたことはバレないよう、苦笑いして見せたがどうだろう。月城さんに気付かれてないだろうか。


「……っとぉ?」

 

 なぁんてことより、別のもんに気もそぞろ。


 身長差があると、俺が見下ろす形になる。視界には、月城さんの頭のてっぺんから足先まですっぽり入る。


「ん……山本君?」


 気まずげに上目づかいに俺を視線を返す月城さんも可愛いが、それ以上に、目が釘付けになってしまうものがあった。


「あ……んぅっ、ど……どこ見てるの?」

「いやぁ、柔らかかったなって・・・・・・・・・


(一度でいいから、ヤってみたかったなぁ)


ヤリた・・・……」

「……え゛っ!?」

「あっ……」


 アカン。知らずのうちに呟いてしまった。


 無意識に凝視してしまった月城さんの胸。

 月城さんはその視線を感じ取ったようで、両腕で身体を抱きしめ、隠したというのに、それでなお俺は言いかけてしまう。


「ツゥゥゥ~」


 思わず両掌で顔を覆ってしまった。

 失言した自覚はある。信じられない顔を見せた月城さんの事を見てられなかった。


「ゴメン何でもない。朝礼、先行ってる。また後でね?」


 これ以上居合わせるなんてとんでもない。

 逃げるように、その場から離れるしかできなかった。



『本番3分前。スタンバイお願いします』


 未だ混乱に包まれる皇都に置いて、ここはとある報道キー局のスタジオ。


 ベテラン男性キャスター、美麗な女性アナウンサーと同じテーブルに着いたルーリィとシャリエールの二人。すぐに始まる番組の撮影を控えていた。


(一徹を拒絶してしまった。正しくない判断……だったかもしれない)


 折角久しぶりに《記憶を失ったこの世界での一徹》がくれた連絡を、無碍にしてしまった。


『内容変更! 内容変更! 放送内容を変更して生放送に入ります!』


 本当にアレでよかったのかと思い悩んでいた二人は、駆け込んできた報道番組チーフの呼びかけに意識をとられる。


陛下が、志津岡県三縞・・・・・・・・・・の魔装士官学院で緊急声明・・・・・・・・・・・・!』

「「え?」」


 前情報が聞き捨てならなかった。

 

 一徹簒奪ショー第二弾は、一徹を目の前で奪うことで月城魅卯に壊滅精神的ダメージを与えようとシキが画策しているもの。

 だからと言って、引き続きルーリィとシャリエールに追い打ちをかけないものではなかった。


 ☆


「……朝礼開始に先立ち、女皇陛下からお言葉を賜ります。なお陛下からは立礼のお赦しを頂戴しています。全訓練生は起立のまま静粛に」


 とうとうその時はやってきた。

 

 全訓練生が整列する前、一人立った生徒会長の魅卯。

 皆の緊張した面持ちを見ながら、自らが立っていたマイクを離れる。勿論離れる前に、スタンドマイクの高さをシキの顏の高さに調整した。


「ありがとう。月城魅卯生徒会長」


 魅卯が離れたマイクに立つ女皇、日輪弦状四季は感謝するも真剣な表情を崩さない。


「余が愛する桐桜華の民たちよ! 数日に渡る異界よりの災い。痛恨の極みである!」


 そのシキを撮影するために殺到した取材陣が、一斉にカメラを向けたことに、魅卯はつばを飲み込んだ。


「落命せし者たちの肉体は余の身体の一部。因果律は・・・・、余の魂魄。災厄は、同時に余の心と身体を突き刺し、ぎ、斬り落とす……捨て置くいとまなどない。このまま放置するなど……あってはならない!」


 最近発生した《転召脅威》は全国規模。

 いまだ志津岡に事件は発生していないものの、痛ましい内容に、整列した三縞校生全員が眉を顰め目を閉じる。


「分かっている。この事件に対し、民を守る盾となり、剣となりて身命投げうつ者たちがいる事。正規魔装士官、見習い訓練生。士官制度から離れた退魔師だけに留まらない。異能力なき自衛官や警察官まで奮闘してくれている」


 ちゃんと国の皇は、その立場にある者に配慮してくれている。

 認めてくれる嬉しさを胸に秘め、そしていまだ危機に瀕する力無き者たちを心配しながら、皆、失われた命に黙とうしていた。


あるいは、余の言葉を受け入れられず、怒る者も出よう。『何を分かった口を聞いて……』など。魔装士官学院からの呼びかけ。『所詮皇も、最低限の安全を担保されて初めて御大層なことをのたまう』とも」


 ただ途中から、もし国民がバッシングしたとして、甘んじて受けますよと言うものだから皆目を開けた。


「皆の目にその様に見えたのなら、それは真理なのだろう。8年前、初めて《アンインバイテッド》が降り立ってから余も戦力増強に務めたつもりだが、皆の怒りと悲しみは、それが不十分であった証明とも捉えられよう」


 一瞬弱気にも聞こえた。


「だがらといって余に、愛する民へ想いを送り続ける手を止めるつもりはない!」


 が、目を開き改めて皇を見るに、おびえた様子はない。


「どうとらえられても構わない。者によっては『偽善』ぶつける者もおろうが、なら客観的に見える『偽善』を持って、少しでも本災における損害を和らげ、好転させるための手を打っていくものである」


 寧ろ凜と誇り高く。

 訓練生たちにとっては、皇の正々堂々とした態度が眩しく映った。


 国の皇が、国の一大事を前にして死にそうに弱っていてはいけない。それは国士全ての戦意に影響してしまうから。


「第三魔装士官学院三縞校生徒会長、月城魅卯」

「は……ハハッ」


 はじめの挨拶を終えた女皇が、まさかいきなり呼んでくると思っていなかった魅卯は、慌てて傍に寄ると片膝を地面につける。頭を下げた。


「これは緊急時の特例対応として心してほしい。本大規模災厄における対抗手段の一つとし、この三縞の力、一部余に貸してほしい」

「ッツゥ!? こ、光栄の極みっ!」


 女皇の声に、「おおっ!?」と三縞校訓練生全員が色めきだつ。

 答えた魅卯の声もかん高くなった。

 

 10月、文化祭が終るまでの第三魔装士官学院三縞校の評判を、誰もが覚えていた。


 各生徒それぞれ、地元の魔装士官学院に入れずやってきた、言わば落ちこぼれ異能力者の島流れ先。

 英雄三年三組以外は全員Fランク訓練生と、他の魔装士官学院から嗤われ、《対転脅》関係者からも馬鹿にされてきた。

 

「ウム。心から感謝する。大義である」


 だが今や、国皇が「その力を貸してほしい」と願い出るほどに、評価は見直されたのだ。

 今度はちゃんと認め直されているのだと分かると、これまで卑屈だった者達が誇らしげにあれるのは当然と言う者。


(陛下は私たちの三縞校を本当に頼ってくださっているんだ。なら、私も誠心誠意協力差し上げなきゃ)


 その代表、生徒会長の魅卯が同じく浮足立つのは仕方ない。


(良かったね三縞校の皆っ。私達の評判は本当に覆った。もうどこを、誰を相手にしても胸を張って正々堂々といられる!)


 女皇は第一学院桐京校の生徒会長を務める。

 とは言え、カメラを向ける取材陣はそのことをほとんど知らないから、三縞校の力を借りることが異なることだとも思わないだろう。


(まだ志津岡三縞には今回の《転召脅威》の余波は届いていない。保持戦力は殆ど完全。陛下に人員をお貸ししてなお、三縞に残る戦力にだって不足はないはず)


 雲の上の存在を前に、頭を下げ続ける魅卯。考えを巡らせまくっていた。


(グレンバルドさん、ストレーナスさんは廣縞ひろしまに発った。トリスクトさんにフランベジュ教官はまだ桐京だし……)


 誰を人員派遣させるか。それがひいては三縞校のマイナスにならないかなど。


(陛下が望むなら、やっぱりそのお眼鏡に適う強い訓練生がいいよね)


 折角、皇が頼ってくれたのだ。納得してもらえるような実力者を献上したかった。


(だったらやっぱり……)


 頭を下げたまま……後方に整列した三縞校生へと魅卯は振り向く。一人に目を付けた。


(ヤマト君をはじめとした、少数精鋭部隊)


 その一人、ヤマトは振り向いた魅卯の視線に気づいた。

 神妙な顔をしていた。そうしてゆっくりと「大丈夫だ。三年三組俺達に任せてくれ」と無言で頷き、想いを魅卯に返した……が……


「この期に及んでなお、人選でお前の頭を煩わせるつもりはない・・・・・・・・・・・・・・・・・・。安心するがいい。月城魅卯生徒会長」

「は……え?」

「ネネ」

「ハイ、陛下」


 なんとか女皇に相応しい戦力を見繕いたい。

 そんな魅卯の考えは無に帰した。


 名を呼ばれた皇傍付きの木之元ネネ。


「……特務・・


 整列する、三縞校全員約300数十名の前に立った。


特務を探しています・・・・・・・・・。前に出てきてください」


 「探している」と言った癖に、探している様子はない。


 寧ろその集団の中にいると知っていて、その「特務」と呼ばれた者が集団から飛び出し、ネネの傍にやってくることを期待しているような。


(と、特務っていったい何? どういう事? いったい誰を指して……)


陛下から昨夜下された命について・・・・・・・・・・・・・・・。一切の情報統制を現刻持って解除いたします・・・・・・・・・・・・・・・・・


 魅卯だけじゃない。流れが読めないネネの呼びかけに、三縞校全体が騒めく。


「状況は刻一刻と極まっているというに、登場と自らの存在を勿体ぶる時間は無い。戯れも過ぎるぞ愚か者」


 その様を前に、女皇は大きくため息をついた。


「桐桜花皇国防衛省、陸上自衛隊内……」


 さて、第三魔装士官学院三縞校は皇の次の言にて……


「《対異世界転生脅威防衛室》直参、第三魔装士官学院三縞校組内、《生徒会》直系……《山本組》初代組頭……」


 学院長から、全教官から、雑務一式を職とするもの。魅卯をはじめ、全訓練生の時は……


山本一徹・・・・……特別任務臨時皇宮護衛官・・・・・・・・・・・

『『『『『なぁっ!?』』』』』


 凍結する。


 三縞校全体で困惑とどよめきに声を上がる。

 呼びかけに応えた一人が、集団の中央から人をかき分け全体の前に姿を現したから。


「……はっ。山本一徹、ただいま参上つかまつりました。我れらが皇よ・・・・・・


 ……一徹……

 シキの前に片膝を付く魅卯よりももう少し皇に近く。

 同じく片膝を付き、頭を垂れた。

 その場全ての刺す様な注目を一身に浴びる。


 取材陣たちのシャッター音とフラッシュが終りなく弾けた。


(え? どう……して……)


 普段は軟弱でヘラヘラしている顔には、今では覚悟を決めた精悍さが漲っていた。


(山本……君が……?)


 その勇ましそうな風よ。

 4月に編入してから一徹がずっと憧れていた刀坂ヤマトが、有事の際に醸す風格にもはや比肩する。


(い……嫌……)


 ある意味でそれは訓練生としての確かなる成長には違いない。が、その成長が魅卯には耐えられなかった。

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