テストテストテスト140

「ふぅ……」


(少しは落ち付いてきたか?)


 アラハバキエリアの生存者を捜索し救助に向かう。当然その中では《アンインバイテッド》とも遭遇して、命の危機を感じてしまう。

 そういうのは、もう過ぎ去った。

 

「《オペラ》共、調子どんな感じ? 敵の侵入防衛をお願いしこそすれ、ちゃんと実働と休憩のローテは、回ってるぅ?」

【あ、貴方という方は、この期に及んで、私達にまで気を遣いますか?】

【アンタこそ休めていないんじゃないの? アラハバキ駅防衛に作戦をシフトしてからずっと……】

【山もっちゃんは、実働しなければ実働しないで、今度は現場監督者とし全方位に目を見張って……】

「アッハ!? い~のい~の♪ 死中に身を投じる段階は終わった。生きてるだけ、上等だ」

【【【なんて人/このバカ/無理しちゃうからなぁ】】】

「んじゃ、まぁ、引き続き宜しく」


 今はアラハバキを避難拠点とし、逃げ込んできた要救助者を保護し、駅に迫る《アンインバイテッド》から防衛する。

 活動範囲、警戒範囲が先ほどよりも狭いから、消耗も少ない。

 

(体力の消耗は焦りを生む大きな要因な一つ。それが無いだけでも大きい)


 ことアラハバキエリアに関しちゃ、着実に状況は良くなっていることを通信での会話で感じる。


「山ちゃん」

「ウィッスヒジキ、状況はどない?」

「ちょ~っと、予想外にヤバいことになってる」

「なんか問題が?」


 通信がひと段落したのを見計らったことに、声を掛けてきたのはヒジキだった。


「嬉しい悲鳴やが、問題には違いない。アラハバキ駅ではもう・・・・・・・・・・収容しきれんくなってる・・・・・・・・・・・

「……あんだって?」

「アラハバキ駅は本来、避難所兼防衛拠点には指定されとらん。が、都内23区じゃアラハバキエリアは超優秀らしくてなぁ」

「さっきアラハバキ警察署長さんが言ってたね。臨時的にエリア外から避難員が駆け付ける先に指定されることになったと。だから俺らは拠点防衛を最優先にする一方、他エリアからアラハバキエリアへの避難導線に人員を投入した」

桐京とうきょう駅、植野うえの駅、桐京スタジアム最寄り駅、そして金糸町きんしちょう駅。辿り着けんもんがアラハバキに殺到する」

「故の収容人数飽和か」


 アラハバキ署長さんは、アラハバキ駅からいま挙がった駅へのルートに、管理下のお巡りさんを配列した。

 時間ごとに休憩は挟ませ、各ルートに、俺は異能力者を5,6人ずつ投入した。

 

「誘導先導は活きた。効果的で、多くの避難員を収容出来た。本当に嬉しい悲鳴だね。問題にも違いないが……」

「どうする? 防衛拠点、拡張するか?」

「できるなら拡張が一番いいけどね。離れたところを第二拠点にするのはちょっと勘弁だ。目を光らせるならなるだけ一所に固まるのがいい。駅に併設された淀橋ビデオビルは?」

「既にお客様相談室に電トツ済みや。『上に確認してみないとどうにもならん』と。『確認にどれだけ時間がかかるか分からん』とよ」

「ちぃっ」


(こういう時、ウソも何もないってのに)


「家電屋は扱う製品の単価も高い。火事場泥棒を警戒したのもあるやろ」

「『うるせぇよ! 緊急事態だ避難させろ!』っていうわけにはいかねぇのか。《転召脅威》が収まったら通常営業を始めなきゃならねぇ……」


 一難去ってまた一難というか。

 ふつう悪いことが起きるとどんどん悪くなるものだが、どうして良いことというのはあまり連続しないのだろうか?


「お?」

「……いい、考えが浮かんだようやな」

「いい考えってわけじゃない。押し通すしか手が無いし、人間としてゴミ以下の考えだ。人間どころか畜生にも劣る。生きる価値のない策を弄すぞ? これより俺は、普段からせっせと汗水たらして店づくりに励んだ人たちの想いを踏みにじる」

「ひ……卑屈すぎる……」


 いい。なら無理やりにでも自分の思った通りにして見せる。

 「緊急事態だから」と、普通通らない道理を理不尽に踏み倒し、通してしまうのだ。


「ヒジキ。録音の準備だ」

「どうした? いや、山ちゃん流にいうなら、(ど)うした……か?」

「……淀橋ビデオビルに・・・・・・・・、《アンインバイテッド・・・・・・・・・が侵入した・・・・・

「っとぉ。ソイツぁ……」

直ちにビル内に侵入・・・・・・・・・。これを撃滅。なお次にいつ侵入するとも限らないため、今後は当該建物の出入りを自由とする・・・・・・・・・・・・・・・・・。作戦区域の一つとして索敵に勤しんでくれ」

「へぇ?」


 俺の「録音の準備」からさっと学院支給の携帯端末を取り出し発言を録音したヒジキ。

 録音を止めると、俺に向かって敬礼を見せる。


「コレで、仮にヒジキが店舗内に不法侵入しても、俺の命令があったって言えるだろ?」

「その命令者が仮面を被っとるんや。命令を下した奴の責任問題を問おうにも問えん。それでも仮面の命令者がいたという事実は、アラハバキ署長も証言できるやろうし」

「んま、結局警察さんにご迷惑をおかけしちゃうけど」

「間違えちゃあらへんで? 何を優先する。富を生む商品か? それとも……人命か?」

「ククッ。確かめられるまでもねぇ」

「では、五日出聖訓練生、《アンインバイテッド》が侵入したとされる淀橋ビデオビル内に急行しまっせ?」

「そーだな。物見遊山的に好奇心旺盛な避難員が付いてきてしまっても構わないかもしれんが、見立てSランク訓練生のお前だ、問題なんてないだろう?」

「期待には……応えるで?」


 向けられた敬礼に俺が返す。ヒジキの奴「ハハッ」と笑って姿を消した。


「……カァ」


 ヒジキが離れてから、思い切り息を吐く。


(さて、こんなのが解決にならないのは分かってるんだ。もっと抜本的に。《アンインバイテッド》転生口、《ホール》を封印せにゃ。って言うか、どうしてこんなに《境界虚穴ホール》が同時多発的に……)


「……山本さん」

「ん、木之元さん?」


 まるでタイミングを見計らったからのようだ。

 背に声をぶつけてきたのは、木之元ネネさんだった。


「そか。生存者を探す為に監視カメラを見るほどの、ヤバ目な段階は超えたってことでいいのか。でも言ってくれ。君がいたネカフェは市内中央。ここに来るまで危険だってあったはず。駆け付けるまでに何かあったら俺が辛ぇ。迎えに行ってたのに」

「はい、いきなり心配アピールで女子好感度上げて口説こうとしない」

「は?」

「なんでもありません」


 いきなり過ぎる言葉のキャッチボール。

 よくわからないが、一発目は失敗だったらしい。


「それで山本さん、お願いがあります」

「お願い?」

「……大至急、陛下のお傍に急行ください・・・・・・・・・・・・

「ッツ!?」


 まいったよ。言ったやん。「よくわからん」ってさ。

 木之元さんの話始めに「どう話進めればいいのよ」とも思うのにさ、


「場所は大帝国ホテル。《アンインバイテッド》はもう、かなりのところまで陛下に迫っています」

「ちょっ」


 気持ちも整う前に、更にぶち込んでくるとか。


「冗談だと思います?」

「想わせてくれ。陛下の予定は聞いている。同盟各国の大使を招いての会議だろう? お守りしているのは《皇宮護衛官》の退魔部と聞いている。同じく、《対転脅》の指折もだろうが」


 《皇宮護衛官隊》は、無力無能者と異能力者の二存在で組織される。

 その中の退魔部とは一言、「ヤベェ奴」である。

 皇宮をお守りするということで、異能力者でありながら《対転脅》には属さない。

 が、《対転脅》に属する正規魔装士官の全国トップ50と、余裕で比肩すると聞いていた。


「大帝国ホテルには、第二形態、第三形態が殺到しています」

第三形態ランクべへモス!? 頼む。マジで冗談であってくれ」


 そんな方々でも、現状をどうしようもしがたいのだと耳にしてフゥっと意識失いそうになった。


 第二形態を一人で倒し切る。それがランクAの条件。恐らくだが、《皇宮護衛官》の退魔部はランクAプラスになるだろう。

 とは言え、第三形態ランクべへモス、第二形態ががひしめいている。苦戦は必須のはずだった。


「俺が行く意味がないじゃない。なにしろってのよ」

「陛下の救出を。大帝国ホテルから連れ出してください」

「ちょっと待て!? なんで俺だ!? って言うか大帝国ホテルにはAランクプラス以上ばかりいる中で、誰かが連れ出せばいいだろう。つーかなんだってまだ陛下がホテルにいる!? 普通は何を推しても先に脱出すべき立場だろ!?」

「皇ですからね。ですが一方で、第一学院桐京校訓練生会長という立場もあります。まずは各国VIPの脱出を見届け、自らの戦場の離脱は最後。桐桜華皇国の皇は強くてタフ。そんな演出思惑もあったのでしょう」

「いまだ世継ぎもいない、皇家直系正統血統者がアイツ以外いない中、何かあったら……残される国民の事を考えろってんだ」

いない・・・……事もありませんが・・・・・・・・

「なんだぁ?」

「い、いえ。なんでもありません」


(ったく、あのバカ。死んだら元も子もねぇぞ!?)


 とんでもない強者に守られているはずなのに、「女皇四季を救え」と来たもんだ。

 すなわちそれら強者たちですら、戦闘、防衛を中断し、脱出を意識する余裕もないってこと。 


「正直言って、貴方以外急行できず、貴方以外、陛下を大帝国ホテルから連れ出せる者はいないのです」

「俺以外?」

「VIP全て、屋上からヘリコプターにて離脱させましたが、そのことで《アンインバイテッド》の注意を引いたようです。発着場は既に占拠され……」

「地上入口は《アンインバイテッド》が氾濫してアプローチ出来ない。ヘリ発着以外の空のルートか……」

「山本さんの《千変の神鋼マスキュリス》使役法、銀触手による建物から建物への飛び移りなら、或るいは」

「コンクリートジャングル、ビル群都市だから出来る移動の仕方……ね?」


 言いたいことは、わかる気がした。

 でも何だろう、ぶっちゃけ……俺が要請されるには、かなり理由が薄い気しかしない。


「《オペラ》が、最適だ」

「なんですって?」

「空を往けるのは決して俺だけじゃない。海姫、陸華、空麗それぞれが、縦軸での移動手段を持つ。陛下の脱出を最目的としたとしても、目の前の障害排除は必要だろ?」


 そう、つまるところそれはある。

 この場に《オペラ》がいなければ、有無言わず俺も大帝国ホテルに走っていただろう。

 

「だったらAランクプラスのあの三人を駆け付けさせた方がいい」

「……一つ、山本さんもAランク生・・・・・・・・・・・であることを忘れないでください・・・・・・・・・・・・・・・

「ハ?」

「貴方が無力無能者であろうと関係ない。既に第二形態を一人でトドメ直前まで追い詰めた実績がある以上、Aランクレベル生であると私は判断します」

「け、結果的にそう見られるかもしれんが、そこに至るまでの苦労っぷりは、決して本チャンAランクは感じること無いと思う。もっと楽に戦えるやれると思うよ」

「大丈夫です。シキの隣で数えきれないほど異能力者を見てきた私が言うのですから」


(なんか、言い訳が苦しい気がする)


「二つ目、こっちの方が重要です。山本さんが皇宮護衛官であること・・・・・・・・・・・・・・・

「見習いじゃないの。しかも見習い皇宮護衛官なんて肩書、シキの思い付きの方便みたいなもので、現実には存在してないんだろ?」

「そんなもの何とでもなります。例えば山本さんは『卒業を待たずして、内々で皇宮護衛官任官内定を陛下ご自身から賜っていた』とかであれば」


(言い訳が苦しさから、無理やりに変わってきているような)


「陛下のピンチに魔装士官訓練生が駆け付け救い出した。お笑いにもなりません」

「現職の皇宮護衛官たちの面子にこれ以上泥を塗るものはない……か?」

「まだ卒業後の任官待ち見習い皇宮護衛官という立場がいい。この一週間で山本さんにも自称して貰いました。既成事実的ではありますが、『任官待ちなんだ』との認識を持つ周囲も少なくない」

「救出するために取ってつけたような設定でもないってことか?」

「そんな軽い職務ではありませんから。陛下が救出されたその時、皇宮護衛官らは初めて山本さんの存在を知る。前々から任官待ちであったことを、それら周囲の話を聞いて初めてホッとするでしょう。貴方は未来の皇宮護衛官。貴方の功績は……」

「やがては結局、任官先の皇宮護衛官隊の功績になるってことか」


(苦しいし無理やり。んでもってあたかももう、俺の就職先が皇宮護衛官隊になってる流れかよ)


「卒業後の就職ね。そんな未来は、訪れないんだけどなぁ」

「山本さん。これ以上のお喋りは……」

「い~よ。わかった」


 いまだ釈然としない。

 でも、動けと言われて動かないのも何か気持ちが悪かった。

 何だろね。多分、俺じゃなくてもシキは助けられる。

 大人の事情があったとしても、大事なのはやっぱり命なわけで、生死の間にいるというなら、大人の事情なんざどうだっていいはず。


(だからと言って『行きませんでした。行かなかった結果……この国の皇がお亡くなりになりました』ってぇのは……なぁ)


 色々な要素が、シキのもとに駆け付けるにあたってあるんだろうけど、一言で言ったらこうなる。

 ……せめて駆け付けられるだけ駆け付けて後悔したい……


「何処までやれるか分からないが、やらないで後悔もしたくねぇからなぁ」

「そう来なくては」


 肚は決まった。

 なら、次にしなくてはならないことは決まっていた。

 俺はこの場を離れる。なら、誰かにこの場を託すことになる。


「ヨーヨー。淀橋ビデオビルの状況はどんなもん? あ、俺だ。オレオレ、詐欺じゃないよ?」

【ハハッ、状況が始まってからここまで、オレオレ詐欺のくだりはもう10回以上聞いてるんだが?】

 

 そして託すなら……この戦場を共にした、信頼できる友達に託したい。


「状況開始してから数時間。協力しあったことで《オペラ》とは打ち解けて来たかよ?」

【お、警戒し始めたな? ちゃんと俺の事を見張っといた方がいいぜ? 目を離したすきに、三人とも俺が寝取ってだなぁ。セフ……】

「威勢がいいな。安心した。なら構わない。いい。三人とも、お前にやる・・・・・・・・・・

【……………………】

「『てんてんてん』じゃないっちゅーの。それだけ長い間、タマタマユラユラなトッ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………プスタァにしか許されないんだからね?」

【なんかあったな。今度はどうした?】


(ハッ、声色だけで何回異変に気づくんだよ。一月半前に初めて会ってからまだ数回しか会ってないのに。回数じゃないんだね。関係の深化に信頼ってぇのは)


「ちょっとエリア外に出てくる。お前が《オペラ》三人と仲良く宜しくやってもらっている目を盗んで、木之元さんとお出かけしようってね」

ネネ・・と二人で……って、山本まさかお前!?」

「《オペラ》三人と良い感じに打ち解けてこれたなら、お前が将としてこの場を支配し、差配することだってできるはずだ」

【オイ待て!? お前一体どこへ行く!? いや、いい。大至急でそっちに戻る!? 話は改めてその時に……】

「悪ぃ。自体は一刻も早くってことらしくてさ。いんやぁ、モテる男は辛いね!?」

【ちょっ、待て! 俺の話を聞……】

「ホント、今日ばかりは……お前がいてくれてよかった」

【んなぁっ!?】

「あとは頼んだぜ? ひじり

【この期に及んでちゃんと名前を呼ぶなァァァァ!?】

「通信、終了」


 状況の発生。不幸には違いない。

 でも、不謹慎に違いないが、嬉しいことに不幸中の幸いがあった。

 三組連中にも負けないくらい、信じられる友達がこの場で俺と共に闘ってくれた……と言う事。


(欲を言えば……だが。いや、状況なんざ発生して欲しくないから欲でも何でもないけど、こうして誰かと肩を並べて闘う。初めては……お前たちの隣が良かったんだけどな。我が愛しの三年三組マイスイート達……刀坂?)


「いや、俺なんざモブ如きが、刀坂英雄主人公石楠さんヒロインなんかと肩を並べられるわけがないね。脚を引っ張っちまうだけだろうから」

「引継ぎは終わりましたか?」

「あぁ。それじゃ行こっか」


 ヒジキへの通信を終えたのを見るや、木之元さんが声を掛けてきた。

 一秒でもこの場を離れたいのが見て取れた。


「キャッ」

「おぉっと、嫌わんでよ? 一緒に向かうならこの方がいいってだけさ」


 さぁ、俺の上半身をブレストプレート宜しく覆う銀色マンジュウが、俺の背中辺りから生やした触手を射出し、手近なビルの高いところにつき立った。

 逆バンジーの要領で一気に地上10メートルも20メートルも跳躍することになるから、木之元さんの腰に腕を回す。抱き寄せる。


「そんな、徹……腕……逞し……ドキドキ……」


(いや、本当にこの手しかないんだけどね)


 なお木之元さん。顔真っ赤に俯き、口ィパクパクして何か言っておりますん。


「ふぅ……跳べっ!?」


 そっから秒もなく、木之元さんを抱き寄せた俺はパチンコに弾かれる弾宜しく、夕闇の空に放たれた。



「だ・か・ら、なんでアイツはぁ~……っ!?」


 一徹がアラハバキを経ってから30秒経ったかどうか。


「なんだって一番重要な場面で一人で抱えて、一人で完結しようとするのよ。いつもいつも……いっつも……いっつも!?」


 高虎海姫は、ゴゴゴであった。

 一徹とネネの会話は通信を切られて聞こえはしなかった……が、一徹がヒジキに託していた時の会話はバッチリ周波数に乗っていた。

 木之元ネネが一徹とアラハバキを外す。なら理由は一つしかないと海姫は分かっていた。


「ハイ……しゅうご~う!?」

「あらら、海ちゃんご機嫌斜め」

本当に虜になっちゃっていますわね・・・・・・・・・・・・・・・・。初めて出逢ってから一月半。少し早いかもしれませんが、こういったものは時間は関係ないと言いますし」

「ビビビッってことなら、僕も負けてないつもりなんだけどなぁ」


 海姫だけではない。陸華、空麗も同様。


 アラハバキ駅を拠点とし、防衛する持ち場から離れた2人。通信ではなく肉声での海姫の号令に駆け付けることが出来たのは、海姫と同じく通信による一徹とネネの離脱に思い立つことがあって、あらかじめ海姫のもとに向かっていたから。


「いくら木之元さんが可愛いからって、どさくさに紛れて抱き着くとかねぇっ」

「ん~……怒っているポイントがズレてる?」

「素直になれないだけですわ」


 三人は第一学院桐京校生。木之元ネネがこの国の皇の最側近であることは知っている。

 であればネネが一徹を引き連れて向かう先は皇がいる場所のはず。

 その皇、日輪弦状四季女皇陛下とは、海姫たち3人の生徒会長だったりするのだ。

 

「第二学院貴桜都きょうと校、五日出聖、聞こえているわね?」

【高虎、コイツはどういうことや! 他の退魔師たちから今情報があった。竜胆、亀蛇二人が持ち場放棄してお前んとこ行った言うやんけ】

「悪いけど、私達三人もアラハバキから離れるから・・・・・・・・・・・・・・・・・

【は? ハァ? ……ハァァァァァァァァ!?】

「これは国家レベルの緊急事態。つまりはそういう事だから、アラハバキからは後全部、貴方に任せたわね?」

【任せるなぁぁァァァ!?】


 ゆえに、通信で唐突に海姫は放逐するようなことを言う。

 とは言え、ヒジキの胸中が穏やかであるわけがない。


【ワリャ、チョイ待てェよ!? ワイがお前らを託されたんや!? 山ちゃんから直々に、三人をワイのセフ・・……】

「……フレ・・になるわけがないでしょ? 確かにアイツより顏は幾分かましかもしれないけど、それでも身の程を知りなさい。まだまだ私達には遠く及ばない。アンタはまず、無いから」

【なんで山ちゃんに託されたワイが盛大にフラれとんねん!?】

「じゃ、これで会話は徹底的に、不可逆的に終了」

【ちょぉっワリャ!?】


 これはヒジキが気の毒としか言いようがない。

 恐らく託した側の一徹だって、アラハバキから離れた途端にそんな展開になるとは思わなかっただろう。


「五日出には悪いことしちゃったね」

「ですが五日出さんなら私たちも安心してこの場を託して離れられますわ。恐らく……私達よりも格上でしょうし・・・・・・・・・・・・

「あ、やっぱり感じた? Sランクなのは恐らく、間違いないね」


 無理やりブチっと通信を切った海姫の後ろで、陸華と空麗がひそひそと交わし合う。

 髪をかき上げながらそんな二人に振り返った海姫は……


「話は後。急いで山本を追っかけるの。行くわよっ」


 地面を思いっきり蹴った。

 足裏から召喚された凄い勢いの水流を浮力として、空を駆け上がる。


「あー、山本さんに一分一秒でも早く合流したくてなりふり構っていられないのですわね」

「それ、海ちゃんの耳に入ったらきっと怒られちゃうかもね」

 

 天を仰ぎ海姫の背中を目で追った陸華と空麗はクスリと笑う。

 笑って……陸華は手近なビルの壁から急に生えた足場に足かけ、高いところに上っていく。空麗は自身の風の力を使役し、身体をふうわりと浮き上がらせた……短すぎるスカートを手で抑えてだ。


 さぁ、ここから暫く続いてしまう。

 ルーリィ、魅卯、或いはシャリエールにとって、目を背けたくなるほどの地獄。

 《僕の方が先に好きだったのにBSS》いや、《私の方が先に好きだったのにWSS》かもしれない。

 これより始まるは、ある意味では……山本一徹略奪ショウ。

 一方的に見せつけられることになってしまうから……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る