テストテストテスト138

「五日出! /さん! /っち!?」

「お、お前たち一体なんで 持ち場は!?」


 一徹がメガディスカウントストア屋上で戦い、隙を見て生存者を鋼糸によって安全に地上におろす。


 次なる生存者が降りて来るのを待ちながら、受け入れるため周囲の安全を半径10、20メートル分確保していたヒジキに、3重の声がぶつけられた。


「アラハバキ駅周辺の《アンインバイテッド》の攻勢は弱まりました! 想定外の援軍のおかげです。駅防衛は、彼らに任せて……」

「そんなことはどうだっていいわ! 通信で音声は聞こえてた。アイツ、とんでもない無茶やらかしてるみたいじゃな い!?」


 《オペラ》が集ったという事。

 持ち場の放棄。作戦からの逸脱にも思ったヒジキの裏返った声に、空麗が答えようとするが、それを海姫が塗り潰した。


「山本はどこっ!? 生きているんでしょうねぇっ!?」

「あ、アイツは……だな」

 

 ヒジキは言い淀む。

 思ってしまった。果たして、今の一徹を、彼女たちの目に触れさせて良いのか否か。


【ヒジキ!? 第三陣送る前に、予定外のものを送り込む。頭上に注意!】

「……は? ッツゥ!? 全員後退ぃぃぃっ!?」

「「「キャアッ!?」」」


 目の前の建物、屋上からの通信。


 耳にし、空を見上げたヒジキ。考える間もなく声を張り上げ、動いた。

 「全員後退」と口にしたが、あまりに突然すぎるから《オペラ》三人の反応には期待しない。


 彼女たちが悲鳴を上げたのは、ヒジキがプロレス宜しく両腕を広げ、ダブルラリアットの要領で三人を押し倒したからだった。


 RUGOGAAAAAAAAAAAA!?


 ドシャッっとの音が、三人巻き込み押し倒したヒジキの背中から聞こえてきた。

 屋上何十メートルから、安全帯や命綱無しにて第二形態が地上に降ってきた。


 同時、耳をこじ開け頭の中に流れ込む。頭蓋内に溜めておけない量にてヒジキたちの頭を爆発させるのではと思う程の絶鳴。


 当然だ。

 第二形態の巨体×かける体重×かける落下速度。

 合いまった力がコンクリートアスファルトと衝突したとき、どれだけの力か計り知れない。 


『……山本流斧刃術モードA面、《伐採牙》……』

「はっ」


 悲鳴が途切れ……聞こえてきたのは努めて落ち着いた声。

 落ち着いた声には違いないが、三人を押し倒したヒジキはバッと立ち上がり再び上空を見やった。

 そうして思わず……


「「「「んなアホな/嘘でしょ/まさかこんなことが/なんでもありじゃん」」」」


 呟いてしまう。

 ヒジキだけじゃない。《オペラ》併せ4人の声が重なった。


一振必殺いっしんひっさつぅぅっ……!?」


 ……垂直の壁を・・・・・……走って下ってくる・・・・・・・・

 屋上の手すりと上半身を繋いだ、触手状のマスキュリスの力を借りているのだろう。


 憤怒の形相。

 やがて地面まで5メートルというところで、壁を飛んだ。

 不安定には違いない……はずなのに、大戦斧を上段に振り上げて来た。

 

「《剛毅禍断ごうきかだん……轟乱割破ごうらんかっぱ》ぁぁぁぁぁぁ!?」


GIZZAZZHOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAA!


 先ほど言及した落下に掛かる力に、更に振り上げた大戦斧を思い切り振り下ろす力を追加しよう。


 背中からアスファルトに叩きつけられた《アンインバイテッド》。前半身が露わ。

 そんなところに更に、斧頭の刃先真ん中に、銀色マンジュウが呑み込みダイヤモンドカットの先を露わにした最硬石の極点をぶつけたのだとしたら。 


「絶叫……するわけだ。いくら第二形態でも大ダメージ。寧ろ、まだ生きているとかな」

『うわぁぁ!? やっぱりさっき下に降りておくべきだった!? 今の必殺モーション、絶対地上からカメラ上に向けるパターンだったぁ!?』


 何やら、屋上からヒジキたちのよくわからない声がビル屋上からきこえてくる。

 見上げてみると、手すりから身を乗り出して、知らない一般人がハンディカメラで一徹の戦闘映像を納めているではないか。


ちっ・・まぁだ生きてやがる・・・・・・・・・


 馴染みない声に引かれ、見上げてしまった意識。硬いもの同士を打ち付ける甲高い音と、不快気な声にもぎ取られた。


死ねよ・・・……死ねぇ・・・


 注意を奪われたとて、絶対に見たくない光景がヒジキに、《オペラ》たちに映った。


「一振必殺って言ったよなぁ? 必殺技なわけですよ。なんでまだ生きてやがんだテメェ・・・・・・・・・・・・・・・


 一徹は……静かな怒りを湛えていた。

 湛えていた? 否、呑まれていた・・・・・・

 そして……周到なる酷薄さを見せた。


「……死ね・・……死ね・・……死ね死ね死ねぇ・・・・・・・!?」


 銀色マンジュウを銀の縄と化し、第二形態の残された両脚と片腕に絡みつかせると、マンホール穴や電柱と繋いで身動きさせない。前半身を隠すこと許さない。

 そこに、何度となく大戦斧を振り上げては降ろすのだ。


「なんでだよ!? 《アンインバイテッド》は第一形態で何十人も百人も殺せて、なんで俺はっ!? たった一体も駆逐できない!? なんで……なんでっ! なんでなんでなんで!」


 強靭で、密すぎる《アンインバイテッド》第二形態の筋肉。こういう場合嫌な方に味方した。

 必殺の一振りで、第二形態の胸の位置の外殻は爆散し肉は露わになった。

 そこに何度も思い切り斧頭が突き埋まる。が、肉自体硬い過ぎるか、絶命に至らない。


「うっ……うぷっ」


 しかし傷自体はつけられているのが現実。


 ドチャッと音が響くたび、第二形態は号砲を挙げた。

 グチャっと響くたび、お笑いなほど勢いよく、そして多量の噴血が一徹の手を、身体を染め上げていった。


 悪戯に傷つけるくらいなら、安らかな死の方が、このグロテスクな光景を前にすれば誰だって願う。


 目の当たりにした凄惨な光景にたまらず後ろによろめいた空麗。胸に左手を、右手を口元にやっていた。


「べ、狂戦士ベルセルク……出てきちゃったの山もっちゃん? 駄目……だよ。そんな場面、海ちゃんたちに見せたら……」


 誰もだ、誰もこの光景を前に動くことは出来ない。


 衝撃的な光景に誰も身動きが取れないとなると、《アンインバイテッド》に対しても隙だらけに違いない。

 ……大丈夫。

 拷問の様な殺し方を晒すことで、周囲の《アンインバイテッド》第一形態、第二形態たちも恐れ慄き、距離を取って制止していたから。


BAGYOOON!


 ……そうして、その時はやってきた・・・・・・・・・


 一徹の怒りを一身受けるまま好き放題された第二形態……最期・・、短い悲鳴を上げるなり、絶命した・・・・

 ……首をねられた。































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 天地逆転。一瞬で。

 間違いじゃねぇよ? 


 2秒前、俺は眼下に第二形態を捉えていたはずだった。地面に向けた視界に、収まっていた。


「ちょっ……何してやがんだ海姫?」

「うっくぅ……」

「なんでお前が、首ぃってんだ。あれは、俺の、獲物だったのに!?」


 なのに今、俺は空を見上げている。視界の真ん中に映るのは、海姫だった。


 何が何だか分からないうちに天を仰いだわけじゃない。

 ちゃんとわかっているから、仰向けに地面に倒された俺の腰に跨った海姫に毒づいてしまう。


「あと少しで……殺せた・・・……のに」


 呼びかけに、押し倒し馬乗りになった海姫はビクリと身体を震わせる。

 

「初めて自分テメェの力だけで、《アンインバイテッド》を殺せるはずだった。オイ、返してくれよ俺の初体験・・・・・・・・・・・。《アンインバイテッド》討伐童貞卒業の機会を……よ?」

「……ろすな……」

「あぁん? 聞こえねぇよ! ったく、余計なことしやがってこのクソが」


 時刻は夜。

 街灯は、俺を押し倒す海姫の遥か頭上から光を注ぐから、フルフルと身体を震わせ続ける際、どんな表情をしているかは定かじゃない。


「良いからどけ。乳揉むぞコラ」

 

 馬乗りになる海姫の腰に、言いながら両手を添えようとする。併せて上半身を起こ……


「殺すなっ!」

「なっ!?」

「アンタはっ! 殺すな! 殺さないでっ!? 山本ぉっ!?」


 いや、思い切り上から胸に両手で力を加えられることで、また背中が地面についてしまう。


「アンタは、ノホホンとしていればそれでいいじゃない!? 温泉宿の若旦那として笑顔でお客さんを迎えていてよ! 三縞の人たちからも温かく迎えられて、平穏無事に暮らしていればいい!」

「海姫、話が飛躍……」

闘えば闘う程・・・・・・! アンタ・・・……壊れてく・・・・っ!?」

「ぐっ!?」

「殺して見なさいよ!? ただの一度で、戻れなくなる!? そんなの……山本一徹アンタじゃないじゃない!?」


 再び、腹筋に力を籠める。が、頭を持ち上げようとしてまた海姫は力を込めて地面に押し付け戻しやがる。


「怖くない。俺は……そんなの恐くない! 皆だって通ってきた道だろうが!? 海姫! 陸華! 空麗! ヒジキ! 三組連中!?」

トリスクトは・・・・・・っ!?」

「……あ……」

フランベルジュ教官・・・・・・・・・っ!?」

「ぐっ……」

「《山本小隊・・・・の彼女たち・・・・・!」


 トリスクトさんの名前が出てくるまでは、抵抗できたんだけどな。

 クタッと、力が抜けてしまう。


「確かに一つ奪うと、戻れん。山ちゃんが今あげた連中、俺も含めて通ってきた道なのは事実。だが……」

「……ヒジキ?」

「そもそも俺達と山ちゃんじゃ、命を奪う前の備えの量が違う」

「なんだと?」


 倒されたままヒジキを見やる。


「多くの訓練生には、妖魔との長い戦いの歴史を持つ退魔一家に属するというバックボーンを持つ。戦いの心構え。妖魔と言えど命を奪うという事。奪った後の話」


 奴は俺の頭の横に片膝をついて俺を見下ろした。


「今は《アンインバイテッド》駆逐が主だが。心の備えは訓練生になる何年も前、それこそガキの頃からそういう話を聞き覚悟を培った。最初の殺しに、俺も、先ほど名の挙がった奴らも壮絶な葛藤を経験したはず。対して山ちゃんはどうだ?」

「俺は……」

「異能力の有無によって駆逐対象に力が通る通らないも、山ちゃんの場合影響あるだろう?」

「どういう……」

「今の第二形態、ほぼダメージ与えられなかったんじゃないのか? なかなか効果的な攻撃が出来ない。苦しい。飛躍して、『自分が無力だから多くを守れなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・』と、自分を呪う・・・・・

「それは……」

「それでも削って削って、作戦持ち寄って、何とかトドメの際までこぎつけた。感じるのは……『やっと殺せる。俺にも・・・・・・・・・・……殺せる・・・』という達成感と充足感。気持ち良すぎる自己満足感・・・・・・・・・・・・


(言われて思い知る。見透かされたというより……前面に出過ぎてたのか?)


「山ちゃん、楽しんで殺しに掛かっていた・・・・・・・・・・・・・。初めての殺しを快楽で歪に達成した奴のその後なんて、見れたものじゃない。脳に刻み込まれたセンセーショナルな・・・・・・・・・・・・・・・・・気持ち良さを何度も欲っす・・・・・・・・・・・・その為の殺しという行為を・・・・・・・・・・・・繰り返したくなる・・・・・・・・


 なりたいかどうかと聞かれたなら、「なるわけ無いだろう」と答えたい。


「……あらがえるものなのか? その欲求に」

「抗えた奴の数を数える方が早い」


(抗えなかった奴は星の数もいるってこった。俺も、そうなりかけていた?)


「だから高虎は止めた。山ちゃんが『自分がどうなろうと関係ない』言おうが、こういうのは意外と、周囲の物の見方を優先すべきと俺は思う・・・・・・・・・・・・・・・・・・。『山ちゃんに壊れてほしくない』と思う者が多いなら、やっぱ山ちゃんは・・・・・・・・壊れるべきじゃない・・・・・・・・


(でも、そう言われたとして、俺が駆逐しないことで、生き残った《アンインバイテッド》がまた別の誰かに爪を伸ばしたら……)


「ん……」


 分かりみがふけぇ。一方で分からなみも深い。

 次にどんな言葉をつむぐべきか悩んだ時、頬に、温かい雫が弾けた・・・・・・・・・・・


「お……イ? 海……姫? お前……まさか……」

「う……つっ……んくっ……」

「泣いて……んの?」

「泣いてない。アンタ如きに私が涙を流す? 一ミリリットル100億圓でも流して安いんだから!?」


 先も言った。街灯からの光の確度によって、俺の目からは逆光になってる。海姫の表情は影が落ちて全く見えない。


「いや、だって……」


 まさかとは思う。だが気になってしまって、知らずのうちに海姫の顏に右手を伸ばしてしまう。


「だ、だから泣いていないって言ってるでしょ!?」


 右掌に感じるのは撫でた海姫の恐らく頬の感触。海姫の奴は慌てて、跨っていた俺の腰から思い切り立ち上がった。


「いや、何だろ。泣いてる」

「泣いてない!?」

「あー、多分泣かしたのは俺で。そのうえで傷口に塩を塗り込むようで悪いが泣いて……」

「だから泣いていないってば!」


 フラフラと後ずさりし、やっと街灯の光も海姫の顏に……


「何だよ。やっぱ泣いて……ッツゥ!?」


 目が真っ赤になって、目じりに珠が浮かんでいる。

 いい。

 恥ずかしがったか、制服の袖で顔を海姫は擦った。

 それも……いい。

 どうでもいい。そんなこと・・・・・……どうでもいい・・・・・・

 もっと重要なことが、そこにあった。


「や、山本?」


 気づき、慌て俺は両掌に目を落とす。


「クッ」


 再び海姫に視線を戻した。

 洋服には、本来の色合いとは全く違う色のものが多量に付着し染めていた。

 極めつけ、左頬。

 先ほど俺が撫でたと思しき海姫の箇所に付着したソレは、袖口で拭われたことで伸びていた。


 ……血……

 俺が触れたことで・・・・・・・・海姫を・・・……穢した・・・


「グゥッ!?」


 認めた途端。ズキィっと頭蓋の内で閃いた。


(あ……れ?)


「「「「山ちゃん!? /山本!? /山もっちゃん!? /山本さん!?」」」」


(こ、コイツぁ……)


 合わさる、呼びかけ四重奏カルテット


「ぎぃっ」


 からの……


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 頭の中で、絶痛が、主張しまくった。


(……久しぶりだなこの感覚。三縞校文化祭、模擬店コンテスト結果発表以来だ)


 ――頭痛爆発。次いで視界真っ黒だか真っ白だか。


視界ジャック・・・・・・……か?)


 痛みが引いて、何もなかった視界に輪郭を取り戻す。

 アラハバキ同様。俺は夜の中を立っていた。

 だが、場所は変わった。

 自然の恵みは全て禿げ上がり、枯渇したかのような岩肌ばかりの地。


 何だろう。遠くから悲鳴が幾重にも重なって届いた。

 悲鳴と……それをエンターテインメント宜しく楽しんでいる狂笑。


(あ……)


 知らない場所にて尋常でない雰囲気。「不安になるな」というほうがオカシイってもの。

 でもそれは、ある者・・・を目にして薄れていった。知った顔がいるというのは、ありがたい。


(エメロー……えっ?)


 エメロード・ファニ・アルファリカ。

 我が《山本小隊》が誇る現慮系お嬢様。


 気を惹かれてしまったのは、おおよそヨゴレとは無縁そうなエメロードの顏に泥の痕が飛び散っていたこと。

 舞った砂ぼこりが張り付いたか、普段雪のように白い肌は茶色くこけていた。

 もう一つ。

 どこぞハイファンタジーラノベの王国に出てきそうなお姫様が着るようなドレス……が、ボロボロに汚れ、裂け、朽ちていた。

 

(ど、どうした。エメロード?)


 更に・・……むせび泣いていた・・・・・・・・

 

(何があったかは分からない。けど……可哀想に……)


 これが一番胸に来た。

 嗚咽を挙げながら、ポツンと、俺の前に立っていた。


(大丈夫かエメロード。誰にやられた? いや、そんなことはいい)


 聞きだしたい。

 が、これが《視界ジャック》であることを俺は知っている。

 いつもは、俺がどれほど心に念じ話しかけたいと思っても、この視界の持ち主の肉体は応えてくれない。


(もう安心していいエメロード)

―ご安心くださいエメロード様―


 が、今回ばかりは状況が状況というのも、あるかもしれない。

 俺が念じたセリフと、まったく同じセリフを、視界の主は口にした。


 であれば、視界の主もエメロードの事をいたわろうとしているのが伺えた。


 一歩、また一歩、エメロードとの距離は詰まっていく。

 声を聴くに、視界の主は努めて穏やかに呼びかけながら、エメロードにゆっくりと近づいていく。


(……っと? ちょっと待て……)


―私が来た以上、エメロード様の身の安全は……―


(オイ、待て。待てェ! 視界の主のテメェ、一体何した後なんだこの手は・・・・・・・・・・・・・!?)


 安堵は出来なかった。

 確かに声色は柔らか。だが……近づきながら……朱に染まった右掌を・・・・・・・・・、エメロードに伸ばして……


―必ずお守りいたしま……―

―ッツゥ!? 来ないでっ・・・・・!? バケモノ・・・・ォォォォ!?―


 指先が触れるまで一寸と言ったところ。

 全身の力をフルに声に注入し、吐き絞り出したような。


(がぁっ!?)


 ガツンと、その拒絶に頭を勝ち割られたような……だけじゃない。


 エメロードがぶつけた相手は、俺がジャックする視界の主に対してのはず。

 なのに、この俺の、胸を貫かれたような痛みは一体?


 此度こたびは視界が白黒に明滅していく。


―……誰か、アルファリカ嬢・・・・・・・を介抱してやってくれ―


 景色は失われる。が、声だけは聞こえた。

 ……視界ジャック先、視界の主が今のセリフを口にした時の気持ちが、俺にはわかってしまうような。


 無情感。寂しさ。


 だって今、俺はその感情イロを胸に感じているもの。


(エメロード様からアルファリカ嬢……ね?)


 そしてね?

 エメロードが視界の主を拒絶したように・・・・・・・・・・・・・・・・・・視界の主の心が・・・・・・・エメロードから離れた・・・・・・・・・・のも、俺は感じ取ってしまった。


――劇的すぎるワンシーン。


「……ツゥッ……グウゥゥッ!」


 何度も襲った頭痛。最後の強すぎる痛みが、


「……ふぅ」


(戻った……)


 視界ジャックの終わりを告げた。

 ギュッと瞑った目を、溜息とともにゆっくり開ける。


(視界ジャック。これまで見せつけられてきたのは、トリスクトさんを殺しかけた場面。そして今度はエメロード……)


「三縞校文化祭時は、知らない誰かの記憶を見てるものとも思っていた。だが、この肉体はそもそも、《記憶をなくす前の本来の俺》のもの。だったら……」


(今の景色は、《記憶をなくす前の本来の俺》のものなのか? あり得ないはず。視界の主は、確かオッサンで……)


「山もっちゃん!?」

「……おん?」

「大丈夫ですか?」

「めちゃくちゃ苦しそうだったが」

 

 考え込んでしまって、呼びかけが現実に呼び戻した。


(そうだ。まだ作戦活動中だった)


「悪ぃな海姫。一回、俺に向かって力を使ってくんね?」

「えっ?」

「返り血とか手とか。いっぺん洗い流したい。仮面は今は脱げないけど。水の精霊と契約したお前の力でヒヤッコ〜イして、サッパリしたい」


 気持ちも新たに、活動を再開したいじゃないか。


「ありがとな。多分俺が堕ちるのを・・・・・・・・・海姫が止めてくれた・・・・・・・・・


 海姫は、ぐしぐしと袖口で目周りを何度も擦る。擦った側の腕を伸ばし、俺に掌をかざした。

 瞳は、さっきより赤く腫れ上がっていた。


「心配させないでよ」

 

 声は震えていて、俺にはうまく聞き取れない。

 でも、良かった。


「バカ」

「ハッ、とっくにご存知なんだろう?」


 今度はちゃんと聞き取れた。

 少しだけ笑みも取り戻していた。

 んでもってね、突如海姫の掌から大水流が召喚され、返り血どころか俺の身体ごと押し流したのはその3秒後。


「さぁて? 水も滴るいい男になったとこで、気ぃ取り直して行きますか!」


 季節はもう冬。

 ザッパァン水被ってうんげー寒い……ってぇこともない。

 命のやり取りに高ぶった熱をクールダウンさせるにゃ完璧だった。


(大丈夫だよ。一時間半も今の活動してりゃ服だってきっと乾くさ)


「屋上階に取り残された要救助者を、多くの建物で確認した。地上班、屋上班に分かれたいと思う」

「最短距離で屋上階。なら、中に入って階段エレベーターじゃなさそうだ。壁伝いに直接迎える奴ぁ……」

「「「行けるよ! /他に方法がないなら! /当然じゃない!?!」」」

「流石、《オペラ》といったところか。だそうだ山ちゃん」

「うっし!」


 作戦に更新が入る。

 理解に努め、自分な中で俺の言った内容を消化し、《オペラ》に伝えるヒジキの頼もしさよ。

 一言で断言する《オペラ》の心強さよ。


「俺には屋上に直接行く力はない。先程現れた助力達と共に、ヒジキ班としてこのまま地上の《アンインバイテッド》駆逐活動と生存者の捜索、保護を継続する」

「頼んだヒジキ。で、木之本さん!?」

【ハイっ!?】

「屋上にまで監視カメラがあるビルは少ないと思う。ケアはしてほしいが、引き続きビル内の監視カメラ映像に集中。建物内で生存者発見次第、ヒジキに情報をっ!」

【わかっています!】


(まさか三縞校以外で、こんなこと思える人間関係ができるとは思わなかった)


「じゃあもっぺんだ……お願いします! 散っ!?」

「「「「ご武運をっ! /また無茶したら許さないから! /やっぱ山もっちゃん《オペラ》に欲しぃ~!? /皆あまり気負うなよ!?」」」」


《山本小隊(カッコカリ)》としちゃ二度目の散開。

 離れて行く皆の背中を眺めるだけで、何かこそばゆかった。


「おかしいよマジ。参ったねどうも」


 俺はサブカル好きで、特にチーレム物が大好物。


 唯我独尊俺TSUEEEE! 

 俺さえいれば万事オーケー。

 森羅万象俺中心。

 世界は俺のためにあるっ!?


 富も名声も女の子も全部俺だけの独り占め。

 俺が俺が〜……ってな?


「改めて、やっぱ俺には、そんな生き方は無理らしい」


 所詮はモブ散らかした俺だぁ。

 主人公なんざ、分不相応すぎる立場だし、何よりそれだけの力には届かない自負がある。

 それに、チーレム主人公とは決定的に大きな違いがあることを思い知らされた。


(やっぱ俺、雑魚ぉ。いつも誰かが傍にいて、一緒に群れてなきゃ駄目なんだ)


 強いのは力に、孤独耐性もあるからかもしれない。

 だからチーレム主人公は一見して周囲に囲まれながら、何処か孤高を感じさせる。


 一人で何でも出来てしまうし、最悪一人だけで生きてしまえる。


(俺なんざ、常に誰かに助けられなきゃやっていけない)


「でもね? 結構、気分は良かったりする」


 自分で自分を諦めようとしたとき、道を外しそうな時、怒ってくれる奴がいる。泣いてくれる奴がいる。諭してくれる奴もいる。


(別に主人公みたいにスポットライト浴びて目立たなくてもいい。俺にはチーレムするだけの力は無いけれど、いい仲間にゃ、恵まれたのかな?)


 突出した力への憧れを捨てたわけじゃない。

 でも、お手て繋いで仲良しこよし。今は……そちらのほうが有り難かったりする。


 皆と力を合わせて困難を打破する。

 協力して何かを作り上げる。


 確かに俺に取ってはそっちの方が性に合ってる気がするし、何より、尊いような気がした。



「それらしいこと言って何とか分かってくれたみたいだが。悪いなぁ山ちゃん。でもお前にはやっぱり殺してもらう。ただ、こんなくだらないことで初めてを捨てるなよ。どうせ捨てるなら、大舞台で捧げた方がメモリアルになると思わないか?」


 通信は切っている。


「人生一度の初めてを、誰の為に捧げるか。捧げられた奴が、山ちゃんの所有権に覇を唱えられる。安心しろよ。俺も男色の気はないから」


 ヒジキは地上から……


「お前が望むように、お前好みの女を用意した。お前が自分から『初めての殺しを捧げさせてくれ』と願い出たくなるほどのいい女をな」


 空に消えてった一徹を探すように天を仰いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る