テストテストテスト133

「って? 急に手なんか握っちゃって、(ど)うした海姫?」


 数えきれない悲鳴は上がる。

 周波数の高いサイレンに纏いて良く天にまで延び、拡散していく。

 人々は逃げ惑う。どこが安全とも知れないのに、ただただ向かう方向に邪魔と思いきや押しのいてしまう。

 なんと醜いことか。それはなんとしても生き延びようという、燃やす命の煌めきにも違いないから、一方で失わせてはならない純粋な美しさも思わせる。


「うしたじゃないわよ。アンタは逃げなきゃ!?」


(ハハ、まさか、カミングアウトがこのタイミングになろうとはねぇ)


「アンタが幾ら陛下の招待で桐京校の客員臨時訓練生だったとしても、無力無能には違いない。そしてここからは異能力者の領域。なら私たちはアンタも守る・・・・・・・・・・。なんとしてでもよ!?」


 《転召脅威》の発生。死の代名詞、《アンインバイテッド》が、《ホール》を持って異空間を突き破りこの世界に転召され、縦横無尽に行進を見せる惨劇。

 田舎ぁな三縞市も皇都桐京も変わらない。

 寧ろ桐京の方が人口も多いこともあって、パニックの度合いは三縞よりも酷いものだ。


(Aランクプラス訓練生ばかりしかいないからだろうな。こんな状況でなお、俺達だけは冷静でいられるのは)


「私がアンタを安全なところまで送ってあげる。急いでっ!?」


(ちょっと勿体なかったかにゃ? こういう状況だからこそ、海姫も今まで見せてたことないくらい俺に優しい。でも……)


「いつまでもその優しさに浸って悦に入るわけにも行かないか」

「えっ、アンタ何を……」


 ホラ、見た目だけは超絶美人だから、つないだ手を千切るのは残念無念。


「なんで、手を、離すのよ?」


 でもね、今にも心臓ショックで死にそうな恐怖顔に張り付かせて疾走する避難員達をおざなりに、


「ねぇなんで……無力無能なくせに、この状況で落ち着き払えているわけ?」


 Aランクプラス訓練生ばかりの内輪だけで盛り上がるわけには行かなかった。


「……状況は・・・?」

「「「「「「ッツゥ!?」」」」」」


 たった一言呟く。

 瞬間で、まちまちの表情だ。


 亀蛇さんは神妙な顏を俺に。陸華は真剣な顔で見つめてきた。

 木之元さんは気まずそうな表情で俺から目を背ける。ヒジキなんざ思い切りため息をついてその場にしゃがみ込む。


(海姫。やめてくれ。いつも傲岸不遜なお嬢様は、そんな顔しないだろうが)


 海姫は、心苦しそうな色貌に現れてる。


「実際、良くありません。悪すぎると言っていい」

「木之元さん」

「数日前の全国で同時多発的に発生した《転召脅威》は、沈静化したとも思われましたが、ここにきて盛り返してきました。そして皇都桐京ですが……」


 その中で第一声は木之元さんだった。


「かなり広範囲で発生しています。23区だけでない。都下まで」


 手元の学院支給の端末をみて口にした。やがてその画面を俺に向かって見せる。

 ハザードマップというわけではなさそうだが、桐京都全体図の中で赤点を幾つも存在していた。

 そこが《転召脅威》発生点なのだろう。


(普通に、金座きんざやら植野うえの、このアラハバキにも赤丸が付いている件について)


「皇最側近の見立てが聞きたい。皇都は土着退魔として関東退魔頭領、蓮静院退魔一派が守護しているはず。だけじゃない。正規魔装士官及び、第一魔装士官学院も存在する」


(各勢力を《転召脅威》の当て馬とした場合、この状況はそれでもマズすぎるのか?)


 最後まで口にしない。心に浮かべたのみ。


「これが都内の一か所だけの問題なら、戦力を集中投入してすぐに解決したでしょう。でもこれだけ広範囲だと戦力は分散されます。このアラハバキを一例にすると、分散された戦力では即時解決とは行かないでしょう」


 しかし、口にした問いを一とするなら、俺の心内まで組んで、木之元さんは10で返してきた。


「官軍が燦然さんぜんと現れて問題を解決するのを指くわえて待つってわけにはいかんようや。のう、山ちゃん?」

「はいな?」


 その話を聞いて、再び思いっきりため息ついたヒジキは脚に力籠め立ち上がる。


「これからワイは、山ちゃんをどの肩書と見たて話すべきやと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思う・・?」

「ん……」

肩書によっちゃ話す内容が変わる・・・・・・・・・・・・・・・守るべき存在か・・・・・・・。それとも……肩を並べ命預ける存在か・・・・・・・・・・・

「……だぁなぁ。悪いね。こんな死地に置いちゃ、仔細すら気掛かりが合っちゃいけないってのに」

「ええよ。とんでもなく鬼畜なこと言ってる自覚もある。最悪ワイは、親友を死なせるんや」

「ハッ! 安心しなさいよぉ。百歩、千歩、億歩譲っても……お前が俺と親友とか、釣り合わないんだからね?」

「ククッ、やっぱえぇのぅ山ちゃん。こんな時でなお、冗談を飛ばせるかよ」


 ヒジキは呆れた、疲れた顔で笑う。でも、サムズアップは見せてくれた。


「ちょっと待ちなさい! 皆待って!?」


 いけないね海姫。いい感じに場は纏まったってのに、今、割って入るのは空気が読めないと思うのよ。たとえそれが……


「なんで、どうしてよ。陸華、木之元さん……どうして止めないのよ!?」

「「クゥッ」」

「何をあたかも、同じ立場で話進んでいるのが当たり前のように……どれだけ危険か分かってるはず。いくらこんなバカでもねぇ、死んだら寝覚めが悪……」

「海姫?」

「うっ」

「あ・り・が・と♡」

「うつぅっ!?」


 俺の命を案じてくれて出張ってくれたのだとしても。


「なら、ええんやな。山ちゃん」


 俺が何も返さなくても、感じ入って一瞬頭をヒジキが下げたのは、ガッカリかあきらめの境地かもしれん。

 でも、心内、わかってくれたかよ。


恥ずかしいはじゅかちぃから口には絶対に出せないけんども、友達の中でも、滅茶苦茶深いレベルにまでなっちゃったかね)


「今、この場にゃ各魔装士官学院において現役小隊長職・・・・・・・・・・・・・・・・が二人おる・・・・・


 一言に、納得できないと俯いた海姫はビクッと身体を震わせた。


「せやけど正直、その場の戦力を一瞬で取りまとめ、実運用に回すだけの差配力と経験はワイにはない。あくまで付き合い長い小隊員くらいしか指示できひん」


 びくりと震わせて以降、そのままブルブルと力籠めて震えている。

 その、震えも……


貴官に任せて宜しいか・・・・・・・・・・? 第三魔装士官学院三縞校・・・・・・・・・・・三年三組・・・・山本小隊隊長・・・・・・山本一徹訓練生・・・・・・・

「…………え…………?」

「ポジショニングに取られる時間も馬鹿馬鹿しい。僭越ながら、ご指名なら仕切らせてもらう・・・・・・・・

「……いつもなら「俺なんぞ」と謙遜する。こういう時に、本性が出るかよ」

「なんだ?」

「スマナイ。気にしないでくれ」


 海姫は、止まった。


「異論がないなら早速話を進めて構わないな」


 いや、いつまでも気に取られるべきじゃない。

 託された以上、やるしかない。

 

「山本さん」

「木之元さん?」

「バックアップは私に任せてください。まずはアラハバキの状況、しかと逐一共有させていただきます」

「凄くありがたい。情報の共有は全員に。指示系統は俺が行う」

「承知しました」


 不幸中の幸いかもしれない。

 入り組んだ皇都は見通しが悪い。早く、細やかに情報を掴み取るのは難しかった。

 この状況でなお、そのハンディキャップを物ともしない、情報収集における確かな自信を見せた木之本さんが頼もしくてしょうがない。


「今だけは呼び捨てで行かせてもらう。空麗くれい

「ハイッ」

「陸華」

「うん!」

「アラハバキ駅昭和通り口に急行。半径500メートルを主に、防衛線を展開っ」

「「了解っ!」」


(これで3人……)


「海姫」

「え……なに……この展か……」


 良くないね。

 すでに戦場になっていると言うに。

 レベル高すぎて終ってるハイエンデな連中だ。万が一の不意打ちにあっても助けてくれるかもしれない。

 

「高虎海姫訓練生っ!?」

「っ!?」


 呆然とした海姫の意識を、俺は昂ぶってでも無理矢理俺に向けさせなければならなかった。

 本来この状況に失意に堕ちたいのは避難員らのはず。無力無能者にとっては、食われるか逃げるかしか選択肢がないから。

 一端でも抗える力のある奴は、その手前、この状況でのフリーズは許されない。


「電気街口周辺、メインストリートに続く道2本。頼めるな?」

「りょう……かい……」


(それでいい)


「メインストリート、御菓子町植野おかしまちうえのへと続く……1キロ半。ヒジキ」

「任されよう」

「メインストリートに沿った裏通り、雑居ビル街は俺が受け持つ」


 これでこの場全員に役割が生まれた。

 あとは目的に沿って存分に働いてもらうのみである。


「いいかっ! 俺達の目的は避難員の護衛にて討伐じゃない! 交戦は最小限に、より多くの避難員を守ることだけを考えろ!」


 まずは大枠で指示を与える。

 細かい頼みは追って伝えるのが良いだろうか。


(あとは、そうだな……)


「銀色まんじゅう! 別身わけみは……」

「チュウ!」  


 勿論相棒への指示も忘れない。

 呼びかけた瞬間、銀色マンジュウ地面に向かって俺の身体から飛びおりる。着地した途端に広がり、銀溜まりを作った。

 そこから、何本もの銀柱が生えだして……


「25体が、今日までの限界ね」


(だが、どんどん増やせてこれてる)


 程なく柱は、コスプレし、先のサバゲーで弾が目に入らぬようにと被った仮面そのままな俺の分身に姿を変える。


「分身は《アンインバイテッド》用のデコイと避難員誘導にアラハバキで散らす」


(これで準備はととのった)


「この街の中心にしてマークタワーなアラハバキ駅を、緊急避難地点に設定する。《オペラ》三人はテリトリー内に避難員を引き入れつつ、侵攻してくる《アンインバイテッド》を阻止! で、ヒジキ!」

「おうよ!」

「《アンインバイテッド》と交戦、牽制しつつ、メインストリートから避難員を駅方面に誘導!」

「並行して通る裏通りの避難員は、山ちゃんが掻き出してメインストリートに寄越せ! 俺が引き継いで駅へと連れて行く!」


(ハッ、さっすが、よくわかってる)


「バケツリレーだと思ってくれ。自らのテリトリーに入った避難員を、駅に近くなるごとの担当に引き渡す。どうだ?」


 さぁ、これほど言えば、ある程度意思の共有は出来るだろうか。


「まずは別身、行けッ」

「「「「「ちゅうっ!?」」」」」


 一声。反応し、25体の俺に象った銀分身が縦横無尽だか四方八方だか散っていく。


(んじゃ、ま、俺も……始めますか)


 自身の身体を分割し、25体の俺の分身を作った銀色マンジュウはパチンコ玉レベル前で小さい。でも、問題ないことは理解していた。


「問題ありますか? 相棒さん」

「チュッ! チュチュチュ!?」


 スーパーボウルの様に跳ね、地面から俺の手に跳び戻ってきた相棒の気合が頼もしい。

 「あぁん? テメッ、まさかそれ俺に言ってんのかベランメェ」って言いたいのか。掌に乗ったパチンコ玉大は一気にボーリング玉サイズに増幅した。


 そうして……


「変態! 銀色マンジュウ! モード……大戦斧!」

「ンヂュッ!?」


 言葉ともに、瞬で大戦斧に自身を形成させる……だけで終わらない。


「重ね! モード! クロムストレングス!?」

「GAZHAAAAAAAAAAAA!」


(いい。銀色マンジュウも本気に成った入った


 手に握る大戦斧の形はそのままに。

 握りしめる柄部分から、銀のトロトロが腕に纏わりつく。

 そのまま、上半身をまるでチェストアーマー宜しく覆い尽くして、そしてその背中からは……


「こ、こら……驚いた……」

「嘘……でしょ? 一体、何形態に同時変態して……」

「あり得ませんわ。武器形態。ブレストプレート。分身体は25体の同時操作など……脳が焼け付く。ましてや背中には……?」


 数本、銛先宜しく尖った先端の触手。 


「徹……ここまで……」

「あぁ、本気モードでの山もっちゃんの《転召脅威》作戦活動、初めて見るな。一緒に戦える。楽しみ……だけど、また・・壊れちゃうのかな・・・・・・・・


(あ~あ、昨日が桐京校通学最終日だからって、パワードスーツ返却しなきゃよかったな。ま、クロムストレングスについちゃ試してみるしかないねどうも)


「今日だけは、年度末の競技会について忘れよう。第一学院桐京校、第二学院貴桜都校、第三学院三縞校、学院こそ違うものの、俺達は同じ使命を持った同志」


 言葉を連ねる、が、銀色マンジュウは既に動き始めていた。


「頼む……お前たちの力が必要だ・・・・・・・・・・

「「「「「ッツ!?」」」」」


 背中から生えた触手を鋭く天高く突きのばした。


「全力で……守るぞ」


 ビィンと、伸びてたわんで……張った触手の音が聞こえた。

 どこかビルの壁に触手の先端を穿ち、俺の体重に耐えられるか否か、銀色マンジュウが確認したのだと確信した。

 ならば……


「行くぞ! 混成部隊! 山本小隊(カッコカリ)! これより状況を……開始する!」

「「「「「了解ッ!」」」」」


 解き放つ。

 それと同時に、天に向かって触手伸ばした銀色マンジュウは俺の身体を引き上げて、皆が返した回答、俺は、地上数メートルの高さ、滞空しながら視認した。

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