てすとてすとてすと132

 アラハバキと言えば食事は何が思い浮かぶもんだろうか。


(エネルギーを摂取するのだ俺)


 大前提、この街はサブカル好きの聖地、戦場。

 折角来たからには興味ある店を踏破し、心躍るグッズを手に入れたい。品切れなら見つかるまで探して回る。

 ゆえにエネルギーはマスト。


「……のはずなのに、なんでや山ちゃん。見損なったで」

「今回ばかりは土下座して謝りたいわヒジキ。激しくゴメン」

「まずは馬郎ラーメンあるやん!?」

「野菜大蒜マシマシアブラカラメだろ?」

「横破魔宅系ラーメンかて!?」

「濃いめ多め硬めな?」

「ナポレオンスパゲッチィやって」

「サイズで値段変わらん店もあるらしいね? 粉チーズかけ放題は男のロマンだ」

「カレーに豚丼、炭水化物と肉。この街の正しいグルメのはずなんや!」

「んなこたぁわかってる」

「じゃあなんだって今、ワイらはサラダバイキングの前に立っとんの!?」

「致し方ないじゃない。朝飯食ったケバブ効いて、サッパリしたもの食べたいとは、自称ヒロインたちのご要望だ」 

「あんなのオヤツやん!」


 シティホテル、オサレヘルシービュッフェレストランに入っとります。

 肉を大豆加工品で作った代替肉。麺類も豆腐や湯葉的な何かを加工したものばかり。


「もれなく超絶賛美少女たちとホテル入れたとこまで大勝利や。でも、用途がへるしぃランチとか……」

「ま、せめてバイキング店に入るの許してもらえただけ感謝しようぜ? 『一杯食うことは許してやる』だって。カロリー気にする女子達からの最大限の譲歩だそうだ」

「ヘルシーフードなんて腹一杯食っても光の速さで消化されるっちゅうねん。チャーシュー麵大盛味濃いめ油多め麺硬め大チャマックス、大ライス、海苔、ほうれん草レンソウトッピング喰いたかった」

「クカカッ、わかってるじゃねぇか」


 チラリ女子群を見やる。

 カロリー抑えめで料理の品種も多いからか、《オペラ》連中が楽しげなのは良かったかもしんない。


「で、何しとんのやシキは? 自席でふんぞり返ってからに」

「『私の食す分を取って来い』だとか。『女の子気遣うセンス問われるよ?』なんて言われてもね」

「キーッ! ホンマ何様やねんあのアマ。何や自分がこの国の女皇陛下とも勘違いしとるんちゃうんか!?」


(ちょっとだけ鋭いねヒジキも)


「お? どしてん山ちゃん」

「な、なんでもないですよ?」


 憤慨はビンゴである。

 変装したシキの正体を、冗談でも言って見せたのだから。

 ヒジキと横並びになってサラダを皿によそうなか、的射すぎて慌て、野菜類をこぼしそうになった。


(ヒジキ以外の全員とは口裏合わせて、シキがお忍びでアラハバキに立ってるわけだからな)


「せや、その仕事ワイに任せてくれへん?」

「ど~ゆ~風の吹きまわしだ?」

「意趣返ししたる。あの女の見た目見まして、嫌いそうなの全てモリモリにしたる」

「お前さん、運ぶ俺の身にもなって見ろよ」

「ええから♡」


 おっとヒジキさん、ニシシウシシな笑みには、悪意混じってる。

 

「「おまちどうさん」」

「待ちくたびれたよ。この私を飢え死にさせる気かね? フゥン、どれどれ?」


 それから数分掛かりでヒジキが選んだ皿二枚の料理盛り合わせ。

 一枚を俺が、もう一枚をヒジキが運んでいった。


「……一徹君」

「なんだよ」

「よく選ばれてる。ってかセンス良すぎ。食材が野菜系や非動物性食品で代替されてるのは別として、料理自体は全部私が好きなのばかり」


 嬉しい誤算だ。見るなりパァっと目ぇ輝かせやがる。


「ヤバいね。私への理解深すぎじゃない? ここまでわかり会ってるならもう、私たちくっついちゃう?」

「ん゛、ん゛ん゛!」


 「アホ言ってんじゃない」とばかりにタマタマゆらゆらが咳ばらいを立ててくれた。

 だがシキが少しだけ機嫌を良くしてくれたことに俺も一安心。

 アラハバキは、美少女より同好の士と歩くのがいっちゃんおもろい。ゆえ、おざなりだったシキは、料理を持ってくるまで不満げだった。


「んじゃこっちはヒジキチョイスや。ボナペティートォ♪」


 どこぞの言葉で「召し上がれ」とは、後に続いて皿を出したヒジキ。

 

「は? 帰れセンス無し野郎」

「料理やのうて、ワイが持って来たから言ってんと違う?」

「んなわけないから。全部私が嫌いな物ばかりじゃない。女子の好みも把握しない唐変木は、女子と行動する場にお呼びじゃないんですぅ」

「ど、毒盛ったろか」

「やめろっつーのよ。これで何度目だ?」


 本当に水と油の二人だ。

 俺が差し出した料理だって元はヒジキがよそった分。皿を取り違えて出してたら、少しは仲良くなれただろうか?


(なかなかどうして巡り合わせの悪い奴)


――カロリー少ないから量で勝負。しかし消化速いから何度ビュッフェと席を往復したか。


「ヒジキってどんな奴?」

「ホント毛嫌いヤバいのな。権力かざして終わらせんな?」

「乱用ってこと? しないよ。私だって自制できるし、なによりあんな奴にかざしたら私の権力が汚れる」

「おい」


 「離れたとこで食事しろ」とシキに突っぱねられたことで、ヒジキは同じテーブルでもかなり遠いところで飯食ってる。

 タマタマゆらゆらはヒジキと関わろうとしない。空麗も同様。

 海姫に関しちゃ眼中にないのか、一瞥もしない。

 

(……こういう時って美少女って、恐しかぁ)


 いいじゃない。なんならヒジキは人当たりは良い。

 陰キャな俺が羨ましく思うくらいの陽キャでコミュ力グンバツ。

 「せっかく一緒に行動してるんだし、仲良くしようぜ」が通じない。


 なんなら女子たちの容姿が凄すぎるから、どことなくヒジキが悪い奴にも見える。DQNがナンパしてる的な(ヒジキなら息するようにやりかねないが)。


(俺は友達が少ない。フレンドリーに話しかけられりゃ尻尾振って喜ぶけどな。『僕にも友達が出来た』って) 


 なお、その中で一番光るのは陸華だ。陽キャ同士、結構話は合うらしい。

 ちな、他人の振りをしようとした解人君は、ヒジキに首根っこを掴まれ、無理やり会話に参加させられていた。


「いーの? 黙って奴が他の女の子と盛り上がってるの眺めて」

「なんで?」

「こーやって一徹君にベッタリな女の子が、一人ずつあの性欲ゴリラに奪われていく。まずはノリのいい竜胆から。やがて毛嫌いしていた高虎とか亀蛇。最終的に、この私までも」

「……今、確信したことがある」

「何?」

「お前は、連れ立ってアバキのエロ漫画ゾーン入っても大丈夫そうだ。NTRあるある詳しすぎだろ?」

「そりゃそうでしょ。三縞校文化祭期間中、私が忍び込んだ一徹君の部屋で発掘したお宝で学んだんだから」

「ハハ。世が世なら女皇陛下に良くない影響を与えたとして処刑されるレベルだ」

「の割には随分フラットじゃない?」

「《誇り高き女皇陛下の裏の顔》ってのに慣れたんだよ」

「なんか、セクシー突き抜けた現代視覚作品のパッケージに題名として書かれてそうなこと言ったね」

「ハハ。ま、でもね……俺ぁ、恋愛は諦めたっちゅうことで・・・・・・・・・・・・・


 そんな中で俺達もコソコソ話。


「話を戻すか。初めて会ったわけじゃないだろ? 全学院生徒会長の集いに、貴桜都校会長の護衛として来てた」

「覚えてるけど話してないし」

「今日話して見たら一気に嫌いになった?」

「だってアイツことあるごとに失礼するんだよ? まるで遠慮なし」


 シキさん。コソコソ話するなら殺気漲らせた目でヒジキ見るのは辞めなさい。


「結構なことじゃない。お前さん、普段から皇ゆえの立場の遠さを感じたくないって言ってたろ。忖度無しの付き合い、お前が本来望んで……」

「奴はその限りじゃない。礼儀くらい有っていい。しかもよりによって一徹君を取り合う相手だ」

「お前にとって俺って、どれほどのもんだってのよ? (カッコワラ)だよカッコワラ。草生えるわ」


 礼儀ってなら俺だって弁えてない。

 何なら今、くちゃくちゃ言いながらしゃべってる。


「良い奴だよ」

「一徹君の主観だ」

「何事も主観より客観性。今の場合、シキの主観より俺の主観シキの客観が優先されるべき。気のいい奴。桐京校文化祭での《転召脅威》でも出張ってくれた」

「うわ、私アイツに恩あんの? 認めたくないんですけど」

「素直じゃないねどうも」


 どうでもいいが、俺が何度となく料理を取りに、立ったり座ったりしているもんだから。その度箸を俺の皿に伸ばしてスティールしやがります。

 なんなら俺からシキに「どんな了見」って聞きたいくらい。


「多分Aランク以上。プラス付き」

「へぇ? なかなかだ」

「下手するとSランクにも届くかも」

「Aランクプラスなら、《アンインバイテッド》第二形態を単体で倒し切る。そこの《オペラ》と同じさ。それを、超える?」

「桐京校文化祭。第二形態亜種の出現にたじろがない。第三形態に進化しかけたソレの外殻を、奴ぁ遠距離異能力射出一発で弾けさせた」

「S……だね。ちょっとおかしい。年度末の競技会に向け、各学院の戦力分析と要注意人物のマークには余念がない。でもヒジキなんて聞いたこと無い」

「当然だろ。ヒジキはあだ名だ。ちゃんと名前はあるっての」

「名前は?」

「だから、折角今日行動してるんだから互いに自己紹介して見ろって。そこから仲良くなって……」

「あぁ、それ、ヤダ。無理」

「せ、生理的嫌悪。寧ろヒジキの方が可哀想になってくる」


 ただ、Sランクを匂わされた瞬間、シキは急に真剣になってヒジキを見やった。


(なるほど。シキも第一学院の生徒会長。優勝狙うなら気になるか)


「お前さんはあの時の戦闘映像持ってるだろ? 奴は俺と一緒にいたはずなのに、気づかなかったのか?」

「ホラ、私の場合基本強すぎる愛情から、一徹君以外アウトオブ眼中だったから」

「どこまで本気なんだか」

「わりかし本気」

「じゃ、10割冗談ってこったな」

「なんでそうなるの」


 ただ、冗談も続けていくうち真剣な顔は溶けていく。ストーンとチョップを軽めに喰らってしまった。


「っとぉ? タイムズアーップ」


 そんなところでシキの携帯端末がなる。嫌そうな顔しやがった。


「行くのか?」

「行かなきゃ。せめて駅までは送ってくれるよね?」

「皇なら、高級車の一台も迎えに来ていい」

「ん~……それじゃ学生のデートっぽくないでしょ?」


 席を立ちあがる。座る俺にニヤッと歯を見せ見下ろしてきやがった。


「そしてこれはデートじゃねぇ」

「君も焦らすね本当」

「わけわかめ」


 シキが立ち上がったと同時、木之元さん、《オペラ》が立ち上がる。

 立ち上がらないのは俺と、シキが女皇だと知らないヒジキだけだ。


「あ、いいよネネ。今日くらい目いっぱい楽しみなよ。私がいるとどうしてもネネから一徹君を奪っちゃうから」


 さっそくシキに近づくネネ。


「せいぜいのいぬ間にしっかり一徹君を墜としちゃって? ネネが突き、ネネがコネ、私が喰らう的な」


 しかしその様に、ニヤニヤ顔で言われて立ち尽くした。


「んじゃ、飯も食ったし、皆でアラハバキ駅まで送ろっかね?」

「だから、どうせ送るってなら二人きりって……話わかんない奴だね一徹君も」

「僕の桐桜華語は怪しい」

「……知ってたよ」

「安心して山本君。私と解人様が付いていく。この後のシキの予定には私たちも加わる予定だもの」

「あ、ハイ」

「そうなの? んじゃ、ヨロ」


 今日のとこ、ヒジキ離脱。

 タマタマゆらゆらと、解人君に腕引かれるまま改札を抜けたシキは、「次こそ二人で遊ぶよ」と念には念を入れてきたが、


(……恋愛とかじゃ、ゆめゆめ無いね)


 果たしてどんな思惑があってそんなことを言っているかは謎だ。


 おいおい、「女皇がパンピーに」とか、ラノベも過ぎる自意識過剰め、何上から目線で言ってやがるとも言われそうだけど。

 ただ、改めてそういうのとは違う。

 シキからは、トリスクトさんやシャ・・・・・・・・・・リエールから向けられ・・・・・・・・・・てきたの・・・・と同じものを感じない。



 そう、夕方のスケジュールに入るため離脱したのが、シキと一徹の本日の別れのはずだった。

 はず……だった。



 昼から夕方へと。


「これは……壮観だな」

「《対転脅》広報訓練生は、各学院のイケメン所と綺麗所を集めてますから」


 場所は皇都、大帝国ホテルの待機場。

 秘書官カラビエリを連れる有栖刻長官は、勢ぞろいした全学院の広報官訓練生を前に感嘆の息を付く。


「二人足らないようだが?」

貴桜華きょうと校の五日出聖ごのひでひじり訓練生から伝言です。『聖地、戦場。漢には何を投げうっても聖戦を走り切らなあかん時がある』だそうです。弓親静流ゆみちかしずる訓練生は不明です」

「最近の若いもんは分からん」


 ただ、完璧に出そろってないことに、今度は別の意味でため息をついた。


「それで配置の方ですが」

「むっ」

「中亜華国のエスコート役、貴桜都からの広報官が来ないため、ファランス国大使のエスコート兼護衛役、第三学院広報官の一人を付けたく思います」

「第三学院広報官。ルーリィ・セラス・トリスクト、シャリエール・オー・フランベルジュのどちらか。ではフランベルジュ教官の方を付けてくれ給え」

「第一学院桐京校は、玉響まゆら訓練生と蓮静院解人訓練生でアメリゴ合衆国を担当するように、各国にはそれぞれ学院広報訓練生二人で担当します。一人であると、見くびられているとも思うのでは?」

「先の二人は一人で二人以上の働きをする。10人、100人掛かりでも対等にならない程の実力の持ち主とは、よく耳に入るしな」

「かしこまりました」


 打診に了承を長官が見せる。


「それとは別に、気掛かりなことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「少しトリスクト訓練生、フランベルジュ教官を働かせすぎではないか。婚約者がいるという噂も聞く。果たしてちゃんと会えて……」


 チラッと話題に出た二人に有栖刻長官は目をやるも、カラビエリがジトっと見やるから言葉も途切れた。


「たかが一訓練生のプライベート如き、閣下が立ち入るまでもありません。それに、成人してるとは言え二十歳にも満たない女子訓練生のそのような話題、下手するとセクハラに捉えられかねません」


 言葉と視線で牽制したカラビエリ。長官の口を封殺すると、良く知る二人に近づいていく。


「話は決まった。フランベルジュは中亜華国、トリスクトはファランス国大使の担当でお願い」

「やる意味が分からない」

「どういうこと?」


 声を掛ける。早速の返答は乗り気でない、ルーリィは歯切れ悪かった。


「私もシャリエールも、この国のため広報の仕事を受けたわけじゃない」

「私たちの想いも、忠誠も、全ては一徹様のため。広報の仕事を受けたのだって、受けることで、間接的にも一徹様の評価を貶めない為でした」

「あら、国は彼に感謝してるはずよ? 彼がいるから貴女たち二人を使える・・・


 シャリエールも加勢するが、カラビエリは苦笑し肩をすくめるのみ。


「カラビエリ様!? 調整者の貴女が管理、維持と発展させるべきはこの国ではないでしょう!?」

「関係ないわけじゃないのよ? この国がいい感じで今後も行ってくれれば間接的に私たちのお腹も膨れる」


 3人の関係は、余人では有栖刻長官ですら知らない。

 ゆえ、食って掛かったシャリエールの叫びも声にまで至らない。


「一徹への国からの評価は全く変わっていないのを知っている。私たちを持ち上げ、他訓練生の評価も上がった。上がって上がって……上げた一徹を捨て去ろうと」

「三年三組以外、落ちこぼれ軍団だった三縞校全員はあたかも最初からエリートだったかのように演出して。そこに一徹様の貢献があったことを認めないのです」

「ならばこの仕事に一体何の意義がある。仮に評価されてたとして、効果がいい方向に一徹に跳ね返っていると、会えず確認もできない私たちには何の意味もない」


 声にならなくても、間違いなく魂からの叫びには違いない……のに……


「ぷっ……クク……アハッ♪ 言いたいことはそれだけ? 随分貧弱になったものねぇ」


 カラビエリは分かりやすく、あざけるように笑って見せた。

 シャリエールもルーリィだって凍り付いてしまう。


「やはり甘い世界に浸ってしまうと、貴女たちすら腑抜けてしまうのね。元の世界で貴女たちが一徹と織りなした物語に比べたら、この世界の出来事全て、ラブストーリーほど甘い展開ばかりなのに」


 秘められし関係。


「あ・の・ねぇ? 因果律を管理する調整者とするなら、《記憶を失う前の一徹》と貴女たちの関係性を本来私は注視しなくてはならないわけ。正直、《記憶を失った一徹》との間なんてどうでもいい」


 関係性は、この会話から見出すことが出来た。


「確かに今の一徹は《記憶を失った一徹》。貴女たちも知っている通り、《記憶を失う前の一徹》が猶予を与えた。笑わせないでくれない?」


 圧倒的な上位。カラビエリが、二人に対しマウントを取ることが出来るという事。


「猶予は《記憶を無くした一徹》との恋愛関係を発展させるものじゃない。『その想いすら断ち切れ』と。心の準備を整えるための制限時間なのだから」

「「ッツ!?」」


 絶句させられたルーリィ達にそっと顔を知被けたカラビエリは、


「そんなに《記憶を失った一徹》がいいなら、《記憶を失う前の一徹》はいらないわよね? なら一徹を殺していい? 貴女たちの手元に置いておくくらいなら、殺して、一徹の因果律をすぐにでも私のもとに置いておくの」


 ボソリと呟く。


「あでも、ヴァラシスィ様の中継が面倒ね」


 ゾクッともヒヤッともルーリィ達の背中に駆け巡る。


「綺麗ね二人とも」


 感情のこもらない笑みを浮かべ、カラビエリは優しく二人の頬に片手ずつ触れ、撫でる。

 恐怖しかもたらさない。


「さぁ、今日もしっかりと魅力を振りまいて頂戴? 一徹のためでない。この国の民らのため。情に駆られて変なことしないで? この世界にいる以上、全てはこの世界の因果律の流れゆるままに」


 これ以上は二人とも何も言えなかった。


『皆、待たせたようだ。集まってもらって感謝する。本日の会合は各国大使の接待も兼ねる。よろしく頼むよ』


 まるで話が終るのを待っていたかのように、控室に響くのは新たな声。


『女皇陛下がいらっしゃいました。皆さん気持ちを引き締めてください』


 別の呼びかけを聞くに、新たな声の主はこの国の女皇。

 シキ、もとい四季。

 桐桜華皇国現女皇、日輪弦状四季ひのわげんじょうしのすえ


「クッ」


 今、ルーリィとシャリエールが多くを聞き出したい存在。

 しかし、一瞬目が合ったかと思ったら、興味なさげにそらされてしまう。

 カラビエリに牽制された以上、突っかかることも出来なかった。



「ヤバい! メッチャ楽しかった!」

「たまに、はしゃぐのも悪くありませんわね」

「やっと気分が晴れてきたわよ。あー、お腹減った。夜だけどガッツリ行きたい」

「いま抑えたら確実に痩せてるよ海ちゃん」

「五月蠅いわよ陸華」

「普段事務作業ばかりだから、肉体活性無しはキツ」


 時刻的には、日が堕ちて少し経ったくらいでござんす。

 

「マジ、今日のお前冴えてるわヒジキ」

「抱かれたくなったやろ? って、嘘。嘘嘘。黙って賛辞を受けるから、『二度と俺に顔見せるな』表情やめぇ」


 場所はやはりアラハバキの雑居ビル。

 屋内型サバイバルゲーム(以下サバゲ―)フィールドで皆と遊んだ。

 装備品はサバゲ―フィールドで借りた。条件は肉体活性無し。

 ワイワイキャキャー、18歳の成人であることも忘れ、ガキの様にはしゃいた。


「アスレチック的でレクリエーション的でゲーム性あり。これなら女子共も楽しんでくれるって寸法か」


 ヒジキが連れてきてくれた。

 何が嬉しいって?

 起き抜けからご機嫌最悪な海姫も、やっと毒気の抜けた顔してくれてる。


「流石は全員訓練生や。BB弾当たって悲鳴上げるだけで抑えてくれたのがええ」

「防衛省付き学院の訓練生ってなら、も少し粘れても良かったんだが。相手チームにゃ全戦全敗かよ。15,6試合したのに」

「仕方ないんよ。あのチームはこのフィールドをホームとしてるようやから。隠れる場所もルートも全部把握しとる」

「ここは相手チームの領域。地の利は向こうさんにありか」


 俺達6人がフィールドインした時、ここを縄張りとする相手チーム(とっても気の良いお兄さん方でしたん)に声をかけられた。

 雑居ビル内、室内戦CQBフィールドとしてこの規模なら、敵味方合わせ10人ほどが丁度良かったのも、ゲームの楽しみに拍車をかけた。


「アンタら、余韻に浸ってないでさっさと着替えて。夕飯の店を探さなきゃ」

「えー? 夕飯は……腹減ったから良いとして……」

「着替えなあかん? 実はワイら二人結構気に入っとるんよこの格好」


 こう、浸ってるとき無粋なこと言う奴が、集団には決まって一人いますよね?

 海姫。

 俺達の発言に、怪訝な顔して眉潜めやがった。


「冗談辞めてよ。千歩譲ってもオタクとご飯行きたくないんだから」

「いや、昼飯行ったじゃん」

「コ・ス・プ・レ野郎と並び歩きたくないって言ってるの!?」


 ちな、僕はサバゲー以外にも楽しさ見出したものがあった。

 サバゲーという競技自体が非日常だからか、非日常をさらに演出させようとしているのか、このフィールド、コスプレも貸してくれた。

 大体何処かの軍服とかだが、ちょっと今、俺とヒジキが来ているコスチュームは……


「あぁ、また新たな自分に目覚めたキ・ブ……」


 FooooOOOOOOOOOnnN……


「「「「「ッツ!?」」」」」


 なぁんて……楽しい空気。

 はは、百年の恋にこの空気を上乗せしても一瞬で冷めてしまう。


「海ちゃん!? 空ちゃん!?」

「これって、まさかっ!?」

「ちょっと待ってください。このサイレンおかしいですわ」

「何だろ……幾重にも折り重なっているような……」

「お……イ? 山ちゃん?」


(あぁ、最悪だ……折角、楽しかったのに。クソッ)


 サイレンの意味。

 分かりみがふけぇ(意味不明)。

 思わず右手で両目を抑えてしまう。


「……《転召脅威》……」


 が、呟いた時、気づく。

 覆ってはいるが人差し指と中指の間、左目が来て隠れてなかった件……


 ☆


「それで《生徒会のウサギさん》は《編入生君》と最近どーなの?」

「またいきなりですね」

「気になるじゃん。最近、ネタだって提供してくれないし」

「ね、ネタ……『珍しく今日はオフだし、久しぶりにお茶でも』って誘ってくれたのはそういう事です?」

「《生徒会のウサギさん》と《編入生君》の恋の行方、結構評判いいんだよ?」


 冬季は日が短い。しかして夕飯にはまだ早い時間帯。

 仲の良いお友達として、魅卯とフウニャンは三縞市の細いせせらぎ沿いのカフェに入っていた。


「私たちのラジオ番組にもメッセージ来るもの。『二人の恋模様はどうなったんですか?』って」


 フゥニャンは今人気をほしいままにするカリスマモデル。

 現役大学生で、学生活動の一環とし大学ラジオサークルに所属。DJとして無償出演する自らの番組を、三縞市役所内のコミュニティラジオ局内に持っていた。


「始めは恋愛相談でお便り送ったわけじゃないのに」


 魅卯は以前からのリスナーだった。

 フウニャンのラジオ番組に一徹についての話を初めて投稿したとき、三縞校に編入する一徹を心配する、一徹の編入準備を支えた学生チューターの立場からだった。


「だから良いんじゃん。猶更いい」


 一徹にはルーリィという三縞市公認のカノジョがいる……と見られている。

 学院だけではなく町全体だ。ただ一人として、二人の関係を応援しない者はいない。

 でも、魅卯は一徹に恋をした。


「自然と、両想いが芽生えたんでしょー?」


 唯一、魅卯の恋を応援するのがフウニャンだ。

 誰も魅卯が一徹の事を好きになったと思わない。知ったとして「え? 皆が応援している空気感でお前マジか」となるに決まっていた。

 もしくは、「ないない。月城は無い。月城みたいな才媛が、一徹みたいなアホンダラを好きになるわけがない」となるかもしれない。


「ごめんなさいフウニャンさん。山本君自体が色々あって。なにも興味がある話が出来なさそうです。お茶に誘ったのは期待外れですか」

「ん~ん? それならそれで。月城さんとは単純に友達として過ごすのだって、私にとってくつろげるしね」


 折角茶に誘ってもらえたが、魅卯は提供できるような話題が無い。

 特に一徹に関しては、最近魅卯ですら、まともに印象に残るような出来事も発生していない。


(トモカさんが出産したあの日の夜から、もう1週間が経つんだ)


 一徹は、魅卯を前に絶望した。絶望して、悲しみに狂った。

 不謹慎だが、そんな一徹を哀れに思って抱きしめた。

 抱きしめ返されたその時、本当に不謹慎だが思ってしまった。一瞬でも、ルーリィを出し抜いたのだと。


(でも今日までの間に桐京校であった、女皇陛下のお招きに預かった時、私が見た山本君は、《記憶を失った山本君》のはずなのに、私の知らない山本君みたいだった)


「あ、すみませんフウニャンさん。電話が」

「いいよいいよ。私と月城さんの仲だから。気にしないで出ちゃって」


 考え込むさなか、入ってきた着信。

 気遣ってくれたフウニャンに会釈し携帯端末を耳に当てた魅卯は、


「ハイ……生徒会長月城です。えっ? 皇都を皮切りに全国で同時多発的に《転召脅威》って。だって沈静化してきたはずじゃ……盛り返して来たって?」


 目を見開かせて……




































































































































































「四国地方に掛かる大橋のすべてが……堕ちたって・・・・・……どういうこと?」

 

 表情を凍り付かせた。








うわぁ、ヤバいっすねヤバいっすよ。

10年越しに念願だったPS4を中古で購入して……ずっと気になっていたソフトに没頭しまくり。


思った以上に、筆が進まなぁい。


では。


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