テストテストテスト129

「富緒様は山本様をどこまでご存じです♡?」

「『どこまで』って。話しを聞いて情報量の程度を推し量れるんですか? それが出来るほど、お二人は情報を持つ?」

「聞いているのはこちらですわ富緒さまぁ♡」


 獲物に狙いすました瞳を向けられてなお、富緒は毅然と背筋を正す。

 「自分は間違っていない。責められるいわれはない」と正当性を示したかった。


「本当は二人とも全てを知っているんじゃないですか? 知ってて真相を隠しているなら……」


 基本的に富緒は灯里に視線を集中させる。

 ネーヴィスの瞳を見ると雰囲気に呑まれそうになる。


「何か隠していると思う? 何のために? もしかして私が、皆を傷つけるって?」

「灯里さん達の思惑は分かりません。私は先に、灯里さん達が握る情報全てを教えてほしい。その度合いによって、私も持ちうる情報を打ち明けます」

「私が信じられない?」


 灯里は富緒の視線を臆することなく受け止めた。

 ただ、寂し気な表情も見せた。


「信じる信じないじゃない。私だって信じたい。学院に入って三年。これほど仲良くなれたお友達は、灯里さんと猫ちゃん以外いません」

「でも……駄目なの?」

「この状況に至って猶更わかるじゃないですか? ここまでさせてしまう程、山本さんは私たちにとって危険な存在なんです」


 そんな顔見せられれば、富緒だって苦しくなる。


「……灯里さんの思惑は知らない。でも同じだけ情報を持っておけば、いざという時私にも取れる対策があるかもしれません」


 見つめ合い数秒。

 苦々し気な顏で口にされたセリフに対し「そう」と灯里は肩を落とし俯いた。


「これだけは言わせて。私は、誰かを傷つけようと思ってない。守りたい。この学院での生活は、私のこれまで生きて来た中で一番の宝物だから」

「おかしいですね。私たちは同じものを守りたい……のに……手段が違う」

「目的が同じなら、折れてよ」

「お話次第です」


 また時間が止まったかのような。

 今度は10秒20秒と長い。双方、唾のみ込む音まで聞こえてしまう。


「……淫魔サキュバス吸血鬼ヴァンパイアと同じく、血で妖魔に必要な力を補充することができるってことは?」

「食欲とはまた別の様ですね。綾人さんの家令、宗近さんから聞きました。灯里さんが……山本さんの血をすすったことも」

「軽蔑するかしら。軽蔑は私に? それとも山本に?」


 灯里は、明言はしなかった。

 明言できるはずもない。

 灯里がルーリィの手から一徹を寝取った・・・・・・・・・・・・・・・・・・こと。灯里がヤマトの手から一徹に寝取られた・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことなのだから。

 みだらな行為に及ぶ。普通一般に考える淫魔サキュバスが人から生気を吸い上げる手法。

 ゆえに同じ効果をもたらす吸(給)血行為においても、同様な意味合いがあった。

 

「軽蔑はしません。血を飲まねば灯里さんは死んでました。それは嫌。そして……」


 その事実がまた、三組に不穏な空気をもたらしてしまった。


「山本さんが灯里さんを助けるために血を差し出したのは勇断だと思います」


 淫魔サキュバスにとって、吸血は吸(給)血行為セックスにも等しい。心と身を委ねられる相手と出逢えて初めて許される行為。


「良く、助けてくれたと、私は感謝しています」


 告白はまだとしても公認の仲として見られる一徹とルーリィのような関係ではない。

 交際関係にない灯里とヤマトは本来、寝取られたという認識もおかしいはず。


「それだけでも聞けて安心した」


 だがそこから、ヤマトと一徹の間に埋めようない距離が生まれてしまった。

 つまりどういう事か……


「……ありがと……」


 富緒も考えたくはない。

 ヤマトは心の中で、ひそかに灯里を選んでいたことになるのだろう。


「でも宗近さんの話で、皆に懸念が生まれたのね」

「山本さんの正体……」

「「人間ではない……ということ」」

「普通、淫魔サキュバス吸血鬼ヴァンパイアに血を吸われた人間は眷属として妖魔と化す・・・・・・・・・・。だから私、アイツから血を差し出された時、本当怖かった」

クラスメイトをご自分の手で・・・・・・・・・・・・・生物的な意味で作り変えてしまうから・・・・・・・・・・・・・・・・・。人間としての人生を放棄させることになる」

「婚約者としてルーリィがいる。もう私にとっては富緒やネコネと同じ。親友になったのに、何て説明すればいいの? どんな顔すればいいの?」


 重い空気を見かね、ネーヴィスが黙って二人のテーブルに近づく。

 甘い香りを立ち昇らせた温かい飲み物が、マグカップ内に揺蕩っていた。


「妖魔かだけではありませんね。淫魔サキュバスの吸血量は吸血鬼ヴァンパイアにも比肩する」

「そう。普通満足するほど吸血したら、人間は死ぬ。なのに山本は私を満足させてくれた・・・・・・・・・・・・・・・・

「質か量かの話ですわ♡ 異能力の強い者なら、量で満腹にさせる前、質で私たちを満足させます♡」

「そうか。そこで灯里さんは気付いたんですね? 山本さんが本当は、無力無能者ではなかったことに。実は途方もない力の持ち主であることを思い知った」

「稀に、血の持ち主の記憶をトレースすることがある。私が富緒に話せるのは、この辺り」


 ネーヴィスが合いの手挟みながら手渡した飲み物を、受け取った灯里は口付ける。


「トレースするのは、山本さんの……喪う前の本当の記憶。信ぴょう性は?」


 対して富緒は受け取ってテーブルに置いてそのまま。


「こればかりは信じてもらうしかない。断片的だし」


 灯里の言葉にウソはなかった。吸血を通しトレースした記憶は断片的だった。


「そうですか。なら……」


 が、知らない部分を全てルーリィから打ち明けてもらったことについて、富緒に伝えるつもりもなかった。


「……山本さん……人を殺したことはありますね・・・・・・・・・・・・・?」

「くつ」

 

 刺突にも似た質問に、思わず顏跳ね上げた灯里はネーヴィスの意見を目で仰いだ。

 カノジョがゆっくり頷くのを認め、息を吐いた。


「……あくまで記憶を失う前の、本当の山本一徹の頃の話よ」

「……いいでしょう。信じます。私は何度か、山本さんの一線越した目を見たことがあります。人を殺した目。もし灯里さんが今の問いに否定したら、私は迷わず嘘だと断じるつもりでした」


 キッと、意を決した富緒の眼差しが灯里を射貫く。


「でもこれで、一層恐れは強くなりました。強めなくては。山本さんも人殺し・・・・・・・・

「富緒っ」

「そして今、《記憶を失った私たちの山本さん》は、《記憶を失う前本来の山本一徹》に精神を蝕まれているではありませんか!?」


 こうなるとは、灯里も思った。


「どちらの山本一徹が帰ってくるかは分かりません。でも、明後日には私たちの教室にいるんですよ!?」


「下手を討たない範囲で認めるべきところは認めなくては、富緒から話は聞けない」と、ネーヴィスに無言で頷かれた時点で、灯里も覚悟は決めた。

 結果、富緒は一層一徹の事を危険人物と見なした。


「だからルーリィなのよ。だからこそのシャル教官。胡桃音紗千香を覗いた山本小隊」

「それは?」

「皆、勘違いしている」

「勘違い?」


 だとしても、灯里がこの場で説き伏せなければならなかった。


「どうしてあれだけ釣り合わない山本の事を、ルーリィ達が守り、気遣っているのか皆疑問に思ってる」

「婚約者という立場があるのでは? だから、命をかけても守りたい」

「そうね。富緒もその様に思ったから、絡坐修哉との一件で山本を殺そうとした。ルーリィ達がいないから、狙い時だった」

「気づかれてしまっては否定しません」


 富緒にも富緒の信念がある。

 だが改めて「一徹を殺そうとした」と言われると、胸が痛まないわけがない。


「……苦しいよね富緒? 山本に警戒し、殺すことさえ決意した。私たちを守ろうとしてるとはいえ、ターゲットがターゲットだから、誰にも相談できない」

「な、何を言って……」

「私ね富緒、貴女の事も……助けてあげたい」

「クッ」


 ただ、どう反応していいか分からず、今まで手を付けなかった温かい飲み物にとうとう手を付けた。


「ルーリィたちは、外敵から山本を守るためにいるんじゃないの」

「えっ?」

「正しくは、山本からそれ以外を守るために存在している。私たちにとっての、守護者なの」


 信じられない。

 猜疑心隠せない目で、富緒は灯里の心の矛盾を見透かそうとした。

 灯里は……目をそらさない。


「ルーリィ達は、記憶を失う前の山本一徹自身が、自らを封印することを・・・・・・・・・・認めるほどの存在・・・・・・・・あの子たちになら・・・・・・・・殺されても仕方ないと笑える存在・・・・・・・・・・・・・・・

「それも、トレースした記憶によって知り得たことですか?」


 灯里は答えない。ただ背を正して座した。

 先ほど姿勢を正して座った富緒の時と同じ心持が見て取れた。


山本一徹はあの子たちの呪い・・・・・・・・・・・・・・

あの子たちが・・・・・・山本一徹の呪いなのよ・・・・・・・・・・

「私も、その話を信じたい。ですが……」


 打ちのめされたように富緒は押し黙ってしまう。目を閉じた。


「私が山本さんを疑い始めたのは先月。灯里さん襲撃犯が仕組んだ陽動作戦によって入院した時」


 切り出された。

 灯里とネーヴィスは顔を見合わせてしまう。やっと話を引き出せたからだった。


「山本さんのカルテを見る機会がありました」

「カルテ?」

「月城生徒会長さんが初めて山本さんと出逢った時のもの。私が目にしたのは……骨と皮。『将来などないのだ』と生を放棄したように力無く笑う山本さんの写真」

「ッツ!?」

「でも、今のあの人を見てください。たった数ヶ月です。そのあり得ない肉体回復速度は、超回復だとお医者様は仰っていましたが」

「超回復♡ 筋トレすると、破壊された筋肉細胞が修復と同時、それ以前の頃より強靭になって復活する現象ですね♡」

「お医者様は、山本さんが生ける屍になる以前、高校トップアスリートだったと見立てられました。ガリガリ写真に衝撃を受けたこともあって、私は……調べてしまった」

「調べたことに後悔成されたのですね♡」

「何があったの?」


 目を閉じて話す富緒はここで開いた。


「十数年前。神那河県高校柔道大会の写真。今や伝説のオリンピック3連覇の柔道元代表、硬道加賀斗選手が三年生の大会で優勝した時」

「そ、それがどうしたの?」

「その隣、2位位置に立っていたのが山本さんとそっくりの男の子。クローズアップされたのは現硬道監督のお名前だけ。でも当時のトーナメント表を探してみたら……」

「名前も、合致した?」

「あらぁ♡」


 再び飲み物に口を付ける。


「当時の山本一徹……は高校卒業後、大学でアメリゴンフットボール部に所属します。おかしな縁です。《記憶を失った私たちの山本さん》の柔道の技に垣間見える熟練度合い。アメフトだって……」

「えっ? 待って。その話運び、もしかして……」

「お気づきで無かったです? 先日開催された大学アメフト2部リーグの決勝戦に出場されていたことに」

「ど、どうりで。トイレに行ったっきり終わるまで帰ってこなかったわけよ」

「ちなみに、進学先は桐桜華命律大学だそうで。変なシンクロをしていると思いません?」

 

 チラリと富緒は灯里たちを見てホッとした。

 この情報は、灯里達も知らなかったらしい。


「……山本一徹君のお話しはこれで終わりです」

「お、終わり?」

「28の時、事件に巻き込まれ亡くなったそうですし」


 実は灯里達は別に、初耳だから驚いたわけではなかった。


「交際相手の南部トモカ・・・さんと、兄である山本忠勝・・・・さんの目の前で命を落としたと、当時の新聞に書いてありました」


 ここまで、独力で調べ上げたのかと。

 驚嘆してしまって……


「山本さんは……《転生者リヴァイヴァー》ですか?」


 ヒュっと、灯里は息を飲まされた。


「私が見た記憶には、そこまでの情報は無かった。富緒が疑うのは、十数年前の写真にいる山本とそっくりの顔立ち、名も同じだから?」

「だけではありません。もし傷をつけることが無ければ、私は、風音さんのお力を借りてでも調べたいことがあります」

「私がアーちゃん以外の命を聞くなどあり得ませんが、一応考えはお聞きしますよ♡」

「昔の山本一徹死亡記事に出てきた、南部トモカという女性と、私たちのよく知るトモカさんに繋がりが無いか。有栖刻長官と、下の名前が同じな山本忠勝さんとの因果関係など」

「面白いかもしれません♡ でも、トモカ様は私にとっても仲良くさせていただいておりますし、国の一長官を調査するのはリスク以外ありません♡」


 風音は笑って拒絶する。

 一見して、「そんなバカバカしいこと、調べるに値しない」と笑い飛ばしているように見える……が、それが実は「頼むから深彫しないでくれ」と言いたいのを隠すためのブラフだった。


「《転生者リヴァイヴァー》じゃ、ないはず。高校柔道写真は十数年前でしょう? そして28で亡くなった。写真から10年。つまりそこから今日まで数年内」

「仰りたいことは分かります。28で亡くなってすぐ転生したとして、今日までの18歳の山本一徹に年齢的に届くわけがない」


 「気づかないと良い」とも灯里は思う。


「そう、この次元では届かない。でも例えば……異なる次元に転生したのだとしたら? 時間の経過も、この次元と異なるかもしれません」

「ま、待ちなさい。貴女は一体何を言ってるの?」

「だから私は、クラスの皆さんを守るため行動しました」


 が、富緒は灯里のリアクションを見て真偽を見極めようとするから……


「……《メサイアード》かも知れないから……」


 灯里も感情を顔に出さないよう必死だった。


◇ 


「酷い、酷すぎる! あんまりじゃない!?」

「ちょ〜? 落ち着け海姫ぃっ?」

「落ち着けるわけないじゃない! アンタを心配してやってるの!」

「ちゃんと分かってっから! 嬉しさはあるから! だから一旦……」

「うっ……うぅっ……トヨマツサンの赤っ!」

「たった今、イスズキビシの赤飲んだばかりだろっ!?」

『畏まりましたお嬢様』

「だから畏まらんといてくださいシニアソムリエっ!?」


 なかなかトンデモな状態に成っていた。


(だから止めろと言ったんに)


 俺は幾度ソフトメニューを勧めた。海姫の奴はハードメニューしか頼まない。

 そうして、快調に飲んでたつもりか知らんが、呑まれやがった。


「ヒグ。アンタは……頑張りすぎてるじゃない。なのにあんな扱い、虚しいよぉ」


(泣き上戸とかぁっ!?)


 周りの客は俺と海姫をカップルと勘違いし、カレシがカノジョを泣かせてると、どギツイ視線で向けてくる。

 まさに蜂の巣。居辛さマァァァックス!?


『山本君大丈夫です。私達は寧ろ感心してる。泣くことを恥ずかしく思うお嬢様が、君だけに晒す。どれだけ親しく、信頼され、安心感があるのかと』

「だからって、ワイン持って来ないでくださいって!」


 魚料理が来る来ないのところで、「なんで頑張れるの」とか聞かれた。

 どう答えりゃいいのよ。

 「どういう出会い? なぜ姫殿下から覚えいいの? 何故こんなに徴用され大切にされてるの?」 なんて。

 大切にされてる感もなし、徴用されてるとも思っていないがぶっちゃけ困った。

 ほら、俺も冗談で言っちゃった普通一般科高校生で通してるから……「今更訓練生でしたテヘペロッ♡」と口が裂けても言えない。


 救いは、答えにくい質問にもたつく間、どんどん新たな話題を放られたこと。

 そうして、「桐京校生が、いくら無力無能とは言え、姫殿下の客人に失礼過ぎる件」で火が付いた。


「異能力者がナンボのものよ!? 異能力が無いだけで相手を見下してっ!」

「い、いやぁ、お前だって異能力者じゃない?」

「あんな奴らと私が同じ存在だっていうの? 一緒にしないで。見損なわないでよ!?」

「なんか知らんが、スマセン」


 コース内、俺ら二人が肉料理を食べきるあたりで、悪い意味で海姫は絶好調だった。


「パワードスーツで連戦連勝。圧倒的なあんたに、桐京校生がなんて言ったか覚えてるでしょ? 『ズルしやがって』よ!?」

「ちょ、もう飲むのはそのへんにしとけ」

「『ズ・ル・し・や・がっ・て』ですって!? 今更何言ってんのよ!?」


 何杯目かもわからない飲み物に口づけようとするから、腕を伸ばして止めようとする払いのけられた。


「私は、初めて異能力に目覚めた中学3年生まで無力無能者だった。だからアンタの気持ちは桐京校で一番わかる。断言!」

 

(言ってくれるのは嬉しいけんども、状況が酷すぎて素直に喜べん)


「いーわよ! 認めるわ! アンタのカラダ、尋常じゃない。どれだけハードワークを、どれほど積み重ねて来たか。元オリンピアンの私には分かっちゃう! 分かるだけ。絶対真似できない! 現役オリンピック選手でも真似出来るかどうか。 一体何年継続してきたのよ?」


(は、ハードにゃ違いないが、本格的に肉体がイジメられ始めたのは4月からなんだがな。訓練生人生始まった的な意味で)

 

「それほど努力しても、ほんの少しでも生まれつきの異能力が有る者がちょっと肉体活性しただけで太刀打ち出来ない。更には異能エネルギーによる特殊攻撃能力も備える。だから彼らはアンタの気の遠くなる程の苦行を見下し、せせら笑う! なんて無礼なの!?」


 ヤバいっす。

 怒り止まりまへん。


「パワードスーツで強化された身体能力が、異能力者の肉体活性時ステータスを超えるのは、両者元となる純粋な肉体スペックにおいて、アンタの鍛え抜かれた体と比べたとき、奴らの貧弱な身体がレベチに劣っているからでしょう!?」


 しかも俺ごとで怒るから、俺のせいで昂らせてる感じがして俺が虫の居所ワリ〜わ。

 

「それが……パワードスーツはズル? アイツらどんな了見、口で言うの? 一体……何様ぁぁぁぁ」

「あのあの、せっかくのディナーにて雰囲気壊してスミマセン。因みに僕らは大丈夫! 大丈ですから!」


(お願い海姫。暴れないでぇっ!?)


 第三者から見たら、カレシがカノジョ泣かし、カノジョブチ切れな構図だろう。

 忘れちゃいけない。

 ここは超一流ホテルのレストラン。身だしなみ整った皆様が、大人の余韻余裕醸し「アハハ」、「ウフフ」していること。


 レストラン内、俺たち二人だけ五月蝿いじゃん。鋭い視線集まるじゃん。

 慌て席立つじゃん(俺がな?)。

 他のお客さんに全力頭下げんじゃん(俺がな?)。


「あ〜……興奮してきた」

「もちっと抑えようぜ海姫。ほら、他のレストラン客にも迷惑が……」

「アッツ。空調効いてないんじゃない!?」

「ってぇ、ちょぉっ!?」


 でね、状況、更に悪い方に転がってん。


「何やってんの海姫っ?」

「何よ触らないで。暑苦しい」

「仕方ないでしょうよ。触るの不可避な状況に、お前自身突き進んでんの!?」

「ハァン? どうせていの良いこと言って、私の身体こと狙ってんでしょ?」

「そーだな。狙ってたかも知れないな。酔いどれにならず他人の目もなければ・・・・・・・・・!?」


 このアマ、「暑い」宣ってドレスの肩紐外しやがるよ。

 ドレス一枚下はもう下着に違いないのに。


「チェックだ!」


 このままじゃ人の目がある中で脱ぎかねない。


「スミマセン! どなたか海姫お抱えのドライバー呼んでください。ホテルエントランスに車を回してください! ちゃんと家まで送り届けて……」


 ゆえ、吠えてしまう。

 あ〜あ、残念すぎんなぁ。

 せっかくの超一流ホテルのディナーコース。とんでも展開すぎてまともに味わうこともできなかった。


『山本君、待ってください。ここからデザートが』

「そんなの食べる余裕無いですけど!?」  


 接客業は、空気を読むことも必要ですね。

 照らしてみたら、この状況で俺たちのテーブルを担当するシニアソムリエの語りかけが信じられなかった。


『問題御座いません。デザートはもう仕上がって御座います』

「……はっ?」

『ポーター職を呼びました。お嬢様をスイートルームにお運びします』

「ん〜っ? いや運転手さんは?」

『……帰りました』

「はぁっ?」


 アカンわ。

 シニアソムリエさんの話には耳疑った。

 

『山本君はただ、欲望のままデザートを召し上がるのが宜しい』

「ど〜ゆ〜ことっすか? ほんに全然わけわかめ!?」

『《高虎海姫ラブセレクション。精力剤発情仕立て》……どうぞ思う様にお召し上がり…!』

「召し上がれますかぁっ!? 一体何すかそれはっ!? って、ハッ! 精力剤といえば、料理で変わった味したのがあったような……」


 何やねんそのビックリメニュー。

 お笑いか? 笑えないんだが。


「ったぁくぅ、うるらいわねぇ。他のお客らんのメーワク考えならいよ」

「そしてと〜と〜呂律回らなくなるパティ〜ン!?」


 俺が昂ぶるの仕方ないはずなのに、黙らせる気マンマンに奴ぁ両手で俺の両頬はさみ、固めた。


「アレぇ? アンタぁ、以外に良い面構えしてるらない」

「ちょっ、海姫? 待て、おま……」

「ん〜……」

「自分のやってること……あ〜もうっ! 南無三!」


 そうしてね、海姫が何したと思うよ? 

 その動きに、俺も即動いた。


「……バカ野郎が。明日覚えてたとして知らねぇぞ」


 テーブル上、手近にあったナプキンを思い切りひろげ、海姫の顔に被せた。


「俺に責任はないからな。あったとして、絶対認めてやらねぇ」


 致し方ないじゃないよ。

 2秒後には、顔と顔が重なるだろう。触れてしまう確信があったから。



 ディナーの締まり際からこのスイートルームに至るまで、どれほどのハプニングがあったかは、ここでは語らない。

 ただ、少し話を先に進めてしまうと……


「オッホぉ!? ヤるやん山ちゃん♡!」

「違、コレ……違うってヒジキ」

「わ、悪ノリが過ぎたようですわ。ですがこうなってしまった以上、本当に二人は交際すべきでは無いでしょうか?」

「待って亀蛇さん! そんな目で見ないで!」

「こうなっちゃったらもう、大手振って山もっちゃんを狙えなくなるなぁ」

「おう陸華、止めろ。思い込みだから!?」

「本格的に、トリスクトさん達に知られるわけにわ行かないわね。彼女がキレてしまったら……」

「何やってるんですかお連れさぁぁぁん!? いくら僕が年下とて、小隊長であるなら隊員に責任があるんですよぉぉぉ!? そりゃぁ、僕の婚約者候補から離れたとして……」

「玉響さんに解人君も、勝手に盛り上がらないよ!?」

「て、徹……山本さん、軽蔑します」

「っちゅうか、この顔ぶれは何ぃ? なんだってここに木之本さんが……」

「……山本ぉ……」

「ハッ!?」

「……いってぇつくぅん?」

「あの、シキ? 笑顔が、冷たい……んだけど……」


 桐京滞在最終日、スイートルームのキングサイズベッド……とはまた別のソファで絶叫とともに目覚めた俺は、室内飛び入ってきたお歴々に取り囲まれ、凍りついた。


「ん〜、何よ。煩いわねぇ」

「あ゛」

 

 騒々しさで苦しげに呻いたのは、海姫だ。


「なんで朝からアンタの顔見なきゃならないわけ? 不愉快なんですけど」


 俺が飛び起きたソファから、目を擦りながらムクリと身を起こす。


「って、なんでアンタと朝一に一緒にいるわけ? っていうか……なんで皆も……知らない顔も。あ、アナタ姫殿下そっくり……」

「バカッ! 動くと……」


 それが良くなかった。

 被さっていたブランケットが、スルリ布ずれの音とともに……一糸まとわぬ身体から滑り落ちる。


「「「ぶっ!?」」」

「おぉっ」

「キャアッ!?」

「隠さなければ!?」

「なんてことなの?」

「高虎ぁ……」


 なお、この部屋は10人のパーリー状態だ。


 まずは俺含め、ヒジキと解人君の三人が、見えない拳打ち付けられたかのように鼻血吹き出し仰け反った。

 陸華はガッツポーズを取って前のめり。食い入るように海姫を見つめた。

 悲鳴上げるは亀蛇さん。

 慌てブランケットを拾い上げ、海姫に被せるのがたまたまユラユラ。

 木之本さんは茫然自失。

 シキは面白くなさそうに、顔歪ませながら海姫をにらみつける。


「ヒェッ?」


 たまたまユラユラがブランケットで体を隠そうとして抱きついたことが、海姫を決定的に目覚めさせた。

 まず、起き抜けに俺がいること。

 皆の目があること。

 俺たち二人、同じソファに座ってること。


「か、海姫? え……えぇと……」


 唖然と口を閉じることも出来ず、カッと目を見らかせながら、ゆっくり下を向く。

 下を向くというより、タマタマゆらゆらによって巻き付け直されたブランケットの内側を覗いたのだ。下着すらつけてない身体を。


「これは……ですね……違うのですよ」


 ギッギッギ……と、顔をあげる。

 呆然……俺を見つめながら顔はどんどん赤くなっていく。

 うわぁ、珠のような汗拭きだしぃの、ダラダラ滝のように流しぃの。

 小刻みに震え始めた身体は、少しずつその震えが強くなり。


「……ヒジキ」

「ん?」

「解人くん」

「えっ」


 認めた瞬間、俺は残りの野郎二人の手首を掴み引き込んだ。


「っつぅっ!? い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」


 同時だ。

 海姫の、まるで断末魔のような悲鳴が、目の前で爆発したのは。













スマホ入力って慣れて来たけど、ヤッパルビフリキチ〜。


で、ガンガン打ち込めるキーボードと違ってもたつくから助長しないようにしようってむいしきが働く。


前回投稿分から7話分書いてる間に「お、この文字数いつもより少な。さては無駄なこと書いて冗長するくせが、入力面倒なスマホ打ちでは自然と改善されてんな(しめしめ)」


……そーんなことを思ってた時期がありました。

ちょ〜っとなれてくるだけで、スマホ入力でも冗長化していくとゆ〜

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