テストテストテスト122
『コレで如何かな?』
「こ、これは……何というか……」
『気に入らなければ手直しするけれど?』
「あ、いえ。ちょっと驚いたというか。自分にゃ似合わないって思ってたのに、結構馴染んでいるっていうか」
場所は
「俺らしくないなって思う一方、本当らしくなくナルシスト感満載で言うと、『結構イケてんじゃね』って」
『俺、カッコイイ?』
「えと〜……ハイ。スンマセン。イケメンじゃないけどブサメンでないとも信じたいこんなのが調子乗っちゃって」
『良いよ。イメージチェンジってそんなもの。キレイ作る俺らは、お客さん自身そう思ってくれないと仕事の手応えを感じない』
これまた有名人の常連が多いらしい美容室に通された俺は、俺ではなく木之本さんご注文通りのカットを施された。
ツーブロックでアップバングな髪型。
清潔感を保ち、一方でスポーテイッシュ。アグレッシブさが際立っていた。
眉毛は外側削って細く長い。
(これが……俺? 何億稼ぐ、ヤロップリーグのサッカー選手みたい)
本当、自分が自分じゃないみたい。
『イケメンかどうか気になるなら、お客さんは気にしなくていいよ?』
「どうあってもイケメンになれないってことっすね?」
『ひ、卑屈だね。君はとにかく、僕が羨ましくなるほど肌が綺麗。その時点で清潔感は余裕で女の子にとって合格。身体もほら、スゴイ筋肉してるし』
「モテるのは美容師さんみたいな細くて締まった人じゃないですか」
「筋肉が努力の証っていうのは男女問わず認めるとこ。最近は健康ブームでジム通いも増えてきた。その体に対する評価の裾野は広がってるよ」
カット台前に座る俺に、後ろに立つ美容師さんは鏡越しに笑った。
『あと一つ、今日ここに来る前にしっかり水抜きしてきたね』
「それは一体……」
『水分残って
「あっ……」
(美容のため風呂に入る。こういうとこで活きたかよ)
『目周り、眉に手を加えるとそれこそ印象は変わる。顔も引き締まってるし、垢抜けた顔をしてる』
「垢抜け……大人っぽい?」
『今回の髪型は、仕事出来そうで行動力も兼ね揃えた印象を与える。大人びた顔や見た目雰囲気は、君くらいの女の子からも人気だったり?』
美容師さんめ、流石接客商売。
『総合力でここまで来れば、仮に普通の域を顔立ちが超えてなくても、充分に『俺イケてる』って自信持っていい』
両肩ポンポン叩きながら鏡越しに視線合わせながら言ってくる。俺にもそんな気がしてきた。
(って、顔はやっぱイケメンじゃないのかい)
苦笑もしてしまうのだが。
『お〜っ、随分印象変わっちゃいましたね』
勇気をくれる美容師さんのかたわらから、女性アシスタントさんが現れ、俺の視界の鏡に映り込む。
『ど、印象良くない?』
『そ〜ですね。結構イケメンになった感』
「おっ!?」
『ねっ? ほら俺の言った通り……』
『中の上から、上の下を越えないくらい』
「……へ?」
『ってオイ、そこまで素直に品評しない!』
ただ、現れたアシさん、目が笑ってない。
《品評》とは上手い物言い。冷静に俺を品定めし、ぶっこんできた。
『ご、ゴメン。素直なのは良いんだけど躾が足りなかった。失礼なことを』
慌て美容師さんはアシさんを追い払う。取りなすように謝罪してきたが、意外に悪い気しなかった。
「上の下。申し訳程度イケメンの域に踏み込めたって、忖度なしで見てもらえたってことでいいんすか?」
『ハイ?』
「このかた、イケメンにゃ絶対届かないって思ってました。でも……少し自信持っちゃいますよ?」
美容師さんは、俺の言葉に目を丸くするとクスリと笑った。
『うん。今の君は、ちゃんとイケメン。俺の保証付き。でね、その自信をもっともっと強く大事にしな? 自信に溢れる人は魅力的。それさえあれば、君はもっともっと、イケメンになれるから』
「あ……(オ)ッス!」
流石、皇都はお洒落で鳴らす波羅宿の美容院である。
カット技術を光らせながら、トークで客のモチベーションまで上げてしまうとは。
「山本さん、終わりまし……っ!?」
「あ、木之本さん」
一段落したところ、俺の視界に映る鏡に、木之本さんの姿まで浮かんだ。
鏡の反射を通し、俺を見る木之本さんはクワッと目を見開くじゃない。
「驚きました。本当に見違えた。それに、
「ソイツぁよくわからんが、合格?」
「文句無しです」
一言に、俺も美容師さんもホッと顔。
「ちょっとスケジュールが押してるので予定を変えます。この美容室でお着替えを。着替えは既に従業員更衣室に運びました。その後、直接最終目的地に向かいます」
「び、美容室で着替えって。無理も過ぎ……」
「この店のオーナーには、話を通してますので」
一瞬驚きながらもそこはさすが冷静根暗っ子。
すぐさまいつもの声のトーン。
「愚問だったね。その立場に
ブレないなぁと思うと苦笑を禁じえない。
話を耳にした美容師さんの案内で従業員更衣室に向かうさなか、俺は笑い声を圧し殺すことできなかった。
――そうして俺は、更衣室で着替えを済ませたその時点で、シキの予定に同行する前の事前準備が終わったことを、肌感覚で思い知ることになる。
「終わりました〜……って……」
更衣室を新たな服装で出てた途端、店内の空気が一変した。
「うん。その制服、一層似合っています。今日の施術はすべて正解でした」
迎えてくれた木之本さんの表情。
普段物静かで根暗感マックスで感情乏しいから、現れた感嘆の笑みに見惚れてしまった。
『ヤッバ……』
『スゴ……オーラが……』
『制服マジック? 超……カッコ……』
『って待って。あの制服、ってことはあの人……』
笑顔に目奪われ、周りの声が耳に入っても頭の中で言語処理できない。
『知らなかったとはいえ、
呼び掛けてきたのは恥ずかしそうに苦笑い浮かべた、カットから何から俺に施してくれた美容師さんだ。
『ヘアスタイルご注文の意図がわかりました。その制服と合わされば
「噂に違わぬいい腕です。雄々しさ、凛々しさが一層増し、際立っています。自信も持たせてくれたようですし、彼も誇りを持って……
さぁ、その職名を木之本さんが口にした刹那、店内のカット待ちのお客さんたちは立ち上がる。
スタッフ全員、俺と木之本さんに体を向けた。
……洗髪、染髪中のお客さんは気の毒だ。なんとか立ち上がろうとするが、そこまでしなくていいのに。
10代から、若い、お年召されている人たちまで全員。
「貴方の彼に対する今回の仕事ぶり、ひいては陛下もお喜びになるでしょう。感謝申し上げます」
『じょ、女皇陛下に少しでもお役に立てることができたなら、光栄の極みでございます』
空気の変わり目、はじめはびっくりしたものの、眺めるうちにどことなく俺の中に申し訳無さが立ってしまう。
せっかく勇気づけてくれた美容師さんが恐縮しきりってのも見てられなかった。
「行こっか。恭しく接してもらうのは君の立場にとって重要かもしれないけど、俺達がここにいることで、これ以上お店の営業を止めてしまっちゃなんねぇ」
「ですね。請求は宮内庁に。このカードに印字された先にお問い合わせ下さい」
サービスを受けたのは俺だ。
サービス業の末席に普段居る者として、素晴らしいお仕事に敬意を評したい。
「ありがとう御座いました」
『あ、いや、頭を下げられると……』
「いえ、ちゃんと感謝すべきところですので」
『……それでは、素直に受け止めます。流石は陛下の皇宮護衛官ですね。凛としてる』
「そんな、俺なんてまだまだトンデモナイですよ」
『さっき話に出た自信は?』
「あっ……クク。失礼します」
『頑張ってね』
「ハイ」
二度頭を下げる。
一度目は美容師さんも困っていたが、二度目は笑ってくれた。
「や、山本さん?」
美容師さんに別れを告げ店の外に向かう。
途中、美容師さん以外の全ての人から溜息や羨望の眼差しを俺は一身に受けていた。
(まるで俺が物語の主人公みたいな注目のされ方だな。果たしてそれは、この制服に集まったものか。それとも俺自身に向けられたものか)
「では……
「ッツ!? ……勿論です。私は、
俺にか制服か。そんなことは構わない。
シキが求める以上、このお店の皆さんがそう信じる以上、皇宮護衛官と言う役割をなんとかやってみようと思う。
(俺の粗相が最悪、シキのメンツに泥塗りたくる可能性もあるが。はてさてぇ?)
「ホラまた出た。悪い方に考えがちな癖。なんとかなるって考えなきゃ。きっと大丈夫さ」
そう、大丈夫って信じよう。
役割を演じる。今の俺の周りには、これに長けた奴が揃ってるんだ。
第一魔装士官学院桐京校。蓮静院小隊。
演劇部に所属し、並み居る老舗、プロ劇団すら遥かに凌駕する学生名女優達有する、通称は《オペラ》に、今だけ加入している俺なら。
☆
『では、確かに受付は完了です。そちらの扉からお部屋にお入り下さい。陛下がいらっしゃるまでお待ちを』
前日、一徹が徹新にランチをご馳走してもらった第二お台場内の高級レストラン。
「俺達が一番乗りみたいだな」
「みたいだね。あ、ヤマト君ゴメン。椅子足りないみたい」
通された広い個室。
円卓には、椅子が10しかない。
招集された各学院生徒会長とプラス誰かにのみ割り当てられたのだろう。
「構わないさ。俺は今日、君の護衛として来た。後ろに控えてる」
もぬけの殻の部屋に最初に立ち入ったのは、魅卯とヤマト。
「それより魅卯会長が大丈夫なのか? その……」
「実家の事は陛下が約束してくれたから大丈夫なはず。だから私も私の良心で行動したい。だから……」
受付で渡された席次の通りの椅子をヤマトが引く。魅卯は促されたとおりに座りながら、ヤマトへの視線は外さない。
「変な忖度はしないで。ヤマト君もヤマト君が動くべきと思ったら動いて欲しいな」
「それを聞いて安心した。了解だ。何があっても、誰が相手でも君を守り抜く。それが……久我舘隆蓮であっても」
ヤマトを見つめたのは、久我舘隆蓮絡みで訴えたいことがあったから。
「って、なんか『魅卯会長を守る』って口にした瞬間から、各方面に申し訳無さが立つな」
「もしかして《
「《
「わ、悪いことしちゃったかな」
「でも仕事を取られたとして、ああ言ってちゃんと任せてくれるあたり、彼らの人間としての器の大きさがわかる」
「うん! だから私もあの6人に全幅の信頼を置いてるんだっ」
気にせず仕事をしていい安心感を得てから、二人の会話は弾む。
が、「あの6人」と口にして、
「今はいない
「……うん……」
魅卯はさっと顔を青くした。
『おーおー、生徒会長が一同に介すこの場で、んな弱々しげなツラしたらあかんよ!』
二人しかいなければ会話しても静かなもの。
威勢の良い声はよく響いた。
「あ、貴方は……」
「よーよーシロミー、元気しとるぅ?」
「し、シロミ?」
「つ・き・シ・ロ・ミ・う! シロミーやん!」
「相変わらず変なあだ名をつけるよね」
「頭の回転速い言うてんか?」
新たな声の主にタジタジとなる魅卯を守ろうと、ヤマトは二人の間に立った。
「魅卯会長。知り合いか? 王坂校の生徒会長とか?」
「あ、ヤマト君この人はね?」
「カァァァァァ!? ワイは悲しでぇ? 奥ゆかしさてんこ盛りです。そのワイがなんやデリカシーゼロの王坂校生に見えまっか?」
が、トーク怒涛過ぎて、間に入ったヤマトを声の主は意に介さない。
「つか自分こそなんや。ワイと魅ったんの間に入ってからに。あ、わかった! 卯〜たん! 山ちゃんと、ワイと言うもんがありながら、第三の男っちゅうやっちゃ。どれだけワイらが愛を囁やき叫んでも、結局迸るほどのイケメンには敵わんと!?」
「ヒジキ君久しぶり。ヤマト君、五日出君って言って貴桜都校の生徒さん。生徒会長は別にいるのは知ってるから、今日は護衛としてきたのかな?」
「いやぁぁぁ、ワイ渾身のボケをポワワンスマイルでスルーするのやめてぇ!? 惨めになるっちゅうねん!」
ガタイもタッパもある、80年代を彷彿とさせるリーゼントヘア。
一徹を「山ちゃん」と親しむヒジキこと五日出聖が、この部屋3番めの入室だった。
「そだ、山ちゃんは?」
「い、色々あって……」
「そか?」
「そ、それで他の貴桜都校の皆さんは?」
「ああ、アイツらアカン。時代は英弘入っとるっちゅうに、まぁだお大臣気質が抜けん。どうせ他の7校が揃ったあとで、悠然と登場する予定やろ」
護衛に違いないはずだが、貴桜都校会長が座るはずの椅子に鎮座した。
「それはそうと、ちょいエグぅこと言ってええか?」
「どうしたの?」
「久我舘……」
「ウクッ」
「あぁいやいや。ええ。もうよくわかった」
名字だけ上げ、反応一言を耳にするだけで、はじめ身を乗り出しながら聞いたヒジキは立ち上がる。
「おぅ、そこのいけすかんクソイケメン剣士」
「い、いけすかん……」
「感謝しぃや。第四学院がもしこの場で跳ね返ろうもんならワイも前に出たる」
「嬉しい申し出、素直に感謝しておく。だけどその呼び方は……」
「クソイケメンの何が悪いねん」
「クソはやめてくれ」
「だからクソの何が悪いっちゅうねん!? 超やで? スーパーや! スーパーイケメン! つまりクソイケメン!?」
「いや、意味を聞いてるんじゃなくて受け側の気持ち……」
「ヤマちゃんなんて
「あのバカ……」
まずは互いに敵意が無いことは良かった。
が、ヤマトの訴えが届かないこととその理由がクラスメイトにあることを知り、ヤマトは右手で両目を覆い肩を落とした。
「ん?」
「なんや」
「どこかで俺たち、出会ったことないか?」
が、何かを思い出したか。
ヤマトは覆う右手の人差し指と中指の間を広げちらりヒジキを見やる。
「これやっちゅうねん。わいの美貌は男女ともに拐かす。ケチュ穴いよいよ抑えるとこやな」
「無いから。山本みたいなことを言わないでくれ」
結局気のせいだと言われ、そのままヤマトはため息にいたった。
「でも、ヒジキ君ありがと」
「おん?」
「今回の会議、競技会も近いしピリつくと思う。他校の生徒会長さんが来ても、お互い牽制しあって気疲れすると思うから。ヒジキ君がこの部屋で最初に会えたのはとっても嬉しい」
「おっほ♡ 嬉しいやん。せやろせやろ。ワイ有用な男やろ。お〜し月ウサギ、いっそのことワイが付き
「緊張も結構溶けたし、これなら私もスムーズに他校向けの顔を作れると思う」
「だからスルーやめてぇ。シーロン笑うと天使の笑顔だからぁ。それで全力スルーとか悲しくなっちゃうからぁ」
最初からトップギアのヒジキは、アハハと笑う魅卯に向ってヨヨヨと泣き真似た。
「ま、ええやろ。さて諸君、あんまり気迫に飲み込まれんこっちゃ。そら生徒会長と護衛っちゅう各学院の実力者は集まるやろけどな」
ただすぐ泣き真似をやめニッと笑う。
「カボチャやナスとも思えばええ。知っとるか? ライトノベルじゃ新出のキャラを一度に沢山出すのはタブーとされとる。名前をつけるなんてもってのほかや。活字体でそんなことされても、誰が誰とかわからんくなるからな」
「ライトノベル。いよいよ山本みたいな奴だな」
「例えば桐京校会長が現れたら、ピーマンと思えばええ」
「さ、流石に姫殿下を野菜には例えられないよ。でも、そうだね」
「言ってることは理解はできるな。心に留め置くことにするよ」
そこまで話して、3人とも同時に個室出入り口に目を向ける。
わちゃわちゃとしてきた。
新たな誰かが来ようとしてるのだ。
―― 第一学院桐京校以外の8校の会長と護衛が出揃った。
(なるほど。魅卯会長が言っていたピリつくとはこういうことか)
『さぞかし九州の守護は大変ね。いえ、田舎は信号が少ないと聞くから。遠方であっても臨場も間に合うかしら』
『廣島とかええやん。危なくなっても四國、王坂から助けが来るけん』
『それで四國は、王阪か我ら貴桜都、どちらに付くのか決めたのか?』
『はっ、相変わらずの蛇っぷりやな貴桜都。別に王坂は組む組まん構わへんが、貴桜都はやめとき。ただただ面倒や』
『辞めてください。私は、四國は、唯一皇のものなんですから!』
『思い知るな。北海堂が島であることに。全然話について行けない』
会が始まるまで談笑しているが、どことなく牽制や皮肉が混じっていた。
そのたびに、各会長の後ろに控える護衛が気当たりを発するのだ。
新たな顔ぶれは20名も超える。
確かにセロリやトマトと野菜を見るようにしたほうが、覚える手間も面倒もない。
「……久しぶりだな」
全学院の会長職が集う。
……当然……
「まさか自分から声をかけせるとはな魅卯」
魅卯にとって最悪だった男もいた。
だが……
「あぁ、
「なっ!?」
最悪ではない。
あくまでも最悪
「スミマセン。全く気にしてなかったので気づきませんでした。いえ、少し前は気にしなくても分からせる覇気のようなものがあった気がしましたが。きっとそれも私の気のせいですね」
「き、貴様……」
(へぇ?)
第四学院仙提校の生徒会長、久我舘劉蓮。
魅卯の婚約者でもある男
少し前まで、その姿を前にした魅卯は、惨めにもオドオドしていたものだった。
「忘れるな。未だに自分の婚約者でしか所詮ないことに」
「
「っ!?」
「
(……強くなった。魅卯会長)
違う。今や向けられる視線を受け止め真っ向から返す。
たとえそれが怒気を孕んだものだとしても。
少し離れてるヒジキも聞いていたのだろう。「ヨッシャよう言うた!」と、両手で指パッチン。満面の笑みで、両人差し指を魅卯に向けた。
『テメ、お飾りの嫁の分際で……』
劉蓮の護衛が今の話に面白いと思うはずもなく。
言いながらノシノシと魅卯に近づくが、ヤマトが割って入った。
「まさかここで弾けることもないとは思うが、止めておいた方がいい。既に落ちた
『ぐぅっ』
ヤマトもピシャリと行ってのける。
隆蓮の護衛は苦虫を噛み潰した顔、いつ掴みかかっておかしくない赤ら顔で全身を震わせているが、なんとか堪えていた。
『こんなところで痴話喧嘩?』
『実に下らない』
『落ちぶれた
室内は嘲笑に沸き立つ。
魅卯は目を閉じ、ずっと黙っている。慣れているからだ。
見下され、馬鹿にされることに慣れていない劉蓮は、顔を東に西に、狼狽えていた。辱められ歯噛みした。
「……言いたいことが言えて、まずはスッキリしましたか?」
ひとしきりの盛り上がりは落ち着く。
頃合いを見計らったように、静かに口を開いたのは魅卯だった。
「正直皆さんには……
「「「「「「「「なっ」」」」」」」」
発言に、誰もがギョッと目を見開く。
ヤマトとヒジキだけが、楽しそうにニヤリ笑った。
☆
発言に偽りはない。失望は事実だ。
「
各学院の生徒会長とは、それぞれ地方付きの退魔衆で上位の家柄出身も多い。
自尊心が強い者ばかりの中、魅卯が失態を素直に受け入れる姿勢に戸惑った。
「それでなお、
だけではない。
失態は失態として認める一方、「ほじくり返そうとは失礼な連中だな」と暗に責め返す。
「仮に貴方たちの身に起きたならどうです? 皆さんお一人の誤りで、何の罪のない貴方たちを信じて付いてきた方々が影口を叩かれ、笑われ、馬鹿にされる」
「人としてどうなのよ」と言われてしまう。自分たちの鬱屈さを言及されているようで皆やりにくそうだった。
「なお、隆蓮様事については皆さんが口を挟むことではありません。私との二人事です。悪しからず」
更に「テメーら余計なお世話だ」と言ってのける。
ここまでずっと目を閉じていた魅卯は、ハァと深い息を一つ。
「皆さんお忘れではないですか? 競技会は学院同士での争いですが、決して相手を扱きおろす為のものではありません」
目を開いた。
「私たちは卒業後、正規魔装士官とし《対転脅》に入隊します。皆さん地元でない全国の駐屯地に配属される。同僚も、違う学院の卒業生となり得るんです」
淡々とした物言いを受け、どの会長たちも渋い顔しながら周囲に目を配った。
「競技会は競技会として切磋琢磨し、競い合うことで個々の成長を期待する。その一方で私は、そこがどこであろうと、相手が誰だろうと、敬意だけは大切にすべきと思いますが、如何でしょう?」
「そんなことは分かっている。でも……」と皆言いたげだが、そんなの魅卯にとってどうでもよかった。
――そんな、一瞬にして正論で場を支配した魅卯ですら、その五分後には絶句を強いられることになる。
「では、皆に挨拶を。ちゃんと出来るかな? お前が、この私に恥をかかせるなよ?」
「……
(う……そ……)
アレから、もう二組追加があった。
《対転脅》は有栖刻忠勝長官。引き連れるは《灰の勇者》と《灰の聖女》の二人。
入室した途端、その存在感の凄まじさに室内では声が挙がったのに、それすら凌駕する展開。
(ど……して彼がここに……ううん)
「諸兄諸姉らにはお初にお目にかかる。自分は……第三魔装士官学院三縞……」
「お゛……い゛?」
「申し訳ございません。改め……
「「「「なぁっ!?」」」」
「……山本……一徹」
反応したのは、魅卯、ヤマト、ヒジキ、隆蓮の四名だ。
「以後、お見知りおきを頂きたい」
「クク……そういうわけだ。この男は今会議にも立ち会わせる。色々思うところもあるだろうが、快く受け入れてくれることを諸官らには期待する」
(なんで、陛下のお傍に……)
「あ……」
それは一瞬の出来事。
一瞬で十分だった。
チラリと自己紹介しながら魅卯を見やる一徹の瞳には迷いが光る。
(山本一徹さんじゃない。今の彼は……山本君だ)
青天の霹靂には違いない。
魅卯が最近会えず、ずっと会いたかった《
極めつけは、皇宮護衛官の制服を纏う。
傍付き木下ネネと同様、まるで
あ~……知ったかしたぁぁぁぁぁ。
三原神の序列間違ってたぁぁぁあ!
天照大御神→月詠尊→素戔嗚尊だったぁ!
天照大御神→素戔嗚尊→月詠尊になってたぁぁ!
間違ったままここまで書いてたぁ!
日本人としてFランだったァァァ!
そしてスマホ入力つラァァァァ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます