テストテストテスト117

「唐突に面白い事を口にするね陛下。私達に彼の所有権の是非を問うなんて」

「陛下。ご発言は慎重に。それではまるで……」

「昨晩有栖刻にも言ったのだ。誤解を恐れず言おう。山本一徹は、余だけの物ゆえな」


 ズンと空気が重くなるのに、依然俺を後ろから抱いてくる陛下の声はあっけらかんとしていた。


「さて一徹君? この場はあとは私に任せるが良いよ。君は早急にこの場を去るといい」

「あ……えっ? あいや、ここに呼び出されてから私分の食事も用意する流れになってるんですけど」

「ならその分は君の部屋に届けさせよう」

「今戻ったらホテル勤務に逆戻り……」

「……お願いだよ一徹くん。私のために」

「うひっ」


(オイッ! 悪い冗談はやめろって!?)


 そんなことを囁くに、俺の耳元に近づけた唇。

 実際は既に触れていた。


「顔真っ赤にして照れてる。かわゆいなぁ君は」


 俺は思い切り立ち上がってしまって、陛下は俺の首の戒めを解きイタズラ笑いを見せる。


(問題はこっちだよ)


 今の光景を目にした3人のオッサンズの驚いた表情に、どれだけ衝撃があっただろう。


「し、失礼します。それでは皆様、ごゆっくり」


 唖然というか「お前マジか」の表情は集まってしまう。

 身の置き所がなく苦しくなって、結局その場すら後にした。

 

 桐京校に来たこと。色々パワードスーツの試験運用で求められたこと。

 この場に呼び寄せられたかと思うと、一存で退席を要求されたこと。

 振り回されてばかりだ。



「早速だが絹人」

「ハッ」

「長子綾人との婚約話だが、余が愛妾を囲うことも含みおけ。一徹くんが愛人となること、綾人にも承諾はさせておくことだ」

「なっ!」


 一徹が席を外すなりの発言は強烈過ぎる。

 各々トップが固まってしまうのは仕方ないことだった。


「元々、綾人を二番手、あ奴を三番手とし、須佐を筆頭婚約者としていたのだ。イメージはその形に戻すとして捉えよ」

「山本少年は、須佐に匹敵するとのお考えか」

「構わないだろう? どちらにしたって綾人が私の正夫になることには変わりはない」

「その捉え方、ならやっぱり彼は……人間では無かったようだね」

「ま、待たれよ。お三方とも何を申されますか。山本訓練生は一体……」


 なにか自分の知らない話が展開されている。

 それは有栖刻長官を狐につまませた。

 

「普段から勘の良い、余が重用する賢臣らしからぬな有栖刻。綾人ともうひとりを捨て置き、余が須佐を優先したのは何故だった?」

「数百年に一度しか現れぬ、天照大御神様の弟神、須佐之男命の力持ちし者と夫婦になり、お世継ぎを作るに、その力を皇家に……と、まさかっ!」


 が、すぐに与えられたヒントに気づいてしまった有栖刻長官は目を見開いた。


「このレベルの情報を持っているのは、石楠家だけか。十六夜・ネービス・風音は、文化祭の天下一闘魔会での出来事を目の当たりにしてから、一番注目してそうだ」

「誠に恐れながらぁ、同じ場面にお供させていただきました♡ 山本様が須佐猛流様を下したのも、そのために《草薙の剣》を振るったのも♡」

「なっ、奴が!?」

「それは……信じがたいことだが、山本少年も因子持ち……」

 

 その発言に微動だにしないのは、幹久だけだ。


「貴女様迄ご存知で、この場で言われてしまっては、もう隠す意義も価値もないようだね」

「み。幹久殿……」

「以前、三泉温泉ホテルで絹人さんと意見があった『人間ではない』って話。あれね、本当なんですよ」

「しかしあのとき、真実を伏せて幹久殿は山本少年を灯里嬢の婿に迎えたいといった。その理由は……」

「神の血と力を、是非にとも我ら妖魔の側に取り込みたいと思った故です」


 が、幹久も笑みはぎこちなく歪んでいた。


「待て、待て、待て……須佐猛流と同じ因子持ち。なら、徹も……」

「……徹?」

「あ、いや、何でも御座いませぬ」

「まぁいい、そういうことなのさ。一徹くんは……もう一人の須佐。二人目の《闘神》」

「なんて……ことだ」


 打ちのめされた有栖刻長官、放心したように背もたれに身体を預けた。


「須佐とは《闘神》に当たれられる称号。なら山本一徹君改め、その名を須佐一徹としますか?」

「それでなお綾人を私の正夫としようとしているのが、絹人以下、蓮静院家ひいては、関東退魔への誠意だよ」

「少年に須佐の名を与えたと広く知られれば、それこそ彼を陛下の夫として招かざるを得なくなる」

「それは、これまで余に忠誠を誓ってくれる関東退魔への不義理になるのでね。それに一徹くんを仮に夫に迎えるなら、皆出身一家に注目する。全員死亡。親戚に預けられてましたなど、ゴシップ誌ならスキャンダルだと騒ぎ立てるだろうな」

「陛下、一つ……」

「ほぅ? 君から発言とは珍しいね。徹新」


 女皇四季以外、どうしていいかわからなさそうななかで、一歩前に出たのは《灰の勇者》徹新だった。


「婚約者がいるはずです。ルーリィ・セラス・トリスクト。他にもシャリエール・オー・フランベルジュや女子数人」

「あぁ、それについては……彼女達に諦めてもらうしかないだろう」

「諦めさせる?」

「もはや一徹君は《現人神》。彼の持つ《闘神》の血と力は、《三原神》の長、《天照大御神》の血と力を持つ異能力者棟梁である私、同じ《現人神》が集約、管理すべき。否、それ以外が持つべきじゃない」

「そんなことで、仲を裂きますか?」

「あぁ、そんなことで私は彼らを引き剥がしたい。彼女たちは留学生なのだろう? そのうち故郷に帰る。その時、我が国最強武神の種を手土産にされちゃたまらない。一徹君との子は、私が成す」


 あからさまに徹新は不快げだ。

 その雰囲気を察したのか、クスクス笑いながらシャルティエは徹新より前に出る。


「力の源がどこか確信しているなら良いですが。血脈で《天照大御神》の力継ぐ陛下と違っていたら、産まれた子は無用の長物とされてしまうのでしょうね?」

「あぁ、そういう展開、私達二人本気で嫌いだからぁ、もしそうなったら、女王陛下であっても殺すわぁ」


 特にシャルティエは、しかも皇に対しても殺気を隠そうとしないから、この場のすべてが凍りつく。


「その場合は問題ありません。陛下の愛人で招き入れてなお、大義名分は私の夫にするつもりですから。養子にでも迎えましょう」

「き、木ノ下ネネ。物静かで普段は陛下の金魚のフン宜しくついてるだけの貴女が、ここで出てくるとはねぇ」


 予想外、皆がプレッシャーに押されなお、根暗っ娘ネネも前に出た。


「血による継承でなければ、《闘神》との契約者である可能性が高い。私と陛下は遠縁。なら、いずれにせよ徹の身柄は皇族で抑えられますし」

「皇の為なら自身の婚姻も厭わない。良いわねぇ。なかなか狂ってる。本当の意味で、あなた達二人、壊れてる」


 感情を見せず、うっすら空いた瞳での物言いに、シャルティエは目を見開き歯を見せた。


「壊れていなければ、国など、守れんさ」


 コメカミに汗さえ浮かべるも、思いが通るようにシャルティエの瞳を見つめてシキは言う。


「帰ろっか。シャル」

「いいのぉ長官置いていくつもり?」

「閣下は陛下の側。ならこの場に陛下がいる以上、異能力者代表、妖王でも手は出せない。出せたとしても、陛下が《天照大御神》の力を開放すればなんとでもなるだろうし」


 やがて興味を失ったかのように、徹新はシャルティエの手を取り繋ぎ、踵を返す。


「徹新」

「なんです陛下?」


 ただ、女皇四季が呼び止める。


「私の側につけ徹新。何故かわからないが、一徹君にご執心なのだろう? 私のもとに来れば、一徹くんとも、ともにあれるぞ?」

「……どうでしょうね。貴女がどんな手を打って、仮にルーリィさんらと引き剥がせたとしても、あの人は、貴方の物にはなりませんよ。そんな時間は……いえ、失礼します」


 それでも徹新は、女皇ね呼びかけすら引きちぎる。

  


「日付は……あれから二日後? よし、思った通り隔離されたようじゃないか」


 滞在先として充てられた高級ホテル内の従業員宿直室。


「うん? ククク……モテモテのようじゃないか俺も。だがどうやら、受信する事も折り返すことにも気まずいか。いい兆候だ」


 学院支給の携帯端末を起動させると、数えるのも面倒な数の不在着信。

 メッセージも来てるようだが、今この端末を操作している彼に興味など湧くはずもなく。


 通話、メッセージアプリを落とすと、別のシステムを呼び出す。

 端末を持ち上げてはカメラリバースモードにして、操作者たる自らを映す。


 そうして……


「おはよう。あ、いや、こんばんはかな?」


 柔らかな笑み、目尻は緩んで暖かな声色。


「2日ぶり。昨日は話ができなくてすまない。ちゃんと説明する……と、その前に謝らなきゃならない」


 画面に映った映像に、惚れ惚れしたようにため息をついた。


「もうしばらく、《記憶を失ったもう一人の俺》に、この身体を貸し与えることにしたんだ。だから、君と会えるのは日を跨いでから1時間だけとなる」


 その発言に対し、筆談で返す相手の内容に、彼の笑みはクシャッと歪んだ。


「ありがとう。その気持ちに早く応えたいよ。リングキー」


 今、操作をしているのは《記憶を失う前の一徹》。

 肉体を《記憶を失ったの一徹》に明渡したとてすべてではない。

 真夜中0時から1時間だけ《記憶を失う前の一徹》に肉体が戻す。

 リングキーとの会話だけはなんとしても確保するための時間。

 それが《記憶を失った一徹》が3月末まで余生を与えられた条件。


 ◇


『おい、一体どういうことだ?』

『学校に出るって約一月ぶりじゃないのか?』

『って、なんでまたあそこの席に。 まさかまたアイツと何かしらあるんじゃないだろうな?』


(知らねぇよ。俺を睨むんじゃねぇよ。)


 桐京校2日目は一層周囲の目が痛い。

 席順は昨日のまま。だが昨日は知らんやつ座ってた両斜め前に……


「お、おはよう御座います山本さん」

「お、おうおはよう、山本」


 全国の魔装士官訓練生において最強。NO1《灰の勇者》がおるし、


「貴方なら仲良くしてあげても良いわよぉ?」


 双肩を成し、パートナーとも噂される《灰の聖女が》がおりんした。 


(ま、だからだろうな)


『はぁ? 何? アイツ、ウザ』

『なんですの? なんなんですのあのマウンテンゴリラ?』


 一部の女子から吐き捨てられる。

 俺に山本小隊がいてくれたように、徹新にも山本小隊がいる。

 徹新についてきたのか、三縞校文化祭でも見た顔だった。


(随分嫌われたもんだ……が、気づけば変なことになってるね)


 昨日から今日にかけ、俺を取り囲む奴らは8人。歓迎してくれるのはありがたい。

 3年1組は総勢20名ほど。なんだかんだ半分近くは俺を受け入れてくれるし、クラス内少数派なりとも、俺擁護メンバーは軒並み立場や家柄オバケばっかりだ。


(三縞校の3年1組の例にもれず。桐京の名家の出身者ばかりということだが、実は関東退魔盟主、蓮静院家の傘下っちゅう話だし)


「それで山本さん、もし良ければ、今日お昼とかどうです?」


 集まる大多数の不快げな視線も困るけど、なんか恥ずかしげに申し出る徹新にも驚きじゃ。

 どうせいっつんじゃ。つか、顔を赤らめるな。俺はノンケなんだからね。


「受けてはくれないかしらぁ」


 しかしながら、シャルティエがそんなこと言うなら首を縦に降るしか無いのだよ。

 僕は知ってる。

 彼女はプッツン姫。そして一度キレたらとんでもない。


「歓迎の証です。今日は僕が御馳走させていただきますから」


(ま、飯代浮くに越したことはないな)


「いいよ。んじゃ御馳走になろうか?」

「本当ですか!? やった!」


 いやぁ、OKした途端の喜びようね。

 こいつぁ俺、ケチュ穴隠したほうが良いんじゃなかろうか。


『あ、だったらウチラも参加する〜徹新』

『滅多に登校されないのです。私も是非参加しさせていただきたいですわ!?』

「あ、ゴメン二人共。今日は駄目。他の小隊メンバーにも言っておいて?」

『『なっ!』』

「滑稽よぉ貴女達ぃ。控えなさぁい? 昼の会食はぁ、私にとってご挨拶も兼ねているようなものなのだからぁ」


 なお、俺としちゃ誰が参加しようが構わないんだが。


「私は参加する。伺いではなく皇命だ」


 現にシキは女皇振る舞って押し通す。


「なら、お付に私が居らねばなりませんね」


 だがら側付きの木之下は当然のように差し込む。


「私も参加させてもらうわよ? 山本く……ややこしいわね。第一学院山本君とラブタカさんとの場に生徒会長が出るのなら。私は副会長だもの」


 たまたまゆらゆらについては言い訳が苦しい。


「蓮静院小隊の副隊長が参加するなら、隊員の僕たちも参加しなきゃだよね!?」

「昨日のランチはパワードスーツの装着にかまけて栄養ゼリー補給でしたものね」

「はぁ、本気? 私はもう今日のシェフの手配してるんですけど。外からわざわざ第二お台場に出張してもらって料理を……」

「海姫にこれ以上迷惑は掛けられないし。お前は参加しなくていいんだぞ?」

「行・く・わ・よ!? そんな違和感ないくらい自然にハブろうとするんじゃないわよ!?」


 陸海空3人まで。

 10秒前まで「僕たち3人だけで」と、ランチ同席を桐京校山本小隊女子は断られたはずだった。

 その目の前で圧倒的立場や謎理論でゴリ押された結果、俺含め9人でのランチが決まる

 

(アカン。そんな目で俺を見るな。今回ばかりは俺は悪くないはずなんだからね)


 結局徹新ゾッコン女子からの憎悪の視線は俺に向く。


 ――この学院都市にはタルカという圓とは違う通貨単位が存在する。


「えっと、徹新? ご馳走してもらえるのは嬉しいんだが、ちょっと高すぎないか?」

「いいんですよ。普段お金も使いませんから」


 学業成績や緊急事態時の《アンインバイテッド》討伐数に応じて、またこの学院都市内で店舗経営やバイトとして、そのポイントはタルカに変換され訓練生の給料として支払われる。


「だけど一人12000タルカって……」


 なお圓と比べると、レートはざっと圓の三分の一って所。


(圓換算で4000圓のランチってこった)


 確か都市内のコンビニでバイトした場合、時給1000タルカと聞いたことがある。

 圓換算300圓相当の支給と考えるにこの12000タルカは稼ぐにどれほど大変なのかが伺えてしまう。


「シキ」

「なぁに?」

「ブラックじゃない? タルカ制」


 一圓一タルカなら同じ労働で同じ価値を生み出す。

 1タルカ0.3圓では同じだけ稼ぐに労働時間もざっと3倍だ。

 そう思うと12000タルカの料理代、尚更高額に感じる。どれだけ働かせんねん。


「一応言っとくと、予備自衛官学生としての各手当は、訓練生毎に登録された口座に満額振り込んでる。学院敷地内にいる以上圓は使えないから、Aランク生になって初めて学外に出られた訓練生は全く使えなかった金を通帳で見て知るところになる。無駄遣い出来ず目にするのはわりかし纏まった残高だ」

「なるほど」

「タルカに関しても後で圓に換金できる。1タルカ0.3圓と見た目は悪いが、結局圓になるという意味では、この学院の生徒は収入タイプが2つある。敷地内での労働は必要になるが、この学院にいることで発生する金利だとでも思うがいいよ」

「金利30%か」

「どう? 銀行預金じゃちょっと考えられない利回りだと思わない? しっか〜もぉ……非課税!」

「なぁっ!?」

「ドン!」


 シキの丁寧な説明に、疑問を飲み込んだ。

 その話だけ聞くと、やはり三縞校より桐京は恵まれているらしい。

 その説明があるなら、レート悪い状況でも「働いてみたい」というのはあるかも知れない。


「どう? 他の学院より、入学から卒業迄の支給額は圧倒的。興味あるでしょ。興味あるよね? 桐京に転学しちゃお?」

「しないよ。いい話とは思うがね、俺は収入が高いよりゴロゴロゲームにラノベってのが性に合う」

「またそんなこと言って。一徹くんが実は勤労意欲に厚いって知ってるのだよ〜? ホテル業に従事してるじゃないか?」

「あ、念の為陛下に補足しますと、そこな下郎はウチのホテルの従業員全ての心を、ヘルプ加入たった一日でかっ攫ったようです」

「ナイスインフォメーションだよ高虎。ね? 一徹くん。ホ・ラ!」

「ホラじゃないよ。それにホテル業はなんなら、俺のライフワーク的な意味があんの」

「ライフワークって言っても、経営者一家の一人だし。コレ、貰ってるんじゃない?」


 海姫の話を楽しそうに聞いて、シキは見せつけるように人差し指と親指で輪を作る。

 指してるのはマネーってこった。


「そーだな。訓練から帰ってきて手伝って、お駄賃一日2500圓?」

「うげ! 安すぎ!」


 ただ、俺の回答に目をはっと見開くと、左手を俺の右肩に。右手で作ったサムズアップの親指をクイクイ何処かに向け、


「大丈夫一徹君? 労基(労働基準署)行く?」


 ハラハラと涙流して(演技でも泣けるのは凄いが)いやがった。


「しつも~ん。山本と山本って親戚?」


 タルカ話が一段落しちゃ、割り込んできたのは陸華だった。

 ランチはおファランス料理。

 座った円卓、俺の目の前に出されたコース料理内の一品は、見た目も鮮やかだが、陸華のガキッぽさに高級感のある雰囲気はたち消える。


「ぶっこんできたじゃない陸華」

「ま、気にならないというのは嘘ですものね」


 質問を耳に海姫と亀蛇さんが俺を見るも、ご期待に添えない回答になりそうだから辛い所だ。


「だって山本一徹じゃん。山本・サイデェス・撤新・ティーチシーフじゃん。山本と徹の字が同じ。ティーチシーフの名持ちは山もっちゃん小隊にもいるし」

「ただの偶然だろ?」

「あ、わかった! 山もっちゃんの子供説」

「ブフゥッ!」


 陸華、図々をしらず。

 まさか、大人しめな徹新が、えんどう豆のポタージュ拭いたよ。


「しかもリィン・ティーチシーフとの子供説」

「ボハアッ!?」


 今度ばっかしは俺も吹いた。


「やはり警戒すべきは単純よね。いきなり確信に攻めてくるなら。それで、どうなのシキ?」

「正直なとこ、そんな帰結ならもっと簡単にこと運ぶよまゆら」


 俺も撤新も仲良く咳き込んでる。


「既に一徹君に関しちゃDNA解析は終わってる。最有力候補の徹新との血縁関係はなかった。当然、リィン・ティーチシーフとの関連性も」

「そう?」

「まゆらの一族経営の総合病院に調査を依頼したんだけど?」

「なら、関連性は本当に無いのね」


 咳するに意識しちまって、なんな言ってるのは聞こえなかった。


「単純ほどに侮れないわねぇ。鋭いと言うか」

「シャル?」

「わかってるわよぉ徹新?」


 《灰の勇者》は《灰の聖女》とヒソヒソ話。

 なんや、結局俺おざなりに、第一学院のそれぞれの塊で勝手に盛り上がってるやんけ。


「血縁関係があるかは別として、俺が記憶を失う前には結構繋がりがあったんじゃない? ルーリィやシャリエール、リィンとも親しげだった」

「そうですね。確かに血縁はありませんが、凄くお世話にはなった」

「私の場合は、グレンバルドとストレーナスと因縁があるけどぉ?」

「だから、昼食をご馳走するのは、恩返しの一部分のようなものなんです」


(必要以上に、俺の失った記憶に言及がない。あぁ、そうなのかも知れないな。どうせいつか俺が《記憶を失う前の俺》に戻る確信が、ルーリィやシャリエールにはあった。だから何も語ってくれなかった。コイツも同じか)


「それで、ここの料理はどうですか?」

「え? あぁ、美味しいよ?」

「そうですか。よかった」


(ん?)


 本当にコレ、オケチュ穴手で隠した方がいい感じ?


「ほんとに、良かったぁ」

「コウコウモノねぇ。撤新?」


 野郎何故か顔赤らめ、瞳なぞ潤ませながら薄〜く微笑んでやがりますん。


 

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