テストテストテスト95
「ねぇ、なぁんか三人だけ取り残されているような気がするのは僕だけ?」
「薄々皆何か違和感を覚えているようだが、勘弁したまえ。それでは僕たちの鈍感さを呈していることになる」
「ん、非常に不愉快」
クラス内の空気が悪い。絶望的に悪い。
《ショタ》、《政治家》、《猫》の三人以外、皆腹に一物抱えているような気がした。
「最近はどちらかだったのに。ヤマトの周りが盛り上がるか、山本の周りか」
「文化祭直後は皆で賑やかだったが、今となっては相当に暗いぞ」
「ん~……なんか最近の三組、つまらない。あの時に戻りたいな」
そうなると状況がつかめない三人の方が少数派だから焦りみたいなものがあったのだ。
『そこ! 訓練中の私語は禁止! ペナルティ課されたいのか!?』
対人訓練の時間。
珍しく3年生全員会した合同訓練で叱責され、周囲からの視線も集まり、恥かしさから3人は姿勢を正す。
『フム? 訓練生貴様ら、気持ちにゆるみが出ているようだ。すでにこの時点で99%が進路を決定してることもあるだろうが……』
どんな顔しても威圧感満載の屈強な男性教官が全員を叱り飛ばす。次いでニィッと目じり細め一人を見やった。
『残りの1%、一つだけ腐った果実が混じっていることこそ本来の原因か』
話しながら歩を進め、一人の正面に立った。
『誰の事だと思う。山本訓練生?』
「わざわざ答えさせるように仕向けず、直接『お前だ』とぶつけた方が互いにとって楽なのでは?」
『なっ!?』
「自分はそう思います。教官殿?」
リラックスした声で返したのは山本一徹。実に涼やかな瞳、薄く笑ってさえいた。
『なるほど。とうとう本格的に腐ったか山本訓練生。俺は貴様に発奮を期待した! コケにされてなお『ナニクソ』反骨精神を見出してほしかった』
「反骨精神?」
『俺は悲しい。そして貴様に失望した!』
「端から期待なんぞしてなかったくせに」
そのやり取りに周りは騒めく。
教官を務める者の中で一徹に好意的な者は数えるほどしかおらず、その他全て、無力無能者が学院にいることを快く思っていない。
『まだ言うか貴様!』
一徹に今回絡んだ男性教官もそのうちの一人。
『いいだろう! 貴様には仕置きが必要なようだな!』
「仕置き」の単語が持ち出された途端、周辺が一気に騒がしくなった。
『うわ、徹っちんまただよ。ちょっとやり過ぎでしょ』
『可哀想すぎる。って言うか超あからさまなんだけど』
『教官職になれるのって《
皆今回の男性教官が陰湿であることを知っていた。
『モッチミスったんじゃない? 楯突いたら……』
『いや、あの教官は徹の字が編入した初期から指導の名目で……正直ここまでよく我慢してきたと思うよ。キレてもしょうがないと俺は思うけど……』
その男性教官が一徹との訓練を担当するとき、決まってペナルティや仕置きの名目で一徹に労を課していきた。
『これは正当な処罰である! 皆が最近たるんでいる理由! 一人が足を引っ張る故!』
不意に男性教官が声を張り上げる。
『これより俺は、諸官らを道連れに腐らせる原因に鉄槌を下す! 一部始終を刮目して見ろ! 反面教師として決して山本訓練生の様にならぬと自戒せよ!?』
『ホラ、言わないことじゃ、ないじゃない! モッチ大丈夫なのっ?』
要はこれからイジメるに正当性を持ち上げた。
だから周囲は一徹に心配と不憫覚え、「歯向かわなければ良かったのに」と心で叫ぶ。
毎度罰を一徹に強いるとき、この男性教官はとても楽しそうだから、今回は躾けと称して徹底的に一徹を痛めつける予測が立った。
「……そっかそっか。シャリエールが言った通り、決して楽しいばかりじゃなかったらしい」
意気揚々と「自分は悪くないよ。全部全部山本一徹が悪いんだっ」をアピールしまくる男性教官を前に、心底ガッカリな一徹はため息をついた。
「所詮どの世界においても、
『誰が口を開いていいと言った山本訓練生!』
独り言が聞かれなくても、何か呟いているらしいと気付けば男性教官には十分で、噛みつく理由。
「許可あるまで口を開くな……ですか」
が、一徹は蚊に刺されたとも感じないようにどこ吹く風だ。
「従いましょう? 教官が本当に、
『き、貴さ……』
「教官立場が訓練生の上位なのは分かってるつもりです。それ相応の力があって立場が認められたのでしょう。が、俺は自分の目でその真価を見たことが無いんでね」
『……ほぉぉぉう、面白い……』
一徹は、ともすれば《もう一人の一徹》より落ち着いている。静かで、あまり面白みない。
だが、《もう一人の一徹》と違って、というか、《もう一人の一徹》と同じく高校生の頃は持っていた我慢という概念を持ち合わせていなかった。
『力の差を痛感しなければ分からないということだな?』
「話が早くて助かります」
我慢という単語自体、ぶっ壊れてしまったと言っていい。
「俺も昔は我慢強い方だったんだがなぁ。だーめだ。今じゃ大人らしく振舞おうとするだけで実がついてこない。すぐプッツンしちまう。こういう時、《もう一人の俺》の我慢強さを羨ましく思う。否、今回は暴れる方がいいのかな?」
我慢せずに爆発させてしまう方が、「話を早く
『なれば仕方ない。大人として抑えるべきところかもしれないが、今この時だけ俺は、山本訓練生に世界の広さを叩き込むため鬼となる』
いつもの一徹なら揉め事を嫌う。「さーせんさーせん」繰り返しながら甘んじて罰を享受した。
『覚悟……しろよ? 無力無能が……』
苦しそうな一徹の様を目に、この男性教官はいつも、存在として勝ったような気がして愉悦に染み入っていた。
だからこそ今回の様に意趣返しされたことは耐えかねた。面白くない。あってはならない。
『前に出ろぉぉぉっ! 山本一徹ぅぅぅ!?』
教官は一徹が前に出るときにはもう、ランス形態に具現化させたマスキュリスを向け……
GAZHUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!
『ンヅゥッ!?』
突然の号咆に思い切り退ってしまった。
「ク……クク……クフゥッ……クヒッ」
教官だけじゃない。驚いて一徹の付近にいた者達皆が弾かれたように一徹から離れた。
「抑えろよ銀色マンジュウ? お前は少々、
退がった男性教官が先ほどまで立っていた場所に此度一徹が立った。口角はつり上がり、歯も見せた。
「まさかとは思うが、得物持ち出してシツケ宣うんだ。無抵抗なんてあるもんか。チカラを、見せてくれるんだろ?」
ドクンドクンと脈音を立たせながら、音と共にその身波立たせる大戦斧を肩で担ぐ。
「まずはA面、《
なんと禍々しい大戦斧のフォルムか。
誰が見ても、普段の一徹と違うのは明らか。
「山本流斧刃術。初代筆頭斧術師。開祖。山本・一徹・ティーチシーフ……参ろうか?」
名乗りはあまりに淑やか。一歩踏み出す時も静かなものだった。
『あ……ヒ……』
一合たりとて武器同士は交わっていない。初撃すら繰り出すことも繰り出されることもないのに、男性教官はピクリともしない。
『どうした? 分からせてくれるのだろう?』
そんな教官に、一徹は一歩一歩時間をかけて近づいていく。
肩に担いでいた大戦斧は肩から降ろし、斧頭など地面で引きずっている。
じゃ……ジャリ……ジャリリ……
地面をひっかき、削る音の煩しさ。
『なんだよ。そちらは
が、それと共に、その大戦斧がどれほど重たいのか誰もが理解できてしまう。
そうして結局だ。一徹がゼロ距離となるまで教官は微動だに出来ない。
ゼロ距離? ならば互いの得物を振るうに取り回しがきかないではないか。否……
「山本流斧刃術B面、《
声と共に、大戦斧は柄の中心から2分する。一徹の両手には、瞬時に大ぶりナイフと片手斧が握られた。
「ホイッサァッ!?」
『ヒグぅッツ!?』
猟奇的な喜びの声と共に、二振りが翻る。
左手にとった片手斧の頭を思い切り教官のランスに横から叩きつける。衝撃で武器は教官の大外に流れてしまう。
その状態で……
「大丈夫です? 教官殿。すでに今の一回で、死にましたが」
右手に握られた大ぶりナイフの刃先が、教官の首筋一寸のところまで来ていた。
教官も、首筋に据えられてからナイフの軌道にやっと気づけたのだろう。驚愕の表情で、口をパクパクさせるのみ。
「さて、教官殿?」
身じろぎ一つ結局できなかった男性教官の耳まで口元を一徹は近づける。
「
ボソリと囁く。
「俺に対する舐めた態度が、どうやらこの学院の教官陣の中ではびこっているらしい。知らしめろ。いつでも、なんどでも
「ヒッ……」
「あぁ、広めるのは無理そうか。それって結局アンタが、俺如き無力無能に負けましたって自分で吹聴するようなもんか」
ゾゾッとしたものにブルりと身を振るわせた教官に一徹が興味など持つはずもなく。耳元から口を離し、体も遠ざかった。
「ありがとうございました教官。最初の一手だけ俺に華を持たせてくれたんですね」
そこから一徹は爽やかでしつこさの見えない笑顔を見せる。
『なんだ、そういうことかよ。いくら柔道最強でも、山本が教官に一手刺せるわけないもんな?』
『意外といいところあるんだあの教官も』
皆はその笑顔に騙されてしまったが……
「それで?
『い……いい……』
「本当にいいんですか?」
立ち会った教官にしては何か無力無能山本一徹が恐ろしくてならない存在にしか見えなくなった。
「実力でもって俺に分からせるのでは?」
『つ、次からは気を付けろ……
「はいっ♪」
にこやかで、聞き分けの良い返事を返す一徹の笑み。
「お帰り~今日は運良かったね山本。罰らしい罰をあの教官から受けないって今日始めたじゃない」
「いやぁ、今回の事で教官殿の懐と器の大きさを知ったよ《ショタ》。俺もああいう大人になりたいよ」
「殊勝な物言いだな。山本らしくない」
「ん、キ・モ・い」
「3月の卒業まで時間無いし、もうそろそろ大人っぽくありたいなってさ。《政治家》だってそうだろ?」
「あと……ん~チョイ残念。苦し気な山本を見ると面白いのに」
「期待に応えられなくてスマナイな《猫》。ま、次回に乞うご期待でどうだ?」
とんでもない。
結局訓練生の列に戻って、クラスメイトに迎え入れられた時に浮かべる表情も全く同じ表情でピクリとも変わらない。
笑顔の仮面を顔に張り付けただけ。誰もその裏の感情が読めない。
自分で食って掛かったはずなのに、男性教官は空恐ろしくてならなかった。
☆
「では、本日はここまでとなります。各位解散してください。お疲れさまでした」
「「「「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」」」」
本来の一徹に戻ってから学院初日が終った。
「ルーリィ。一緒に帰ろ……」
シャリエールが教室を出た同時。三組全員、緊張が解けたように席を立ちあがったり、座ったまま伸びをしたり、近くの者に話しかけたり。
「おっと、また君か《ヒロイン》」
「だから、私をその名で呼ばないで頂戴」
「はぁ、参ったなぁ」
第一に一徹はルーリィに話しかけた……のだが、ルーリィは目を伏せって気まずそうな顔で俯いてしまう。
瞬間で灯里が間に入った。
「ルーリィ取りなすために、シャリエールとは帰りを別にしたんだが……」
なかなかうまいこと行かない。
「貴方、舎弟たちは良いの? 山本一徹は、《山本組》も大切にしていたけれど」
ルーリィの親友を自称し、実際に守る灯里を排除するわけにも行かない。
「本来の俺に戻った時点で正直、《もう一人の俺》がこの世界で構築した人間関係とかその他環境なんざ興味ないんだがなぁ」
忌々しがちに小さく呟いた一徹は、苦笑いで天井を仰ぐしかできない。
授業終了直後のファーストアクションがコレだから、三組全員が注目した。
「そ、そうだ! もうすぐ定期テストも近いじゃない。皆でまた勉強会しない? 綾人のお屋敷で」
「また俺のところに来るのか《
「勉強会ということなら僕も参加するとしよう」
「ん~、
「《
あまりの空気の悪さに耐え切れず《
「しゃあねぇな。こっちの
ルーリィ本日何度目かの拒絶に、瞳を右手で覆って聞こえないよう漏らしたのち、一徹もその手を挙げて立ち上がる。
「たまには勉強するか。俺も参加で」
だが、その瞬間だった。
「スマナイ。今日の勉強会との縁は俺にはない」
「私もパスさせてください。家からの急務がありまして」
「どうするルーリィ?」
「また誘ってほしい。私は……ちょっと今参加できない」
「そーいうわけよ悪いわね。石楠、トリスクトもパスで」
「あ、灯里。テスト対策の勉強なら俺も……」
「ごめんなさいヤマト。今はヤマトにもかまけてられないの。どうせ勉強会に参加するつもりないんでしょ? でも、だったら一人でやって頂戴」
一徹が参加を表明したのを皮切りとでもいうように、5人もが辞退する流れとなってしまう。
「さてぇ? これだけは言っておかなきゃなようだね。俺には……敵対する意識は全くないんだが?」
瞳も真剣に訴えかけた一徹へのリアクションは3種類だ。
ルーリィ、《
《
《
「……なぁ《
そのリアクションを目にしたゆえか、一徹は勉強会メンバーに呼びかけた。
「どうしよっか俺。なんか随分と嫌われたっぽい。皆が嫌うなら……お前たちも俺の事を嫌うか? それはちょっと嫌なんだわ。居場所を無くす」
「「「「うっ」」」」
「俺、何かした覚えもないんだよ。悪いことしたつもりはないのに、4人も離れて行きやがった」
「「「「「ぐっ」」」」」
非常にズルい話運びだった。
5人も一徹から離れた。それで更に4人が離れて行ったとする。「イジメにも違いなくて、お前たちも加担するつもりか?」とあえて牽制した。
では離れた5人に対して。
「自分は悪くない……のに離れて行ってしまった。良心は痛まないのか?」と。こちらも明言避けているだけで、批難に違いない。
この発言には《
「そしてね……ルーリィ?」
「うくっ……」
「なんだか元には戻り切れてない感覚がする。俺は元に戻ったはずなのに、ルーリィだけが、元に戻ろうとしてくれない」
「そ……れはっ……」
「戻ったことは……お前が俺を許せないことなのか? いけないことだったのか?」
「違うっ!」
そうして、また嫌らしい問い詰め方を一徹が見せる。
「違う……違う……けど……クッ」
「え゛?」
追い詰めてしまった。
だから逃げるように、足早にルーリィは教室を出てしまった。
「ルーリィっ!? クゥ~ッ……サイッテェッ!」
見せつけられたものだから、灯里はキッと一徹を睨んで、ルーリィを追いかけに同じく教室から飛び出した。
「んあぁぁぁ……最低ね。分かってるよそんなこと俺だって。やらかした……」
先ほどは両目を右掌で覆ったが、今回は両掌で顔全体を覆った。
「んぐぅぅぅぅぅっ! ふぅっ」
しかし、切り替えた。早かった。
机の中から教本取り出し、バッグに入れて肩に担ぐ。
「じゃ、《
「え? 山本はそれでいいの?」
「んむぅ、この場面は追いかけるべき」
「少しは考えたまえ。今日のトリスクトはこれまでで一番様子がおかしいぞ」
「追いかけたところできっとルーリィは俺の話を聞かない。悪いな。変なもの見せた」
「そして様子がオカシイのは貴様もだこの阿呆が。ことトリスクト絡みでは決して貴様は『変なもの』と指さなかったろうがっ」
「えっ? そうなの?」
「「「「「「「はっ?」」」」」」」
「あ、いやなんでもない。って、いーから早く、準備っ」
クラスメイト達にとって一徹は信じられないことを口にしたのだが、今の一徹にとってそれがなぜかは分からない。
煽ったことで勉強会チームはいそいそと準備し始めたのだが、何度も首を傾げていた。
「時間を要す……か。時間をかけて説得する場面か。はたまた《もう一人の俺》を忘れるまで時間を要すか。さて……時間……ね?」
「ん、なんか言ったっぽい」
「何でもないよ。別にね」
正直クラスメイト全員、何処か一徹との噛み合わなさを感じていた。
☆
思わず飛び出してしまったルーリィにアテなどない。
ただ学院だけは出たかった。
(下宿にも戻りたくないな。あそこは思い出が強すぎる。だからと言って毎度灯里の迷惑になれるものか。灯里
正門を直前に、立ち止まってしまう。
「灯里
ギュッと握りこぶしを作って胸に当てた。
問題ない。ルーリィには一徹がいるのだから。
「私には一徹がいる。それは間違いじゃない。私の一徹が……今の一徹だった。なのにどうして? こんなにも……虚しいよ一徹」
「ねぇ、なんで?」
「えっ?」
「『弁えて欲しい』って、私に言ったよね?」
そんなルーリィに後ろから声をかけてきたのは……
「魅卯……少女……」
責める表情。瞳からは嫌悪。
「トリスクトさんがまだ山本君に再会する前、衰弱した山本君を日常生活を取り戻す為に関わったのが私の始まり。そしてトリスクトさんは私と山本君を『
受け止めたルーリィは、しかして返す言葉が見つけられない。
「山本君、文化祭が終ってからいつもトリスクトさんの背中を目で追うの。人だかりにあってなお、遠くを眺めるようにいつもトリスクトさんの姿を探している。それも……私の隣で」
「その言葉……」
「山本君が後ろめたさを感じぬよう。私に気を使うことないよう。私も何でもないように振舞ったよ。でもね、その結果が……
これがワザとかは分からない。が、逆地堂看護学校文化祭最終日で自らが放った言葉と酷似しているように聞こえた。
「私の手元には、山本君を繋ぎとめる、山本君の真実はない。どうして『本当の自分は何者なんだろう』って山本君が意識していたか分かる? 比較されてトリスクトさんやフランベルジュ教官たちを落胆させたくないから」
「それは……」
「山本君、どんどん私から離れて行く。日に日に焦りが強くなるの。所詮私はただの同級生。婚約者にむかって清々しい程真っすぐな山本君の背中、全然手が届かないのが虚しくて、眺めるしかできないことが凄く悲しかった」
スカート裾を握る両こぶしに力が入って震えている。俯きがちに発せられた声は絞り出されたようで感情がこもり切っているのがルーリィには嫌だった。
「無情感、葛藤。黒い感情は人の正常な判断を狂わせるってこの前トリスクトさんが言ってくれたけどなお、抑えられない」
ルーリィだって分かってしまう。魅卯だって本当は、こんなこと面と向かって言いたくないはず。
「本当に浅ましい。最低だね私。でもね、今回ばかりはぶつけないと気が済まない」
だが、言わなくてはならない。そのような場面になってしまったのだ
「み、魅卯少女、私は……」
「
「ッツ!?」
「アレは誰!? 山本君の顔した、山本くんじゃない人はっ!?」
語り掛けてしまったのは、ルーリィの失策だった。
「あの人……山本君が記憶をなくす前の存在じゃないの!? なんて呼べばいい!? 山本一徹さん!?」
明確に誰かと敵対するなどイメージすらつかない魅卯の、静かな断言に、絶句させられてしまう。
「『君では一徹は手に余る』って言ってたよね?」
「み、魅卯少女……」
「『私やシャリエール
「頼む。今日はもうその話は……」
が、魅卯が畳みかけるから、ルーリィも止まるように懇願し始める。
「ゴメン。止めるつもりないから期待しないで。今日だけはトリスクトさんからのお願いを理解したくない。責めてるんだからね?」
これまでルーリィが押し込んでばかりだった魅卯に圧され、ルーリィは呻くことしかできないでいた。
「山本君の事、心配するなって言ったよね?」
「……うぅっ」
「私を見てっ!」
魅卯は、この話からルーリィが逃げようとしているが分かったから改めて声をかける。目と意識を合わさせた。
「
「
「
わざわざ意識を向けさせてまで放つ言葉だけあって、重すぎるセリフに、ルーリィは反論を許されなかった。
「だから弁えて欲しいんだなって私も思った。山本君のそばにいるべきは、トリスクトさんであって私じゃないんだって。私はその言葉ね、私が出会った、記憶を失った山本君の為に言ったものだと思っていた」
「私……は……」
「本当は違ったんでしょう? あの言葉は全て、山本一徹さんに向けた者であって、山本君に向けたものじゃなかった」
「違……私は……」
魅卯が止まらないから、ルーリィは後ずさり。言葉も震えていく。
「記憶を無くした一徹の事を本気で愛……」
「だったらせめてっ! 記憶を無くした山本君は私に守らせてほしかったのに! 心配させてほしかった! どうして取り上げたの! 私……
「……あ……」
……飛び出した一言。ルーリィは胸も頭も穿たれたように……
「そう、本当に好きだった。トリスクトさんの言う一徹が、山本君の事だと思ったから関係を壊さないように我慢して来たのに。でも……」
放心状態にさせられた。
「山本くん、居なくなっちゃった。
「私……一徹を……守……れなかっ……」
言い切って、恨みがましそうに涙浮かべる魅卯は校舎へと走っていく。
強い言葉をぶつけられたルーリィは、呆然と立ち尽くすのみ。
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