テストテストテスト92
「まったく、皆に誤解させるようなことを言って迷惑をかけ、猛省し給えよ山本君」
「……どう考えても、主犯は言葉ったらずな陸華で私ではありませんよね?」
「はぁ? 実にイカンよそういうのは山本君。己が失態を女子に押し付けるのは」
(絶対に俺のせいじゃない。断言だ)
激高したシキをなだめるのはそれはもう大変だった。
奴さん、どこぞから持ってこさせたカッターナイフを右手に握って、一目憚らずに俺のズボンをずり降ろそうとしやがったくらいだし。
「ねぇ、変態」
「どーした海姫」
「なんだってアンタこんなにも姫殿下と仲良さげなのよ」
「お前ちゃんと目ぇ付いてんのか? 仲良かったらもっと優しいだろうが」
場所は変わって学院都市内ゲームセンター。
やっぱり何をプレイしようが異能力センサーが仕事した。
コックピットが遊技台なレースゲームじゃ、ある一定の速度から「異能力を発揮してください」なんて表示が出てくる。
音ゲーに関しちゃ、通常のボタン操作以外に、異能力を通して初めて機能するボタンがあった。
シューティングゲームに至っては、異能力上級者なら一発で仕留められる敵も、無能力者は7,8発当てないと倒れてくれない。
実に俺だけ無駄にグロッキーだ。
「真剣に聞いてるの。姫殿下なんて私たちは呼んでるけど、実際は正真正銘のこの国の
「そうなんだろうねぇ」
プレイの最中、海姫が顔を寄せ、ヒソヒソ囁いてくる。
止めて欲しい。性格は超絶クソドブスの癖に、容姿だけは超絶良いから変な気分になりそうだ(ちょっと顔動かして何かの拍子にチューしてやろうかコノヤロー)。
「って、あれ? なんかお前だけ違くね?」
「違うって何よ」
どう反応したものかと苦笑いの最中に気付いてしまう。
「おぉ! 凄い凄いシキ姫っ!」
「剣が得物な割に射撃の成績がいい理由。貴方密かに練習しているわねシキ」
「一発で付近の敵まで一層とは。さすがシキ姫殿下の異能力ですわ?」
「……仕事サボって遊んでいますね? シキ」
「せっかく陛下が魅せてくれたんだ。よーし僕も頑張らなきゃ」
周りの奴らのシキへの接し方だ。
「なー海姫?」
「な、何よ……」
「おま、この中で最下っ端?」
「んにゃぁぁああっ!?」
そうなんだ。
皆は親しみを込めてかかわりを持っているのに、どことなく海姫だけは敬意というか、恐れ多さを滲ませているというか。
「しょ、しょうがないじゃない! まゆらと木下さんは幼い時から陛下の学友で親友だし、空は武士の世が皇に渡る際に時世を呼んで皇家に付き今日まで支えた」
「陸華は?」
「竜胆家は桐桜華舞踊の大家。桐桜華重要無形文化財を現代に次いできた実績は陛下もお認めになっている」
「お前んちだってこの国一の陶磁器輸入会社じゃないの」
「ご縁らしいご縁が出来たのは、私が異能力者でこの学院に入り、恐れ多くもご学友の一員に加えていただけたからよ。そりゃ確かに、オリンピック選手になった時、お声かけ頂いたこともあるけど」
皆が盛り上がっているさなか、肩を人差し指ツンツン。
「なんでアンタは姫殿下の覚えがいい訳?」
「わかんない」
「わ、わかんないって。そんな、ばっさり……」
ジィっと、探るような目を向けやがる(イラっとするから犯すぞテメー)。
「アンタ分からないこと多すぎ」
「さてぇ? お前らがウチの宿に泊まってくれたように、三縞校の文化祭では姫殿下がお過ごしあそばれてな。大層お喜びだった。ご褒美じゃない?」
「そんなことで? それに陸華のあの傷だって初めはアンタとのセ……せせ……」
「せ?」
「セッ……SE……戦闘によるものだって言うじゃない。にわかには信じられない。アンタみたいな一般高校生が陸華にあれだけの傷を負わせたというの?」
「……ん? は? 俺、一般高校生?」
「頭悪いの? アンタがそういったんでしょ? 三縞の普通科高校に通ってるって」
「……あっ!」
(そんなことも言ったかもしんない。だけどこやつ……)
「しかもそんな皇宮護衛官の制服なんて纏って姫殿下と歩く。気を付けなさいよ。変な誤解を周りから受けても知らないわよ?」
(アホ……なのか?)
どうだろう。
あんまり自分でも考えたことはないんだが、三縞校の人間であることは都度都度奴の前で晒しているはずなんだが……
「あの絡坐とも闘ったって聞いたけど。よく無事だったわね」
「あぁ、そいやアイツ今何してんの? や、絶対に鉢合わせしたくないけど」
「鍛え直すって嬉々とした硬道監督に可愛がられてるけど。ねぇ、アンタ……何者なの? 山本」
(お?)
次の言葉を紡ぐ前、見てしまった。
俺達の話を聞いてたであろう亀蛇さんが、たおやかな笑顔を作って口元に人差し指を立てていた。
(黙ってろってことか)
「女体に興味が尽きない18歳」
「うん、死ね♪?」
黙っているのも面白いかもしんない。
ゆえ、はぐらかした俺に鋭い一言が突き刺さってなお、俺にとっちゃどこ吹く風でゲス。
(ま、《オペラ》の中じゃ亀蛇さんは超現実主義な戦略家っぽいから、その時が来たらバラされんだろな)
「おぉぉぉっ!? なんだいなんだい!? 疑いが晴れたからって正々堂々ウチのカワイ子ちゃんにナンパ掛けないでくんないかなぁこのドスケベエロゴリラ」
「陛下ぁっ!?」
「ナンパだなんてとんでもないよシキ姫。もう海ちゃんと山もっちゃんは出来てるんだからっ!?」
「「「「「えっ?」」」」」」
(ん、おやぁ? 何だろうこの、陸華の不用意な発言に対して、全員が「えっ」と驚きの声を重ねるって、なんか
「あ、そうだ。言ってなかったかも。海ちゃんと山もっちゃんはカレカノなんだ。海ちゃんが「山クン」って呼んで、だから山もっちゃんは
「なん……だと? 付き合ってる……だってぇ? おい、初めて聞いたぞ高虎? いい度胸しているねぇ君ぃっ(怒)」
「ヒィィィィィッ」
(ウン、なんか壮絶に嫌な予想しか生まれてこない)
基本的に常に人の上に立っていたであろう海姫。上から潰されるのは、慣れていないっぽい。
……その様が笑える。
ご飯一杯食える(お笑いな海姫で3杯は、米が勿体無い)。
『お楽しみ中申し訳ございません陛下』
ワチャワチャやってる海姫を生暖かく見守ってた俺は、そこでゴゴゴ……なシキに掛けられた声を耳にする。
『陛下、お呼び出しでございます』
声のもとに目をやる。
おっさん男性。
誰とは知らんが、ウチの教官の着る服装と似通うなら、似た立場だろう。
「おっ? この私を呼び出すとはふてい奴もいるものだ。で、誰だい教官殿?」
ガーサス皇だから、大人相手でも気を張ることないシキは闊達に笑った……
『この桐桜華皇国で、陛下より上位におられる方が2人以上いらっしゃいますか?』
「ひうっ!? ま、まさか……」
なんぞ、男性教官が匂わせるまでのお話。
『木下ネネ。貴官もだ。相談役、しかと務められているかとな』
「う、承りましたとお伝え下さい」
よーけ分からんが、話が出た途端ふたりとも顔面蒼白だよ。
『お楽しみはここまでだ。諸官らはここで解散し全員帰路につくことを命じる』
「「「「えぇぇぇぇぇ?」」」」
んでもって、次いだ命令に俺以外のすべてが怨嗟の声を上げた。
『それと……山本訓練生』
「えっ?」
『貴官にはその間、陛下の執務室にて待機してもらう』
「はっ?」
『復唱を』
「や、山本訓練生。陛下の執務室で待機します」
男性教官に対しては俺も驚きの声を上げたいくらいだ。
二つ分からないことがある。
陸華たちの反応を見るに、この第二お台場に俺がいることを知るのは、シキと木下さんだけのはず。なぜこの教官は普通に俺の名を呼べたのか?
しかもこちとら皇宮護衛官の格好をしているのだ。
それ以上に気になる事、待機場所を陛下の執務室に指定されたこと。
こんなこと言っちゃいけないが、一介の男性教官がこの国の皇の執務室に部外者を待機させることなどできないはずなのだ。
(気になるね。シキさえ押さえつける立場がいるとでも言うのか? だからその何某かの命に沿うために遣わされた男性教官の発言力が増した……か?)
『では早速だがお連れします』
「はぁ、是非もない」
実質シキは諦めたようにため息をつく。
その命に、命じた誰かには抗いがたいということなのだ。
「ゴメンね山本君。野暮用が発生した。ちょっとだけこの場を外すけれど、おとなしくお利巧に待っているのよ?」
「こちらは宜しいのでそちらにご集中くださいませ。無下に扱えないお呼出しなのでしょう?」
「くぅっ、何か君に気を使われると悔しいね」
これにて場は締まる。
男性教官の後をすごすごと連行されるシキと木下さんの背中を眺める。
「じゃね、山もっちゃん。今晩泊まるところなかったら連絡してよ」
「女の子がそんなこと言わない! なんか色々私の知らない話がありそうじゃないこの変態! 覚悟しなさい? 次回こそ根掘り葉掘り聞いてやるんだから!」
「フフフ、笑いに事欠きませんね山本さん。どうです? いっそのこと桐京校に転入されては?」
「な、何言ってるんですか亀蛇先輩っ! お連れさんが来たらかき乱されてばかりで!」
「真に受けないの解人様。空麗は、面白いから言っているだけなのだから。それで……山本君?」
「どしたい?」
「宗次殿に連絡を入れましょうか? きっと蓮静院本家から迎えの者を寄越してくれる。そのまま三縞に届けてくれるかも」
「そこまでね、迷惑をかけるわけにはいかないよ。そう言ってくれる玉響さんには感謝だけど」
「そう?」
二人がいなくなったからか、蓮静院(弟)小隊、《オペラ》もその場から去っていった。
「さて……陛下の執務室で待機ね?」
全員去って俺一人。
なまじさきほどまで俺を囲んでいたのが騒々しい奴らばかりだったから(つまるところ俺はお淑やかなな奴って理解)、取り残された後に残るのは、妙な虚しさと静けさ。
「……緊張、パネェ」
手持ち無沙汰ってところもあるから、さっさとゲーセン後にする。
――陛下の執務室にほどなく到着……までは良い。
「なぁんか落ち付かねぇ。いや当然と言えば当然なのよ」
国民カースト最底辺が、皇陛下の執務室で待機するなど古今東西許される者ではない。
調度品に触れるのはもっての他だし、棚に敷き詰められた書籍なんて実に難しそうで、読んで暇つぶしにもなるまいよ。
「ゴクッ」
ただし一つだけ俺の心の揺さぶるものがあった。
執務室というからにはシックで高級そうな木製の文机は実に相応しく、良く映える。
そして机があるからには……椅子があった。
考えてみて頂戴よ。この椅子は誰の椅子?
そうシキの、四季女王陛下が使う椅子。
玉座ではない……が、それだって間違いなく、皇のみ坐すること許された座台なのだ。
(だ、誰もいないよな……)
そう思うと、ふと室内に視線巡らせる。
(誰も見てないし、皇の部屋だってなら監視カメラだってあるはずがないんだ)
執務室の廊下へと続くドアに耳を付けそばだてる。
よしよし、誰かが廊下から中の様子を気にかけているような感じもない。
「しめしめ……」
見つかったら……首ちょんぱだろうか。
しかし「押すな」と言われたボタンがあって押さないのは、ヒトという知的生命体に与えられた冒険心を無為に弄する愚行ではなかろうか。
「おーい、いいんですかぁ女皇様ぁ? 貴女の御坐に今、薄汚い私めの尻が乗っかっちゃいますよぅ?」
バレたらヤバい。でもしたい。
「次陛下が座るこの椅子は、今日のところは俺のケツによってホカホカ温められてだなぁ」
俺、Mかもしんない。
達成と極刑に近しい罰が与えられかねない狭間のハラハラスリルと葛藤が、堪らん。
「執務室を通して成立する皇と最下層民の
なぁんて、一人楽しく宜しくやろうとしたところ。
腰を掛けようと、椅子背にして屈んださなか、とあるものが目に入った。
「なんだこれ? 『第三魔装士官学院三縞校、三年三組、山本一徹』……だ?」
トップシークレットだのコンフィデンシャルだの極秘だの機密だのが表紙にスタンプされたファイル。
見まごうわけがない。表題はまさしく俺の名だった。
椅子に座る前、机に両手あてて寄り掛かった時、書類の山が崩れ、現れたのだ。
どうにも気になってしまってファイルを開ける。
「ッツ!?」
言葉を……失うしかなかった。
「登録名、山本一徹(
俺の顔写真が、ファイルに載っていた。その横のプロフィールの、あまりのバッサリ様に、言葉を失った。
(知らなかったわけじゃないだろう? だけど、あらためて見ると……響くな)
「お……い? どういう事なんだいったいこれは?」
次のページを開く。
血縁関係、DNA検査欄に関して「該当者なし」は、まだ良い。
問題はその隣。「注意、本件の調査追及の一切を禁ずるものとする」の文言。
言及されている当人として、ゾワリとした寒気を強いられる……だけじゃない。ファイルをシキが持っている以上、シキに報告された者であるはず。
……皇に対して、「
更に……紙面を指で下に向かってなぞって行く。
「■■■夏祭りにおける《転召脅威》について、■■■■の生徒会長、■■■■と■■■■の活躍にて……」
部屋の中は暖房で暖かい……はずなのに……
「■■■■文化祭における
寒気が酷くて体がカタカタと震えた。
気持悪いのは、寒いはずなのに全身から汗がにじみ出るのがわかるからだ。
なおこの報告書には努力の跡があった。恐らくシキの努力によるもの。彼女の筆跡には見覚えがあった。
「
今のような黒塗りの部分に、まるでルビ振りの様にメモ書きを残していたのだ。
「
(ちょっと待て。何か……ヤバすぎないかコレ)
ヤバすぎる。その対象は色々あった。
報告はきっと俺が行ってきた事実。しかし黒塗りに潰されて知らせないこと。その対象がどうやら俺についてな件。
さらに、一国が真剣に調べてなお、俺の素性が一切明らかになっていないこと。素性を調査することがタブーになっていること。
二つだけ分かることがあった。
俺の行動のすべてが、なぜかわからないがこの国にとって禁忌扱いになっている。
もう一つ。恐らくシキは俺の調べたい……が、皇の調査意欲に対して、絶対に調べさせないもう一つ目の思惑が働いている。
「……お……イ? さらに、こんなものまで出てくるかよ?」
ファイル拡げてワナワナやってたからか。ポロリと落ちた物があった。
「……地雷臭しか……しないのに……」
拾い上げたのは、透明なハードカバーケースに入った、携帯端末用の
今回こそはさっきと違う。
シキの椅子に座る座らないとかじゃない。
「駄目だ」と心が叫んでいた……のに、自然に身体は動いてしまう。
メディアカードには、シールが貼られていた。
木之元さんの名前が書いてあった。題名は……「山本一徹、文化祭時発生の《転召脅威》における活動録」とね。
☆
「一徹様、久しぶりに帰ってきた私たちに喜んでくれますかね?」
「絶望を送ろうシャリエール。一徹は少し前、第三者に向け『ルーリィは俺の嫁』と言ってのけた」
「聞く耳持ちませんねぇ。私が実際に聞いたわけじゃないですからねぇ」
「本当に、食い下がるな君は……」
無理を通し、一週間と数日ぶりに二人は三縞に帰る。
三泉温泉ホテルの送迎ロータリーでタクシーから降り、本館スタッフに挨拶もせず、愛しの我が家、三泉温泉ホテル旧館、下宿へと足早に向かった。
「少しはしゃぎが過ぎたか。お土産もどっさり買い込んでしまって」
「量の多さに困り顔の一徹様が思い浮かびます。フフ……」
やがて、到着。
「「……ん?」」
が、すぐに二人には違和感が生れた。
下宿内に灯りはついている……か、火が消えたように静かなのだ。
「おかしいね。いつもはもっと活気にあふれているというか……」
「グレンバルドお嬢様とストレーナスお嬢様、五月蠅いのが二人もいますからね」
若しかして今日のところは早めに皆寝入ってしまったかもしれない。
そうなれば残念ながら一徹も寝ているはず。起こすのは……流石に忍びない。
ほんの少しのガッカリに苦笑いして見合わせた二人は……
「あ、ルーリィ、シャル教官も……お帰り」
「お疲れ様でございました。お二方」
たどり着いた下宿の玄関。靴を脱いで一足上がったところ。
「帰ってくるって聞いて……待ってた」
「あ、灯里……どうして君がここに? その、一徹は?」
「今日は……ここにいない」
「それは一体どういう。それに、仮に一徹がいないとしてもウチの隊員たちは何をしているんだい?」
「箱入り娘二人と、唯我独尊なアルファリカは別として、リィン様は決して礼を失する方ではないと思うのですが」
途方に暮れたような灯里と、その後ろで正座して待つ風音の姿を目の当たりにする。
「皆いない。仙提の討伐作戦に招聘された」
「「なぁっ!?」」
更にそんなことを言われるのだ。サッと顔色が変わった。
「ねぇ、話せない? ううん話したい……ルアファ王国トリスクト伯爵領、トリスクト元伯爵代行?」
「……えっ……」
「人と妖魔、そして半人半魔の共生をアーちゃんが願うなら、支えてあげたい。フランベルジュ教官様の経験と知識を是非ともお聞かせいただきたいですわ♡」
「……なんの……話でしょう……」
「人間族と魔族、獣人族とエルフ族……忌子と
嫌な予感しか、しなかった。
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