テストテストテスト72-2

「先輩は動けなかった。だから弁の立つ一徹先輩に奪われた」

「弁が立つ? アイツは俺の友達だ。山本に守られる立場の胡桃音がそんなこというなんて……」

「そうやって少しでも目についたいい点ばかりに引っ張られる。汚いところを見ようとしない。ヤマト先輩は甘いですねぇ」

「あ、甘い?」

「じゃあ友達だからと、ヤマト先輩を・・・・・・囲う女の子やクラスメイトを奪われ良しと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来ます・・・・?」

「胡桃音は一体、俺に何が言いたい?」

「分からないんですか? 分からない振りしてるだけなんじゃないですか?」


 《主人公ヤマト》はグッと喉を鳴らす。


「さっき一徹先輩に『ヤマトからの相談に乗ってやれ』って言われた件、覚えてます?」

「そこに紐づくのか?」


 疑るような目。紗千香はニヤニヤ笑っていたからだった。


「『好意に気付かない。気付いていたとして何もしない。なら、どこぞの馬の骨が奪ったって構わないだろう?』って」

「えっ……」

「『例えばそれが……俺であっても・・・・・・』と」

「なぁっ!?」


 一言が、一瞬で《主人公ヤマト》を破顔させた。


「「《ヒロイン灯里》先輩の事ですよ。《主人公ヤマト》先輩も心当たりあるんじゃないですか?」

「心……あたり?」

「《ヒロイン灯里》先輩が最近、一徹先輩に急接近してること」

「そ、それは……」

「カノジョと目されるトリスクト副隊長にフランベルジュ教官いない間、『私がサポートしなきゃ』って甲斐甲斐しいなぁ」


 《主人公ヤマト》も最初は話半分で聞こうと思っていた。


「でもそれ、本当にただの世話焼きでしょうか?」


 《ヒロイン灯里》の名が出てしまっては、前のめりになった。


「あ、そうだ! これな~んだ!」


 そんな《主人公ヤマト》へ、紗千香が攻め手緩めることはなかった。


「……えっ……」


 合わせるように前のめりになった紗千香。

 他の誰の目にも触れないよう、とある一枚の写真を見せてきた。


「う……嘘だ……」

「フフゥーン♪」

「コレ……」


 撮影場所は何処かの公園か広場。


「《ネコ……ネ》?」

「《ネコネ》先輩って本当に猫みたいだし、素直じゃない。周囲に誰もいない三縞大社内の公園。夕暮れ時ってこともあって安心したんだろうなぁ」

「なん……だよ……」

「あのイチャ付きっぷり。見てた私も顔から火が出るほどに恥ずかしかったぁ。なんて言っても……」


 一徹はその写真の中で……


膝枕を・・・おねだりしたんですから」

「お、おねだり・・・・

「そして一徹先輩は、応えた・・・


 膝枕を提供していた。


「ほんと仲睦まじいですよね二人」


 体と顔を仰向けに預けて目を閉じる、寝姿を一徹に晒した《ネコネ》の様よ。

 

「特に《ネコネ》先輩の気持ちよさそうな顏は、学院じゃ決して見ること出来ない。一徹先輩にのみ晒すの許してるって言うか」


 「何かされる」との警戒も見えない。一徹への全幅の信頼が見えた。


「っていうかホラ、見てくださいよ。一徹先輩それで……《ネコネ》先輩の髪の毛に触れて、頭を撫でてるの」


 なんなら無防備な寝顔を露わにした《ネコネ》は、一徹が掌で頭を撫でることも受け入れていた。


「どうしてだよネコネ……」


 何がヤマトにとって嫌って、一徹の掌を受け入れながら《ネコネ》は、薄く笑っているのだ。


「こーれっ、疑っちゃいますよねぇ。二人は誰にも内緒で密かに……付き合っていたんじゃないかなぁって(笑)」

「『俺の膝ならよく眠れる』と、前そう言ってくれたじゃないか」

「時期的には魅卯様への襲撃が連続し、ヤマト先輩がピリピリ怖ーい顔してた頃」

「山本が謹慎中だったあの2週間での出来事。つい最近……かっ」

「当時の《主人公ヤマト》先輩、雰囲気恐かったですから。《ネコネ》先輩、不安になっちゃったんじゃないですかあ?」

「……不安?」

「で、そこに生まれた心の隙に、《全方位理不尽優しい爆弾》の一徹先輩がスルリと入り込んでしまったのではないです?」

「そ……んな……」

 

 みせられた写真を食い入るように見つめ、《主人公ヤマト》は目を見開き肩をワナワナ震わせる。


「あれ? でもそうしたら……《委員長富緒》先輩との関係って・・・・・・?」


 ただ、新たな疑惑が耳に入って、今度ピタッと全身強張った。


「な、何の話をしているんだ胡桃音?」

「一徹先輩、《委員長富緒》先輩のお見舞いに行きましたよね?」


 とぼけたように、紗千香は右人差し指を口元にあて、顔をあげた。


「そ、それはいいだろう!? クラスメイトなんだ!」

「この期に及んで、一徹先輩をまだ庇う?」

「庇っているわけじゃない。山本以外、他のクラスメイト皆、お見舞いに行って……」

「……どれだけの時間ですか・・・・・・・・・・?

「がっ!?」

「結構長かったって話じゃないんですか? 一徹先輩の時だけ・・・・・・・・

「や、山本が気を利かせ映画DVDプレイヤーを持参した。映画を見ることのどこにおかしさが……と、友達だからっ!」

「お友達? フフッ♪ かもしれませんネ~……で? だからと言って男女二人きりでそ・・・・・・・・・・・・・・・れだけの時間・・・・・・あり得ます・・・・・?」

「くぅっ!?」

「先輩達が訓練や授業中、謹慎状態だったから見舞えた時間帯。経過観察入院にして緊急性もない。看護師の見回りだって少ない。そして……個室である事実・・・・・・・


 もう聞きたくないとばかりに、《主人公ヤマト》は見せられた《ネコネ》の一徹膝枕写真を突き返した。


「一体病院でナ・ニ・・・をしてたんでしょう? 本当に映画を見てただけですかねぇ?」

「や、やめろ……」

「突き返されたこの膝枕写真についても、その後が気になりません?」

「その……後?」

「《ネコネ》先輩と一徹先輩、二人きりの盛り上がり……本当に膝枕だけで収まったのか・・・・・・・・・・・・・・・。もっと過激に、激しく……」

「やめてくれっ」


 昂った《主人公ヤマト》は全く昼食に手を付けないまま席を立ちあがる。紗千香とこれ以上話したないという表れだ。


「逃げるんですかぁ?」


 紗千香の余裕の笑みは崩れない。


「ではお認めになる? 三組先輩女子全員、一徹先輩にこれからどんどん穢されていくことを黙って見ているおつもりだと」

「け、けがされっ……」

よごされるとも言っていい。いくら《主人公ヤマト》先輩でも、発言の意味が分からない程ピュアウブじゃないですよね? それとも……ハッ、スミマセン。ホントにウ……童貞ウブだったりします?」


 ぶつけられるのは爆弾発言ばかり。《主人公ヤマト》が憤るのは決しておかしいことじゃないが……


『なんだなんだ? 《主人公ヤマト》先輩、恐い顔して立ち上がってるけど?』

驚いたビクったぁ。いきなり立つんだもん』

『なぁんか胡桃音、やってんな?』


 学食にて周りの訓練生たちから急遽注目が集まったこともあり、ヘナヘナと席に座り戻った。


「ごめんなさい《主人公ヤマト》先輩。私も言葉が過ぎました。アハハ。それにしても《主人公ヤマト》先輩に声をかけたのは、実のところ一徹先輩からの支持に従ったわけじゃなかったり」

「胡桃音、この期に及んでそんな戯言は……」

「お、怒らないで聞いてくださいよぅ。心配なんです。最近の《主人公ヤマト》先輩の不安が紗千香には見えて、共感出来てしまうから」

「俺の不安……だと?」

「……奪われる恐ろしさ・・・・・・

「ッツ!?」


 紗千香はクスリと笑う。一口ランチを頬張り、咀嚼しながら目を細めた。


「私、実際に奪われた後の惨めさを知っているから。まぁ奪った快楽もですが。だから《主人公ヤマト》先輩に注意喚起をしたかったのかもしれません」


 奪い奪われる。

 《主人公ヤマト》は耳にし、紗千香に思い当たることがあった。


「久我舘隆蓮のことか」

「ハイ。魅卯様から奪ってやりました」


 取り繕いせず、サラリ認める紗千香を前に、ヤマトは遠くで友人たちと食事をとる魅卯を一瞥した。


「私も元は、隆蓮の婚約者候補の一人だったんですよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「そうだったのか」

「でも最終的に選ばれた魅卯様に敗れました。婚約者選定の折、私も魅卯様と共に、その隣で服を脱ぎ、裸になり、隠すところ隠せないままに品定めされたのに」

「そこまでのことを……」

「あれほど屈辱的なことをされ、全てを晒すこと強要され、『選ばれなかったから諦めろ』ですって? 『ハイそうですか』と行きますか?」


 このような話運びにも関わらず、いまだ紗千香が笑顔であることが却ってヤマトには気持ち悪い。


「だったら魅卯会長に共感できたはずの胡桃音が、どうして久我舘を奪い、魅卯会長をイジメるような真似をしたんだ? 魅卯会長だって同じ屈辱を味わった。やっとの思いで選ばれたんだ。苦しかったはずなのに」

「アハハッ♪ 何言ってるんですかぁ? それだけ屈辱を味わったゆえですよぉ。そんな思いまでして他人を思いやる余裕、生まれると思ってるんですか?」


 笑顔で淡々と言われてしまう。

 決して正論ではない。だが……


「どなたか女性の、婚約者候補として裸になってみてくださいよ。そんな思いまでして、選ばれないんです。同じこと、言えますか?」

「うっ」


 いざ自分の身に置き換えたならと、《主人公ヤマト》は身を振るわせた。


「だ、だが魅卯会長への当てつけには違いないだろ?」

「違います。寧ろ魅卯様が私たち隆蓮婚約者候補者を・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿にした・・・・・

「魅卯会長が、紗千香を馬鹿に?」

「だってそうでしょう? 魅卯様は婚約者選定に勝って正妻候補になった……のに、三縞校に逃げた・・・

「……あ……」


 いいたいことは《主人公ヤマト》にもわかってしまった。


 屈辱的な思いまでして他の候補者が届かなかった、久我舘隆蓮の婚約者という立場を魅卯は軽視した。


「だから私は魅卯様が憎いんです。だから隆蓮を奪った。隆蓮の童貞初めてを奪い、私との快楽に溺れさせ、魅卯様への寵愛を取り上げた」


 隆蓮と共にある学院生活を選ばなかった魅卯の選択。他の婚約者から見てとても許せるものじゃなかった。


「苦しませてやります。良いじゃないですか別に。イジメさせてくださいよ。それでなお魅卯様の、隆蓮の婚約者という立場は揺るがないのですから」


 目の前で言及される、紗千香と久我舘隆蓮の性の話。

 《主人公ヤマト》はイヤらしさより、愛憎のドロドロを感じグゥの音もでなかった。


「その……やはり好きだったのか? 久我舘隆蓮が」

「はぁ? まさかぁ。いくら顔が良くたって趣味悪い婚約者レースを実行するような家の跡継ぎ。吐き気がする。願い下げです。良かったのは権力が手に入るくらい・・・・・・・・・・・・・・・・

「権力?」

「紗千香、第四学院仙提校ではお姫様みたいな扱いを受けてました。魅卯様が《婚約者》なら、紗千香は事実婚したようなもの」

「事実婚って……」

「『ごきげんよう胡桃音様』なんて……紗千香、下の名で呼ばせもしなかった。それが今ではあのように汗臭そうなむせ返りそうな《山本組下郎幹部衆どもに」

 

 なるほど、紗千香が一徹を乏しめようと常日頃画策するわけだ。

 

「久我舘家は東北桜州筆頭退魔名家。その名は東北桜州において無力無能にも名士として知れ渡る。政財界にも顔が利く」

「久我舘隆蓮の内縁の妻扱いされた胡桃音に、色々便宜が図られ、良い思いもした?」

「紗千香は……魅卯様に勝ったんです」

「山本と魅卯会長が……胡桃音のその状況をぶち壊した」


 それが、紗千香が一徹と魅卯の二人に固執する一番の理由なのだろう。


「魅卯様の脇の甘さが、この学院の文化祭時の携帯端末通話の盗聴をゆるした。一徹先輩は、隆連の社会的地位を抹殺した」


 言い当てた《主人公ヤマト》に向けられる紗千香の瞳は、ギラリと光った。


「無力無能が、東北桜州次代筆頭退魔師を下してしまった。東北桜州異能力者の格を、地に墜とした」


 きっとその瞬間なのだ。

 紗千香の環境がガラリと変わり、第四学院の者達は、掌を返すように紗千香にきつくなったのだろう。


「だからこの三縞校で、魅卯様と一徹先輩が楽しく幸せそうにやっている様に本気でムカつきました。隆蓮が失脚した途端、憑き取れたような晴れやかな顏しちゃって」

「魅卯会長への嫌がらせと三縞校への転校の理由。復讐か」

「まぁこの話は一旦やめましょう。今は一徹先輩についての話でしたね」


 周囲で楽しく昼食をとる他の訓練生の賑やかしが騒がしく思える。


「このままでは……《主人公ヤマト》先輩も私の様に奪われますよ」

「うっ……」


 紗千香の話を聞きながら《主人公ヤマト》は自己嫌悪に陥りそうになった。

 

「奪われてしまったなら、後の祭りです」

「後の祭り?」

「ほどなくして《主人公ヤマト》先輩は、毎日、否応なしに見うることになってしまいます。当然ですよね。クラスメイトですから」

「否応なしに、俺が……見る?」

「以前は《主人公ヤマト》先輩を囲んでくれていた女の子が、一徹先輩を囲んでいる光景です」

「グッ……くぅっ!?」


 一徹と魅卯の前に姿を現す紗千香には明確な悪意があるのだと《主人公ヤマト》にだってわかる。


「焦っているのでしょう?」


 にもかかわらず聞き入ってしまった。


「人とは、複雑なもの。「自分の物」と疑うまでもない時、執着心は湧きません。寧ろ執着を汚い感情とすら思ってしまう。どうでしょう《主人公ヤマト》先輩。一徹先輩が編入するまで、そうだったんじゃないです?」

「それは……」

「そして失いそうになったその時、固執と執着が一気に去来してしまう。一徹先輩が、現れたからでしょう?」


 紗千香の話に共感できる部分もあるかもしれない。《主人公ヤマト》もその様に感じ始めてきてしまった。


「《主人公ヤマト》先輩、厄介ですね。失いそうになっているのは一つじゃない。幾つも同時に、奪われかけてる」

「山本が……俺から奪い……」


 ただたどしく口にするヤマト。おもむろに……一方向を見た・・・・・・


そう・・……なのかもしれない・・・・・・・


 桐京出張中のルーリィ、シャリエール、そして《主人公ヤマト》除いた三年三組が、食堂の一部エリアを占拠し、大いに盛り上がっていた。


 中心。いつものお調子者宜しく、一徹がバカをやっていた。

 男子たちから呆れ類もあるが、絶えず笑顔を向けられていた。一徹の対面席や隣席、斜め前には美少女クラスメイト達が鎮座している。


『ったく、本当に行儀悪いわねぇ!』

『山本君、ホラ、このお水飲んで』

『いやはや、も~しわけねぇ!』


 ちなみに一徹の両隣は《ヒロイン灯里》と魅卯が挟んでいて……


「本来、あそこに座るべきは一徹先輩じゃなくて《主人公ヤマト》先輩なのではないです?」

「俺?」

「だってそうでしょう? 一徹先輩が編入するまで、クラスや学院のカーストトップに君臨していたのは、《主人公ヤマト》先輩です」

「か、カーストなんて言葉……」

「男女問わず快く迎え入れられ、女子からは好意を向けられていた。訓練生のほとんどすべてから向けられてたのは、尊敬の眼差しです」


 一徹は下級生からの人気だって凄まじく厚い。

 一徹中心に三組が盛り上がると、やがて一徹慕う2年生たちが茶々を入れた。


 その波は広がる。


 気づくと、一徹一人が、食堂にいるほとんどの訓練生に楽し気な目を投げかけさせ、笑わせていた。


「誰もが羨む立ち位置にいた。それを一徹先輩に奪われて《主人公ヤマト》先輩は、学院一の嫌われ者、紗千香と今ランチしています」


 駄目だと思いつつ、少しずつ黒い感情が《主人公ヤマト》の中で渦巻きはじめる。大きくなっていった。

 

「ズルいんですよ。一徹先輩は」

「山本が……」

「卑怯者です」

「卑怯……者?」

「無力無能ゆえこの学院から集まる同情票を利用し、皆の意識を一身に集め、悲劇の主人公を演じることで皆の心配と注意を引かせるずるさの天才」


 紗千香の話も、引きちぎることができなくなっていた。


「無力無能はこの学院では生きていかれない。だから《主人公ヤマト》先輩は何かと気にかけてあげた。ことあるごとに助けてあげて来たんじゃないですか? なのに……」


 駄目だ。耳を貸してはならないと《主人公ヤマト》も分かっているのに……


「《主人公ヤマト》先輩の友達であるという三縞校内最高の肩書を利用し、学院内という世を上手く渡った。あろうことか手近にあった《主人公ヤマト》先輩の大切な者たちものまで埋まって見せた」


 抗えなかった。


「一徹先輩は、《主人公ヤマト》先輩の優しさと恩に、仇で報いた。いいんですかこれで?」

「お、俺は……」

「ヤマト先輩が持っていた、この学院における《主人公》という立場を、すべて一徹先輩に奪われたままで・・・・・・・・・・・・・・・。何時しか外野に放り出され、やがて外から眺めるしかできない惨めさを感じ続けることになる」

「い、いやだ……」


 話は、通っている。その直感に、紗千香の目も口も狂喜の笑みに歪んでいった。


「ヤマト先輩、大丈夫ですかぁ?

「ッツゥ!?」


 そうして打ちのめされ考え込んでしまった《主人公ヤマト》の手に、紗千香が掌を重ねたと同時。

 《主人公ヤマト》は再び席を立つ。今度は結構な音が立った。皆からの視線んが集まるが、それどころではなかったようだ。


「信じない。信じられない。すまないが胡桃音、俺はもう行く」

「……信じたくないだけなんじゃないです・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 このままでは自分が嫌な奴になる。だから一刻も早くその場を後にしたい《主人公ヤマト》に、紗千香はまだぶつけてきた。


「本気で警戒した方がいいです。三年三組は異能力者と妖魔が集まる特殊環境ゆえ、半人半妖も辛うじて受け入れられる。《主人公ヤマト》先輩にとって居心地の良い、数少ない居場所でしょう?」


 踵を《主人公ヤマト》は返して離れようとしたのに……


「全部全部、一徹先輩にとりあげられちゃう」


 立ち止まってしまった。


「少し……黙ってくれ」


 何とか返せた言葉もその程度。

 恥ずべきところは一つもないはずだが、居所悪そうに《主人公ヤマト》は場を後にした。


「ようやく……物事が動きそう」


 遠くなっていく《主人公ヤマト》の背中を眺めながら……


「刀坂ヤマトと、あの無力無能山本一徹下賤な劣等種がぶつかれば三組は二分する。あの二人がぶつかったところで、どっちにもいい顔しぃな魅卯様では騒ぎは抑えられられない。やがて、結果的に三縞校を揺るがすほどの影響を見せるはず」


 紗千香の歯はまた浮いた。


「どうです? 隆蓮と隆蓮からの情報が無くたって、紗千香にはまだ使い道もお役にも立つこともできるんです」


 足早に離れるさま。周囲の視線受けるのをたまらなく恥ずかしく思っているだろう地面に俯く《主人公ヤマト》の様子。紗千香には滑稽極まりない。


「三縞校を壊したら……褒めてくださいますか? お引き立て頂き、紗千香を徴用して頂き……」


 三縞の若き英雄の筆頭の後姿の惨めな様子を鼻で笑いながら、紗千香は、そらんじた……

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