テストテストテスト80

「こ、こんなレベル感の時空間術技を見るの初めてよ。一体誰が? 使える異能力者など滅多にいないはずなのに」


 件の武道館を包み覆い隠す黒い濃霧を前に、《ヒロイン灯里》が声を掠らせる。


『なんだこれ? スッゲ! オモロー!』

『いや、面白がるところじゃないでしょ。どうするのよコレ』


 三縞校ほとんどすべての1,2年生も濃霧を前に立ち往生していた。


 何人もの男子訓練生が霧に向かって全力ダッシュで斬り込んだ。

 普通、霧の向こうにあるはずの武道館に辿り着くはず。が、走ったスピードそのまま、濃霧侵入地点に戻ってきてしまう。


『まっすぐ走っただけ。Uターンもしてないのに戻ってきてしまう。霧の中、どれだけ空間歪んでるのよ?』

『これじゃ外から干渉のしようがねぇぞ。館内の奴らはどうなんだ? 中からなら、出入り口抜ければこちら側に帰って来れるのか?』


 異能力者しかいない学院に置いてなお、どうすることもできない術だと囁かれている。

 駆け付けた《ヒロイン灯里》も耳にして顔をしかめてしまう。


『でも大丈夫かねあの柔道代表? 最後の方、得物まで持ち出してなおテーさんにフルボッコされてたけど』

『テツイチさんが、まさかあそこまでの人だったとはねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・。大丈夫じゃない? 最後の方、桐京校の《オペラ》の一人も出て来たし、最悪……刀坂先輩もいる』

「ちょっとそこのアナタ?」

『え? あ……やばっ』


 謎なる濃霧に気を取られたまま下級生男女一組は話していたから。


『しゃ、《ヒロイン石楠》先輩……』

「『最悪』ってどういうこと? 山本に何があったの?」

『そ、それは……ねぇ?』

『なぁ?』

「……答えて頂戴」


 ヤマトの名を持ち出した際、後ろに《ヒロイン灯里》が控えていたことに気が付かなかった。

 突っ込まれたことで、互いに苦い顔して目配せあう下級生。諦めたように肩を落とし項垂れた。


テーさんと代表選手の柔道対決があったんです。それが締まったのち、武器を持ち出した決闘になりました』

『その、テツイチさんが吹っ切れてしまい。正直私たちも、あそこまでのテツイチさんを初めて見て驚いたくらいで……』

「凄まじかったのね?」

『あの……ハイ……それはもう』

「そう」


 話を耳に、《ヒロイン灯里》は静かに溢す。


 一つ。考えすぎでも構わないから動かなくてはならないことを直感した。


(絡坐修哉で止まればそれでよかった。でも桐京校の《オペラ》が出てきた時点で、ヤマトは動く・・・・・・


 勿論桐京校の《オペラ》はエリート中のエリート。

 しかして《ヒロイン灯里》は、一徹の奥底に眠る力の断片を感じ取っていた。


 以前口付けた血を媒介に、一徹の記憶を途切れ途切れ夢で見たこともある。

 一徹が《オペラ》くだしかねない可能性は、決して低く見積もってはならないのだ。

 

(女の子は守る。それがヤマトだもの)


 ヤバいと断ずればヤマトも剣を抜く。実際一徹が編入したばかりのころ、《ヒロイン灯里》を守るため同じような出来事があった。


「あの時以上になっているかもしれない……か。あれ?」


 最悪なイメージが脳裏に浮かんでならないが、少し離れた先にとある二人の存在を見つけ、《ヒロイン灯里》は一瞬呆然とする。


「アルシオーネ! どう!?」

「駄目だ! どうあっても武道館に辿り着かねぇ! 霧の中で気配を感じようとしても、気配がそこかしこに散らばる感じで、一点集中しねぇし当たりが付かねぇ!」

「私も駄目! 幾ら霧を晴らそうとして無詠唱魔技術を放っても飲み込まれるだけで意味がない!」

「やっぱおかしいぜ! 時空間術技だ! ナルナイの無詠唱魔技術が突き刺さってなお、霧の反対側から力が抜けることもないかよ!?」


 ハッと思い出したように、二人に向かって駆け寄った。


「ストレーナスさん! グレンバルドさん!」

「「石楠灯里っ!?」」

 

 1年生女子訓練生にして一徹が隊長を務める隊のメンバー二人は呼びかけられ、呼び返す。


「二人の力をもってしてもどうにもならないっ?」

「形があるものならなんだってブチ飛ばしてやる! だけどっ!」

「形が無くても構わない。でも、加えられた力全て、いなして流し通すようなものが相手ではっ!?」

「状況はっ!?

「わっかんねぇよ!?」

「師匠ネタでみんなが教室飛び出していったその時、私達は学院長室にいたんです!?」


 三人がこうして言を交わすことはあまりないが、それだけ状況がひっ迫している証明だった。


「そっちはどうなんだよ!?」

「分かんない……けど、悪いのは確かで、放置してはいけないのは確信してる」

「そんなことは分かってんだよ! チッ! 結局アンタでもどうしようもないのかよ!」


 どちらも不確定なものには違いないが。一応の状況と情報の共有は出来た。

 

(踏み込むべき……かしら。いや、踏み込むべきよね・・・・・・・・? もうそろそろ私たち・・・・・・・・・……その段階ではないのかしら・・・・・・・・・・・・。ルーリィ?)


 《山本小隊》の一年生二人組。

 本年全国魔装士官全1年生を集めた新兵教練合宿ブートキャンプでワンツーゴールを果たすほどのツートップ。


 その力の強大さは誰を持っても計り知れないと言われる。

 そんな二人が、焦燥に駆られ、必死に霧に立ち向かおうとしていた。


(二人に対する直接的な危機でもないに関わらず、これほど不安で恐怖している理由。誰かの為……と考えるのが相当よね)


 考えるまでもない。

 アルシオーネは別とし、それ以上に「愛している」とまで公言し想いをぶつけてきたナルナイの先と言ったら、一徹にかかわることなのだ。


「策が……ないわけじゃないの」

「「えっ?」」

「でも後はそれを、貴女たち二人が承諾してくれるか否か。私を信じてくれるかどうか」

「私たちの承諾?」

「信じる……だとぅ?」


 一見三人の目的は同じように思える。武道館に辿り着くこと。


「武道館にはヤマトがいる。貴女たちの山本がいる」


 否、それは目的ではない。


「それでね、私はあの二人の衝突を予測してる。なんとしても武道館に辿り着かなきゃいけないわ」

「……あぁ、何となくわかって来たわ。アンタ・・・……刀坂ヤマトを援護するつもりかよ」

「その時がもし来てしまったら、どんな理由であれ私たちが兄さまに与し、刀坂ヤマトを滅ぼそうとするから」


 手段という意味で言えば同じ。

 でもヤマトを守るか、一徹を守るか。目的は双方異なった。


「そこを信じてほしいの」

「仮に刀坂ヤマトと師匠が衝突したところで、アンタが参戦することはないって? ワリィけどそのあたりは勝手にしてくれや」

「貴女が刀坂ヤマトに汲みしないのは私たちの知ったところではありません。ただ、兄さまに危害が加わるなら、私たちの方は障害をどんな手を使っても排除します」


(うん、そんな回答になるって思ってた。ルーリィやシャル教官だけじゃない。この二人にとっても山本は、真実掛け替えのない存在だって私ももう、知ってしまったから)


「これでもゼネコングループの会長令嬢。構成や組み立てには少しは自身がある。今回みたいな出力術が霧状の無形であっても、効果実現させる術式の予測は完全じゃないにしろ多少立つ」

「あのさぁ、俺達アンタに賛同するって言ってないんだけど」

「術式を分解析すれば、部分的な術解が出来るかもしれない。ただ加えられた力を透過するような濃霧。解術作業を行うに加える異能力の殆どが、無為にすり抜けてしまうはず。膨大な力が必要。そして私一人じゃそれができない」

「私たちに協力しろって言うんですか? 好きに話を進めているみたいですけど、協力すると思いますか?」


(命を懸けて守りたい。違うわね。命を賭けて守ってもらったから、今度は山本を守ることで、返し切れない恩に自らの命でもってあがないたい)


「二人の衝突が極まってもし、ヤマトが山本を斬ってしまったとしたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・。ヤマトは拭いきれない罪の意識にきっと一生囚われてしまう。敵としてじゃない。ゼロから関係を始め友達になって親友になって、今ではもう、兄弟みたいになったのに」

「安心してください」

あり得ねぇから・・・・・・・


(ええ、でしょうね。今のヤマトではたとえ、あの手を使ったとしても・・・・・・・・・・・、逆立ちしても勝てない。そんなことわかってる)


「反対に山本がヤマトを斬ったら・・・・・・・・・・・……それがトリガーになるかしら・・・・・・・・・・・・・

「は? 引き金トリガー?」

「言ってる意味が分から……」

「記憶なくし第二の人生と定めた学院生活において、新たな人生の最たる存在代名詞を斬る。それは《記憶喪失後の人生を生きる今の山本》の存在意義を切り捨てる事。衝撃は……元の存在、山本・一徹・ティーチシーフを呼び覚ましてしまうので・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はないかしら・・・・・・

「「なぁっ!?」」

「そうは思わない? 称号は《闇の足音》にして夢見監察官の二人?」

「ちょ……ちょっと待っ……兄さまを……ティーチシー……」

「称号名それに……夢見監察官って。どうしてその言葉をアンタが……」


 明らかに、灯里は踏み込んでしまった。

 それこそ、一徹が記憶喪失になる前の、彼が生きてきたところでのお話しだから。


 まさかこの状況、突然言及されたこと。アルシオーネもナルナイも取り繕うこと出来ず、取り乱しが酷い。


「ッツゥ!?」


(マズい! この感覚……時間が無くなってきた。ヤマト! 貴方それだけは駄目だってわかっているでしょう!?)


 しかしながら灯里は灯里で、衝撃受けた1年生二人のリアクションに気を取られることはない。

 もっともっと大事なことがあった。

 そして嫌な流れに傾いているのだということが、突如肌が総毛立ったことで感じ取った。


(もういい。二人が何を感じてるとか、言葉取り繕わなきゃとかどうでもいい。先に進ませなきゃ。今の発言がやらかしかどうか、この後でどうにでもしてやるわよ!)


 改めて濃霧に身体を向ける灯里。右腕を制服ジャケットの胸元に突っ込んで内ポケットをまさぐった。


「私の正体、聞いてる?」

「サキュバス……だろ? 妖魔の」

「サキュバスがこの国の妖魔でどんな立ち位置にあるか知ってる?」

「え? えぇっと、確か……」


 ちょっとおかしくて笑ってしまった。

 ヤマトがどんな手使っても一徹に手が届かないのと同じように、自分がどんなことをしても目の前の二人に敵わないのは分かっていた。

 そんな二人が、灯里の言葉に眉を顰めるさまが面白い。


「これね、血液凝縮カプセルなの。サキュバスは力を得るに精液以外、血液でも取り込める」


 内ポケットから抜いた細い右手指には、カプセルが二つ取られていた。


「一つはヤマトの血。そしてもう一つは……山本の血・・・・

「「ッツ!?」」

「そして私たちサキュバスや吸血鬼はまれに、取り込んだ血液の元の持ち主の記憶情報にアクセスすることがある。無意識的にだけどね」

「嘘……だろ?」

「それではアナタは……」

私は血で本来の山本一徹と本来のアナタ達・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の姿を見た・・・・・。貴女たち夢見監察官と似ているでしょ? 全部ってわけじゃないけどよかったかもしれない。この意味、グレンバルドさんなら分かってくれる?」

「記憶全てをトレースすると覗き見た側の精神が蝕まれる。俺が師匠の夢を見て昏睡状態になったことまで、血によって見た断片的な記憶で知っているかよ。で? 師匠を含め・・・・・俺たちがアンタたちの敵であること・・・・・・・・・・・・・・・・に気づいたってことか・・・・・・・・・・?」

「そこだけは訂正させて。私だけは、貴女たちの敵にならないつもりだし、なりたくない」


 状況に呆けてしまった1年生二人を置いておき、血液カプセルを二つ同時に口に入れた灯里は思い切り嚙み潰した。


「ぐっ……GUUッ!?」


 次いで苦悶の表情。ゴキメキッと、全身から音が弾けた。

 分は掛からなかった。


「早クしテ。チカラを貸セ。出力しナケれバならなイ。溜めたママでハ、気……狂……」


 赤い眼球に金色の瞳孔。肌は透ける以上に良く白い。

 一層の美しさ。怪しさ。


「これがサキュバス……」

「なるほど。判るわ。格って奴が」


 得も言われぬ野生の衝動のようなものが、サキュバスへの完全変異成し遂げた灯里から発出され、思わず一年生二人も見とれてしまった。


「どーするナルナイ?」

「……私はまだ信じ切れません。時間が無いのは本当。だからと言って、焦りに任せて協力関係を安易に結んでいいのかと」


 だからと言って敵味方をここで判断するのもリスクには違いない。

 アルシオーネがアグレッシブすぎるなら、お嬢様と揶揄されようが淑やかなナルナイの冷静さが光った。


「ルーリィと……」

「何ですって?」


 だが……


「わタシは……るーリぃと……ナルナイとアルシオーネオマえタちの様ニナリたイ」

「「んっ」」

「《オマえタち》みタイナ親友を超えた義姉妹関係しまいデあリタい」


 そこまで話を耳にして目を見開いたナルナイ。


「だそーだが? ナルナイ」

「面倒くさいですね。それに、どうあがいたところで、私とアルシオーネみたいな関係に成れるわけがないのに」

「だよなぁ」


 呆れた、馬鹿にしたような笑顔でホウッとため息をつく。

 アルシオーネも少し楽し気。


同胞はラかラヨ……」


 そんな二人の感じ方関係なく石楠灯里墜ちたヒロインは静かに声を上げる。


ワレ妖魔よウマヒトしクヤみと魔にデらレし、異界イかIヨりの妖魔はラかラタチよ……」


 これに対し、二人は真剣な表情を改めて作り上げた。


「グれンばルど。すトれーなス」


 真摯に、向き合おうとしていた。


我ガ言の葉コトノハこタエよ。ワれ此方こなタ妖王よウオウむスめ妖姫あやカしヒメ石楠灯里也しャクナAかりナリ

「「かしこまりました。姫殿下イェス、ユアハイネス」」

「……アマオウ魔帝国。称号、《闇の足音》。主席夢見監察官。ナルナイ・ストレーナス将軍」

「同じく、アマオウ魔帝国。ハイエンデオーク自治区次期族長。称号、《闇の足音》。次席夢見監察官。アルシオーネ・グレンバルド将軍……」

「「……両魔族・・共に、異世界・・・の《魔族転じて妖魔同胞》が姫殿下の要請にお応えします」」


 答えて見せて、しかし吸精鬼妖姫は反応を見せない。

 その代わりに濃霧に向かって右手をかざしていて、その両肩に、ナルナイとアルシオーネは、それぞれ手を乗せた。


 ☆


 戦況は……ヤマトたちにとって最悪だった。


 銀色マンジュウによる一徹銀分身18体と一徹本体併せて19体。


「じじゃぁあっ!」


 嫌らしいほどに、遠慮がない殺戮本能優先の一徹は殺し合いに純粋だった。


 一徹が本当はどれほど凄まじいか、こういうところで分かってしまうのは皮肉以外に何でもない。


「誰かカバーをっ!?」

「クソッ! 竜胆!?」

「冗談っ!? 山もっちゃん分身体ハーレムされそうで援護なんて無理なんだけどっ!?」


 綺麗に銀色分身6体ずつが三人に向かっていく。


 そのなか一徹本体が加勢した先は《委員長富緒》。

 なんてことはない。三人の中、まずは最弱な者を無力化してしまう。


 臨時勇者パーティは3人から2人へ。明確な戦力ダウンを狙っていた。


「遠距離術技は……駄目! 間合いが近すぎて……キャアッ!?」

「《委員長富緒》ォォォォ!?」


 呪術杖を何とか銀分身に向けようとする。が、狙われた銀分身は遠距離術被弾覚悟で《委員長富緒》に走った。

 急接近に気を取られている間に、真横からの一徹本体のダッシュキックが腰に入り数メートルは蹴り飛ばされた。


 まさか、異能力を一切持たぬ無力無能者がここまで恐ろしいとは。


(優しさが、山本の斧をこんなにも鈍らせていたとは)


 「何か手違いあって大怪我させてしまったら」とか、「これによって嫌われたらどうしよう」とか。


 一徹はクラスメイト以外との対人模擬戦は色々頑張ろうとするが、そもそも三年三組相手には常に気が入っていなかった。

 

 ーはぁ? 嫌に決まってるじゃないっすか。恥ずかピーものー


 そうやっていつも誤魔化す……のに、言葉でなく行動で見た場合、三年三組を一徹がどれだけ大切にしているのか。


 壊さないよう、嫌われないよう、ずっと自分の居場所としていることを認めてもらえるよう。

 そういうことで忖度が生れた。配慮があった。

 

(……本来の実力を山本が垣間も見せることがなかった理由かっ!)

 

 カッコいい言い方なのに、この場に当てはめるとこれ以上の脅威はない。

 1か0か。殺すか殺されるか。


 山本一徹が振るうには今、迷いがない。

 斧頭が肉体に接触することに躊躇が無く。もし迷いあったなら生まれていた、相手が防御態勢取れていたかもしれない数瞬の暇すら与えてくれない。


(最短で殺しにやってくる。迷いや遠慮さえなければ、それだけの実力恐ろさを、純然たる山本は持っていた)


「……あっ? ヤバ……」


 さぁここにきて二人目のピンチ。


 機動力を持って間合いを取り、殺さぬよう加減した遠距離術技で交戦し、間合いが詰まったら抜群の直刀術で交戦してきた陸華の話。


 一徹の戦い方が、斧刃術とマスキュリスの分身による数頼みのみならそれで良かった。

 

「ちょ~っ! ちょっとタンマっ! タ・ン・マッ!」


 銀分身のあらゆる箇所(股間も含め)から、決して細くない触手が陸華に伸びて迫った。

 その内数本が陸華の足首に絡まったかと思うと、捉えた片足を固定したまま畳から2,3メートル高に吊るし上げた。


「見えてる! 見・え・て・る! パンツから! おヘソから! ブラとか!」


 そりゃ逆さ釣りになったら、重力任せとはいかなくなる。


 戦闘で乱れた結果、スカートイン状態から外に出てしまったシャツも、スカートもまくれてしまう。いろいろ丸出しになってしまった。


 戦っている者だけじゃない。状況を見守っていた者たちもここにいる。

 特に男子に至って、超絶美少女の下着が見えるなど昂って仕方ない場面。が、戦闘の行方が気になって、驚いたとしても執着するほどではなかった。

 

「って、ホントにコレ……ヤバげ?」


 本能のまま動く一徹も同様。

 いつもなら両目を右掌で抑え(人差し指と中指の間からチラ見するだろうが)、顔を真っ赤に「はしたない! 着替えなさい!」とか言うだろうか。

 思いきり《委員長富緒》を蹴り飛ばしたのち、狙いを陸華にチェンジした。

 

「や、山もっちゃん……あの……マジ?」


 剝いた白目のまま首を傾げる。

 左右の手に大ぶりのナイフと斧頭大きな片手斧を下げながら、逆釣りになった陸華にゆっくりと近寄った。

 

 ギャインッと、2丁をぶつけ擦り合わせた。

 それぞれの刃でもって互いを研いでいる。

 

(させない。俺の目の前で、誰も殺させない)


「冗談……やめてよ。アンコウの釣るし切りじゃないんだから」


(今のままで、今の山本に届かないなら俺は……)


 完全に目の前に来られてしまっては、2丁でもって一徹が何するか予測がついてしまう。


「……ゴメ……んネ山もっちゃん。これで僕も死にたくない……から、今度こそ遊び無く本気で行く。そしてそれでもし、山もっちゃんが死んだら。それはそれでやっぱりゴメン」


 軽い口調なれど、陸華の笑みは引きつっていた。


(力を封印することで、誰かに一線を超えさせるつもりなら……)


 三対一だった。全員異能力者で、相手は無能力者だった。


 気付けば、他の二人はいつでも一徹にとって殺せる状態。そして今の一徹は、得物を前に舌なめずりするような愚かな油断もない。

 

俺が・・……カタを付ける・・・・・・


 よくあるRPGテンプレではないだろうか。

 パーティメンバー全滅。しかし残った一人が主人公にも勇者にも数えられるような存在だった場合、ピンチを食み、貪り、今まで見せてこなかったような隠された力を解放する。


「背負うのは、俺一人でいい」


 となればこの場合、残ったヤマトが……


山本は・・・……俺が斬る・・・・……」


 見せ場を作る場面だった。


剱山けんざん住まいて一切寄せ付けん者よ……」


 静かに桐桜華刀を鞘に納める。鯉口がチンと鳴る音わかるほどに、深い吐息は、しかし細く吐かれた。


「寄せ付けぬは孤独にあらず孤高。合切を切り捨て、己が存在、生の意義を誇りも高らかに証明せ」


 スイっと右手でもって己の身体を這うようにして大きなバツを描いたヤマトは、そのバツ中心あたりに掌を当て握り込み……


「抜刀、夜濤叉刃やとうしゃじん

 

 落ち着き払ったままの言葉。握り込んだ拳を体の真横に振りぬいたかと思うと、ガシャァンと、ガラスが爆散するような音が鳴り響き……


あラがウな。イたミがないほど圧倒アッとウしテヤる」


 振りぬいた拳には、人間の全身の皮に違いない物が握られていた。秒も経たず、それは乾き、粉々に砕け、館内空間に溶けていく。


 まるで蝉の抜け殻のような。

 いや、先に呪詛に現れた「鞘」なのかもしれない。


 桐桜華刀の抜き身、本身は鞘から抜かないと現れないのと同じように……  


「手カゲんがキカナi」


 桐桜華皇国語すら怪しい物言いのヤマトの今の姿は、化物のようでいて人も捨てきれない。


 《夜濤叉刃やとうしゃじん》。

 本当のヤマト、人間体の皮破り鞘を抜い半人半魔正体本身が現れ出てしまっていた。

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