テストテストテスト77

「……高虎のことを奪う……か? 信じたくなかった。でも本当にお前は……腐れたんだな」

「えっ?」


 諦め混じりの感想を耳にしたのは、決して《フレイヤ》だけではなかった。


「見損なったよ……山本」


(や、ヤマト君?)


 幸か不幸か。

 

 刀坂ヤマトが《フレイヤ》の真横にいたというなら、ヤマトのほぼ正面に立って乱取りの行く末を魅卯は見守っていた。


(あ、アレ?)


 正直信じられないというか、信じたくないというなら魅卯の方。


 一徹の親友にもなった刀坂ヤマトが、完全に一徹を見限った一言を漏らしたのだ。


「あ、あの、ヤマ……」

「では、最終乱取りはじめっ!」


 だから当然のように魅卯は問いかけようとするが、乱取り100本目開始を告げる硬道監督の号令がさせなかった。


「いやだぁぁぁぁぁぁ!」


 既に一本の負け越し。

 それで終わる事だけは絶対に許されない。

 せめて最後一本だけでも取って50勝50敗に持ち込みたい。


 よい気合が、絡坐修哉に満ち満ちていた。


「……ありがとうな? 絡坐」


 だがもはや気合だけでは、一徹がここまで来てなお残っている筋力、持久力をどうする事も出来なかった。


 乱取りは組手。試合。


 本来言を交わし合う暇などない……はずなのに……


「良い……経験をさせてもらった」


 落ち着きはらった表情。

 如何に桐桜華代表柔道選手であっても、今や一切の脅威を一徹が感じていない証明。


 自身の道着襟を掴もうとする絡坐が延ばした手を、まるでボクシングで言うジャブかのように鋭い掌の払いで跳ねのける。


 払い掛けようと絡坐が足を動かそうものなら、予備動作で察知した一徹が先に足を閃かせる。

 満足に絡坐が足を動かす前、向かうであろう場所に先に自らの脚を置く。


 陣地合戦ではないが、相手の体制崩すため絡坐が狙った有利な立ち位置を、常に一徹が先手先手とって潰していく。


「おおおおああああっ!」


 道着襟も取らせてもらえない。道着袖も取らせてもらえない。脚払いにて崩すこともさせない。


 雄たけびを上げた絡坐。フッと身体を沈め、一徹の懐に飛び込んだ。

 

「胴に来たか? 脚に来れば《諸手狩り》が狙えた。タックル低めに集められないのは、低く行ったら立ち上がるだけの背筋も脚力も残っていないからだ」


 絡坐の一挙手一投足が分析でき、言葉にしてしまえる程、一徹にとって余力は残っている。


「悪い……が、お赦しは貰っているもんでね」


 絡坐は確かに両手で一徹の胴体を抱きしめる。一徹の胸板に自身の顔を押し付けた。

 一見すれば柔道に置いて理想の体勢。


 相手重心より自重心が低い位置にあるのだ。

 重心が高い方が投げも崩しもしやすいとなれば、確かに絡坐の優勢には違いない……のに……


(何……やってるの? 山本く……)


 タックル受け、両腕で胴体を挟まれた一徹。優しぃく自身右掌をタックルしてきた絡坐の頭頂に添える。


 そうして……


「ヒュッ」


 口笛が如く口すぼめ一気に息吐き出すとともに、絡坐の頭に添えた右掌を思い切り畳に向かって押し込んだ。


「ッツゥ!?」


 一徹に向かって前進したはずの力の流れは、無理やり行き先を変えさせられた。


 ならば一瞬のちはどうなる。

 光景に、魅卯が息を飲み両手で口元覆うが正解。


 顔面から畳に勢いよく突っ伏した構図……だけでない。一徹の膂力りょりょくが更に畳に押し付ける。

 ミシッメリと鳴くは、しなる絡坐の首。


「あ……あぁっ……」


 こんなに武道館内は観客で騒がしいのに、確かに魅卯の耳はゴリっと軟骨の潰れた音を拾ってしまう。


「バ……バハァッ! ブハッ!」


 よかった。

 吐息音が聞こえるなら、突っ伏していた畳から絡坐は顔を離せたということ。

 これで首はまだ折れることはない。


 しかし吐息音あまりに苦しげなのは、畳に顔を叩きつけられた時、鼻筋、骨が折れ血を噴かせたから。

 先ほど絡坐が顔を突っ伏していた畳には、大小の朱の染みが残っていた。


(い、イケナイ……)


 溢れた血流は絡坐の道着の首回りから胸周りまで染め広がる。

 魅卯が声出すことすらできないのは、鼻血量だけが状況のヤバさではなかったから。


(顔色がドンドン悪く……)


 ただでさえ立て続けの乱取り。強いられていた呼吸困難。

 墳血で鼻腔塞がってしまっては、更に呼吸は辛くなる。

 そのうえ、互いの袖、襟、脚払い狙う攻防は、無酸素運動。


酸素欠乏症チアノーゼ……)


 脂汗びっしりな絡坐の顔色。真っ青どころか紫がかっているような。


「か……かひ……」


 酸素取り込めず、血中供給も出来ない。

 先ほど血走っていた眼球も、毛細血管引き締まってしまったか白くなっていた。


「……かはぁっ……」


 もう、一徹の当て身に近い袖取りを辛うじて防ぐことも叶わない。

 弾くことが叶わない場合、胸を穿たれてしまう。


「アギッ……グックゥッ……」


 一撃……二撃……

 そうして絡坐への被弾数は目に見えて増えて行く。


 衝撃受ける絡坐は被弾と同時に足も体もふらつかせた。寧ろいまだ倒れないのがおかしいくらいだった。


「あ……あ゛っ……あ゛ぁ゛ぁ゛……」


 恐らく朦朧もうろうレベルはとうに過ぎ、気持だけで立っていた。


「カハァ……」


 もはや絡坐は一音を息と共に絞り出すのがやっと。白目を剥き、ソローっと右腕を伸ばすのみ。

 

「……終わりだ……」


(終わる)


 一徹の呟き、魅卯の胸中はここで重なった。

 意識ないままユックリ出された腕。いまだ変わらぬスピードの一徹にとって格好の袖取り的。


「桐桜華柔道……」


 絡坐が献上してしまった右腕全体を両腕で取りに行く。

 取ったと同時、横転身した一徹は背中と腰を絡坐の身体前面に密着させた。


「……連盟流……」


 重心は低い。

 テコの様に自らの背面を支点に、力点として取った右腕を思いっきり引っ張る。


「《一本背負い》」


 まるで滑車すべるロープで引かれ持ち上げる井戸桶の様。


 畳から浮いた絡坐の身体は、空中で面白いほどぐるりと円と弧を描き、ドシャッと嫌な音を立て、背中から床に叩きつけられる。

 受け身すら取れない証明。


『それまでっ!』

「っしゃりやぁぁぁぁああ! 一本っ!」


 勝ち越しに成功。最後の一本を美しく決められた。

 天井に向かって雄たけびを一徹が上げると同時、


 YEAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 武道館の空気は、野次馬訓練生たちの沸き上がりで凄まじく振動する。


(か……勝っちゃった……)


「ありがとう山本君。素晴らしい取り組みだった」

「どーでしょ。あんなのは、柔道とは呼びませんよきっと」

「いや、あれもまた柔道さ」


 伝説の柔道家。硬道監督が楽し気に笑って労いを見せる。


「あ、はは。まさか貴方から褒められるとは思いませんでした」


 やっと一徹はホッとしたように笑って受け止める。チョット恥ずかし気。

 その様子、野次馬訓練生たちらの興奮という名の火に、一層油を注いだ。


 拍手も喝采も割れんばかり。

 信じられない逆転劇に、開いた口塞がらない応援PV撮影関係者も、会心の笑みを浮かべていた。

 

(なんで……かな? 勝ち越しは嬉しい。それは本当。なのに……)


 絡坐を、そして刀坂ヤマトを除く。しかし後は全ての者が称える一徹の出で立ち。


(気持ち悪い。怖い……よ……)


 こんなの……一徹だったろうか?


(確かに私、山本君には私の英雄私たちの主人公になってほしかった。実際昨日のアメリゴンフットボール決勝戦でそう言った。だけどこれじゃまるで……)


『『『『『やっまーもと! やっまーもと! やっまーもと! やっまーもと!』』』』』


(民を熱狂させる独裁者。洗脳仕立て、妄信させるカルト教の教祖じゃないっ)


 魅卯には不安でならなかった。得も言われぬ恐怖を、いまの一徹に覚えてしまうのだから。


「くぅっ」


 ……空気感は変わる。


 魅卯自身、首筋にゾワリと何か走ったこと。

 同じく感じたものあったか。野次馬たちも騒めきはじめた。


「……嫌な気分だねどうも。もう終わったよ。絡坐?」

「終わって……ねぇ」

「いや終わったんだよ。俺も一本以上投げさせてもらった。お前だって好き放題投げてくれた」


 潮目が変わる元凶、一徹の発言の先。

 100本目終わって、武道館湧きたって3、4分。

 

「体力で俺に分があっただけ。それ抜きなら間違いなくお前の方が強かった。この桐桜華に置いてお前こそがナンバーワン。最強だ」

「ふざ……けろよ?」


 トップアスリートに違いない絡坐修哉が呼吸取り戻し、息整えるには十分。


「こんなので、終わってたまるか」


 すでに立ち上がっていた。

 殺さんばかりの目。眉間にしわを刻み、歯はむき出しに、食いしばっていた。


(あっ)


 終らせるつもりはない。そんなこと見ればわかる。


「修哉、見苦しいぞ」

「アンタには言ってねぇんだよ」

「お前は……負けたんだ」

「俺は負けてねぇよ監督! 手加減してやっただけなんだよ! わかるだろうが!」

「わからない」


 マズい。一徹を睨みつけながらしゃがみ込んだ絡坐は、スッと足首に手指を伸ばした。

 その先には、ミサンガのようなものが括りつけられていた。


「修哉。何をするつもりだ? 勝負は公平……」

「だから! わからせてやんだよ・・・・・・・・・!」


 硬道監督とのやり取り。聞いていた魅卯は背筋が凍るのを感じた。

 ミサンガに指を掛けた意味が分かってしまう。


「あ・の・さぁ、いやだからもう、お前の強さは嫌って程わかってるんだって」


 分かってしまうから、武道館内の空気は困惑に翻っていく……のに、一徹の声色はあまりに軽かった。


「あんまカッカすんなって。老化進むって言うし、ハゲんぞ?」

「な……舐めやがって……」


(まさか山本君、あのミサンガの意味が分かっていない?)


 最悪、ここから一徹は絡坐によって今度こそ目も当てられない状況に至らしめられる。その直感に、魅卯は焦燥に駆られた。


「上等だ……やぁまぁもぉとぉぉぉっ!?」


 感情のダムを結界させた瞬間、一気に絡坐のプレッシャーが膨れ上がった。


(あのミサンガは、無能力者と柔道を行う上での異能力封印の枷なのに!)


 無理やり千切った。

 なら封印を解き、異能力者として一徹に襲い掛かろうというのだろう。


(肉体活性……来る!)


 絡坐の身体からミシリ続く音に、警戒感は高まる。

 しかし、雰囲気に呑まれた魅卯は、声に出して一徹に警戒することできなかった。


「殺すゥゥゥっ!?」

「肉体活性ねぇ。硬道監督スミマセン……下がってもらいます・・・・・・・・・


 ……なのに一徹は……すこぶる平静だった・・・・・・・・・


「おおぉぉぉぁぁぁああああ!」


 ドンッと、とても畳を蹴った音でない。それだけの踏み音実現させるだけの脚力の爆発。


 タッパも堂々の絡坐ではとても成し得ない鋭さで、大砲の様に猛然と一徹にぶつかっていく。

 対し一徹は、ゆっくりと前に出るのだ・・・・・・・・・・・


「最近気づいた。肉体活性で間合い急に詰めるにゃ弱点があ……」


 一徹は、最後まで言わせてもらえない。

 言い切る前、絡坐の突進に捉えられてしまった。

 ドチャッ! と鈍い音。仰向けに一徹はぶつかり倒された……


「……あり……えない……」


 はずだった。


 一徹はぶつかられたと同時、両掌を血で染まった絡坐の道着襟掴む。真後ろに転がるその回転を利用した。

 面白いことに回転は……ぶつかってきた絡坐の突進力をも利用し、更に遠心力を増した。


「がぁぁぁはぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 誰か物理法則に気づく前にはもう、絡坐の肉体は投げ飛ばされ、数メートル先の武道館内壁に背中を叩きつけられていた。


「まさか柔術が本流の、支流に合気存在する柔道選手がウカツじゃないの」


 突然の展開。難なく一徹が回避して見せた。

 肉体活性まで解放した絡坐修哉を……更に倒して見せたこと。

 展開についてけない先ほどテンション爆上がりだった野次馬たちすらも、今度こそ沈黙を強いられた。


「……巴投げ。突然襲い掛かられ反射的に相手の力を利用し、柔道で投げた。山本……一徹。やはりお前は……本物だった」


(本物? やはり? どういう事?)


 硬道監督だけが悦んでいた。何故なのか、魅卯も頭が一

杯で考えることもできない。

 

「まだだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「まだなのかよ。いやもうなんだって」


 武道館壁に叩きつけられた衝撃はいかほどか。

 すくなくとも先の鼻血だけでない。此度吐血にまで至った。


「異能力による肉体活性で爆発したお前の破壊力、俺が利用し投げたことでお前に跳ね返ったはず。正直肉体的に大ダメージだろが」


 過ぎるしつこさ、流石に呆れ顏の一徹。


「いぐじすとぉ……」


 ……絡坐などもう眼中ない。それが、絡坐には許せない。


「ってぇ? お……イ?」


 空切るよう突き出した腕。その先、消失した。


 その動きの意味、誰もが分かっていた。

 絡坐の手は、異次元にて何か探して取り出そうとしている。


「どゆこと?」

「り……りり……」

「とことん失望させてくれるねどうも。しょゆこと? 柔道を……捨てる。捨てなきゃいいのに」


 腕引くことで消失していた掌は姿を現す。

 手に、銀色の軟体生物が絡みついていた。


「リアクトォォォッ!」


 咆哮。銀色軟体生物は纏わりついた絡坐の両手で瞬時に姿を替える。


 肉食獣のような、太々しいのに鋭い爪が生えそろったガントレット。


「柔道だけなら俺は、お前には勝てなかった。ただ得物ゴロ持ち出してきたっつーんなら……んじゃ、ま、いいだろ」


 対して一徹は、右腕を振り払うように真横に伸ばし手を開く。


「出ろぉォォォォ! 銀色マンジュウゥゥゥゥゥッ!?」

「ぢゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ!」


 掛け声返すは、一徹相棒のいななき。


 開いた右手をキャッチャーミット宜しく、ベースボール豪速球感満載で収まり入った。

 同じく接触してから秒もない。

 次の瞬間にはその姿、一徹相応しい武器に変態しきっていた。

 

「……綺麗……」


 傍に立つ《フレイヤ》のコクっと喉を鳴らす音が魅卯の耳に入る。

 斧を手にした一徹がほどなく、バトントワリングの様に大戦斧の柄を両手で、片手で、あるいは一杯に使った身体を中心軸として回転させるのを目にしたから。


「斧なんて得物、振るう奴いなくてさぁ」


(知らなかったわけじゃないけど、斧を初めて手にしたときのぎこちなさが消えている)


「棒術とか、長刀術とか剣術。体系化された型や動き、武術として学ぶことも出来ねぇもんだから、模擬対人接近戦闘訓練チャンバラごっこで経験詰むしかなかったんだわ」 


 時に持ち手の柄尻を棍とし、突きで空を刺す。

 時に大気を斧頭で薙いだ。


「どんな動きが正しいの~とか、効率的なの~とか、無駄がないかとか、そういう参考もない。誰も教えてくんないの」


(そう……なんだ……)


 大戦斧を手にした一徹が試すは、斧による攻撃モーションだけではなかった。

 所々で斧振るわず、蹴打の動きを見せる。


「ホント参っちまう。実践してみて、毎度ボッコボコにされちゃうのよ。でも最近、『これっぽいんじゃなぁい?』的な理想がなんとなく見えてきたっつーかぁ」


 ひゅんひゅんと柄を回転させるに鳴る風切り音。

 複雑な柄の扱いに見えるが、手を柄に滑らせる際取り落すことも一切ない。


「したらね、最近やっと大戦斧振るうのが面白くなってきた。痛いのは嫌だけど繰り返してきたことで、多分この学校じゃ俺以上に斧振るえる奴は……アルシオーネウチの小隊わがまま姫しかいない」


 体の動きと反対に武器が動くこともあり、一見斧に意思がある(実際に変態した銀色マンジュウは生命体だが)かのようだ。

 しかし次の瞬間、斧がまるで体の一部であるかのように、馴染んだ一徹の身体の線に合わさった。


「いいじゃない? 俺だけにしか使えない・・・・・・・・・・斧使用の格闘術。大好きなマンガやラノベみたいだ。ま、改善出来そうな点はまだまだ一杯あるんだけんども」


(もう山本君、完全に大戦斧だいせんぷ習熟モノにしちゃってたんだ。ここまで来るとある種……武術に昇華しちゃってる)


「で、いつしか違うこと悩むようになってた。我流……斧術おのじゅつ? どうせ俺しか使えない俺オリジナルな戦闘術。ナントカ槍術、弓術っぽい、カッコいい俺流武術名付けたかったんだけど」


 伝統武術の演にも等しい、武骨でデカデカしい武器にも関わらず、優美さと勇壮さを感じさせる動きを一徹は終えた。


「俺のクラスメイトの名乗り、スッゲェ格好良くて。あぁなりたいと思ったもんさ」


(ヤマト君の事だ。第18代刀坂流操刀術継承者、刀坂ヤマト君……)


「なのにねぇ、斧術ふじゅつとか大戦斧だいせんぷ戦闘術とか、これがどうにも、なかなかしっくり来ねぇ。で、それでもある日、ポーンと浮かんだのよねぇ」


 悪戯っ子のような、それでいて子供っぽい笑みを浮かべていて……


「ここまで止めてやってまだ終わらないんだ。あれだろ? どうせもう・・・・・死なねぇと止まらないだろ・・・・・・・・・・・・? だったら……」


(……ん゛っ!?)


 長得物の大戦斧の柄を持ち上げた一徹。斧頭がついた先を、スゥっと絡坐に向け始めた。


(どうして……だろ? さっきの乱取りも、相手の顔を畳に叩きつけたことも、なんで最近の山本君……)


「第三魔装士官学院三縞校、三年三組。初代……《山本流斧刃術ふじんじゅつ》筆頭斧術士ふじゅつし、山本一徹! おっほ♡ 厨二病感が満載過ぎる!」


(すぐ、話の方向が血生臭く変わっていくの?)


「自練我得で新規武術の創設だ。お前折角だから、開祖たる俺の一番初めの贄になってみろ」

「う……うぅ……う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!」

「ヒョォォォウッ!♡」


 異能力の封印を解いた。

 肉体活性も済んだ。

 武器を持ち出した異能力者に、一徹が太刀打ちできるはずがない……のに……


(また……山本君、変わっちゃう。ううん)


 魅卯は知っている。

 一徹はこれまで何度か、それらを超越してきた。


 ただ、超越していくたび、どんどん一徹は魅卯が好きだった一徹像から離れて行ってしまうような。


 離れていく? 変わっていく?


 ……否……


(また……壊れちゃう……)


 ……壊れて行っているのかもしれない。

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