テストテストテスト69

 歓声は本日最高潮。

 試合時間は残り少なく、あと少しで得点に繋がりそうな場面がフィールドにて展開してる。

 ……だけじゃない。


『『『『『アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ……』』』』』


 第4Qが始まってから出てきた選手。ここに至るまで、30分も経っていないのにこれだった。

 スタジアム収容人数を超えたレベルの数千人が心を奪われている。


Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 

 ランニングバックがいるワイドレシーバーがいる。得点圏に繋げる選手は他にいる……のに……


『決めてくる! 絶対に止めろ!』

『アイシールドが来るぞ! 絶対に来るゾォォォ!』


 観客もディフェンス選手全員も、ある一人に最大限の警戒を払っていた。

 魅卯も同様。目が離せなかった。


(山本君が……どうしてこんなに……)


白45ホワイトフォーティーファイブ! 白45White forty five!』


 まずは司令塔クォーターバックが声を張り上げる。


 タッチダウンまで残り5ヤードの場面。

 得点につながるポジション選択肢は幾つもある中で、大衆はヒーローの活躍を求めていた。アイシールド選手、すなわち一徹自らが試合を決するというもの。


 客席から見ていて分かる。

 実際に一徹アイシールドはタッチダウンする気満々な気配。ゆえにディフェンス達も一瞬とて目を離さない。


『hut! hut! hut!』


 口火は切られた。そしてあと何回かのhutで、決定的瞬間は訪れる。


『ハーット!』

『『『『『応!』』』』』


 その時は訪れる。

 ラインマン同士がぶつかり合うのと同時、一徹アイシールドはサイドライン目がけ走っていく。


『『『『『大外からアウトサイドだぁぁぁぁ! 止めろォォォ!?』』』』』


 しかしながら、少し一徹アイシールドも匂わせが過ぎたかもしれない。

 アイシールド選手にボールが渡ると呼んでいたいたディフェンス5、6人が、初めから一徹アイシールドに襲撃していく。

 しかしすでに青法中大アメフト部クォーターバックは、まるで決め打ちをしていたかのように一徹アイシールドにボールを投げていた。


(駄目。これじゃボールをキャッチしても、ゴールに向け方向転換する前にディフェンス選手に捕まっちゃう)


 予想した通り、一徹アイシールドがボールをキャッチしたその時、もう何人ものディフェンス選手が距離を詰めていた。

 あとはタックルを受けるのだろう。そうして減速している間に、他の選手が群がるはず。


「……う……ソ……」


 喉が鳴ってしまう。

 別に、ディフェンス選手の凄まじいタックルを一徹アイシールドが受けて痛々しい様を晒したわけじゃない。

 パスキャッチした一徹アイシールドは……走ることをしない・・・・・・・・

 また、初めての動きを見せた・・・・・・・・・・


(パスモーション。投げるのっ・・・・・・?)


 魅卯が理解したことを、この競技を長年やってきたディフェンス選手たちが気付かないわけがない。

 一徹アイシールドに殺到していた足に急ストップをかけた。


『『『『『クォーターバックゥゥゥゥゥ!?』』』』』』


 これも一つの戦略。


 プレイが始まってパス捕球した一徹がサイドライン側に走ることで、ディフェンス選手の殆どがサイドラインに釣られてしまった。

 フィールド中央部の守備は放棄されたに等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しくて・・・、そしてそこに、《リーガルダイナソーズ》のクオーターバックが立っていた・・・・・・・・・・・・・・


 守備もぬけの殻に等しい中央部に立つ仲間に、サイドラインまで相手をギリギリ引き付けた一徹アイシールドがパスしたとしたら……


『『『『『集まれェェェェ!』』』』』


(いえ、違う)


 トリックプレイであることを直感したディフェンス達は、今度死力を賭して一徹アイシールドからパスされたクォーターバックに殺到する。


(これ、トリックプレイなんかじゃない・・・・・・・・・・・・・


 こういうのも、観客席で試合を見る醍醐味かもしれない。


 遠くからディフェンス陣、オフェンス陣すべてを見渡せる。

 フィールド内で試合に熱中し没頭している選手たちでは、気付かない出来事も気づくことができる。


 一徹からのパスをキャッチしたことで、攻撃の本命と見なされた《リーガルダイナソーズ》のクオーターバックまでもが……スゥっと……パスモーションに入った・・・・・・・・・・・


『違う! アイシールドだけじゃない! クォーターバックもディフェンスを引き付けるための囮だぁぁ!』


 ディフェンス選手の誰かが張り上げたのが、すべての答えである。


トリック・・・・トリックプレイだ・・・・・・・・……)


 オフェンスチームはディフェンスに対し、まず一徹アイシールドが攻めると思い殺到した。


(ディフェンスチームのアイシールド山本君への警戒が最高潮に高まった)


 これによってクォーターバック周辺は手薄になった。

 手薄を突いてくると思ったディフェンスチームは、改めてクォーターバック目がけ走った。


(でもクォーターバックにボールが渡ったことで、ディフェンスチームはアイシールド山本君が得点に絡まないと思わされて捨て置いた・・・・・・・・・・


 クォーターバックに一徹アイシールドがパスをしたのを前に、ディフェンス選手は「今回の作戦で使われるのは一徹アイシールドではない」とでも思いこんだのだろう。


(警戒相手を気にしなくていいと思ったときが、いちばん警戒相手への注意が薄まるのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・……)


『パスッ! 一徹アイシールドだぁぁぁぁぁぁぁ!』


 「だからこそいく」と。それが《リーガルダイナソーズ》の采配。


 やっとオフェンス側の狙いに気づいた時にはもう遅かった。

 クォーターバックがボールを投げる……先にはもう、ゴールタッチダウンライン間近に一徹アイシールドが走っていて……


〘キャッチしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!〙


 感情許容限界など無いかのように、実況解説者のアナウンスが会場中を叩いた。


「わぁっ! 凄い凄い!」

「どうやら今日の決勝。勝利の縁は《リーガルダイナソーズ》にあったようだな」

「んムゥ、意外と楽しかったかも」

「おぉっ!? おおぅ!」

「だぁ! 肩を組むな政治家壬生狼この阿呆が!」

「いっけぇぇぇぇ! アイシールドォォォ!」

「ちょっ海さん! スカートがめくれて、はしたないです」

「カッコいい! 僕も体が熱くなってきちゃう!」


 スタジアム内、一人として声を上げないわけがない。


「……決まります……」

「山本君……」


 低めの声で《委員長富緒》が言ったのも耳に入らない魅卯は、両掌をあわせ固唾を飲んで結末を見届けようとした。

 

「「あっ」」


 そんな二人は声を漏らす。

 走りながら捕球した勢いでゴールタッチダウンラインを割ろうとした一徹アイシールドの正面に、《インテリジェントゴリラーズ》のラインバッカーが猛然と躍り出た。


「残ったぁ!?」


 両者正面衝突。


 ガツンと音がたなびいてから、残り一ヤードのところで一徹アイシールドの前進は止まった。

 かといってラインバッカーも押し返すことができない。


「いえ、終わりです」


 一瞬両者の力が拮抗。せめぎあいも膠着状態になるとも思いかけたが、まだプレイは終わらない。


 ヘルメットの正面同士が密着した状態でも一徹アイシールドは前進を諦めない。小刻みに地面を蹴ったことが両者に差を作ってしまう。


「押し……込んでいる?」


 正面衝突したとして、ぶつかった力はどこに逃げるだろう。

 コンタクトの瞬間、互いに刹那のあいだ身体がのけぞってしまうとしたなら、その力も重心も上へと逃げる。

 慣れてなければ、否、慣れた者でも重心が上に映った瞬間、地面に脚力を伝えることが難しい。


『いぃぃやぁぁぁぁめぇぇぇろおぉぉぉ!』


 衝撃に流されるままだった者と……


「うぅぅぅ……うぉぉぉおおおあああああああああああ!」


 意識して足をかき続ける者で明暗が分かれた。

 足に力が入らないような状態では、前からの圧力にやられてしまうものだ。


『……タッチダウン! オフェンス! アイシールドォォォォ!』


 YHEHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!


(す……ごい……)


 ホイッスルと審判の宣言。会場の空気は更に爆ぜた。


(あ、あの……山本君が)


『『『『『アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ……』』』』』


(こんなにも、声援を向けられて……)


 とうとう得点果たした一徹アイシールドに向け、ほぼすべての観客から賞賛が贈られる。


〘見えてきた! 《青法中大学リーガルダイナソーズ》の逆転優勝が見えてきました! このタッチダウンで6点追加。次のボーナスポイントでキックゴールをすれば同点ですが、ここはボーナスギャンブルで2点を狙っていくでしょう!?〙


 実況解説者のアナウンスを耳にすると、胸がドキドキ高鳴って仕方ない。


 初めて出逢ったときの、一徹がガリガリだった頃を思い出す。それを思うと、今の光景は信じられないの一言しかなかった。


〘なんといってもアイシールドが居れば……っと、あぁっ! 一体どういうことでしょう!?〙


 だが空気感はすぐに怪しくなった。


 タッチダウン間際に競り合い演じた桐桜華明立大学ラインバッカーと一徹アイシールドが、タッチダウンゾーンに倒れ込んでからピクリとも動かない。

 

 あれほどのぶつかりあい。何か起きてもおかしくない。

 盛り上がった会場は一転不安なざわめきが広がっていく。


『レフェリータイムアウト! タンカ、タンカ持ってきて!?』


〘あぁっと! 《青法中大学リーガルダイナソーズ》コレはいけません! タンカが出てきました! どうやら今の衝突で何か大きな怪我でもあったか!?〙


 「タンカ」と「大きな怪我」という単語に、魅卯は引きつった。


〘残念です。どうやらアイシールドはこの試合ここで最後の様です。今、アイシールド選手が横たわったタンカにチームメイト全員駆け寄り、取り囲んでおります〙


 「レフェリータイムアウト」という言葉がいけない。

 アメフトをやっていなくても審判判断で時間をとることを優先した。何もないわけがなかったのだ。

 

〘チームメイト数名の手によってタンカごとフィールド外に搬出されます。選手控室に運ばれるのでしょう。素晴らしい選手の退場です。活躍を拍手で称えましょう〙


 アナウンスに合わせ全方位から万雷の拍手が送られる中、魅卯だけが客席をガタっと立ち上がる。


(山本君っ!?)


「ゴメンね皆。私もちょっと席を外すから!」


 理由は簡単。居ても立っても居られないから。

 スタジアム通路へとタンカで運ばれる一徹アイシールドの元に駆け付けるつもりだった。


「……月城会長さん……考えたくもないことですが・・・・・・・・・・・・、まさか、貴女は……」


 席から大急ぎで離れる魅卯の背中を見送る、ポツンと漏らした《委員長富雄》の表情は、非常に苦し気だった。



(は……ハハ……ヤッベ……)


 他の誰でもない。俺が、会場内のすべての観客の心を動かし、沸き立たせた自覚があった。


『『『『『アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ・シールド! アイ……』』』』』


(体が……魂が震える……熱い……)


 決定的な場面を作り上げた。

 タッチダウンを決め、ボーナスキック1点での同点か、ボーナスギャンブル2点での逆転かという直前まで押し上げたのだ。


「うっ……クソ……クソォッ……何で今日に限って……」


 ホイッスルが吹かれ審判は俺たちの得点を認める。

 ジェスチャーと宣誓に反応した観客たちの賞賛を、ゴールタッチダウンエリアに仰向けに寝転びながら浴びた俺は、最後俺のゴールタッチダウンに立ちふさがった敵さんラインバッカーの怨嗟が耳に入った。


「……スミマセン……」


 俺は得点できたことに達成感と共に気が抜けてしまった。敵さんラインバッカーは、失点となったことに打ちのめされた。

 そういうわけで二人とも倒れ込んでしまって。互いにピクリとも動けない。


「フェアじゃ……無かったっすよね?」


 思わず小さく漏れ出てしまう。

 歓声が凄いから、発した自分ですら耳に入るか入らないか。聞こえるはずがないし、聞かせたくもないが、言わずにはいられなかった。


 嬉しいには違いない。

 誘ってもらえたこと。俺の存在を必要としてくれたたこと。

 期待されていた以上の活躍と貢献が出来たこと。

 認められたこと。


(間違いなく俺は、この試合に置いて確かに主役になれたし英雄にも成れた)


 この感覚はゆめゆめ、無力無能一般人が俺の他一人もいない、異能力者超人ひしめく第三魔装士官学院じゃ味わえない。

 まさか、無理だと諦めていた「主人公になりたい」という願いは、こういう形でかなえられたのだ。


『皆ゴメン。スンマセン先輩方……俺、止められなかった。ぐぅっ……』


(どうなのかな? でも多分、健全な主人公の成り方……じゃあなかった)


 ただ、そういうところもあるのだろう。

 ほどなくして仰向けに倒れたまま、両手で頭を抱えた敵さんラインバッカーの嗚咽が聞こえてきて思ってしまった。


(だから、俺はここまでなんだ・・・・・・・・・


 微妙な心持。

 マンガやラノベのような主人公になりたかった。もうなったじゃないかと。


 5千人などゆうに超える観客たちから讃えられることに俺が受けとめる感情、初めて過ぎて未だ自分の中でも消化できない程。

 ただただ気持ち良くて、ただただ体が感動に震えて……

 

 でも、俺が試合に入ってしまったから、決勝戦におけるゲームバランスはあっけなく崩れてしまった。


『レフェリータイムアウト! タンカ、タンカ持ってきて!?』


 仰向けに倒れたままの俺の近くまで走ってきた審判が声を上げる。

 続いて青法中大のキャプテンさん、チームメイトなる大学生さんも駆け付けてくれた。

 

(このままでいい。このまま……退場する)


『ありがとう山本君。我らに、チャンスを与えてくれて』

「ここからが、勝負っすよ?」

『分かってる。結果がどうあれ、シーズン終了後の打ち上げには、君も参加してほしいな』


 誰かが持って来たタンカに、チームメイト数名が力を合わせて俺の身体を持ち上げ、乗せた。

 

「後は頼みまし……違いますね。頑張ってください」

「悔いは残さないさ」


 青法中大アメフト部の数人にスタジアム客席下の通路までタンカごと搬送してもらうさなか、キャプテンさんとそういう話をしながらガシッと手を合わせた。


(あぁでも……楽しかったなぁ)


 この決勝における自分の役割が終ったことに、もの悲しさと充足感を感じながら、俺はフィールドを後にする。


――フィールドに到る通路出入口まで俺をタンカごと運ぶなり、キャプテンさんを初めここまで搬送してくれた選手たちはフィールドに戻っていく。


「さてぇ? 着替えますか?」


 別に怪我をしたわけじゃない。訳があって倒れたふりをした。

 すくっと立ち上がる。先ほどユニフォームに着替えた選手控室に向かおうと一歩踏み出そうとした時だ。


「……明日の柔道シーン撮影はどういう運びだったっけ? もう段取りとか組んでるのかな山本君・・・?」

「あぁそれなら15ひとごーまるまる時から撮影開始だ。栄養補給で取った昼飯もこなれ、一番動きやすいだろうし」

「そうなんだ。PV撮影関係者しか知らない情報を・・・・・・・・・・・・・・・・よく知っているね・・・・・・・・アイシールド君・・・・・・・?」

 

 向かうさなかに掛けられる問いに普通に答えてしまって……


「……あ゛っ!?」


 自分の脇の甘さにやっと気づき、変な声を上げてしまった。


(や、やっちまった……)


「……どうしてこっちを見てくれないの?」


 声の主に目をやるまでもない。覚えがありすぎる音色。


「こっちを見てよ」


 まるで金縛りにでもあったかのように、その場で凍り付いてしまった俺の背中に、穏やかな声がぶつけられる。


「うげ……」

「目を向けてくれないから、私の方から来てみたよ?」


 その間に、声の主は俺の正面まで立った。

 ちいちゃい背丈の彼女が、図体ばかりデカい俺を見上げていた。

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