テストテストテスト67

 相手陣地を攻め上がり、陣地奪って最奥ゴール地点に到達する。シンプルに言ってしまうとそれがアメフト。

 攻撃権を回数で持ち合わせるオフェンスチームが、チャンスを無くしたその時の、フィールド内におけるボール位置を軸に攻守が切り替わる。


『《ゴリラァズ》! ready! setセットォ!』

 

 攻守切り替わり地点が相手陣深いところであれば良い。

 しかし、自陣深いところでそうなったらどうだろう?

 相手チームがオフェンスになった時点で、相手が目指すべきゴールはもうすぐ目の前。

 点を取られてしまうリスクに他ならない。


『Goooooooooooooooooooooooooooooo!』


 ならば少しでも、ボール位置を自陣から遠ざけなくてはならない。

 楕円形ボールを思い切り蹴り弾く。相手陣深くまで蹴り飛ばしてしまえばいい。

 それが《パントプレイ》。

 サッカーで言う、自陣深くまで攻め込まれた状況で相手陣にボールを蹴り戻す、《クリア》に近いと言えばわかりやすいか。


『オッケ! ナイスキック! ディフェンス全員! ボールキャッチ相手選手を潰せぇぇぇ!?』


 気合一閃と共にボールを蹴りぬいた、桐桜華明立アメフト部キッカー。

 そのキックコントロールに対し、同チームキャプテンは労うと同時、「対空中ボールの落下予想地点に密集せよ」と味方全選手に檄を飛ばして走り出す。


(いいぞ、奴にボールを触らせなければいいんだ)


 気を付けるべきことばかりなのだ。

 

(アイシールドに、ボールが渡りさえしなければ……)


 生半可なタックルなどものともしない、タフネスの異常すぎる肉体フィジカル

 よしんばタックルクリーンヒットしたとして、なかなか倒れてくれないボディバランス。

 一旦乗ってしまえば誰も追いつくこと敵わないトップスピード。

 静止状態からの立ち上がり初速爆発力と、トップスピードまでの加速の伸び方。

 全身体能力がオールラウンドにアイシールドは化物なのだ。絶対にボールを持たせてはならなかった。

 だから天高く蹴り上げたボールの落下地点にアイシールドはいない。そうなるよう蹴り飛ばす方向を調整した……


『なぁっ!』


(お……おいおい……)


 ……のに、ではアイシールドから遠ざかったボール落下地点に……


(そんなの、間に合うわけが……)


 アイシールドが・・・・・・・ダッシュでわざわざ捕球・・・・・・・・・・・しに向かっていったとしたなら・・・・・・・・・・・・・どうだろう。


(ッツゥッ!?)


 信じられないことが起きてしまった。


(嘘だろォォォォッ!?)


 あれほどアイシールドから遠く離れたところ目がけてボールをキックさせたのに。

 対空ボールに狙いを定めたアイシールドは、落下する直前に捕球して見せたのだから。

 さぁ、捕球しきったアイシールドは、ボールを右わきに抱える。

 それは、アメフト選手がボールを持って走るに、一番効率的で速く走れる持ち方・・・・・・・・・・・・・・・

 何のために? 

 《青法大中リーガルダイナソーズ》陣地深くから、《桐桜華明立大インテリジェントゴリラーズ》陣地奥のゴールを目指すために決まっている。


『カバァァァァァァァァァァァ!?』


 分かってしまうと桐桜華明立大アメフト部にキャプテンは悲鳴じみた声を上げるしかなかった。


『マンガじゃない……マンガじゃ……無いんだ……』


 捕球後の走りランアフターキャッチにて、《桐桜華明立大インテリジェントゴリラーズ》陣地奥のゴールを目指すアイシールド。

 距離が近付くにつれ、その肉体は少しずつ大きくなってる。


『マンガじゃないんだよぉォォォォ!?』


 桐桜華明立大アメフト部キャプテンは咆哮挙げながらアイシールド目がけて駆けていく。

 声を張り上げる必要があった。

 間合いが詰まるほどに大きくなっていくアイシールド。

 違う。

 醸し出されるというか、アイシールドからは気迫がオーラの様にあふれ出ていて、桐桜華明立大アメフト部キャプテンの目には等身大のアイシールドが2倍にも3倍にも膨れ上がっていた。

 恐るべき脅威だ。でも、逃げるわけにはいかない。


「う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


 怒号を吐き出し、己を震わせ、果敢にアイシールドと真っ向勝負しなくてはならない。

 そうして桐桜華明立大アメフト部キャプテンはほどなく……絶望に突き落とされる。


 ◇


(流石は決勝進出チームの選手だね)


 敵さんのキッカーは超優秀だった。俺たちの陣深くにボールを蹴り飛ばしながらも、高度も持ち合わせていた。

 高く高く上がって地面に落ちる放物線を描くに、何秒もの時間を要す。

 その間に直線最短ルートにて、相手ディフェンス選手たちは落下地点目がけて走ってくる。


(ボールへの嗅覚が鋭く。速い)


 勿論、そんな相手チーム選手の進路塞ごうと、味方選手も動いてくれるが、取り漏らされた数人の内一人は、捕球したばかりの俺のすぐ目の前に詰めてきていた。


(キャッチ地点は自陣10ヤード。まずは、一人……)


 飛び掛かってくる相手選手のヘルメット横側面を、横薙ぎにしたグローブ越しの手刀で跳ね弾く。走り始めると同時にだ。


(そして……)


 タックル軌道を変え、一人目をなんとかやり過ごせたものの、そこに手間と時間をかけている間に二人目も迫っている。

 体を低く沈めての前のめりな突進。


(二人目……自陣15ヤード……)


 横回転の要領で、走る勢いのまま体をスピンさせる。

 ぶつかってきた二人目の片腕が俺の脇腹に強い衝撃をもたらすが問題ない。

 相手の重心が俺の重心を正しくとらえず、片腕頼みで静止させようとしているだろうが、それだけじゃ足りない。

 体の軸をズラし、タックル2人目とすれ違うようにして、俺は先を目指す。


「ッツゥ!?」


 二人目から意識を外し、敵陣を視界に収めた瞬間だった。

 視界の左端から飛び出した、相手チームのヘルメットカラーが視界の中で膨れ上がった。


(三人目……自陣25ヤード……)


 敵陣向かってかき続けた足をフィールドに突き立てる。

 急激なストップを肉体に掛ける。


『クソっ! マジかよコイツ!』


 走り続けていたなら、俺がその空間を過ぎるだろうと踏んでタックルを切り出した3人目の選手。

 急に止まったことで来るべき的が現れないから、体ごと空を切った。

 そんなね、いなした相手がどう……とか、どうでもいいのだよ。

 目的はただ一つ。

 少しでも相手陣地にボールを運ぶこと。そのままゴール地点に行けたなら、それ以上に臨むことはない。


(チィッ! 詰まってきた! 自陣35ヤードッ)


 最初フィールド右側面をルートとしていたのを、急ストップかけてからは、左側面にルート変更する。

 敵さん一人目、二人目、三人目。ここまでに俺にたどり着いた相手選手は足が速い選手。

 俺のフィールド右側ルートでのアプローチに茶々を入れてきたことで、俺が走りたいルートを、最初の3人から遅れて迫る他選手たちが見抜く。

 先回りするように、俺の当初見立てのルートを塞いだ。


『逆サイ! 逆サイドサイィィィ!』


 進行方向を変えてからしばらく、相手との間合いは詰まらない。

 俺が捕球したとき観客が漏らした小さなざわめきは、少しずつ歓声として大きくなっていく。


(自陣30……40ヤード……50ヤード……敵陣45ヤード・・・・・・・……)


 初速から立ち上がり、トップスピードにも入りそう……だったのだが……


(クソッ! やっぱ思い通りにはならないか!)


 俺が通ると踏んで相手チームが密集するフィールド右側。

 だから人手の薄いフィールド左側を目指したのだが、今度はルート取りに色々阻まれる。

 相手選手何人もが俺を潰しに走ってくる。

 俺は触られたくない。

 そういうこともあって、知らずに相手から距離を置こうと走りながら、相手陣地に向かうなら、自然と俺の走るルートは放物線上になる。

 相手は違う。目がけ走る直線ルート。

 スピード差は、こうしたルートどりでも大きく変わってくる。


『応ッ!』

「くぅっ!?」


 とうとう4人目と接触する。闘争心には敬服せざるを得ない。

 体ごとのタックルなら俺に触れることはできなかっただろう。捨て身でダイブして、更に伸ばしてきた腕が、手が、俺の肩を横側面から強く押した。


(敵陣……40ヤード……)


 前方に走ろうとして横から突き飛ばされる。

 あわや横倒れになりそうなのを何とか堪え、元のランニングフォームを取り戻す……が…… 


「ぐぅっ!」


 体勢を整えるに要した時間と、減速が、そこからの相手選手とのゼロ距離を許してしまった。

 

(5人目……6人、7人……8人っ!)


 突き飛ばされたことでサイドライン際に体が流れてしまった俺に、4人ほどか? 接触してきた。


(まだだっ!)


 片ごとのタックルショルダータックル

 完全にスピードが落ちた俺の真後ろからのタックラーは、太ぶとしい両かいなでクワガタよろしくがっちりホールド。


(まだまだっ!)


 ジャンプして向かってきた選手は、もはや走る俺にのしかかっている。

 ガッチリ組む場所がなくなったからか、最後の一人は走る俺のユニフォームを鷲掴みにし、これ以上前進しないよう引っ張った。

 でも……ね?


「ぁぁぁぁあああああ……」」


 前方の残り30ヤード先には、相手ゴールがある。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!」


 やっと得点圏に入ったんだ。

 ただひたすらに、一ヤードでも前に。俺が、脚を止めるわけがないじゃないか。



 さぁ、会場内の何割の人間が、いままだアイドル達やモデルに注目しているか。

 恐らく1割もいないのではないだろうか。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!」


〘……2……3っ……ヨォォォン! 凄いぞアイシールドォ!〙


 Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!


〘雄たけびを挙げながら、4人掛かりでなお、未だ倒れずぅぅぅぅ!〙

 

 すべてはたった一人の選手の活躍ぶりによるものだ。


敵陣40ヤードから敵陣35ヤードへfourty to thirty five! 敵陣35ヤードから敵陣30ヤードへthirty five to thirty! なんてことだOMG! なんてことだO・M・G! 現実かよぉぉOh my god!〙


 決勝戦開始当初は観客殆どがピクリとも反応を見せなかった試合実況者の煽りに、会場のボルテージは更に高まった。


(あ、あれが……)


誰にもNobody彼をcan’t stop him止められなぁぁぁぃHe is just an-stoppable!〙


 アイシールド付けヘルメットで顔の見えない、先ほど「一徹」と口にした《委員長富尚》が眼差し向けた選手から魅卯は目が離せない。


(山本君……だというの?)


 大男たちが「先に行かせじ」とアイシールド選手にしがみつく。

 スピードこそぐんと落ちたが、それでなお引きずってでもアイシールド選手は前進を辞めない。


(こんなの、私の知ってる山本君じゃない)


 試合に出ているのが一徹かもしれないといきなり知ったこと。仮に一徹として、活躍することが逞しく格好いいと思ってしまう事。

 一歩ずつ着実に歩を前に進めようとする。得点への執念が見えて恐ろしい。


 色々な要素が魅卯の中でぐるぐる回って落ち付かない。それでなお、アイシールドから目を背けるわけにはいかない。


「ッツゥ!?」

〘あぁぁぁぁぁあっとぉ! インテリジェントゴリラーズラインバッカーのハードヒットォォォ!?〙


 次の瞬間、おおよそ人間同士のぶつかりで生じるはずのない音が挙がったこと。光景、実況のアナウンスに魅卯は体をビクッとすくませる。

 5人目の真横からのタックルに耐えられず、とうとうアイシールドどはライン跨いでフィールドアウトしてしまった。


〘うまい! なかなかフィールドに倒せないと踏んで、ラインアウトによるゲームストップを狙ったんですねぇ!〙


(あっ……)


 真横からのタックルを食らってフィールド外に出たが、もみ合いになってなかなかアイシールドは倒れない。

 5人目に押されるままに流された体は、そのままフィールドと観客席を隔てるフェンスへと……


「「「「「キャアッ! /うおっ!」」」」」


 ガシャンという音共に、やがて押されたアイシールドはフェンスにぶつかり、やっと動きが止まる。


「「「「「アッハハハハハハ♪」」」」」


 臨場感たっぷりなんて生易しいものではない。

 アイシールドがぶつかったフェンスは、まさしく魅卯たちが座る一画の丁度目の前だったのだから。

 白熱した戦いぶりと、まさか選手が自分たちの目の間のフェンスにぶつかったことに驚き、三組生と桐京校三人娘は悲鳴を上げる。

 やがて「ビックリしたぁ」と胸をなでおろし笑い始めた。

 ……魅卯と、《委員長富緒》の二人だけは除く。


「ハッ……ハァッハァッ……ハァッ……」


 コクリと魅卯は唾を飲んでしまう。

 相手の前進を止められた桐桜華明立大学アメフト選手がフィールドに戻ってなお、フェンスに押し付けられたアイシールドがその場にいたからだ。


〘大活躍です! 自陣10ヤードから敵陣25ヤード。合計65ヤードのビッグリターンだぁぁぁぁぁぁ!〙


「ハッ……ハッ……」


 フェンス網に指をかけ俯くアイシールドの荒い吐息音が、声援に湧く会場内でなお届いてしまう。

 フェンスを挟んだ先、距離は2メートルもなかった。


「や、やまも……」

「……楽しっ……」

「へっ?」

 

 アイシールドの中身を確認したくて呼びかけそうになったところ、声を上げた一徹のセリフに口を閉じる。


「やっべ……スゲェ……楽しい……こんなの……初めてだっ」

 

 アイシールドが隠すは目周りのみ。口元隠さず。

 息荒いまま、かすれ声でのセリフ。疲労は凄まじいだろうに口元は歪んでいた。


「うっし。あと一息ッ」


 自分に気合を入れ顔をあげることもなくアイシールドは踵を返す。

 ビッグプレイに興奮し、喜びにあふれるチームメイトたちの元へと走っていって、仲間たちと想いを分かち合った。


「ねぇねぇ! 海ちゃん! 空ちゃん! 凄かったね今の!」

「やっぱりスポーツは観戦してこそなのですね」

「血沸き肉躍る。漢同士意地のぶつかり合い。良いじゃない! スポーツって言うのはこうでないと!」

「あ~あ、折角凄い場面だったのに。山本見逃しちゃったねぇ」

「ん、そういえばまだ帰ってこないの? アメフトキャプテンから呼び出し喰らってたけど」

がてら・・・にトイレに行くとか言っていたわね」

「大方、腹痛に縁があったのかもしれん」

「フン、あの無駄に肥大化した筋肉質な体も、内臓中身はヤワか。阿呆が」

「本当に締まらないな。しっかりし給え、山本も」


 純粋に、周りの皆は試合を楽しんでいる。それは別に構わない。

 2メートルもない距離。光の屈折によって反射するアイシールドは色合いを変えるが、それでも元は透明プラスチック。

 本当は声をかけるまでもなかった。

 ずっと注目していた選手が間近に来た。一層注目を凝らしてみる。アイシールドは魅卯たちの目の前に来てしまったとは気付いてなかったみたいだが、魅卯はアイシールドの正体が確かに一徹なのだと分かってしまった。


(なんだろ。この複雑な感覚)


 だから、思ってしまう。 

 目の前から離れていく背中を眺め、アイシールド一徹がチームメイトたちに揉みくちゃになっているのを眺めていると、無性に、寂しさを覚えてしまった。

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