テストテストテスト66

 新たな選手が登場してから、観客の目が釘付けになるまでそれほど時間は要さなかった。

 

『おい……ヤバくね? 青法中大のあのラインバッカー』

『あぁ、もう何回相手の攻撃を食い止めた?』


 少し離れたところから呆れたような囁きが聞こえてきた。


 ピィーッ! というホイッスルの音色に、スタジアムが打ち震える。


『スッゲェぞアイツ! また桐桜華明立大の攻撃止やがった!』

『いやいやヤバくない? えっ! ちょっあり得ないんだけど! メッチャ図体デカい癖にスッゴイ足速いの! あんなのに迫られたら……』

『軽く……死ねちゃう?』


 周囲の打ちのめされたような言葉が耳に入り、発言者の顔を見んと《委員長富緒》は周囲に視線を巡らせた。


『50メートル走何秒台だ?』

『アメフトの走力基準は40ヤード計測。俺も昔やってたから分かるが、多分あのラインバッカー、余裕で4秒台行ってやがる』

『だけじゃねぇな。全身バランスよく高レベルに鍛え上げられてる。ボディバランスも秀逸。ベンチプレス(仰向けに寝た状態で重し付きのバーベルを上げる種目)とか絶対、100キロ台軽く超えてる』

『ま、マ・ジ・か……』

『あの青法中ラインバッカー一人だけ、この試合には場違いなんだって。レベルが……いや、次元が・・・違う』

『そこまで?』

『この決勝は大学二部リーグのだろ? 低く見積もって1部リーグ上位校のスターティング選手。正しく見積もって社会人トップリーグ優勝チームの先発メンバー。いや、アメリゴプロリーグにも引っ掛かるかも』


(当然です。ホントはソレが・・・山本さんの本当なんです・・・・・・・・・・・


 そのなかで《委員長富緒》が気を留めたのは、アメフトを知っているアイドルファンの話だった。


(山本さんは本当は、落ちこぼれなんかじゃない・・・・・・・・・・・・んです。とんでもない。規格外・・・……だったんです。三縞校にさえこなければ・・・・・・・・・・・


 耳に入れながら、《委員長富緒》は自分の両掌に目を落とす。


(訓練生には異能力がある。それを使って肉体活性を常に行える。異能力を使えば私でも100キロは持ち上がります。男の子たちなら200キロくらい……)


 ギュッと拳を作った。

 

(山本さんの肉体能力は、異能力抜きなら三縞校でも指折りの・・・・・・・・・・・・・・・・、悪い言い方をするなら化物クラス・・・・・


 ほぅ、とため息をついてしまう。

 今の一徹の在り方を《委員長富緒》はとても見ていられない。一方で一徹のこれまでの報われなさには、不憫に思えて仕方なかった。


(山本さんは、不器用でカッコ付けで、環境に恵まれなかった)


 文化祭期間、一徹の下宿にて合宿した《委員長富緒》は、下宿内のとある一室、よく使いこまれたトレーニングルームに迷い込んでしまったことがあった。


 満杯に水が入った20リットル入りのプラスチック容器を重しとした自作のウェイトトレーニング器具を初めとし、多くの筋トレグッズがひしめいていた。

 寝転がる、座るための椅子は擦り切れ、床に張られたウレタンマットは、よく汗を吸ってきたのか変色していた。


(簡単な帰結です。山本さんは、第三魔装士官学院三縞校でも、三年三組においても落ちこぼれだったから)


 だから一徹は慌てた。だから焦った。


 トレーニングルームの状態から、クラスメイトや学院の誰の目も届かないところで、皆に追いつこうと一人血の滲むような思いで、必死に顔面歪ませ、鍛錬に励んできたのだろう。


ーいやぁん♡ 乙女オトメもといオノコの秘密を暴いちゃラメェ☆ はじゅかちぃのぉっ♪ー


 そんな姿を想像して身が震えた《委員長富緒》の前に、一徹はいつもの道化然で現れた。

 軽薄に笑い飛ばしながら《委員長富緒》を部屋から立ち去らせ、いそいそと扉を締めた。


(ヘラヘラ笑う裏で、何を思っていたのでしょう?)


 異能力の無い一徹はフィジカルで迫るしかない。しかし異能力を使えば、異能力者たちは肉体活性出来る現実。


(恐らく、凄く恥ずかしかったんじゃないですか? 『無駄なことをしている』と私に笑われたらと恐れていた)


 異能力によって肉体活性は可能。だが所詮それはチートであってまやかし。


(一体これのどこに、怖がる要素があるんですか?)


 基礎身体能力については一徹の方が本来、ほとんどの三縞校生を圧倒的に凌駕していたというに。


(正直私には、山本さんの日課が信じられない・・・・・・・・・・・・・・


 山本一徹という男は、信じられない程に自己肯定感が低すぎるのだ。


(学院で私たちと同じハードな訓練に明け暮れ、放課後は《山本組》で約160人の後輩と組手百人組手。下宿内のトレーニングルームで肉体を酷使し、更に日に20キロ走り込んでいると聞いています。そこから……ホテル業務肉体作業ですよ?)


「……あぁだから……今の山本さんはこんなにも楽しげなんですね?」

「……へ?」

「相手チームに対して暴威を振るい、全力で暴れられることが」

「《委員長禍津》さん今、山本君の名前を呼ん……」


 一徹の境遇を思い返してみる。納得が行くところもあった。

 ゆえにしみじみ口にしてしまう。知らずのうちに漏らす言葉に、魅卯が反応したというのに……


「優しくて穏やかな山本さん。お笑いキャラの道化な山本さん。全ては……この学院が押さえつけた故だった・・・・・・・・・・・・・・・

「あっ……」

「礼儀正しい? 謙虚? 違う。山本さんは常に自分を押さえつけていた・・・・・・・・・・・・・。『努力なんて嫌いだ』と言ってる裏で必死になって培ったその実力。でも、『自分は雑魚だ』と自分を偽り過小評価していた」

「……まさか、《委員長禍津》さんまで気づい……た……」

「異能力を使ったら、肉体活性に至った訓練生の運動能力に結局劣る。自信満々に振舞っても『イキっている』と鼻で笑われてしまう。必死の努力がバカにされる。怖かったとしたら……」

「……どうして……気付くの? 私だけが知っていればそれでいいのに……」


 虚ろな目でフィールドを眺めているのに、虚ろ過ぎて《委員長富緒》の瞳に本当に一徹が映っているかどうか怪しい。


Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 

 会場中が再び一徹によってざわめつかされた。


 相手選手に襲い掛かるのは、180センチ台、体重80キロ中盤の巨漢。プロと比較してそん色ないと言われるトップスピード。

 

 その突進力。

 相手選手の、「前に前に」と地を蹴る相反する力と衝突したとき、生まれる衝撃は如何ほどか。1トンか、1.5トンか。それより更に……


『『『『『ボール取りこぼしたファンブル!?』』』』』』 


 まるで一徹の相手にならなかった大学生選手は、跳ね飛ばされたのち、不味い倒れ方・・・・・・をするその直前に、アメフトボールを取り落す。


「「ッツゥ!?」」


 グシャァっという音が轟く。《委員長富緒》と魅卯は息を飲み、場に悲鳴が重った。


『『『『『|ボールを確保しろぉぉぉ!?』』』』』』 


 ボールを奪ったものが攻撃権を奪取する。ゆえに両チームとも死ぬような声を張り上げて……


 ピピィーッ!

 割れに割れたスタジアム内の喝采を、主審が吹いたホイッスル音が切り裂いた。

 こぼれ球を拾ったのは……


『ファンブルリカバーッ! 《青法中大学リーガルダイナソーズ》! アイシールド!』


 ヘルメットに正体を隠した一徹。

 相手選手を吹っ飛ばし、こぼれ球を確保し、攻撃権を奪取する。

 ディフェンス側にとってはこれ以上ない、最大の活躍だ。


「ッツゥ!? ウォオアアアア! AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 だから、寒空に向かって一徹アイシールドは両こぶしでガッツポーズ。どこまでも届くような声量で咆哮を、そして覇を唱えた。


 WOOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!


 このビッグプレイに観客の歓声と拍手は万雷が如く。


『『『『『YEAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』』』』』』


 《青法中大学リーガルダイナソーズ》全員の興奮が冷めるわけがなく。


「……楽しいですか? 楽しい……ですよね……山本さん?」

「……って、え? あれ? 今、《委員長禍津》さん……なんて言ったの・・・・・・・?」

「何の因果でしょうか。ヤマトさんがいる三縞校に・・・・・・・・・・・・入ってしまったから・・・・・・・・・・・・山本さんはわき役に甘んじるしかなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「どこに向かって、誰に対して言ってるの? ま……さか……」

「でも、貴方もきっと・・・・・・主人公だった・・・・・・。最近になって山本さんの主人公が現れてしまった・・・・・・・・・・・・・・・・・。だから今、一つの舞台に二人の主人公が現れた・・・・・・・・・・・・・・・・おかしくなってしまった・・・・・・・・・・・


 未だすべての者の熱は収まらない。


「おっしゃぁぁぁああああAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 一徹の叫びが止まらない。

 そしてついに……


あの選手・・・・……山本・・……?」


 魅卯も、アイシールドに隠された新登場選手の正体に、気付いてしまった。



「ふっ……ウツゥッ……」


(こ、コイツぁヤバい……な)


 夜なお明るきスタジアム。割れんばかりの声援とブーイングがフィールドに降り注ぐ。

 否、フィールドに対しての物にあらず。そしてこれは決して自意識過剰乙じゃない。


「うくっ……」


(そうかよ……これが……)


 5千人収容キャパシティは遥かに超えた数の観客たちの声、視線が向けられているのは、俺に対してのものだった。


(この感覚が……)


 スタジアムライトなんて会場全てを照らしているはずなのに、どことなく俺にだけスポットライトを当てているような。

 

主人公の・・・・……感覚・・


 ファンブルリカバーでボール確保。嬉しさ余って天に叫んだのち、耳から頭に入るのは・・・・・・・・・妙な静けさだった・・・・・・・・


 拍手喝采は凄まじいのに、どこか遠くからの木霊にも似た……それと共に、生じた小さなキーンという耳鳴りは、やがて大きくなっていく。


「うっひぃ」

 

 ドクンドクンとの鼓動。力強さを、気持ち悪いほどに良く感じてしまう。


(あーマズイなコレ)


 瞬間、ゾクゾクっと寒気が全身に走り渡る。痺れに体が震えた。


 全力をもって活躍して見せる。最大限の実績を作って最高の結果へと導く。

 その結果に、評価は集まる。

 功績は称えられ、作り上げた当人に、注目と賞賛が集まるのだ。


病みつきになっちまう・・・・・・・・・・


 今まで得たことない初めての感覚にも関わらず、「俺は今、主人公を生きている・・・・・・・・・」という確信があった。


 「誰かに認めてほしい」と、そんな卑しい承認欲求が一息で、しかも自分の許容量を大きく超越した怒涛の勢いで満たされる。


(アカン。とめどなく、気持ちいい)

 

 言葉に表せない程の快楽が頭蓋の中で爆発する。それが血管や神経系を通し全身に沁み広がる。

 また体が打ち震えた。恐怖でも武者震いでもない。


(んぎっ……ぎもぢぃ゛ぃ゛)


 快感ゆえ。


『『『『『オッシャァァァァア! ナイスプレイッ!』』』』』』


 と言っても、注目されることはこれまで無縁だ。主人公として見られることも皆無で不慣れ。

 感動を処理しきれず、フィールドに立ち尽くし、呆然と観客を見上げ眺めるしかできなかった俺は……


「うわぁっと!?」


 青法中大学アメフト部員全員が飛び掛かってきたことでやっと我を取り戻した


『おうっ! よくやった高校三年生大学マイナス1年生!』

『ヤバいって今のプレイは!』

『いや、ガチでヤバかったじゃね。プロの試合NFAの見過ぎ!』


 大学アスリートさんも喜び抑えることができなかったってこった。

 抱き着いてきたり、俺のヘルメットを叩いたり。互いにヘルメットヘッドであることをいいことに、嬉しさあまり笑いながら頭突きしてくる者まで。


『この展開ばかりは参ったな。人数制限不戦敗を危惧して誘った山本君だけど、まさか僕たちにとって本当に英雄になってしまうとは・・・・・・・・・・・

「え゛っ!? え゛いゆっ……」


 終らない。キャプテンさんが更に畳みかけてきた。


『そーそーサイキョ・・・・~っ!』

『よっ! 勇者・・っ!』

防御陣側のディフェンシブMVP!』


 そこにチームメイトたちが乗っかかった。


「あぁもう、勘弁してください!」


 口だけで「ヨイショするな。持ち上げるな」なんて言ってみる。

 違う。


(もっとだ。もっと寄越せ) 


 照れ隠しにそんなことを言っているだけで、一言ごとに鋭い快楽が脳天を突き上げていた。


それじゃ諸君OK Boys! 勝負を仕掛けるgame time! というわけで今度はこちらが攻撃オフェンスだ』


 しかして流れがキャプテンさんによって推し進められたことが、俺も含め取り巻く人垣全てを沈黙させた。


(さてぇ? いつまでも浮かれてはいられない……ね?)


『山本君』

「ハイッ」

『もう誰も、僕も含め全員、君をただの人数合わせ、経験ゼロのアメフト未経験者だとは思わない』

「えっ?」

『記憶を無くした君が『経験はない。分からない』と言っていたことは恐らく嘘じゃない。でも、この複雑な競技はフィーリングだけでなんとかならないことも事実』


 攻守が交代するにあたって、改まって呼びかけるキャプテンさんの言葉に、全員が黙ってうなずいた。


『よしんばなんとかなったとして、では守備時に君が用いた専門用語と、用語の使いどころがバチっとハマるわけがない。だとするなら、考えらえることは一つ』

「一つ?」

『すなわち、君は記憶をなくす前にアメ・・・・・・・・・・リゴンフットボールを・・・・・・・・・かなり本格的にやっていた・・・・・・・・・・・・……ということ』


(……俺が……アメフト?)


「断言する。だからディフェンスプレイ時、知らずにソレが出て来てしまったんだ」

「それ……とは?」

「フットボーラーとして体に染みついた経験と本能。当時の記憶と共にアメフト知識を無くしていると思っているかもしれないが、無意識に溢れ出ている」


(そんなこと……あるのか?)


『存外な展開じゃないか。山本君が失った、アメフトをしてた頃の君はちゃんと、今も山本君の中で確かに生きている』


 掛けられた「生きている」との言葉。思わず右掌を左胸に当てちまう。


『だから我らはもう、君の事を初心者ビギナーとは見ない』


(お……イ?)


『だから我らは君の事を頼もしく思おう・・・・・・・・・・・。確かなる一個の戦力として期待させてもらおう・・・・・・・・・・・・・・・・・


(こ、ここからさらに、俺のモチベーションを上げてくるかよっ!?)


『当り前さ。山本君は間違いなく類まれなフットボール選手・・・・・・・・・・・・で、我らの仲間。この《青法中大学リーガルダイナソーズ》のチームメイトなのだから』

「ぐっ! くぅっ……」


(キャプテンさん……こっの野郎!?)


 随分とまぁ、口が旨いじゃないの。

 見た目だって悪くない。知性インテリジェンス野性ワイルドを見事に兼ねそろえている。


「一つ……いいっすか?」

『なんだい?』

「やる気にさせノセるのがお上手すぎる。大学じゃさぞかしモテるんでしょうね?」


 こんな状況にあって、そんな不謹慎なことが浮かんでしまう。


『どうかなぁ? 君ほどじゃないと思うよ?』

「ハッ、ご冗談とご謙遜を。それにモテること自体は否定しないんですね。俺は、モテる方じゃありませんから、羨ましいや」


 ただ、この一連の流れを通し、俺もしっかりその気になっちまっていた。


「攻守交替。スタートは相手チームからのパントプレーからですかね?」

『パントリターナー、やってみる気はないかい?』

「やれやれっすね。ハッ。任せてください・・・・・・・。折角っスからリターンタッチダウンの一つも決めてやりますよ。つーわけでぇ……行っちゃいましょうか皆さん!」

『『『『『ヨイショォォォッ!』』』』』

『我らはここで逆転する! 諸君! 優勝杯で、勝利の美酒を飲み干そうじゃないか!?』

『『『『『「勝ぁぁぁぁぁぁぁつ!」』』』』』


 気合を入れ直す。

 今度はてんんを取りに行くことに全力傾けることだけに集中せにゃ。


『あ、勿論山本君はソフトドリンクソフドリで』

『『『『『え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!』』』』』

『『えー』じゃないっ! ストップ未成年飲酒! 乗るなら飲むな! 飲むなら乗るな!』

「は……ハハ……」


(いいね。良い雰囲気じゃないの)


 緊張感を捨ててはならない。

 かといってガチガチになってしまっては、試合中の動きプレイパフォーマンスに支障をきたす。

 俺もキャプテンさんも、今のツッコミに笑ったチームメイトたちも、程よくリラックス入り混じる絶妙な緊張状態にあった。

 これなら最終クォーターだからと気負わず、全力で……行ける。


 ☆


『き、聞いてねぇよ。《青法中大リーガルダイナソーズ》にあんな選手がいるとか』


 これが悪夢なら醒めてほしかった。


 自分たちを過小評価したくないが、この決勝は所詮、関東大学アメフト連盟2部リーグの試合。

 決して第4クォーターから参戦した、あのアイシールド化物選手が出るような場ではない。


『まさか仮面出場じゃないだろうな。一部トップリーグとか、社会人上位チームから選手貸してもらって……』


 恨み節を吐いたのは、《桐桜華明立大インテリジェントゴリラーズ》の4年生キャプテン。

 ポジションはラインバッカー。先ほど一徹も務めた、守備の要で守備陣の司令塔。


「オッケ! まずは一本獲っていこうぜぃっ!?」

『『『『『Oh! Yeah! Fooooooooooooooo!?』』』』』』

『クソッ! やっぱ普通に相手チーム選手かよ!?』


 良い読みをしていたが実に惜しい。

 悲しいかな。勢いと乗りに乗った、若干おかしいテンションの相手チームの盛り上がりに、一体感が見えたから勘違いは残されたままになってしまった。


『なんで今まで出てこなかったんだよ。どうして今日出てくるんだよ。勘弁してくれよ! チーム十何年かぶりの決勝戦なんだ!』


 今回を含め、2度の決勝進出。そして初出場時に見事優勝を果たした実績がこのチームにはあった。


『先輩OB達も見に来てる……』


 優勝実績がある。縁起が良いではないか。

 決勝進出が決まってすぐ、桐桜華明立大アメフト部キャプテンは優勝当時の過去のこのチームを調べたことがあった。


優勝当時の黄金世代・・・・・・・・・! 《最強の、山本一徹世代・・・・・・・・・・》先輩OB達も見・・・・・・・・に来ているのに・・・・・・・!』


 十数年前、山本一徹という名手がチームにいたことを知った。

 当時はキャプテンで、ディフェンスではラインバッカーを務め、オフェンスではタイトエンドとしてプレイしていた。

 

『《リーガルダイナソーズ》のアイシールド、一体何なんだよ……』


 当時の決勝戦模様は、映像記録として桐桜華明立大アメフト部に代々受け継がれている。

 山本一徹が率いる栄光時代の《インテリジェントゴリラーズ》は、堅守と猛攻の両立を果たした途轍もないチームだった。


『こんなの、反則じゃねぇか』


 当然の如く、OB山本先輩は当時の決勝戦MVPに選ばれた。

 その後に開催された、二部リーグオールスター戦にも抜擢され、そこでもMVPを獲っていた。


『あのアイシールド野郎……山本先輩以上じゃねぇか・・・・・・・・・・・っ!?』


 そうなのだ。皮肉かのようにアイシールド選手も、OB山本先輩と同じポジションを兼務していた。

 だからこそ、かつてのスター選手を遥かに超えるアイシールド選手の凄まじさは顕著になる。

 桐桜華明立大アメフト部キャプテンもおののくしかない。


『ま、負けねぇ……』


 それでも……


『負けられねぇ! 何が何でも勝たなきゃならねぇ!』


 この決勝戦を捨てることは許されない。


 体を左右に捻り、いつ試合が再開してもいいよう待ち構えるアイシールド選手を遠目から睨みつけた。


弔い合戦・・・・! お前らとは違う! 《桐桜華明立大インテリジェントゴリラーズ》にとって、決勝進出と優勝には特別なものがあるんだ!』


 ただの決勝戦、ただ勝利する以上の執着がそこには見えた。

 十数年前の試合ビデオや資料が現在まで引き継がれているのは、決してOBOGたちの丁寧さゆえからだけじゃない。


『《ゴリラァァズ》! 絶対に抑えきるぞ! 優勝杯は俺たちが獲るんだ!』

『『『『『ゥホォォォォゥッ!!』』』』』 


 だからたけた。

 叫びは何倍もの反響となって、桐桜華明立アメフト部にキャプテンに跳ね返される。

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