テストテストテスト62
「ホントに考えもつかないようなことと巡り合わせがあるよね山本って。《
「フム? 俺の専売特許を持ち出して先に口にするとはな。少し性格が悪い。よほど性格悪い山本との縁は深まったようだ」
「んむぅ、《バルキリー》の新曲は、押さえておかなきゃダヨネ」
「や……やってしまったかもしれない。来月は定期試験。それを考えたなら、いくら得難い機会であっても、寮で試験勉強に打ち込むべきだったんじゃないか?」
オリンピックとは世界重要イベント。ゆえに応援ソングという誇り高い仕事ゆえに、一徹は本日の訓練お役御免。
しかれども英雄三組の皆はがっつり学院でみっちり授業に訓練に忙しくて、それらを終えて夕方に到り、やっと一息を付けたと言ったところ。
『き、貴様等……我が屋敷でくつろぐことになんの罪悪感もないのかっ!』
しかし一息を付く先が蓮静院の三縞邸というなら、《
「一昨年、去年と、貴様等でさえまだ配慮はあったはずだが!?」
「フム、それを言われると実感するな。ここを頼ってしまえる。そう思えるほどに、俺達と《
「耳障りのいいことを抜かすな《
「ぼ、僕はクラスメイト達が行き過ぎないようにと、そう、お目付け役をだな……」
「戯言か《
「は、反論できない……」
「アハハ、でも僕、このお屋敷のメイドさんが入れてくれるホットチョコ好き。流石、《
「褒められたとして嬉しくないぞ《
「ん~、金持ちなんだから、ケチケチしなければいいのに。このケチ」
「そして俺のクレームは決してケチ
三組の殆どが集まっているのには理由がある。
今日はオリンピック応援ソングPV撮影があると聞いていた。撮影場所も聞いている……どころではない。
クラスメイトのよしみということで、一徹が3組全員を招待したのだった。
「それで《
「《
そういうこともあって、授業が終わってからPV撮影の時間帯もとい、大学2部リーグのアメフト決勝戦の時間まで《
「……ヤマトのバカ……」
三組制の殆どか。全員ではない。
「あの、灯里さん。ヤマトさんは?」
桐京に出張中のルーリィとシャリエールは別として、ここにはいないヤマトを除き、後は《
「ヤマトは……来ない。なによ最近、情けな」
我ながら愚問を投じたと《
《
(ふ、複雑ですね。
この三組において、《
別に乙女協定を交わしたわけではないが、抜け駆けはできないという不文律がいつの間にかクラス内に出来上がり、入学式から今日までの2年と数か月に至ってきた。
それが……崩れつつある。
「あ、アハハ。ゴメンね《
「い、いえ」
「せっかく山本が滅多に手に入らない機会を作ってくれたんだもん。楽しまなきゃバチが当たるってものじゃない」
入学して以降、妄信的にヤマトのことを好きで思い続けてきた《
(山本さんが、ヤマトさんから《
穿った考えを《
どんな理由が有れ、《
《
(それが、ここにヤマトさんがいない理由……)
思い至ってしまう。そしてその結末は《
(猫ちゃんは気付いているんでしょうか? 気づいていないと……いいな)
要は一徹に《
つまるところ、入学して以降2年と半年、これまで拮抗状態だった……拮抗状態だと信じたかった《
すなわち、三組女子全員が恋心を頂いていた刀坂ヤマトが、誰を一番自分の物にしたいと渇望していたのかを。好きになってしまったのかを。
(普段何も考えていないようでいて、何かしようにも手が届くはずがないと無力を呈し装い。なのに……気づいた時にはとんでもなく深いところまで潜り込む。何か、大きく物事を変えてしまっている。山本さん、貴方はその自覚がありますか?)
厄介だ。好きな男は、別の女の子を好きであるという事実を前にしてなお、その二人の関係がおかしくなったことに《
その原因となった男がどれほど気も良くて人が良くて優しかったとしてんなお、憤りを感じてしまう。
「蓮静院家はそろそろ、
「なんたる下賤。それではあのお方は渡せんな。《蓮静院》はあのお方専用の後宮を作ることに決めた」
「どちらが下賤ですか?」
「なんとでも言うが宜しい」
(……狂ってる……)
「そうだ。山本に何か差し入れを買って持って行かない?」
「俺たちのこれまでになかった楽しみを提供する。そうだな。山本との縁をそのような形で感謝するのもいいだろう」
「ん、賛成。金の事なら心配しないでいいよ。《
「丸投げはやめ給え! いきなり差し入れといわれても……父が良く歳暮で渡す品は、いや、この時間では買いに行っても間に合わないか?」
「フン、阿呆が。無理が生じるというならこの蓮静院が無理を利かせて見せる。言ってみろ。必ず時間までに買って用意して魅せる。貴様は別として、壬生狼代議士の御用達の品。いささか興味がある」
「差し入れ案良いじゃない。賛成よ。山本……喜んでくれるかしら。ルーリィがいない分、私が山本のことを助けてあげなきゃ」
(皆さん……壊れてきてる……気付いていますか?)
主人第一主義のネーヴィスと宗次が、過剰に一徹に何かしてあげようという気持ちを見せるのが気持悪い。
《
シビア極まる《
《
(何か……おかしい。皆さん、気付いていないんですか?)
ヤマトがこの場にいないのは、果たして《
あまりに一徹に都合がいい方向に簡単に転がってしまう。一徹たちが編入する前に出来上がった英雄三組がいまの様に到るのは、おおよそクラスとして成長したとも思えない。
何か、歪に形が歪んでしまったかのようにも思える。だから彼は今の三組と行動したくないのではないかと。
(そうして……今回のような出来事が発生してしまった)
それを思うと、猶更今日明日のイベントに対し、《
(今日はアメリゴンフットボール決勝戦。そして、硬道監督と……出逢ってしまった)
三組の誰もが知らない、しかし《
(何もなければいいのですが……何も……)
一徹に心酔するクラスメイト。一徹に恋心すら持っているようにも見える《
一徹を嫌いになってしまったヤマトとはまた違う。
《
◇
『ねぇ、なんかおかしなことになってるんだけど』
『聞いてた話と違くない?』
『別にいいじゃん? なんか楽しくなってきた♪』
午前中、今や国の至宝とも見られているオリンピック代表選手が情けない姿を晒してから数時間。すでに日も落ちてから結構経った時間帯。
三縞市は、はずれもはずれにあるとあるスタジアム内。
PV撮影をもう間もなくに控え、三泉温泉からバスで護送されたアイドルとモデルたちはスタジアム内にいくつかある広い選手控室に集っていた。
(何かがあった? 私たち芸能事務所にも話が通ってない何かが……)
浮足立つ者。面倒くさそうな顔をしてふてくされている者。
すべては選手控室の外側、スタジアム全体の空気によるものだった。
『ど、どういうことなんだよ。スタジアムが超満員って……』
『どこかで情報が……漏れた』
『いやこの場合、何処かも何も一つしかないだろう。三泉温泉ホテル。この町に置いて、PV撮影に《バルキリー》が来てるって知ってるのはあそこだけ……』
『あの仲居、山本だったかしら? 『いやぁ、発作的に大学アメフト2部リーグ決勝戦を見たくなったんじゃないですかぁ?』とか言ってたけど、なんて白々しい』
まるで全国ツアーコンサートの一。志津岡県三縞市でのコンサートよろしく。
サッカーコートと、その周辺を陸上400メートルトラックが囲むだけの競技場で、収容人数だって5000人を超えるか否か。
その収容人数を大きく超えるほどの人数が、このスタジアムに殺到していた。
客席だけじゃない。立ち見の物だっているレベル。
なんなら収容しきれず、スタジアムの入場規制によってスタジアム周辺を囲う者もいるとこの場の者たちは聞いている。
万など、ゆうに超えているのだと。
『だからって別に、歌わせない』
『だな、これはライブでもコンサートでもない。そもそも、金だって発生してないんだ』
なのに……
『『『『『『ッツゥ!?』』』』』』
ワァッと、闇に呑まれた寒空を切り裂くような歓声。
女性芸能人から事務所員まで全員を行き飲ませたのは、ドンっという地響きにも似た音。スタジアムに押し寄せた者たちが踏み鳴らした足音と、足踏みの衝撃が客席の下層にある選手控室を振るわせる。
『『『『『失礼しますっ!』』』』』
さぁ、スタジアムに包まれた熱狂に当てられた少女たちの昂ぶりは、高鳴りへと移り変わる。
『『『『『わぁっ』』』』』
アイドルグループと十数名を超えるファッションモデルたち。事務所スタッフ。その人数よりもう少し多い。
挨拶と共に、選手控室に現れたのは、彼女たちお待ちかねのスーパーヒーロー。高給取りの公務員。
『え、思ったよりいいじゃん』
『もっとゴリマッチョばかりかと思ってた』
『細マッチョというか、めっちゃ絞り込まれてるって言うか』
魔装士官を目される訓練生たち。
パッと見て100人は優に超える。4分の1が思い思い私服に身を包むが、残りは全て三縞校の制服に包まれていた。
今日のPV撮影にて護衛する大任を受けていると少女たちは聞いている。
『桐京校の洗練された感じもいいけど、なんかこっちはワイルドっていうか……』
『ありだよあり。全然あり』
4,5列に並び、足は肩幅に、両手を背中に組み胸を張る。屈強な肉体と、任務に対する真剣みに満ちた精悍な顔立ち。
女性芸能人の集いが華やかさを醸すなら、巌のような少年たちの群れは猛々しさ。
性質は相反するもののはずなのだが、その登場は簡単に女性芸能人たちの視線を惹く。
「……失礼します」
『『『『『うっ』』』』』
そんな浮かれた少女たちが苦々しく息を飲んだのは、言葉と共に現れたたった一人の……
そう、またもや新たな女の子の登場人物の容姿に、芸能人たちは打ちのめされた。
(なんなの三縞って。それとも魔装士官関係者って、全国どこも
中にピンクのパーカーを着込み、上から第三魔学院のジャケットを羽織った美少女。
猫耳のついたパーカーは既にかぶっていて、掛けていた細いフレームの眼鏡の位置を直していた。
『さ、紗千香ワレ、眼鏡なんぞいつもかけとらんかったやんけ』
「雰囲気に決まってんじゃん。わかってると思うけどこの作戦に置いて指揮官は紗千香だから。先輩から許可されてるし。
『なるほど、対兄貴には二次元共通点を演じ
「……マジで、お前キモいから」
『ふぃ~。ホントに対兄貴仕様じゃねぇ紗千香は怖ぇなぁ。『お前』呼びですかい』
『逆に言やぁ、俺たちだけに本心が晒せるってことだべ?』
「いや、お前らもキモいから」
美少女だ。誰も異論を挟む余地のない。
恐らく女性芸能人たちが絶句したのは、容姿だけが理由じゃない。そんな少女たちを嬉しくさせた理由、お目当ての
「ちょっともう少し締まってくんない? まだ挨拶もろくにできてないんだから」
『締まる? いえ、締めるのは紗千……』
「とりあえず眼鏡、お前は死ね」
『フッ、素直ではありませんね。僕は嫌いじゃないですよ。そう言うの』
「はぁ、まーじ抜けたいんだけど、組」
真にモテるということがどういうことなのか、見せつけられる気がしたのだろう。
「お見苦しいところを見せましたぁ。警備担当の第三魔装士官学院三縞校です。紗千香がこのスタジアム内で彼らの行動に指揮とらせてもらいます」
猫耳パーカーな眼鏡美少女は、男子訓練生たちに見切りをつけると女性芸能人に対してニパッと笑う。
途端だ。女性芸能人らは嫌な顔を見せた。モノによっては後ろにたじろぐものもいる始末。
(いるよね、女が嫌いな女って)
「えぇと、かいつまんで説明すると男の子たちには二手に分かれてもらいます。今回のPV撮影では、アイドル皆さんとモデルさんで役割が違うって聞いてますっ」
現れて一分と立たずとして《フレイヤ》はそう判断した。
同じ学校に通っていたとして、絶対に同じクラスになりたくない。
クラスカーストトップをほしいままにする、クラスどこか学校一の美少女になるだろう。
「大学アメフト決勝戦が行われるフィールドのサイドラインにて、楽曲用のダンスを撮影されるアイドルさんを、制服男子たちがお守りします」
他の女子達から人気のイケメンだの、淡い純粋な好意を向けられるようないい男だの、優秀な男子だのその心を手玉に取って掌で躍らせる。
好意を向けていた女の子たちの好きな男子たちをとっかえひっかえして、なお悪びれない。
「アメフト決勝戦を客席から応援するモデルさんたちは、私服男子訓練生が守ります。皆さんの周りを彼らが座って囲みまぁす」
なんなら「男共が私になびくのは、アンタら他の女子に魅力が無いからでしょ? まずはその不細工顔何とかした方がいいよっ♪」と笑顔で言い切るような。
「心配はいらないんで安心してくださいっ♪ 紗千香が『守れ』って言えば、必ず皆さんを守りますから」
(って言うか、自分を指すとき自分の名前を呼んじゃうブリッ子なんだ)
小悪魔……悪女かもしれない。
今のセリフだって、あたかも『女性芸能人を守りたいから男子訓練生たちが頑張る』というわけではなく、『貴方たちが守られるのは私が命令したおかげですよ』といわれているようでならない。
女性芸能人たちが出逢いを期待していた三縞校魔装士官訓練生とは、もはやすでに紗千香とやらに心を奪われている様にしか見えないのだ。
アイドルやモデルが面白く思わないはずである。
「さてさてぇ、両者ともにご挨拶はお済のようですね」
(……え?)
何か空気が悪くなってしまった第三魔装士官学院三縞校と女性芸能人との邂逅。
まさかその間を、あまりに気の抜けたような声色が抜けるとは思わなかった。
(仲居の山本……さん?)
「アイドル、モデル皆さまのこのような大役に一端でもお役に泣てたなら幸いです」
(どうしてここに?)
選手控室出入り口ドアで立ち止まったのは仲居山本さん。
芸能人、事務所スタッフ併せ100人近い。これほどの大人数を護送したのは大型バス2台にて、三泉温泉ホテルの送迎車ではない。
三泉温泉ホテル側の送迎が発生しない以上、このスタジアムにいるはずがない。あまつさえ、これから撮影が始まろうなか、選手控室に立ち入れるはずが無いのだ。
「わたくしは大学選手たちの決勝観戦に訪れました。客席から本日の撮影、心より応援してございます。では、頑張ってください」
(あ、そういうこと)
話を聞けば《フレイヤ》も理解に足る。
ゆっくりと、深々頭を下げた仲居山本さんは踵を返す。
『いやぁこの期に及んで控室出て行かしたらアカンて』
『
『仕方ないべ。元来、出しゃばるようなお人でもないじゃん?』
(え? ちょっ……どういう……)
『んまぁ、んな兄貴をいつも表舞台に引きずり出してるのは俺達でやすからねぇ? 心苦しいとは思いやす。けどそれじゃいけねぇや』
『僕たち組員の総意でしょう? |
兄貴ほどのお人は表舞台で輝くべき
「アンタらさぁ、その無条件に先輩をヨイショするの、辞めない?」
『わかっとらんのぅ。紗千香も見たな? 前のご主人様、久我舘隆蓮をフルボッコにしたやろが』
「はぁ? わかってないのアンタらなんだけど。紗千香が望めばなんでも叶えてくれる。隆蓮なんて紗千香の操り人形。しかもあれ、ただのマグレに決まってんじゃん」
「いーからいーから、オラ、コレ兄貴のとこまで持っていきなすって。ホテル従業員の半纏じゃ、格好付かねぇや」
仲居山本さんは廊下へ至る出入口ドアのドアノブに手を掛ける。
その時だった。
「ちょっ!?」
無条件で存在がムカつく猫耳パーカーの美少女が、背中を押され仲居山本さんにぶつかるではないか。
「ぬぉっとぉ!?」
堪らず仲居山本さんは変な声を上げる。誰がぶつかったのかと、振り向いた。
「あ、一徹先輩。行っちゃヤ~ダッ♪」
「……何やってんの紗千香?」
(……また……なの?)
幾たび、仲居山本さんと圧倒的美少女との場面に絶句させられたら気が済むというのか。
「多くの人目がある中で俺にタックルって、恥ずかしいじゃないのよ」
「紗千香のせいじゃないですっ! あの馬鹿5人がっ!?」
「あん? これからお仕事だってのに、おふざけ抜けないのね野郎共も」
(……あ……れ?)
否、今回驚きべきところは、悪女が仲居山本さんの背中に体当たりしたことでも、小悪魔アプローチに対して一切仲居山本さん程度の容姿レベル男子が揺れ動いてないことだけではないらしい。
「って、紗千香ぁ? なして制服ジャケットなんざ……」
「聞いてくださいよ一徹先輩! 男子たち、先輩に号令してもらいたいなんて言って……」
「いやいや、今回の警備任務についちゃ紗千香に
「一任されました! 仰せつかりました! なのに『先輩の一言が無いと』って。何ですか彼らはバカなんですか!?』
(なんなのこの展開……)
「やっぱり組を抜けさせてください! まったく私の言うこと聞いてくれない! 私の指示なんて聞きたくないんです! 認めてくれないんです。だったら私っ……!」
「あぁ~分かった。一回落ち付こう紗千香」
「私だってこんなことでイライラしたくないですよっ!?」
「だぁわかった。お前の言い分はまたこんど聞いてやるって」
「二人きりでです! 一晩明かします! 24時間取ってください! 三縞以外で過ごします! 三縞内は組員の男子たちがいます!」
「あー……考えとく」
超絶美少女と、フツメンかブサメンかと言ったらギリギリどちらかに触れそうな仲居山本さんとの、関係性を見せられるこれまでとは明らかに違った。
(この人たち何を言ってるの? 先輩って? 兄貴ってどういうこと?)
頼もしく逞しい青少年たちの隊列を見やる。
仲居山本さんも図体だけは比肩した。が、ホンホンワカワカした物腰柔らかく頼りなさげな困ったような笑顔に、とても何か関係があるようには思えない。
「いつまでつっ立ってるんですか。早く、袖を……」
(なのにどうして……)
「あーハイハイ。わかったよ」
(どうしてその娘、魔装士官学院の制服ジャケットを差し出して……)
「ったくぅ、面倒くさいねどうも。ま、でも仕方ねぇか」
(なんで山本さん、背中に広げられたジャケットに袖を通して……)
そうして差し出されたジャケットに袖を通した、女性芸能人たちの宿泊担当仲居は……
『『『『『兄貴っ! お疲れ様でございます!』』』』』
『『『『『ッツゥ!?』』』』』
見事なまでに、纏う空気を換えてしまっていた。
(な……なに? 何が起こったの?)
第一に袖を通した瞬間、女性芸能人たちを喝采させたスーパーヒーローとも目される男子訓練生たちが、脚は肩幅、両掌を両膝に置いて、腰をかがませ深々と頭を下げたこと。
頭を挙げてからは皆、一様に胸を張り、凜とした表情で敬礼を見せた。
「すっご……これがホントの山本君……なんだね。初めて見た……」
(……本当の仲居さん? フウニャンさん、一体何言って……)
「……第三魔装士官学院三縞校、《
(えぇっ!?)
「ちょっ、信じられないんだけど魅卯ちゃん。《パニックフィールド》の投稿じゃ、今年編入だって。まさか、ゼロから始めてここまで来たって言うんだ?」
優しくて、少し頼り無い、柔らかな朗らかな笑顔はもう……どこにもない。
「……
(ひっ……)
妄執すら、瞳に宿る光には感じられる。
落ち付いた、されど低いドスの利いた声。
その変わりよう。圧気とでも言えばいいか。
(何……コレ……)
充てられ、晒され、全身にゾクゾクした者が走ったのは決して《フレイヤ》だけじゃない。
(誰……コレ……)
芸能事務所スタッフ。ファッションモデル。アイドル。誰一人として、振れ幅が大きすぎるギャップによる衝撃から逃れる事叶わない。
前々からの面識があるはずのフウニャンまで、引きつった笑みを浮かべながら体を抱きしめていた。
「PV撮影はもうすぐ。お前らも時間ねぇだろうから、さっさと終わらせる」
驚き。そして多分……恐れ。あまりの変貌ぶりに《フレイヤ》も同じく感じとった。
「《山本組》ぃぃぃぃぃぃぃぃぁっ!」
『『『『『『しゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』』』』
「これより……状況を開始するっ!」
『『『『『『
爆散したが如く。気合に対して感情を激烈に燃やしたと同時、十秒と立たず百を超えた訓練生たちは選手控室を後にする。
「ククク……バカ野郎どもが」
訓練生たちがいなくなったのを見送る一徹の背中から、何かが立ち上っている。
その何かが得体知れなくて、それがまた背中を眺める者たちにとって意識を離れさせない。
「
同じく目が釘付けになってしまった《フレイヤ》は、打ちのめされたようなフウニャンの言葉を聞き逃さない。
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