テストテストテスト61

「さてぇ? それでなんでお前が付いてきてるのかな海姫?」

「当たり前じゃない! アンタ何勝手に宿抜けてんのよ!?」

「こっちはこっちで忙しかったりするの。さっさと帰んな。シッシッ!」

「そんな無碍にしないで! アンタが離れたら絡坐の奴すぐに私に絡んでくるじゃない!?」


 トラブルも収まり宿を抜け出した俺……たちは、今晩の決勝戦に向け、出場選手として最終調整を予定してると聞く、アメフト部ある大学に赴こうとしている。

 

「ホラ、あれ見てよ」

「ちょっ! おまぁっ!?」

 

 隣を歩く傍若無人お嬢様は急に俺の胸倉掴むと、力任せに引っ張るじゃないっすか。

 

「絡坐、付いてきてる」


(マジか。アイツ仮にもこの国の代表柔道選手だよなぁ。それが……ストーカーの真似事って)


「色々ツッコミどころ有るけど、大前提として海姫に執着してる。女の子に対し気は多そうだけど、やっぱ海姫にホ・ン・キ……なんじゃなぁい?」

「冗談!? ああいう奴は女の子墜とした時点で興味無くすようなクズよクズ!」


(……絶対に似た者同士だと思ふ。性格の悪さに口の悪さに)


 ……チュッ……


「はっ?」

「あぁっ!?」


 ストーカー絡坐に聞かれないよう、俺の首手繰り寄せ、耳元で囁くのは構わない。

 問題は歩きながらという事。歩くさなかに体が揺れることもあって、耳元近くの海姫お嬢様の唇が、俺の頬に……


(や、柔ら……)


「ゴホン! ウオッホン! 海姫! 大丈夫だから。今のは事故。ちゃんとわかって……」


 不覚にも感動しそうになったが、取り繕う。

 自分のしでかしたことが信じられないとばかりに、両掌で口元を抑え、見開いた目で俺を見やる海姫の顏が耐えられない。


「ファッ……」

「ふぁ?」


(なんだ? 『ふぁっ』ってぇことはやっぱり。F〇CKかFU〇K。『クソが』って奴?)


「……ファーストキス……だった……」


(まさかぁ! ソッチかよぉォォォォ!?)


「ちょっと待て! 待って! ゴメン! 悪かった! 俺が全身全霊全速前進で悪かった!」


 ちくせう! 俺は悪くない。悪くないんだからね!? 何か物の拍子でホッペにチューってだけじゃねぇか。


(な・ん・て・思えねぇぇぇぇ!)


 流石に、申し訳ないと思う不可避。

 嫌な女だとは思う。その考えは変わっていない。

 とはいえ性格ブスでもスタイルに顔と、容姿だけはゴイスーレベルの海姫の初めてを奪ったという事実。

 耳にした途端、感じるのはとんでもねー自己嫌悪と罪悪感でごぜーますよぉ?

 

(ハッ!)


 瞬間だ。背筋にぶつけられるのはとんでもない殺気。

 ストーカー絡坐野郎も遠目から、今のを見てやがったってこった。


(隠れてる意味ねぇよ。殺意が駄々洩れだっての!)


 ほっぺにチューはアクシデント。

 とは言え遠くから見てる絡坐からは、海姫が俺の頬に普通にキスしたようにしか見えないだろう。

 嘘のカップルであるということを、奴は知らない。


(……今のうちに、硬道監督に電話してみようかな?)


「……なぁに……なさってるんですかぁ♡」


 隣町の青法中大学まで徒歩で向かうさなかの出来事だった。

 突然の事に俺も海姫もアタフタ。そんなところでね、死角から届いたのは……絶対零度の声。ハートマークはついているのだが。


「「えっ?」」


 なんとなく声の主は予測できる。

 振り向くにあたっては、頭の中で自分の首がギギギと軋んだ音を発しているように思えた。


「あ、ネービスゥ?」

「こんにちわ山本様♡ 随分とお楽しみの真っ最中でございますねぇ♡」


 ネービスさんがニッコニコしながら、ツカツカ近づいてくるじゃないっすか? 

 

「フゥン♡?」

「な、なんだよ……」

「高虎家ご令嬢でございますか? そうですかぁ♡」


 アレェ? おかしいな。声色が何とまぁしらじらしいというか。

 ヤバいっすよコレ。なんか怒っていらっしゃいますよ。


「山本様は、海姫お嬢様を第六愛妾・・・・として選ばれたと♡?」

「第……ろくぅ?」

「ルーリィ・トリスクト様は正妻。なればフランベルジュ教官が第一愛妾となりますでしょうか♡」

「はぁっ?」

「第二愛妾がストレーナス様。第三、四、五は順不同ですが、ティーチシーフ様。グレンバルド様。アルファリカ様。ここまでなら、まだ私めも許せました。山本様の当初からのハーレムですもの」

「ま゛っ!」

「ですが……第六から先は、承服いたしかねます♡」


 なんぞ、沸々としたものが言葉尻から感じられやすよ。


「……山本様ぁん♡」

「……やめて、そんな目で見ないで」


 ネービスってなぁお前さん、俺の両肩を両手でガシッと掴むじゃないの。


「ちょぉっとお時間戴けませんか♡?」

「えーっと……ですね、俺もコレで暇じゃあ……」

「お時間は取らせませんので♡」


 なんぞ分からんが終わったかもしんない。

 がっちりホールドしたネービス。俺が身動きするのも許さないかのように、笑わない目は、カッチリ俺の瞳を捉えてますん。


「ね、ねぇ、山クンカレシ(カッコカリ)。何なのよこの状況」

「俺に聞くな。後、今だけは俺をカレシ扱いするな」

「なんでよ。後方からイヤァな視線ヒシヒシ感じるのに」

「バカ野郎。この流れ、もっと嫌な予感しかしないわ」


 海姫が俺の腕を両手で引っ張るものの、下手に反応してはいけない気がした。

 そのままネービスは、オッパイ胸懐のうちから取り出した民間用スマートフォンを耳に当ててですねぇ……


 ――そう、スマホ耳当て5分も経たないうちに、更に予想外の人物出て来れり。


「あいや! あいや待たれよ山本様!」


 新たな人物の登場だぁ。んでもってその口ぶりと勢いはおよそ、俺の知ってる人物像からかけ離れていた。


「確かに肉欲は男児の本能。女体はおのこの憧れ! しかし! しかしです! 御身のお種は決して安易にバラ撒いて良い代物ではございませぬ!」


 チーンと、頭のどこかで聞こえた気がした。


「それでなお快楽に溺れたいと望まれるなら良いでしょう! 漢宗次おとこむねつぐ! 必ずや関東退魔大家は蓮静院の分家一門、全臣下一家から綺麗所と言う綺麗所を集めたりて! 山本様の望まれる酒池肉林を見事作って見せますれば!」


(こ、壊れてやがる。あの……宗次のオジサマが……)


「したいだけ♡! 山本様はセックスがしたいだけ♡! そうですわね♡!? 気持良くなりたいだけ♡!」

「んなぁっ!?」


(そしてこの……かつてネービスだった者は、一体何言ってやがるんだ!)


「ではアーちゃんを裸にひん剥き山本様のお部屋に届ければいいですか♡!? それともお好きなコスプレさせてお布団に忍ばせておけば宜しいでしょうかっ♡!?」

「ちょぉっ!?」

「何なら私も一緒にお相手致します♡! お相手したいです♡! お相手させてください♡! 桃源郷にお導き致します♡! 必ずやご満足させてみせますからっ♡!」

「ちょっとちょっとちょっと!?」

「ですから、どこの馬の骨とも知れない小娘に第六愛妾の座を明け渡すくらいなら♡! 見事アーちゃんの処女をお召し上がりいただき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私も第7愛妾として・・・・・・・・・……」

「ど、どこの馬の骨って……高虎コーポレーションの私がどこの馬の骨って……」

「分かりました! この宗次も切り札を出しましょう・・・・・・・・・・・・・・! 第一学院桐京校敷地内・・・・・・・・・・全裸での自由な活動を私が許しましょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」


 駄目だ。コイツぁもう収拾がつかん。


「手を出してならぬのは女皇陛下。玉響まゆら様。それ以外の全て・・・・・・・気に入った娘が居ましたら・・・・・・・・・・・・いつでもどこでもいつまでも・・・・・・・・・・・・・好きな放題喰らい尽くしませい・・・・・・・・・・・・・・!」


 《石楠グループ》総帥秘書室長のネービスも……


「さぁ山本様、如何です♡!?」


 関東退魔大家の蓮静院は最強臣下の宗次さんも……


「さぁ、思う存分こちらに転がりませい! 御身のお種は、我ら蓮静院家勢力内にてバラ撒きを!」


(あぁ、こいつぁ……)


「「さぁ、さあ、さぁさぁさぁ!」」


(なんつーのか?)


「「いかがか! /いかがですか山本様♡!?」」


 ズイズズイと血走った目で詰め寄られてビビらねぇってのが無理ってなもんだ。


「あー海姫?」

「な、何?」

「逃げんぞ?」

「あっ! ちょっと!」


 堪らず逃げを選択した。

 海姫の手を取って、思いっきり走り去った。


「なっ!? しばらく! しばし待たれぃ山本様!」

「私めのホ〇は、いつでも準備万端にございます♡!」

「〇トとか、生々しいんだよっ!?」


 よっぽどね、海姫はカノジョじゃねぇって叫んでやりたかった。だけどそれは叶わない。

 そしたらストーカーの絡坐を調子に乗らせる……だろ?


 ◇


「こんにちわ。今日はお世話になります」

『うん……今日は宜しく頼む』


 ぶっ壊れた大人たちをぶっちぎってやってきたのは青法中大学のアメリゴンフットボール部、《青法中リーガルダイナソーズ》の部室。


(へぇ? もう入ってるのか。良い集中状態じゃないの)


『用はそれだけかい? 挨拶だけ?』


 紳士的で朗らかだった男子大学生は今はここにいない。

 俺の声掛けに帰してくれたのはキャプテンのお兄さん。今は決戦を何時間も前にし

て、すでに集中に入り感覚を研ぎ澄ませるアスリート。

 キャプテンだけじゃない。部室にいるすべての選手たちが剣呑な顔で今日の決勝が始まるその時まで刻一刻とゆっくりと、されど確実に闘志燃しているかのような。


「海姫、わかってると思うけど、スポンサーって立場に胡坐をかいて上から目線で物言うなよ?」

「わかってるわよ。折角の大事な試合に無粋な真似をしてるのはこちらなんだから」


 オリンピックとは世界的イベント。応援ソングのPVだって結構なビッグプロジェクト。

 そんなこと分かっていて、だからといってPV撮影だけに配慮するわけにはいかない。俺個人としてはそのPV映像として使用する大学生アメリゴンフットボール決勝戦についてもっと礼儀を見せていきたかった。


「高虎海姫と言います。今回大学生さんのアメフトの決勝戦に乗せてもらって撮影するオリンピック応援ソングPV撮影のスポンサー関係者です」


 PVの為にアメフト決勝戦があるわけじゃない。そもそもアメフト決勝戦にPV撮影が乗せさせてもらうのだから。


「この度はこのような無粋な真似をして、神聖かつ大事な一戦を穢すような真似をして申し訳ありません」


(へぇ? 海姫の奴、ちゃんとわかってるじゃねぇか)


 一つ大きく息を吐く。背筋をしゃんとただし胸に手を当て言葉を紡ぐ。お嬢様の癖にちゃんと頭まで下げやがる。

 チョッチ意外。

 もともとこの時間にここに挨拶のため来ようと思ったのは、あくまで俺の予定。海姫は絡坐から逃げたいがために付いてきただけなんだが、ちゃんと適応してみせた。


「いいのさ。実は感謝もしてる」

「感謝ですか?」

「僕たちの試合映像がオリンピック応援ソングと言う大作に華を添えられたらいいけど。きっと今後長く人々の記憶にも記録にも残るのかな? たかが学生レベルの決勝が、一転名誉の一戦になったのだから」


(ハハ……本当に、ここのアメフト部は……)


 紳士のスポーツはラグビーってのが相場が決まってる。

 まさかここのアメフト部に初めて顔を出したとき、騎士道みたいな高潔さを感じるとは思わなかったけど。

 決勝当日と言うことで、あの時俺たちに見せてくれた配慮と言うのは今はない。それだけ今日の一戦に掛けてる大学生アスリートたちが真剣で必死な証明だった。


(無粋なのに違いねぇのに、それでも俺たちに配慮を見せてくれるかよ)


『高虎さんだったね。ありがとう。こんな素晴らしい機会を僕たちに与えてくれて』

「……あ……」

『本当はこんな名誉なこと、大学アメフト部1部リーグの決勝戦。若しくは社会人リーグ決勝で行うものだと思うから。それを、所詮2部リーグの我々が務めさせていただく。誉れだよ』

「くぅっ……」


 恐らくだが、キャプテンさんの言葉に海姫も感じ入った物があった。

 先ほど胸に当てた掌は、ぎゅうっと拳を握っていた。


『この気持ちは恐らく僕たち《青法中リーガルダイナソーズ》だけじゃない。《桐桜華名立大インテリジェントゴリラーズ》も同じ。決勝戦だからもちろん全力でやるけど、人生最初で最後のこの得難い機会、一層気合が入る。だから……ね?』


(なんちゅうかほんちゅうか。フウニャンさんもそうだけど……)


『諸君! 我々は……全力で勝ちに行くっ!』

『『『『『『応っ!』』』』』』


 キャプテンさんの一言に、室内の部員全員が気合で返す。

 その怒涛さは室内の空気と俺たちの肌をビリビリと震わせた。


(大学生っつーか。カッコイイ大人ってのはホント、カッコイイ。って、この俺の語彙力の無さね)


「うつっ……」


 その気合を肌で感じたか。海姫は黙って頭を下げた。

 

「絶対に……失敗できない」


 自分こそ世界の女帝とばかりに普段たたずむ海姫が自然と頭を下げた。

 礼儀はみせなきゃいけないと思っているのがわかったから、俺も続いて頭を下げる。


「だなぁ」

「あっ……」

「お前さ、普段ツンとしてるくせに、結構アツいキャラかよ」

「な、何言って……」

「嫌いじゃねぇよ。そういうの」

「……五月蠅い」


 二人とも頭を下げたままヒソヒソ話。結構、楽しかったりする。



「どーしたんだよ浮かない顔して」

「……幾ら実家がスポンサーとして加わったプロジェクトだとして、やっぱり無粋だったかしら」

「ククッ……海姫お嬢様が随分とまぁ弱気じゃねぇの。らしくねぇ」

「茶化さないでよ」


 アメフト部の部室を出てから、大学の正門を抜けて敷地外に出ようというところで、海姫お嬢様が立ち止まる。俯いていた。


「私もこれで、アスリートの気持ちは分かるつもりよ。試合に向ける想いや心構えだって……」

「あ、そうか。海姫も元オリンピック出場選手オリンピアン……だったんだっけか。アイススケート代表選手」

「4年前、14歳の時にね」

「ワリィな、お前も知ってるかもしれないが、俺には去年以前の記憶がね?」

「悔しいけど、全然大したことなかったわよ。神童だのなんだのもてはやされたけど、いざ世界で戦ってみた私は、結局入賞にも届かなかった」

「そっ……かぁ?」

「別にその時の事で卑屈になってるわけじゃない。私は当時の桐桜華一のスケーターじゃなかったけれど、オリンピック出場枠に入るだけの実績も残したし努力だって」

「なるほど? ゴイスーじゃないの。競技に真摯に、ひたむきに努力し続けた。その時の自分を思い返すと、応援ソングPVの撮影で大学アメフト選手の選手生命をかけるような試合を利用するのに抵抗がある……と?」


 少しでも話せたことで胸のツカエでも取れたのかね。

 再び歩みを始めた海姫は正門を抜けて敷地外に出た。


「さっき熱血って言ったわね? どうかしら。こーんな超美少女が何かに拘って、固執して、ちょっと私のキャラに会わない。ダサいとでも思ったんじゃない?」


 コメカミの髪を耳裏にかき上げ、俺に振り向いた。


「オリンピック終了と共に私はスケート選手を引退した。今にして思えば、まだまだやれることがあったかもしれないけど、別にそれは未練じゃない。少なくとも私はその時やり切ったと胸張って確信した。で、第一学院に入った」

「ハハッ、サラッと言ってくれやがるね。お前の実家で異能力者はいないって話だろ? 突然お前の異能力が発現した。そのあたりもドラマがありそうなもんだが?」

「駄目よ? 女の秘密って奴。アンタ如きが知り得ていい物じゃないんだから」

「さてぇ? そう言われると気になるもんだが……」


(ったくぅ、ホント女心はわけわかめ)


「ク……ククク……ダ・セ・エ!」

「なぁっ!?」

「ダセェ! ダサすぎッ! クフフッ……ギャーハッハ!」

「あ、アンタねぇ、ダサいって言うのは私も自覚しているから気にしないとして、馬鹿にして笑わないでよ! 恥ずかしいんだからねっ!?」


(そーいうの、最初から話してもらいたかったもんだよマジで)


 バカ笑い飛ばしてしまって(自分でも失礼すぎるってのは分かってる)、したら海姫の奴、顔真っ赤にして喚くじゃない。

 ガチで恥ずかしいのだろうが、笑った俺に怒る海姫のもとに向かって歩み寄った俺も、続いて正門を抜け、大学敷地外に出る。


「いーわよ! 変なこと口走った私がバカだった! 先に宿に帰らせてもらうから!」

「まぁ、待てよ」


 さっさと身を翻す。このままでは足早に去ってしまう事請け合いだから、海姫の手首を取る。勝手に去られてはたまらない。


「海姫は、大学生たち一世一代の大勝負に出しゃばったことに気が咎めてる」

「確認しないでいいわよ。別にアンタの理解なんて求めて……」

「だが大学アスリートたちは、この機会を良い方向に捉えてる」

「何勝手に話進めて……私の声、聞こえてるの?」

「……手ぇ貸せ。海姫」

「えっ?」


(熱血女子ね。そういうの、嫌いじゃねぇんだよ。もっと早くわかっていたら、もっと早く仲良くもなれたのかもしれないね)


 手首を取って海姫を引き留めた癖して、二、三歩離れた俺。

 今の話を聞いたこと、海姫お嬢様が実は滅茶苦茶熱血アスリート目線が出来る奴だと知った途端、ふとある考えがよぎった。


(あらら、俺の悪い癖。何でこうもふと、こういう時に邪道っつーか、変な案が俺の頭によぎるのかね)


「頭の悪い俺らしい、馬鹿見てぇな案が浮かんでさ。試しに一度だけ、聞いてみないか?」

「『変な案』て自分で言うのやめなさいよ。そんなこと言われた身としてはあまり聞きたく……」

「……お前の力が必要だ・・・・・・・・。高虎海姫」

「ッツゥ!?」


 スポンサー関係者でいま三縞にいる中で本プロジェクトにおける最高権限者たる海姫の力がもし借りれたら、面白いことができるはず。

 そう思ったら、何が何でも海姫の手を貸してほしくて、思わず手が伸びた。


「……いいわ? 乗ってあげる」


 海姫と言えば疑いの目を俺に向けた……まま、だが笑みも浮かべていた。


「その代わり、この私の手を借りる以上、退屈はさせないでしょうね?」


 伸ばした掌に、海姫も掌を重ねてくれる。

 「手を貸してくれる」と、行動でも示してくれたってこった。


「ククク……さてぇ? 言った以上はやってみるか。自分で言って何だが、更に忙しくなっちまうのかな。やっぱやめようかな? 考えてみたら面倒くさそうだし」

「あ、アンタ……『男に二言はない』って言葉……」

「おっとぉ、そういうの最近じゃいけないんだぜ? 男は男らしく、女は女らしく。それだって性別差別を助長する」

「まったく、あーいえばこーいう。まずは宿に戻るわよ!? 私も働くから、アンタも働きなさい!」

「へいへい」

「ヘイは一回!」

「いや、そこは『ハイ』じゃねぇのかよ」

「あっ!」

「やれやれだねどうも」

「なんでアンタが呆れてるのよ!」


 話は纏まった。善は急げってやっちゃ。

 俺が延ばした手を取った海姫は、そのまま俺を引いていく。



『うっわぁ! 嫌なもの見たじゃん!?』

『嫌な物……と言う程でもありませんが、あの人も考えなしと言うか、後で何か問題になったりしないといいのですが』

『嫌なこと言ってるばぁ。兄貴シージャーがフラーやらかすと決まって後がメンドイやっし』

『どう思いやす? 来やすかねぇ。ゴゴゴな姐さん。シャリエールのセンセも』

『口は禍の元言いよってからに。沈黙は金。なんならワシらは何も見とらん。何も知らん』

『その方が俺らの身に禍が降りかかることもありやせんね。兄貴の女癖のだらしなさ、火中の栗を進んで拾いに行くことも怖えしな。そ・れ・よ・り・も……』


 遠目に一徹とどこかで見た覚えのある少女の背中を眺めるのは《山本組》古参幹部を自称する、一徹と最も近しい後輩たち。


「はぁぁぁっ? なんであの女!?」


 いつでも無意識中に異性を魅了する厄介な兄貴分の姿に辟易しつつ、今一緒に行動する《山本組》に最近加入した一人の女子訓練生の昂ぶりに、古参幹部5人はいやらしい笑みを浮かべた。


「高虎海姫ぃっ? ちょっ、ノーマークって言うか。なんで一緒に行動してるわけ!? 嫌い合ってたんじゃないの!?」

『おーおー興奮しちゃってまぁ?』

『カカ! 《愛しの一徹先輩♡》がテメェに見向きもしないで他の女と一緒にいる。面白ぅないゆうとこやろ』


 胡桃音紗千香。最近になって《山本組》に強制加入されるまで、一徹に過激なアプローチを毎日のように掛けていた。


「あり得ないでしょ!? 三縞に住んでるなら別として大した繋がりもない癖に!  紗千香は放っておいて、なんでポッと出となんか!? あり得ないからっ!?」

『おうおう、怖いねぇウトゥルサヤ―?』

『まぁ、何か思惑があって兄貴に近づいたんだべ? 相手が悪ぃじゃん。兄貴はそういうの、知らないうちにのらりくらりと交わすようなお人じゃん?』

「許せない。紗千香、ちょっと行ってくるか……」


 近づいたのは、思惑がある故。


『おーっとぉ? どこ行きやがんだオラ』

『ワリャ、勝手にワシらから離れるん許さんでぇ?』


 しかして無理やり組に加入されてからというもの、お目付け役宜しく、古参幹部衆5人が常に取り囲んでくるからたまらない。

 今も一徹のところまで駆け寄ろうとして、その腕をとられ、引き留められた。


「は、離して! 離しなさい!」

『さて、それは聞けない相談ですね』

「離せっ!」

『もう少し君は自覚を持った方がいい。そして諦めなさい。君は○便〇なのですから』

「なぁっ!?」


 5人の内、普段は常識人でとてもマトモなことを口にする眼鏡男子の一言に、紗千香は顔を白黒させる。


『兄貴が僕たちにこれまでの活躍に向けて贈ってくだされた褒賞。僕ら専用○○器』


 お目汚しとなってしまうので、「肉○〇」というのが何かというのは、控えさせていただこう。 


『まさか君ほどに美しい女の子を、兄貴が一度も手を出すこともなく僕たちにあてがうとは思いませんでしたが。これも兄貴の僕たちへの日頃の感謝の現れでしょう』

『……あー顔出しやしたね』

その手の会話に・・・・・・・入りゆうと・・・・・、ワシラん中では一等変態度合い晒す奴やからのぅ』


 古参幹部衆2年生の最たる変態眼鏡に、両肩を両手で抱かれ、無理やり見つめ合う状態にさせられる。


『安心してください。紗千香がすでに非処女のビッチであることは分かってます。それでいつ僕の童貞を貰ってくれますか?』


 これは、紗千香も思わざるを得ない。

 「ヤベェ奴いる」って奴だ。


『あ、先に行っておきますが、百歩譲って兄貴の童貞を僕より先に奪ったとしても、ここにいる4人の方から先に奪うの許しませんからね?』


 古参幹部衆5人それぞれ、タイプは違う者の見てくれは悪くない。

 眼鏡をかけたインテリイケメンの雰囲気。紗千香だって悪くないとも思うかもしれない……アウト過ぎる発言さえなければだ。


『あー、悪いんだが眼鏡幹部野郎の童貞貰ってやってくんね?』

『ワーらも、初体験って奴をしてみたいやんに。まずは眼鏡幹部野郎を満足させてだなぁ』

『喧嘩だったら何べん勝てると思うじゃん? 違ぇべ? 先越すそうもんなら眼鏡幹部野郎に刺されるような気しかせんべ? 致命傷的な意味で』

「ちょ、ちょっと……アンタたち!」

『頼むわ紗千香。幾らワシラん所有物ゆうても兄貴からの贈り物。乱暴して襲い掛かるような真似も出来ん。ここは一つ観念して……』

『『『『『ワシ/俺/ワン/僕の童貞を貰ってください! お願いしますっ!?』』』』』


 さぁ、紗千香が全力で古参幹部衆5人から離れ去って一徹の元に行きたいのは、一徹と高虎海姫のデートシーンに文句を付けたいがためか。

 

(き……キキキ……キモォォォォッ!?)


 頭を下げた古参幹部衆から純粋に感じる身の危険ゆえ、距離を置きたいからか。

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