てすとてすとてすと59
「あ、おっはよう山本少年!」
「おはよう、ございます仲居さん」
『『『『『えっ?』』』』』
「おはようございますお客様。先にご挨拶を頂いてしまいましたね?」
夜が明け、ある者は起き抜けに大浴場の内湯と露天風呂に浸かって目を覚ます。
他、ヨガや瞑想でもって一日の始まりを気持ちを整えて迎えようとする者もいた。
『お客様皆さま、おはようございます。よくお休みに慣れましたでしょうか?』
『『『『『お……おはようございます』』』』』
人間とは卑怯で滑稽だと《フレイヤ》は思わざるを得ない。
朝食の為に全員集まった宴会場にて、本日初登場の仲居山本さん。
昨日姿を現したときには、アイドルもモデルたちも凄まじい批難と嫌悪感を見せていたものだった。
『今晩の撮影に向け、本日は朝から様々なトレーニングを控えていると伺っております為、軽めのものをご用意いたしました。どうぞお楽しみいただければと存じます』
それが今では、誰もが黙って仲居山本さんの話を固唾を飲んで耳を傾ける。
自分たちよりも数段美しい女の子に恐らく認められている事実。そのなかの一人から、「何様のつもりだ。たかだかお前たちの容姿レベルで」と牽制されたことで見方を変えた。
(手のひら返しも甚だしい)
朝の挨拶を終え頭を下げる仲居山本さんの後ろから、昨晩姿を現したやはり目覚めるような美少女たちが料理の乗った皿をもって宴会場に入ってくる。
(本当になんなの? この仲居さん)
料理が全員にいきわたったのち、静かに、朝食は始まった。
「お客様皆さま、お召し上がりになりながらお聞きいただけましたらと存じます」
もう仲居山本さんが口を開けば、全員が食事を止めて一斉に視線向ける状況。
国民的アイドル達や、人気絶頂のモデルたちから意識を集められても、仲居山本さんは呑まれることなく微笑を浮かべていた。
「本日夜からのプロモーションビデオ撮影に際しまして、警備の担当は第三魔装士官学院三縞校の訓練生が担当いたします」
言葉により沸き立ったのは、モデルやアイドル達の浮かれた雰囲気と芸能事務所員の不安そうな顔。
魔装士官と言うのは、昨今この世界を恐怖に貶める《アンインバイテッド》の討伐隊員。
公務員でありながら高給取りであること、何よりスーパーヒーローとも目される、男女ともに付き合いたい職業。
その訓練生とお近づきになれる絶好のチャンス。
「つきましてはお食事中のこの場をお借りし、学院の生徒会長、月城魅卯様からのご挨拶のお時間を設けさせて頂きました」
『失礼します』
魔装士官訓練生が警備を担当するという情報に、やいのやいの盛り上がる宴会場は再び、絶句を強いられる。
襖をあけ、廊下から声と共に現れたのは、仲居山本さんが紹介した学院の生徒会長なのだろう。
『ホゥ、こちらもなかなか……』
『生徒会長と言うからには、スカウトは許されないわよね』
背中を爽やかな風が押しているようにも見える、軽やかな足取りで宿泊客一同の前まで立った、小動物を思わせるクリクリっとした目鼻立ちした美少女。
「皆さま初めまして。今晩のPV撮影の警備担当をさせていただきます、第三魔装士官学院三縞校生徒会長、月城魅卯と申します」
だけでは無く言葉に表せない品位と華があった。
「オリンピックという世界重要プロジェクトにも数えられる祭典に向け、協力させて頂くこと、誠に光栄です。精一杯務めさせていただきます。宜しくお願い致します」
「魅卯ちゃぁん! おはよっ」
「あ、フゥニャンさんおはようございます」
挨拶と共にペコリ下げた頭を戻したところで、フゥニャンが明るく月城さんに挨拶する。
返すニパっとした笑顔は愛らしい。
(多分この子も、血統なんだろうな)
静まってしまったアイドルやモデルたちの考えていることは、《フレイヤ》も何となく理解した。
芸能界で日々ファンからチヤホヤされ、自分の容姿レベルを鼻にかけていたところがあったんじゃないかと。
自分たちは井の中の蛙で、本当に容姿が雅なのはどういうものなのか、この場で畳みかけるように教えられているのではないかと。
(現実を見せられてる気がする)
「じゃあ山本君、私の為に時間を作ってくれてありがとう。じゃあまたスタジアムでね? 一緒に決勝戦を見れるの、楽しみにしてる」
「うーい」
『『『『『「……え゛」』』』』』
そしてまた仲居山本さんが、そんな美少女と気取らず話すから、芸能関係者全て変な声が挙がる。
「それでは皆様、後程回収いたしますので、お召し上がりになりましたら食器はそのまま、お席を離れていただければと思います。今日も一日、お客様にとって素晴らしい一日となりますように。私はこれで失礼いたします」
またもや大金星すぎる光景を見せつけた仲居山本さんは、柔らかな営業スマイルを浮かべ、再び深々と頭を下げた。
正座の姿勢で手を使って体をスライドさせ、廊下に出てから襖を閉じるまでに、フウニャン以外の誰もが沈黙に沈んでいた。
朝食を始めてから活気を取り戻すまでに時間がかかった。
◇
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
「お……お待ちになって?」
どうせお客さんたちは朝食を取ってからダンスの振り付け合わせに取り掛かり、モデルたちも演技チェックに入る。
一時間ちょっと俺が居なくても大丈夫なはず。そのタイミングを見計らって朝食を取ろうとしたのだが……
「リィン、俺の飯は?」
「あれ? エメロード様、今何か聞こえました?」
「さてぇ、空耳じゃないかしら。でもなければ、無意識的に私たちの鼓膜が利きたくない声を遮断し、瞳も存在を映さないのかもね?」
隊員女子たちが朝食を始めたのは良い。《オペラ》の女子三人までなぜか当たり前のように飯を食うのもいい。
俺の飯だけない。
「そいやナルナイ、師匠はどした?」
「どうしたんでしょう。私は知りませんよ? トリスクトやフランベルジュ特別指導官は別とし、私たち以外に
俺は小隊長だぜ? 隊員のこんな舐め腐った態度、許されねぇとも思うだろ。
ここはガツンと言ってやらないとって場面だ。
「だよなぁ。まさか師匠がポッとでのオンナになびくとか、あり得ねぇもんなぁ。確かにそんなの俺たちの師匠じゃねぇよなぁ」
「そだね。そんなの私たちの兄さんじゃない」
「いくらバカとはいえ、山本一徹はここまで何も考えなしじゃないものね」
「ふ、ふぐ……フググ」
無理でございます。
何となくだが、
「それでぇ? どーしてお前だけ、旨い物食べてるのかなぁカ・イ・ヒ?」
「な、なによその目は」
「おかしいよねぇ。荒唐無稽な依頼を押し付けられた俺が飯抜きで、お前にはちゃあんと朝食があるって」
となるとね、諸悪の権化に食って掛かるってのが当然というものだ。
「わぁ、でもちょっと馴染んできたね山もっちゃん。海ちゃんを下の名呼びって、桐京校の皆が聞いたら殺されちゃうんじゃないかな」
「でしょうねぇ?
《オペラ》三人とも、俺の苦境を前に通常稼働。ま、他の二人は別として海姫だけは許しちゃなんねーでしょ。
「にしても、解人君とお前ら三人の婚約者候補関係が解消されることが、こんな出来事を引き起こすかよ。陸華と空麗さんの方は変なことになってないのか?」
「初めの方は結構凄かったんだけどね。僕だってこれで結構告白されてきたんだよ! 凄いでしょー山もっちゃん。褒めてくれていいよ」
「なして俺がお前さんがモテることに対し褒めにゃならんのよ。それで? カレシが出来たとか?」
「あー、兄貴たちが出張ってきて……」
「はっ?」
「大変でしたわね。桐京校の1年生から3年生。ざっと50人が陸華さんのお兄様方に、その、二目と見れない姿までボコボコに……」
「うげぇっ」
「このままでは年度末の競技会に向け、戦力的に危うくなる。陛下自らお兄様方を諭し落ち付かせることになってしまって」
「うわぁ……」
(『お兄ちゃんたちは妹守るに必死です』って奴か。にしてもシキまで出てくるってことは、やっぱり陸華は本当にゴイスーな名家のご令嬢ってこった)
「人生一回、誰かと付き合ってみたかったんだけど。あ、そだ。折角海ちゃんのカレシになったことだし、ついでに私もカノジョにしてみない? よっ! ハーレム!」
「結構です。海姫一人で俺の朝食がなくなった。このうえ陸華までって、下宿から追い出されるわ。冗談なのは分かるけど、冗談で言うんじゃないよ。そういうのは好きになった野郎に言って頂戴」
「え? 僕は山もっちゃんの事好きだよ?」
「はぁっ?」
「山もっちゃんといるとスッゴイ楽しいし。ラーメンとかカレーみたいな、無くてはならないっていうか」
「うん、それ、違う好きな?」
「照れなくていいのに。嬉しい癖に!」
「だぁっ! 抱き着いてくる……ヒィッ!?」
我思ふ。陸華のお兄さんは極度のブラコンってぇ話じゃないの。
天真爛漫なのは間違いなく魅力だよ。でもね、その天真爛漫さと純粋さが隙となる。だから桐京校男子生徒を吸い寄せたのだろう。
(野に放つな兄貴共。乳無しケツ無し……
「「「「じぃーっ」」」」
あきまへんねこれ。
無表情。ただ視線だけ集めてくる小隊員に、虫の居所が悪くなって仕方ない。
慌てて掌を陸華の顔面にかぶせ、力いっぱい引きはがした。
「私は学内外から結構お声がけを頂きましたけど……」
「頂いた……けど?」
「翌日にはその全ての行方が分からなくなりました」
「……へ?」
「フフッ♪ ウフフッ☆ ウフフフフ♡」
(アカン、空麗さんについちゃ純粋に怖い。それだけ)
「海さんと陸華さんを攻略した暁には、私の攻略もトライしてみます?」
「や、止めておきます」
口元を掌で抑えてクスクスと空麗は楽し気。空恐ろしい物を感じて、それ以上突っ込むのは辞めた。
「まったく、お前たちが来て落ち着けた試しがないね」
心なしか打ちのめされたような気分になりながら、お椀に手を伸ばす。みそ汁に口を付けた。
「あっ! ちょっとアンタ」
「ん~! やっぱ味噌汁はリィンのじゃなきゃ。染みるね」
「いったい誰のお味噌汁……」
「うはぁ、だし巻き卵いい塩梅」
「それ、私の
味噌汁は、俺の空の胃袋を良く刺激する。食欲を増進させた。
「干物、たまらんっ! 身全体に旨味が染み渡って」
「ちょっとちょっとちょっと!」
「オッケ、この温度なら手で行ける。茶で掌湿らせぇの塩降って伸ばしぃのご飯握って……ですなぁ」
「えっ? ウソ、アンタ本気でホントに……」
「あ゛ぁ゛、
「っあぁぁぁぁぁぁ! 私の朝ごはん!」
パンと両掌を併せてご馳走様。
脇で何か怒鳴り声が聞こえるような気がするが、気のせいでもないと思うが、全力で無視しようと思う。
「何してくれてやがるのよ! 私だってお腹減ってたのに!」
「るせー! 本来変な頼みごとを吹っかけてきたお前がお預けだろうが!」
「鬼! 悪魔! モラハラ男!
「誰がカレシだ誰が! つか、
「私の朝ごはん帰して! か・え・し・な・さ・い!」
「てめっ! 腹殴るな。どっちがDVだよ!」
あ、これ無視無理ゲーってやつ。
(この女、ま
「そうだ皆、今日のお昼は6人分でいいかな?」
「いつも通り6人分で構わないわ」
「師匠がいないなら仕方ないよな」
「帰ってくるまでその量で大丈夫ですよティーチシーフ」
「ねぇねぇ空ちゃん。6人分って? だけど……」
「あー……完全にこちらの皆さんから海さんだけ敵認定されちゃいましたね。喧嘩するほど仲がいいと言いますし、揉めてるようにも見えて、見方によってはじゃれ合ってるようにもイチャついているようにも見えますし」
本格的に、俺を見る隊員たちの目が真っ白でござぁす。
ここまでシラーってのは初めてなんじゃなかろうか。
リィン。エメロード。ナルナイ。アルシオーネ。陸華と空麗の6人分。
「どーすんのよ! アンタのせいで私も食事抜きじゃない。私はちゃんと食事代支払ってるのに!」
「違ぇわお前のせい! 全部全部お前のせいだっつーの!」
「何よ!」
「何だよっ!」
そうですかそうですか。
マジでポクと海姫分の食事は、こののちも出されないということですね? わかりま……わかりたくありましぇん。
「うぅ、折角の朝ごはんがぁ。お腹……減ったぁ……」
参ったね。クソオンナのおかげで酷い目に絶賛会ってるっちゅうに、ホラ、海姫の奴、顔とスタイルだけは凄いから。
「あー、付いて来い」
「なによ。この期に及んでまた嫌がらせ?」
「バカ野郎。どっちかっつーと、嫌がらせは俺が受けてるってぇの」
ほんに飯抜きでショックを受けた顔は、見れたもんじゃない。
――場所を本館。従業員の休憩室に移る。
「オイッヒィ♡」
「単純な奴だね海姫も。こんな料理に嬉しそうにしちゃってまぁ」
何十人と殺してきたような強面の板長さんに命懸けで頼み込んで(気前のいい人だってのは知ってるが、顔が怖すぎる)、二人分の簡単な食事を作ってもらった。
俺も海姫の朝飯を奪ったものの、あれでは量が足りない。
「こっちもおいしっ♪」
「高虎コーポレーションったら、泣く子も黙る桐桜華一の陶磁器専門商社だろうに。おファランチとか中亜華フルコースとか。毎日いいもの喰ってんだろ?」
クズ野菜やキノコの端切れを入れた茶碗蒸し。アオサ海苔が入ったみそ汁。ジャコとワサビの葉を甘辛く炊いた出来合いの佃煮。そして白米。
奴さんは言葉通り、口に入れ、咀嚼する際には右掌を頬に当て、目を閉じていた。
「当然よ。普段学院でお昼ご飯を食べる時だって、専用ボートで第二お台場まで料理人をわざわざ呼び寄せ作ってもらうもの」
「ならこんなお安い料理はお呼びじゃないだろ」
「勘違いしないで。高い料理と美味しい料理は同じじゃない。真に美味しさは、寧ろこういった皆が慣れ親しんだ料理にこそ宿るもの」
「そんなもんかねぇ」
「古今東西あらゆる美味を堪能してきた私が言うのだから間違いない。それに……」
幸せそうな顔しやがる海姫は、不意に真剣な眼差しを向けてきた。ピッと自分が使ってる箸先を俺に向けやがる。
「気取った物しか食べてこないとね、こういう庶民料理を普段から食べられなかったりするし」
「モグモグしながら話すな。箸先向けんな。行儀悪いぞお嬢様。あと庶民言うなし」
「別にいいでしょ? 私とアンタは別に、礼儀を気にする間柄じゃなし」
「ハッ! 調子狂わせてくれるもんだねどうも」
「実のところ、この宿の滞在って凄く心地良いんだから。桐京じゃ一挙手一投足見られて落ち付く暇なかったし。ここならティーチシーフさんの家庭料理食べられて、本当美味しくて……」
「だから板長の魂込めた膳より、リィンの料理にガッツくのか。気になってた。わざわざ高い金払って宿泊まって、なんでリィンのアジフライに喜んでたんだって?」
「アンタのせいでもう食べられないけど。違うわね。私のせい」
食べる手を止め、体を背もたれに預けてため息一つ。
何となく、話は昨日聞いた本筋に戻りそうだった。
「なぁ、そんな嫌な野郎なのか? 諦めさせたいが為、嘘の彼氏役を嫌いな俺に頼み込むほど」
「私は嫌。気に入らない」
「ば、バッサリ来たね」
「ほんっとうにいけ好かない奴なのよ。だったらまだ、頭が悪いだけのアンタと付き合う形の方がマシ」
「て、テメ……」
「なに怒ってるの? 最大限の賛辞よ」
「ど・こ・が・だ?」
海姫が俺のカノジョとして、俺が海姫のカレシとして、嘘の交際関係を交わした。
「何でもかんでも力で解決するような奴なの! 脳筋なの! その癖、悪い考えだけヤケに頭が回るの!」
「いや、んなわけないっしょ。まさか推薦で入れるほど、第一魔装士官学院桐京校は甘くないだろ?」
「そりゃ最低限の基礎学力はあるかもしれないけど。そういうことじゃないの」
来年に控えたオリンピックの出場がすでに決まった、桐桜華皇国代表柔道選手にして、第一学院桐京校訓練生。
彼も三縞に来ることになってる。
オリンピック応援ソングのPV撮影は、決してアメリゴンフットボールの試合中にだけ行うわけじゃない。
乱取り(試合形式の自由練習)風景も、PV用映像として使うと聞いていた。
「解人君との婚約者候補関係が解消されたのを聞いてから、アプローチが凄くて……」
(解人君、
「ほうほう。そういやどーしてお前だけ、言い寄ってくる野郎に困ってんの? 陸華は兄貴たちが野郎どもを排除してる。空麗さんにいたっちゃ寄ってくる野郎どもが
「無双よ? それはそれはもう無双。私の半径1メートル内に入ろう男はざっと100人以上全力で排除して来たわ」
「よ、容赦ないねぇどうも」
(俺なんざフツメンと飯食ってるこの状況を鑑みりゃ、ニワカには信じられないけど)
「でも絡坐だけはしつこく言い寄ってくるのよ」
「……
「はぁ?」
(性格ブスだが見てくれ
「本格的に海姫の事気になってるってことやぞ? ソイツだけは大切にした方がいい。お前みたいな性格尖り過ぎてる奴想い続けるって、中々出来るこっちゃ……」
(聞けば良く出来た人物にしか思えないないんだが)
なんなら素晴らしすぎる容姿に騙され、世の男たちの心が海姫よって
だったら絡坐君とやらの腕に
柔道代表選手が海姫のカレシとなれば、
(その腕こそ海姫の戒めとなり牢屋となる。俺たち男子の心に平穏は訪れる)
「……あ、今何となく腑に落ちた」
「何がぁ」
「私がアンタに
「何でぇ」
「絡坐と色々似てるもの。背格好とか頭が悪いところとか。顔は……まだあっちの方が良いかもしれないけど」
「ハハッ。絡坐君、猶更いい男じゃないの。全方位、俺の上位互換ってやっちゃ」
「ちょっと、笑って受け止めるんじゃねぇわよ。そこは『カノジョは絶対に渡さないっ!』て心燃やすとこでしょ? アンタにやる気出して貰おうと
(早いとこ絡坐様にゃ、この傲慢高慢高飛車お嬢様を迎えに来て欲しいなぁ)
「あ、いたいた。徹君……って、なんでお客さんと一緒にご飯食べてんだい?」
休憩室に顔を出したのは、ほんわか笑顔の旦那さん。
「色々ありまして。ちゃんと俺のコントロール下にあるんで安心してください」
「誰が誰の下で好き放題よ」
茶々入れてきそうな海姫の顏に、掌押し付けることで黙らせる。
ホンワカから苦笑いに転じた旦那さんに、満面の笑みを返して見せた。
「それでどうしたんです?」
「お客様ご到着。あ・の・
(さて、来たね?)
「噂をすれば影って言うか。どんだけ嫌な奴なのよアイツ」
(そしてそれはただの難癖や、海姫)
名前聞くなり海姫は両手で頭抱え天井を仰ぎだす。俺としてはやることは一つだ。
「今回応援ソングPVに関わるお客様全て、徹君が担当だから。わかってるね?」
「勿論です」
「うん。いい返事だ♪」
俺の返事に深く頷いてくれる旦那さん。
休憩室に入ると、俺の頭に手を乗せワシワシと撫でてくれた。
「まさかオリンピック三連覇の硬道加賀斗が代表コーチで、柔道代表選手伴ってウチに泊まるなんて。アイドルやモデルさんの事もある。フゥニャンちゃんと徹君の縁が生み出した驚き案件だけど、今回の接客経験はきっと徹君に良い学びになるよ」
「だといいんすけど」
「しっかり頼んだよ。もし徹君が学院を卒業してウチのホテルに就職となった時、将来の経営幹部として期待させてもらうんだから」
「ハハ。経営ですか? あまりシックリきませんけど」
優しい喝を入れてくれた旦那さんは、グッと親指を立てサムズアップ。ニっと歯を見せ休憩室から去っていった。
「さて、行くかね。海姫、食べ終わったようだし食器片づけていいな?」
「良い……けど……アンタ私の頼みを忘れてないわよね? それでなお絡坐にも良くしてやるつもり?」
俺が片づけ始めるのを見ると、海姫も自分の食器、広い皿を一番下に、少しずつ小さい皿を上に重ねていく。
「ケチ言うなって。俺にとってはそのお二人だって大切なお客様なんだぜ?」
「それはそうでしょうけど」
「一応、お前も」
「大切にされている実感はないけれど」
「ハッ、カレシ心カノジョ知らず」
「なら証明してみなさい。私の事を大切にして。例え偽りのカノジョでも」
「努力してるでしょうよ」
「その努力が見えないのよ。本当に大丈夫なんでしょうね?」
そのさなかに不安げな顔を見せていた。
――海姫との朝食も済ませ、旦那さんが示した、到着したお客様お二人を迎えに本館出入り口に移動する。
「あ、荷物は自分で運ぶから触るんじゃねぇよ」
「オイ、無礼は辞めろ」
「いや監督、こういうのはハッキリ言った方が良いんすよ」
ご挨拶させてもらって、お二人の手荷物を運ぼうとする。
俺を拒絶したのは、若い方だった。
「荷物勝手に触られて変なツキ流れ込んだらどうしてくれんだよ。あぁっ?」
あまりに生意気な物言い。
「
「き、君、コイツが失礼な奴でスマナイ。後でちゃんと指導しておくから、気を悪くしないでもらえないか?」
「チェッ、監督はもっと偉そうにすればいいのに。英雄なんすから」
(あらま、マジで結構にイケメンじゃないの)
この傲慢で高慢で高飛車なのが、次のオリンピックで我が国代表として金メダルを嘱望される若き英雄なんだ。
(同じキャラ同士、実は反りも馬も合うんじゃねぇのか? 海姫)
イラっと来るより前、そんなことが頭に浮かんだ。
「そういや海姫いる?」
「カイヒ様でいらっしゃいますか?」
「下の名言ってピンとこねぇのかよ。
「それは……」
ちな、この場に海姫はいない。
「まぁいいや。アイドルグループの《バルキリー》とモデルらも泊ってんだろ? 後で案内しろよコラ」
「修哉っ!」
「ハイハイ。サーセン」
会いたくないからと、どこぞへと雲隠れしやがりましたん。
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