テストテストテスト55


『これで今日の打ち合わせは終わりです。何か質問はありますか?』

「いえ、大丈夫っす。組員には問題ありません。意識と質の高さにゃ俺が保証しますから」

『そうですか。それは良かった』


 フウニャンさんから要請されたご依頼。とはいえ、超絶売れっ子なモデルさんがそう毎回依頼に対して絡めるはずもなく。


『ところで……』


 そういうわけで、例のオリンピック応援ソングPV撮影に向けた打ち合わせに現れたのは、フウニャンさんの芸能事務所の人間だった。


『こうして仕事仲間として打ち合わせができるのも何かの縁。うちに来ませんか? ルーリィ・セラス・トリスクトさん』

「お断り差し上げる。そしてこれは一切揺らぐことはない」

『貴方なら、この世界でとてつもないことを成し遂げられます。断言します』

「興味はないな。そしてこの答えを御社以外、幾つ返してきたことか」

『……なるほど? いいでしょう。今日のところはコレで引きましょう』


 アカンてぇ。完全ミスったかもしんない。

 今日は珍しくルーリィは出張が無い。半ば衝動的に俺と行動を共にするように頼んんだ……事が裏目に出た。

 マズいとも思ったさ。打ち合わせの際は別室でルーリィに待機してもらおうとも思ったのに、「一緒にどうぞ」とね?


「一徹、行こう」

「だぁなぁ。つーわけで、俺たちはこれで」

『あ、ちょっと待ってください』

「くどいのですが。私は御社とは……」

『いえ、今回はそこの少年と』


(……は?)


『山本君……でしたね? 少し残ってください。まだ少しだけお話しを詰めておきたいですから』


 今日の打ち合わせは終わり。《スターヴィング・ジャガー何処かのファミレス》で茶でも飲みながら、最近取れなかったルーリィとの時間を取り戻したいとも思ってた。


「俺……すか?」


 ただ、呼び止められた。


「わっ……かりました。悪いルーリィ。ちょっち外で待ってて?」

「了解した」


 別に、構わないか。ルーリィにアプローチ掛けられるなら不安になるとこだが、俺に呼びかけるとなったら、ホントに撮影に向けて何かがあるんだろう。


――とか、思っていたんだけどね


『……少し控えてください』

「は?」


 呼び止められ、俺とフウニャンさん芸能事務所の人間と二人きりで言われた内容は……


『山本君、貴方は一体何様ですか?』

「何さまっつーのは?」

『最近、芸能界で貴方の名前は悪目立ちしています』

「俺が……悪目立ちっすか? あ、分かった!? この国の隠れた逸材! 磨けば光るダイヤの原石。今活躍中の俳優やアイドルも、俺が磨き抜かれた足元にも及ばないという……」

『十人並みの普通の男子に興味はありません』

「シ・ド・イ!?」


 まったくもって撮影と関係ないようです。


『ルーリィさんは、どの芸能事務所も喉から手が出るほど。引く手数多な逸材』

「あぁ、自慢の副隊長っス」

『副隊長。そう、そのしがらみが邪魔なのです』

「邪魔ってのは?」

『山本君、貴方がいるから……ルーリィさんは羽ばたけない』

「はぁっ?」

『ルーリィさんはこの道でもっともっと輝ける。下手すればこの国の芸能界に留まらない』


 わかる。俺に向けられるのは嫌悪感と言う奴だ。

 

『外国人でありながら流暢な桐桜華語を操る。しかし元が桐桜華皇国以外がルーツ。世界で、戦えやれますよ』

「ははっ! だから言ってるでしょ。自慢の副隊長だって」

『ここまで言ってまだ分からない。バカですか。貴方は』

「ウッス。よく言われます」

『あぁもうっ! 私は先ほどから皮肉をぶつけてるのに!』


 バカにゃ違いねぇ。ただ、自分でもらしくなこと承知で……笑い飛ばしている自覚はあった。


『ハリウッドでも通用しうるって言ってるんです! でも貴方ごとき路傍の石が立場を利用しルーリィさんの自由を奪う。拘束する。貴方がいるから、世界で羽ばたく機会を失うのです!』


 実は言いたいことは分かっていた。分かったうえで……


「ルーリィ・セラス・トリスクトとは大衆の至宝。隊長? 副長? そんな便宜的な立場を利用し、自分の物と占有していい存在では、彼女はないのです!」

「く……ククク……」

『……面白いですか。輝きを、くすませるのが』

「いや、すみません。これは流石に、いくら相手が年上だろうが言わなきゃと思って」

『な、何ですって?』

「婚約者の俺を前にして、俺の手から、ルーリィを取り上げる……ですか? 何様のつもりですか?」

『なっ!?』


 理解も納得もしたくないから、噛みついてやった。

 あのね、俺とルーリィが釣り合ってないって言うのをさ、四月に出逢ってから何度繰り返してきたと思う?

 学んだ。どんな時でもルーリィは俺を信じてくれる。なら、俺がルーリィを求めることを、止めちゃいけない。


「実はアナタ達芸能界の方をが筋を通していないってわかってます? 勝手にルーリィを色々起用して、人気はうなぎ上り。んでもってね、勝手に僕の手から、ルーリィを大衆のものにするって筋違い」

『あ……なたみたいな普通が、婚約者?』


 事実は小説より奇なりなんて言葉が存在する。

 俺はライトノベルが大好きだ。ヒロインが芸能界に嘱望される……なんて展開も見たことはあるし、読み手としては大好物。

 自分の身に置き換えてみたら堪ったもんじゃない


「知らない奴から、『ルーリィは俺の嫁』とか言われるわけですよ?」


 だいたいの主人公ってのは、芸能界の人間から『ヒロインの魅力は皆のものであるはず、一人が独占していいものではない』と言われて歯噛みし、絶句するものだけど。

 俺は違う。


「少し、控えてもらえませんか?」

『ぐっ!?』

「ルーリィは……俺のヨメ……なので」


 これまで何度誤解ですれ違ったか。

 だからね、馬鹿馬鹿しいほどに分かりやすい形で、俺が、こだわらなきゃいけないんだ。

 風音から「義務感」とも言われた。

 いいよ。義務感で。いつも俺の事を守って傷ついてきた、俺の大切なものが守れるなら。


『なるほど、本格的に……邪魔なのね』


 言うだけ言った。

 ちょっと喧嘩腰になっちゃったかもしれない。なんかぼそりと言われた気がするが、恨み節か。

 なら今後気を付けよう。


「それじゃ失礼します。撮影時はよろしくお願いシャス」


 一応の礼は見せようとふかぁく頭を下げまして、踵を返す。

 今度こそ打ち合わせした部屋から廊下に出た。


「……随分と……大きく出たね一徹」

「ゲッ!? ルーリィ」


 打ち合わせの部屋のドアを閉じ切ったところ、死角から声をかけられる。

 ヒデェ声出ちゃった。


「んん~?」

「き、聞いてた?」

「聞いてたよ。『婚約者の俺を前にして、俺の手から、ルーリィを取り上げる。何様のか?』だってね」

「ふごぉっ!?」

「何だっけ? 私は……誰のヨ……」

「ワァーッワァーッワァーッ!?」


 死角と言うかね、ルーリィはドアを出て、すぐその脇に立っていたらしい。

 バッチリ、室内の俺らの会話を聞いていたという。

 ちょ、待てい。

 ラノベでいう『ヒロイン芸能界進出あるある』に対し、覚悟決めてる俺はそれはそれは大きく出れたもんだったけど。


(いざ目の前に立たれるとやっぱ緊張……)


「いざ私を前にして、緊張しないでくれないかな」

「お……お見通しでね」

「第三者にはハッキリとものが言えるのにね。後は、一徹からの告白を待つばかり……かな?」

「あい、スミマセン」


 こんなこと言われるがです。

 普通、「ルーリィ! 好きです! 僕と結婚前提でお付き合いオナシャス」とでも言うべきところだ。


(ここまで促されて、告白のチャンスまで貰ってるのに。何で言えないのかね)


「「なんだかなぁ……」」

「って、あっ」

「フフッ。言うと思った」


 ルーリィさんは、笑って、僕の肩に寄り添いやす。


「ねぇ一徹」

「な、何でしょう?」

「……格好良かった」

「ウヒィッ」


 アカン。ヤバい。バイヤァ。身体が悶える。痒い。こそばゆい。


「さぁ、何処かに入ろう。《スターヴィング・ジャガー》とかどうかな?」

「はっ?」

「大方馴染みの店で落ち付いた中、話したい。違うかい?」


 本当、ルーリィにゃ押せ押せっちゅうか……敵わない。


『もし……世話にな……す。一……要望……要請……』


 腕にルーリィが抱きしめてきて、ドキドキして。

 何か、後にした室内から聞こえた気がした。でも、ルーリィを優先することにした。


――《スターヴィング・ジャガー》とはお前さん、勝手知ったる組事務所でございます。

 店内に入ってからは、楽しい楽しい時間が過ごせた気がする。

 ニヤニヤしながら視線向ける舎弟どもは一人残らずぶん殴ろふと思う。

 紗千香のジト目は意・味・不。

 でね、店を出て二人で下宿に帰ったのは夕方から、夜に差し掛かったころかな。


「あ、あの、お帰り兄さん。ルーリィ姉さま」

「出迎えご苦労様だねリィン。ただいま」


 下宿の玄関をくぐり入った俺たちをリィンが迎えてくれたのは良い。


「その……二人に言わなければならないことがあるんだけど」 

「どーしたのよ。なぁんか顔暗いぜリィン」


 問題はね、表情を曇らせていたこと。


「……三縞校から、下宿あてにさっき電話が来て」

「ほうほう。そんで?」

「またルーリィ姉さまとシャリエールさんの出張のお話し。今度はしばらく……皇都に滞在する必要があるんだって」

「「……え?」」


 絶句、するわけだよ。

 当初は週2,3日程度だった出張の頻度は増え、そしてこの度は……


「また、オーダーは……学院長から」


 泊りがけだって言うのかよ。

 学院最高権力者、学院長の命令なんて、訓練生レベルじゃどうにもできないのに。



「以上がPV撮影に関わるアメフト会場警備におけるスケジュールってとこね」

「うん、よくわかったよ。突然のご指名にも関わらず、良く動いてくれてるね。ありがとう山本君」

「後は当日を待つばかり……かな? じゃ、そういうことで報告終わりぃ!」


 ビシィっと固め束ねた掌を掲げる。如何に綺麗に手刀を作れるかが重要であるっ。

 

「あ、待って山本君」


 場所は生徒会室。ちな、僕には生徒会執行委員に天敵とも言うべき《ショートカット風紀委員長》がいまぁす!

 幸いにもフウニャンさんからの依頼に向けた進捗報告を会長さんに告げる際、宿敵はおらんかった。

 でも、この展開も「うっ」と来てましてん。


「たまには、一緒に帰らない?」

「あ、あぁそだね」

「……複雑そうな顔してる」

「えっ? いやいや、そんなそんな!」


 《ショートカット風紀委員長》はじめとして、生徒会役員、メンバー誰一人としていない状況。


「そうだ。帰りがけに何処かに入らない? 最近ちゃんとお話し出来ていないし」

「何処か? あー……そだ。スター……」

「ヴィング・ジャガーは嫌」

「あ、そう?」


 となるとね、あんま歓迎できない状況がそこにある。

 室内には二人だけ。

 そしてこれから俺は、月城さんと下校する。


――自分で言うのもなんだが、これで俺も随分三縞の町に詳しくなった自負がある。

 

「なんか、どの店に入ろうか考えると、悩んじゃうね」

「よしっ! スター……」

「ヴィング・ジャガーだけは絶対に嫌」

「や、やっぱり?」


 ただ、下手すりゃ俺以上に月城さんは三縞を熟知してる。三縞みしマスターの称号でも授けようか。

 そうするとね、俺ら二人とも、よさげな店を全て知ってる。となると、いざとなって二人でどこの店に入ろうかという段で甲乙つけがたくなっちまう。


「なんか懐かしいね・・・・・。こうして二人で三縞の町を歩くのって」


(そうだった。そもそも月城さんは、俺にこの町を案内してくれた、言わば三縞の師匠じゃないか)


「確かありゃ1月。すげぇ寒かった」

「あれから10か月経ったんだねぇ」

「意外と最近なんだな。もう何年も経ったようにも感じる」

「それだけいろんなことがあったんだよ。私にも、山本君にも」

「あ……」

「う……」


 結局、二人で街並みを歩くことに相成った。それが……辛いのだけど。


「特に先月は色々ありすぎたから聞けなかったけど、もう1年が経ったんだね」

「一年? 昨年の10月?」

「私が山本君と出逢ったその二か月前。三縞総合病院のベッドで目が覚めたって聞いてる」

「あ、あーあーそれね。そういやそだね。話聞きゃ、更に数か月前の交通事故でずっと昏睡状態だったって聞いてる。何はともあれ目覚められて良かったですなぁ」

「……お誕生日おめでとう」

「えっ?」

「遅くなっちゃったけど、去年の10月目を覚ました記憶を無くした山本君は、第二の人生をその時から生き直したんだよね? だったらお誕生日だよ」

「言われてみればそうだね。そう考えたら来月が、俺のフォローアップチューターとして現れた月城さんと出逢ってから1年が経つのか」


 いや、話せば話すほどに辛くなってくる。

 月城さんが示す話はどれも月城さんと出逢う前後の事。それから数か月後にルーリィと出逢う前の話し。


「今思い返してみても、編入の為に勉強も体力づくりにも山本君凄く頑張ってたね。『ウゲェ―』なんて嫌そうな顔しながら」

「最近、馬鹿どもの柔道の練習時に食べさせてもらったハチミツ漬け。あの時は毎日ご馳走になってたもんだ」


 話しながら思い出すとともに、思い出一つ一つが、月城さんを好きになってしまったことばかりだと改めて思い知る。


(あの時、俺の第二の人生セカイにゃ、まだルーリィはいなかった。月城さんに久我舘隆蓮との因縁があることも知らなかった)


 マズい。

 となるとやはり月城さんへの意識が彷彿としてしまう。


(もっともっと、お互い楽に付き合えていたはずなんだけどな)


 何となく気まずさが勝ってしまう。約一年前はデレデレしながら月城さんをしり目に盗み見て、隣を歩いたものだけど、今は目を向けるのにも抵抗があるというか。


『あらぁ、魅卯ちゃん、三泉坊や。今帰りかい!? ちょっとおいで』


 天与の助けとでも言うべきだろう。

 気まずさマックスでの月城さんとの三縞散策。商店街を歩くさなか、干物やのオバちゃんが声をかけてくれたのはありがたい。

 機もまぎれるってもんだ。


『今日も訓練でお腹減ったんじゃないかい?』


 ニコヤカってのがまたいい。何の警戒なく立ち寄れる。

 両手で差し出されたのは、透明ラップに包まれた飯玉。デケェ。陸上競技種目で用いられる砲丸もマッツァオ。


「っとぉ? コイツぁ……」

「良い香り……」

「旨そうやないですか」


 オバちゃんから受け取って早速ラップをはがした俺と、隣に立っていた月城さんが反応するのは同時。

 

『試供品で焼いた色んな干物ほぐして米と合わせたのさ。残った骨と昆布で取った出汁に酒と醤油で味を調えて』

「一緒に炊き込んだんですか。だから冷めてなお、磯のいい香りが」

「んじゃ、お言葉に甘えまして遠慮なく」


 説明が良い。耳から美味しさが始まる。


「いっただっきまー……うふぅっ! うんまっ!」

「ホントだ。おいし」


 でもやっぱり、料理ってなぁ食べて知るべしってね。


『鯛めし、鮎めし、鯖めしと、魚ごとの旨味とはいかないよ。なにしろ色んな種類の魚で炊いてるんだ』

「でも、見方を変えればすっごく贅沢。駿雅湾の恵みを頂いているっていうか」


 月城さんも味わいに目ぇパチクリ。右掌で口元抑えモクモクしながら、飲み込むとともに感嘆の声を上げた。


「ん? さっき言った食材だけじゃない……かも? お茶っぱのような」

『へぇわかるかい。昼に入れた緑茶葉の出がらしさ。捨てるのも勿体ないしね』

「一緒に炊き込んだんすね?」

『オバちゃんが使った茶殻なのは申し訳ないけどね』

「いや、メッチャありだと思います。コクっちゅうか深みっちゅうか。でも脂っこさを感じさせず、しつこさもない」

『茶殻だから良いのかもしれないね。茶葉をそのまま入れたら茶のエキスがふんだんに溢れ出ちゃう。炊き出し汁の魚介エキスと喧嘩しちゃうかも』


(そこまで考えが行くか。食レポ乙。っていうか普段自炊してるだけあって、料理のレベルの高さが改めてわかるようだ)


『そう言ってもらえると嬉しいじゃないさ』


 日々酷使する肉体へのエネルギー補給。破壊された筋肉細胞の回復。炭水化物とタンパク質ってのは実に大正解。


『ほら、こっちも食べとくれ』

「おっ? この飯にあう!」

「ワサビの茎の醤油漬けだっ♪」


(参ったね。おやつ感覚でもらったけど、漬物一つツマんで飯玉にかぶりつく。止まらん)


「これ、もちっと飯玉小さく、ワサビの葉で包むのってありじゃね?」

「うーん。それだと繊細で上品な魚介出汁の香りが飛んじゃう。あ、ちなみにいま山本君が言ったのって葉ワサビで、普段私たちが食べるワサビとは種類が違うよ?」

「えっ違うの?」

 

 旨いもの食べると気持ちは上がる。


『よかった。アンタたちなら喜んでくれると思ったよ』


 感想を述べ合うってだけで間違いなく話題になる。


『正直、作りすぎた賄い飯をどうしたもんか参っててね』

「賄い飯なんすか? こんなうまいのに」

『余ったら、冷凍してもいいんだけど』


 思わぬ会話の切り口も提供された。


「いんや、電子レンジ解凍とかなら、蒸され噴出される魚臭さがレンジ内にこびりつく」

「はじめ繊細に思えた魚介の香りも時間の経過と共に強くなる。って、そもそも魚介で時間かけるのはご法度だね」

「水分含んじまうと痛みやすいし腐りやすい。長期保存のためには水抜いて……ってこれは、保存食のプロ中のプロ、干物屋さん前にする話じゃないね」

「だねぇ。釈迦に説法かな」

「馬の耳に念仏?」

馬耳東風ばじとうふう

「ば、バジリコ……豆腐?」

「うん、なんかソレ美味しそうだね」

『クク……アッハハ。いいねアンタたち』


 そんな俺たちを前にして、干物屋オバちゃんは闊達に笑い飛ばす。

 

(何がそこまで楽しいんだ?)


 両手を叩き合わせ、両膝もはたき。喜び度合いは爆発と言ったところか。


『片や三縞を膝元とする魔装士官学院の、町への理解が深すぎる生徒会長』


 まず、オバちゃんは月城さんを見やった。


「片や魔装士官学院に通ってる……なんなら旅館従業員が本業とも疑わしい三縞観光のプロ」


 次いで俺に顔を向けた。


『そうかいそうかい。あの時の二人が・・・・・・・いまではこうなった・・・・・・・・・


 ニヤニヤ、伺う目だ。


『こんばんわ。なんか楽しそうなんで来ちゃいました』

『なんだか久しぶりに見たわね。その組み合わせも』


 一体何に付いて話しをしてるか分からず、俺のポッカァン余所に……


『どーもっ。盛り上がってそうだから居ても立っても居られなくてね。コレ、お・す・そ・わ・け』

『毎度! いい雰囲気じゃないか。宴会、始まっちゃうんじゃないかぁ?』

『だったら酒はウチから買ってくんな。って言うか買ってくれ。最近慌てて仕入れた貴桜都の銘酒が出なくてな』


 商店街は、他の商店のシャッチョ~サンまで顔出してくるじゃないの。


(なるほど? こりゃ……)


「山本君」

「うん?」

「どこかのお店に入る必要、無くなっちゃね」

「このまま大人たちゃ、飲み会始めそうな勢いだねどうも」

「今日は夕飯の支度をしないでも大丈夫そうかな。って、おにぎり一個が凄く大きかったから、あれだけでもいいかなと思ったけど」

「俺もリィンに夕食は外で食ってくるって伝えなきゃか」


 宴会するしないの決定はなされてない。が、料理とか飲み物持参で干物屋さんに顔出すなら決まりでしょう。


『ちょっと待っとくれよ。こんな小さなウチの店のどこに、そんな大人数開催できる空間があるってのさ。三泉坊や』

「ウィっスゥ~」

『三縞商工会議所の会議室を手配しなぁ。会議・・は……』


会議飲み会な?)


『そこで開くよ。後は一応、商工会登録済みの他の旦那女将衆全員へも連絡しといてくれ?』


(ま、仕方ないね。面倒くさそうな声こそ挙げてるが、干物屋おばちゃんも乗り気じゃない)


 この場にいない他のシャッチョ~サンにも、『飲み会来~る~でしょらぁ?』ってんだから。

 派手に盛り上がりたいってやっちゃ。


『そーそー。商工会旦那女将衆の催しに絡む雑務について、徹の字もこれから経験してかにゃ』

『こういうのは昔から新人の役目って相場が決まってらぁね』


(じ、時代は永光8年。32年あった正化もビックリなほどに……昭和だ)


『よ! 三泉温泉ホテル次期社長!?』

『若旦那っ!?』

『商工会旦那女将衆期待の若手ホープ! 次代のエース! 将来衆長!』

『と、その前に、二十歳になったら三縞青年会議所に入るよな徹坊!?』

『まずは青年会議所加入。商工会旦那女将衆トップリーグはその次だ』

『将来の三縞市議会議員! いや……三縞市長!』

『そして県政。やがて国政へ!?』

『『『『『よっ! 山本一徹代議士センセッ!?』』』』』


(ったくぅ、調子いいんだから)


 苦笑いも禁じ得ない。

 おだてて見せるが、どう見ても商工会旦那女将衆の最若手、小間使いパシリになってもらいたい感満載である。


「ハハ……好き放題言ってくれるね」

「進路、決めたんだ山本君?」

「皆さんが勝手に盛り上がってるだけで断じて違う。ちゃんと言っとかないと。変に誤解されたら堪ったもんじゃないよね」

「違うの? 学院を卒業して、三縞に残って、ホテルを継いで地元に貢献して……」

「さてぇ? 俺にそんな甲斐性はないよ。それに、旦那さんとトモカさんの間にはお姫様が生まれるんだぜ?」

「お、お姫……様」

「生まれてくる予定なのは女の子みたいでさ。社長の旦那さんを三泉温泉ホテル王だとすると、その女の子の赤ちゃんはホテル姫……なぁんて思わない?」

「あぁ、そういうことなんだ」


 進路が決まったとビックリした顔の月城さん。

 理路整然と説明する俺に対し、納得と肩透かしのようなため息を見せる。

 次いでね、クスクスと笑う、しのんだ声が耳に入る。


「ね、商工会登録の社長さんリスト、半分貸して?」

「半分?」

「町の全社長さんにお誘いの連絡を入れなきゃなんでしょ? 私も手伝うよ」

「あ、ありがとう。って、ほどほどでいいんだって、こーんな片田舎な町でもね社長一人一人に連絡とってちゃ朝になっちまう」

「うん♪」


 そう、声は聞こえる。

 聴覚に頼ったのは、視覚頼りに月城さんを認識しないようにしたからだ。

 どうせ、今笑う月城さんは、とても可愛いに決まってる。

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