テストテストテスト53

「セーンパイ! お昼……」

『あーハイハイ! テメェはこっちですぜ紗千香!』

『編入して以降、兄貴との交流はバッチリダべ?』

十分イッピョーすぎるほどさぁ?』

『昼飯はワシらが付き合ったる。ま・さ・かワシらとの飯が食えんっちゅうことはないやろなぁ?』

『勘違いしないでください胡桃音。君の凹凹凹ホニャニャニャは兄貴ではなく、僕が買約済みです』

「ちょっ、紗千香は一徹センパイと!?」


(ふむ、解決さぁくソリューショ~ン♪)


 実に平和である。

 ルーリィとシャリエールの桐京出張日。昼飯に連れ出そうと、紗千香は三組教室内にまで来て、毎度俺の机の前に立ったものだった。


「センパイ? 一徹センパイッ!?」

「行っておいで紗千香。くれぐれもお友達と仲良くするのよ? 野郎ども、レディは丁重におもてなしして差し上げろ」

『『『『『っしゃぁぁぁ! /いえ、激しいのが好きな女子もいるとか』』』』』

「セェンパァイッ!?」


 今や俺が連れ出される前に、《山本組》自称古参幹部5人衆に連れ出される。

 そのうちの一人だけ変なこと言った気がするが、何、気にすることはない。


「だ、大丈夫なの山本?」

「なにが?」

「貴方の後輩たち」

「なんでぇ?」

「明らかに胡桃音さん嫌がってたわよ?」

「大丈夫っしょ。行動から『仲良くしたい』って舎弟どもの想いが伝わるようだ」

「連れ出し方はセクハラ度合いが過ぎてるんじゃないでしょうか? 肩に腕まわされる。無理やり手を繋がれて連れ出したり」

「んむぅ、5人掛かりで襲う。性的な意味で……とか容易に想像つくね。山本の後輩だし」

「ハハッ。ドイヒー」


 嵐も過ぎ去り、声が集まる。

 《ヒロイン》に《委員長》に《猫》。

 素晴らしい眺めじゃないか。 

 昼休みに入って気が緩んだ俺は机に突っ伏しているわけだけど、その状態で首だけ挙げる。

 丁度目線の位置に、ギリギリ見えそでみ見えない、スカート裾から伸びる眩しい太ももが認められる。


「うゲッ!? 何すんのよ《猫》!?」


 ボーっと眺めていたら、脇腹に《猫》が膝ぁ突き刺してくるっちゅうね。


「ん、詰まんない。最近の山本」

「そげなこと言われちゅーも困るがですよ」

「理由は、考えるまでもないですよね?」

「ルーリィたちがプロジェクトに参加してから。人気が人気を呼んで、一層最近の貴方からは活力って奴が見えないわよね」

「げ、マジ?」


(そりゃ、ちょっち行けませんね)


「「「ん/ マジマジ/です」」」


 確かにルーリィ事は最近のお悩みにないわけじゃない。

 しかれども、あんまクラスみんなにその影響は見せないよう上手くやってたつもりだった。


「でも心中穏やかじゃいられないよね。僕たちのよく知っている人たちが、なんか凄く遠い存在になっちゃった気はするかも」

「フム、近くに感じていた縁は遠くなり、薄くなる。事実そうでなかったとしても不安は募るか」

「人気なのは良い。が、勉強の方は大丈夫なのかトリスクトは? 国も、もう少し配慮し給え。シャリエール教官は僕たちの担任。なのに最近の出勤率は酷すぎるぞ」

「フン、週二度だったはずの出張頻度も増えてきている……か」


 人気なのは良いんだけどね。本格的に「みんなのルーリィ・セラス・トリスクト」になってきてるような。


「これは風音から聞いた話なのだけど、ここまで出張を求められるのはルーリィとシャリエール教官の二人だけみたい」

「は? 志津岡以北は北海洞の釧露くしろ校に、美柳みやぎの仙提校もあるじゃないのよ。皇都第一学院桐京校様は?」

「そこまでじゃないらしいの。本当、二人の出張がここまで多いのは、今日までの爆発的人気が買われて」


 不安にもなるってもんでしょう。「一緒に居ろ」と俺が言ったルーリィは、いつしか「一緒にいることが許されない」存在になっちまうんじゃなかろうかと。


「民間企業のCM出演オファーや、化粧品、ファッションブランドの広告塔イメージアンバサダーの話まで出てるらしいのだけれど」

「わ……WTFワッダッファッ……?」

「山本、貴方いま本格的に言葉が悪くなったわよ?」


 これヤバい。ヤバいなんてもんじゃない。


「ちょ、ちょっと待ってください灯里さん。お二人とも公務員の立場ですし、受けられないのでは?」

「おっ、うっし! そうなの?」

「フン、その無駄な慌てふためきは、無知が過ぎるからかこの阿呆」

「思い出し給え。公務員法。君も授業で学んだろう?」

「は、ハハ。な、何を言ってるんだい二人とも。僕が焦ってる? 一体何を言っているんだい? それよりもコームインホーだろ? ちゃんとわかってるって」


(……コームインホーって何だっけ? GO IN HOME僕おウチ帰るとは……多分違うんだよな)


「はぁ、覚悟し給えよ山本。定期テストに向け、公務員法について僕が責任をもって思い出させて見せよう」

「簡単に言うと、公務員の立場にある者には、その他の仕事、アルバイト、副業は許されていないということだ。この阿呆」

「ほうほう……って、本格的バイヤァじゃん。俺、ホテルの仕事……」

「フム、そのあたりは俺たちは暗黙の了解として、山本は無償の奉仕活動をホテルで行ってるという認識でいる」

「フン、だから俺たちをあまり怒らせない方がいい。とはいえお前が実はバイト代を貰っていることを知ってる俺たちは目を瞑ってやっている」


 なるほど。よーけ分からんが、その気になればいつでも俺を潰せるだけの脅迫材料を、仲睦まじい皆さんは握ってるってことですね。わかります。


「ん、だったら二人に対してオファーされてる仕事も、魔装士官訓練生、教官の立場を辞めて、芸能事務所にでも入らないと受けることはできないってことだよね?」


GO IN HOMEコームインホーについては結局理解に到らないけど、二人が仕事を受けられないという立場にあることがわかっただけで安心できた。


「安心しちゃ駄目」

「え゛、まさかまだなんか不安な点があんのかよ《ヒロイン》」

「だから各社挙って交渉中らしいわ。公務員の立場を二人が辞めるよう仕向けようと。簡単には入らない額の契約金をチラつかせる。贅沢な暮らしをイメージさせる」


 折角少し安心できたのに、冷や水をかぶせないでもらえないかな。

 そも、学院長から下されたオーダーと言うことで、訓練生レベル、教官レベルじゃ太刀打ちできない。

 俺が出来ることとしちゃ、成り行きを眺めるだけなのに。


「それに、芸能事務所に入らなくても、副業じゃなくても、CMはやれる。この出張頻度の多さはそれよ」

「おかしいとは思ってたのよね。チャリティーイベント、海外要人の歓待、警護、講演会出席や公演そのもの。多忙とは思ったけど週3,4出張を要するとは思えない」


(だったらなんで2日に1回ペースで出張を?)


 つーか女皇案件ってなったら、幾ら不満があっても俺にできることはないっての。


「やりようによっては、幾らでも民間企業の宣伝告知はやれる。タイアップと言ってね?」

「タイアップ?」

「別に、契約を結び、専用で企業CMに出演しなくてもいい。例えばそう、報道番組取材中、何処かのクッキーをかじるとか、ソフトドリンクを飲んだとするでしょ?」

「報道番組での取材中?」

「ただそれだけで番組視聴者の目に触れる。宣伝に見えない宣伝ステルスマーケティングって言ってね」

「……ステマ……」

「視聴者はあまり気にしてないように思えて、無意識層にその情報が残る。後で『あ、あの時ルーリィが飲んでた製品だ』って」

「……乙……」


 流石ガーサス、《ヒロイン》様。


「詳しい段取りは必要ない。暑かったら冷たい飲み物が欲しい。寒かったらコートを羽織る。ただ自然と製品利用、製品に対し言及するよう仕向ければいいだけ」


 国内有数の《石楠》グループご令嬢故、商売的な話にお詳しい。


「嫌な言い方すると、二人は客寄せパンダに使われてる」


(ほ、本当に嫌な言い方するねどうも)


「風音に調べさせればすぐだと思うけど、恐らく、裏で国と企業間の金銭のやり取りも発生してるはず」


(なんというか、きな臭い話になって来た件について)


「超人気なルーリィやシャリエール教官に製品を取り上げてほしい企業は我こそはと手を挙げる。二人は高視聴率に繋がる。テレビ各社も更に起用しようとするわけ」

「国は、二人の出演料を製品メーカーからせしめてるのか?」

「テレビ各社が二人を番組に出演させようとしてるのは、製品メーカーから要請があるから。要請代金の一部が、テレビ各社を経由して国に流れてる」

 

 なんだよそれ。ビッグビジネスって奴じゃん。

 そのフローの為、結構な人数が関わってそうじゃん。


「二人の人気が続く限り、そうして国は積極的に番組に起用させ、裏で報酬を得るでしょうね……だけじゃない」

「まだ、あるのかよ」

「当初の思惑の通り番組に出演させることで、魔装士官についての理解を国民に促すことはできる。WINWINWINって奴ね」


(なるほど、容姿のゴイスーが、『私たち魔装士官はこんなことやってますっ♡』なんて言おうもんなら、少なくとも世の男どもは軒並みコロッと逝くか)


「宣伝要する民間企業にとってWIN。ステルスマーケティング舞台として選ばれるテレビ各社にとってWIN。報酬を得、魔装士官の宣伝も出来る国にとってWIN」


(アカンてぇ。ハラハラ収まらんパティーン)

 

「あ、灯里、ちょっと僕たち不安煽りすぎかも」

「あら?」

「山本、白目剥いてる。って言うか意識が何処かに飛んでる。ヨダレ垂れ流したまんま」

「フン、両手で頭を抱えるとはな。腐ってもこの俺のクラスメイトたる者が、無様をさらしおって」

「配慮し給え蓮静院。山本の不安を推し量るなら当然だ」


 そして流石ガーサス、クラスメイト達よ。

 この数か月でよーけ俺の心内が理解できるこって。


「ここは、不動揺るがずが肝要だろう。山本」


 《縁の下の力持ち》のお兄ちゃんもね、俺のこと心配してくれて肩に手ぇ置いてくれちゃうの。


「こんなことを言うのも変だが、俺は、《アンインバイテッド》討伐がメインでしかるべきこの学院に居ながら、最近とある特殊な考えがよぎる」

「特殊?」

「二次元好きなお前の言葉を借りるなら、モブとして、お前とトリスクトの大恋愛物語の行方を傍らで見ている……と言えばいいか?」

「なんだそりゃ?」

「分からないということもないだろう。編入日で出会ってからほどなく、トリスクトは『お前からの想いに応えることにした』と言っていた」

「あ、それ、恥ずかしくて穴が有ったら入りたかった奴」

「途中で山本が下宿から逃げ出したこと、文化祭でも行き違いが。あれはある意味、イベントだったのではないだろうか?」


(これは、フォローなのか?)


 配慮ゆえの言葉。ならフォローのはず。


「その度に、山本とトリスクトは互いの絆を固め合ったじゃないか」


 なのに、《縁の下の力持ち》の言いたいことは、まだ俺には理解不能という。


「外野から見て来た俺たちからすると、ちょっとやそっとどころか、如何に今回も常識はずれな展開にあっても、その縁は揺るぐことはあり得ない」


(いやぁ、そういうのって結局、当事者同士の感情次第っちゅうか)


「かもしれないな。しっかりし給え山本。寧ろこんなことで揺らいでは、今日まで君たちの痴話物語に振り回され続けた僕らの立場も無くなってしまうぞ」

「フン、《政治家壬生狼》に賛同するわけではないが、《縁の下の力持ち斗真》の言うことももっともか」

「アハハッ。言い得て妙だよね。確かに山本って……主人公・・・かも・・っ」

「「ッツゥ!?」」


 嬉しいことを言ってくれる……一方、ふと気がかりが胸に渦巻いた。

 反射的に、とある方を向いちまう。

 俺が座る席を中心に、囲むように集まる三組クラスメイト達から少し離れたとこ。


(……なんて目・・・・で見てきやがるよ。刀坂)


 焦燥の感情いろ張り付かせた顔で、目を見開いた刀坂が俺を見ていた。


「んむぅ、ここまで私たちに二人事で迷惑かけて来た。ハッピーエンドの義務はあるよね。ルーリィがヒロインとして、山本みたいなブ・サ・が主人公って肩書には、首傾げちゃうけど」

「ぶ、ブサイクでないですよ山本さんは。大丈夫です。男の人は顏ではありません」

「って言うかシャリエール教官はどうするの? あの女性ヒトも、本当は、確かなるヒロインで……」

「え? 灯里さん? 今何か……」

「あ、いいえ何でもないわ。私も、山本のヒロインに立候補しちゃおうかしら?」

「「「「「「え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!?」」」」」」


 特に、《ヒロイン》がこれまでの《ヒロイン》らしからぬことを口にする。


「な……なぁんて冗談よ冗談っ!? 決まってるじゃない。アハハ!」


(テメェ、なんか焦ってやがるな刀坂?)


 その時、俺に向けられる《主人公》の視線は一層キツいものになった。


(いや、なにに焦ってるか俺にもなんとなく分かる。だがソイツぁどうにかできるのか? どうすりゃいいんだ? 俺にだって分かんねぇよ)


 俺が主人公なのではないかという発言が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・決定的・・・

 最近薄々感じていた、あらゆる面での歪みの本質を射たかのよう。

 

(大前提が、変わっちまった?) 


 記憶喪失の俺が学院に編入した時から、俺の第二の人生には不変の見方がある。


俺が・・……主人公だと・・・・・?)


 刀坂ヤマトを主人公。石楠灯里をヒロインとした、ラブコメ学園ファンタジースクールマギクス生活物語

 編入生の俺は、第三者の目からモブとして、二人と共に過ごしながら二人の物語を読み進めているつもりだった。


(その物語は、二人の関係性の最近の変化に、崩れかけてるような不安はあった)

 

 不安になるはずだ。

 その様に見立てて生きてきた第二の人生の舞台設定、生きる環境俺のセカイが壊れてしまうのではと。


(確かに主人公っていう、みんなの中心に立ち人気者よろしくウッハウハな立場には憧れた。でも俺は……主人公ってガラじゃあねぇだろ?)

 

 だからね、初めてゆえかもしれないけど、いきなり主人公だなんて言われたところで戸惑いしかなかった。

 そもそも実際にゃ、ここに来るまで激しくモブ散らかしてきたのが俺である。


(ハッ、せいぜい調子に乗って『俺こそが三年三組で行われる恋愛物語の主っ人公~♪』なんてやってみるか?)


 いいだろう。百歩譲ってみよう。

 少し、俺が主人公を生きるこの後の学院生活を想像してみる。


(無理……だな)


 これまでずっと生きてきた読み進めてきた刀坂中心の学院生活物語が、いきなり変わってしまう。

 今後は、俺が主人公としての心構えを持って学園生活をやっていくのか?


(それはもう、俺じゃねぇ・・・・・


 今日まで、刀坂ヤマトに憧れてきた。

 主人公と言う存在は、日々どんな目標と理想とポリシーを掲げて過ごすべきか。俺はずっと見てきたんだぜ?。

 見よう見まねで「らしくあれ」と思えば、異能力や戦闘能力面では到底及ばなくても、刀坂っぽさを演じることはできるかもしれない。


(そんなのね……記憶無くした状態から今日まで生きてきて形成してきた、《今の俺》とは別物でしょうよ)


 そんな別物な俺で、ルーリィやシャリエール、小隊員達とこの後やっていく。

 駄目だ。まるでイメージがわかない。


「あ、ヤマト、食堂に行くの? だったら僕も……」


 そんなこと考えてるうち、ガタンともの音を立てて刀坂が立ち上がる。

 忘れかけていたが、確かに今は昼休み中。

 真っ先に《ショタ》が笑顔で語りかけ……


「いい、皆は……《主人公》と食べてくれ」


 返ってきたのは、その一言。

 

(ッツ!? テメェ!?)


ん・だ・と固羅ァ刀坂ッ・・・・・・・・・・・!」


 思わず、昂っちまった・・・・・・・・・・


見下げ果てたもんだよテメェ・・・・・・・・・・・・・。何なんだよ。おぉっ? 卑屈になりやがってコノヤロー・・・・・・・・・・・・・・

「卑屈? 違うな」

「あっ?」

「見下げ果てた……か。随分上から目線だな・・・・・・・・・。いや、そうもなるか。成りあがったもんな・・・・・・・・・?」


 立ちあがっちまう。一歩前に出ようとした……が、《縁の下の力持ち》の絶大すぎる膂力が、無理やり俺を椅子に座らせた。


今日からお前が・・・・・・・……《主人公・・・だよ・・山本・・

「なっ!?」


 あまりにムカついて、ぶん殴りたくなった。

 だけど、ぶん殴りたくもなかった・・・・・・・


「オイ、待てやテメェ押羅オゥルァッ! こちとらまだ話は終わってねぇんだ! 勝手に消えてんじゃ……刀坂ァッ!」


 言い残して教室を去っていく刀坂の背中には哀愁。足並みはトボトボと。


「チィッ! 何だよ! 何なんだよ! あの野郎! クソダセェッ!」


 俺が憧れた主人公が、落ちぶれたような気がして、見ていられなかった。

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