テストテストテスト52

【【守ろう/守ります。私たちが、この命に替えてでも】】


(ったく、朝から嫌なもの見ちまった)


「兄さん、ご飯のお替りつけようか?」

「ん~自分でやるわ」


 朝ごはんたぁ、一日の始まりにおける大事な物でござぁす。

 特に下宿では、紗千香除いた山本小隊とシャリエールが全員そろう最近じゃ貴重な機会。


【今世間が大注目。全魔装士官学院から選りすぐりの……】

「わり、チャンネル変えといてくんね?」


 耳障りなニュースからの音声に、堪らず朝食並んだ平机を離れた俺は、茶碗片手に台所へと向かおうとした。


【【守ろう/守ります。私たちが、この命に替えてでも】】

「ってこのチャンネルもかよ!」

【本年流行語大賞に目されてる注目のトレンドワード、《守ってくれる系女子》……】

「ッチっ!」


 俺の頼みに誰かがチャンネルを変えてくれた。駄目らしい。

 どのチャンネルに移っても取りざたされるのはそれだ。


「思った以上に凄い人気になっちゃいましたね?」

「当然と言えば当然かしら。プロジェクトにカメラ映えの良い者らを選抜した。下手な女優やアイドルなど足元にも及ばない」

「良いんじゃねぇ? その調子でバンバン頼むぜ?」

「求められるのは素晴らしいこと。きっと捨て置かれません。陛下肝いりのプロジェクトですし、寧ろそちらに気合を傾けてください。代わりに兄さまには私が」


 四季号令の下、異能力ない国民に魔装士官に対する理解を深めようと、プロジェクトが実行されてる。

 成績優秀、戦闘能力も充実、眉目秀麗な各学院選りすぐりの訓練生を集め、講演会やチャリティイベントに顔を出させる。

 時には国内外の要人警護任務も与えられるらしい。

 何のかんのでメディアへの露出が増えている。

 とりわけルーリィやシャリエールは……


【【守ろう/守ります。私たちが、この命に替えてでも】】


 政府系CMで口にしたセリフによって爆発的人気。

 超絶綺麗で高嶺の華。大人で、冷静沈着。

 真剣な顔、眼差しで、カメラに向かい「守る」と口にする。


「一徹?」

「んがぁ?」

「この撮影は不本意だった」

「一徹様なら分かってくれますね? 私の『守る』は、一徹様だけの物」

「『私たちの守る』だ。シャリエール」

「わかってるっつーか、心配なんてしてないよ二人とも」


(嘘嘘。メッチャ心配。超不安)


 ちょっと皮肉がすぎる。

 ルーリィを意識するまで、距離感近すぎることに鬱陶しさすら覚えたことがあった。

 ルーリィの事を目で追うようになってから、どんなに望んでもなかなか傍にいることができない。


(《生徒会のウサギ》さんの状況に似てるかも?)


 ふと、お気に入りラジオ番組によく出るペンネーム女子の事が頭に浮かんだ。

 その子は、自分を好きになってくれた男の子を好きになった。一見両想い。しかしその時には、別の女の子が男の子の隣に立ってたって話。


「それで今日も桐京出張だったか?」

「スマナイ……ね?」

「私も教官職。他の三組生の指導もありますし、何度もプロジェクトにそうそうお付き合いできないと言ってるのですが」

「謝んない。心苦しくなっちゃうから。三縞駅まで車で送る」

「うん……」

「ありがとうございます。一徹様」


(本当ままならないね)


 これはシキ……日輪弦状四季女皇陛下、この国の皇キモいりの話。なら俺の一存や感情で如何ともできないのは分かってる。

 だけど嫌だ。


(直メして、『二人を外せ』って言っちゃおうかな?)


 まっこと恐れ多いこと。

 そんな皇様に直接の連絡が叶っちゃう紫印メールアドレスは持ってるが、使って訴えるのも何か卑怯な気がした。



『ルーちゃんいたか?』

『トリスクト様っ! 俺のトリスクト様はいずこ……』


(あ~こればかりは流石に予想できんかった)


『ルーリィ・セラス・トリスクトは俺のヨメッ!?』


(いや、俺の嫁なんだが)


『フランベルジュ姐さん!』

『シャリエール・オー・フランベルジュってもう通った? 通った?』


(こっちもこっちで……)


 いつもの通学路、最近様変わりしてる。

 ルーリィとシャリエールの人気はうなぎ上り。

 詳細は明かされなくても、二人が三縞校の教官であり訓練生なのは周知の事実。

 

『《週刊今昔》です。話題の二人について、お話聞かせてもらっても……』

『普段どんな訓練生?』

『教官として、訓練生からどう評価を?』

『『交際相手はいる?』』


 そういうことで男性ファン、ルーリィを指して『おねえさま』と崇め奉る女子ファンまで湧いて出る始末。

 芸能記者がおくびもなく通学中訓練生に取材するようにもなっている。


(面倒くせ)


 まずはシャリエール。俺の担任で下宿同居人。

 ルーリィはクラスメイトであり、俺の隊の副長であり、婚約者。

 そのことを全訓練生が知っている。

 だから……


(通学路歩く全訓練生の俺に集まる視線が痛ひ)


「セーンパイっ♪ おはようございまぁす♡」

「何だ紗千香か」

「ひっどーい。折角先輩を元気づけて慰めようと思ったのにぃ」


 更にも一つ、胸に来た。


『『『『『チッ! 泥棒猫』』』』』


 俺に注目してる全訓練生の目に入っただろう、俺の腕に抱き着いてきた紗千香。


「今日学校が終ったらデートしましょ?」


 足並みをそろえる。肩に頭を預けた。


「三縞ソード&シールドソーダンシール行きません? 新しい映画も公開されますし」

「だからそのコスプレなのね?」

「《転暗大繁盛》の助手ナースヒロイン、ハルファちゃんのコスプレですっ♡」

「リスペクトが足らねぇ。《転生外科医。暗殺一仕事終えたアサシンは俺の手術で顔を変えられ逃げられるので大繁盛です》だろ? なる。劇場版は今日公開か」

「一番後ろの席に行きましょ」

「は?」

「誰も最後尾席で映画見ようなんて人いませんから。映画始まって暗転したらぁ……エッチなことも出来るかも」

 

(あ~あ、なんだか最近、何から手ぇ付けていいか分からん)


「ハイハイ。そーだな」

「チョッ、真面目に誘ってるんですよセンパァイ」


(紗千香の事も、何とかしてやらなきゃいけないんだよな)


『何アレ、徹やん先輩困ってんの分かんない?』

『露骨過ぎるでしょあの女。トリスクト姉さまがいないとこでだけアプローチとか』

『可愛い顔してるが、薄汚ぇよな?』

『ククッ。そりゃ薄汚ねぇさ。メス豚ビッチって話だ』

『ウチも知ってる。ッてるんでしょ? 久我……』

『ちょ、流石にそれはアウトだから』

『何? 胡桃音庇ってんの?』

『ち・が・う・し。月城会長の名誉に泥を塗っちゃう』


(ったく、本当、隠そうともしないねコイツら)


「センパイ。紗千香……守ってくれるセンパイと二人だけでいたいです」


 壊滅的に嫌われている。我が山本小隊のニューフェイスがだ。


『だからモッチ狙ってんでしょ? 第四学院でそうやって自分の保護を取り付けたように』

『あの行動は、胡桃音の評価がモッちゃん先輩がこの学院のトップ男子って認識してる証明かもしれない。その評価も……この学院を荒らしかねないね?』


 聞かないようにして振舞うと却って耳に入っちまう。聞き流すようにすると、意外と耳に入ってくるようで頭には残らない。

 嫌なのよ。

 影口を隠そうともしない。日向ひなたすぎる悪口。

 何となく俺や山本小隊を心配してくれる故のヒソヒソ話なんだと分かってる。


「センパイ。今日の放課後、紗千香だけを見てください」


 でもね、まともに受け止めては、俺が他の訓練生たちを嫌いになりそうだ。

 

『『『『『おざぁぁぁす!?』』』』』


 そんなこと思ってると、馬鹿に遠いとこから、馬鹿にデカい声で、馬鹿しでかす大集団いやがるじゃないっすか。


「お、そだ。紗千香?」

「デートしてくれるんですか? 想いが通ったんですか!? 映画にしますかカラオケにしますか特殊戦略車両でドライブデートでもいいですね先輩とならホテル……」

「んな矢継ぎ早に言われても、よくわからん」


 大集団が俺の視界を占め、隣に紗千香がいる状況。

 特に深くは考えてない。が、なんかポッと思い付きと言うか。


「……おま、《山本組》のマネージャーになれ」

「え゛っ!?」


 思い付きを口にする。

 ギョッと紗千香の剥いた目が俺を捉えてるけど、今更覆すつもりはないのだよ。



『え、えと兄貴? 何と?』

「もう一回言えって? お前ら俺より年下なんだ。まだ耳遠い時分じゃないだろ」

『ホンマに言うとるんでっか兄貴!?』

『まさか、兄貴の口からトチ狂ったこと言われたと信じたくない故でさぁ!』

何アホなことヌーフラー言ってるんですかゆーばぁ

『チャンスじゃん兄貴。モッペン同じこと言ったら今度こそ確定じゃん? いまなら特別大サービス』

『さ、最初の事は聞かなかったことにして、改めてお話を伺いましょう?』


 俺を取り囲む二年生どもからの圧が鬱陶しい。

 ちな、俺の隣に座る紗千香は、制服ジャケットの肘のあたりをクイクイ引っ張ていた。「黙れ」とのことだろう。


「紗千香を《山本組》マネージャーにすることにした」

『だぁぁ! やっぱじゃん!?』

『ぎぃぃ! 聞きたくなかったばぁって!?』

『エ゛ェ゛ェ゛! もっぺん言う奴がおますかぁ!?』

『お人好しなのは知っていましたが……』

『人がいいのが過ぎやすぜ兄貴……』


 そういや久しぶりに組事務所(いちいち訂正するのにも疲れた)の《スターヴィング・ジャガー》で後輩共とたむろした気がする。


『念のため一言良いですかい?』

「んだよ。こういう時だけセンパイ風吹かせんのも悪いが、兄貴分の言うことが聞けないってか?」

『いや聞きまっせ? 寧ろ兄貴はバンッバンワシらに兄貴風吹かせてヨロシ。せやけどこれだけは聞いてもらわな』


 すんげぇ状況。

 いつ誰か決めたか。店内最奥。一番デカいボックス席の中心が俺の指定席。それを自称組古参幹部の二年生が取り囲む。

 その裏、後方でイヤな意味で色めきだった他の2年、1年生組員。

 俺に向かってじゃない。殺気まで醸しながら、隣の紗千香を睨みつけていた。

 紗千香? 俺の隣でガクブルってる。


『ワシら、もうただの男子訓練生仲良しグループちゃいますねん』

「なーに言ってんの。仲良しグループじゃない。部活動や同好会とし生徒会に申請して集まったわけじゃない」


 僕の言っていることは正しい。

 学校生活にて人が集まるなら、やっぱ目的が共通されるのが一般的。

 バスケットボールがしたい。バスケ部。

 アニメが好きだ。アニメ研究会。

 ゲームで天下を取る。Eスポーツ同好会。

 もしそれ以外で集まったんだとするなら……


「それともなんだ? 青春没頭先たる夢や目的も見つけられん奴らが、同じような奴とつるむ不良グループ?」


 それくらいしか思いつかん。


『何言ってるでやす? 仮に愚連隊として、もうその時期は過ぎたってことでさ』 

「言ってる意味が分からない。『もうただの仲良しグループじゃない』とか、『その時期は過ぎた』って?」


 イヤン♡

 いつになく、超絶肉体派男子のポクを見やる視線はシ・ン・ケ・ン?


『まず第一にワシら《山本組》は、兄貴を夢とし神輿とし……ってぇ、ええ話ししとるんやないですか。ケツゥ抑えるもんやないで』


 ……視線の集まる先に、紗千香を置いておけば、視線は紗千香に移るかな?


「さ……ちか……お前だけ置いて帰っていい?」

「幾らセンパイでも、絶対に許しません。枕元に呪って出ます」


 紗千香……襲われるかもしれんけど(笑)


『『『『『ハァ……』』』』』


 とぉ? テメイら、兄貴分に対し盛大に『馬鹿め』言わんばかりにため息付くとか。

 良い度胸してるじゃあーりませんか(喧嘩になったらまず勝てる気しない)。

 

『ご、ゴホン。ん、ん゛ん゛ッ!? 良いですか山本先輩? ちゃんと聞いてください』

「な、なんだよ」


 否、本格的に茶化してはいけないらしい。

 いつも何言ってるかギリギリわかるわからない関西弁二年生が、強すぎる咳払いのち、何とか普通桐桜華語を話そうとするじゃない。


『文化祭事件終結後、女皇みこと、日輪弦状四季陛下からみことのりを賜られた時から、アニ……山本セン……貴方様・・・は、学院にて別格の存在になられた』

「通常語で話やっぱ慣れてないのな。何を言ってるかわけわかめ。ってか貴方様は辞めてくれ。悲しくなっちゃう。なんか心に遠く遠く距離を感じちゃ……ッツ!?」


 声が詰まった。


「お……い、お前ら?」


 ゲハゲハ笑ってだな、兄貴分が隣にいるにもかかわらず、いつもはブフゥとデカい音立て屁ぇコクような奴らだ。

 自称古参幹部の5人だけじゃない。店にいた《組員》のすべて、俺に向かって、跪いた。


『命令を受けましたね? みことのりとは、命令の事。陛下は唯一、貴方様に下された』


(そういえば、そんなこともあったような)


ー命令だ。今の言葉決して違えるな。常に余の傍に居ろ。余を守らせてやるー


 言われ、ふとその時の事を思い出す。

 なんて返事したか覚えてない。

 ただその時のシキ、四季女皇陛下の圧倒的威厳ある佇まいに圧され、恭しく返したような。


「ってちょい待ち。『唯一』ってさ。あの時陛下は三縞校全員に向け……」

『それは単に貴方様が私たちの為に懇願くださったことを、女皇陛下がお認めくださった似すぎません』

『陛下から恐れ多くも命を下されたのは、あの場では貴方様だけ。命令とはそれにより発生した如何なる責も、命じた本人が背負うという事。すなわち……』


 嫌な感じじゃない?


『『陛下は。いやしくも貴方様が端に発したいかなることに対して、一切の責任を御自ら受け持って構わないとみなしたという事』』


 俺に進言する豪放磊落な二年生後輩、関西弁後輩。いつも二人は仲が悪い。

 

(発言被るにゃあり得ない長さのセリフが、息ピッタリかよ)


『貴方様はもはや、陛下にとって掛け替えないお方と捉えて間違いない』

『いくら宮内庁内見渡しても、陛下から直接お命じ戴く臣下など、そうおりません』


(なるほど? 今の話で、『ただの仲良しグループでいられる時期は過ぎた』と言った意味が分かった)


『その……月城会長の親衛隊インペリアルガードに属する貴方様なら、ここまでの話でわかるのでは?』

『正直我々は、そこからの脱却もそろそろ戴きたいと考えます。誤解なきよう。決して貴方様と月城会長とで学内権力闘争に発展させよと言っているわけでは』

「皇直下と見なされる俺が月城さんを崇める。『陛下を月城魅卯を同列に語るのか?』と、嫌疑が掛けられるかもって?」

『『ご明察でございます』』


 話の重たさね。

 俺が「ハァ」言いたくなってくる。


(だから俺の関知してないとこで、勝手に話進むの嫌だってのに……)


「お前らの目にゃ、俺が三縞校でただ一人命令頂いたこと、士官候補生って立場も併せ、女皇直下の近衛兵にも見えちまうってこった」


(思い返すと、《山本組バカ共》が最近、少し変わった様にも感じてた)


 逆地堂看護学校との合コンではやけに紳士的。

 出逢ったばかりの頃の奴らなら、やれ女の子一目見て「オッパイ見せてオッパイ」だの。「子供作ろ♡!?」なんて言っていたはず。


(オリンピック応援ソングPV撮影に協力的なのも、嫌がって俺の顏をつぶさない為……かもな。アイドルやモデルとお近づきになりたいってのもあるだろうけど)


「今の俺が頭張ってる《山本組》。もうただ仲良しこよしやれる立場にないって?」

『《山本組》とは文化祭が終って以降、我々にとって《栄光》の代名詞。組に所属する事実は何よりの誉れ。光栄の極み』

故郷くにの家族も喜んでくれてます。『全てを賭け、しかと貴方様にお尽くしせよ』……と』


(お手て繋いで……じゃない。気分はもはや、陛下に認められた俺の率いる、《ナンチャラ騎士団》的心持ちかもしれないのね)


「……わかった」

『わかってくれましたか!』

『おぉっ……では!?』

「紗千香、お前、《山本組》のマネージャーなれ」


 よーくお話しは分かりました。分かったうえでのこの発言。

 2秒3秒……10秒ほど、場は凍り付いて……


『な、なんでや! 全っ然わかっとらぁへん!?』

『頭ぁ悪いと思ってやしたが、ここまでですかい!?』

『一瞬、気持ちも新たに誇り高い、清廉潔白兄貴像が頭に浮んだじゃん!?』

『ま、誇り高い兄貴と言うのも、確かにイメージできませんが』

あほかアンタフラーかヤー


 爆発いたしやした。

 自称古参幹部5人だけじゃない。その場にいる……おい一年生テメイら、最上級生は敬え。神とも称えよ。


「せ、センパイちょっと待ってください。嫌です。勝手に話進めないでくださいっ」

「何、嫌なの?」

「イヤです。三つの意味でイヤです!」


 なんぞここで、紗千香まで否定しやがるなんてね。


「一つ、センパイ以外は紗千香をイジメます。絶対にイジメます!」

「答え。俺が『イジメるな』と言ったらコイツラは絶対イジメない。理由に付いちゃ、久我舘隆蓮との比較で前に紗千香が言ってくれたろ?」


 組員約160人対、俺と紗千香の二人になると思ってたのに。


「二つ目、今の話で普通そんな考えに到りませんよ!?」

「いや、だからこその決定っしょ?」

「組員たちは陛下の件で『《山本組》は陛下にも認められた誇り高い防人さきもり集団』と思ってる。そして私を『薄汚い元第四学院生』と見てる!」

「まぁまぁ、そんな鼻息荒くせんと」

「私の加入は、《山本組誉れ高い超エリート集団》の看板を汚すものだと誰もが見なします。面白いと思うはずも、歓迎も、されるわけない」


 マネージャー参加否定論という形で、約160人+1人紗千香対俺って構図になっちゃったよ。


「違うよ。なおの事そういう集団なら広ーい器って奴を持たなきゃ。俺が『受けろ』って言ったら、受け入れてくれる」

「センパイがそう言うから、仕方なく従うだけ!」

「ウチの組員舐めんな? 最初はそうかもしれないが、全員気のいい奴らだ。器もデカい」

「だからって!」

「もしかしたら、いつの間にか双方警戒薄くなって、気付けば互いに互いを受け入れ、仲良くなれるかもしれないじゃない」


 誰かぁ、僕ちゃんの味方になってぇ?


「3つ目!? こ・ん・な・女に飢えたような狼集団に、紗千香を放り込もうというんですか!?」

『んやとぉ!? 犯すでこのボケがぁ!?』

『興味あるわけないじゃん!? あんま調子乗ってっと俺の凸凸凸チョメチョメチョメなしに生きていけない身体にすーべクソアマ!?』

『幾ら俺達ワーらが童貞でも、選ぶ権利はあるんだよばぁよ!? ヤ―凹凹凹ホニャニャニャに分からせてやるばぁってメス豚ぁっ!?』

『チョーット良いケツして、チョーット胸がデカくて、チョーット全体的に細くて、チョーットエロい身体してるからってなぁ! 生意気ナマ言ってっと剥いてナマで……』

『あぁいや、僕は……ヤらせてくれるなら構いません(ニコォッ)』


 ったく天邪鬼な奴らだ。

 いざ引き合わせてみるとなかなか合いそうじゃない。


「何だよお前ら、結構気が合うじゃん」

『『『『『「ど・こ・が!? /いや、ヤれるなら誰でもいいってだけです(ニコォッ)」』』』』』


 ……若干一名、いつも丁寧で礼儀正しい2年生が変なこと言ってる気がする。


「じゃ、纏まった話はコレで一旦クローズとして」

『『『『「まとまってないからっ! /では僕の童貞は胡桃音に貰ってもらいましょうか」』』』』


 うん、気のせいだね♪


(そんな奴の変態発言はマジ変態、ガチ感あって怖いから気付かない振りしよっと)


 話を改める。紗千香も含め何か言いたげだが、全力無視するのだよ。


「おうテメーら舎弟ども、寂しいこと言ってくれるじゃねぇか」


 寧ろ、こっちが本音だったりする。


「陛下に認められただの、貴方様だの、別格だの。気持ちワリ」

『み、認められたじゃん?』

『貴方様だばぁって。別格さぁ』

「待・て・よ。お前らさ、なぁんか見落としてる」

『見落としてる? 賞賛が足りないのですか?』

「ククッ……ちげぇよ」


(……っとに悔しいね。この状況でこれから口にすること、ある意味コイツらに負け認めるってこった)


「俺ぁ無力無能だぜ?」

『兄貴、それについてももう、辞めていただきたいのですが』

『俺らもう、無力無能と見てやせん。陛下に認められた兄貴が雑魚であっちゃいけねぇや。買いかぶりじゃありやせん。兄貴が認められのはそれに足る活躍したからで』

『最近組に加入した新参者の若衆は別とし、少なくともワシら古参幹部五人衆、なぜ兄貴が陛下の信を戴いたか、ちゃんとわかってるつもりでっせ?』

「テメェら、それ全力で押し通すつもりなら……組ぃ抜けんぞ俺」

『『『『『チョッ! ハァッ!?』』』』』


 あらぁ慌てちゃって。


『《山本組》の頭は今や陛下に認められた誉れ高き地位でっせ?』

『ある意味じゃ兄貴の成り上がりは成った!? ここまで来て、捨てるってんでやすかい!?』

『待ってください兄貴。落ち付きましょう。バカですか? 頭悪いんですか? 知ってましたが!』


 嫌だ嫌だ。

 俺のこと分かった風に装ってやがるが、なんもわかってないでやんの。


「俺さ、いまでも異能力者ばかりの学院に置いて、無能力者が所属することが場違いと思うわけ」


 俺はね、始めの方、勝手に俺の事持ち上げるバカ共コイツラが苦手だった


「エリート揃いの英雄三組なんぞに配され、肩身狭かったんだぜ? ぶっちゃけ……孤独っつってもいい」


 なのにホラ、コイツらバカだから。


「そんな俺を『兄貴』って担ぎ上げる馬鹿がいた。テメェらだよ」


 自称古参幹部5人衆はじめ、多くの者が息を飲んで俺を見やる。


「チョチョーイ本気出しゃ、おまいら赤子の手を捻るより簡単に俺を殺れる」

『それは……良いっこなしだべ兄貴』

「聞くぜ? 俺が無力無能なのは……事実だろ?」

アンタヤッターマジシャニヤなこと聞くやんに

「なのに、お前ら俺に付きまとってばかりだ。文化祭の時、俺は一瞬裏切りかけたのに、それでもお前らは繋がりを切ろうとしなかった」


 マジムカつくわぁ。


「無力無能で場違いに違いない俺が孤独を感じずに学院に居続けられたのは、テメーらが俺との関りを諦めてくれなかったこともあったよ」


 美少女ばかりの小隊とか、容姿お化け百鬼夜行な三組と違って、汗臭い漢くちゃぁい性欲猿共の集まりなのに。


「実は山本小隊、三年三組と同じくらい、これまでの《山本組》の繋がりも心地よかった。陛下に認められた? 恥ずかしくないよう気持ちを改めろ? 誇り高くあれ?」


(ウザイ。消えろと常日頃言ってた俺が、こんなこと言ってコイツラとの繋がりを認めるんだ)


「変えるってなら、もうソレは俺が好きだった《山本組》じゃないよ」

『『『『『ッツ!?』』』』』


(間違いなく、敗北宣言だねどうも)


 薄々思っていた。でも、恥ずかしすぎてコイツラ前にして口にしたのは初めてだった。


「紗千香の事も、ホントに頼みたかった。お前ら、俺の自慢だったからな」

「じ、自慢でやすかい?」

「わ、ワシら如きが……兄貴の?」

「組に集まる野郎どもは良いオトコ衆ばかり。っと、ホモォじゃないぜ?」

『『『『『なっ!?』』』』』


(舎弟どもに礼を見せたことは何度もあったと思ったが、認めたってのは初めてかもな)


「この学院にて場違いな俺を決して孤独にさせてくれなかったお前たちなら、紗千香の事をも孤独にさせない。俺にとって信頼しかないお前たちだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 こんなに改まるってことも滅多になかったから、舎弟ども、顔強張って体も凍り付いてやがる。


「頼む。お前たちの力が必要だ・・・・・・・・・・。紗千香との繋がりを諦めないでほしい。今日まで俺に対してお前たちがそうであったように。この通りだ」


 結局助けてもらうのは紗千香であり、俺の方。だから、礼はちゃんと尽くすべき。

 頭を深く下げたところで、沈黙が降りてどれくらい経ったか。


『……たぁぁ!? 仕方あらへん。ズルいわ兄貴!』

『兄貴にそう言われちゃ、応えない俺らじゃないでやしょうに』

バカフラーマジでバカデージフラーガチでバカシャニフラーバカすぎるイッピョーッフラー

『ま、でも敵わないべ? こういう馬鹿なヒトだから、俺らもホレたわけじゃん』

『さて、僕は当初から認めていますが。胡桃音が股を開くなら……』


(やれやれ、ねばったもの勝ちと言うか、ゴネ得にも思えて若干申し訳なく思うが)


「紗千香」

「いま、一徹先輩からの何か聞きたくないんですけど」

「そういうことだから」


(おうおう、何だ紗千香の奴、気恥ずかしいのか? 俯きやがって)


「単細胞の癖して、意外と……策士? そんなわけないか。バカだもの。不器用な策を弄しちゃってさ。余計なことしないで」


 往々、顔を下げ、膝だか床だか見つめ、ポツリポツリ言ってた。


(……策士? 器用な策? よしよし、ちゃんとわかってるじゃないか)


「じゃあ今度こそ話はまとまった。野郎ども! 自分の席に戻れ、盃(ソフトドリンク)を掲げろ! 今日は……宴だァァァァァ」

『『『『『シャァァァァァァイッ!?』』』』』


 三縞校は訓練生みな俺に良くしてくれる。

 己惚れることを言うけど、組に所属する者に、一目置く。


「それじゃあ行くぞっ!? 祝! 胡桃音紗千香訓練生! 《山本組》新加入? おめでっとおぉぉぉ!」

『『『『『「おめでとぉぉぉ!」』』』』』


 新加入して、組員が紗千香を守ってくれるなら、仲間として受け入れるなら、少しは生きやすくなるだろうか。

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