テストテストテスト49

「ま、まぁ刀坂の案が使えないのは仕方ないんじゃない? と言うよりこの手に関して知識ゼロの俺たちが幾ら奮闘したところで、クリティカルな案は浮かばない」


 《主人公》と《ヒロイン》の不仲が見ていられない。

 「無粋」とまで言われてしまったけれども、それでも俺がフォローに動かないわけにはいかなかった。


「刀坂だけじゃないよ。俺たち頑張って脳汁振り絞ったって同じだとは思わない? 《ヒロイン》?」


 このままじゃ、ポクの第二の人生が壊れちゃう。


「……そういうことにしておいてあげる。山本がそういうのだもの・・・・・・・・・・・


(俺を引き合いに出さないで! 何だって最近、俺と《主人公》を比較しまくってるのよ!?)


「じゃ、じゃあ思い切ってベビー用品から離れてみるのはどうかな?」


(良し、いいぞ《主人公》)


「発想の転換って奴ぅ? 例えば何がいい?」

テーブルマナーセットカトラリーとか」

「お、良いじゃないの」


(ここはきっと、俺が後押しするところでね)


「『良いね』じゃないの山本。それで? 理由を聞きたいわヤマト?」


(うぅ。サブッ! マジで《ヒロイン》、ガチで《主人公》に冷たすぎる)


 関係のギクシャクが過ぎると思う。


「それは……」

「早くしてよヤマト。私や山本の時間を無駄にしないで・・・・・・・・・・・・・・・

「わ、分かってる」


 だからか、大きく息を吸った《主人公》には、発言するために勇気を絞ったように見えた。


「妹は、毎年誕生日を迎えるたび、家の者からプレゼントと共に、カトラリーを一本ずつ送られてる」

「一本ずつ? それってどういう……」

『フォークにスプーン。デザートデセールスプーン。ミート用ナイフに魚用ポワソンナイフ。20歳になった時、食器全てが揃い、世界に一つだけの自分専用テーブルセットが完成する。思い出も相まって、成人のいいプレゼントになるんだ」


(おぉ! それ、面白いかも)


「へぇ? ヤマトにしては・・・・・・・、たまには気の利いたこと言うじゃない」

「俺もその案、いいと思うぜ?」


 ホゥと《主人公》が息をついたのは、ツンツンも過ぎる《ヒロイン》が一応の興味を見せたゆえの安堵。


「さすがに俺たちは無理でも、山本は家族として新しく妹になる女の子を見守っていくはず。なら20年かかっても・・・・・・・・・・……」


 俺も本当に良い案だと思った。身も前のめり、乗り気になる一歩手前だった。


「……それは無理だよ・・・・・・・


 が、ルーリィがそれをよしとしなかった。


「る、ルーリィ?」

「あ、いや……」


(なんだ? 声に緊張があるような)


「駄目じゃなくて無理って……」


 ルーリィのことだから、きっと納得できる理由があるはず。

 聞いてみる。が、どうにもしどろもどろ。


「そう、無理よ。無理なのよ」

「で、でも灯里。なぜ無理なのか聞かないことには……」

「黙りなさいヤマト。ルーリィが無理と言ったら無理なの。聞き分けが悪いわね。あまり私たちを困らせないで」

「……どうして、変わってしまったんだ……」

「何? 何か言いたいわけ? 言って見なさいよ」

「……何でもない……」


 そしてその展開が、《ヒロイン》と《主人公》の空気感を悪くした。

 なんというかね、「《主人公》ラブ♡」時代を知っているから、対比するとヤヴァイ。

 信じられるか? 二人は、同棲と言っていい暮らしをしている。

 この後、同じマンションの一室に帰り、過ごすというのかよ。


『如何でしょうか? しばらくの間……山本様の下宿にアーちゃんも私もご厄介になるというのは?』


 まさかだぜ? 

 あまりに雰囲気の悪すぎる二人に対して思った俺の心内を覗いたかのような発言が、背中にぶつけられる。


(お……イ?)


「あぁ、それもいいかもしれないわね」


 声の主に、俺達みな振り返る。

 特に《ヒロイン》は発言者を目で認め、納得したように笑った。


「私の方も、少しヤマトと距離を置きたいと思っていたから。風音」


 なお、僕の方に関してはね……


「と、言うわけですので、宜しいでしょうかトリスクト様?」

「あぁ、私は別に構わ……」


(違うだろぉぉぉ! そうじゃないだろぉぉ!)


「……悪い。ルーリィはOKでも、俺が無理だ」

「良いじゃないか一徹。こんなに可愛い女の子と美しい女性も下宿同居人メンバーとして増える。ただでさえ今もハーレムな状況。ライトノベル好きな君にとってはますます嬉しい……」

「俺にはルーリィがいる。違うのか?」

「うくぅっ」

「確かに女の子に囲まれるって状況にはいまだに憧れる。ライトノベルの中の世界にだけ許されたハーレムってのにはさ」


(憧れてたさ。なのに……な?)


「俺はルーリィに、『一緒に居ろ』と言ったんだぜ? なかなか実現してないなか、更に下宿に女の子を増やすってのはね。なんだか心苦しいっつか」

「まったく……君と言う男は……」


 納得など、ゆめゆめ出来るわけが無いのだよ。

 

「格好良くて嬉しいことを言ってくれる。でも言い寄ってくれる女の子を前にその様に拒絶する。傲慢も過ぎる。自覚はあるかい? しかも灯里は、私の親友だ」

「さてぇ? 少し、モチィ焼いてるんだぜ?」

「ヤキモチ? 本当に私に対して、君が?」

「『そんなことない』って言ってたけど、やっぱ俺を明け渡しているように感じる」

「フッ。ままならない。私の一徹に対する想いも。一徹の私に対する感情も」


 なんだかね。

 どげん《ヒロイン》とネービスが俺と暮らしたいなんざ阿呆抜かしたか知らんが、もしそれを受けたなら、決定的に、何かが壊れてしまうと直感した。


「少し……控えろ。ネービス」

「「「「ッツゥ」」」」


 だから、ハッキリと拒絶を見せた。

 優柔不断なのが俺の悪い癖って自覚はある。中途半端な思惑によって物事が変な方に行かないように、示して見せた。


「も……申し訳ございません。山本様」


 少し強めに言ったのは良くなかったか。ルーリィ、《主人公》、《ヒロイン》もぎょっとした顔を俺に向ける。


「き、気を取り直して、発言を……」

「許す」

「は、ハハッ」


 ただ効果はテキメンかな。ネービスの顔を引きつらせることくらいはできた。


「……ルーリィ?」


 ただ、威圧が過ぎたのかもしれない。

 ルーリィが、ネービスとやり取りする俺の前に立ちはだかる。両掌を俺の両頬に添えた。


「怖い顔をしているよ一徹。トモカ殿らの第一子に向けたプレゼント選びをするに、その顔は相応しくない」

「そうかな? 自覚がない」


 言われたなら、そういうことなのだろう。

 「チョイ待ち」とルーリィに声をかける。彼女の添えた両手を自分の手でもって引きはがすと、そのまま顔を洗うようにゴッシゴシ。


「どーだ? ニッコリ?」

「だいぶマシになった。でもやっぱり、少し、顔が怖くなったね」

「ソイツぁ……」


 寂しげに嗤うルーリィの言いたいこと。今の俺には何となく理解が付く。

 謹慎中に言われ始めた。そこは、時たま鏡に映す自分の顏に俺も感じる事だった。


「お、恐れながら、私の申し上げたいところはそこです。山本様?」

「ん、そこって?」

「その、トリスクト様と仲睦まじいところ」

「……どういうことだ?」


 諭すルーリィと見つめ合う状況で、ネービスの声が割って入った。


「第三魔装士官学院には今、二つの事柄が世間を賑わしているのはご存じでしょうか?」

「そーなの?」


 声だけじゃない。

 ネービス自身、体ごと、俺とルーリィの間に立つ。


「一つ目、いまトリスクト様にはアイドル的な人気が集まっております。お判りでしょうが、陛下肝いりのプロジェクトにてメディアへの露出が増えております」


(……そういうことか)


「異能力者への、魔装士官への理解を一般民間人に促そうっていうあの?」

「ハイ、度重なる桐京出張。講演会やチャリティーイベントにも参加していらっしゃいます。容姿の整った代表訓練生の中でも、トリスクト様は一際輝いておられます」


(アイドルや女優。タレントでも声優さんでもない……が、プロジェクトに選抜された訓練生自体、魔装士官への理解を国民に訴える広告塔的役割がある。だから……)


「一般的にはもう、トリスクト様は《みんなのルーリィ・セラス・トリスクト》様になりつつあります。当然、婚約に付いても伏せられている」


(そうなんだろうな)


「勿論、フランベルジュ教官も当てはまるのですが」


 言及されたこと、考えなかったわけじゃない。

 普段から桐京に出張することが多くなったルーリィとシャリエール。しかし、あまりその活動に付いて俺は見ないようにしていた。


「インターネットニュースでも、お二人を賑わすことが多くなってることはお気づきでしょう?」

「それは……」

「ここだけの話、我が石楠グループの資本の入った芸能事務所がお二人をスカウトしようとしているという計画もございました。私が止めましたが、他の芸能事務所はその意向だそうです」


 そう、見ないようにしていた。

 ネットサーフィンでエロ動画やエロ画像を見るのが好きな俺だぁ。

 最近、裸の女の子の写真に、顔だけルーリィやシャリエールのパーツデータをはめ込んだ物も目に入るようになった。


「実は、ここに来るだけでも、ゴシップ誌、週刊誌のカメラが今回のお買い物写真を盗撮していたのはご存じでしたか?」

「嘘……だろ?」

「ご安心ください。全てこの私が、カメラごとデータも取り上げ、部下に処分するように手配しましたから」

 

 ……掲示板サイトで、ルーリィやシャリエールの二人が、どこぞのブサイクと交際しているという匿名の投稿を目にしたこともあった。

 もし、ネービスのいま言った話が事実だとして、もし何もしてくれなかったとしてら、次の週刊誌に、そのネタが擦られるのは自明の理。


「二つ目。徹底的に掘り下げられるでしょう。《ゲームマスター》?」

「うぐっ」

「話題のお二人との交際相手として写真や報道がすっぱ抜かれたとしたなら、皆、山本様の調査に躍起になります」


 文化祭での事件で俺が演じた《ゲームマスター》という建前。

 包帯グルグルのミイラ男をしていたこと。シキに対し思いっきり名乗ったが、なぜかあの時、その場にいたすべての者の電子機器はシャットダウンしていた。

 そういうことで「事件を解決に導いた《ゲームマスター》とは何者だ?」とささやかれているのは知っていた。

 

「利点もあります。記者たちが挙って山本様を調べることで、山本様の手では調べきれない、過去の山本様の情報を知ることも出来るでしょう」

「いらないよそんなの」

「でしょう。そのあたりは私もわかっております」


 つまるところ、そんな状態では俺とルーリィの関係、俺とシャリエールとの関係がおかしくなるイメージしか湧かない。


(だけじゃない。楽しく宜しく、ひっそりとやってきた今の環境セカイがぶち壊される)


 そんな状況で、仮に下宿での生活が何処かの記者に撮られでもしたら……


(『スクープ! 何が護るための誓いか! 学生自衛官の一、魔装士官訓練生のただれた性活せいかつ!』なぁんて)


 野郎が俺だけであとは女子隊員ばかりの山本小隊なんざ、格好のスキャンダルネタとして取り上げられるに決まってる。

 

(『超えた一線、教官と訓練生の穢らわしき係』とか、『墜ちていた品格。清廉潔白、凜とした貌の裏で』だの……)


 知らないでいられたら、ネービスによって聞くことさえなければ、気にしないでこれまで通りやれたってのに。


「なっ! 嘘でしょ風音。ルーリィとシャリエール教官との関係こそ、正しい関係だって貴女もわかってるでしょう・・・・・・・・・・・・?」

「フム、自分でもよくわかっていないのだが、私は何か、変な状況にでも陥っているのかい?」


 何となく、牽制されている気がする。

 これ以上、ルーリィ、シャリエール二人と親密になるなとでも言われているかのような。


「俺に忠告したいのか。ルーリィやシャリエールとの付き合い方を考えろって?」

「十分なご注意と警戒を推奨したかったのです。パパラッチの格好のネタにされかねませんので」 


 そんなの俺たちにとって知ったこっちゃない……のに、気を付けなきゃいけないのはマジなんだろう。

 俺は別として、変な風評被害がもしルーリィたちを傷つけるとするなら堪らない。


「そっか。一応……礼は言っておく。ありがとなネービス。今日のところはスクープ記者からのカメラの目から守ってくれた」

「杞憂かもしれません」

「杞憂?」

「実はもう、お二人、いえフランベルジュ教官も含めたお三方の関係をすっぱ抜いた記者もいるとの話です。が、その記者は行方が知れなくなった……という都市伝説も」

「……ネービス以外で、動いてくれてる何者かがいるってことか?」

「あくまで噂ですが。取材者の脅迫♡ もしくは誘拐♡ 取材した情報は完全抹消され、のちに開放に至るとか♡」

「……お義兄様? いや、カラビエリ様か」

「……ルーリィ?」

「ううん、なんでもない」


 かなり胸に響いた。

 誰かが俺の知らないところで、自分でもわかっていない俺自身や、俺の周囲のことを暴いてしまおうとしている。


「俺のせいか。ルーリィにシャリエール。下宿のアイツらに、三組連中にも迷惑を掛けちまう」

「そ、そんなことないわ山本!? 貴方は悪くないじゃない!?」

「いや灯里、山本の状況は……」

ヤマトは黙って・・・・・・・!」

「…………………………………………………………………………チッ・・


 そう考えると凄い恐ろしかった。


「一徹、こういう時は私以外を心配して欲しい」

「ルーリ……」

「君からなら私は、いくらでも傷つけられてかまわない・・・・・・・・・・・・・・・・。違うな。私を傷つけていいのは君だけ」


 一瞬、落ち込みかけた……が、すぐ心は熱くなった。


 (本当、ルーリィ……)


 そっとルーリィは俺の手を取って、キュッと握ってくれた。


(なんつー心強さだ。文化祭の事件以降、もっと感じられるようになった)


 一瞬で不安が胸の中を染めたあげた。

 だが、俺の瞳を真剣な目でじっと見つめるルーリィの言葉は一辻の風となって、黒いモヤを吹き飛ばしてしまう。

 それを思ったら、急に気恥ずかしさが押し寄せた。

 視線を受け止めきれなくて明後日の方角を向いちまう。言葉を絞り出した。


「それじゃ、どうしよっか。今日は……帰るか? 俺たち四人以外は《王子》のとこで勉強会だろ? まだ解散してないだろうから合流するか?」


 ここまで話を聞いたら、引き続きってわけにはいかないはず。


『一つ……提案がございます♡』


 が、終わることはなかった。

 あからさまに演技じみた「今思いついた」と思わんばかりに、ネービスは手を合わせた。

 ネービスが口を開く。いつも面倒なことにしかならないから、嫌な予感がチョットする。

 ただ変わった人だが、やるときにはやる人でもある。

 ルーリィと買い物なんて滅多に来れないこともあった。提案があるなら、乗ってみようと思った。

 得難い機会だから。終わらせたくなかった。

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