テストテストテスト45

「こんにちわ。第三魔装士官学院三縞校から参りました」

『はいはい。話はフウニャン後輩から聞いているよ。少し待ってくれ給え』


(なんだって、俺がこんなことに……)


『やぁ、ようこそ来てくれたね若人たち。僕がこのチームのキャプテンだ』


 フウニャンさんからの依頼。アメリゴンフットボール決勝関係のお仕事の為、月城さんと俺の二人で訪れたのは……


『諸君、我らの要請に応えしご令嬢と若獅子がいらした。一同、起立……礼っ』

『『『『『歓迎します! 青法中せいほうあたる大学リーガルダイナーズにようこそ!』』』』』


 大学アメリゴンフットボール関東二部リーグ決勝進出の、こちらのチームの部室。

 扉開けて出迎えてくれたのはキャプテン。掛け声とともに室内の全員が俺たちに視線を集め、挨拶をくれる……まではいい。


(ど、どこのホストクラブの開店歓迎挨拶だ? ホストクラブなんか行ったこと無いけど)


「な、なんか意外だね山本君、もっと荒々しいイメージがあったな。実はすごい紳士的なのかなっ?」

「紳士のスポーツは、ラグビーだと思ふ」


 背の高低に関わらず、腕周りから足回りからゴリゴリマッチョ、ゴリマッチョ(ウッホ←合いの手)。胸に手を当て、深々と頭を下げないでほしかった。


(コレで可愛いもの好きとか乙男オットメーンとかなら、漫画やラノベのネタ的で面白かったんだけどな)


『ご令嬢が月城さんだね?』

「ご、ご令嬢だなんてそんな」

『そして君は……』

「山本一徹っす」

『さしずめ姫を守る騎士ナイトと言ったところかな? 僕らアメフト部もフウニャン後輩から信頼されてないらしい。お嬢さん一人部室に訪れる。リスクだとね』

「いや、そんなこと思うんすけど」


親衛隊インペリアルガードにゃ違いない。が、寧ろ俺の迷惑考えて♡)


 月城さんと一緒に来るように指示したのは、今はこの場にいないフウニャンさん。

 学外からの依頼窓口が月城さんとして。実働部隊の俺は本来いらないはず。


お茶ティー? それともオアコーヒーコーフィ?』


(って言うかさっきからなんなのこの、キザッたらしさ)


 髪を右手でかき上げる仕草ね。一挙手一投足に格好良さを意識しているように見える。


『ミネラルウォーターもある。常温だけどね?』


 大人感あるお洒落で知的な話し方や振舞いには、キャプテンさん的なポリシーがあるのだろう。


「ご、ご厚意に甘えまして、ミネラ……」

「二人とも水でおなしゃす」

「や、山本君っ!?」


(コーヒーは別として、茶って、水って言ってほしかった)

 

『良き判断だ。水は体にいい。常温なら、体も冷やさないしね』


 きっと悪い人じゃないと思う。ただノリに付いていくのはチョイ難しそうだ。


(もっと超体育会系だと思ったんだけどね)


 それこそ、「おう来やがったな? ビールにするか? 焼酎か? 他にもスピリタ……って、テメェ俺たちの酒飲めねぇってか」ともなる気がしたのだが。

 それが俺の中にある勝手すぎるアメフト部のイメージ。「ワリャア、それでも金〇マ付いてんのか!? 金タ〇ッ!」ってね。


『では早速、商談を始めよう』


(お金のやり取りが発生しない以上商売じゃないから商談じゃないんだけどな)


 何とも肩透かしを食った気分だ。


 ――話は至極スムーズに進むこと相成った。

 

『以上が当日の簡単な概要になる。ここまでで何か質問は?』


 年長者崇拝主義に毒され年下や後輩に悪絡みする。もちろん体育会系にいいイメージもあるが、たいてい悪いイメージの方が印象としては強いものだ。


(結果的に超体育会系じゃなくて良かったかもね)


 「年下であっても手伝ってくれるなら敬意を表さなければ」と言う姿勢がキャプテンさんから見えたのは高ポイント。


「PVの為に、タックルシーンや得失点シーンを何度も再撮影リテイクするわけじゃないんすね?」

『当然さ。元々メインだったアメフトの決勝戦にPV撮影が乗っかかって来たに過ぎないからね。長引けば、手伝ってくれる君たちにも負担を駆けてしまう』


(キャプテンさん、結構いい人じゃない)


 ちゃんと礼儀を示してくれるなら、こちらだって月城さんが依頼を受けた以上しっかり仕事で応えて見せよう……舎弟たちをこき使って。


「でも凄いなっ。演技は無いってことですもんね。PV用に切り取られた映像はどれも、白熱した試合模様になるということ」

『月城嬢が気付いた以外にもいろいろあってね』


(つ……ちゅきしろじょう・・・? あ、また髪かき上げた。キザったらしいのが鼻に付く~っ)


『今回はオリンピック応援ソングと言うメモリアル楽曲用PVで撮影されると聞く。もし決勝で負けたら、映像記録として長らく残ってしまう。苦い記憶と共にね』

「なるほど。ってことは相手チームも、下手すりゃ撮影ナシの決勝戦以上に、撮影ありの決勝戦で本気を出してくる。決勝相手ってくらいなんで、やっぱ強いんすか?」

『……強い、ハッキリ言いきってしまおう』

「意外っすね。そこは『相手が誰だろうが関係ない。絶対に勝つ』って言いきるのが、勝手な俺の主観っすけど、アメフト選手かなって」

『見くびるなかれ。もちろん絶対に勝つ。ただその為に、過小評価してはいけないのさ。特に今回の相手は、我が校、永遠のライバルのチームだからね』

「永遠の……ライバル?」


(お、何それ美味しそうやん。大人ぶったキャプテンさんがいきなり。ねぇ、厨二病なの?)


 ここまで話してキャプテンさんは握った拳を顔の前に持ってくる。斜め上と言うか、遠くの方を眺めていた。

 いいね。実は厨二病拗らせていて、大人ぶってるくせに要所要所ポロっと出てきてしまうとかだったら、それはそれでキャラとして面白い。


「私も聞いたことがあります。CHARM戦ですよね?」

「月城さん、ちゃあむって?」

「結構有名でね。桐桜華明立大学と青法中大学は色んなところで競い合ってるの」

「大学名の《》、《》、《》、《》、《》。ゆえにCHARMチャーム


(わ、分かりやすいような分かりにくいような。ってか《》って、実際の読み方は『あたる』じゃなかったか?)


『偏差値、就職先、部活対抗。元は穢土えど時代末期から維新後の明治で活躍した、両校創立者同士の時代から競い合っていた。これはもはや宿命なのさ』


(いいよいいよ。宿命。永遠のライバル。いい感じに拗った厨二病がくすぶり始めてきた)


「……年度末の競技会」

「ん?」

「このアメフトチームの人たちにとって、私たちのソレが、今回の決勝戦なんだよ」

流石ガーサス月城さん。一発でよくわかった」


 一応自己弁護させてくれ。

 厨二病を隠し、大人っぽくカッコつけた年上って見てるだけで、決して勝利への想いを馬鹿にしてるわけじゃない(え? そうやって見てる時点で俺、失礼な奴?)。


『二人とも3年生だったね。なら、やはり二人とも卒業後は正規魔装士官になるのだろうね』

「えっあ、それは……」


 飛び出したのは不意な質問ね。ご勘弁願いたい。

 俺は別に気にしない。が、同じ場所に居合わせる月城さんは顔を強張らせた。


『一応言っておきたい。もし進学を考え、この二校をターゲットに捉えたなら、是非我が校を選んで欲しいな』

「進路ねぇ」


 少し心苦しい。俺如きに月城さんは遠慮しなくてはならないから。

 月城さんなら問題なく上がれる正規魔装士官と言う立場に、俺はどうやっても手が届かないことを月城さんはわかっている。


(進学……か?)


 耳にして頭に浮かぶのは、受験料、入学金、授業料。公私にわたって諸々在学中に掛かるお金。受験するなら、その為に勉強しなければ。教材費用等々か。

 記憶を無くした俺を引き取ってくれたトモカさんと旦那さんに、資金的負担は掛けたくないと諦めていた。


『寧ろ、桐桜華明立大なんて絶対に行ってはいけない。あんな粗野で野蛮で洗練されていない学校は……』

「ライバル関係があると、嫌いになるんですかね? すいませんチョット面白いっす」


 だが最近になって、その可能性、クラスメイトの父親二人は「金なら出すぞ」と言ってくれた。

「ワガママ、無茶、好き」を押し通しても構わない。トモカさんも旦那さんもそう言ってくれた。

 ならきっと俺の努力次第で、これまであり得なかった《大学生の俺》という可能性も、今の俺にとってゼロじゃない。


『フッ、当たり前だけど僕は桐桜華明立大生じゃないから知らないで言ってる。僕ら以上にライバル心を燃やしてきた先輩たちの暴言を、」妄信的に言ってみた』


(何だかんだ、フウニャンさんには感謝かな)


『ちなみに僕の高校時代の友達はアチラに在学してる。『楽しい』と言っていた。そして、我が校を知らない彼は、いけしゃあしゃあと我が校への挑戦を向けてきた』

「ハッハハ。そーいうものかもしんないっすね?」


 始めはフウニャンさんから依頼されたとき、面倒くさいとも思ったもの。


「両校は互いを意識しいがみ合ってきた。でもそれは相手が居て初めて成り立つ《ライバル関係》と言う大切な絆を、長い期間をへて形成された文化としてでている」


 でも、進学も将来における選択しになった今、こうして大学と、大学生と接することのできる機会は意外とありかもしんない。


(『愛でる』って表現がまた、キザったらしいね)


『さて、話はここまで。もうすぐ今日の練習が始まる。よければ見て行くといい』

「そっすねぇ……」


(さ、帰ろ。今日来たのは挨拶みたいなもんだし)


 年下に配慮の利くお兄さんってわかったことだけで収穫だ。この人たちの試合の手伝いなら頑張ってもいい。

 ただそれと……この後のポキの自由時間が犠牲になることはまた、話が違うのよ。


(今日は遊ぶ時間ありそうじゃない?)


 今日はルーリィの出張はない。つまり紗千香もいなければ、柔道地獄に引きずり込まれることもない。


(ゲームをガッツリするのよさっ)


「ありがとうございます。是非宜しくお願いします!」

「……え゛っ?」

「見せてもらえるって山本君。アメリゴンフットボールをすこしでも分かれば、当日の警備の参考になるかな?」


 俺の淡い希望は、しかし俺の想定外の月城さんの決定で露と消える。


「それとも私と行動するのは嫌……じゃ、じゃなくてっ! 何か予定とかあった!?」

「……もーんだいナッスィング!♪♡」


 そんなの面倒くさい……なぁんて言うわけが無いのだよ。

 

(笑顔で振り向く月城さんの尊さね。即OKするに決まってるじゃないの)

 

「余計なことなんてしなくていいのに」など、喉まで来てもいない・・・・・・・・・

 二人で行動することがほんの少し怖いだなんて・・・・・・・・・・・、夢にも思ってない。



『アメリゴンフットボール、略してアメフト。色々説明の仕方は有るけど、ラグビーをアメリゴナイズ化した競技と言うのが一番手っ取り早いかな?』


 流石三縞は田舎だね(とても失礼)。土地が余ってるのか。

 場所は部室から、テニスコート数面、野球場が併設されている校庭にうつる。

 今は陸上長距離用のトラックフィールドに囲まれた、サッカー場に来ていた。

 サッカー部とは時間差でフィールドを共有しているらしい。


「アメリゴ合衆国の名を関するくらいですものね。プロリーグもあるとか」

『良く知っているね。最大の魅力はポジションの多様性にある。如何にせめぎ合う相手の陣地に攻め込み、最奥の得点地ゴールに達するか。高度な戦略、それぞれ役割の違うポジションで己の仕事を全うし、仲間と連携、相手を打ち崩す』


(そう、、アメリゴで普及した)


「落ちこぼれを一人として出さない。違う。一人一人の適正に合わせ、各ポジションに配置する。そうっすよね?」

『へぇ? 君には説明しなくてよさそうだな』

「互いの陣地の奪い合い。当然、己が陣地領土を広げるため、衝突は不可避だ」

『そう。チームを軍隊と見立てて前衛がいる。《ラインマン》と言ってね? 相手防衛前線ラインと力比べし、その戦略的陣形を崩す』


 重量級。チーム最強クラスの筋力を持つ者割り当てられるポジション。

 後衛に控える、パスを投げる者。ボールを持って走る者。ボールを蹴る者。司令塔。つまり……弱い奴らが存分に力を発揮できるよう、自らの肉体を壁とし盾として犠牲にする。

 強き者にしか許されないポジション役割


『そうして《ラインマン》が相手防衛前線ラインマンを押し込み、陣形を破壊したところで、《ランニングバック》がボールを持ち、相手陣地に吶喊とっかんする』


 後衛が、所有権のあるボールを相手陣地にどれだけ侵入し運べたか。陣地の拡大と縮小はそこで決まる。

 もし味方ラインマンが相手に圧し負け、プレッシャーをかけられ、自陣内に押し込まれたなら、今度は自陣を相手方に取られてしまう。


『中央突破。押し勝った味方ラインマンが敵陣形の真ん中に穴をぶち明けられたら、それをルートとして駆け抜けられる。もしくは相手陣形から大きく外に迂回し、相手陣地を駆け上がる』


 駆け抜けるルートが狭い場合、無理に通る必要がある。

 必要なのはボディバランス。スピード。そして必要なら敵陣中央突破に果敢にチャレンジする勇気。


「ですが結局、相手陣地深くに自分所有権のボールがあればいい。ならわざわざ最初から走って持っていく必要はない」

『山本君の言った通り、自陣から敵陣に向かってパスを放るのはありさ。相手陣地内でキャッチしてしまえばいい』


《ワイドレシーバー》。言うのがいわゆるキャッチポジション。ボールキャッチ力はもとより、足も速くなくてはならない。


『短いパスを刻んで、少しずつ相手陣地を押し上げてもいいね。長いパスをキャッチすれば一気に相手陣地を自陣に取り込める。最奥の得点地ゴールも近い。得点まであと少しだ』


 敵にもパスカット。もしくはパスを奪い取ろうとするポジションがある。空中戦も想定される。背が高いに越したことはない。


(あんまり好きじゃないんだよな。女の子にモテるポジションだ)


 背が高い。背が高いと、全体的に見て細く見える。

 そしてフルコンタクトスポーツ選手と言うことで、ラインマンより非力なくせに一応筋肉質。足も速い。

 もはやアスリートモデル体型。

 ラインマンに守られる非力男雑魚のくせに、得点に絡むポジションだから花形職。

 

『そして最後、司令塔だ。《クォーターバック》』

「ま、要は月城さんみたいなポジションだね」

「……私?」

『ボールをランで相手陣地に持っていくか、パスを駆使して切り込んでいくのか。他にもキックプレイによって……ま、作戦を練り上げ、チーム全体に指示、指揮する』

「あ、なるほどだね」

「今挙げたポジションはあくまで攻撃側オフェンシブポジションだけど。防御ディフェンス側にもそれに相当、対抗しうるポジションがあるのよ」

『押し合い。空中のボールを奪い合い、ボールを持った相手に対して、猛タックル。ゆえにコンタクトスポーツ』

「野球の3アウト制に似てる。アメフトの場合、相手陣地の初めから10ヤードの間を4ダウンアウトで突破しなきゃならない。これを繰り返して、相手の得点地ゴールを目指す。得点をする」

「4回せめて失敗したら、攻撃権は相手に移るんだ?」

「そういう事」


(人種によって特徴や向き不向き、適性が違う。そこに相応しい役割を割り当てることで出来上がった強大国がアメリゴ合衆国。流行るわけだよ。考え方が似てるもの)


「それでキャプテンさんのポジはどこなんすか? やっぱしクォーターバックでバッキバキなキャプテンシーを?」

『いや、ディフェンスではラインバッカーで、オフェンスはタイトエンド……と、少し特殊かな?』

「あ、なるほどっすね。アソコか」

『……驚いたな。山本君、君はアメフトの経験があるのか?』

「え? 俺っすか? 俺は……」


未経験に決まってるじゃない・・・・・・・・・・・・・そもそも試合を見たことすらない・・・・・・・・・・・・・・・・。周りに選手もいないから、話なんて聞いたことな・・・・・・・・・・……)


『おい! 球が浮きすぎだ! こんなの取れない!』

『マズッ! 前を見ろ前っ!』

『ヤバイっ! 高校生二人がっ!?』

『このまま突っ込んだりしたら……!』

 

 聞かれても困っちゃうだけなのだが。


『『『危ないっ! キャプテン、カバーッ!?』』』


(ま、有り体に答えるしかないか。コレを凌いだらだね・・・・・・・・・どうも)


 耳ってのはありがたい。

 情報聞きゃあ、パス練習が背中離れたとこで行われてる。

 大方、手元狂って放られたボールが俺らめがけて飛んでいる。

 キャッチしようと滞空中のボールにのみ集中し追いかける《ワイドレシーバー》が、走る先に、俺たちがいること分かっているかは謎。


(悲鳴具合を聞くに、衝突までもう猶予もないか……)



 魅卯が振り向いた時、もう目の前に選手は迫っていた。

 2メートルありそうな間合いなど、すでにトップスピードに乗った大学生アスリートにとって実質無きに等しい。

 思い切り放られた滞空中のボールを、地面に落ちる前にキャッチしようと全力疾走。

 秒どころか、瞬すら激突に要さない。


「……ドンピシャ」


 振り向きざまの突然の光景に、魅卯だって頭が真っ白になって動けない。

 ……はずなのに……


「まずはスイム……」


 選手を認識した刹那、魅卯の視界を広い背中が埋め尽くした。


(……え……)


 パアンッとは、選手が衝突用競技プロテクターとして身に着けていた肩パッドを、思い切り振りぬいた一徹の掌が弾いた音。

 魅卯に向かって猛然と迫る選手にとっての前進の力を、一徹は横から跳ね払うことで、強制軌道修正してみせた。

 声に対して同じく振り向いた一徹。自身の腕力プラス、横回転振り向きざまの遠心力もうまく上乗せし、利用して見せたのだ。

 だけじゃない。

 少し引く力も加えたか。選手の前のめりの力を、下へ下へ。


「そして……」


 静かに呟く一徹の声を耳に、魅卯は驚愕に見開く。

 軌道修正された、たった一瞬まで突撃待ったなしだった選手が、魅卯の脇数センチをギリギリですれ違い地面に倒れ込んだ。


『こ、これは……山本君は……』


 衝突が避けられたら危険は去った?

 否。

 選手が魅卯にぶつかりそうになったのは、通常球体と形が異なる楕円形ボールが、その楕円先を、後ろ向きだった魅卯たちに向けた状態で飛んできたからではないのか。


「ハッハァ!」


 凄まじいスパイラル回転は、放られたボールに掛かる空気抵抗を限りなく低減する。射られた矢のように、凄い速さで魅卯目がけて空泳いでいたのだ。


「いいQBだねどうも」


 それも、一徹は受け止めてしまう。


「回転が活きてる、アメフトマンガレベルによーけ走っていやがるじゃないの」


 シャリシャリと言う音。一徹が選手を跳ねのけた側とは反対の掌でボールを受け止めた故。

 楕円の先は見事一徹の掌中心に着弾した。ボールの形状に沿って手指を器上にして受ける形。掌内での回転は、やがて一徹の指の腹を滑り流れる際の摩擦で落ち付いていった。


『わ……ワンハンドキャッチ……だと……』 

「……嘘……」


 掌の中で死んだボールの感触を確かめるように、片手持ちから両手持ちへ、モニュモニュ揉みこんで。一徹はボールをキャプテンに向け、下投げに柔らかく放る。


「大丈夫っすか? スンマセン。いきなり過ぎてちょっぴり荒くなりました」

『いや、いい。こっちが悪かったんだ』


 キャプテンに渡してからというもの、今度は自分が引き倒してしまった選手に駆け寄った一徹は、声をかけ利き手を差し出す。

 倒された選手は何が起きたか分かっていないような驚いた顔を浮かべながら、差し出された一徹の腕頼りに立ち上がる。


「大丈夫? 月城さん」


 そうして、ついに一徹は魅卯に視線を向ける。

 迫りくる選手。ついでボール。

 魅卯に意識が向けられるということは、一瞬にして二つの事をやり遂げた証明。


「つ、月城さん? 月城っ」

「あっ……えと、ゴメン。何?」

「怪我はなかったかって聞いたんだけど」

 

 驚き禁じ得ない所業に、魅卯はポカンとしてしまって。

 一徹の問いに反応できたのも、一徹が両掌でもって魅卯の両肩を強く抱いたからだった。


「あぁ、そういえばキャプテンさん。さっきの質問の答えなんですけど……」


 しかしながら魅卯は、いや、居合わせたキャプテンの二人とも固まってしまった。


「アメリゴンフットボール、全くの初心者なんすよ・・・・・・・・・・。試合どころか練習も今日初めて見ましたし・・・・・・・・・・、ルールやポジションだって、今日初めて知りました・・・・・・・・


 声色には嘘はない。顔色に演じも見えない。

 なら一徹は嘘を言っているつもりが本心から無いのだろう。

 ……だとしたら今の動きは何だったのか・・・・・・・・・・・。先ほどポジションとルール説明をしていた時に、いろいろ話していたのは何だったのだろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 いや……魅卯たちは、誰と話していたのだろう・・・・・・・・・・・


(ッツゥ!?)


 そう思ったら急に怖くなってしまって、身を振るわせるとともに、魅卯は自分を抱きしめた。


「いんやぁ、やっぱフルコンタクトスポーツって怖いっすね。折角練習見学させてもらって申し訳ないんすけど、やっぱ帰ります。触らぬ神に祟りなしって奴ですね」


 魅卯に生じた感情に一徹が気付くはずもなく。

 「帰ろ月城さん」と魅卯に呼びかけ(驚きすぎてそれすら魅卯の耳に入ってないのだが)、キャプテンに深く頭を下げた一徹は、その場をゆっくり後にした。


『月城嬢。彼は一体何者だ?』

「何者? なにもの……」

『力の捌き、受け流し。ワンハンドキャッチと言う超高等・・・キャッチ。そしてクォーターバックをQBキュービーと当たり前に略した。間違いなく山本君は……』

「……知らないんです」


 今の動きを見せられ黙っていられないのがキャプテン。

 

『知らないとは? 先ほど会ったばかりだけど、僕から見て君たち二人はとても仲がよさそ……』


 ただ、今度こそキャプテンは黙ってしまう。問われた側の魅卯の貌に、狼狽えてしまった。


「知らないんです。私」


 笑っていた。眉はひそまっていた。困っているのか、笑っているのかどちらともつかせない。

 そのうえで……


「私ホントに、本当に山本君の事・・・・・・・・……何も知らないんだなぁ・・・・・・・・・・……」


 その表情のまま、瞳には、涙が、溜まっていた。

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