テストテストテスト41
「というわけで昨晩話した通り。2年2組の
「胡桃音紗千香ですっ。宜しくお願いしますね皆さんっ?♪」
他の訓練生から視線が集まる紗千香を取り囲むように、学生食堂の端っこ、テーブル1台占拠した俺は、今日の昼食にかこつけ、隊員に告げることにした。
「まず仮入隊って建てつけ。隊内での順応ぶり、与えられた役割への適正、活躍の如何で正規隊員に登用したい」
「と言ってるが、実際は既に正規扱いだろう?」
「山本小隊以外は、入隊どころか声掛けられるだけで拒絶反応あるみたいですし」
「ま、師匠が決めた。俺たちに付いてさえ来れるなら構わねぇ」
「よかった! 色々教えてください! 学院のこと、小隊のこと……一徹先輩のこと」
首をクイッと傾け笑顔で挨拶する紗千香に、三人とも品定めするような目で眺めていた。
「紗千香……警戒されています?」
「ウム、君の入隊を歓迎するよ
「ぐっ、いきなり呼び捨てですか」
「一徹?」
「んが?」
「紗千香の悪い評判は聞いている。他小隊では駄目だろう……が、山本小隊に不適合と評した時点で遠慮なく切る。理解してくれるね?」
「紗千香が不和きたす芽なら、ルーリィ達に負担をかけさせ続けるつもりはないよ」
「ならいい」
「先輩!?」
ルーリィからぶつけられた紗千香は「助けてくれないんですか」と俺を見る。
それ以上に、ルーリィたちに迷惑をかけたくない思いの方が強い。
「呼び捨てについて。私は副長だ。君が加入した時点で私は上官。君は部下。あらゆる面で命令系統は刷り込んでいく」
「風通しのいい隊だと先輩から聞いてたのに。アルシオーネさんにナルナイさんは、ルーリィさんと対等に……」
「良いんですよ
「勝手に俺たちを下の名呼びしてんじゃねぇ。トリスクトが
「とりあえず、しばしはトリスクト副長とでも私を呼ぶがいい」
「うぅ……」
「ま、まぁビビるなって紗千香。互いに初
あ、紗千香の口角が引きつってる。コメカミに青筋が落ちてる気もした。
「ただ俺ら全員、今年度からの編入、入学だ。周りと比べ月城さんとの付き合いも短い。月城さんとその周辺人間関係面で理不尽がお前に向けられることはないよ」
実のところ俺もちょっとビビってる。
クール極のルーリィ、俺事以外は結構淡泊なナルナイは別とする。
豪放磊落。「楽しもうぜニャハ♪」ってなアルシオーネまでなんか冷たいような。
「山本小隊に馴染むとこから始めて見ろ。変わろうと決心したんだろ?」
「それはそうですけど」
「その想いを行動に現し続けりゃ、頑張る姿に印象を変える奴もきっと出てくる」
冷めた視線を三人から向けられ凍り付いた紗千香。何とか安心させてやらにゃね。
「そしたらこの隊以外の奴も、お前を受け入れてくれるかもよ?」
「ほ、本当ですかぁ?」
隣に座る紗千香は苦しそうな声を上げ、俺の肩に寄り掛かる。
同時、周囲が色めきだった。
「頑張ってみますけど、私と先輩のダイレクトホットラインは残しておいてくださいねっ?」
俺の左腕を、紗千香の両腕が抱きしめる。
『山本小隊員の面々を前にし、なんと大胆な! 正気かっ!?』
『山本に甘えて見せる。死ぬ気か胡桃音!?』
『約束された粛清の運命。命を賭し散っていった、愛に生き愛に死んだ志士がいたのだと。その勇気は子々孫々まで語り継ぐべきか!?』
うん、なんか周囲が言っておりますん。
「小隊長にしかできない話もあるはずなんです。私、先輩しか頼れる人がいないから……」
(やれやれだねどうも)
「違うよ。俺以外に頼れる奴を作るため、お前が頑張るんだぜ紗千香?」
左腕に感じるミュニュイとした感触は生唾ゴックン。
ずっと楽しんでいたいと思いつつ、今後の学院生活を送るなら俺ばかりでは駄目だろうと真面目な考えも残してみる。
「俺は今年で卒業する。だけど、2年生のお前にはまだ来年があるんだ」
それにこの光景をルーリィに見せ続けるわけにも行かない。
「あ……」
ゆっくり紗千香の両腕を引きはがす。少しばかり紗千香を押し、間を作った。
「へぇ? 殊勝じゃないか一徹。少し意外だ。エッチなことが好きな君だから、揺れると思った」
(あ、あんまりルーリィの口から『エッチなこと』とか聞きたくない
「さてぇ? 俺は……
「はくぅっ!?」
「……だろ?」
「そ、そうだね。私も変なことを聞いてしまった。でも、不意打ちとは卑怯じゃないか一徹。ビックリしたぁ」
「不意打ち?」
「い、いや何でもないよ。それで? そこにはシャリエールも含まれるのだろう?」
「そいつぁ……」
「あーいい。我が最強のライバル殿だ」
「傷……つけてるか?」
「何を言ってるんだい? 今更だよ。どのように頑張ってもその影を消せないことはもう諦めている」
ルーリィから「傷つけられて構わない」と言われた。だけどそれは「傷つけていい」わけじゃない。
「私たちだって入ってるでしょうね兄さま!?」
「俺は良いから、ナルナイは入れてやってくれ師匠!?」
できるなら、傷つけたくはない。
(リングキー・サイデェス……だったか?)
最近俺はルーリィを、この場にいないシャリエールを、隊員全員を、今年出逢ってから過去一番のショックを与えてしまっていた。
「紗千香、一つ……俺と約束してくんない?」
「約束ですか? それは?」
「隊員、そしてフランベルジュ教官の前で、くっつかないで頂戴」
「くっ」
多分それは、俺の喪った記憶に関わること。だからこそ俺には、どうして彼女たちを悲しめたのか自覚がなかった。
「あんまり見せたく……」
それはそれで、辛いものがあったんだ。
「むぐぅっ!?」
「不正解だよ一徹?」
最近距離が近すぎる紗千香に牽制してみた。
俺の口に、ルーリィが今日の昼食に選んだチキンのクリーム煮が突っ込まれた。
「『私たちがいる前では』とはどういうことかな? では私たちのいないところでイチャつきたいのかい?」
「ありゃ?」
「君と一緒にしたいこと全て、私の知らないところで別の女の子に横取りされてしまうよ」
ルーリィがつかったスプーンフォークによるものだが、俺たち二人もはや、間接キスを気にしなくなってきてる。
「横取り?」
「私が君にしたいこと、してあげたいこと、してほしいこと。やがて君が私に向けてくれていた視線や思いは、他の女の子で占められる。浮気や不倫って言うのさ」
紗千香の行動。俺の誤った言動。引き合いにルーリィは諭してくる。
「たまらないじゃないか。そんなの」
なんだろう。俺にとって今の話は、俺の知らない《リングキー・サイデェス》を指してる気がした。
(なら女の子なのか? サイデェス……ん? そういえば
「……できません」
「お?」
「え?」
「紗千香
そこまで至った時、少しの間押し黙ってた紗千香が口を開く。
「隊内の噂は聞いてます。でも副長や一年二人も私のこと聞いてるはず。山本先輩に、告白したことも!」
……先ほど沸き立ったなど、比較にならない。
賑やかだった食堂が一気に並み引いたように静かになる。並みが凄い勢い委で引いていくとなると、その後の予想は至極簡単でイヤなものだった。
「山本先輩、隊員全員からの好意を向けられて容認してる。なら私の『好き』って感情を受け止めてくれてもいいじゃないですか!?」
「ちょっ! 待てぃ! 何言っちゃってんの紗千香!?」
「好きっ!」
「くぅっ!?」
「紗千香、山本先輩のことが好き!」
「おまぁっ!?」
殴るときに拳引き絞って力溜めるだろ。あれと同じ。
「だから紗千香の感情だけ、押さえつけないでください。拒絶しないで!?」
引いた波は、大きな塊となって押し寄せるもの。
ドッと盛り上がりを見せる周囲のざわめきを背景に、行き飲まざるを得なくなった。
(俺、またミスったのか?)
ミスと思っちゃ駄目だ。
山本小隊以外で転校生の胡桃音紗千香を受け入れる隊は一つとして無い。だからウチが受けるしかなかった。
「誰に気遣い、気兼ねする必要なんてない。好きになるのは自由でしょ!? それに先輩はまだ……
「ガハァッ!?」
「まだ……
「グフォッ!?」
ミスったと思った。
告白実績のある紗千香を小隊加入させること。思うところなかったわけじゃない。
「
だがズルい話。ある程度の空気が数か月で固まった山本小隊内で、仮にそういう思惑があったとしても遠慮や配慮をしてくれるものとも思ってた。
「一徹先輩。ごめんなさい。早速不和の芽になっちゃいました。紗千香、悪い娘ですか?」
「あ、いや……」
(違う……な、悪いのは紗千香じゃなくて、俺だ)
「……いいよ。分かった」
「「えっ?」」
「君の一徹への想いも含め、入隊を歓迎しよう」
「マジか!? らしくねぇぜ!」
……やはりというかなんというか。
「ここ最近、一徹は私たちの知らないところでよく告白されているらしい。そもそも二人きりのとき告げるのが告白だろうけど」
「正気ですかトリスクト!? 今の形で落ち付いてきた小隊の形に、ただでさえ新加入は波風が立つのに!」
「嬉しいじゃないか。私たちの一徹はそれだけ魅力がある証明だ。何よりこの場で告白を敢行した。私たち以外そんな女の子は初めて見た。私は気に入ってしまったよ」
「……はぁ? ちょっ……なんで話が
本当、なんつー俺クソ野郎とも思っちまう。
「ならこれから紗千香含め競争と行こう。土俵に上がった以上ライバルとして認めよう。一徹を渡すつもりはさらさらないが、こうなった以上私も全力でアプローチさせてもらう」
紗千香が俺に告白した。
ルーリィは笑い飛ばしてるが、本来笑えるわけがない。
隊内にヒビが入り兼ねないことを察し、ポジティブに受けるしかなかったなら……
(また、ルーリィを傷つけた)
俺の為に今のように振舞ってくれた確信があった。
「ありがとなルーリィ。その……スマナイ」
「どうして謝るんだい?」
(向けてくれる想いに応えることができてないのに。俺たちの関係がバチっと固まってたらこんな展開はなかったんじゃないか? お前らを傷つけることもなかった)
「じゃあ一徹、これから本気で仕掛けに掛かるから、引かないでくれると嬉しい」
マジで自分の事をおかしいと思う。
―好きって言ってくれたよね。あの時、どう反応すれば良かったのかな?―
だからと言って、月城さんのせいにできない。恨むなんてもってのほかだ。
「う、うかつ。完全に読み違えたんだけど。紗千香、この隊を
「紗千香」
「は、ハイッ! トリスクト副長!?」
「君も、それでいいね?」
「それは……えぇっと……」
「土俵に上がることもせず、上がるために何かを犠牲にすることも、勇気も絞り出せないような
紗千香の声がトーンダウンしてるせいか。
それともルーリィが俺の意識を完全に奪ったゆえ、ルーリィの声のみクローズアップされてるのか。
「ダメだコレ。紗千香の一番苦手なタイプ」
「何か言ったかい?」
「いえいえ~何でもないですよぉ。アハハ……はぁ……」
優柔不断も過ぎるというか、だからクソヤロー。
ここまでしてくれる女の子に、俺は、不義理してばかりじゃないか。
◇
「同い年にしてはあるまじき器の大きさじゃないルーリィ?」
「そうだろうか?」
「何考えてるのよ。山本が搔っ攫われる機会を自分から与えたようなものなのよ?」
「大丈夫さ。一徹は紗千香には揺れないから」
「私も近くでお昼してたから山本の発言は聞こえたわよ。でも将来の事はわから……たくっ、このバカッ!?」
「ホンゲェッ!?」
午後の授業、訓練課程は終了。
いわゆる一般高校で言う放課後に差し掛かった段、始めルーリィに食って掛かった《ヒロイン》は、僕の頭を叩くからたまらない。
「なぜ今日までに固めておかなかったのよ! 貴方さえしっかりしてたら、こんなことにはならなかったでしょう!?」
「あい、スミマセンでした」
「謝る相手が違う!」
「ごめんなさいルーリィさん。反省してますトリスクトさん」
「うん一徹、気付いてないかもしれないから突っ込むけど、ここで謝るのはとてもおかしいよ?」
数えきれない殴打に、今日学んだこと、耳から鼻から衝撃と共に抜けていくような。
「ん、確かにツッコミどころかな。もう、
「灯里さんが怒っているのは、山本さんがまだルーリィさんに想いを伝えられてないからですよね?」
「ゆえに山本は謝る。縁の形を認められずにいることを」
「それ『ルーリィが好きなのにゴメン、俺まだ告白で来てない』ってトリスクトに伝えてるに
「山本のことを好きなトリスクトも、山本がトリスクトを好きなことを知ってる。そのうえでこの謝罪。反応しようが無いというか……両想いなのに煮え切らない奴だな。いい加減にしたまえよ」
「フン、もはや俺たちクラスメイトのツッコミ欲しさに、あえて正式な交際に進めてないようにしか思えん」
俺の謝罪に返してくれるルーリィの言葉も、ジト目するクラスの奴らが言った何かも、耳に入って脳に伝達される前に零れ落ちてしまう。
「フン、信じられるか? それでも婚約者同志なんだ
「カレカノ関係よりずっと先にある事柄は固まってるのに、肝心な恋愛関係で固まってないんだから話題に事欠かないよね」
よくわからんが、あんま歓迎したくないこと好き放題言われてる気がする……
「ど、どうだ? 灯里も思い切って山本小隊に入りたくなったんじゃないか?」
…なんて……おチャラけた空気は一転する。
「……は? 何を言ってるのヤマト?」
こういう時あるよね。
ざわついた場所。他に口開いてる奴と同じ声量。
なのにセリフが妙に誰の耳にも入って、場に静けさが下りる。しらける。
「え、えと……」
《主人公》の一言によるものだった。
「ま、そうね。山本が頼りないのは事実だし、胡桃音さんのことも心配。たまには山本小隊に様子を見に行くのはありかしら」
「……寧ろ、それが灯里の本当に望むことなんじゃないか?」
「え゛? ソレ、本当に言ってるの?」
今度、《主人公》と《ヒロイン》二人の声だけが響いた。
「や、ヤマト。貴方には私が必要。そうでしょ?」
「それは……」
俺のせいじゃないはず。
「わかったわよ。そうね。ヤマトがそこまで言うなら考えて
「あ、あか……」
が、元は俺たちのネタから発展したようにも思えて、何となく心苦しさがあった。
「《主人公》この、バカチンがぁ」
「……山本」
「
「くっ」
「そこは絶対に外しちゃなんねぇだろうが」
だから、思わず口が出てしまった。
予期せぬ介入によってか、《ヒロイン》は目を丸くして俺を見る。
ある意味で、
「
「「「「「「「ツッ!?」」」」」」」
「……え……?」
「い、一徹。君はまた……」
「お前の力が必要だ。いや、
「「「「「「「なぁっ!?」」」」」」」
「……あ……?」
「火に油を注ぐようなことを……」
《ヒロイン》にかけた。でも俺が伝えたい相手は別にいる。
「と、これくらいの事を言うんだよ。お前が、伝えにゃ」
(アカン、やり過ぎた?)
前ぶりなく俺が口にしたこと。冗談なのだときっとわかっているから、《ヒロイン》は滅茶苦茶キレてるのか。
物凄く、
(あらぁ、嫌われたもんだねどうも。嫌すぎたか目の淵に涙なんて溜めちゃってるよ)
これは多分、このまま目を合わせ続けたならグーパンが飛んでくるパティーンで
(どれどれ? 《主人公》の方は……よしよし。ちゃぁんと届いているようだね)
ゆえに視線を、《主人公》に移す。
俺のレクチャーが通ったに違いない。床に向かって俯いている。両こぶしをフルフル震わせ、ギュッと目を瞑ってる。
ギッと歯を食いしばってる様子から察するに、きっと《主人公》のなかで、《ヒロイン》に掛ける言葉を考えているに違いないだろう。
「一徹?」
「ん、ルーリィ?」
「君は少し……
「うひっ!?」
あら珍しい、つか意外。
いまだ想いに応えてあげられない俺に対し怒らなかったルーリィが、今怒っていた。
親友の《ヒロイン》を怒らせている俺に牽制しているんだろう。
「……もういっそのことその流れのまま行ってしまうのは如何でしょう♡? 《石楠》は一向に構いません♡」
「こういう状況、かき回す物ではあるまいよ。話が終ったならそうそうにお連れしたい。⦅当家》の
……と? 変な立ち上がりとなった今日の放課後。更なるイベントのヨ・カ・ン?
「か、風音?」
「爺……これは?」
現れた人影二つ。
「「
「「「「「「「「「「ハァッ!?」」」」」」」」」」
主の呼びかけにも答えず、息を合わせ、俺に向かって
「……うん、わかった。行きましょ山本?」
「お、おい」
状況掴めず困惑した教室内。まず《ヒロイン》が動いたのは問題だった。
「おま、何考えてんの? 《主人公》が……」
「考えるも何も許可は貰えてるのだから。そうよねヤマト?」
「うぐっ」
「
(テキトーって……)
俺の手を取り、無理やり立たせる。迎えに来たネービスと宗次のオジサマのもとへと引っ張り始めるじゃないの。
「な、なぁルーリィ。もしかして俺……」
「
「ですよねぇ……」
(何を間違えたか分からんが、しでかした感覚がヤバい)
その後からゆっくりついてくるルーリィのため息は、明らかに俺に呆れたゆえのものだった。
お話に関係ないですが、あけましておめでとうございます。
今年の目標は本作を書ききることです。
今は書き溜めたストック を5話に一話公開してますが、完成したら全部投稿予定です。
そしたら、ネット小説書き切った達成感で終われるのかな。
……完結したいな。
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