テストテストテスト32
『私……貴方の事が好きです。山本さん』
(なっ!?)
「……フン」
「……フム?」
「……ほう?」
「三人とも、それは流石にどうかと思うぞ? って言うか……」
「ハァァァァァァァッ!?」
「あ、灯里? 声が……」
生徒会室とは
『やっば! 看護学士長がとうとう動いた!』
『ちょ、緊急号外!』
『やめなってアンタたち。趣味悪い』
何もおかしいことではない。
今日は二校の
来客を生徒会室に案内するなら、看護学校生徒会メンバーがいる。
最近の状況を鑑みれば、護衛として英雄三組生がここにいることも場違いじゃない。
そして……
『な、なぁ、まさかとは思うけど今の言葉って告は……』
『えぇ……告白です』
『なっ!?』
(ゥツッ!?)
『もう少し緊張するかと思ったのですが、意外とすんなり出てくるものですね』
(こ……告白って……)
会合を持つなら、看護学士長と相対するうえで同格たる三縞校生徒会長、月城魅卯だっていた。
約束の時刻ピッタリに看護学校に到着し、「こちらです」と通された生徒会室。扉の前に立ったと同時に、驚きの発言が耳を突き刺した。
『ごめんなさい。驚かせてしまいました』
『……驚かない方が……無理っつーか』
おかげで目的地である部屋までやってきてなお、全員がドアノブに手をかけること出来ず、ドア前に立ち尽くしてしまった。
『俺たちが初めて会ったのだって2か月前だ』
『時間は関係ありません。というより、その短期間で起きた出来事が濃すぎました』
『どちらも文化祭での事件だったか。実は最近、別の文化祭にも行ってさ。そこでも問題が起きた。思っちまうよ。俺なんて文化祭疫病神?』
告白の場面に遭遇してしまった。
神妙な空気は、扉をもってしても廊下への流出を抑えられない。
「誰か説明してくれたまえ。今の発言がよく聞こえなかった」
「山本は、逆地堂と三縞校以外の文化祭にも行ったことがあるらしい」
「フン……まゆらの公演演目を知っているわけか」
「なんだ? もっとはっきり喋り給えっ」
「五月蠅い。声を張り上げるな阿呆が。中に聞こえたらどうするつもりだ」
護衛としてやって来た
道を歩けば女子百人が百人とも振り返るようなイケメンたちが鼻息も荒く、息を潜めて扉に耳を付けるように張り付いている。
『覚えてます? 初めてお会いしたのもこの部屋でした』
『警戒されてたっけ? 群れなきゃ何もできないお山の大将。でもって女の子にだらしがない……だったか?』
『今考えて見ても、その先入観はあながち外れていませんでしたね』
『一人じゃ何もできないってのは当たり。ただ、だらしないって言わるほど女の子との引き合いはあったかな?』
野次馬根性溢れる三人の背中よ。
「た、たいがいにしないか三人とも」
後ろから眺める
『誘拐された私を助けてくれた時から、山本さんを好きでした』
『……不良共の一件』
『初めは貴方の事を、人数頼みに威を借りて気が大きくなっただけの人かと思ってましたが、実は周囲に気配りができる人だと知りました』
『悪い気はしないけどほめ過ぎだ』
『一見、間が抜けたようでいて、それが他者に警戒をさせない。気づいたらフッと……懐に入られる。ある意味、罠です』
『罠?』
『お調子者で人が良く、いつも笑顔で場を明るくする。誰もが山本さんに油断する。でもそんな貴方はあの時……鬼の貌を浮かべていた』
(鬼……)
告白の場に立ち会ってしまっただけでも魅卯にとってとんでもない。
が、一徹が魅卯にひた隠しにしてきた看護学校文化祭で起きた秘密。となると気にしてしまう。
『正直怖かった。貴方も、血塗れでしたし』
『ゴメン』
『そう、その時も私に謝ってこられましたね。『守れなかった』と。私を助ける為戦ってくれた貴方が』
(あぁ、
『貴方は、戦うべき時に戦える心の強い人。でも私の心を守るために、労り、謝っても見せた優しい人。間の抜けたところは可愛く、明るいところが楽しくて……』
耳を傾けてしまう。
自分ではない他の女の子からの、好きな人への告白に、集中せざるを得なくなる。
『昼行燈。普段はお気楽そうに見える貴方が一瞬見せた、私が恐れた鬼の貌は衝撃的でした。でも心は鷲掴みにされた。だから、独占したくなりました』
『独占……?』
『誰かのために本気になれる貴方を。凄みのある怒った顔も、真剣な表情も、勿論、安心させてくれる笑顔も。独占って言葉は強すぎるでしょうか?』
『あ、いや……』
『だから誰もが貴方に惹きつけられる。ムードメーカーかと思えば、締めるべきところで気を引き締められるその頼もしさに。なるほど、確かにギャップというのは……』
(本当に、山本君の事好きだ)
「な……なな……なななななぁぁぁぁぁぁ! この娘、一体何を言い出すのよ! こうしちゃいられないっ!」
「そして灯里! 灯里はいっぺん落ち付こう!」
「こ・れ・が! 落ち付いていられるわけないでしょう! 離しなさいヤマト! 離し……って、どこ触ってんのよ!?」
「落ち付いたら羽交い絞めも解くから! 変な拍子で変なところが触れられる心配もないから!」
「変なところって! 私の身体のどこが変なのよ!」
「そういうことじゃ……さ、三人とも、力を貸してくれ!」
「無茶言わないでくれ給え。僕たちは今忙しい」
「フン、灯里は
「さて、この告白は、山本の縁にどのような影響をきたすかだが……」
野次馬共は、まさか魅卯がこの展開に何を想っているかなど気付かないだろう。
イケメン三人は相変わらず便器に張り付く便所虫が如く扉にかじりついている。
今にも扉を蹴破って中に飛び入ってしまいそうだから、ヤマトは必死に動きを封じていた。
『三縞校で事件が起きたあの日、顔に撒かれた包帯もなくなり、堂々と訓練生たちに指示を飛ばしていた時の真剣な顔を、何度私は盗み見たか』
(違う学校の娘で、それほど山本君と付き合いがあったわけじゃないはずなのに、凄い、よく見てる)
『私も看護学校の生徒会長として状況に向き合いました。皆のリーダーになった貴方の隣に立てたことが本当に誇らしかった』
(……うん、私も同じ)
『独占という言葉、私は強いとは思いません。誰かを好きになった。その人と付き合いたい。誰かに渡したくはない。そういうものではないですか?』
『ぐっ』
(あの日の山本君は今まで見たことないほど格好良くて、目が奪われちゃった)
ハラハラとしたものが魅卯の中で強くなく。痛いほど胸を締め付けて、息もしづらくなるほどだ。
《看護学士長》の告白に出てきた一徹の魅力は、驚くほど魅卯が感じていたのと同じだった。
もし仮に魅卯が想いを告げるとしたら、恐らくほとんど今言われたことに重なってしまう。
『ホントは、こんないきなり言うつもりもなかったんです。お誘いして、もっといろんなところに遊びに行って……』
『いきなり言わざるを得なくなったってことか?』
『リーダーに徹した貴方に対し好意を持ってしまった私ですが、やはり仕事とプライベートはハッキリしておきたい』
『仕事?』
『もうすぐ時間になります。議題は、年度末の魔装士官学院競技会』
『学校が違うからそんな会うこともなかったが、競技会が始まったら戦友として会う頻度も多くなりそうだ』
『だから告白だけは先にすべきだと思いました。駄目だったら気持ちを仕事に切り替えればいい』
『なんと言うか、というよりなんて言えばいいんだ?』
『え?』
『なかなか言い出せない。一歩踏み込んで初めて言える。勇気ある決断で、そうさせるだけの本気が裏打ちされてる。告白ってそういうものなんだと思ってた』
『貴方には女の子の影が多い。告白できずにウジウジしていて、その間に他の娘からアプローチを掛けられているかもしれないストレスに苛まれる。私、そういうのは嫌ですから』
『おいおい。
『そうでしょうか。魅力が有るから、告白してみたつもりですが。それよりも、私の告白では響きませんか? 貴方の中の告白像とは随分開きがあるようです』
『いや、カン違いしないでくれ。こういう告白もあるって事を、きっと俺が知らないだけなんだ』
確かに今日、競技会に向けた打ち合わせはある。
が、不意に聞いてしまった話のせいで、一瞬で会議中話そうとしていた内容は吹き飛んでしまう。
『やばっ! あと2分じゃん!』
『ちょっ、嘘でしょ? 今超いいところじゃん! 看護学士長あの人なら、扉のノック音聞いただけで通常仕事モードに切り替えられちゃうよ!?』
『あーはいはい、ちょっと待ちなってアンタら……』
ここまで通してくれた看護学校生徒会メンバーにとっては良いところなのかもしれないが、魅卯にとっては生きた心地のしない場面の連続だ。
『どうしたの? 何か問題が?』
扉の向こう、生徒会室内ですこし引き締まった声が聞こえてきた。
『あ、看護学士長スミマセン。ちょっ、三縞校から来た会長さんのお付きしてるイケメンたちに
看護学校生がこの状況を最後まで見届けようと、電話までかけてアリバイを作ったからだった。
『え? こっちに来る? 良いんです私たちの方でやっておきますんで。会長はそちらを優せ……』
『チョット!』
『……お客さんを通すので、生徒会室を優先的に綺麗にしてもらえます? ハイ、分かりました。ドモ~』
気持も流行りすぎ、あわやアリバイ工作を図った看護学生はボロが出そうになったが、どうやら友達から諭されて取り繕いはなった様だ。
『スミマセン。話を中断してしまいました』
『いや、大丈夫なのか?』
が、今の電話も魅卯にとってはあまりよくない。
(声が……違う?)
室内から電話に応対していた時の声は、魅卯も聞いたことがある。
頭が良く、キャリアウーマンを想起させるような。落ち着きはらい、時に冷たいとも思わせる。
『お気遣いありがとうございます』
それが、一徹の前では少し甲高い。
女の子の声をしていた。好きな人から視線を引くために、少しだけ媚びたような。
好意は、そこからも感じさせた。
「何を……してんのよ二年生ども」
『『『ひぃっ!?』』』
なお目論見が成ったことで、告白の成り行きが最後まで見れること叶った看護学校2年生だが、それが
ギロリとした睨みつけに、看護学生たちはすくみ上がった。
「よし灯里! 離れよう! 俺たちは一回この場から……」
「……ハァ? 貴方の親友の婚約関係が壊れる壊れないかの瀬戸際なのよ?」
「その怒気は、襲撃者に対して向けてくれないか?」
「何か言った?」
「なんでもありません」
廊下に立つ魅卯が室内にいる《看護学士長》の好意を感じる一方。
ヤマトが
(って……アレ?)
ヤマトと灯里の夫婦漫才が始まってからか。
室内から、何の声も聞こえなくなったのは。
「……
「フン、互いの間合いと踏み込むタイミングを空気から探り始めたか」
「やっぱり君たち二人、去り給え。対人戦じゃあるまいし、告白の場面になんてことを言うんだ」
扉に耳までつけてる
「あぁもう、我慢の限界っ! じれったいわねぇ!?」
どちらに転んでいるかもわからない状況で、とうとう灯里も本気になってしまう。
栗毛のツインテールは白銀の絹のように。
ただでさえ白い肌は一層の抜けるような透明さを際立たせる。
「灯里、出てる!
黄金にも似た瞳孔は朱色に。白目部分は黒く塗りつぶされたような
「妖魔の正体が出てるって!?」
いつも装っている人間の姿から完全に妖魔体になってしまった。
そして実は、この状態になると、ヤマトですら腕力で取り押さえることが叶わなくなってくる。
「ちょっとあの娘に
「駄々洩れだぁぁぁぁ!」
無理やりヤマトの戒めを引きちぎる。
ツカツカと扉に歩いて行って……
「どいてもらっていいかしら。ノックしたいから」
凄みのある顔を、声掛けられて振り返り、見上げた《便所虫》は、三人とも白目を剥いていた。
「……フン、ノックをするなら俺たちがやろう」
「それがいいだろう。ドアも僕たちが開けよう」
「俺も妖魔だからわかる。妖魔形態となれば、灯里のような女の子でも扉の一つや二つ余裕で……」
「ど……け♡?」
「……ハイ……」
蜘蛛の子散らすように男子三人は扉から後ずさる。
そして扉の目の前に立った灯里(妖魔モード)は、大きく息を吐くと拳を握る。
ギリ……というか……ミリ……というか……ミシ……というよりも、メキャカコッと本来拳から鳴ってない音が沁み広がっていく。
ゆぅっくりと右こぶしを後ろに引くようにして振りかぶる。腰を思い切りねじり絞る。
さながら
「お邪魔……しますよっ……」
そうして、溜め込んだ力を解き放……
『……頭を上げてください。山本さん』
「っとぉ?」
解き放たれることはなかった。
拳が扉板に触れる触れないのところで、展開があったから。
声を聞けば恐らく、沈黙が満ちた間に一徹が頭を下げていたということになる。
そしてこの状況で頭を下げたというなら……
『ゴメン。その告白は、受けられない』
一言……誰かがフラれたのをこの耳で聞いてしまったのに、その言葉は魅卯をホッとさせてしまった。
『……
二言……一瞬でも安心するべきではなかった。言葉の意味を理解してしまう。それは魅卯を、一層奈落に突き落とす。
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