テストテストテスト31

「……嘘……」


 女子寮内。

 魅卯でもない、ルーリィでもない。

 

「……関東学生アメリゴンフットボール連盟二部リーグオールスター選抜。でもこれって……」


 委員長禍津富緒がクローズアップされるには理由があった。


「それにこの、さらに4年前の写真って……」


 自室でノート型端末を開いていた富緒は、息を飲む。

 一瞬、机滑らせるマウスを扱う手が止まった。

 桐京花柔道連盟神那川支部のウェブサイト。

 ページは高校生の部、とある県大会のトーナメント結果が表示されていた。


「対戦相手は……オリンピック三連覇の最強選手ですよ? 今は・・……」


 写真が残っていたのは奇跡に等しい。

 いや、対戦相手が対戦相手だからこそ、記録の為にあえて残されたのだろう。

 彼の名前では写真が出てこなかった……が、その大会の決勝。彼の対戦相手の名前で検索したら一発だった。


「他人の空似? でも、だったら同姓同名だなんてあり得ません」


 一枚の写真。表彰式を写したもの。黄金のメダルを首に下げた今や超が付くほどの有名選手の若かりし頃を中央に、左右に一人ずつ立っている。

 中央が優勝選手。二番手の位置に銀メダルを首に下げた、詰まらなさそうな顔で冷めた目をカメラからそらした少年が写っていた。

 ミリの短さまで刈り込まれた頭髪。

 頭髪は人の印象を大きく左右するから一瞬見過ごしそうになったが、顔立ちは彼に間違いない。


ーマッスルメモリーって知ってる?ー


 見まいに来てくれたあの時、彼が帰った後に姿を現した担当医が口にしたセリフがキッカケだった。


ー一度あるレベルまで到達すると、筋肉はまるで記憶を持ってるかのように、その時の肉体レベルと情報を蓄積するのよー

 

 退院した後も忙しく、だからやっと時間を取れたこの夜、検索すること相成った。

 

ー例えば重量挙げ。これまで50キロしか上げられなかった人が100キロ持ち上げるのは大変。でも一度100キロ持ち上げた人が何らかの理由で10キロしか持ちあがらなくなっても、短期間で100キロ持ち上げられるまでに復活するー


 担当医から見せてもらった彼の写真には富緒も絶句した。

 だが、マッスルメモリーの話と、今の彼に姿を照らし合わせたとき、奇妙な興味が生まれてしまった。


ー多分だけどね、山本君は記憶を無くす前、結構なトップアスリートだったと思うよ? じゃなきゃこの短期間であの肉体はあり得ないー


 それが、この検索結果を目の当たりにした理由。


ー今の山本君の身体は、ガリガリだったころから新たに作った肉体じゃない。トップアスリートだった頃、全盛期の肉体を、取り戻しているんだと思うー


 そう、富緒が絶句したのは一徹の名前でインターネット検索に掛けたからだった。

 名前だけではいくつもの同姓同名が表示されてしまう。

「スポーツ、山本一徹」や「アスリート、山本一徹」と検索エンジンに掛けた。

 そうして、三つの検索結果が目に留まった。


ー多分、近くその頃の肉体すら超えていくわよ? 超回復って言葉があってね? ダメージから回復しようと体内細胞が頑張っちゃって、完全回復した結果、当時の100%を凌駕しちゃうことがあるのよー


 百歩譲って、柔道大会神奈川県大会、高校生の分はいい。


「連盟二部リーグオールスター選抜。MVP……」 


 他二つが、あまりに問題だった。


「桐桜名立大学、《インテリジェントゴリラーズ》4年生……タイトエンド……山本一徹?」


 数十人が写った写真。大勢が我も我もとレンズに映ろうとする中、MVPトロフィーを掲げる男は……集団の結構端の方でニカッと歯を見せ、Ⅴサインを取っていた。


「どうして……こんなにも面影があるんですか?」


 あり得ないはずだ。山本一徹というのは第三魔装士官学院三縞校三年生。学外に照らしてみるなら高校三年生に相当しかしないはずなのに。

 では、どうして富緒の知ってる一徹にこうも面影があるのか。

 だけじゃない。

 写真の中のMVPをとった同姓同名の選手には、年相応の優し気な落ち着きが見える。

 二部という一部と比べれば格下ではあるが、流石コンタクトスポーツの優秀選手か、どことなく自信に満ちた笑みに頼もしさと力強さが見えた。

 今の一徹とは違う、大人びた様子に、一瞬見とれてしまう。  


「なのに……なんで……」


 いや、次の検索結果に比べたら、あり得ない一徹と同姓同名、見た目も合致する大学生のアメリゴンフットボール選手権話などどうでもいいか。


「……死んで・・・……いるんですか?」


 見出しも衝撃的だった。


「『連続殺人犯。最後の犠牲を払い逮捕に至る』って」


 検索画面に出て来たのは、新聞の一面。

 大きな写真一枚と、小さな顔写真が二つ。


「『連続殺人犯、山餅魔鎖鬼やまもちまさき容疑者が逮捕。警察は先ほど都内会社員、被害者山本一徹・・・・(28)さんの死亡を公表・・・・・・・・故人の兄である山本忠勝警視正・・・・・・・・・・・・・・・は』……くうっ!」


 分からないことが多すぎる。

 取り上げられた三名のうち、富緒に覚えがあるのが二人ということがまずとんでもない。

 大きな写真。


「この記者会見に立っている山本忠勝警視正って……有栖刻長官じゃないですか? 故人の……兄って……」


 小さな顔写真。


「こっちが、凶悪犯に殺された被害者の写真なんですよね……山本……さん?」


 見比べてみると確かに二人に似通った面影がある……が、長官に至っては随分若々しい。


『山餅容疑者を逮捕した山本忠勝警視正は、駆け付けたときにはすでに山餅容疑者によって山本一徹さんが殺害されていたと説明。警察は容疑者を逮捕したことで被害者山本一徹さんの元交際相手、南部トモカ・・・・・・・・・・・……え゛?』


 ……だが、繋がってしまう。


「あり得ない。あり得ません。だってこの記事は……」


 いかにそれが……


「正化27年。十年以上も前のモノ・・・・・・・・・なんですよ?」


 遠い過去。富緒たちにとって、小学生時分の事件だったとしても。


「まさか……転生者リヴァイヴァ―なんてことは……」


 冷たい物が背筋を走る。富緒の声は震えていた。


「そ、そんなわけがありません。もしこの記事の事件で亡くなった山本一徹さんが今の山本さんに転生したなら、生まれ直したのは十年前。十八歳の今の年恰好が合うわけがない」


 いや、その恐れた通りに当たらないのは富緒にもわかっている。

 なのに……


「……もし、この亡くなった山本一徹さんが……異世界にて転生していたとしたら……」


 調べれば調べるほど分からなくなって……


「もし異世界で転生した山本さんが18年を生き、この世界に転召・・されてきたのだとしたら……ゆえに誰も出自を知らない。周囲のルーリィさんらの詳細情報も含め……」


 考えれば考えるほど、嫌な予測にぶつかってしまう。


「い、いけません! 変なこと、忘れなくちゃ」


 自分で調べ始めたというのに、大きな何か・・に指先が触れた途端、頭の中を払しょくするように首を大きく振った富緒。

 パタンッと、壊しかねない勢いで、ノート型情報端末を閉じた。

 

「うっ!」


 だが、ノート型情報端末を閉じたのは悪手だったかもしれない。

 いままで端末のモニターが遮っていた空間が目に入る。その先には……一枚の写真が飾られていた。


「考えちゃ駄目。駄目です! 山本さんがそんなことあり得ませんっ!」


 文化祭が終る直前に取ったクラス全員の集合写真。

 中央に立つ手を繋いだ一徹とルーリィを三組みんなで囲む形。

 ルーリィから見て一徹が立つ反対側には灯里がいる。

 一徹から見てルーリィが経つ反対側にはヤマト。

 そしてヤマトと一徹は、互いに首に腕を回していい笑顔を見せていた。


異世界転召生命体アンインバイテッドだなんて!」


 それが、富緒が昂った理由。

 もし一徹やルーリィがこの世界にとっての招かれざる者アンインバイテッドだというのなら、英雄三年三組魔装士官訓練生に求められるのは……


 ――ピシッ――


「ッツゥ!?」


 何とも間が悪いというか、縁起でもない。


「こ、これは……」


 嫌な想像が止まらない。


「まさか……予兆……なのですか?」


 向ける視線をそらすこと出来なかった集合写真が飾られていたガラス製の写真立てが……


「始まると……いうのですか?」


 突如なんの脈略もなく音を立ててヒビを生じさせたのだから。


「……《メサイア―ド》……なんてことはありませんよね?」


 ゴクリ……生唾ゴックンの音が、静寂満ちる室内に置いて響いてしまう。


「……なぜ、このクラスに来たのかは未だわかりません。でも、ヤマトさん達旧三組と山本さんルーリィさんの新三組の中に私がいるというのは、多分偶然じゃない。だとしたら……」


 項垂れる。

 床に落とした視線。視界にやがて入ったのは富緒自身の両手だった。


「使命を……果たさなくては。ヤマトさん山本さん、そして皆さんの心を……守れるように。あっ……」


 そんな時だった。

 富緒の携帯情報端末にテキスト着信が一つ。

 ため息をこぼしてしまったのは、「ネコネ、ルーリィとパジャマ会(女子会)するわよっ♡ フランベルジュ教官だけは……って言うか、ベビードールってパジャマじゃないわよね↘」と、灯里から誘いを受けたからだった。


「杞憂であればいい。切に……そう願います。ルーリィさん」


 滑らかな指捌きで女子会参加の返事をした富緒は胸に手を当て、もう一度ため息をつく。

 気合を入れなくては。

 女子会にはルーリィ、シャリエールも参加予定。

 疑いが気付かれてはならないから。それに、あの二人を疑ってしまう自分にも嫌になってしまいそうだった。



「これ買ってくか? 確かナルナイ、好きだったろこのクッキー」

「あぁっ♡ ありがとうございます兄さま! 私の好みをちゃんと覚えてくださったんですね! ナルナイ、感激です」


(フッ、チョロいな……とは、思っても口には出しちゃ駄目だねどうも)


 謹慎10日目。時刻はもう夕方に入ってる頃。

 三縞最大のショッピング施設である《三縞ソード&シールド》に入ったスーパーに買い物に来ております。

 

「でも驚きました。兄さまから今日の夕食は私と一緒に作りたいと言ってくれた時には」

「ま、最近はお前たちの味覚に俺も慣れてきたっちゅうか。慣れたら慣れたで意外と味わいを感じられたりする」

「良かったぁ♡ でしたら我が国にお婿さんに来ていただいても食に悩むことはないようですね!」

「婿ってなぁお前……」

「お金には困らせませんよ? えぇ、ストレーナス家の名に懸けて決して♡」


(昨日の《ショタ》との一件は誤解だってわかってくれたとはいえ、アルシオーネの不機嫌が止まらんからな)


 こうしてナルナイと買い物に行く。さすればナルナイだけじゃない。アルシオーネのご機嫌取りにもなった。


「あぁっ、それにしても兄さまと二人きりでデートが出来る日が来るなんて」


(デート……ねぇ?)


 ぶっちゃけていうと複雑である。

 ナルナイと二人きりで買い物ってのは確かに浮つきそうになる。ただ、どことなくルーリィに対して後ろめたさを作ってしまうような感覚も覚えてたりする。


「唯一の不満と言えば、数日前からずっと向けられる視線ですか? いっそのこと殺してしまいましょうか? もう、契約さえなければ……」

「ん、ワリ。なんか言った?」

「い、いえ。何でもありません♪」


 何かポソッと口にしたようだが、ショッピングカートを押す俺の腕に抱き着いて体を密着させてくることに、恥ずかしさ極まり、聞き逃してしまった。


「えぇと……そうです。アレは買いませんと」

「アレ?」

「ウンコですっ!」

「う……ウンッ!? はぁぁぁぁぁ!?」

「ホラ、私の故郷の料理にはスパイスをふんだんに使いますので、兄さまも好きではないですかウンコの香りが」

「ウンコ感じながら飯なんて食ってられるか!」

「えぇ? でも、この前作ってくれたカレーにもウンコの香りが……」


(カレー? ウンコ臭?)


「ハッ!?」


 つか、何を聞き逃したか考えるのも難しい。

 想像しても見て欲しい。

 超絶に可愛い女の子がです。食料品を扱うスーパー。他の買い物客がいる中でウンコウンコ連呼しているのだから。

 「場所を弁えろよ」ってすごく嫌そうな顔が僕たちに降り注ぎますん。


(って言うかカレーとウンコを並べるのやめようよ。ただでさえ茶褐色がリンクしてる。次回ウンコ・・・食う時にカレー・・・食うイメージが……アレ? なんか今俺、間違わなかったか?)


「カレーの香りでそれって……もしかして……ウコン・・じゃないか?」

「あ、それです! ウンコ・・

「ウコンですウコン! 順番に気を付けなさい! 意味合いが一気に変わります!」

「え? あれ、言い間違えました? 意味合いが違うとは? あの、ではウンコとは一体……」

「一回ウンコから離れなさい! そして女の子が、ウンコウンコ連呼しない!」


(ハッ!)


 もっかい息を飲んでしまう。

 熱くなって口走ってる最中に「お前も連呼してるじゃねぇか」と言わんばかりの殺気が向けられた。


「あー……ナルナイ?」

「ハイ」

「次からは、そのスパイスの事、ジャスミンって呼ぼうな? ターメリックとか」

「え、あ、ハイ」


 一応ね、自分が悪いとは思いたくないじゃない?

 ナルナイの奴、そんな俺の意を汲んでくれたかくれてないか、再び腕に抱き着く。

 ギュッと、力が腕に加わる。本気で嬉しいからだってわかるじゃないっすか。


(マジで複雑だっての。こんな俺如きと買い物に行けるってだけでこんな喜んでくれちゃうとか)


 ルーリィがいないってのは、やっぱり結構に辛い。

 いつもはルーリィが隣にいてくれるから、抱き着かれても揺さぶられることはあまりない


(サイテー男じゃない俺。んでもって傲慢)


 今、俺が一喜一憂すべきなのはルーリィのはずなんだ。

 「一緒にいてくれ」と口にした癖、いろんな状況がそれを許してくれない。

 

(違うでしょうが。もし傍に入れないんだとしてもソレはソレ。ルーリィだけを見てやるべきなんじゃねーのか?) 


 可愛い女の子と買い物に行く。この後一緒に料理をする。


「お料理の時が楽しみですね。不安などいりません。ご安心ください。手取り足取り、私が全てお教えしますから」


 ルーリィがいないことを「良いこと」に、いや「良いこと」だとは思ってないが、ナルナイからのアプローチに一喜一憂してしまう自分がいた。


(情けないったらないねぇ)


「兄さま、これも一つ、まごうこと無き共同作業だと思いませんか?」

「そうだな? そう……かもしれない」


(やっぱルーリィの存在はデケェ。ルーリィがいるから俺は、これまで兄貴分としてナルナイ達を妹分として見てこれたのかもね)

 

 ルーリィがいない。そうなると……打ちのめされてしまう。


「大丈夫ですよ。もし兄さまが作ったものを、兄さま自身が不安に思っても、私にとってはご馳走ですからっ♪」


(あぁ、早ーく帰ってきてぇルーリィ。じゃないと俺ぇ……堕とされちゃう)


 どこまでも俺に甘いナルナイが、ものすごく魅力的なのだと。


☆ 


『へぇ? 結構本格的じゃない』

『とりあえずアルシオーネはもう一度お風呂に入ってきた方がいいんじゃない?』

『そっか? ま、食ってから考えるさ。師匠はホラ、俺みたいな可愛い娘のくっさい体臭にマニア心躍っちゃう変態だからなぁ』


 俺の運転でショッピングセンターから下宿に帰ってきたと同時。旧館下宿前の庭から、和やかな声が聞こえてきた。


「誰がド変態な匂いフェチマニアじゃ」

「わぁ、凄い! 流石アルシオーネ!」


 あと少しで庭に到ろうと言う道を歩くさなか、庭とを隔てる茂みの先から聞こえた話。

 茂みを迂回し、とうとう庭に到着、隊員たちと合流した俺は、真っ先に苦い顔して訴えてやる。


「お帰りぃ師匠っ♡」

「またたくさん買ってきたわね」

「でも、この世界には冷蔵庫があるし・・・・・・・・・・・・・、数日持つから大丈夫だね」


 ホテル敷地の一角、今は一般開放されないホテル旧館を下宿にしているから、人口密度の無い下宿前の庭は5人であれば結構に手広。


「サラダはリィンが作ってくれたぜ。後は、メ・イ・ン!」

「ま、まったく。余計なことをしてくれますねティーチシーフ」

「手間が省けて嬉しい癖に。やっぱりまだまだ子供ね」

「貴女には言ってないでしょうアルファリカ!」


 レンガ造りの移動式かまどを中心に、俺とナルナイを迎えてくれた3人の表情は想い想い。


「へぇ? にしても嬉しい誤算だ。ちゃんとオーブンも機能してるじゃない」

「たりめぇだ! 誰が作ったと思ってやがる」

「偉そうに言うなよ。作るのには俺も協力……つか、色々調べたのは俺じゃねぇか」


 今日の夕食はこの自作オーブンを使う。

 夏ころに2週間くらいかけてアルシオーネと二人で作った。初夏に脂壺にアルシオーネとナルナイともなって旅行に行ったときに実施したBBQ。

 その時、二人が「俺に故郷の味を食べさせてやりたい」ってね。


オーブンが必要だってんで作ってみたが、作っただけで一度も使う機会なくここまで来たからな……)


 自作に至った経緯として「そんなものに掛ける金などないのだよ」と、購入を相談した先のトモカさんが突っぱねたからだ。

 おかげで、設計図やらなんやらを、ネットや図書館で関連書式借りてお勉強したもんだ。

 俺の方がアルシオーネよりも製作のため頑張った自負がある。


「それじゃ、さっそく料理に取りかかろ~ぜぇ?」

「あぁ、そうだ……なっ!?」

「火の方はあらかた俺の方で整えてやったから」


 一応自分だけで作った感溢れてやがるアルシオーネは、自作オーブンをやっと使えることが嬉しかったのだろう。

 火を起こし、薪に炎を移し、オーブン内の温度を整えたことに誇らしげに笑っていやがる……が……


「お前、やっぱ風呂入って来い」

「え? だから、師匠は俺の匂い好きだろ? ホラ、クンカクンカしてみ?」


(そうじゃないのよもう)


 寒空の下とはいえ、オーブンの目の前で中の炎と格闘していたアルシオーネは汗びっしょりだった……白Tシャツを着て。


(……紫。しかも刺繍入ってやがる。ほんっと、なんでそんなもの買ってきやがった。誰に見せるつもりだ誰にっ!?)


 おかげで滝のようにかいた汗を吸い込んだ白Tシャツは、アルシオーネの肌にピッタリ張り付いてボディラインハッキリ。

 だけじゃない。シャツを透けさせてしまった。

 俺に透視能力備わったんじゃないかレベルに、豊満巨乳を包み込む紫のブラジャーが、刺繍模様までクッキリ見えてまう。


「い・い・か・ら! 行けっ!」

「わ、分かったよ。んだよ。折角喜んでくれると思ったのに。褒められることはあっても怒られることじゃ……」

「戻ってきたら思いっきり褒めてやる。だから!」

「アルシオーネ。それ……」

「あん? あ……へぇ? コ~レッ♡?」


 アカン。

 ナルナイに諭されたことで、アルシオーネは何に俺が気を取られているか気づいちゃったらしい。


「だったらぁ……こういうのは……」


 野郎(アルシオーネは女の子だけど)、衝撃的な光景にガン見している俺の前で胸の谷間に手をやる。


(フッ……蝶番は前がフロントホッ……!?)


 パチッと軽い音は、胸の谷間あたりで左胸、右胸を片方ずつ包んでいたパットの連結を解いたから。

 シュルリとシャツ内から聞こえる布連れ音は、連結が外れたことで肩ひもあたりが収縮する音。

 つまり双丘を包んでいたパットが外れ、透けたシャツ内で秘めたる部分が現れ……


「アルシオーネッ!?」

「ニャハハ! ウ・ソ・ウ・ソ♪ わかってるよ☆」


(あ、アブな……)


 あわや露わになるだろう2点が見えそで見えないところ、アルシオーネはバッと自分の身体を抱きしめる。

 見えないようにだ。


「んじゃ、ちょっくら風呂行ってくるわ」


 イタズラ成功張りにアルシオーネはハニカんで、パタパタ足音立てて離れていく。


「ハァ……」


 妹分に昂ってしまった自分の情けなさにため息とともに項垂れてしまう。


「……兄さん、いまの、ルーリィ姉さまやシャリエールさんが見たらなんて思ったかな?」

「下衆、下郎、下流、下品」

「兄さま、今日は……私との日ですよぉ」

「……うん、別に今日に関わらず俺には誰との日もないのよぉ」


 これから楽しいクッキングタイム。美味しい食事を皆で囲む嬉しい時間……となるはずが、アルシオーネ小娘に一瞬で持ってかれちゃうとかね。


(あぁ、早ーく帰ってきてぇシャリエール。じゃないと俺ぇ……堕とされちゃう)


 嫌な光景が浮かんでしまうのもまた嫌だった。

 理性をもって己を律するべき俺が、守るべき隊員たちを襲いかけたあの悪夢の光景だ。

 暴力的なまでのアルシオーネの肉感ぶりは、理性を叩き壊し、俺の欲望野生を掻き立てしまったんだ。

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