テストテストテスト30

「では私とシャリエールは校舎下駄箱辺りにて待つ。魅卯少女、準備が出来たら出てきて欲しい」

「う、うん。その……ありがとうトリスクトさん。フランベルジュ教官もスミマセン」

「感謝される言われは有りません。山本君が刀坂君に対し三組はじめ、貴女のボディーガードの疲弊を気にした。なら教官として休息を与えるだけです」

「だが当初女子寮内警戒だけだった警備条件は変わった。朝にも言ったがこちらの条件も呑んでもらうよ刀坂?」

「わ、わかってる」


 本日の授業、訓練課程は全て終わる。

 あとは課外活動か下校か。いわゆる放課後からが、魅卯が生徒会長業務に本格的に取り組める時間帯。

 つまり……警備を要するタイミング。

 《主人公ヤマト》に確認したルーリィと、皆の前では一徹を《山本君》と呼ぶシャリエールは、実に冷めた目で教室の引き戸を開け放つ。


『おっつかれさまでやすアネさん! フランベルジュのセンセ!』

兄貴正妻アネさんが動いたんや。なら組員総勢100人が動かんわけがあらしまへん!』

「百人もいりません。まさかこれしき・・・・の警備に百人いないと不安になるほど、貴方たちは惰弱ですか?」

バカなことフラー言うばーって! なんなら組の次期御殿ウドンたるワッターがいれば……』

『言葉の綾って奴じゃん。フランベルジュのセンセ!』

「フッ、気にしないで欲しい。シャリエールなりの冗談さ。君ら《山本君》古参幹部衆5人の実力は、私も一徹の隣で見て来た。だから声を掛けたんだ」

「期待……しちゃってるんですよぉ?」

『さてぇ? では折角のご期待にお応えいたしましょうか。久々の出番ですし。醜態さらし、その話が兄貴の耳に入ったら僕たちもたまりません』


 廊下で待っていたのは《山本君》幹部衆の二年生。

 ひとしきり言葉を交わしあったところで、ルーリィは戸をピシャリと閉じた。


「『これしきの警備』……か。裏を返せば『この程度の襲撃レベル』って意味なのか?」


 教室に残された三組生と、放課後になってから教室に訪れた魅卯。


「魅卯会長の命が掛かっているのに、どうしてあの二人はこんなにも軽く受け止める!」

「ヤマト! 落ち付いて!」


 その中で、珍しく《主人公ヤマトが激高し、机に拳を叩きつけた。


「声が大きい! ルーリィ達に聞かれちゃう!」

「あっ。だけど……事実じゃないか……」


 焦燥、不満、怒り。

 それら隠しきれない感情が一瞬爆発してしまう。だが《灯里ヒロイン》によって気づかされ、声は萎んでいく。


「月城さんの警備に気持ちが入らないルーリィの事をヤマトが快く思わないのは判る。でもルーリィから山本との時間を奪っているのも事実」


 立ち込める教室内の重い空気に、その場の全員が視線を泳がせた。


「あのバカのところにルーリィの警備の話を持っていったとき、予想できた。でしょ?」

「それは……」


 最近、《主人公ヤマト》とルーリィの折り合いが悪い。

 拮抗するのは魅卯の護衛。ルーリィとシャリエールの警備任務による束縛の緩和。

 警備を怠って失われるのは人命。なら何より魅卯の警備が優先されるべきは誰の目にも明らか。


「しかも、あの朴念仁がやっと『一緒に居ろ』って言えたその矢先に」

「ッツ!」

「私、ルーリィが苛立つ気持ちもわかる気がする。多分今、ヤマトはヤマトの正義を、ルーリィはルーリィの信念を。互いに譲れないものがぶつかってるの」


 それでいて《ヒロイン灯里》が《主人公ヤマト》を諭そうとする。

 今年の四月からルーリィと一徹二人の行く先を、クラス皆で見守り見届けようとしてきたから。


「俺は、間違ってるのか?」

「ううん。ヤマト君は間違ってない。トリスクトさんも魔装士官訓練生である以上、本来は任務を最優先すべきじゃないかな」

「え? 月城さん?」


 ここで異論を挟んだのは魅卯だった。

 《主人公ヤマト》を慰めようとした《ヒロイン灯里》との二人の会話に割り込んだこと、《ヒロイン灯里》は眉を潜めて振り返った。


「そもそも、あの『一緒にいたい』発言って告白だったのかな?」

「ちょ、何言ってるの月城さん。あの二人は婚約関係にあって……」

「でも、それを証明するモノってないよね。山本君の失った記憶が戻ったわけでもない。《山本小隊》隊員の過去や出自だって一人として分からない」


 三組全員が見守ろうとしている流れ。まさか学院生徒会長が異論をはさむなど誰が予想したろう。

 

「石楠さん。たしか風音さんの情報収集能力って凄腕だよね。山本君のこと、調べてもらったことない?」

「え゛っ?」

「ないわけじゃないんだ」

「べ、別に否定はしないけど。でもあくまでそれは4月、編入したばかりの時で……今はもう気にしてない! アイツはもう三組の一員で……」

「それって山本君が、石楠さんに斬りかかったときのこと?」

「えっと……」

「確か私が駆け付けたとき、風音さんに制圧されてた。でもほんとは?」

「本当って?」

「ヤマト君は石楠さんを守ろうと動き、山本君とぶつかった。どうなっていたの? もし、風音さんが駆け付けてなかったら」


 話の展開が少しおかしい。

 《主人公ヤマト》はルーリィについて苦言を呈したのに、何時しか話題は一徹のことになっている。

 

「ん? カイチョの言ってる意味って?」

「あ、アハハ。山本じゃ、ヤマトにはちょ~っと太刀打ちできないかなぁ」

 

 だが、長らくクラスを空けた一徹絡みの話であること、話の意図が掴めないことに三組生も聞き耳を立てていた。


「ちなみに、風音さんでも山本君の情報は全くと言って出てこなかったんじゃない?」


 発言者魅卯に注目してしまうから、皆は気付かない。


(あぁ、やっぱり……)


 だが魅卯は、誰の視線も向けられていない《ヒロイン灯里》の上ずった声、サッと青くなった顔色に気づいてしまう。


(多分、ヤマト君をしても、山本君に圧倒されてたんだ)


「あ、貴女は……何を知ってるの月城さん?」

「ううん、ゴメン。ちょっとカマをかけただけ。私も以前、《カンパク》が山本君の情報が一切ないってボヤいたのを聞いたから」


 珍しくというか、らしくないというか。魅卯はあまりにサラリと嘘を紡いで見せた。


「私たち、山本小隊について、あまりに知らなさすぎるよ」

「フン、まさかとは思うが知らないというのが、あの阿呆への信に響くわけではあるまいな月城会長?」

「あ、誤解しないで欲しいんだ。私にとって山本君も小隊のみんなも大切なお友達だよ? それは本当」

「と、いうことだ蓮静院。言葉を選び給え」

「フム? 俺たちの知らない山本の正体か。気にならないと言えば嘘になる。俺たちと奴との間に結ばれた縁が、一瞬だが時々、フッと消えるのを感じるような」

「……元……超高校生級のトップアスリート・・・・・・・・・・・・・・……マッスルメモリー・・・・・・・・……超回復・・・……山本さんを今のように戻したとしたなら……」

「ん、イインチョ何か言った?」

「へ? あっ! い、いえ……何でもありません」


 魅卯の方は、一徹の正体に関する手がかりが全くないわけではないというに。


「私も、クラス皆で二人を応援するって凄いと思うよ? でも山本小隊全員の素性も、証明する手立てもない以上、ほんとにそんな繋がり……」

「待って月城さん。ソレは言っちゃ駄目!」

「どうして?」


 知られざるヤマトと一徹との決闘。

 突っ込まれて始めは驚愕した《ヒロイン灯里》は、やっと魅卯の発言を止めに掛かった。


「あ、貴女何を言うつもり!?」

「そんなあの娘らの言葉を、あの娘たちと繋がりのあった確信の未だない山本君が、本当に受け止めていいのかな?」

「んなっ!?」

「『一緒に居ろ』発言は、隊長隊員間の結束の再確認だったかもしれない。あれを好意からの告白と捉えるのはまだ早いんじゃ……」


 ある意味三組にとって新鮮過ぎた。

 大前提。一徹ではルーリィの容姿に全くと言っていいほど釣り合いが取れてない。

 となればルーリィが好意を見せ、一徹がなびかないわけがない。

 まさかあれほどの美少女を前に、交際の選択肢を一徹が持ってるなど誰が思うか。

 ただ、驚いてなお、魅卯の言葉に即反応するものはいなかった。


(……サイテーだ私)


 一徹とルーリィ二人を同じクラスで見守ってきた3組とは違う。

 2組に属する魅卯の意見。

 実に先入観ないモノの見方がされていると三組大多数が思ってしまう。


(でも……)


「交際の事実が確認できない以上、やっぱり優先すべきは任務だと思う。って、護衛されてる私が、こんな偉そうなこと言っちゃ駄目なんだろうけど」

「フン、まぁ……筋は通ってるか。訓練生目線で見れば、二人への配慮と任務を天秤にかけること自体イレギュラーではあるからな」

「ん、どう思う《政治家正太郎》?」

「ぼ、僕に聞かないでくれ給え! そういうことは《委員長富緒》君にでも聞いて……」

「……行けないことだとは分かっているのに、やはり一度、調べてみるしか……」

「と、《委員長富緒》君?」

「はい、皆さんにお任せします」

「ア、アハハ。《委員長富緒》、全然聞こえてないみたいだね。うぅん、《王子綾人》は筋が通ってるって言うけど、何だろ、この違和感……」


 まずあり得ない。

 魅卯が、一徹に好意を抱いているなど三組連中誰も考えていないから。


「いや、ありがとう魅卯会長。おかげで俺の迷いも断ち切れた」

「えっ? 嘘、ヤマト何言ってるのよ!?」

「トリスクトとは明日にでも話し合いの時間を設けようと思う。俺も山本とのことを引け目に思ってたから、これまで強く出られなかった。明日からは……」


 こういう時、皆から信の厚い、聡明で優しい優等生で通ってきた魅卯の発言は強い。

 邪まな思いから口にしたものであっても、「生徒会長、士官訓練生という正義の士とし、看過できない何かがあるのでは?」と皆に耳を傾けさせた。

 灯里以外の三組内が少しざわついたのは、少なからず魅卯の意見に心が揺れてしまったことの表れ。

 

「……少し待ってくれヤマト」


 ただ……


「月城生徒会長、聞いてもいいだろうか?」


「あ、《縁の下の力持ち牛馬頭》君」

「俺は、その辺の男女の縁に聡くないから分からないんだが、好意というのは、必ずしも言葉に表さなければならないのだろうか?」

「……え?」


 このクラス、よほどのことない限りマイペース貫く《縁の下の力持ち斗真》はその限りでない。


「『好き』と言われることが女子にとっては大事なのか? ネコネどうだ?」

「ん、それは……」

「委員長」

「や、やはり交際に発展するなら、女の子としては聞いておきたいかなって」

「ちょ、二人とも、言いながら私に視線で同意を求めないでよ」

「フム、灯里も同じらしい」


 今の魅卯にとって、《縁の下の力持ち斗真》がこの場に居ることは厄介かもしれない。

 考えなしにふと口をついで出た「任務を優先すべき」の理由。

 意識的か無意識的か、一徹とルーリィを応援する強すぎる英雄たち外堀を何とかしなければという表れ。

 三組が、ましてルーリィの親友の《ヒロイン灯里》までいる。そんな外堀があっては一徹の背に手を届かせるには遠すぎる。


「なるほど。縁を結ぶには、男女間のいわゆるギャップを乗り越える必要があるらしい」

「と、《縁の下の力持ち斗真》どうしたの急に? ギャップって?」

「イヤな《ショタ有希》、恐らくだが俺が、仮にそういった相手に出会えたとして、自らの口で伝えることが果たしてできるかと思ってな」

「まさか、《縁の下の力持ち斗真》も「好き」を口にするの緊張しちゃう口?」

「怖いとか緊張とかそういうのではなく何とも慣れなくてな。本当に大事な相手なら大事にしてやればいい。その為に行動するでは足りないのだろうか?」

「不言実行か。君は、なんとも前時代的な男だな」

「かもしれないな《政治家正太郎》」

「フン、だが分からんことでもない。もちろん有言実行できる男が、女にとって想いも確かめられ、伴われた行動に大切にされてる実感を得られるだろうが、言葉に出来る男はそうはいない」

「あ、でも有言不実行にはなりたくないよね。なんかナンパなチャラ男みたいで」

「フン、もっと酷い例もあるがな。不言不実行。そうして逃がした魚の大きさに去来する、行動しなかった後悔は凄まじいぞ?」

「「「「「「「え?」」」」」」」

「いや、何も言っていない。反応するなこの阿呆どもが」


 邪まな思いから不意に生まれてしまった話の流れ。


「……月城会長」

「う……」

「確かに俺たちは奴からトリスクトへの好意を耳にしたことはない。だが「大切だ」とは言っていた。「好き」という言葉がなかったというのは、女子目線故ではないだろうか? 恐らく山本は……」

「あんな鈍感バカでもルーリィの好意は知ってる。不言実行というか、言葉が必要ないくらいルーリィの行動には感情が溢れてるから。それに学園祭中、確かルーリィは告白をしたはず・・・・・・・・・・・・

「ッツ!?」


(なっ!? 告白っ!?)


「そうだ《ヒロイン灯里》。俺も話は知っている。月城会長、安心してくれ。掛かってるのは会長の命。だから山本とトリスクト二人を優先しろと俺は思わない」


 しかし泰然とした《縁の下の力持ち斗真》には通用しなかった。


「でもな、だからと言って二人の関係をおいそれと、外野が口出していい物かと思って、意見は挟ませてもらった」

「……矛盾してる。私が二人の関係に疑問を持つことが外野の茶々って言うなら、皆が二人の仲を取り持とうとしてることだって外野の茶々だよ」

「フム、そういうことにもなるか。なら以降は気を付けなければな」

「本当に山本君にとってトリスクトさんが大事ならいいけど。応援してくれた皆の期待を山本君が裏切れないから……」

「いや、大丈夫だろう。寧ろそこまで行くと、月城会長は考えすぎだ」

「えっ?」

「奴はああ見えて、相当に大人だからな。俺も年以上に落ち付いている自覚はあるが、山本のソレは、時々俺以上かもしれない」


 ふとした疑問が、一徹とルーリィの交際に向けた外堀の揺れをたちまち鎮めてしまう。


「本当に相手を傷つけると分かれば、そんな悪手は踏まないだろう。まぁそれは本当の本当、最後の最後……かもしれんが」

「フン、もはや手遅れ・・・一歩手前か。それを更に未然に防ぐが大人というものだろうが」

「だが山本の事、お前でさえも認めてるところはあるようだ《王子綾人》」

「下らん」


 手遅れ……という言葉が魅卯の心にずしんと響く。


「トリスクトの好意が山本に伝わっている以上、後は山本が選択するか否かに尽きる。ここから先は、俺たちの手の及ばん、二人だけの領域・・・・・・・

「ぅつっ!」


 魅卯が一徹への感情に気づいた時、すでに一徹のルーリィとの関係は極まる極まらないの瀬戸際にあった。


「無粋なことはせず、俺たちはただ見守って見ないか? 何かするとしたらそれは、交際に至ったか至らなかったか、結果が出てからでいい」


 そしてその時にはもう、二人を応援している者たちの結束もコレほどに固い。

 《縁の下の力持ち斗真》は実に優し気に諭してくる……が、魅卯には正直、まったくと言ってきけるものではなかった。

 黙って、二人の行方を眺め続けろと言うのか?

 結末が出ては……遅いのだ・・・・



「へぇ? 面白いことになってるんだ。にしても一徹センパイ、モッテモテじゃん」


 教室すぐ出て廊下から、ひっそりと中の会話に耳を傾ける者ありけり。


「う~ん、文化祭閉会の辞でも思ったけど。やっぱ魅卯様、山本センパイのこと意識してね? どう見ても。負け犬からのあの守り方は……好きになっちゃうって」


 会話のシリアスな空気を耳にする人影、口元は細くつり上がっていた。


「注目すべきはルーリィ・セラス・トリスクトと魅卯様、一徹センパイとの関係。抽選会のアレは、魅卯様が好きだって絶対。てか、あの時フルボッコにされたいじめられっ子がこんなに化けるとかあり得な。あ、やばっ」


 教室内で物音が立ち始める。

 動きがあった。どうやら教室から全員出ようとしているところらしい。


「……陛下が着目するひずみは……そこかな。まさか三組の懐に入っちゃうなんて。あ~あ、早く謹慎開けてくれないかなぁ」


 耳周りの髪を右手で交互にかき分け、イヤホンを取り付けた……ショートカットの少女は極小型の音楽プレーヤーを作動する。もたれていた三組教室側の壁から背を離し、ゆっくりと廊下を歩き始める。


「早く会いたいなぁ。一徹セ~ンパイッ♪」


 冬に入ろうかという寒さもある。制服の上から着込んだパーカーのフードをたまにかぶせた。

 10メートルは離れたところ、三組教室の引き戸が開く。中からぞろぞろとヤマトたちが廊下に出て来たのをしり目に、クスリと笑った。


「ウチを傷モノにしてくれた責任、取ってもらいますんでっ♡」


 目は……笑ってない。

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