テストテストテスト29

「ん~、話を聞けば聞くほど羨ましいな。私も釣りに参加すれば良かったかも。穏やかな凪の中なら、船の揺れも心地よい。きっとよく寝れるよね」

「僕もその時の写真、《縁の下の力持ち斗真》の携帯端末から見せてもらったけど。シマアジだっけ。凄い大きかったね」

「尻尾を掴んで持ち上げる。両手でなければ持ち上がらない程に重かった。あの時の山本は、いい笑顔をしていた」


(こ、コイツラ……マジモンに俺が普段教室にいる体で話しかけてきやがるな)


 親しげなのは喜ぶべきところなのかもしれない。

 しかしである。この場は腐っても三縞で生業を持つ者たちの会合の場。明日の三縞をどうやって作ろうかなんてお話しする場である。

 これで俺も、三泉温泉ホテルの支配人社長女将社長夫人の名代として来てる手前、経営者の関係者若旦那としての役目をカッチリ務めなくては。


「それで山本、僕からもお誘いがあるんだけど……」


 なのに謹慎中の俺と再会するなり、三組制が学生同士のバカ仲間みたいに接してくるのがつらいところだ(凄い嬉しい)。


「お? なんや、オモロそうやん」

「でしょっ? いやぁ、山本ならそう言ってくれると思ったよ」


 今だって、お笑い好きな鬼柳ショタから、志津岡駅に支店劇場を構える、国内有数お笑い事務所所属の芸人ライブを見に行こうとか誘われた。


「明日は警備のシフトから外れるし、もしよかったら皆もどう?」

「ん、私はやめとく。また明日の夜から女子寮夜回り警戒シフトだし」

「せっかくだが遠慮しておこう。夜釣りをしてから日も浅い。息抜きに慣れてしまうと、警戒すべき時に意識が緩む可能性があるからな。こういうのは、時々がいいのだろう」


 こちとら残り一週間は学院に行けないニート生活である。


「だけどいいのかよ《ショタ》。志津岡は結構遠い。訓練終って、俺なら遠出したくないもんだが」

「ううん。楽しいことは別腹だよ」

「そか」


 普通に考えれば、《ショタ》との約束は、訓練や授業が終わった後の物なのだが、体酷使して疲れ切った体を推しても行きたいと本人が言うのだ。

 なら、あまり気を遣う必要はないかもしれない。


「なんだか楽しそうな話してるね?」


 盛り上がる俺たちに振ってきた声。その主に目をやって……俺たち4人ともに苦笑いだ。


(月城さん)


 クラスメイトとの駄弁りにいつの間にか意識が奪われていたらしい。

 月城さんの発表報告は終わり、会合も締まったようだった。

 気づいた時には会議室内にいるのは三縞校生と謹慎不良のみ。女将旦那衆は皆さんお帰りになったらしい。


「お笑い生ライブ?」

「実は《ショタ》の奴、お笑いに目が無くてね」

「つ、月城さんに対しても当然のように僕を《ショタ》って言うのやめようよ」

「へぇ、意外。私も見たことないけど楽しそうだね。ちょっと興味あるかも」


 つまりは全くと言っていいほど月城さんの発表も耳に入ってなかったということなのだが、幸い月城さんは怒っていない。


「遊びに行くんだ。山本君も・・・・?」

「あぁ、『行ってみないか』ってね?」

「そうなんだ。じゃあ……《ショタ鬼柳》君、行くときは私も誘ってくれない?」

「え、月城さんも?」

「最近、気が滅入る事ばかりだから。笑ってスカッとしたいかな」

「あ、うんいいよ。そういうことなら。月城さんも大変だもんね」

「実際は、警備を担当してくれる皆に迷惑を掛けちゃってるけど」


 何となくだが、このメンツで話すのも珍しいかもしんない。

 月城さんはいつもは隣の2組所属。

 ゆえに、三組生と駄弁るこの状況下で声を掛けてくるって状況が、あたかも隣の教室から遊びに来たようにも思えた。


(なんちゅうかほんちゅうか、気後れがドイヒーだねどうも)


 とは言えね、月城さんが「気が滅入る」というなら、自身への襲撃とこの警備体制に決まってる。


「確かに警備で負担はかかってるかもしれないけど、俺は月城さんが無事そうで安心したよ」

「みんな頑張ってくれるから」

「ま、安心しちゃって頂戴よ。《インペリアルガード》も三年三組も超優秀。月城さんには指一本と触れさせないさ」


 絶賛ニートの安全でぬっくぬくしている俺がこの輪に加わるってのは思うものがあった。


「せいぜいこき使ってやるといい」


 も一つ苦しいのは、月城さんが絶賛命の危機にあることを知っているから、何か話そうとしても警備ネタになっちまう。


「ん、他人事過ぎ。謹慎開けたら、私たちが警備シフト入った期間の二週間分、カイチョにつきっきりになってもらうから」

「はっ、バーカ。月城さんの迷惑を考えろ」

「ソレも……いいかも」

「「「「え?」」」」

「ううん、何でもない」


 その月城さんを緊張させる話題だけが頭に浮かんでしまい、月城さんを不安させてしまう申し訳なさが湧き立った。


「それで襲撃は? 少しは落ち付いたのか?」

「落ち付いたかどうかわからないよ。なにぶんゲリラだし」

「ん、襲撃者の気分次第。昨日なかった襲撃が今日あることも。数か月襲撃が無くて、『諦めたかな』と思ったら半年後に突然。それで殺されるなんてザラ」

「終わりの縁が掴めんからな」


(なるほど、終わりが見えないからストレスも溜まるか。だがぁ? だからこそ……)


「なら、なおさら《主人公》がいることはありがたいんじゃない?」


(《主人公》は気を引き締め続けなけりゃならないってところだろうな。守るためにだ)


「月城さんも運が良い」

「え?」

「いつもそばに刀坂がいてくれる」

「あ、うん」

「第三魔装士官学院三縞校は、最強無敵の剣士様だぜ?」

「そ……そうだね」


(問題は、周囲の鬱屈に気付いているかどうかだが)


 思わず警備ネタに行ってしまうのは今更仕方ないとして、ならそのネタでなお、月城さんが嬉しくなるような話題はなんだろか。

 当然、奴のことになんかがよろしいんじゃない?


「そ~だ、月城さんの襲撃が終ったら、関係者全員で何処かに行こうぜ? お疲れ会って奴だ」

「関係者って山本が言う? 今のところ警備が始まってから今日まで、謹慎中だけど」

「別に、だったら俺抜きでやってくれ?」

「フム。そうも言えないか。お前の賑やかしがなければ三組の祝いの席にはならないだろう」

「ん~、気が早すぎ。襲撃がいつ終わるともわからないのに」

「なーに言ってんだ。いつまで続くか分からないままじゃ、モチベーションを保てない。ならせめて『もし終わったらどんな楽しみを用意しようか』って考えた方がやる気出るかもしんないだろ?」

「ん、それもそっか。そう考えたら楽しみは目白押しだね。三組はまだ、文化祭のお疲れ会も済んでない」

「そういやそうだったな」

「んむぅ、誰かさんのせい」

「へいへい」


(文化祭終って早々に謹慎に入ったからな)


 そういう意味で言ったら、俺も結構にお楽しみを残してる。

 三組だけじゃない。実のところ山本組での祝いの席もあったような。押し切られるように逆地堂看護学校のリィンのクラスとも約束を取り付けられたし。


(山本組内でのお疲れ会に至っちゃ、確か後輩たちをねぎらってあげたいからと看護学士長から二校の合コンを持ちかけられたっけ)


「皆、何やっているんだ。次の行動に移るはずだろう?」


 いつもなら、同じ学院の者同士で馬鹿言い合うのはおかしくはないんだけどね。ちょっと最近はそれが許されないというか。


「山本、またお前か」

「よう《主人公》、お久しぶりぃロングタイムノースィ~」


 俺たちに掛けられる声。聞き覚えは有りすぎた。


「魅卯会長も、ここに来てから軽率だ。もう少し控えてくれ。警備の成否には、護衛対象の協力が大きいところを知らないわけじゃないはずだ」

「ご、ゴメンね。ヤマト君」


 いつもはもっと気さくでフラットに接してくるものだが、目的が目的だからか少し表情は険しい。


「そ、そんないい方しちゃ駄目だよヤマト。『また』って。次の行動に移らなかったのは僕たちが山本に話しかけちゃっただけで、山本のせいでも月城さんのせいでもないんだし」

「だな。警備班長のヤマトに謝るべきは、俺たちだろう」

「ん、いつもなら間違いなくヤマトの肩を持つところだけど。今日だけは山本の味方かな? しょうがなく」


(っとぉ? ちょっ……勘弁しちゃって頂戴よ)


 にわかには信じられなかった話。

 三組生が、最近の刀坂を快く思っていないということ。

 俺を背に庇うように立った三人と、申し訳なさそうに俯く月城さん。それと対峙する《主人公》。


「ハイハイ、そこまで」


 なんか嫌な感じだ。見ていられない。

 だからパンパンと手を叩き、声を上げる。変な空気をここで一度取っ払わなくては。


「良いんだよ。俺の存在がお前たちの警備スケジュールの弊害になったのは間違いないんだ。悪かったな《主人公》」


 必要なのは、月城さんの警備を綿密な連携をもって万全に行われること。

 俺の存在で彼らの連携にほころびが生じるなんてあっちゃなんねぇ。


「いや、こっちこそ……ゴメン。山本」


(俺を悪者にしちまえば、《主人公》とクラスメイトらの軋轢は収まるかと思ったんだが、まさか頭ぁ下げて来たかよ)


「その、最近少しとがった物言いをしてしまってるかもしれない」

「バ・カ・ヤ・ロ・ウ。それでいい」

「いい……のか?」

「それこそお前さんが全身全霊で守ろうとしている証明だ。お前いなかったら、護衛対象プリンシパルはもっと不安だろうぜ。だろ? 月城さん」

「え? それは……」

月城さんの隣には・・・・・・・・刀坂がいればそれでいい・・・・・・・・・・・。今の状況において月城さんがそれ以上何望むってんだ」

「や、山本……君?」


 野郎め、だから厄介だっての。

 容姿端麗成績優秀。欠点が何一つない。


(今の《主人公》に、クラスメイトらが少なからず不満を持ってるのは知ってる。でもね……)


 だったら今のつっけんどんに怒るべきか。

 が、こうして謝れる素直さは性格の良さの現れ。善悪の基準もしっかり持ってる。


「ボディーガードにとって警護中一番の不安は、護衛対象プリンシパルがタイムスケジュール以外の事に手を伸ばしたとき……だろ?」

「……助かる。理解があるんだな」

「たりめぇだ。こちとらお前ら臨時ボディーガードと違って、月城魅卯親衛隊ルナカステルムインペリアルガード。つまり本職ってね?」

「ん、その割に大事な時に謹慎喰らってるけどね」

「ハイ、うっさいよ《猫》」


(あくまで襲撃犯のせいで、今みたいにならざるを得ない《主人公》を心配しちまう。そりゃしょうがないってもんだ)


「その場に護衛対象プリンシパルがとどまり続ける事自体、襲撃者に手を出させる隙になりかねない。警備当日のスケジュールを分単位で組む理由じゃないの」

護衛対象プリンシパルが長時間一所に留まる。襲撃者が手を出すための準備時間を与える事にも等しい」

「それを与えたくなかった。お前の、俺への警告はそれを成そうとしたからじゃん」

「……ありがとう山本」


 刀坂は、この学院に場違いの俺にも分け隔てなく接してくれる。

 「こんな男になりたい」とも思ったもんで。だからフォローもしたくなった。

 

「良かったんじゃない月城さん。刀坂は、君を本気で守ろうとしてくれる。こんなに頼もしい野郎はいないぜ?」

「そう……だけど……」


(あ、そだ……)


 と、ここまで来てふと思い出してしまう。

 確かに今の《主人公》は否定しちゃいけないかもしれない。が、全てを肯定するのもよろしくないかもしんない。

 今の《主人公》を全て認めたら、安心して《主人公》は守るための全力を、仲間にも強制させる。


(いや、守る為になら強制していい。でも……ね?)


「……なぁ、刀坂」

「え?」

「だけどあんまり根詰めんな? 守るために真剣になるのはいい。が、チョイ無理が見える」

「そんなこと……」

「もし俺に謹慎与えられなくて毎日お前見てたら、少しずつの変化にきっと気づかなかった。だが一週間ぶりに見たお前の顔は今、疲れがハッキリ見える」

「う……」

「俺は、お前が戦いの強さだけじゃない。心もタフだってことを知ってる。いやぁ、『会ってまだ10か月の新参者が何言ってまんねん』ってなるかもしれないが……」 


(それで守り手が壊れちまったら、元も子もないわけですよ)


「じゃあ、お前と2年以上ともにしたコイツラも同じ感想だったらどうすんのって奴」

「ッツ!?」

「得てして、こう言うのは客観的な目線がモノを言う。実はスゲェ消耗してるのに、『まだまだやれる』なんて主観で判断した結果、疲労が表立って月城さんを守れなかったとする。それこそコト……だろ?」


 言葉に固まってしまう。なら、《主人公》にも思うところは有るらしい。


「守るための苦労は惜しまない。一方で、やっぱ体力や安定した精神を保たなければならねーっつのも現実じゃない」


 目を閉じて何か思案していた。


「真面目なのはお前のいいところだ。ガチカッケェと思ってる。だが張り詰めてばっかりじゃ持たねーぞ?」


 下唇を噛んでいるのは、俺如きに絡まれたことでムカついているから……とは思いたくない。

 

「不安にさせ、常に警戒を解くことができない。心も休まることない。お前だけじゃないぜ?」

「俺……だけじゃない?」

「《ショタ》や《縁の下の力持ち》、《猫》にも思った。ってことは三組全員か。ボディーガードが疲弊したなら、結局襲撃者の思うつぼだとは思わないか?」

「くっ」


 要は「守りたいのは判るが、お前の想いだけで周囲を振り回してないか?」って言ってる。

 喧嘩腰にはなりたくないから、《主人公》も心配してる体をを装った。


「あ、あの山本君。こうなってしまったのは、私が皆に迷惑をかけてるからで……」

「勘違いしちゃあいけない。月城さん」

「へっ?」

「君が気にすることじゃないよ。全ては襲撃者のせいだ。それさえなければ、こんな話しないよ。そのあたりは俺もわかってる」


 明らか俺が見せてるのは《主人公》への苦言。

 ちょっとイイ感じなんじゃない? 月城さんが、大好きな刀坂をフォローしてる形。

 これなら刀坂も、「フォローしてくれる魅卯会長好きしゅき好きちゅきぃ♡」ってなるだろうか。

 

(んでもってね、襲撃者の事がムカつくのは、マジなんすわ)


「わかってるくせに偉そうな口叩いちゃう俺の浅はかさね。テヘッ♡」


 「もう、このドジっ子」とばかりに舌を出す。


「……時々思うんだけど、実は山本って……結構大人だよね?」

「ん、山本に大人っぽさとか似合わない」

「いや、お前たちには存外すぎて認められないかもしれないが。片鱗はこれまで結構あった」


ポカポカと頭を右拳で軽ーく殴ってみた。


「時に山本は、クラスの誰よりも客観的に物を見、分析し、発言する。そういう意味では、あの蓮静院よりも大人びてると思う」

「ん゛、あり得ない」

「あり得ないことはないだろう。普段の山本は自信を卑下する。だから俺たちは一見自信なさげな山本に頼りなさを覚える。だが実際、話してみると安心感を覚える。包容力とでも言えばいいか」

「さ、三組包容力トップランカーの《縁の下の力斗真》がそれ言うんんだ」

「ん゛、いよいよあり得ないんだけど」

「あえて道化を演じることで、大切なことを言いつつも、シリアスな空気にさせきらない。空気を読み周りに配慮する。それは気を遣えることの表れだ」


 なんかクラスメイト三人がふかしてるようだ。もしかして俺が聞こえないだけで、「もちっと休みをくれヤマトブラック警備班長」とでも思ってるんだろうか。


「「三人ともどうしたんだ/どうしたのよお前ら」」

「「「そして二人が親友同士っていう……」」」

「「はぁ?」」

「アハハ何でもないよ。ちょっと悔しいけど、ヤマトに山本がいてくれて良かった」

「ん、俺たちは本当にいい縁に恵まれた。山本の編入は、やはり三組に絶妙なバランスをもたらしてくれるな」

「ん、ただの考えすぎに決まってる」


(……わけわかめなんだが)


 妙にクラスメイト達の目と笑みが生暖かいというか。


「なぁ《主人公》。よくわからんがコレは……俺がお前からケチュ穴を隠さなければならん話?」

「なんでそうなるんだ。お前、謹慎も7日が過ぎたのにまるで変わらないんだな」

「ククッ」


 疲れたように額に手を当てため息をつく。

 変な確信があった。

 その反応は、謹慎に入る前の俺の発言に対するいつもの《主人公》の反応。

 さっき突っかかってきた時の《主人公》なら、無視するか、もっと苛立った反応をするはず。


(ちょっとは落ち付けたか?)


 チラッとクラスメイト達を見やる。

 一応当たり障りない形なれど言うことは言ったつもりだから、これで少しは奴らの留飲も下がっただろうか。


「んじゃま、今日の俺たちはここまでだ。バラけよっか」


 警備の為、これ以上ここに時間をかけ過ぎるってのは良くないのは俺も自覚があった。

 で、俺がいるとやっぱり話したくなっちまう。


「山本君!?」


 その場からまずは俺から離れてしまう。奴さんらにケツ見せたところ、背中に声貼り上がれるっじゃないっすか?


「……月城さん?」

「あ、あの……ね?」


 振り返ってみて、少し気になっちまう。

 

「どした?」

「う、うん」

「どーしたの?」

「えっと……ね?」


 何となく、複雑そうな顔。おどおどとした怯えた瞳が俺を見上げる。

 

「……月城さんには、三縞校って居場所セカイがあるよ」

「はくっ」


 それは、例えようもなく胸を締め付けた。


「親友のショートカット風紀委員長を初めとし、君に付いてきた生徒会の連中だけじゃない。忠誠を誓う相手が他にいながら、君にも魂を燃やすことを誓った水瀬冬也以下、猛者ばかりのインペリアルガードもそう」


 このまま、彼女を残してその場から俺が離れてしまっても良いのか……と(自意識過剰乙)。


「ウチの学年でいやぁ、君の人となりに感服して、家柄至上主義のあの名門一組がいるよ。今更過ぎて語るつもりはないが、勿論君の二組もいる。で、俺たち三組がいる。でもって……」


 言葉だけだ。

 気休めにしかならないし、下手したら気休めにもならないかもしれない。


「月城さんには、刀坂がいる」

「……え……?」


(いや、口にしたのは「ちゃんとフォローをしきったぞ」と自己満足の為かもしれないな)

 

「月城さんの為なら、何だってできるさ。それが三縞校の仲間って奴だ。」


(ま、こればっかは当事者じゃなきゃわからないね。不安でしょうがない。実際の襲撃の対象は月城さんなんだ。俺が幾ら『安心しろ』って言ったところでね)


「刀坂」

「山本?」

「月城さんの事を頼んだ。緩むときは緩み、締めるところは締めろと言ったばっかだが、締めるべき時は徹底的にだ。月城さんが、たった一分も不安にならないように」


 拳を差しだして見る。


「いわれるまでもない」


 俺が幾たびとなくホレた、意志の強い瞳。

 俺の願いに応え誓ってくれた刀坂も、俺の差し出した拳に自らの拳を打ち付けてくれた。

 月城さんがその言葉に納得したか定かじゃないのに、刀坂の力ある言葉を耳にしただけで満足しちまった。


「んじゃ、今度こそ解散な? これ以上の引き延ばしは効かにゃーいよ~ん♡」


 そうして再び踵ぅ返しまして一歩踏み込みまして……


「私には、山本君もいるよ!」

「ん、んがぁ?」。

「……でしょ? 山本君?」

「あ……はは。さてぇ? 当然じゃない。俺も《インペリアルガード》なんだぜ?」


 でも、今度はね。振り返らないのだよ。



(分からない。分からないよ)


ー当然じゃない。俺も《インペリアルガード》なんだぜ?ー


 魅卯には、一徹がいる。

 言葉尻だけ捕えれば最高の答え。

 確かに一徹はそう言った……が、聞きたいのはそういうことじゃない。

 三縞校の仲間とか。親衛隊とか。

 傍にいるのは、ただそういった立場と役割があるから……など、悲しくなる。


(好きだって……言ってくれたよね?)


 自分の気持ちに気づいてからというもの、魅卯も魅卯でアプローチは試みてきた。

 恋愛経験がないから、どういう手が効果的か分からないが、それでも手は尽くしているはず。

 なのに……


(ソレで気づいてくれないってどういうこと? 鈍感にもほどがあるよ。私だって一杯一杯なのに。というより……)


 恋は追いかけたら敵わないという言葉がある。

 もしかしたらそのような形になりそうで、不安で仕方ない。

 思えば第一魔装士官学院桐京校で、大蒜ニンニク臭に阻まれるまであわやキスしてしまそうになったところから、一徹は少し頑なになってしまったかのような。

 

 ー私には、山本君もいるよ!ー


 アプローチを見せれば見せるほど、一徹の背中は遠くなっていく。


『魅卯会長! 走れ!』

「……えっ?」


 思いつめてしまったのが良くなかった。

 折しも魅卯は三組生に連れられ、三縞青年会議所を出ている。会議所から女子寮へと送る車に向かうところで……


「さぁ、早く車に! 「《縁の下の力斗真》! 魅卯会長を連れて女子寮へ!」

「わかっているヤマト!」


(……襲撃……)


「ネコネ! この場は俺たちで足止めする!」

「ん、襲撃もそろそろうっとうしくないってきたし、山本の目もない……なら、殺しちゃっても良いかな。良いよね?」


 魅卯が状況を飲み込むよりも早く、《縁の下の力斗真》が魅卯の手首を引っ張り車まで走り連れて行く。

 すでに無線によって開錠された運転席ドアをあけ放ち、魅卯を引き入れる。

 緊急事態ゆえしょうがないが、魅卯の尻を思い切り押し、運転席から助手席へと押し込んだ。


「付近の《インペリアルガード》、三組生がいないか、応援を要請する! 後は頼んだ二人とも!」


 続き車両にひらり飛び乗った《縁の下の力持ち斗真》はエンジンをふかすとともに、運転席に備わる警戒灯とサイレンを起動させる。

 更にギアを変えてアクセルを踏むまでに3秒と掛けなかった。


「会長、緊急事態だ。安全運転は期待しないことだ。舌を噛むなよ?」

「わかってる」


 急発進……というより、静止状態からのタイヤフル回転は、前進する力をなかなか地面に伝えられない。


(もう……何度目?)


 ギャリギャリと走行面をアスファルト地面で削る。ゴムの焼けた焦げ臭いにおいと煙を立ち昇らせて……そうしてやっと地面に力がかみ合ったことで爆発的な推進力をもって発進した。


(怖いよ。山本君……)


 前方に、周囲に意識を散らし、運転に全力傾ける《縁の下の力》だから気付かない。

 助手席で、魅卯が体を両腕で抱きしめてうずくまっていることなど。



「『私には山本君もいるよ』だって。デヘ……デヘヘヘヘ!」


(ってアカァン。アカンよぉアレは。好きが、ぶり返しちゃうってのぉ!)


「えっと……兄さん?」

「なんかあったみたいね。怪しい」


 お夕飯時でございます。

 今日の晩飯は闇鍋。

 闇鍋とか言いつつ、ホテルの厨房で出た高級食材の使わなかった部分、肉片やら筋、魚の骨とか香味野菜の野菜カスを煮込んで出た出汁は、掛け値なしに美味い。

 商工会議所帰りに立ち入った肉屋や魚屋、八百屋の大将、女将から「今日はお疲れ持ってきな」って頂いた食材も美味美味でござぁすよ?


「あ、あの、それ以上は……」

「溢れる! 溢れるってぇ師匠!」

「……ん? って、やっちまったぁぁぁぁ!」


 浮かれポンチにもほどがある。

 お前さんしょうがないんだって。男ってなぁ可愛い女の子に対してす~ぐ勘違いしちゃう動物なんだから。

 さっき商工会議所で言われたことは正直たまらなく嬉しくて、思わずポケーッとしてしまった。

 ……問題は、空になったアルシオーネのコップに麦茶のお代わりを入れようとしたところでふと浮かんだことだ。

 コップは満杯になったのに、気付かず溢れさせてしまう。

 気づいた時には後の祭りで、慌てふためくお約束。


(で……にしても俺って、マジでクズ男なのな)


 月城さんの事を考えると、彼女がいるわけでもないのに嫌に緊張してしまう。

 図体デカい癖に心がポカポカする……なんて乙女か俺は。

 だからたまらなく思う。

 山本小隊の面々が、シャリエールが俺の傍に履いてくれる。

 なのになんで俺は、俺の事を好きでもない月城さんの事を考えちまうんだろうか。

 

(じゃあなんだ? ルーリィやシャリエールは、月城さんの下だとでもいうのかよ? あり得ねぇだろ)

 

 自己嫌悪が、強くなるだけなのに。

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