テストテストテスト24
『ちょっとアレ見てよ?』
『わ、ビビったぁ! 桐京校生と三縞校訓練生カップルとか一瞬思っちゃったじゃん!』
『いやいや、コスプレデートって奴だろ? ウチの制服は文化祭期間中、撮影用に貸し出してるって話だし』
『あくまでウチの制服だけの話な? 流石に三縞校の制服まで貸し出しちゃいねぇ』
『ってことはあの女の子、三縞校の生徒ってことよね』
『カップルゥ? アハハ! ないない。あの男子からは力は感じられないし。それじゃあ退魔の力は薄まっちゃうって』
(は……針のムシロって言葉がございましてぇ……)
俺の手を引いて前を行く月城さんの背中をまともに見れない。
周りから集まる視線に、恥ずかしさ禁じ得ないのだ。
「周囲の視線とか、ひそひそ話とか気になっちゃう?」
「そりゃ、まぁな」
「大丈夫だよ」
「いや、そりゃ月城さんは気にしなくてもいいだろうけど」
「だったら
「えっ?」
「私だけに意識を向けたなら、周囲の意識なんて気にしなくてもいいとは思わない?」
(い、言いたいことは何となく納得できるが、月城さんだけを見るって……)
それはそれで恥ずかしいこと極まりない。
「それで、次はどこに行こうか?」
「本格的に迷うよなぁ。この島は学院の敷地だって言うけどもはや完全なる町だし。映画館にボウリング場まであるっぽい」
「確かに、学生の文化祭らしくは無いかなぁ」
「三縞校の文化祭を取り仕切った生徒会長様から見て、違和感を感じるところは多いんじゃない?」
「んー、確かに無いとは思わないけど、文化の違いって言うか、その違いが学校ごとの特色であるところは間違いないんだし、いいじゃないかな。寧ろ否定をしてはダメ」
「それは学院ごとの文化を認めないことに繋がる。あいっかわらず、気が利くねぇ月城さん?」
なんとなし気に口にしてしまったことは、果たして月城さんの気を害してしまったかもしれない。
褒めた……とは言え本心からの言葉なのだが、月城さんはそれに反応することはなかった。
黙って手を引いて数秒。立ち止まる。
「月城さん?」
それと同時に、俺の手を離した。
「前々から思っていたんだけど、一ついいかな?」
「な、何?」
「私のこと、あまり過大に評価して欲しくないんだ」
重苦しい声。俺に向けたただでさえ小さな背中は、一層寂しく見えた。
「過大に評価……してるつもりはない。自然とスゲェなって思っちまう」
「嬉しいよ? でも時々その評価が鬱陶しい」
「鬱陶しい? 精神的な重荷……とか?」
「重荷じゃないけど、山本君、時々私の立場に遠慮してるよね?」
「そんなこと……」
「逆地堂看護学校文化祭の出来事……」
「あれは……」
「私に対して話辛い出来事なのは分かるよ? 話せなかったのは私に心配をかけたくないからって言ったよね。気持ちは、嬉しかったんだけど……」
どうやら月城さんにとって、その話は彼女の口をもってしても言いにくい物らしい。
どう話したものか。
あらぬ方に視線を向けゆっくりと口にするところに、言葉を選び考えて物を言っているのだと分からせた。
「《気が利く月城さん》とか、《生徒会長様》とか。山本君は多分私の事、山本君よりずっと上位の存在として見てる」
「当たり前じゃない。君は、恩人で……」
「私、山本君と対等じゃない。良すぎる意味で、山本君は私を対等に見てくれてないから。凄いとか偉いとか思ってるから」
「うっ……」
「そんな相手に迷惑はかけられない。この前、陛下に赦しを乞ったときに言ってた、山本君の存在が三組の株を貶めているって話。私にも思ってない?」
「それは……
「あの人なんて、もうどうでもいい」
「どうでもいいって。婚約関係者だろ?」
「うん。関係は結局、変わらなかった」
「だったら……」
「でもね、私を取り巻く環境は、先日の失脚劇で、随分私にとって都合のいいものになったんだ」
「は?」
「お願い。折角山本君とお話しできるのに、あの人の事なんて思い出したくないよ」
「思い出したくない」か。
奴について話すにあたって、月城さんが「あの人」呼ばわりするところからも見て取れた。
「私……
「対等?」
「お互いの立場とか気にしないで、もっとお話ししてみたいよ。もっと一緒に遊んで、もっとお互いの事を知って……」
だが久我舘隆蓮を「どうでもいい」と切り捨ててまで伝えようとする月城さんの話に、俺はどう反応すればいい。
「編入前の頃。私たちはお互いをまだあまり知らなかった。でもその一方変な気遣いもなくて、もっと気楽に付き合えてた」
「まだ、あれから10か月しか経ってないんだよな」
「でも、もう10か月が経ったよ」
「だなぁ」
(ずいぶん昔みたいに懐かしい……って、なんか老けた心地だ)
「「……楽しかった……」」
「ッツ!?」
「フフッ。息が合っちゃったね」
(コイツぁ……マズいかもしんない。マジで)
本当になんなんだよ今日は。
朝から電車に乗り合わせてしまったこと。メイドさんのコスプレに異常なる可愛さを覚えてしまったこと。
これまで見せたことの無いような、少しつっけんどんとした新しい一面を目の当たりにしたのだってそうだ。
「流石に初めて出逢った頃の様には戻れないと思うけど、それでもね……
(ッツ!?)
思わず口元を手で覆った。
でなけりゃ変な声が飛び出そうだ。
(待て……待て待て待て! やり直す? 何をだ!?)
お前さん、俺と月城さんとは別に、
(知らずのうちに実は俺たち、付き合っていました……とでも!? いやいやあり得ない! 勘違いもいい加減にしろ! そもそも俺がそんな、おこがましい)
だからきっと、月城さんの口にした「やり直す」と言ったところに別の意味があるのだとは理解できる。
ただ、その別の意味が何を示すのかわからない。
「編入して、私にどんなイメージを持った?」
「優しい。頑張り屋だし……」
(可愛いし、オッパイ大きいし……)
「心が強いし、カッコいいじゃないか。生徒会長なんざ、簡単じゃない仕事だって……」
「優しいし、頑張り屋さんだよ?」
「え?」
「そして心が強い。カッコいいよ? ううん、最近はもう、すごい勢いでドンドン格好良くなってきてる」
(……はっ?)
「いまや山本君は、英雄三組の一員として学院の誰からも認められてる。三縞校内最大学生派閥、《山本組》のリーダーで……」
「お、俺は別にそんな御大層な存在じゃ……」
「そう? でも私だってそんなに凄い存在じゃないよ。前に私の部屋に来たときに言ったこと覚えてる? 凄すぎる山本君の存在感に気後れして、時々話しかけることすら億劫になっちゃう」
「あ……」
「そう。それが……山本君が良すぎる意味で私を評価しすぎてしまって、遠慮し、臆病になる理由。私も、同じ」
「ど、堂々巡りだな」
「山本君が下宿を飛び出したときまでは、それで良かったかもしれない。でも今はね、
「次の段階? いや、待って頂戴。多分だが在学してる以上、その立場から抜けることは難しくない?」
「私も、そう思っていたよ? でも……」
「月城さんに対するイメージだって強い。それをかなぐり捨て、編入前と同じようにって……」
「今日、久しぶりに二人で行動してたら、気付いちゃった」
「気づいた?」
お祭り会場だ。
周りは騒がしいはずなのに、いやに耳は月城さんの声だけを良く拾ってしまう。
俺の反応を伺うように、ゆっくり振り返った月城さんが視線をくれることが、更に彼女に集中する一助となってしまった。
「その立場も評価も、私以外、山本君以外の多くの人の評価も含まって故なんだなって」
「詳細……キボンヌ」
「《山本組》のヤンチャ君や、三組の誰かの眼が誰一人としていない今日の外出で、久しぶりに素の山本君に会えた気がした」
「ソイツぁ……」
(俺の方もそうかもしれない。生徒会メンバーや
「お互い、二人きりなら取り繕う必要はないんだよ。もっと素直にあれる」
「ん……」
「山本君は、私がただのフォローアップチューターだった頃は、何も気にせずお友達として付き合ってくれたじゃない」
(言いたいことは俺にもわかる……けど……ちょっと違うんだ月城さん)
「誰かと距離を置くために会長職を受けたわけじゃない。もし私の立場が、山本君との関係をぎこちないものにするなら、私、要らないよ」
(俺は……やっぱりあの頃とは違う)
ー魔装士官の立場が君との歩みを邪魔するなら、私はそんなものいらないー
誰かの眼が無いなら、演じることも取り繕う必要もない。
自分の素をさらけ出せる。確かにそれはあるかもしれない。
ー今回のような、私との
(俺には……もう……)
ーお前と一緒にいたいってねー
(傍にいないからって、気にすることを辞めちゃいけないんだ)
「……トリスクトさんの事、考えてるよね……」
「えっ?」
「ううん。何でもない」
(お……い? 何、悩んでやがんだ山本一徹)
「立場によってお互いの距離が変わってしまう。ある意味差別じゃないかな」
「それは……」
(このバカ野郎。何度となく振られただろうが! 何度もだ!)
「私と山本君の間には、今で言えば、たかだか三歩の距離しかないよ?」
(その手の事に鈍感な月城さんが、そういう意味で言ってるわけがない! 知ってるだろ! 月城さんが好きなのは……刀坂だ!)
月城さんは俺に友達以上と言ってくれた。
遊んだり、ともに勉強したり。その関係になる為に「対等にあろう」と。
か細く絞り出した声。その発言は本来口にするのも憚れる。
勇気を持って切り出してくれた。胸に手を当て、俯いた月城さんが、今どんな顔をしているのか
(なのに……なんで……)
提案を受け入れる。拒絶する。
話の結末は、選ぶ俺に委ねられた形。
「……違う……」
たった一言呟いたことに、月城さんはびくりと身を震わせた。
こんな俺が、もしかしたら拒絶してしまうかもしれないことを恐れてくれている。
言葉の通り、一緒にいたいという表れにしか思えない。
(愛おしいとか、思ってんの……っ)
彼女が俺に求めているのは、あくまで親友と言う立場であるはず。
対等になるための「互いへの憧れを捨てよう」との発言。
とんでもないんだ。
彼女を上位の存在として見ることで、「こんな俺のカノジョになってくれるわけがない」と、どこかこれまであったある種の精神的なハードルは無くなってしまうような。
「あ……山本……く……」
カレシでもカノジョでもない間柄のはずなのに、いつの間にか俺は前に出た。俯いた月城さんの頬に掌を伸ばしてしまっていた。
「俺にとっちゃ、二歩だった」
好きでもないヤローにいきなり頬っぺた撫でられたんだ。
ハッと顔をあげた月城さんは真っ赤になっていた。
(駄目だこれ……)
ただでさえ澄み切った瞳は潤んでいた。
触れた頬側の月城さんの掌が、顔に添えた俺の手を、柔らかく包み込む。
月城さんに触れる俺の手の感触を感じ取るように、そして、頬から俺の手を離さないよう繋ぎとめるようにしか見えない。
(……勘違いする奴……)
「ゴメン。俺……」
何に対して謝ったのか。
いきなり月城さんの頬に触れたことか?
触れた手で、顔を更に上向きに掬い上げたことか?
それとも……
「……あ……」
スゥっと、それは不意打ちにも違いない。
まともに反応させる間も与えない。腰を折って、自分の顔を月城さんの顔に近づけたこと。
……何のために?
「フンギッ!?」
「はくぅっ!?」
明らかに俺の顔が侵した月城さんのパーソナルスペース。
欲望に抗えなかった俺は、しかし
(あ、あっぶね……)
俺だけじゃない。
月城さんも、ふらりと後ろに体をよろめかせ、右掌で鼻を抑えていた。
「ご、ゴメン……その、俺、今のは……」
「ん……」
(お……俺は今……なんてことを……)
「あ、アハハ……なんというか、|馬郎ラーメンを食べたのは大正解だったようだね《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》どうも」
「うん。
最低だと思う。
「いやぁ、俺もなぁにやってんだかねぇ。こんな手の速さじゃ、エッチだの変態だの言われても仕方ないってね」
「あわや」と、とんでもないことしでかしたくせしくさって、まともに謝ることも、その言葉さえも出てこない。
「嫌われてもおかしくないっちゅうか……嫌ってくれて構わないっちゅうか。嫌ってくださぁい!」
何なら冗談交じりに誤魔化とすらしている。
「カァァァッ! こんなんじゃ、この後どんな顔して文化祭回っていいか分からんもんだねどうも!」
正面に立って向き合うことが出来なくなってしまった俺は、笑い飛ばしながら月城さんの脇を通り過ぎようと再び歩を進める。
今回ばかりは流石に月城さんを怒らせてしまったようで。それは当然なのだが。
「あっぶねぇ! もし昼飯に大蒜マシマシしてなかったらどうなっていたことか!?」
また俯いていて、微動だにしなかっ……
「……
「ッツ!?」
……一言。
それを、月城さんの口から言わせてしまったこと。
脇を通り過ぎた……瞬間、思いっきり彼女の言葉に振り向かされてしまった。
「私達、キスをしていたんだよきっと」
理解が……出来なかった。
俺が振り向いた時には、俯いていたはずの月城さんも俺に向かって体を向け、顔をあげていた。
「あ……え……?」
俺に、何か反応させることも許さない。
言葉に詰まった俺に向かって、大馬鹿やらかした野郎に、月城さんはそれでも笑ってくれていた。
そして……
「行こっ? 制限時間いっぱいまで、思いっきり楽しまなきゃ」
当たり前のように、手を繋ぎ、また俺を引いていく。
(待て……しかもこれって……)
『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ア・マ・ア・マァァァァァ!?』
『恋愛してぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
(このつなぎ方って……)
明らかに、手の繋ぎ方がこれまでと違う。
こんなの、トリスクトさんとしかしたことがない。
いや、シャリエールともしたことがあった。
……止水さんと手を繋いだこともあったような……
『パンケーキに粉砂糖振りかけ、アイスクリームとホイップクリーム乗っけて、チョコレートソースとハチミツとメープルシロップ乗っけて、シロップ漬けのフルーツ盛って、カラフルスプレー(パフェなどに乗るカラフルなチョコの粒)振りかけてもまだ足りない!』
『甘いっ! 甘すぎるぅぅぅ!?』
『カレシ欲しぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
互いの存在を、指一本一本絡ませることで感じ合うような……
「ハイハイ! そこな道行くご両人!?」
「ぅおっと!」
「学園祭でどの催しに行こうかお悩みかな!? だったら歌劇にご案内!」
(なんだいきなり!)
「ちょ、ちょっと陸! 何してるのよ! 二人の空気を台無しにしちゃ……!?」
「でも海ちゃん。公演時間は30分で手軽だし、デート定番の映画は時間かかっちゃうし、いいと思うなっ♪」
「それに、これからの上演舞台はスタジアムテントのこけら落とし公演で……」
「ねっ? 空ちゃん!」
「あの、陸さん。海さんが言っているのはそういうことではないと思いますが。初回公演でもありますし……」
厄介極まりない。
第一学院女子訓練生三人突然現れたことに驚いたが、それ以上にその物言いや、周囲の勝手なカン違いには反応しづらくてならない。
「どう? 絶対に楽しいよぉ! 思い出になるよぉ!?」
「申し訳なかったわね。私達の友達がいきなり」
「お二人のデートを邪魔することになってしまって」
「いや、その……」
「せっかくのご招待だし、見させて貰っちゃおうか?」
「あ……おう」
本当、なんなんだよ今日は。
話の流れとか、周りの俺たちを見る空気が、俺たち二人の物事を大きく変えてしまおうと働きかけているようにか思えない。
「よしっ! 二名様ご案なぁい!」
あれよあれよと決まってしまった歌劇鑑賞。
その舞台たる何処かに連れて行こうと、友人であろう二人から陸と呼ばれたボーイッシュ極まるベリーショートヘアの女の子に背を押されている。
月城さんとは、手を繋いだままで。
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