テストテストテスト。久しぶりに18

「離してっ!」

「そんなわけには行かねぇんだよ!」

「放っといてって言ってるでしょ!?」

「何自棄に走ってやがる!? ほっとける訳がないだろうが!」


 脱兎のごとくに逃げ出した月城さんの腕を捕まえたのは、《秀吉》と良くツルむ場所だった。


「座れ」

「嫌!」

「良いから座れって!」


 立ち並ぶ自販機横に備え付けられたベンチに、腕を引っ張って無理やり彼女を座らせた俺は、見上げてくる敵意溢れた瞳に唾を飲み込んだ。


「なんだよ! 何キレてやがんだ! 俺のせいだってのか!? 違うだろうが!」

「違わない! 全部、全部全部全部! 貴方のせいじゃない!」

「自分の情けなさを棚に上げてるだけじゃねぇか!」

「なっ!」


 頭で浮かんだことが口に出てるわけじゃない。

 考える前に口に出てしまう。無意識でもスラスラ出てくるなら、これが俺の本音何だろう。

 だからと言って、止められない。止めるつもりもなかった。


「結局、三縞校の連中が言ってことが全部なんだよ! 生徒会長なんだぞ!? 関係に縛られて情けない姿晒してんのは、お前・・の方だろうが!」

「分かるわけないよね! 退魔のしがらみを知らない山本君じゃ。私がそれでどれだけ……」

「だから俺が、悪いって!?」

「だってそうじゃない! 貴方の存在にどれだけ私が迷惑してるか分かってないの!?」

「な……んだと?」


 好きだってのとは別の感情が、実は前々から彼女にあった。

 困らせないようにと、目に触れさせないよう、彼女が晒す惨めで情けない姿には怒りしかなかった。


「以前は隆蓮様との関係だってまだマシだった。抽選会で貴方をかばおうとしなかったら無理強いもなかった! 貴方が暴力沙汰を起こして、アタリが強くなった!」

「あんな野郎をかばうのか!?」

「貴方が変な正義心を見せなければ、皆の注目を惹くこともなかった! わかる!? 三年かけて積み上げてきた評価を、ポッと出の編入生でさらっていかれる悔しさ」

「ポッと出……だと?」


 我慢の限界を振り切ってしまった。彼女は俺の恩人。口喧嘩なんて想像だにしなかったのに。


「思い返すだけで、これまでの私の選択が間違ってばかりだって思えるよ。貴方になんて優しくしなければ良かった」

「オイ……」

「きっと最初っから、山本君のフォローアップ依頼を受けたときから間違ってたんだね」

「やめろよ……」

「しょうがないじゃない。可哀想だったんだもの・・・・・・・・・・。家族を事故で亡くして、ずっと入院している同い年の男の子なんて」

「やめろ」

「良かったね。無力無能な貴方がこの学院で受けれられて。同情、集まってもんね」


 状況が状況だから。

 俺がこれまで見てきた月城さんのいい面は全く見えない。それどころか、見せる彼女の顔よ。言葉よ。

 

「本当に誤算だった。山本君、必死になって訓練に励んでるんだもん。異能力はないのに、無駄な努力して。けなげだよね。皆、感じ入ったんじゃない? 例えば……山本組とか」

「やめてくれ」


 これが、月城さんだ。

 矢継ぎ早にまくしたてる俺のソレが本音なら、同じように早口になった月城さんが紡ぐのも本音なのだろう。


「可哀想な山本君だから。私も強く出られなかった。無力な貴方じゃこの学院に居続けられない。この学院をやめさせるように働きかけなかったこと、今すっごく後悔してる」


(どこで、間違った……)


「隆蓮様とのことがあっても、貴方さえ学院に居なければ、皆を束ねる選択肢は私だけ。全訓練生の気持ちが離れようと、隆蓮様との義務も全う出来た。隆蓮様から褒められたかもしれない。貴方のせいで……すべてが……台無し」


 言いたいことぶつけた月城さんは、顔を両手で覆う。ホウっと息をついた。


「貴方の事……嫌い。大っ嫌い」

「ッツ!?」

「いつも、山本君は私を悩ませるの。もう……嫌……」

「俺は……」

「学院に馴染めるかなとか。夏祭りの時、無事でいられるのかなって。貴方の婚約事なんて私には関係ないのに。悩んでいないかな? 大丈夫かなって」

「月城さん……」

「看護学校の文化祭とか、勝手に話を進めて。私の不安は的中して、大事になって。でも貴方は……真実を話してすらくれない。どれだけ心配したかわかってる?」

「違う。それは心配をかけたくないから……」

「だからきっと……今みたいになっちゃったんじゃないの?」

「グッ!?」

「四六時中、貴方の事を考えてる。結構、そこから発展するダメージって大きいんだよ? いつも目で追っちゃう。見たくないものも目に入っちゃう。次々と私の元から色んな訓練生を奪っていく場面。色んな娘と仲良くなってさ。あさましい」

「あさましい……か……」 

「私たち……きっと出会うべきじゃなかった」


 泣きながら走っていくから、慌てて追いかけた。

 でも、話の落としどころとか、どういう話になってしまうかとか、そんなもの考えているわけがなかった。


「もう嫌だよ。開放してよ」

「そっかぁ……」


 それで、こうして突きつけられる。なら、どうしようもなかった。


(そんな風に思われていたのか俺……)


 正直言って、『それは俺のせいじゃないだろう』と返したいところもあるが、図星な部分は多かった。

 論破って奴を、喰らってしまったんだろう。


「良かった……な。月城さん」

「はぁ?」

「安心してくれていい。まだ約束はできないけど、きっと近いうち、君の望んだように物事は転がっていくから」

「何を言って……意味が、分からないんだけど……」

「俺がこの学院を束ねるようなことにはならないってことさ」


 もっと言い合うとも思ったが、不意に俺が口走ったのは、この会話の締めに掛かるもの。

 いろいろ思うこともあるが、今の俺には幸か不幸か、月城さんの希望に叶う選択肢を持っていた。

 

「ねぇ、何の話をしてるの? また、私にできない話でもあるわけ?」

「あぁ、悪いがこれは君にすべき話じゃない」


(かなえてやるさ。嫌いだって言われても、俺はいつも月城さんのこと……)


「君が俺をどう思ってるかはこれ以上聞きたくはないけど、これでも、これまでの事には本当に感謝してるんだ」

「山本君? 話は、これで終わり? ちょっと、どこに……」

「……ありがとな」


 月城さんにこんなことを言ったのは、彼女を慰める一因になったなら……と言うのもあるけど。

 どうかな?

 これ以上、こんな嫌な月城さんは見たくないからかもしれない。

 自分で追いかけてきたくせに。

 話を自分の都合で切り上げた俺は、話が見えないと充血した目を丸くした彼女に向かって手を振って、その場を離れることにした。



「目論見は成った」

「……満足ですか? 陛下」

「満足なわけないじゃない。結果は別として、気分は最悪だ」


 一徹と魅卯の様子を見るに、シキとネネがその場にいる必要はない。

 ドローンのカメラを通し、状況を見守っていたシキ。一徹が魅卯から離れていくのを目に、深くため息をついた。


「月城会長と山本一徹は完全に決裂しました。訓練生たちの殆どが山本一徹に付くでしょうが、無力な彼では効果的な運用は不可能でしょう」

「だけじゃない。月城派と山本派の軋轢は深くなる。この感じだと、一徹君は学院をやめるね。残された訓練生らはそれから再び魅卯君の元に集うことになる」


 ネネが向ける視線は冷え切っている。


「雰囲気は最低最悪ですね。三縞校の頼みの綱、英雄三組にも深い陰を落としました」

「今更の団結は不可能だ。三縞校の弱体化は決定的。競技会に向けた脅威は、これまた一校消えたね」

「こんなこと……いつまで続けるおつもりですか?」

「必要ならいつまでもだよ?」


 逃れるように、シキは傍付きから顔を背けた。


「でも流石に、今回は堪えたなぁ。私自らが、彼らの関係を壊すようなことを。改めて、ネネや他の者たちには感謝しなきゃね」


 競技会では、なにがなんでも実績を作りたいのがシキだった。


「負けるわけには行かない。さっきの久我舘の話を聞いたかい? 能力者優位主義。まだまだ勢力の強い保守派を感服させるためにも、私はなんとしても優勝する」

「ですが、山本一徹からは良い女皇と認められたのでしょう? そういう者たちも多く……」

「それじゃ駄目なんだ。特に、実権を簒奪した私のような人間にはね」


 自嘲気味に笑うシキには、目に見えて疲れが宿っていた。


「エゴだって自覚してる。それでもね、私の勝手な思惑の犠牲になった一徹君や魅卯君の為にも。私は絶対に勝って見せる」

「陛下……」

「この学院祭で成すべきことは成した。あとは闘魔会を見て帰ろうか」


ー四季陛下は大丈夫か?ー


(全然、大丈夫じゃないよ徹……)


 シキがやっていることは非人道的。

 わかっていながらも協力するネネは、その理由の重さを知っている。

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