テストテストテスト。久しぶりに19
「えっ……」
先ほどから、目の前に広がる光景の一部たりとも飲み込むことが出来なかった。
全力、いや、須佐猛流は奥の手すら出し切った。
自らを依り代に
斬撃を飛ばし、爆発的な膂力をもって相手を圧す。
そうしてご自慢の剣は……確かに一徹の胸を、腹を、深々と貫いた。種も仕掛けも一切ない。致命傷に、軽く届く刺突。
だというのに……
「て、徹が……いない?」
「一体どこに。一徹君。君は……何をしたというんだ?」
眼下の、少し離れた闘技場で立ち回りを演じて居た一徹は、いつしか闘神すら足元に下した……だけじゃない。
状況が一瞬停滞したかと思えば、指で虚空に大きな円を描いた途端、その姿が消えてしまった。
「……なんつーか。違和感バリバリっつーの?」
「「ッツゥ!?」」
「『徹』とか『一徹君』とか。いや、基本は嬉しいのよ? 君たちみたいに可愛い女の子に親しみ籠めて読んでもらえるってのも。たださぁ……」
それが……
「マジで残念よねぇ。こーんなに可愛い娘が俺のこと知ってるってなら、俺も見覚えがあるはずなのよ。まさか忘れてる? ってぇ……歳かな、俺も」
二人が座する観客席。それからたった一メートルあるか否かのところで、深々と腰かけ、膝に肘をついて頬杖つきながら闘技場で項垂れる須佐猛流を見下ろす一徹がいた。
「ちょっと待って? なんで徹……」
「君、どうして……」
ただ一徹対、須佐猛流の死合いを眺めていたわけじゃない。
一徹が展開したとと思われる守護陣結界障壁。これを、ルーリィ達が全力をもって打ち破ろうと先ほどから躍起になっているのだって見てきた。
闘技場から出られるはずがない……のに、それでいて瞬間移動ヨロシク、いつの間にか隣に座っている一徹の存在感に、絶句を強いられた。
「とまぁ、冗談はさておき、そこのネクラメガネっ子は別として、貴女様に付いちゃ、俺と知り合いであるわけがないね」
一徹はふらぁっと立ち上がる。
ゆらぁりと、力も抜けた足取りでシキの前に立つとしゃがみこむ。
(違う……)
「神器、《草薙の剣》。幾ら影打ちっつっても、振るえるものは限られる。その中でも真打を保持してるつったら、この国じゃお一方しかあり得ない」
低い位置から、シキの瞳を見つめた。
(一徹君じゃない……)
「隔世遺伝頼みの須佐之男命とは違う。連綿と受け継がれてきた血と力の濃さを感じる。三原神の長、天照大御神のご直系。当代……桐桜花皇国皇。いや、女皇陛下ということでよろしいか?」
(誰だ……コイツは……)
初対面にして、警戒させまいと取った表情なのか
見た目には、柔らかな笑み。
……一度取り込んだ光を、二度と手放すことの無い底なし沼のような眼。
シキの知る一徹がいつも浮かべる、将来を不安しながら未来を願う輝きに満ちた瞳は……死んだ魚のような濁っていて。
「多大なるご無礼の段、先んじてお詫びする」
「何を……言って……んっ♡」
いつもとあまりにかけ離れた姿。徹底して非情、行き過ぎた残酷さ。
「あ……ハッ♡」
呆然としてしまって微動だに出来ない。
「ちょっ……一徹くっ……♡」
「なに、驚くのは最初だけ。すぐにヨくなる」
例え、彼がおもむろにシキの胸に掌をかぶせ、力を加えたとしても……
「
左胸から右胸へと。掌は、シキの乳房を揉みしだく。
「何……おっ♡」
まさぐっていた。何かを探しているようだが。彼の思惑などどうでもいい。乳に触れられ、辱められているのがシキの実際だ。
そして、胸の谷間あたりで、一徹の手はピタッと止まったかと思うと……
「おほっ♡」
「……ここか……」
「ハッ……ハァッ♡」
シキは瞼が剝かれる。当然だった。谷間あたりで止まった一徹の腕は、彼女の皮膚も、肉も突き破り、シキの肉体に付き埋められているのだから。
「あ……ハァッ♡ 駄目ッ♡ イって……♡」
「なるほど? 簡単には掴まってくれないようだねどうも」
痛みはない。
付き埋められたと言ったが、実際は腕を迎え入れ飲み込んでいるのはシキのようにも見えた。
「
「静かにしていただきたい。こちらの集中が削がれる」
「ウヒィッ♡」
無理やり突き破るというより、何処か一徹の腕とシキの胸が同化してしまったかのような。
「やっとたどり着いた。陛下。
「ンㇵッ♡ そこ、奥……コンコンって当たって……♡」
見つめ合う二人の温度差は異常だった。
顔を赤らめ、瞳には涙がたまっていた。口元も歪み、目じりは下がり、息がドンドン荒くなっているシキ……
「ンふぅっ♡」
反比例して、見つめ返す一徹の光なき泥のような瞳よ。
始め見せた笑みもナリを潜め、探し物に意識を取られているかのように真剣。
「ン゛ッ!」
展開は衝撃的。
脳に突き刺さる快感は、これまで感じたことの無い新しさと凄まじさ。
「ソレ駄目♡ それダメ♡ ソれ駄め♡ ゾレ゛ダメ゛ェ゛♡」
グチっ、ヌチッと水音を小さく立てる胸元を一徹の腕はかき混ぜているかの様。
「さて陛下……ご覚悟召されよ? 一気にイかせてもらう」
思わず両手で口を押え、声が漏れるのを塞ごうとしたシキに向け、真正面からその目を見つめる一徹の眼差しは、荒み、冷めていた。
「待ってっ♡! 何か、何か
「怖いことありますまい。一時お借りするだけ」
何か目的の物に手を掛けられたのか。動きが変わった。
開いた左掌で、向かい合っているシキの右肩を押さえつけた。
ズルリ……
「ン゛ん゛ッ゛!?♡」
ズル……ジュププ……
「ん゛ッ゛!?♡ ん゛ッ゛!!♡」
「一気に行く」と言ったはずなのに、胸から引き抜こうとする腕の動きは緩慢。
涙目で顔も真っ赤なシキは、悶絶に言葉も出ず。ただただ両手で口を押え、「これ以上はやめて」と一徹の目を見つめて首を横に振るしかできなかった。
……無駄な抵抗でしかなかった。
「ン゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ!?☆♪♡」
娘にしてはあまりに下品な叫びが会場中を占める。
チアリーダー姿の両脚を思いっきり閉じたシキ。絶叫と共に全身をビクリビクリと大きく痙攣させ、背筋はピンと立っていた。
目など、グルリと白目を剝いて……
「陛下ッ!?」
突然の事に、これまで動くことの出来なかったネネが、シキを抱きしめたのはそのころだ。
その時には、シキは両手で自分の身体を抱きしめ、ヘソを中心としているかのようにうずくまっていた。
「ハッハッハッ♡」
だらしなく舌が出たままで息はいまだ荒い。
痙攣もまだ収まっていなかった。
「徹……ソレ……どうして徹が握れるの?」
ヘタぁっと全身が弛緩したシキを胸に抱くネネは、理解の及ばぬ、説明しがたい表情を浮かべ、一徹を見上げた。
「ッツゥ!?」
「安心していい。ネクラメガネっ子。別に傷つけたわけじゃない」
カタカタと体中が震えているのは、目的の物を手にしたからか、興味の失せたような一徹の見下すような瞳に恐怖した故。
「「「「「「一徹! /旦那様! /山本一徹! /兄さん! /師匠! /兄さま!」」」」」」
その時だった。
至近距離から、一徹と浅からぬ付き合いの少女たちの叫び。
「悪いな。また後だ」
しかし、あと一歩が届かない。
シキの胸から引き抜いた腕が下げている、抜き身の刀。
その切っ先をもって自らを中心に円を描いた瞬間、フッと、観客席の立っていた場所から、落下したかのように姿が消えうせた。
☆
「お・ま・た・せ。当代須佐之男命崩れ?」
「草薙剣……真打……だと?」
突然シキの隣に姿を現したときと同じだった。
何人たりとも通すことを許さない守備陣結界障壁。
ぶつかる様子も触れる様子もなかった一徹は、闘技場で膝から崩れる須佐猛流の鼻先に、シンプルな意匠にして荘厳な威風をたゆたわせる剣の先を突き付けていた。
「ウヌは、何者なのだ!」
「あぁん? だから言ったろ。
「そうでない! 草薙剣は三原神ゆかりの者にしか触れさせること許さぬ。まして真打! 須佐之男命は姉神、天照大御神だけに許された唯一にして絶対の……」
古の桐桜花。刀鍛冶は、刀を打つ際に、同時に何本も鋼に火を入れ、打ち鳴らし、魂をすり減らした。
その中で最も出来が良いものを真打とし、それ以外を影打ちとする。
神剣を打つに鍛冶師がいたかは不明だが、こと草薙剣も、その例に漏れないようだった。
「むつかしいことはわかんねぇ。触れんだ。仕方ねえだろ」
「保持可能。すなわち異能力者の頂点にして、この国の皇であることの証明! だが貴様は……」
「……五月蠅いよ。お前」
「ヌ……グ……あ……?」
言い切ることさえ許さない。鬱陶し気に呟いた一徹は……
「あ……さha……」
大きく主張する須佐ののどぼとけをこともなさげに貫いた。
「ッツッッtッツttっツッ!?」
器官を貫かれて、肺からまともに息が吐けるわけがない。
「良かったね? 腐っても須佐の縁者で。出なければこの一突きでお前は即死だ。だがぁ、考えようによっちゃソレは、俺にとっても願ったり叶ったりなんだが♡」
ブシャッと剣を深くつきこんだ喉から引き抜く。
「オ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
ここにきて喉のつかえがとれ、やっと須佐は痛みを叫びに乗せ体外に放出できた。
なお、喉には……一切の刺し傷はおろか、流血すらなかった。
「神器、《草薙の剣》。元は三原神の絶大にして強靭な力と精神を具現化した、神の意志そのもの。ゆえに振るえるのは血縁者にして加護持ちのみに限られる。だから……」
自分の下した凶手に、傷一つない須佐を前に、再び一徹の口角はつり上がる。
脱力したかのようにゆるりと横に振りかぶると今度は……
「神器が使い手を傷つけることはないっ!」
「ぎぃぃぃぃぃぉぉぉぉおおおおおッ!?」
水平に、須佐の首筋に向かって、思い切り水平に振り切った。
「ア゛ァ゛゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」
「ただしそれは、こと、肉体のみに限られる」
通常であれば、須佐の太々しぃ首が両断され、頭部が刎ねられていたところ。
一徹の剣閃が首の端から端まで通り抜けたその時、須佐は両手で己の頭を抱え、悲鳴と共に闘技場床に思い切り打ちつけていた。
「ククッ!? クククッ♡」
「ウヌハッ! ウヌもァァァっ!? 因子持ちかぁぁぁ!? 今までどこに隠れていた! その存在も、噂もっ!?」
「あん? 因子持ち?
その床に向かって弾んでいる頭部。一徹から見て、バウンドしたサッカーボールが如く。
「俺の場合、ちょっと特殊でね。債権者。奴さんは俺に、結構な量の借り入れをしてるのよ」
PKシュートのように、助走をつけ、顔面をすくいあげる様に須佐にサッカーボールキックを見舞った。
「ヌッ!? ヌがァァァァァっつ!?」
プライドを粉々に砕かれ、自身を須佐之男命と自負する
なおかつ、ソレすら凌駕する真打を、こともなさげに振るう一徹の得体の知れなさに呆然自失していた須佐と言えども、ここまで痛めつけられればいくら何でも自我を取り戻した。
蹴り飛ばされて数メートル。受け身を取り、秒もなく立ちあがり、一徹を睨みつけて
取り戻さざるを得ない。殺されてしまうから。
「ホィッ!?」
「ッヌグッ!?」
「そうそう♡ 逃げ惑え、抵抗しろ、俺を楽しませろ! ほらほら、もっと頑張れ! こちとら斧が得手の斧術師だぜぇ?」
一徹は、相手がいくら武器を失ったところで、自分も剣を捨てるような正々堂々とした気概はない。
寧ろ喜々として剣を振り続けた。
「桐桜花連盟流剣道なんざ、せいぜい中坊までしかやってこなかったんだ! 素人同然の剣なんざ簡単にしのいでもらわにゃ!」
しゃがみ、大きく体を折りたたみ。何とかかわしつづける須佐を前に……
「下ぁ! 上ぇ! 行くぞ
「もっと踊れ」と煽り立てていた。
(我が死ぬ……死ぬ……死ぬ死ぬ死ぬ……)
「イヤだァァァァァ!?」
押し込まれている。刹那でも気をぬけば、その時点で人生が終る。
その時は目前に迫っていて、なにがなんでもその魔手から逃がしてはもらえないことが理解できた。
「イヤだァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「オッホ♡?」
火事場のバカ力という言葉がある。
須佐が吠えた途端だった。
一徹が大きく冗談に振りかぶり、頭頂を目がけ振るったところだった。
ギシィィィィィン!
何もない須佐の手に、握られているのは柄。どこから現れたか大太刀。その刀身が一徹の一振を防ぎ切った。
「良いねっ! 追い込まれた状況! 無我夢中で極まった自身の精神力を具現化し、瞬時に武器を作り上げたねどうも! さながら劣化須佐之男命専用武具! 劣化版草薙の剣!」
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」
なぜ武器を自分が手にしているか、いまだ飲み込めていない須佐。一徹の説明も耳に入らない。
ただ、武器が手に握られている事実だけあればいい。
攻めこまれた状況を打破したいと、渾身の力を全段に込め、幾たびも打ち返していく。
だが……
「いいぞ! もっとだ!」
滑稽といって言い。
「もっと楽しませろ!」
一徹は返された剣閃を刀身で防ぐことはしなかった。
「どうした! 打ち込んで来い!」
当然防御をしないから、太刀筋の一つ一つが一徹の身体を薙いでいった。
首筋を両断したはずだった。左胸を貫いたはずだった。胴体は切断され、額に至っては深々と、劣化版草薙の剣の柄が触れてしまう程穿ち、脳にまで届いている……はずだった。
「もっと本気に! 熱くなれよぉぉぉ!?」
「があああ! しゃはあああぁぁ! だぁぁっ!」
「気ん持ちEEEEEEEEEEE!!」
快楽に、体をびくつかせながら、天を仰いだ。
「じゃあ……お返しだ」
一言。
何か来ると直感した須佐は、自身専用武具を体正面に構え……
「え゛……?」
呆けてしまった。
シキから奪った真打草薙の剣の柄を持ち帰る。
切腹が如く、切っ先を自分の腹に向けて……
「な゛っ゛……」
が、息を詰まらせたのは須佐の方だった。
「あ……あ゛……あぁぁぁ……」
一徹は、自分の腹を思いっきり貫いた……はずだった……
「ご゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!」
では……須佐の身中を突き破ったかのように、腹部から突然、真打草薙の剣の剣先が生えているのは一体どういうことだというのか。
左手で頭を押さえた、須佐は、剣先を生やしたまま、よろよろと後ろに下がり、咆哮を挙げる。崩れ落ちた。
「神器は確かに資格者の肉体は傷つけない。だが膨大な精神エネルギーの塊にゃ違いない。意識司る心臓と頭にゃ……来るんだよなぁ♡? んしょっとぉ」
冗談かのような軽口調と共に、自分の腹を貫いた剣を引き抜いた一徹の目は飛んでいた。
引き抜かれたと同時。須佐の腹から生えていた剣は、戻っていくかのように須佐の肉体に埋没していく。
それと同時に、頭の中身が強酸に焼け溶けていくような暑さとジュワジュワとした感覚に、全身が震えあがった。
「あはぁ♡ いいよねぇこの、脳内で色んな箇所を繋いでる数えきれないほどの神経細胞が焼き切れる感覚。大丈夫? 俺にとっては気持ちよくても、精神エネルギーに差があるお前にゃ、脳死一歩手前なんじゃない?」
得体の知れない悪寒は、一徹が自分の腹から剣を抜き切った瞬間に立ち消えた。
「ジ……ジクウ……カン術ギィッ!?」
「面白いからさ、さっさと脳内色々焼き切って人間捨てちゃって頂戴よ。幾ら劣化版コピーっても、リミッター外れたら、無意識中に抑えられた力ってのを開放できんだろ?」
ただ、終わらなかった。
タァンと地面を蹴って、須佐との間に数メートル間合いを置いた一徹。
気だるげな瞳で、虚ろな空間を見つめる。
「と、言うわけでぇ、何発耐えられるかなぁ♡」
そして……
「まずは一つ」
スゥっと、ゆっくり空間に剣先を突き込んだ。
「あ゛ッ!」
どこからか剣先は消えうせ、代わりに須佐の頭蓋内には、焼けた火箸が押し付けられるような激痛。
「そして二つ」
ゆっくりと腕を引いた一徹。消えた剣先は姿を現し、また、押し込んだ腕に併せて消えていく。
「ぎっ!」
鋭利なものが、脳をグチャっと突き刺すような感覚。思わず、手元の武器を取り落した須佐は、両手で頭を押さえ、今一度膝から崩れ落ちた。
「三つ……四つ……五つ……」
虚空に差し込んでは引き抜き、抜いては差し込む。
「おぉォォォォッ! Oooooooooooooooooooooooo!!!!????」
「ケヒャッ♡ ゲヒャヒャヒャッ♡!」
とうとう、絶痛に膝立ちもかなわない。
両手で頭を押さえたまま、闘技場に倒れ込み、必死になって床に打ち付ける。
はた目から見ては自傷行為だ。違う。そうして皮膚に肉、頭蓋という外殻を痛めつけることによって、柔らかな内部に届く致命的な痛みを緩和しようという現れ。
一徹が待ち望んだ時は、ついにやってくる。
「ッッッッツッッ!!!! AAAAAAAAAAAGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
額から、目じりから血を流し、否、涙かのように両目から血の川溢れさせるほどに至ってしまった自傷行為。
精神的ダメージが、越えてはならない一線を超えさせた証明だった。
「いいぞいいぞ! 褒めてやるよ! 《男子三日会わざれば刮目して見よ》っつーが! 違うね! 《男子徹底的に嗜虐せざれば
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAUGAAAAAAAAAAA!
「知ってっか? 古代イジプシャンじゃ、
道徳はない、理性もない。今度こそ……人を捨てたかもしれない。
この荒々しい轟は、先ほど須佐が見せた猛りでさえ、まだ可愛いと思わせた。
「草薙の剣に頼らない! 自分の力で剣を生み出し、意思によって奴の力を自分の身に顕現できるようになった! 成長した。漢になったじゃないか! 坊やぁぁぁぁぁっ!?」
カッと、会場なかを眩ませるほどの光量が閃いた途端……
GAGAGAZHAAAAAAAAAAAAAAA!!!
再び巨躯に姿を変え、現れたのは須佐之男命モードと言えばいいか。
怒号が大気を震わせる。
ビリビリと静電気が全身走るような感覚に、一徹は目を見開き、クワカァッと口を開いた。
「ただ悲しいかな……お前の須佐じゃ、俺の返済債務者とは格が違う」
台風直下に全身を晒すような豪風に身を弄ばれる一徹。
それでなお、まだ余裕が崩れないというのか。
「……契約に基づき、汝の力をもって債権履行の請求とする。返済請求……ササヌーン・ムカー……」
「ZHHHHHHHHGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
「おっとぉ?」
真打草薙の剣を再臨、須佐之男命に向け、静かに口を開こうとする。
否、あいた左手ににゅるりと体をねじ込んだ白銀の軟体金属生命体の訴えに目を丸くした。
「クハッ♡ 『この浮気者』って。何言ってんだお前。お前と会ったのはこれで三度目。しかも気づいた時には握っていた。出会いの思い入れも何もないっての」
嘶きを通して伝わる訴え。
「妬くんじゃないよ。相手が須佐之男命ってなら、その専用武器で叩き壊すって方が乙ってだけだ。斧が俺の得物。草薙の剣が剣である以上、俺の相棒には……へぇ? お前、面白れぇな」
苦笑する一徹は、何かに気づき、脅威を前にしてなお、わざわざ左手に注目した。
「良いだろう。んじゃ、せいぜい出張ってもらおうか。俺の失望させるな? お前のことも試してやるよ。俺の相棒となるにふさわしいかどうか」
言葉をかけれらた刹那。
「RUUooooooooooooooooooooooooooooooooonnnn......」
金属の振動にしては似つかわしくない。挙げたのは、まるで狼の遠吠えが如く……
「やれやれ、本当に面白いシロモンだねどうも」
自身の左掌から離れ、傍らでうねり始めた、どんな形にも変えられる水銀のような軟体生物。
まるで、今の遠吠えは呼びかけが如く。
「お前、名前は? へぇ、《銀色マンジュウ》って言うのか。変な名前だ。は? 俺が名付けたって? 冗談言っちゃいけない。そんな変なネーミングセンス、俺なわけないじゃない」
見下ろす一徹。少しだけ優し気に笑っていた。
表情ではっきりしていた。視線の先が、敵なのか、味方なのか。
「……千変の神鋼、マスキュリス? 何それファンタジーじゃん美味しいの? てか、お前、ただのマスキュリスじゃないねどうも……」
ニィッと、目尻が下がり、瞳を細くさせる一徹は……
「プギィッ!?」
「ニャッ! ギニャァッ!?」
「ギャンッ!?」
どこからともなく……と言うわけではない。
防御陣結界障壁の高さを超え、観客席から飛来する銀の
「さながら……」
一徹はチラッと観客席を見やり、言葉を途切らせた。
『俺のマスキュリスが!』
『待てよ! 勝手に出てくるな!』
『兄貴が起こしているのか!?』
見覚えのない男子生徒たち十何名全員、苦悶の表情に胸を押さえていた。
本来、彼らの許しなくこの世界に姿を現すことの出来ない、彼ら専用のマスキュリス。銀色マンジュウの咆哮によって無理やり現世に引きずり出され、飲み込まれたのだ。
「
「GARUVARAAAAAAAAAAAAAAAA!」
取り込み切った。そして恐らく、身中で他のマスキュリスを支配下に置いたのだろう。
「いやぁ……お前もなかなかセンスないわ」
声と共に再び爆発した銀色マンジュウ。
その身は数十もの、栗やウニの殻のように象り、一徹の周りをㇷヨㇷヨと浮いていた。
「まぁこの際、贅沢は言うまいよ? 最低限、奴を殺れるだけの力も持っているようだ。喰ったな? さっき俺が砕いた、
「RUGAAAAAAAAAAAAAAA!!」
問いへの呼応に、ニッと歯を見せた一徹。
改めて神剣の先を須佐之男命に定めて……思いっきり地面を蹴った。
それに続くように、宙に浮く銀色の刺々しいツブテは、左から右から、不規則な軌跡を描き、劣化版須佐之男命を中心として四方八方から襲い掛かった。
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