テストテストテスト。久しぶりに9
【では誤解を恐れず言おう! 《
「……はぁ、もちっと静かにしてくれないかなぁ。会場中に伝わるようにマイクを使うのは良いんだが、熱が入りすぎて外にまで漏れてきやがる。頭が痛い」
結果から申します。
抽選会の開会式には、俺たち4人とも間に合った。
情けないことに、頭が痛いのは続いていた。
それゆえ俺一人だけ、開会の挨拶だけは参加せず、会場たる日本名立大学の大講堂から出てすぐの、設置されたベンチに腰を下ろしていた。
(にしても大学……か)
そのままなんとなし気に周りを見てみる。
大学敷地内に立てられた多くの校舎棟はビル様式で、なんともスタイリッシュだ。
今日は土曜日。
週末も授業はあるようで、さっきから前を多くの大学生らが行き交っていた。
(なんつーか、さすがは都内の大学っていうか。おしゃれだし大人っぽい。これが大学生ってやつか)
男の人も、女の人も、纏う装いに個性が見えた。
大学って言うのは、小・中・高と違って規則に縛られない自由な場所だと聞いていた。
自分らしさを出しながら日々自由に学ぶ中で、自分のやりたいことを探す。
多くの選択肢から自分だけの道を見つけ出し、ソレに向かって邁進する。
定められた道を生きる俺にとって、ここは全く違う
(自分で決めた道なら、選ぶことに対する責任がついて回ってくるだろうに)
なんというか、自由なのだろうが大変そう。
それでなお、毎日を楽しそうに過ごす大学生たちには余裕が見えた。
いわゆる《大人の余裕》というやつか。
大学1年生なら、三縞校三年の俺と歳が一つだけしか違わないはずだが、それでも大人と子供。その差は大きく見えた。
(なのに……)
「あつっ!」
ズキンっと、先ほどからの頭痛が俺を悩ませてならない。
(なんなんだよ。この感覚は)
俺は……大学生としての感覚を知っているような気がした。
高校生にとって、大学生は大人……なはずなのに。その実、すっごいおバカであるということを、心のどこかで知っているような。
それだけじゃない。
学生食堂の場所。教務課の場所。図書館。
この大学の敷地に入ったのは初めてなのに、なぜかいまだ大講堂にしかたどり着けてないはずの俺が、日本名立大学のあらゆる施設の場所を知っていることが気になった。
知らないはずだ。
なのに……なぜか強い印象が俺の中で残っている。それでいて鮮明な記憶がない。
脳内でせめぎ合ってる。それが、頭が割れそうな理由だろう。
「マジで、開会式フケて正解だったわ。いや、悪いってのはわかってんだが。開会挨拶は《対転脅》の長官だっけ? さっきから気合入った大声が……」
「うんうん。わかるよ。頭の中をジンジンとさせる。本当、私にとっても頭痛のタネで」
「うっはぁ、わ・か・る・わ!」
「しかもなんて言うんだろ。我々学生にとって、こういった式典の、ありがたくて長ーいスピーチほどいらないものはないね」
「そうそう。それな……って……げぇっ!?」
俺は、ベンチに一人で座っていたはずだった。
独り言にしちゃデカいのは自覚している。
そこに、さも最初から親しい仲間がいて、あたかも合いの手を入れてくれるように感じたから自然に返してしまった。
それがあり得ないことだと気づいて……
「前から薄々思ってたけど、君とは話が合いそうだ」
「へっ……へっ……へへへっ……!」
しかも声を掛けてくれた、突然な出現者の正体が……
「やぁ久しぶり一徹君。また会えて、こんなにうれしいことはない」
「陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺たちが住まう、この桐桜花皇国。その正当なる
「ムグゥッ!」
「シッ! 君まで声を張り上げてどうするんだい。それに言ったよ? 私はその称号が好きではないと」
「ふぁふぃふぁってんふふぁ! ふぉみふぇがふぉふぉふぇふぁふ!」
「シィ~」
不思議と視線が吸い寄せられてしまうような何かを纏う、物腰の柔らかそうな美女子が、隣から俺の顔を覗いていた。
(
思わず声が張り上がる。
超速で、掌が、俺の口を塞いだ。
もう一方空いた手の人差し指は
「……落ち着いたかい?」
「いや、何やってんすか姫殿下? それに御手が、汚れるでしょうが」
「仕事や身分で人間の清貧や美醜を判断するつもりはないよ。そんなの気にしてたら誰も守れない。私もこれで、君と同じく魔装士官訓練生なんだ」
(いや、それ以前にアンタ、この国の
やっと一呼吸つく。
始めこそ顔を見てしまったが、今となっては恐れ多くなって、どうしても目は伏せがちになってしまった。
「まさか
「私にぃ?」
「お……
「私も驚いた。いきなり大声出すのだから」
「それは、この国の99.9%の桐桜花皇国人が同じ反応を見せますよ。って、いいんすか? 御身が、ふっつーにどこぞ大学のキャンパスにお現しになって」
「ま、いいんじゃない? バッチシ今日はメイクもキメてきたし。誰もテレビでしか見たことの無いお姫様が……」
「え? お姫さ……あの、女皇陛……」
「あ゛ぁ゛ん゛っ゛!」
「……なんでもありません」
「オ・ヒ・メ・サ・マ! が、こんな場にいるなんて思いもしない」
「は、アハハ……さいですか」
(「バッチシ」とか「キメてきた」って。しかも女皇の自覚も。この人、国の
「長官閣下の話はほんっと~につまらなくてさ。だから私も君とおんなじ、開会式を
「……え゛?」
「いやぁ、きっといま、側近たちがすごい剣幕で私のことを探しているだろうねぇ」
(お願いっ! 開会式に帰ってぇ女皇様っ! サボった先に俺と一緒に居たら、俺が何を言われるか分からないじゃない!)
……なんて、話を聞くさなかに思ったものだが、言えるわけがなかった。
思わず口から出てきてしまいそうだったから、今度は自分の手で自分の口を塞いだ。
「というわけで……はい」
「あ、ありがとうございます。って、スポーツドリンク?」
「逃げてくる途中で君を見かけたから買っておいた。私のおごりさ」
「はぁ、おごりっすか、んじゃま遠慮な……」
(いや、待て! 皇族皆さまの所得は国からの予算が。ってことはもともとは税金から……とか、そうじゃなくって。女皇陛下から頂いたってことは……)
「あ、120円の500ミリ缶を、
(な、なんで見抜いて……エスパーか? あ、いや、第一学院の生徒会長って話だ。異能力はあるのか)
「ちなみに超能力でも何でもなく。推理による帰結だよ」
「は、ははは……お鋭いというか」
「でも、すぐに推理が出来てしまう程には、君は正直者なんだね。私は嫌いじゃないよ。そういうところ」
「あ、ありがとうございます」
変な気分だ。
数か月前、俺がひれ伏したこの国の女皇陛下と、同じベンチで隣同士に座っている。
非常に気さくな笑顔で、「乾杯」とか仰って、スポーツドリンク缶を軽くぶつけてきた四季
(って、この人はっ!)
「どうしたんだい一徹く……あ……」
「ひっ!」
「気になる?」
その気取らなさが、俺にとっては破壊力抜群。
出で立ちは、初めて拝謁したときと同じく第一学院の制服姿。ただ、着こなしが違った。
「どうかな。私も18歳の女の子として、魅力を感じるかい?」
「お、お戯れを……」
初めて会ったときは、多分校則にのっとった正しい着こなし。
今は、最近のJKよろしくスカートは膝上ん十センチの超ミニだ。そして生足。
足を組んだことによって、スカート裾は更に上がって……
(み……見えちまう……)
つややかで艶めかしい太腿が、更に大きく露出した。
それを一瞬でも凝視したことを、姫殿下に気取られた。
「あと、多分10センチ内に私の内衣があるよ? ちなみに今日は、青の縞模様だ」
「は、内衣? 内衣って……ッ!」
(ぱ、パン……しかも縞パンだとぉっ!?)
「んん~?」
「ぜ……全然興味なんてないんだからね……です」
からかわれているのは明白。
だのに抵抗ができない。
女王陛下のあられもない姿を一瞬でも想像してしまった……なんて、不敬極まりないことだけは悟られてはならないから、シレっと、視線をそらした。
「本当は、縞パンなんて趣味じゃないんだよね。もうちょっとこう、雅な刺繍が入った、紫とか黒色の。そうだ、レース生地とかいいな♪」
「はぐぅあっ!」
「破廉恥なんだって。女皇たるもの清く正しくあるべしって、基本白地しか許してくれない。一応この縞模様も必死な抵抗の成果ではあるんだけど」
(ま、マズいっ!)
鼻の奥がドロッと。まぎれもない、鉄の匂いが脳天を直撃した。
「にしても、本当はネクタイだっていやなんだよね。あぁ息苦しぃ」
「ぐっふぅ?」
あろうことか、首のネクタイを緩める。ゆっくり、第一ボタン、第二ボタンを開けて行って。
(た、谷間が……)
「ふふぅん♪ 妄想しちゃった? これで一般的な桐桜花女子よりは発育良い自信あるんだよ? いいねっ♪ 私だって18。女としてまだまだイケるって実感できる」
女皇陛下に違いない。
ただ、美少女にも違いないし。
不敬不謹慎とわかっちゃいるが、ここまで見せられたら(わざとじゃないだろうが)考えちゃならないことばかりが頭を浮かんだ。
(やめろ俺! 相手はこの国の女皇陛下だぞ!?)
半ば反射的に、鼻を両手で抑えた。
「民草が、この国の
「うひぃっ!?」
「冗談だよ。冗談。君は、反応が面白いね」
(は、反応面白くさせてるのは、アンタなんだが)
ジィっと、顔を寄せて見つめてくる、してやったり顔の姫殿下。
「ふ~ん?」
居心地の悪さがとんでもない。
「思ったよりも元気そうだね。風の噂から考えるに、もう少し辛そうにしているかと思った」
「風の噂っすか?」
「君、今モテモテハーレムなんだって?」
「ぶはぁっ! 姫殿下っ!」
しかも、話題が結構に突っ込んだものだったから、思わず吹き出した。
「あはは、別にけなしているわけではないよ。女の嫉妬は恐ろしい。愛憎渦巻くその渦中にいる。同じ女だから何となくわかる」
「た、楽しんでませんか?」
「あぁ、結構楽しい」
「けなしも嫉妬もないですが、からかってるんですか?」
「しょうがないじゃない。君の噂話は、生徒会業務や
(生徒会は別として、女皇陛下の仕事を退屈って言っちゃ駄目でしょうよ)
頭に浮かんだツッコミは、当然ながら、胃の腑に収めておくに限りますね。
「それで、君を筆頭に不良グループが結成されたらしいね。確か……《山本組》?」
「そんな噂まで立ってるんすか? 誓って言いますが、俺不良じゃないですから」
「わかってるさ。《山本組》は
「……あ……」
「違うかな?」
「本当、何でもご存じなんすね」
聞いている分には、姫殿下の言葉に信ぴょう性があった。
俺の噂話が楽しみであること。
瞬間、キュッと胸が痛くなった。
つまるところそれは、姫殿下が
そんな存在じゃねぇことを自覚しているから、プレッシャーでしかない。
「……そうだ一徹君。君、感謝状は贈られた?」
「感謝状……っすか? えっと、そんなのありました?」
「おかしいな」
そしてプレッシャーを感じて、締め付けらるような胸中は……
「
(なん……え?)
「三組だけじゃないよ。目覚ましい活躍した訓練生にも。他に月城君がそうだし。祭りで作戦展開していた《
(なん……だと?)
一層苦しくなった。
「あの事件は私のところにもレポートが上がってきた。君の隊の一年生二人。今年から教官になったフランベルジュ女史にも贈られたようだ」
「あの、
「ならまさか、
「っ!」
衝撃的な事実を、こんな場所で、しかも姫殿下の口から聞くとは。
「そういえば
(ん、なんだ? 何か引っかかる。《山本組》の話はレポートで知ったのか? 俺の名前がないなら、どうしてその話を俺に))
「《山本組》に至っては全員、《対転脅》からアプローチを掛けられたみたいだけど……」
「みたい……だが?」
「フランベルジュ女史を除いた全員、
「んなぁっ!?」
「しかも相当な好待遇」
「あ……え?」
そんな話、
夏祭りの終盤、意識を失った俺は、数日後に病院で目覚めた。
その間にあった話か
(なんだよ……それ……)
自分だけ知らない。
知らないうちにどんどん状況は変わっていく。今の俺が一番嫌いなこと。
(誰も、そんな話をしてくれなかった。誰も……なんで……)
「……徹君? 一徹君っ!?」
「あ、スミマセン。自分の世界に飛んでいたようで」
「大丈夫かい?」
「お、驚きはしましたけど、おかしくはありませんから」
「おかしくない?」
「祭りの時、俺は何もできなかった。戦えもしなくて……俺は、
「
「え?」
「あ、いや何でもない。私が心配しているのはそういうことではないよ?」
「というと?」
「
「っつ!」
その可能性は、考えもしてこなかった。
「そう考えるのは早計だね。ゴメン。君にとって一番身近な存在を、
(いや、本当に考えたことなかったか? 惨めになるから、あえて考えないようにしてたとしたら……)
「いいんすよ。始めから俺、
「自分を諦めてはいけないよ。大丈夫。私はちゃんと、君を三組の人間だと認識してるから」
気さくで無邪気な方。その性格は自覚されているのか。
無意識に放った言葉が俺を戸惑わせたと感じたか、姫殿下は申し訳なさそうに笑う。
そこでジュースを飲みほした。
「長官閣下の挨拶がおわったら、ホールに戻っておいで。会場でまた会おう」
ベンチから立ち上がり、別れ際まで華やかだ。
俺を思いやるかのように笑っていた。
(威風堂々としながら嫌みがない。器がデカいというか惹きつけられる。なるほど。これが民を統べるお方が
「……悪いとは……思っているよ?」
「は、姫殿下?」
「敗北するわけには行かないから。そんなこと、
「あの、言っていることが……」
「さ、お互い、年度末の競技会、頑張っていこうぜっ!」
姫殿下はそう言って、ひらひらと掌をはためかせ、軽やかな足取りで消えていった。
――それから二、三分もない。
とんでもない人とまともに言葉を交わした事実。
受け止めきれず、ベンチに座って放心していた頃。
「す、すみません」
おどおどとした声を掛けられた。
「今こちらに、無駄に包容力のある、無駄に爽やかで人の好さそうなお綺麗な……いえ、女生徒を見ませんでしたか?」
声の主に視線を向ける。
挙動不審な動きを見せる一人の女の子が立っていた。
丸眼鏡をかけているようだが、伸び放題な黒髪、前髪に隠れ、全貌は知れない。
「四季女皇陛下のことか? あれ、確か……どこかで見たことあるような・……」
ただ、その雰囲気に見覚えがあった。
姫殿下と同じ女生徒用の指定制服姿も見たことがある。
(第一学院桐京校生ってとこか。にしても、華のある四季姫殿下の傍付きにしては、やっぱ地味すぎる)
「なら、さっきあっちに……」
「う……」
立ち上がって、少女の前に立つ。
姫殿下が消えていった方に指をさした途端、少女は両手を俺に向かって少しかざし、一歩距離を取った。
(そりゃフツメンですよ。せめてブサメン言われなきゃ良いなレベルですよ。あからさますぎんだろ)
複雑そうな表情をして、ポカンと口を開けたまま俺の顔を見上げていた。
「近くで見たら、実際はこんなに背が高いんだ」
「あぁ?」
「な、何でもないです。ごめんなさい。ご協力ありがとうございます」
お礼を言いながら、地味っ娘はその場を離れようとした。
「なぁ君、木之元さん……だっけか?」
「え?」
「木之元ネネさんじゃなかったか? 一度三縞校にご訪問成された女皇陛下のお傍月」
それを呼び止める。
振り返った地味っこ女子は一瞬俺の言葉に呆然とした面持ちを浮かべて……
「……まさか、お、お話しされました? 陛下と?」
また、よくわからない質問を放ってきた。
「はぁ?」
話しが呑み込めない。答えられるはずがない。
「なんだったんだ一体」
地味っ娘が何処かに行ったタイミングで、ホールから拍手の音が漏れてきた。
どうやら、開会のあいさつは終わったらしい。
戻らなきゃならないのに、なぜか俺は、少女がいなくなった方をずっと眺めていた。
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