テストテストテスト。久しぶりに6

『慌て、慌てないでくださいっ!』

『すぐに適切な指示を出します! 落ち着いて従ってください!』


(理想はあくまでも理想ってやつぅ?)


 どこぞのあんちゃんの一声。

 楽しい夏のひと時は、一瞬で混迷模様に様変わり。


(しょうがねぇ。別次元世界との扉が開き、滅多にねぇ脅威が転召した)


 祭りスタッフは、基本的に青年会議所メンバー。三縞市商店の働き手。パンピー。

 《アンインバイテッド》へ耐性があるはずがない。


招かれざる者アンインバイテッドたぁよく言ったものだ」


 ゆえに逃げ惑う来場者に向かって声を上げるのは、夏季期間中、三縞に残った学院生たち。


(にしても、さすがだね)


 三組のように依頼を受けたわけじゃない。ただ遊びに来ただけの一来場者だった。

 ひとたび緊急事態になってからは、きっちり役目を果たそうとしていた。


(だけど……)


 編入半年も経っていない素人目から見ても、活躍は活きていないように見えた。

 「落ち着け」と呼びかけている。が、まだ全体的にどうすべきか方針は固まっていない。


(それに……)


 毅然とした表情の二年生はまだいい。

 続く一年生どもの表情よ。決して非難員を安心させていない。


 俺個人の感情じゃ、後輩たちには頭が下がる思いだ。


 差し迫る命の危険。そのさなか、市民の安全を優先しようと働きかける。

 だが……


(入学したばかりで自分にできることを一生懸命にってのは良い。が、不安が町の人に伝染してる)


「マズいな……」

【刀坂から山本へ。応答してくれ】

「……シャリエール」

「一徹様?」

「刀坂からお前にだ」


 秩序もへったくれもない。

 顔をゆがめ、自身の安全を確保しようと我先に逃げる非難員の背中を眺めながら、届いた交信に気を留める。


(もう三組内の采配が決まったか)


 《主人公》が、担当教官に伝えることがあるのだ。

 シャリエールは俺の手からインカムを取り上げ、耳に押し当てた。


(なんで……かね)


 それをよそに再び混沌に目を向ける。

 少なからず、自分に気持ち悪さがあった。


(なんで俺、こんな落ち着いているんだ?)


 皆、自分の命を守ることに必死。

 いくら魔装士官学院の訓練生の一人だとはいえ、異能力の無い俺だって、本来逃げ惑う人々とスペックは同じ。


(現実味を感じていないから?)


 記憶なくし、目が覚めたら魔装士官学院に入ることになった。

 いま起きている現実は、あまりに非現実的。


(危機感が足りていないからか? ファンタジーにしか思えないから)


 その考えは危険だ。

 非現実的ファンタジーだろうが、市民が一心不乱に走るさまは現実。

 皆が恐怖している。それこそ、ファンタジーでない証明なのに。


 《アンインバイテッド》。

 拳銃なんかじゃ、なまなか通じる相手じゃないらしい。

 下手すれば、いや、下手をしなくても人が死ぬ。


(なら無理ぽ。オワタって奴じゃねぇか。何を落ち着いて……)


「……わかりました。決して無理をしないこと」


(もっと、真剣にならなきゃならないはずなのに)


「来場している他クラスや下級生と連携をとり、月城会長と貴方で、この場を指揮しなさい。私は遊撃に回ります」


 あのシャリエールが、この状況と、俺が繋いだ刀坂からの連絡に、隙の無い表情を見せている。

 状況はそれほどひっ迫している


「一徹様、三組全員の配置が決まりました」

「……報告を・・・


 何かが、頭の中をぐるぐる回っている感覚。

 煩わしくてならない。だからシャリエールの発言に集中できるのはありがたい。


「あ……一徹……」

「兄さ……」

「おい! フランベルジュ特別指導か……!」

 

 なのに、ここで三人が話に割り込もうとする。

 そんな場合じゃない

 

「「「ッツ!」」」

 

 手を、かざす。黙らせた・・・・

 

「蓮静院小隊が境海虚穴ホールに向かいます。《アンインバイテッド》出現分を蓮静院君が押し戻し、鬼柳君が境海虚穴ホールの修復を」

「《王子》と《ショタ》班か」


 インカムのマイクに声が入らない様、シャリエールは手で包み込んで声を掛けてきた。

 報告を耳に入れる。

 秒もなく、報告内容を頭でくみ上げる。


「ヤマト小隊は殿しんがり境海虚穴ホールに集中する蓮静院小隊の背中を守るとともに、避難する観客の最後尾を守護」

妥当だ・・・。逃げ遅れに《アンインバイテッド》が襲い掛からないとも限らない」


 それらを視覚的イメージに起こすのだ。


「一番槍も、殿のどちらもを臆することなく務める。さすがうちの《主人公》はかっくいい! で、サポートを《ヒロイン》の弓で……なぁ? もうゲームだなぁ」


 一小隊ずつの配置を思い起こす。それによって、作戦の全体像が見えてくる心持。


 敵の侵入経路を一隊が潰し、その背後を守るもう一隊が、合わせて逃げ遅れの者たちを守護する。


「残りの二隊だが」

「猫観小隊はそこから避難場所までの経路の先導。および道中の《アンインバイテッド》襲撃に対する護衛」

「避難場所は?」

「決まりました。近くの市民体育館です。月城訓練生と相談して決めたのだと」


(早いな。手続きなんかはしてないんだろうが。緊急要請で無理やり確保したのか。多分間違いない)


 安全な避難場所が確保されている。

 その情報が明かされるだけで、非難員たちの不安は少しは和らぐだろう。

 

(この町に貢献し続けたあの二人だからこそ、出来る無茶だ)


「体力馬鹿の《縁の下の力持ち》と機動力に優れた《猫》。バランスがいい。ラストだ。《政治家》小隊が……」

「避難場所の守護者になります」

「適材適所だ。ショットガンに呪術杖の遠距離攻撃。接近を許さない」

「なおかつ、禍津さんは応急処置の知識もありますから……」


(こればかりはやっぱり、俺たちが編入する前、彼らが一年生の頃から付き合いがあるからできることだろうな)


「ならなおさら持って来い。《委員長》と《政治家》班も含め、これら策を、《主人公》は瞬時に練り上げちゃったか」


(ほんと、俺が女の子だったら《主人公》にホレちゃってゾッコンだ。が……)


「まだまだ青い・・

「ッツ! 一徹……様?」


 それではまだ足りない。抜けがあった。


「オイ、なんて顔してやがる。笑えよシャリエール・・・・・・・・・

「あ……い、いって……」


 話を一通り聞いてから、浮かぶ弱点なんてのはあるものだ。


(そうなると足らないが……アレさえ・・・・機能すれば……)


「なんだよお前たちも。こういう時はな、何とかなるって考えるもんだ。だろ? ルーリィ・・・・

「あっ……」


 その解決法はある程度算段ついていた。


『『『『『兄貴っ!』』』』』


(来やがったな)


 叫びが、近くなってくる。

 振り向いて思わず歯が浮きそうになった。


『ご無事でっか!?』

「良かった。お前らもか」


 声の主、傍まで駆け寄ったかと思うと、目の前にわらわらと集っていた。

 もともと名家の育ちとは無縁そうな感じ。誰一人として、家の都合で帰省していない。


「月城さんと刀坂の指示で動くはずじゃねぇ?」

『スンマセンねぇ。ぶっちゃけ無理でさぁ』

「だろうな」


 そのうち数名の、実に筋骨隆々な二年生が前に出た。


『学院で組まれた小隊内の先輩後輩は帰省しています』

『せやかて、会場にいる訓練生といきなり組めぇ言われても……』


(連携に、不安が残る)


 それも一つ、予測のついた、あの二人の作戦の甘いところ。


『だが、組まんと訓練生はバラバラだばーって』

『そんな状態で指示を出されましても……』

『その指示が誰当てか分からねぇべ?』

『なんなら指示対象が多すぎて、上の先輩も指示出しあぐねている感じじゃないですかい』


 統一性はない。

 仮に単一の指示を下したとして、全員が動いてしまうと、役割分担もできない。

 全体が一つの行動に専念したら、それとは別のところで問題も起きかねない。

 なら、一人一人に相応しい指示を出せるかというと、そんなもの時間の無駄だ。


(さすが。コイツら、性欲猿には違いないが頭は悪くない。だったら……)


「今から俺が、お前たちを小隊単位に分別する」


 だから、一言を告げた。


「二年生、手を上げろ。お前と……」

『了解でんがな』

「お前と……」

『ウィッス!』

「お前はそっちだ」

『来ると思ったべ?』


 しかしそれに対して、誰も異を唱える奴はいなかった。


「ここまで呼んだ二年生数名を小隊長とする。それ以外の二年生は副隊長。後ろにつけ」

『なんくるない。なんくるないさぁ。てかじゅら、やっぱ怖くなってきたばーって』

『来ましたね。僕が副隊長ということは、やはり……』

「続いて一年生!」


 振り分ける。

 小隊長、副隊長に勝手に任じた二年生とバランスがとれるような一年生数名。

 その構成で即席小隊の編成した。


(山本組50余名。編成できたのは9小隊か)


 小隊長に選んだのは全員前衛タイプ。

 副長を後衛としてサポートにつかせ、一年生をケアしながら、前後に牽制が効くような配置。


(震えている奴もいる。当然だ。俺とは違って、敵と交戦することだって……)


 一年生は不安そうな顔をしていた。

 二年生は、配置の意味をすぐ理解したのか表情は引き締まっていた。


 思ってしまう。

 これまで一度も《アンインバイテッド》と交戦経験がない彼らの命を、危険にさらしていいのかと。


「二年共。悪い……頼んだわ」

『『『『『『『ッシャァァァァッ!』』』』』』』


 念には念を押す。だが、真実吐きそうだった。


 二年生に一年生も守ってもらう。

 一年生の命の責任を、二年生に持たせてしまうということ。

 別に二年生の命だって保証されているわけじゃない。


「これより山本組は、月城生徒会長に援軍する・・・・・・・・・・・。最優先は会場からの《アンインバイテッド》流出防止。逃げ遅れた非難員の保護だ』

『『『『『おうっ!』』』』』


(いい返事だ。こんな雑魚の言葉に、変な信頼置きやがって)


「俺に出来るのはここまでだ。話は会長に通しておく。以降は彼女の指示に従ってくれ。それで……《カンパク》」

「こっこ~に。よくいるのが分かったね」


 頼もしい後輩共の気合をビシビシと感じる。

 なら俺も、自分にできる限りの最善は尽くさねば。それが、彼の名前を呼ぶことに繋がった。


「どうせ浴衣姿の胸元を、ドローンで空撮していると思ってな」

「あったり~。でも驚いたよ徹。そっちが・・・・本性なんだ」


 見るまでもない。

 バラバラとプロペラ音をはためかせ、降りてきたのはドローン秀吉に決まっていた。

 

「何のことだ。それより空からコイツらのサポートを頼みたい」

「親友の頼みなら。あ、僕を信じてくれるなら、好きなようにやっていい? 決して失望させないから」

「人格は別として、仕事ぶりは信頼してるからな」

「……へぇ? だったら……まかせなよ・・・・・


(ハッ! コイツ、今までにないほど声が本気かよ)


 話はまとまった。

 それと同時に、プロペラ回転率を上げて、一気に急上昇したドローンは姿を消した。


(なら、あとは……)


「お前たち……」


 改めて、舎弟どもに視線を送る。

 変わらず緊張していた。恐れていた。

 構わない。俺にとって願ったりかなったり。


「英雄にはなるな」

『『『『『え?』』』』』

「一対一は厳禁。多対一を厳守。積極的な交戦は禁止だ。相手との力量を弁えるのも実力の内。ヤバいと思ったらすぐに助けを呼べ」


 意外な言葉だってのは分かっていた。


「誰かの力を借りること。助けてもらうことを決して恥ずかしいと思うな。無茶して突っ込んで、取り返しのつかないことになるよりよほどいい」


 拍子抜けした顔をした奴らに、それでも言葉を送り続けた。


「英雄宜しく勇気をもって死んだとして、誰も喜ばない。卒業して正規魔装士官本職になって日々任務に取り組む。お前らが期待されてるのは、そんな未来」


(別に良いんだ)


「緊張してもいい、怖がってもいい。無謀に前に出るよりよっぽどいい。必要なら、逃げたって良い」

『あ、兄貴? いいんですかい? だってそいつぁ……』


 誰かが何かを言いかける。

 視線で牽制した。


「勘違いすんない。未来の百人千人を助ける為、今日の五人十人を見殺しにしろ……なんて言うつもりはさらさらない」


(それで俺が腰抜けと言われようが、構わない)


「守れればそれでいい。堅実に行けばいい。そのために助けを呼ぶことのどこにも、恥ずかしさはない。だから……」


 一歩前に出る。

 無力で雑魚の俺が、有能で、将来有望な後輩たちに念を押した。


「繰り返す。英雄にはなるな」


 話は、それで終わりだ。

 この危機的な状況で、3、4分を使ってしまった。

 もしかしたらこんなことしている間に犠牲者が出ているかもしれないと考えるだけで、胃からこみ上げてきそうだ。


(それでも……)


「山本組ぃっ!」


 吠えた。

 受けた後輩たちは、ピンと背筋を正す。

 その手に、それぞれの得物を握っていた。剣に、大口径の銃砲に、槍に呪術杖。


 一人一人の表情を、改めて見つめなおす。


「これより、状況を開始するっ!」

『『『『『おぅさっ!』』』』』


 号令。

 返答は、思い切りいい。

 秒もなく、弾き跳んだかのように、応えた全員、姿を消していった。


「死なないでちょうだいよ。俺のメンタルに来ちゃうから。それで、シャリエール」

「……ハッ……」 


 いなくなった舎弟どもの背中を、いつまでも眺めているわけには行かない。


「付き合いがまだまだ浅いからこそ、有効な運用方法が、俺たちに関しては刀坂ですら思いつかなかったようだ」

「一徹様。もしかして……」

「アルシオーネ!」

「んあっ!?」


 次は、俺たちの番。

 自分で呼びかけたくせに、シャリエールの言葉を、俺は塗りつぶした。


「猫観小隊の援護に回れ。お前との戦闘で、隊員が消耗している状態だ。お前の助力はありがたいだろうよ」

「ばっ! 俺に師匠から離れろって……」

「暴れまわってこい!」


 早々に、俺の小隊の役回りを決めなければいけないから。


「でもってナルナイ?」

「い、嫌です兄さま……」

「お前は蓮静院小隊に! 普段えっらそうな王子様に、山本小隊が貸しを作る! アイツもお前との戦闘でボッロボロなんだろ(カッコワロス)!」

「兄さまっ!」


 正しくは、俺以外の全員の役回り。


「普段ならアイツら小隊に、二年や一年もいる。この祭りじゃその限りじゃない。力を貸してやってくれ」

「……いつもそうやって。貴方は、自分以外を優先して……」


(自分以外を優先してか。それはちょっと違うが)


 《主人公》が俺たちの運用を決めることができなかった。なら、山本小隊に関しちゃ、俺がメイクデジションしなきゃならない。

 カッコいい横文字を使ってみたが、ただの方向性決めだ。


(アルシオーネとナルナイはこれでいい。あとは……)


「……君は、私たちに心配を掛けさせることになる。埋め合わせは期待していいかい?」


(ルーリィ・・・・だけか)


「一年生のサポート先を聞くあたり、私はさしずめヤマト小隊だね?」

「英雄三組最強小隊。山本小隊最強の君には、そこが一番似合う」

「私が一番立つにふさわしい場所は、君の隣だよ・・・・・

ルーリィ・・・・

「……分かった」


 後輩二人は、今も納得には至っていない。

 ルーリィに関しては、一味違った。


(頼もしくってしょうがない)


 この状況下で、随分落ち着き払っていた。


「一徹様」

「俺も遊撃に回る。だが……」

「別行動ですね?」


(ハハ。これだよこれ。シャリエールこれ)


 こんな一寸先は死を意識させられるような場にあって、俺が今感じているのはきっとギャップ萌え。


(ったく、このタイミングで……勘弁しろよ)


 普段は体をクネクネさせる魅惑的なお姉さん。


「全員揃っている三組が、この作戦の主軸だ。来場してる他の訓練生もそれを前提に動くはず」

「なら、避難経路などの誘導で、一つ大きな流れができますね」

「だが……」

「わかってます。それが山本組を使役した理由ですね。逃げ漏れがないとも限らない。まったく別の方面へ逃げる人だって……」

「念には念を入れる。舎弟どもの救助漏らしがないかカバーのために動き回る。取り残された来場者の保護を含め、俺とシャリエールは別行動の元、完全自由だ」

かしこまりまして・・・・・・・・


 それがいま、ルーリィとタメを張るくらいカッコ良かった。

 ……なんとも情けない話だ。

 そんな彼女が、俺の周囲を固めている。


 俺は無能だ。

 彼女たちと比較にならない程、自分が弱いことを知っている。


(深くとらえるなよ一徹。なんてことはねぇ。普段通りの小隊運用と変わらない)


 出来ることと言えば、俺に気を使うことなく、存分に力を発揮してもらうこと。

 なんなら俺はこの場にいらない。

 俺が近くにいては、きっと彼女たちは非難員より俺を優先してしまう。


「全員無理は禁止な。会場に散らばった他の訓練生、俺の舎弟どもと協力して、安全に、効率的に対応してくれ」


 なぜかわからないが、それだけは自信を持って言えてしまう。


(そして、俺だけ守られて目の前の誰かが死んだなんてことになったら……俺は俺を許せない)


「やるぞっ! 山本小隊……」


 それが俺なりの、クラス皆、世話になっている三縞市への貢献の仕方。


 無力。それは言い訳にならない。

 腐っても魔装士官訓練生。それが、記憶をなくした俺が歩み始めた二度目の人生セカイなのだから。


さんっ!」

 

 一声に合わせ、瞬間移動したのでは……と思うくらいの速さで姿を消す彼女たち


(ぜっ! 全然悔しくなんてないんだからね! みんなの足を引っ張るより、よっぽどいいんだから)


「ちゅう?」

「お、お帰り。銀色マンジュウ。タイミング良いな。いい写真は撮れたかよ」

「チュッチュ♪」


 そうそう、コイツの存在も忘れてはいけなかった。

 彼女たちがいなくなったのと同時。半開きの拳にどこからか潜り込んできた銀色マンジュウ。

 すでに、大戦斧への変態を果たしていた。


「ちゅっ? ちゅちゅっちゅ?」

「は? 『お前は誰だ』って? 何言ってやがる」


 一言目の質問が、意味の分からないものだったこと。

 少し答えに困った。俺はどう答えればよいのかと。


〘慌てないでください! 三縞校ですでに避難所を確保しました! 誘導員の指示に従って……〙


 困惑しそうなのと同時。耳に飛び込んできたのは、会場アナウンス機能を使った働きかけ。


(あぁ、そんなことわかっていた)


〘生徒会長から会場内全訓練生に通達。三年三組を作戦の主軸とします!〙


(この場で彼女が出てこないなんて、嘘だろう?)


〘不慮の事態ですが訓練を忘れず、迅速かつ柔軟に対応してください! 一年生は避難員に同行。二、三年は《アンインバイテッド》への牽制を!〙

「……月城さん。困ってんなぁ」


 フワッフワのロリッロリな声。

 されど毅然としていた。 

 この会場のどこからか、祭り運営用のマイクで避難員にアナウンスしながら、訓練生に指示していた。

 

 まるでこの場を統べる……


「いや、司令官には違いない。生徒会長なんだ」


ー高校生だよ! もうすぐ18歳になるのにっ!ー


「初めて出逢ったとき、中学生に見間違ったっけ。あんな……ちっこくてキャワワな娘も、こんな状況では戦うんだな」


ー大丈夫だよ? 山本君は……頑張ってるー


「頑張ってるのはどっちだよ」


 出逢ってからこれまでの、掛けられた言葉と笑顔を思い出した。

 

 いつも俺に優しくて、可愛くて……


(そんな彼女も、確かなる魔装士官訓練生だった)


「ハハッ! ク・ソ・が! あんな命の危険と無縁そうな女の子が、使命とこんな真剣に向き合って。なかなかどうして、俺なんかよりも全然心が強すぎんだよ!」


 打ちのめされた気にもなった。


(こりゃ、ビビったからって逃げられないじゃないか)


 思っただけだ。そもそもそんな気などさらさらない。


 彼女は司令官。だから一兵卒宜しく、現場で戦うことはない。

 どうでもいい。

 それならそれで、彼女は彼女の戦い方で戦っていた。

 それで十分だった。


「ハッ! 参ったね。勇気もらっちまった気分だ」


 わかってしまう。

 なら、俺も動かなきゃならない。

 例え特殊能力はなくても。《アンインバイテッド》に手が届かなくても。


「別に、構わねぇさ!」


 月城さんが証明してくれた。

 実戦、交戦で強さを誇る奴ら以外にも、使命や戦いに向き合うものがいる。


(やってやる。なら俺も、戦えないなら戦えないなりに、戦い方はあるんだよ)

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