テストテストテスト。久しぶりに4
「ひ、ひどい目にあった」
思いもしない。
後輩男子たちからの突然の舎弟入りコール、オンパレードや。
(恥ずかし。顔から火が出そうだ)
思い出すだけで、頭が痛くなってくる。
目の前、50人を超える後輩男子共。いきなり真ん中開けて花道を作りやがった。
恥ずかしすぎて、通れるわけがない。
断ろうとしたのに……
(『兄貴、バッグをお持ちします』って。やめてくれぇ。周囲から一層集まる奇異の視線。ただでさえ微妙な立場だってのに)
手近な二年男子がバッグをひったくる。そのまま花道を先導した。
返してもらわなければならないから。
結局その後を続く形で……
(お……
花道を成した後輩たちなんぞ、俺が前を通りすぎるタイミングで、一人一人「押忍っ!」なんて頭下げるのがまた前時代的。
(極めつけは……)
「あぁぁぁぁぁ……アイツらぁっ」
立ったまま、両手で顔面を覆い隠した。
当たり前だ。
前を行く学生に対し、舎弟を自称男子たちが、「どけ! 兄貴のご通学だ!」なんて怒鳴り散らかし、道を開けさせる……
(あぁぁぁ死にたいっ! これ以上悪目立ちしたくないってのに!)
「ホラ、落ち着いて一徹。制服のネクタイが曲がってるよ?」
自分一人ではぐるぐる頭の中が混乱してしまうから、冷静な呼びかけはありがたい。
「でもさ、分かるっしょ?」
「気持ちは分からないでもないけど、今だけは忘れよう」
顔面を覆った俺の両手に触れたかと思うと、ゆっくりと引きはがしたのは、我が小隊ご自慢の美少女副隊長様。
流れで俺の首元に指を伸ばし、ネクタイを整えてくれた。
「恥ずかしいところは見せられない。違うかい?」
「かもしれないが……」
「今日いらっしゃるのは、
「ね、ネクタイだけじゃどうにもならないんじゃない?」
別に、ネクタイを直してくれる細くて白い繊細そうな指を辺り前のように受けているわけじゃない。
朝からドキドキが止まらない。下手すれば照れ隠しに笑いそうになる。
でも、俺には許されない。
「ん、駄目だよルーリィ」
「その優しさは素晴らしいと思いますが……」
「時には厳しさも必要よ。貴女はちょっと、山本に甘すぎるんじゃないかしら」
(これだもんな)
山本一徹とは、女の敵。
そんなレッテルが張られた昨日今日。クラスの女子から敵意が和らぐわけない。
ネクタイだけじゃ……ど~にもならない。
「ミイラ男の包帯まみれで
全身くまなく、女生徒の怒りを体で受け止めた。
お笑いじゃないかと思えるほど、全身包帯でグルグル巻き。
(俺、やっぱ帰った方がいいんじゃない? だって今日……)
何を隠そう、今日がVIP訪問日である。
昨日臨検を行ったのも、俺が死に目に会ったのも、すべてはそれが理由。
「きっと大丈夫。むしろ関心すらされるかも」
「へぇ? トリスクトさんが冗談を言うなんて珍しい」
「盗撮写真のせい……なんて恥ずかしい理由が語られるかな?」
(は、恥ずかしい理由って……)
「訪問
「それ、無理ない? 直してくれたネクタイの歪みなんざ、もはや誤差っつーか」
「フフッ」
楽し気なトリスクトさんの表情に、俺も開き直ったようにニカッと歯を見せてやる。
(にしても、この学院とんでもな。なんつっても今日足を
「みんな、
と、トリスクトさんと笑いあったとこ。キュッと胸が引き締まった。
「
声の主は月城さん。
先ほどからずっと引き戸を開放していたから、声と共に教室内に姿を現した。
(さ……てぇ?)
ピンと、室内の空気が張り詰める。
理由は、俺もトリスクトさんも、3組全員も分かっていた。
「助かったわトリスクトさん」
「うん?」
月城さんは、VIP向けの学内案内役。
彼女が姿を現したなら、賓客は
「緊張がひどかったから。ちょっと笑ったら幾分か落ち着けた」
「……うん」
真隣に立ったトリスクトさん(なぜか手を繋いできた)に、感謝を述べ……
「「「「「「「「「ようこそ三組へ!
「ハハァァァァァッッ!」
その影が目に入った瞬間、平伏した。
「や、山本君……」
シーンと、教室内に沈黙が下りる。
静けさたるや、消え入りそうな月城さんの呼びかけが通るほど。
「山本。絶対ボロが出ると思ったわ」
「言ってやらないでやってくれ灯里」
「あ、阿呆がぁ……」
「皆で決めた挨拶、守り給え……」
「ん、3組の恥」
「あ、アハハ……」
「僕、なんだかすっごい恥ずかしいよ」
「変則的なファーストコンタクト。
(下手こいたぁぁぁぁぁっ!)
気付いてしまった。
みんなで話し合って取り決めたのに。俺だって右に倣えするつもりだったのに。
あまりの緊張みん。なの挨拶を、俺は土下座というか伏礼の形で塗りつぶしてしまった。
その姿、どれだけ滑稽か。
「ビックリしたぁ。歓迎が目に見えるのはありがたいけど。気持ちが逸ってしまったのかな?」
「お、お見苦しいところおば……」
「なんか、いたたまれないよ」
「ふぐぅっ!?」
滝汗、禁じ得ず。
脇汗、火山噴火の如く。
賓客の気まずそうな声を認めた瞬間、意識は」ブラックアウトしそうだった。
「まっこと……申し訳ございません。
「あぁ、そんなに気にしなくてもいいのに。というか、女皇陛下というのは頂けないな」
賓客とは、貴公子然と可憐さを併せ持ったゴイスー(語彙力)な雰囲気の絶世の美女。
(本当にこの学院って、俺にとってあまりに場違いだと思うのよ)
女皇陛下というのは、何の比喩でもない。
「みなから呼び慕われてる《姫殿下》って方がいいな。なぁんか女皇陛下って年増感無い?」
いまだ、声の主に顔を挙げることができない。当然だ。
何なんだよ。桐桜花皇国、
☆
「ほう、私は嫌いではありませんぞ
圧倒的大失敗。
額を床にこすりつける俺の頭に降ってきたのは、女皇陛下先の瑞々しい声とは違った低い声。
「私は、あまり伏礼が好きではない。長官閣下殿?」
「さようで」
(長官? まさかこの声、よくニュースで出てくる《対転脅》の長官の声か?)
「相手の顔が見えないのが嫌だ。それに、絶対的な精神的距離を見せつけられるような。少し寂しくないかな」
「早く慣れておかれるが宜しい。貴女は
「それでも……ね?」
多分、予想は間違ってない。もう一つの声の主は、《対異世界脅威対策室》の室長なのだろう。
その声に対して連ねた言葉を耳にしてわかる。
女皇陛下は随分人情家でいらっしゃるようだ。
「話は聞いたよね。起礼、立礼で構わない」
「も、勿体ないお言……いけません陛下っ! 俺、もとい私如きを前に、床に
慌てた。
気さくな方。気さくすぎた。
声を掛けてくれるのは嬉しい。
が、自分の国の本物女皇様が、平伏した俺の前で片膝を床につけたなら……
「かしこまらないでいいのに。立場は違うと言え、同じ桐桜花皇国に生きる者同士。距離が遠すぎるのは悲しいよ」
「それくらいが丁度宜しい。皇族と民草の距離は、昭和、正化に英弘と時代が移り変わるに近くなりすぎた」
「また古き良き昭和時代の話を持ち出すつもりかい? 《アンインバイテッド》の存在が世界を変えた。私たち
(な、何か、俺なんかが手を伸ばしても到底届かないような、高い次元で話が進んで……)
「やれやれ。お堅い長官殿がこの場にいては、彼も恐縮して顔を上げられないね」
知らないうちに話が飛んで、いつの間にやら、長官が女皇陛下に煙たがられるような流れになっている。
俺のせいではないと信じたい。
「魅〜卯君っ♪」
「は、はい陛下!」
「陛下ぁ~?」
「ひ……姫殿下……」
「うん♪ すまないけど、長官閣下を先に他の二組に案内してもらえない?」
「えぇっ? で、ですが……」
もちろん俺のせいで月城さんが狼狽えているなんてこと信じたくない。
「……陛下、お覚悟召されよ。お伝えしたい昭和の話は、まだまだありますゆえ。ご希望にお応えする代わりに、とくと聞いていただきます」
「それは、勘弁願いたいな(汗)」
話はまとまったか。
月城さんが「それでは長官閣下、こちらになります」と促したのがきっかけ。
複数人の足音が遠のいていった。
「いいよ。顔を上げたまえ。それとも今度は、私が平伏しようか?」
「ッツ! とんでもありません!」
耳元でささやかれる。なんてイケボだこと。
と、冗談でも不謹慎だ。
ユーモアも弁えられた方だそうだから、このままなら本当に土下座してきそうだ。
驚きに、心臓が爆発しそうになった。
「それでは失礼して」
意を決して立ち上がる。
(ちょっ! テレビを通してお顔拝んだことはあったが、実物は……比じゃねぇぞ? なんつーお綺麗な……)
「あれ君、その恰好……ミイラ……男かな?」
だが、顔を上げた俺に待っていたお顔は、ポカンと呆気に取られていた。
(ゲッ! 緊張しまくってて、いつの間にか自分の姿のことを忘れてた)
「クッ……クックッ……」
「あ、あの陛……いや、姫……殿下?」
「フフ……アハハッ……」
それが自分の今の格好のせいだと気づいた時には、すでに遅し。
だが、この姿が却ってよかったかもしれない。
女皇もとい姫殿下は、俺を一目見るなり、吹き出し、あっけらかんと笑い声を立てたのだから。
「フン、山本の阿呆さに救われたな」
「邪推はやめ給え。運が良かっただけだろ」
静まり返った空気が、少しだけ和やかになった気がした。
「ビビらせてしまってゴメン。
(おい、だけど、やっぱりコイツぁ……)
「で、こっちは私の
「き……木之下ネネと申します」
人を食ったような笑顔で、パチリとウィンクを下賜なさる女王陛下。
お傍付きとして、その後ろから少女が一人前に出たが、影の薄さにそれどころじゃなかった。
それよりも、女皇陛下だ。
何かオーラのようなものが、強烈な向かい風が如くブワァっと俺を後ろに押す。
ぶっちゃけ圧倒された。
「申し遅れました。山本……一徹です」
「山本一徹。君が
「へ、へい」
まさに小市民である。
完全に、雰囲気に呑まれてしまったのである。
日輪元浄四季女皇陛下。
細身なれど、ピンと姿勢を正した佇まい。何も言わないでも飛び切りの品と清廉さ漂わせた……だけじゃない。
物腰柔らかそうに見えて、中に芯の通ったかのような意思の強さが見え隠れする。
あれだ、きっとこれが俗にいう
(おれと同じ黒髪、黒目なのにこうも違うものか……って、あれ? 今、『君があの』って……)
「それで、君がルーリィ・セラス・トリスクト君だね?」
「
「へぇ、姫殿下のくだり、適応早いね。気に入った♪」
(って、トリスクトはトリスクトさんでゴイスーッ! 板に付きまくって……)
唖然としてばかり。
陛下を前に固まった俺から見たら、物おじせず、堂々と振舞えるトリスクトが眩しくてしょうがない。
「君たち二人には興味があった。ネネ?」
「ハイ、三組に、新たに加わった方ですから」
「どういう意味でしょうか?」
いるのかいないのか分からなくなるほどに影の薄い、髪も伸び放題で、ほとんど顔の見えない眼鏡女子の指摘。
思わず、首を捻った。
「気づかない? 私たちの姿を」
「陛……じゃなかった。姫殿下たちの制服……っすか? あ、ですか?」
「無理しないでいいよ一徹君。君の話しやすいように」
「すいません」
「あ、でも次に女皇陛下って呼んだら、分かるよね?」
(ぷ、プレッシャーが……)
賓客お二方にペコペコ頭を下げつつ、身に着けていらっしゃる装いにはどことなく見覚えがあった。
「なるほど。ご訪問の意図が分かりました。激励。第一魔装士官学院東京校の人間として、年度末の競技会に向け健闘を誓い合うため」
その時、入ってきたのは《主人公》だ。
「さらに深く言うなら認識の共有。私たちを前に、手心を加えられてしまったら競技会の意味がない」
「では、四季姫殿下も競技会への参加を決意されたと?」
「決意も何も。東京校の当代生徒会長としては、避けては通れない」
(やっと俺にも話が見えてきた。あの制服は東京校。姫殿下は東京校の生徒で。なら、教頭の《蛇塚なんちゃら》から俺たちの話を聞いたのかも……って……)
「え゛っ?」
(ちょっ……待てぃ。それって……)
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
絶叫してしまった俺は、きっと間違っていない。
「ひ、姫殿下が、魔装士官学院の競技会に?」
「うん。参加するよ」
「た、戦うんですか?」
「避けられないよね」
「異能力を使って?」
「訓練生の一人であるからには」
「マスキュリスで?」
「使用武具については、代々継承したものがあるのさ」
(女皇陛下様が、武器振るって戦うってか?)
「ま、マジですか……」
(ファンタジーかよ。あ、そういやファンタジーだった)
「あれ、一徹君? もしかして固まっちゃった?」
(……ファンタジー過ぎだってのぉぉぉ!)
「民の大半に異能力はない。その反応は当然だけど。本学院で驚かれると新鮮だね」
理解が追い付かず呆然と立ち尽くす俺。四季陛下は苦笑していた。
「阿呆が。貴様如き雑魚に心配されるような、ヤワな方ではない」
「蓮静院?」
やっと話に追いつけたと思った。一気に引き離された。
そんな俺に、珍しくフォローを入れたのが《王子》だった。
野郎、金髪サラサラの白馬の王子様宜しくな見た目だからそのあだ名をつけてやったのに。
本物を前にしたら、偽物感しか感じない。
「最強なんだ」
「は? 刀坂、いきなり何言って」
補足を入れようとして、教えてくれた《主人公》の発言。
それでもいまいちわからなかった。
「桐桜花皇国そのものと国民の安穏を憂いて、俺たち民草の長とし、この国固有の神々に、古来より祈られ続けてきた背景がある」
「桐桜花皇国の国教。《
(は、ははは……誰か、社会の教科書もってこい。一般中学レベルの物でいいから)
「二人とも、あまり詰め込みすぎるのはやめ給え。山本は少々、おバカな気があるんんだ」
あまりにも俺の中の常識と異なる。
初めてばかりの話のオンパレードに乾いた笑いしか出てこない。
「俺たちは、そのあたりも知っています。だから、たとえ相手が姫殿下であっても、正々堂々、全力で行かせてもらいます」
「うん。ヤマト君、その言葉が聞きたかった。さっき言った『認識の共有』とはそういうことなのさ。ま、結構大変でね」
「この後のスケジュールですが、京都、東北、九州など。他八校にも同様の目的で訪問予定が入っております」
補足情報を入れてくれる影薄キャラには申し訳ないが、やっぱ付いていけない。
「私たち如きが姫殿下の心中を推し量ることはできませんが。スムーズに後の予定が進むよう祈っております」
「ありがとう蓮静院君。三組のみなにも浸透したみたいだ」
(お……おまいら正気か。下層階級民如きが、いくら競技会って大義名分が立ったとして、武器手に取って殴り込むつもりか? なんという罰当たりな……)
「ひ、姫殿下。若干一名ほど、まだ衝撃に我を忘れているようです。それに、両手で腹部を抱えているような……」
(お腹痛いっ! 痛くなってきた……)
「面白くていいじゃないかネネ。一人くらいこういうキャラがそばにいてくれたら、私も退屈せずに済むのに。そうだ。彼も傍付きにしてみようか?」
「また質の悪い冗談を」
「そうでもないよ? バランスがいいんじゃないかな。根暗なネネと、チョットおマヌケな一徹君と……って、一徹君コイツは失敬」
いつしか腹がギュルギュル鳴っている。
痛みから、無意識に両手を添えた。
「あ、そういえば今、最強って」
「ん? いいよ一徹君。何でも聞いてくれて」
意外にも、状況極まった瞬間ふと頭によぎるものがあった。
「先日、御校の蛇塚教官頭が俺に打診した話」
笑みで訊き返してくれる四季殿下が、気さくな方で助かった。
「トリスクトとウチの小隊連中がそちらに転籍した暁、組ませたいとしていたのは陛下とですか?」
「一徹。君は……」
瞬間だ。また、部屋の温度が下がったような気がした。
「ん、納得。姫殿下とルーリィ、あの一年二人が組んだら、手が付けられないっぽい」
「僕、絶対小隊模擬戦で当たりたくない」
「手心の有無関係なしに、気を抜いた瞬間、瞬殺されそうよね」
ひそひそと口にする三組連中なんて、顔を引きつらせていた。
四季姫殿下といえば、余裕の表情を崩さない。
「安心していい。あり得ないから」
「そ、そうっすか」
その一言。思いがけずホッとした自分がいた。
トリスクトさんたちがいなくなるのはやっぱ寂しい。
ただ、もしそれが姫殿下のご意向だったとしたら、俺は姫殿下のご判断を邪魔したことになる。
「東京校最強と、三縞校最強格のトリスクト。一年生全国ランキング最強の二人」
「フン。こんなこと言いたくないが、競技会で勝てる気がせんな」
《主人公》、《王子》をはじめとし、三組連中は俺とは違う理由で安堵した顔を浮かべていた。
「そもそも、トリスクト君たちとの小隊編成を目された学生二人は、
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
「ひ、姫殿下! いけません!」
一喜一憂という言葉はこういう時に使われる。
一言に安堵し、湧いたかと思うと、次の一言で絶句させられた。
「分かっているよネネ。こんなこと言っては、女皇に幻滅してしまうね」
特に、先ほど皇族こそ桐桜花皇国にて最強との話が出てきたばかりだというのに。
その張本人が、あっさり否定したのだ。
「姫殿下、次のクラスに回りましょう」
しかし、その回答が状況を動かした。
「人気者は辛いね」
「三組みなさま、今のご発言は聞かれなかったことに」
苦笑いを見せた四季殿下は……
「え、あの……」
しかして、ゆっくり俺に向かって一歩踏み出した。
2メートルは離れて話をして、そのオーラに圧倒された。
ならほぼほぼゼロ距離の今、殿下から放たれる雰囲気につぶされそうになった。
「今日は君とルーリィ君に会えてよかった。特に、一徹君」
「きょ、恐縮……ふぇぇっ!?」
次いで、目の覚めるような衝撃。
四季姫殿下が、俺に手を差し伸べたのだ。
(あ、握手してくれって? まさか、相手はこの国の女王陛下だ。俺なんざ、パンピーの底辺オブザ底辺だぞ)
狼狽えは禁じ得ない。
ただ、これほど高位な方に握手を求められて応えない。侮辱に等しい。
それどころか下手をすれば、不敬罪で即効処刑台行きになりかねん。
「あ、あの……えっと……」
バクバクと破裂しそうな心音を感じる。自らを落ち着かせるため深く息を吐く。
恐る恐る俺も手を伸ばして……やっと触れられたのは姫殿下の指先……
「ッツ!」
否、触れた瞬間、指先に触れられた姫殿下の方から、ガシッと俺の手を握ってきた。
「君への興味が尽きない」
「姫……殿下?」
「私をして、先ほど言及された学生二人は最強と評せる。そして……」
「ぐぅっ!?」
爽やかないい笑顔をしていらっしゃった。
「トリスクト君や、君の一年隊員二人は、それと同格と言うじゃないか」
反面、手にはものすごい力が込められていた。
そして一層、寧ろ密着レベルに体を寄せてきた。
「そんな三人を、
(な、何を言って……)
「君がこのクラスに編入した経緯についても。この
小さく囁くように。
誰にも聞こえないようにしているのは明らか。
「うん、これで三組の訪問は満足」
告げると、フッと握り手の力を緩め、再び距離を取る。
「では、さらばだ我が
「また近いうち、お会いいたしましょう」
最初から最後まで要領を得なかった、3組へのVIP訪問。
ハチャメチャドタバタな嵐は、屈託ない笑顔で手を振り四季姫殿下が姿を消したことでやっと閉まることになった。
途端だ。
方々から「山本がしでかしまくって生きた心地がしなかった」やら、「帰りにファミレスに行こう。支払いはもちろん山本のオゴリで」なんて声が上がったものだが。
「さすがは、この国で
「……トリスクトさん? なぁんか顔、強張ってない?」
我が副隊長については、何となく剣呑な目をしていて……
「大丈夫。君は、
「うん、わけわかめ……」
それも、俺が声を掛けるに合わせ、表情を柔らかくさせていった。
(つーか、笑顔で見つめないでぇ。照れちゃうからぁ。にしても……)
全部が終ったはず……なのだが、少し気になったことがある。
あの、根暗影薄眼鏡少女、なんだって去り際、ずっと俺を睨んでいたのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます