テストテストテスト。久しぶりに3

(まさか、こんなことになるなんて……)


 俺自身、非常に困惑した表情をしていると思う。

 というか、同じような貌を彼らも浮かべていた。


「や、山本一徹です。その、宜しくお願いします」


 編入初日。

 担任を名乗った超絶大人美女、フランベルジュ教官に転入先クラスに連れていかれた俺の自己紹介がこれだ。

 本来、新たなクラスメイトたちに親近感を覚えてもらうため、趣味など発表すべきところ。

 情けない話。記憶の無い俺には、名前と挨拶だけで精一杯。

 拍手なんてまばらで、歓迎されているかどうか怪しいものだ。


「というわけで、山本君がクラスの新たな仲間になります。皆さん仲良く……」

「「「「「「「「ちょっと待て」」」」」」」」

  

(このハモりの見事さね)


 挨拶のため、黒板前に立たされた俺の正面に座る。今日から俺のクラスメイトになる奴らからのツッコミは息ピッタリ。

 

「彼の挨拶だけで先に進めないでください。俺たちには、わからないことが多すぎる」


(ははは……当然だ)


 その中で手を挙げ発言したのは、このクラスのリーダー格。


「俺たちも驚いているんです。二年間お世話になった教官が今日ここにいないこと。貴女は一体? それに……」


(目は口ほどにものを語るってな。言いたいことが、まるで顔に書いてあるようだ)


「編入生が二人いる・・・・なんて。しかもその二人とも、俺たちのクラスに……」


(そ・れ・な)


 的確過ぎる指摘。俺も心の中で苦笑するしかない。


「……だそうだ。新参者に、教官職は重いな? シャリエール」

「黙りなさい。初日から、訓練生を退学にできるくらいの権限は与えられています」


 耳に入る声には、抑えられた静けさが感じられた。

 が、何か得も言われぬ圧が、やり取りの途中に生まれている。腹の中で苦笑していた俺は、一瞬顔をしかめそうになった。


(なんというか、俺を含め、初日からこのクラスは尋常じゃなさそうだねどうも)


「新任教官のシャリエール・オー・フランベルジュです。皆さんの前任教官は栄転にて、本学を離れました」

「ルーリィ・セラス・トリスクト。所以あって、桐桜花皇国の本学院に、留学生として加わった。見知り置きを願うよ」


 落ち着いた聞き取りやすい声。怜悧冷徹とも感じられる音色の二種。


「き、聞いていないぞ俺たちは」

「そんな。あんなにお世話になった教官に、お別れの挨拶一つできなかったなんて……」


 声が良く通ったのは、突然の展開続きに絶句を強いられ、教室内が静まり返ったから。

 この状況下であえて言わせてもらう。その中で一番尋常じゃないのが、俺に違いない。


(お、お腹痛くなってきたぁ!)


 万全を期したつもりの編入復学社会復帰。とはいえ勿論不安や緊張はある。

 特に、無能力者の俺がファンタジー学院に入っちゃったなら猶更。


(なのに、なぜか更に畳みかけられているような……)


 制服の第二ボタン。みぞおち辺りに手を添えた。

 胃がシクシクとひきつるような。痛みが、ジワリ広がって強くなってきた。


 俺の不安を在学生が受け止めてくれたならそれが良った。

 が、彼らも親しかった恩師がいなくなったことで混乱していた。


(そんな状況、俺を迎えてくれるような心の余裕は、彼らに無いわけで。それに……)


「同じ編入生として宜しく頼むよ」

「えっと、確かトリスク……」

「そんなに緊張しないで欲しい。私は、君が言うところの正ヒロインなんだから・・・・・・・・・・

「……へっ?」

「君と仲良くしたいな。一徹?」

「はぁうっ!」


 さて、次のシチュエーションだ。握手を求められた。

 同じ日に本学院に飛び込んだ編入生同士、握手を交わす。問題は無いはずだ。


「……い、一徹?」

「あ、あぁ、こちらこそよろしく」


(だ、駄目だ。恥ずかしすぎて体中が熱くなってきた)


 否。差し伸べられた手を握ろうとして悩んでしまった。思い余ってゴクリと喉を鳴らしてしまう。

 いろいろとおかしい。

 間違いなく今日が初対面。それでいて、当然のように俺を下の名で呼ぶ。


(外国の習慣じゃ、下の名で呼ぶのが普通ってのは聞いたことがある。いや、そんなことどうでもいい。それより……)


 俺なんかが触れていいのか迷ってしまう程、差し出された腕はきめ細やかでスベやかそうなのだ。

 肌なんて、まるで白魚のような透けるほど。


(このクラスにしてこの編入生ってこったな。なんて眩しい……)


 そうなのよ。触れられないのよ。

 トリスクトさんとやらもご多聞に漏れず、おったまげるほどの美人だから。


「行動は何よりも雄弁に語る。『触りたくない』と。一徹様の気持ちの証明です」

「これは私と一徹、二人だけの話。貴女の出る幕ではないな」


 目ん玉飛び出された豊満バディの超美女教官。

 近くに立つだけで緊張感を覚えさせるほどの美形編入生。


(なんだこのクラスは。芸能人も真っ青レベルの容姿がないと、所属しちゃ駄目なんじゃなかろうか)


 その二人が下の名で俺を呼ぶ。

 初対面として考えられないほど心の距離が近いような接し方をする。

 そんなん、俺が落ち着いていられるわけがないじゃない。


「なぁ、山本」

「あん?」

「これまでを聞く限り、二人ともお前を知っているようなんだが」


 そんでもって……


「前任教官の異動含め、この編入に関わる詳細を、お前は知っているんじゃないか?」

「そんなわけがないんだぁ刀坂クン・・・・


 憧れの月城さんの心を占める、俺のにっくき恋敵。

 主人公系男子、刀坂ヤマトがこの教室にいる事実。


(だ、駄目だ。予想外すぎる展開の連続で、脳が処理しきれず沸騰しそうだ)


 まさかこんなことになろうとは。


「そもそも、このクラスに所属することだって今日初めて知ったんだぜ?」


 彼の名前を口にする。そういうことだ・・・・・・・

 三年三組。通称は《英雄三組》……だったか。


 異能力学校最優秀クラス。

美少年イケメン美少女百鬼夜行な、容姿お化け軍団。

 ……そんな中に、無能力者で、ブサメンとは言いたかないが、申し訳程度にフツメンを自称したい俺が編入しちゃったわけで。


(なんでだよ。前にこの学校の見学に来た時、『三組はない』って話だったじゃんか)


 最有力候補は三年二組。つまり月城さんと同じクラスに所属するかもしれないと、彼女の口から聞いていた。

 三組の刀坂が月城さんと言葉を交わせるのはせいぜい休み時間くらい。

 同じクラスで学院生活を過ごすことで、彼の知らぬ間に月城さんとの距離を縮められるかもしれないと、少しながら期待があった。


(ど、どこでどうしてこうなった……)


 俺、場違い感半端ないって。 

 普通の学院生活すら送れひんやん。

 こんなんなるなら編入前に言うてくれや。

 編入復学社会復帰諦めて、下宿に引きこもり、ラノベ読みながらゴロゴロしてるから。



「以上で新年度オリエンテーションを終わります。質問のある人はいますか?」


 新学期年度の授業の進め方。ファンタジー学院三年生の心構えや進路について。

 編入初日は、それら説明の終了と共に終わりのはずだった。


(なんだって俺、こんなドキドキしてんだ?)


「一徹様?」

「特にありません。フランベルジュ教官」

「大丈夫かい一徹。顔色が悪いよ」

「き、気のせいだよトリスクトさん」


 考えるまでもない。

 胸が苦しくなるほど動悸が激しいのは、この二人が原因だ。

 

 三組全員が説明対象でありながら、ずっと俺にだけ視線を向ける新任教官。

 隣の席になっちまったトリスクトさんなんて、頬杖ついて、先ほどから俺の横顔を見つめてきた。それを隠そうとすらしないんだ。


(気まずいというより、恥ずかしいことこの上ない。っていうか、「様」ってなんだよ。「様」って)


「では今日は解散とします。一徹様ともう一人の方は、このまま《天授うけの儀》を執り行うので残るように」


(さらになんだよウケノギって。ファンタジーかよ。あ、ファンタジーか)


 俺を置いていくように次々進んでいく状況。


「貴女は、この私を『もう一人の方』で済ませるつもりか?」

「聞く耳持ちませんね。学級院長?」

「は、はい。起立……」


 英雄三組の委員長。オサレフレーム眼鏡をかけた知的美少女が……


「礼」


 フランベルジュ教官に促され号令を挙げるまで、結局俺はほんろうされてばかりだった。



「それでだ……」


 オサレ眼鏡な委員長の号令で、新学期一日目、英雄クラスこと三年三組は解散……したはずだった。


「なんで君らがここにいる」


 呼び方が「君ら」であることが重要だ。一発で距離感を分からせる。

 アチラさんはヨソヨソしさを感じるだろうか。

 ……あえて言おう。

 そのヨソヨソしさを感じてほしい。何なら遠慮してほしかった。


 彼らへの質問。

 裏を返せば「どこかに行ってくれ」に等しい。


「スマナイ。二人の儀式だってわかってはいるんだけどさ」

「刀坂……クン」

「刀坂でいいって」


 誰一人欠けることなく教室に残っていた。


「なんといえばいいか。ワクワクするんだ。それが自分の儀式じゃなくてもさ」

「ワクワクって……」


 英雄クラスの主人公が前に出る。発言の意味が分からない。ただ表情には期待感が満ち溢れていた。

 他の連中も表情はそれぞれ違うが、何か思惑はありそうだった。


「ただ、もし本当は俺たちがいるのが嫌だって言うなら……」


(ハッ! この爽やか野郎。気の利くところもサラリと見せてきやがって)


 自然と刀坂に対する毒が胸の中に生まれる。ただ今のような状況では、わきまえてくれるなら幸いだった。


「あぁ、今回はできれば遠慮……」


 その気遣いに甘えさせてもら……


「ご、ごめんね。実は私も楽しみにしちゃってた。配慮が足りなかったね」

「んなぁっ!」


 声。

 完全に、俺の予想の外を行っていた。

 ここは三年三組。教室にいるのは、俺も含めた三組生徒でしかるべき。


「この声は……月城さんっ!?」

「あ、あはは……」


 声色での直感。声のもとに慌て振り返る。月城さんが、申し訳なさそうに笑っていた。


「い、いつの間に。っていうかどうしてここに?」

「二組もオリエンテーションだけだったんだ」

「そっか。じゃあ二組もすでに解散して……」

「山本君の《天授ウケの儀》が今日行われるのは前々から聞いてたし。編入初日だったから困ったことないかなって……」

「気にかけてくれて見に来てくれたのか?」

「う、うん。儀式も終わったら初日くらい一緒に帰ろうと思ったんだけど。でもちょっと気を使いすぎたよね」

「そ、そんなこと……」

「編入初日だもん。もしかしたら三組内で親睦を深めるため、皆で何処かに遊びに行ったかもしれない」


(あ、あの月城さんが俺に会いに来てくれただと? 俺のことを心配してくれて……)


「ご、ごめんね。そう思ったら私も考えがちょっと足りていなかったよね」


(なら、断る理由がどこにあるってんだ)


「んもぅ全っ然、まるっと、これっぽっちも、もーんだーいナッスィング! どうぞ心行くまでご照覧しょうらんあれぇっ!」

「「「「「「「「おい/ねぇ/あの……」」」」」」」」


 嬉しさからほころぶ表情そのままに、思いっきりあげた両腕で、頭の上に大きな丸を作って見せた。


「じゅ、十秒前まで嫌そうな顔をしていたはずなんだが。もしかしたら俺、山本に嫌われているのか?」

「嫌われてはないと思うけど、貴方に含むところはあるんじゃないかしら」

「ど、どうしてだ灯里? 前に一度だけ挨拶したが。新学期初日の今日が、実質の初対面なのに……」


 爽やかクソ野郎と美少女ハーレム構成員Aが何かを言っているようだ。

 他のクラスメイトたちも何か言いたそうだが、んなことどうだっていいのだよ。


 俺にとって、何より最優先重要事項は月城さん。

 彼女が楽しみにしてくれていたというなら、楽しませてあげたいじゃないか。


(この学院は3年間同じクラスと聞いている。なら三組の刀坂美少女ハーレム構成員A・B・Cについては今更どうにもならん。だが……)


「う……な、なぜか山本から睨まれているような……」


(月城さんを刀坂美少女ハーレム構成員Dになんてさせてたまるかよ。って、この娘が4番手って。何様だこの野郎!)


「お、おかしい。気づかないうちに、何か山本を怒らせるようなことをしたのかな」

「へぇ。この編入生、追い風かも」


 クラスメイトに対して俺が反応するまでもない。

 爽やか君の発言は、基本的に美少女ハーレム構成員Aの対応で完結しているようだった。


「皆さんお静かに。儀式を始めます」


 予想外の観客の立ち合い。

 決定する頃合いを見計らったのか、これまで黙っていたフランベルジュ教官が呼びかけた。


「最初に一徹様」

「は、はい」

「注目されるのは恥ずかしいかもしれません。ですが三組全員の立ち合い決定は、結果的に良かったかもしれません」

「どういうことです?」

「百聞は一見にしかず。まずはご覧ください」


 諭す声は努めて静か。されど教官以外、口を閉じているから。声一筋でも耳によく染み入った。


「《具現化せよイグジスト》」

「っつ!」


 息をのんだのは、「ご覧ください」と言ったくせに、フランベルジュ教官の動きが非現実的ゆえ。

 

(腕が……千切れたぁぁっ!?)


 空を掴むように、何もない空間に手を伸ばしたフランベルジュ教官の肘関節より先が、消失している・・・・・・

 目の当たりにした俺が上げてしまったのは声すら出ないうえでの悲鳴。


「へぇ? なかなか便利そうだ」


 ただ、どうやら驚いているのは俺だけ。

 トリスクトさんと月城さん以外、三組連中は驚いた俺に向かって楽しそうに笑っていた。

 そのトリスクトさんなんて、俺の編入仲間らしくこの光景は初め目にしたようだったが、感心したように小さく頷いているだけだった。

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