ナルナイと。The Death March of Christmas 多忙すぎるクリスマス準備 12月23日

テストテストテスト。久しぶりに1

「とうとうここまで。長い旅も、あと一息で終わりとなりそうだね」

「魔王へのトドメは、みんなで一緒に刺しましょう!」

「私、残りの余生は報奨金で、悠々自適に暮らすんだ♪」


 暗闇が厚く空を閉ざし、明るく暖かな太陽の恵みが届くことはない。

 光の恩恵を受けることのないとある城郭。

 その天守閣では、どんよりとした重く暗い、おどろおどろしい雰囲気に、あまり似つかわしくない明るい声が響いた。


「ねぇ、この旅が終ったら、君はどうするつもりなんだい?」

「え?」


 手に取った松明の明かりを頼りに、声の方へと視線を向けた。

 長い黒髪を後ろに束ねた、誇り高く、心の強そうな美少女が、俺に向かって振り返っていた。


「俺か? そうだなぁ……」

「……君さえよければ……なのだが。私と……」

 

 真面目一辺倒そうなその少女は、いつもは口を「への字」に、真剣味を崩さない。

 いまは、チョット不安げに笑っていた。


 回答には困った。俺は、そのあとの物語を知らないんだ。


「自重しなさい。勇者とは万民の為の存在。誰か一人だけの者にはなりえない」


 呼びかけに割って入ったのは、ユルフワ系の金髪ロングのこれまた美女。

 落ち着きがあって教養深い。俺を含め、4人の中では一番年上のまとめ役。


「この旅を通して、そのことは痛いほどわかったはずです」

「それは、そうかもしれないが……」


 その口から諭されたとあっては、たずねてきた真面目美少女も苦しそうにするしかなかった。


「あ、私そういうのパス。それに、もうすぐ勇者じゃなくなるんだから。だよね?」

「ハハッ。最初勇者認定受けたときは嬉しかったが。今は早いとこお役御免したい」


 二人の美女が作っていた空気を引き裂いたのは明るい声だった。

 パーティのムードメーカー。


 お姉さん的なユルフワ美女がいて、堅物な美少女がいて。

 で、一応勇者として活動している俺は、割かし適当人間だったりする。


 そんな中で、常にあっけらかんと笑う銀髪ショートの女の子。

 パーティ最年少。だが実は、彼女がいるからこの4人はバランスが取れていた。


「ここで魔王を討って使命を果たせば。そうしたらもう……」

「みんなの勇者でいる必要はない。だな。ここで仕損じるのもバツが悪い。旅が終ったらどうするか。これが済んだら考えるさ」


 さぁ、話はまとまって、物語は終局へと至る。


 一歩、前に踏み出したと同時。

 俺の両隣に立っていた美女たちもそれにならった。倣って、床に広がるドス黒いナニか・・・を取り囲んだ。


「……みんな、これまでありがとな?」


 声はかけた。しかし俺はナニか・・・から視線を逸らすことなく、両の手で逆手に握った剣を、剣先を、ソレに・・・向けて振り上げた。


「これで最後だ」


 振り上げるとともに、視界の端で、他の三人もそれぞれの武器を振り上げたのを感じ取った。


「「「……大好き……」」」


 力の限り振り下ろした瞬間。同じタイミングで得物を振り下ろしたであろう彼女たちの、静かな告白。


 剣先がナニか・・・に突き刺さり、ドッという鈍い音とともに、鼓膜をつんざくような悲鳴を受け止めた俺は……


(ウッヒィ! 主人公の俺様モッテモテ~! 勇者サイッコ~!)


 魔王・・最期の瞬間にも、美女たちの感情の吐露とろにも、相応しくないことばかりが、頭の中に駆け巡っていた。



「ん……顔が、重い」


 おめめもパッチリすっきりだ。

 顔全体にのしかかる負担。瞳開けてなお、視界が真っ暗であること。


「なんだ夢かよ。なんで起きちゃうかなぁ。勿体ねぇ」


 その理由がすぐに思い当って、ため息がこぼれた。


「よっこらせい」


 背中の小さな痛みを感じながら、上体を起こす。

 それとともに、顔面上の重しがぼろりと落ちた。


「だいぶ気に入っちゃったかよ俺も。夢に、その世界が反映される・・・・・・・・・・とか」


 目に入ったのは、俺が今までおねむしていたことでシワシワになったシーツが掛けられた硬いベッド。そして一冊のライトノベル。

 ライトノベルの方は、読みかけでページを開いたまま、いつの間にやら寝落ちた時に顔に被さってしまったんだろう。


「あぁ、にしてもいい夢だった。勇者最強俺TUEEEEEE!」


 イケメン主人公を、ちょっとエッチな格好した美少女たちが取り囲んでいる表紙を目にする。

 先ほどの夢を思い出して、笑い声が上がってしまった。


「ん~!」


 そのまま両腕を天井に向ける。変な声をあげながら伸びをする。


「悔しいよなぁ。いつもいいところで夢が終わる。たぶん、あの後魔王を倒した勇者は、あの三人の美女たちとウハウハムフフのモテモテハーレムッ!」


 いいじゃない別に。恥ずかしい夢を見たってさ。

 ライトノベルの主人公勇者だけが俺に置き換わった、あとは作品通りの世界観が反映された夢の中。

 それは俺だけのセカイ。誰に迷惑をかけているわけでもない。


 俺はその世界の中ではチートの最強で、強気を挫き弱きをたすく。

 パーティメンバーの美女たちはもちろん。旅の途中で出会う女の子達からもモッテモテでウッハウハ。


「だぁぁぁぁ! チーレム(チートハーレムの略)最っ高ぉぉぉっ!」

「キャッ!」


 想像するだけで昂って、思わず伸びの時上げていた両手をガッツポーズ。興奮から声も張りあがった。

 間髪入れず、床に様々なものが散らばるガシャンという音。


「へ?」


 それに拍子の抜けた声を漏らしてしまって。

 小さな悲鳴と落下音に反応する。何処か学校の制服姿の女の子が、驚いた顔をして、俺が今いる部屋の出入り口で立ち尽くしていた。


「ちゅ、中学生?」

「こ、これでも高校生だよっ! もうすぐ三年生になるのに!」


 初めて見る顔。とても可愛らしい女の子。

 

 普通なら「どなた?」と聞くべきところ。

 俺がしばらく過ごしているこの場所では、めったに見る格好じゃない。少しの驚きと物珍しさが、変なツッコミを入れさせた。


(めったに見ない格好か? いや、単純にそんな縁が俺に無いだけだな)


 改めて、姿を現した少女をなんとなしに眺めてみた。


(なるほど。こいつぁ確かに……)


 剥きたてのゆで卵のようにツヤツヤした肌。

 小さい背丈。

 後ろにゆるく束ねられた長い髪と同色の、クリクリした瞳に宿る光にけがれはない。


 これだけなら俺が中学生と勘違いしたのも無理はない。小動物すら彷彿とさせた。


 しかしながら……


(女子高生かもしんない。なんつーか……デカい・・・)


 何とは言わない。が、その圧倒的な存在感が、彼女のそのパーツ・・・・・に俺の目を引きつけさせた。


(ロリ巨乳トランジスタグラマーってやつか)


 こんなもの、確かに中学生が実らせないはずである。

 よしんば実らせたとするなら、そんな存在はもう……


「反則だ」

「あ、あの……」

「あ、いや、スマン。なんでもない」


 心の声はダダ漏れ。

 純粋そうな瞳の見知らぬ少女が、不安げに俺に呼びかける。あたかも汚れ切った俺の頭の中を探っているようにも思えて、慌てて咳ばらいでごまかした。


「君は、誰かのお見舞いで・・・・・・・・来たのか?」

「え? お、お見舞いというか……」

「残念だけど部屋違いだ。ここは個室。そして俺一人しかいない」


 よこしまな考えを悟られないように、取り繕いの笑いを浮かべてみる。


山本一徹やまもといってつ君……かな」

「は?」


 予想外の展開。

 ここは俺が使っている入院患者個室・・・・・・

 俺の知らない女の子が入室して。しかして彼女の方は俺を知っている・・・・・・・ようだった。


「病室前の名札で確認して。貴方が山本一徹君でいいんだよね?」

「それは……」


 否、俺自身ですら不安のぬぐい・・・・・・・・・・・・切れない己の身分・・・・・・・・を、確認してきた。


「あ、ごめんね。私の名前は月城魅卯つきしろみう。山本……君の、学業面のフォローをするように依頼されて」

「山本一徹。いや、山本一徹……らしいって言った方がいいのかこの場合。俺は……」

「話は伺っているよ。交通事故にあって……って、ごめん。この話はやめた方がいいよね」


(へぇ、いい娘なんだな)


 月城魅卯つきしろみうと名乗ったロリ巨乳。

 自ら名乗りを上げたことが、俺へのタブーを引き出したとでも思ったか。表情を少し曇らせた。

 話を少し強引に終わらせたのは、きっと気を使ってくれたに違いない。


「ん? 学業面のフォローって?」


 自己紹介が重たくなって、思わず忘れかけていたそれこそが本題。

 月城さんは、ただ少し笑って、俺がこの1、2か月横にな・・・・・・・・・・っている・・・・ベッドの脇に、分厚い書籍を何冊も置いた。


「今度の4月、高校3年次の編入を目指して、これから三か月間山本君の勉強フォローに付き合うことになったの」

「高校三年生。編入。学校に行くのか? 俺が?」


 予想外の展開は続いて、思いもしなかった内容に息が詰まりそうになった。


「何アホなこと言ってるの。当然じゃない。アンタまさか自分の歳まで忘れたなんて言わないでよ」


 俺と月城さんの間に立ち込める微妙な空気。切り裂いたのは新たな声だった。


「18歳の男の子といったら学生するのが当たり前。今のアンタは、ただちょっとイレギュラーな状況にあるだけなんだから」

「トモカさん」


 初対面の月城さんは別として、この声なら覚えはある。

 

 トモカ姉さん。俺の保護者だ。


「この娘にアンタの勉強を見てもらう。併せてリハビリにも励んんでもらう」

「リハビリ? い、いいんですか?」

「いいも何も。医師せんせいからも身体面では心配いらないってお墨付き」


 目鼻立ちがバッチリ。美人さんだ。

 年齢は30半ばまで来ていると聞くが、感じさせない程に若々しく活発。

 女性としては背の高い方で、だからスタイルは一層スラリと細く見えた。


「やっとこの病院生活から脱却できるんだ・・・・・・・・・・・・・

「ん~? リハビリのさなか、『入院生活の方が良かった』なんて泣きが入るかもしれないわよ?」

「や、やだなぁ。驚かさないで下さいよ」


 ボーイッシュというわけではないが、ショートな髪形ということもあって、ただでさえ威勢のいい気風に、拍車がかかっているような女性


「冗談じゃないのよ。勉強にリハビリ。どちらも頑張らないと、きっとついていけないだろうし」

「ついていけない?」

「もうすでにある学校に編入願書は出しちゃったから」

「え゛! 今聞きましたよそんなこと」

「当たり前じゃない。今言ったんだもの。なかなか偏差値が高い優秀な学校。基礎体力の方でもね」


 耳にしてもしばらく、残念ながら話が呑み込み切れない。

 黙って月城さんに視線を送ってみるも……


(うげ。全部本当の話ってことかよ)


 月城さんの困ったような笑顔は、トモカさんの話を肯定しているように見えた。


「だ、大丈夫か俺。しょっぱな自信なくなりそうなんだが……」

「だ、大丈夫だよっ! 頑張ってフォローもするし、応援もするから! 一緒に頑張っていこっ! ね?」


(なんだ。天使か? この娘……)


 保護者であるトモカさんが意地悪だから。

 慌てて取り繕う月城さんのやさしさに、何か後光のようなものが彼女に差しているように見えた。


「一緒に最後の一年、良いものにしていこうねっ! これから宜しくね。山本君!」

「……うん。宜しくお願いしちゃおうかな。月城さん」


 少し大げさに明るく振舞う月城さん。

 入院ベッドに横たわり、体を起こしただけの俺の右手を、両手で包み込んできた。

 早速の有言実行ってところか。すでにこうして応援してくれるのだから。


 ちっちゃくて、柔らかいおてて・・・

 季節は1月の冬真っ盛り。握ってくる手はとても冷たいのに、どういうわけか暖かくも感じた。


(ん? 『この一年を良いものに』ってどういうことだ? 文武のフォローは三か月間だけじゃ。『一緒に』って……?)


 こうして、事故で両親と記憶をなくし、トモカさんに引き取られた俺の、あたらしい一年に向けたスタートアップが始まった。

 まるで転生にも違いなくて、言っちまえばこれは、新たな人生を生きるための準備運動。

 

 まさか事故の後に担ぎ込まれ、1、2か月過ごした入院先で、この展開に至ることを誰が想像しただろうか。 

 それもこんなロリ巨乳美少女とである。

 うん、満更でもないかもしれない。


 今度こそ俺は、第二の人生を思いっきり生きてやる。

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