第116話 共同戦線。大切な女性から、かつて全てを取り上げたクソ野郎に復讐を(下)
『理由を見つけてはトモカさんと関わろうとね。仕事で一層の協力をお願いして、お礼にこの
「え、でも……トモカさんの社内イジメって、旦那さんとの繋がりが……」
『そのあたりは即対処した。あの日、彼女を送り届けてから、自然とその背中を目で追うようになった。だからすぐ気づいた。どうやって終わらせたのかの詳細は避けるよ。これ以上、この酒席を湿っぽくしたくないからね』
クスリと笑って、旦那さんは乗せた手を、俺の肩から今度は頭に置いて、ポンポン優しく叩いた。
詳細は聞けなかった。それは構わない。大事なのは……
『でもそのことがあってから、トモカさんは少しずつ僕に心を開いてくれるようになったというか……初めて笑顔を見せてくれたんだよね』
きっとトモカさん自身では、もはやどうにもならない状況。旦那さんが前へ出て……心を守ったということ。
『100%の笑顔じゃない。申し訳なさが80%混じっていた20%の笑顔。それがね、もう僕のハートをズッキュゥンって!』
(オイ、ちょっと感動していたのに。ダサい表現はやめてくれって。水差してるから)
「『放っておけない』って意識していた状態から、僕は『もっとこの人の色々な顔を見てみたい』って探求心めいたものが生まれてしまった」
なんてことはない。
探求心というか、きっとそのとき旦那さんは、トモカさんに恋をしたんだろう。
俺は、そこらのラノベに出てくるような鈍感主人公じゃないんだからね。これくらいのことを気付くのは、朝飯前。
少しホッとした。
旦那さんが話を切り出して以降、ここまで、衝撃的で暗い話ばかりだったから。正直、気が滅入りそうだった。
でも、話の流れを注視する。
トモカさんは旦那さんに守られ、旦那さんは、トモカさんを女性として意識した。
いまや、そんな二人の関係は……いや、子供も生まれ、三人になった現状を俺も知っているから、そこから先は、明るい話に違いないのだ。
『あの手この手で食事に誘った。トモカさんが休憩中、席を離れようものなら、即ついていった。何度も断られた癖して、諦められなくてね。本当、しつこい男は嫌われてもおかしくなかったし、下手したら社内セクハラと言われも……』
「それが通った。ならきっと、本当に縁だったんですよ」
『僕もいまはそう思っている。やっとランチでOK貰ったとき……嬉しかったなぁ』
実際に、旦那さんの表情も、話始めより幾分か硬さが取れ、笑顔を見せている。
『そうしてデート回数を何とかか重ねることもできて。ランチデートはディナーに。ショッピングやドライブなんて、丸一日使うようなデートバリエーションも増えて。そのたびに僕は、トモカさんのことが好きになった』
「そうですか。そりゃあ良かった」
「20%の笑顔が5、60%に位になった頃かな。きっとこの人の本当の性格はもっと明るいんだろうなって」
それは、きっと楽しかったに違いない。
頑なだったトモカさんの秘めたる部分。周囲にとっての謎を、旦那さんただ一人だけが掘り起こし、発見することができる優越感。
『転職当初は地味で暗い人だと思ってた。いつしか、本当の明るさや魅力を、自分で覆い隠してしまっていたことに気付いた』
それは、トモカさんにとって特別な、旦那さんだけに許された特権。
『……《
「ブフハァッ! ゴホォゴハァッ!」
感嘆した心持で話を聞いていた中で、また突然のトンデモ発言が飛び出した。
ただでさえ酒が喉を焼くというのに、変な気管に入ってしまってせき込んでしまう。そこが熱くなる、嫌な感覚が生まれてしまった。
『『付き合ってください』って月並みな発言。トモカさんは、恋愛自体に憶病になっていて』
「臆病……ですか?」
「『関係が深くなれば深くなるほど、別れるときに辛くなる。だから、誰かと付き合うことが怖い』って」
瞬間だった。
先ほど、トモカさんが転職4社目でダウンしたときの理由の一端が旦那さんにあったと聞いて(実際は旦那さんのせいじゃなかったが)、腹立ちが湧きあがった。
が、その腹立ちは、一瞬にして話に出てきた《昔の恋人》とやらにシフトした。
『だからねぇ……僕も、覚悟を決めた』
「覚悟……ですか?」
『うん。告白は、言ってみれば交際交渉みたいなものじゃない?』
「何を言って……」
急に、恥ずかしそうに笑って頭をかく旦那さんの言っている意味が分からなくて、首をかしげてしまう。
『結婚を前提に、お付き合いしてくださいって』
(おっ……とぉ?)
『精一杯のセリフだった。
「す……すげぇ……」
柔和で人が好さそうな感じの旦那さん。
もっとこう、直球なセリフではなく、遠回しでトモカさんにアプローチを掛けていたものだと思っていた。
だから、意を決してその様に伝えた
『凄いのかなぁ。僕はトモカさんと一緒にいて、もっともっといろんな表情を見せてもらいたいっていうのと共に、たぶん別の思惑があったんだよ』
「思惑?」
『
くすくすと笑って、だし巻き卵をつまみ口に放り込む旦那さん。
『想いが届いて、彼女は僕のプロポーズまがいの告白を受け止めてくれた。あとで正式にプロポーズは交わしたけど。機会があって彼女の地元の友人夫婦と食事をする機会があってね』
優し気な笑顔に、「復讐」という言葉が似つかわしくなさ過ぎて、目が離せなかった。
『大方の話はそこで聞いたんだ。その友人夫婦というのは、トモカさんの高校の同級生だった。三人共通のクラスメイトの誰かさんが、その《昔の恋人》』
「よ、良く取り乱しませんでしたね。だってそういう場合、婚約ってのわかった上で食事するわけですよね? んな話が出てくるなんて……」
(本当に凄いなこの人)
いや、この人が凄いのは知っていた。
圧倒的な包容力というか、器が深く、広い。だからこそ俺は、この人のもとで家族を安心してやらせてもらえている。
とはいえ、復讐対象である《昔の恋人》の話が、婚約祝福の場で出されたことを、「いまとなってはいい思い出」とでも言うように優しい顔で口ずさむことは理解できなかった。
『相手夫婦の奥さんが、トモカさんの婚約に感動して羽目を外しすぎ、酒を凄く入れちゃって。号泣しちゃったのさ。そんな状態で出てきたのが、《昔の恋人》の存在。憤慨も出来なかったよ。だってもう亡くなっているって話だし』
「えっ!?」
(まて、え? いまなんて言った? 復讐対象っつー《昔の恋人》が……死んでいた?)
『結局大わらわになって食事会はおしまい。でもどうしても気になって、僕だけ、その相手夫婦と後日お会いする約束を』
「色々と、話を聞いたんですね?」
ここまでくると、俺も身を乗り出してしまっていた。
きっと、旦那さんが話してくれるなかで、ここがきっと核心に違いない。
『……トモカさんにはね。高校時代から大学中盤まで付き合っていた男性がいた。とある理由から一度破局をしたみたいだけど、28歳のとき、同窓会があって……」
「あ、あの、良いんですか? その話は、えっと、旦那さんにとって口にするだけでも苦しいことなんじゃ……」
『構わないよ? トモカさんはもう……
「ッ!」
ここで言い切ってしまう思い切り。何か、俺の身体を熱くさせた。
『同窓会で二人はまた、急接近した。でも、完全によりが戻ることはなかった』
「……あ?」
『相手の男性はね、そのときにはもう
「あの、それってどういう……」
『本来のトモカさんは面倒見のいい性格だから。そんな彼を放っておけなかった』
それと共に、胸に、とんでもない息苦しさを覚えた。締め付けを感じた。
『付き合ってた頃の《昔の恋人》像が強すぎた。だから壊れてしまった当時の彼のギャップに苦しんだ。何かしてあげたいと考えた。過去と現在の変貌ぶりに戸惑う。ここまでは、出逢ったばかりのトモカさんに僕が覚えた感情と同じだけど……』
「な、何か……あったんですか?」
『ある事件があった。残念ながら、トモカさんが助けようとしていた《昔の恋人》は犠牲になってしまった。それも
そこまで聞いて予想できた。
《昔の恋人》を助けようと固執していたトモカさん。
『それが、僕が《昔の恋人》に復讐を誓った理由』
かつて好きだった人を、救えず、目の前で失う。それがトモカさんの心にどれだけの傷を刻み込んだか。
『犠牲になった。悲しいとは思う。でもトモカさんの意識や視線、表情を一挙に独占していたその男は、
「だからトモカさんは、外見を気遣うこともなくなり、性格もふさぎ込んで。人付き合いから遠ざかるようになった結果、身なりすら気遣わないように……」
『素の彼女はとても魅力的。でも、そのままならまた、男性が寄ってくる。もし、そこから恋愛感情に発展してしまったら? 悲劇の再来を、彼女は恐れた。それが……トモカさんの友人夫婦の奥さんが、泣き崩れた理由」
(友人夫婦にとって、もうトモカさんの結婚はおろか、交際すら、イメージできなかった)
「……
『
(なるほど。そういう……)
「取り戻せましたか? 昔のトモカさんを」
『それ以上だよ。地味だった彼女は、婚約者になった僕の為、できる限り精一杯のおしゃれをしてくれるようになった。会社の皆が驚いていた。本当は凄ーく美人さんだったんだもの』
(そういうことなんだ……それこそが、復讐)
『同棲するようになって、実は家事が凄くうまくてテキパキしていることを知った。そして結婚式と……先日の出産かな』
「それは?」
『ご両親にこれまでの感謝を涙ながらに述べる
「……あ……」
ーそこはもう、
そこまで聞いて、不意に、娘さんが生まれい出る直前に、ルーリィが口にした言葉が呼びさまされた。
ーちょっと待って。
ーそうね。理由はどうあれ、
「あぁ、やっと……わかった」
蘇ったのは、リィンとエメロードの言葉も同様。
あの時は分からなかった意味が、いまなら。
(だからエメロードはその後、『ここから先、立ち入っていい異性は、トモカの夫ただ一人』って……)
唯一リィンの口にした「
『君の存在によって、トモカさんが次々新しい表情を見せてくれるって言ったのは、そういうこと』
「何が何でも《昔の恋人》に負けたくないんですね。話を聞くと、もう圧勝している気がするんですけど」
『まだまだ。草葉の陰で見ているかもしれないクソ野郎に、『これでもか!』って念を押すほど、僕と一緒にいるトモカさんの、より一層楽し気な顔を見せつけてやりたい。そのためにはもっともっと、幸せになってもらいたい』
(復讐かぁ……)
このお酒の席で、旦那さんの言いたいことは理解した。
『そして幸せになるためには、やっぱり充実味が必要で。そうなると仕事や使命とか、役割とかが必要になるなんて思っていたりしてぇ……』
「復讐」と最初に強い言葉を聞いた時、驚いたもの。だけどここまで聞くうち、俺は旦那さんに対し、とある別の印象も頭によぎった。
(復讐ねぇ?)
『トモカさんはきっと、その役割が多ければ多いほど、色んな活力あふれた顔を見せてくれるはず。僕の恋人であったトモカさん。奥さんになったトモカさん。結婚して宿を継いだ前、仲居修行に頑張るトモカさん』
「そしていまは、女将さんとしての
『そこにさらに、君がいると……』
多分、復讐という言葉を使ったが、その中身はまるで違うのではないかと思ってしまった。
『俺の保護者としてのトモカさんですか?』
『娘の母と、身内を可愛がる親戚としてのトモカさんというのも、厳密には違うじゃない? トモカさんは君を心配できる。それは君がいることで一種充足感を感じられてる証明だよ。それも彼女の幸せを構成する一つ』
(たぶんこの人は、トモカさんを幸せにするということを、「復讐」という言葉を借りて実現しようとしているだけで、本当は……)
『と、言うわけで、君が正規魔装士官になれなかったら、い・つ・で・も・ウチのホテルに就職していいんだからね! トモカさんの幸せの為に!』
「お、俺のキャリアは……」
『もちろん重要だよ! トモカさんと、娘の幸せの次くらいには』
「ハッ! 妥当だと思いますよ。お父さんとしてその優先順位は。ま、考えておきます」
何となく理解してしまった。
きっとこの旦那さんは、復讐相手である《昔の恋人》の男に対し、トモカさんを全力で幸せにしようとすることで……
(流石はトモカさんの旦那さんって言うか……でっけぇ男だよ。本当)
この人には、同逆立ちしても、俺には敵う気がしない。
途中、話を聞いて空恐ろしくもなったが、ここまでくると、話を聞いておいてよかったと思う。
トモカさんのことを俺も一層大事に思える。旦那さんに対する理解も、一層深まった。
こんな二人の間に、赤ん坊が生まれた。
だったら俺だって良い兄をしなければならないと、改めて自分に言い聞かせることもできた。
「……改めまして。娘さんの出生、おめでとうございます」
『うん、これからもよろしくね。徹君』
最終的には、俺もほっこりとした心持となって、なみなみと注ぎなおしたお猪口でもって、同じく酒で満たした旦那さんのお猪口とぶつけあう。
チンと、響く小気味よい音に続き、旦那さんにならって、一気に煽った。
◇
「12月……24日ぁ?」
「ハイ、クリスマスイブです。兄さま、私の為に、一日設けてくれますね?」
ウェップ……気持ち悪い。
飲み過ぎたぁぁぁORZ。
「その話、明日じゃ駄目か? 眠くて死にそうなんだよ」
未成年の癖に、旦那さんに巻き込まれるまま、もう何杯飲んだかしれない。
全身の倦怠感は酷いし、息苦しいし、変な冷たい汗も滝のように流していた。
間違いない。身体がアルコールに拒絶反応を起こしていた。
(ここまで酷いかよ。急性アル中一歩手前なんじゃ……)
「いいから、いまここで答えろや。聞くもん聞いたらすーぐ開放してやる!」
下宿に帰りましてーの、まっすぐ自分の部屋に戻りましてーの。
操り糸の切れた人形みたいに、畳床に倒れ込んで目ぇ閉じた俺。気持ちよーけ寝落ちる直前で、廊下からの呼びかけに叩き起こされた。
「で、どうなんだよ! あぁっ!?」
「どうなんでしょうか!」
それが面倒くさいが、ナルナイとアルシオーネに押せ押せだった経緯だった。
「わかった。わかったから。12月24日。好きにしろって。いーからもう寝かせてくれぇ」
いつまでも相手をしていられないから、放り投げるように返す。
瞬間だ。
「や、やった♡」
「ウーシ! 作戦勝ちぃっ! 今言ったこと、忘れんなよ師匠! 言質とったかんな!」
二人とも、パッと顔を明るくさせる。そのまま走り去っていった。
アルシオーネなんて、捨て台詞まで残して行きやがった。
「ったくアイツらは。なんでそんな元気なのかね? 若いっつーか……いや、俺だってまだピチピチ18歳のDKだってだが……」
離れ行く彼女たちの背中を眺めて呟く。いなくなってからは再び床に倒れ込んだ。
(にしても12月24日。なんかあったっけ。ク……トリス? ……リスマス?)
もはやまともに考えることもままならない。
12月24日が何の日かの応えにたどり着く前に、意識が……
◇
「そうか。良い時間を過ごせたようだね」
「ま、それのかわり、うんげー二日酔い喰らってるけど。うう、まだ頭がガンガンしてる。まずいって、このコンディションで訓練、行けるか? 俺……」
「まぁ、良い話を聞けた対価っていう事って納得するしかないかもね」
「だぁなぁ」
旦那さんとの酒席の翌日。
とんでもねぇ頭痛と吐き気に苛まされながら、魔装士官学院への通学路をルーリィと並んで歩く。
「そうなんだ」
「ん? ちょ、ルーリッ……」
「『僕だけは絶対に離れない』……そんなこと言われたら、女ならなす術ないかもしれない」
昨日のことを離すさなか、柔らかい表情のまま聞いていたルーリィが、不意に手を繋いできたから、ドキッとしてしまう。
「お、男だって、なす術ないと思うんだが」
「ん?」
「時々、ズルいって思う。ルーリィのこと」
「私?」
俺の呼びかけに、手を繋いだままのルーリィが、きょとんとした顔で見やる。
なんと無防備な表情を俺にさらすのか。俺相手に警戒は無用かよ。可愛いじゃないかっ!
「『何があっても、私だけは君の傍から離れない』って……前に何度も」
「あぁ、
「グッ!」
そこに、「
他の誰もが入れない。それは俺とルーリィ二人だけの
「だったら、それこそ、ズルいのは一徹の方だと思うけれど?」
「俺ぇ?」
「学園祭最終日、君は私に、『絶対に離さな』……」
「わぁぁぁぁわぁぁぁぁわぁぁぁぁ!!!」
このタイミングで、飛び出したのは、その話題だった。
忘れられるはずもない。つい先月のことだから。自分で想いをぶつけてしまったのも分かっているが、改めて聞くとあまりに恥ずかしくなって、穴があったら入りたくなった。
「兄さまっ!」
「師匠!」
「ごふぅわっ!」
と、そんな時だった。
前方と、ルーリィにしか意識が言っていない状況で、突然後ろからタックル張りに抱きしめてくる明るい声が二つ。
(こ、コイツラは……)
声だけでわかってしまう。振り返るまでもない。
「お、お前らなぁ!」
「楽しみですね! 12月24日!」
「……は?」
振り返ろうとして、だけど、声の主二人は、そのまま駆け抜けていくように、俺とルーリィの進行方向に飛び出した。
「ナルナイ、アルシオーネ。お前たちそろそろいい加減に一徹の迷惑というものを……」
被害こうむった俺の為に、ルーリィが起こる。
なんてことはない。ここまでは、いつも通り……だったのだが……
「ハッ! ナシつけたのはナルナイと師匠二人だけの
(クリスマスイブ? クリスマス……イブ)
今日は、いつもと違う。
進行方向の前に躍り出た二人の、手放しでの喜びようは一体。
(ま、まさか……)
「当日は、二人で一杯一杯。い~っぱい! 楽しい思い出を作りましょうね! 兄さま!」
「あ!」
そうして、ここまで来て、やっと思いいたる。
ナルナイとアルシオーネがどうしてここまで喜んでいるのか。
「兄さま! 期待していてくださいね! 私も兄さまが恥ずかしくないよう、当日はしっかりお
「じゃ、俺たちは先行くわ! トリスクトに根掘り葉掘り聞かれたんじゃかなわねぇからな」
言うだけ言って、走り去っていく彼女たち。
まるで同じだった。そう、まさしく
(クリスマスイブ! 12月24日! いや、でもそれって!)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
分かってしまって、そしてそれがとてもとても取り返しのつかないことだと理解してしまって、思わず声が張りあがってしまった。
「び、ビックリした。いきなり大声を上げるものだから。それで、《くりすます》……だったか? 聞き馴染みのない言葉だが、それは一体」
「は、はは、ハハハハハ。何でもない。何でもないよ?」
「何でもない? そうは、見えないのだけれど……」
「そ、
何でもないわけがない。
クリスマスイブ。彼女いない歴わからない(記憶が無いから)俺にとって、縁のないと思ってはばからない一日。
されど、
いま、俺は昨晩適当に答えてしまった自分の浅はかさを呪っていた。
(オワタ……オワタよ……)
そりゃそうだ。
ナルナイと、クリスマスイブの約束をしてしまっていたから。すぐそばに、ルーリィがいるってのに。
話しのわかっていない、首をかしげるルーリィの見つめる視線が、痛くてしょうがなかった。
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