12月 クリスマス最前線っ! The front of Christmas

117話 クリスマス最前線っ! The front of Christmas

(か、可愛い……)


「楽しみですね兄さま♡ 12月24……」

「ふぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 朝食の談。

 定位置である、一徹とは机挟んだ正面で、鮭の塩焼きほじくるナルナイは、ある事柄に対する彼の一喜一憂反応こもごもを目にして、悦に入っていた。


 そしてそのことが一体どういうことなのか。一徹とアルシオーネを除く皆が分かっていなさそうなのが、また楽しかった。

 

 慌てふためき、突然大声を張り上げる一徹の様子。釈然としなさそうに首を傾げ、眉をひそめて見つめるルーリィの様子などお笑いだった。


 チラッと親友のアルシオーネに目を向ける。ニヒヒっと笑ってコクコクと、「いいぞもっとやれ」とばかりに頷いてきたから、ナルナイも頷き返す。


クリスマス・・・・・はぁ……」

「ストップ! ナルナイすとぉぉぉっぷ!」


 一徹の錯乱にも近い取り乱すさま。彼の表情を目にしたルーリィは、キッと睨みつけてくる。

 しかし、ナルナイとアルシオーネは、いくらその表情を向けられようが構わなかった。


 もはや勝負は決していたから・・・・・・・・・・・・・。だからルーリィのソレは、負け犬の遠吠えに等しいのだ・・・・・・・・・・・・・


 それ故、殺気じみた視線でさえ、涼しい笑顔、余裕をもって、二人は受け流すことができた。


「なぁ師匠。ナルナイはさぁ、フレンチのフルコースっての食ってみたいんだって。24日はぁ、そろそろ予約も埋まっちまうかもしれねぇし。予約していい? いいよな?」

「あ、え、ええと……だな……」

「なんなら俺が、何処かホテルの一部屋も予約をいれてやろうか? 楽しく宜しく食事したのち、後はお若いお二人で。たっぷりゆっくりしっぽり・・・・♡」

「ご、ごちそうさまでしたぁぁぁぁっ!」


 顔をひきつらせた一徹。

 声を張り上げ、挨拶に反し、まだ半分も食べ終わっていない朝食を、いそいそ片づけた。


(か、可愛い過ぎる。兄さまをイジメるのはもってのほかだけど、私が、あの兄さまを掌で転がす感覚。や、病みつきになっちゃうっ♡)


 この感覚は自分だけじゃない。

 アルシオーネもニヤニヤとしていた。同じことを想っているのだとナルナイも確信した。


 普段の一徹なら、白飯2,3杯は行くところ。

 逃げるように、自分の皿をもって台所に小走りに消えていく今日の姿を目に、ナルナイもアルシオーネもクスクスと笑った。


「おい二人とも。あまり一徹を困らせ……」


(さぁ来ましたね。でも、今回ばかりはその反応を待っていたのは私です)


「あら、この話はすでに、兄さまから承諾を得ていることなんですよトリスクト」

「こんどばっかしは、テメーの出る幕じゃねぇんだよコラ」


 予想はしていたこと。一徹をからかったなら、必ずルーリィが出張ってくる。

 構わない。


「しょ、承諾を得たことだと? い、一徹が?」


(フフッ! 困ってる困ってる♪ いつも貴女にはしてやられてばかりですから。今回は、私たちが、山本小隊全員を、蹂躙しちゃいますっ!)


 絡まれたとて、逆にマウントし返すところまでが、ナルナイとアルシオーネにとっては予定調和だった。


 余裕たっぷりの発言。コレに狼狽えたルーリィは、他のメンバーの反応を目にして改めて困惑の貌を見せた。

 

 エメロードは、大きくため息をつきながら、みそ汁の入った椀に、すました顔で口を付ける。首を何度か横に振った。

 リィンは、分からない顔して首をかしげていた。

 シャリエールは、納得いかないというか、半ば怒った表情を浮かべ、右手に持っていた箸を、握力によるものかバキィッ! とへし折っていた。


(どうですトリスクト? あのフランベルジュ特別指導官が何も言えない。コレでわかったでしょう? 兄さまが本当に承諾したということに)


「い、一体何の話を承諾させたんだナルナイ」

「あら、この話の流れで、本当に気付かないんですか?」

「え? 気付か……ないとは?」


 とぼけた表情ではない。間の抜けた表情。

 となればナルナイは直感した、ルーリィは、本当にこの世界の・・・・・12月24日がどういうものなのかわかっていないのだと。


(それこそが貴女に勝ちうる、私にあって貴女にはない強み。女らしくある・・・・・・ということ)


 タジタジになるルーリィや、他の女性陣に対する優越感がひどい。


「気付いていないというか、知らないんですね。貴女は、曲がりなりにも兄さまの婚約者なのに」


(そう、貴方は婚約者。別にその立場にあることは認めないわけではありません。でも、貴方はまだ……)


 だから、調子に乗ってしまった。


(この世界の、いまの兄さまにとって、恋人ではないんですから・・・・・・・・・・・。徹底的に突き詰めて見せる。記憶を取り戻して彼方あちらの世界に帰ったとき、二人が元の関係に戻ってしまうなら……せめてこの世界にいるときくらい・・・・・・・・・・・・・・・は私だって兄さまと・・・・・・・・・……)


 だが、それは失敗だったかもしれない。


「私はすでに把握していましたよ?」


 自分がルーリィより優れているのだと見せつけたくて、止まらない皮肉。

 裏を返すと、ルーリィにとって調べるべきものがあることを、これでもかという程示してしまっていたのだ。



『え?』

「どうしたんだい灯里。そんな驚いた表情……」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』


 その日の学院での授業が終わった後の話。

 一徹称、《ヒロイン》こと石楠灯里と下校の最中、今朝のことを話したところで、思いっきり驚きの声を挙げられ、ルーリィはたじろいでしまった。


『い、いや。だって驚く……でしょうよ?』

「そ、それは確かに。まさか一徹が、二人と時間を取るというのを承諾……」


 始めこそ、何を言われているのかいまいち飲み込めなかったのだが……


『そうじゃなくて! クリスマスイブよクリスマスイブ! 12月24日!』

「く、くりすま……?」

『恋人と過ごすべき特別な一日でしょうがっ!』

「なん……だと?」


 その一言が、胸をトッと貫く。衝撃が強すぎて、一瞬フリーズしてしまった。


『も、もしかして知らなかった……とか?』

「あ、いや……」

『ど、どうして。だってどう見てもルーリィは西洋系にルーツを置く……いえ、ちょっと待って? 確か日本と違って、西洋の人間にとって、クリスマスは恋人じゃなくって、家族で過ごすものだって話だし』


(し、知らなかった。まさかこの世界こちらの風習にそんなものが……)


 確かにそれではルーリィ以外、シャリエールやリィン、エメロードすら知らなかったわけである。


『だからと言って信じられない! 山本はストレーナスさんの申し出を受けたっていうの! アイツこそ本当は、そういうところに気付くべきでしょう!』


 この話に、顔を真っ赤にして憤慨していたのが灯里。

 ぼそぼそと「さぁて乙女の純情を弄ぶ下衆外道に、どうやって裁きを下してやろうかしらぁ?」なんて、空恐ろしいことを、手をワキワキさせながらつぶやいていた。


(あ……)


「そういう事か。やられたっ!」

『ルーリィ?』


 やっと今日の一徹の微妙そうな顔に納得がいった。確かに後ろめたさを感じている顔を浮かべるわけだ。


 思い出す。

 その話と彼のあの表情は、とある日の翌日からここ数日ずっと続いて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いた・・のだ。


「一徹が、トモカ殿の御主人と盃を交わしたあの日の翌日から……」

『……あぁ、そういうこと』


 ここまで口にして、灯里も理解したのか、呆れたようにため息をついていた。


『酔っぱらって、へべれけになった状態で、正常な回答も出来ないところを彼は狙われたのね?』

「千鳥足で宿に戻ってきて。早く部屋に帰って休みたいという事もあっただろう。だから休むことに気をとらわれすぎた余り、突然のあの娘の申し出を、よく考えずにOKしたのかもしれない」

『ストレーナスさんも策士というか……って、違う違う! 山本の恋人はルーリィでしょう!? 本当に貴女が大事なら、貴女を優先すべきなの! 勇気をもって本当は彼が断わるべきところ!』

「そう……なんだろうが……」


(たぶん、無理だろうな。いまの彼では。それにこの世界の私たちはきっとまだ、そこまでの関係には……)


 きっと一徹は一徹で、何も考えずに安易に承諾してしまった自分を責めているに違いない。

 本来はそんななかでいきなりアプローチをかけてきたナルナイの非常識さに怒るべきなのだが、そこに一抹の文句を述べることは出来ても、Xデーに向けて楽し気な表情を見せるナルナイに対して、いまさら断ることも申し訳なくてできないのだろう。


(完全にナルナイの戦略勝ち……か)


 彼が、OKを出してしまったことは事実なんだから。


 山本小隊では、誰よりも乙女なナルナイだから。

 きっとこの世界での、そういう特別な日はずっと前から彼女は知っていたに違いない。


(こういうところで差が見えてしまうな)


 そう思うと、少しだけ滅入ってしまった。

 女らしさ……という面で、何処か自分が劣ってしまったとでもいう気になってしまった。


 もっと自分が女らしくそういったことに気を巡らせていたら、気付けていたことではなかったか。

 いや、むしろ、ナルナイが一徹に申し出る前に、約束を取り付けることだってできたかもしれない。


(彼は、私のことを、一体どう思っているんだろうか……「離れるな」と言ってくれた。でも、あの時に一徹の胸に会った気持ちは、私の物と同じなんだろうか)


「ん?」


 そんなことを考えていたところでだ。


『一体何をやっているのよ山本。クリスマスを祝えるアンタの立場が、どれだけ私にとって羨ましいか!? なまじ退魔や修験道なんてウチのクラスは、純和風だからっ……!』


 自分も自分の世界に言っていたが、なぜか灯里も自分の世界に言っていたことに今更ながら気付いた。


『……話は、委細承知しましたわぁ♡?』

 

 ここでだ、何処からともなく声が聞こえてきた。

 ルーリィと灯里が驚くことはない。

 ただただ、その聞き馴染みのある声に、またよからぬ思惑がはらんでいることが理解できるから、深くため息をついたのち、ゆっくりと振りかえった。


『すべてはこの私にお任せを♡ 妙案がございますぅ♡』

「妙案? 失礼を承知で、貴女の案にはいつも不安しかないのだが……」

『本当に、いつも神出鬼没なんだから』


 一徹が《美女メイド》とあだ名をつけた、あのシャリエールをしてこの世界では強者と見極めた女性が、営業スマイルを浮かべていた。


『ご安心くださいませ♡ すべてはお二方の為を想ってのこと』

『し、信じられない……』

『悲しいですわぁお嬢様♡ 今回ばかりは本当に、お嬢様と鉄様♡ トリスクト様と山本様のことを思ってのことですのに♡』


 息苦しそうな顔を見せる灯里の皮肉に、「悲しい」と返した《美女メイド》の余裕ぶりは全く揺らいでいなかった。


(さて、思い切りの凄い女性ヒトだから。それによる影響はどう出て、誰に被るのか)


 その貌を目にして、もはやルーリィもため息をつくしかできなかった。



「あぁ、ようやくわかったわ。今朝の二人が、どうしてあそこまで浮かれていたのか」

「えっと……あ、この単語、朝食で出ていましたね。クリスマス……えぇぇぇっ!」


 ところ変わって、逆地堂看護学校は、エメロードとリィンが在籍している教室内でのこと。

 今日は遅くまで講義が入っているという事で、ルーリィたちが下校する時間と同時刻ながらも、いまだ学校にいる二人は、クラスメイトたち御用達のティーン雑誌を借りて読むさなかに、その単語を見つけてしまった。


「こ、恋人と過ごすカップルにとって一年に一度の特別な日ってありますけど……エメロード様?」

「うかつ。こういうところを目ざとく把握しているところは、さすがストレーナスというか。いい加減、ルーリィ様との仲を邪魔するのはやめなさいよ」


 リィンは狼狽えているが、エメロードなんてらしくもなく青筋をコメカミに立て、口角がヒクついていた。


「で、でもだったらどうして兄さんは。私たちは別として、かつてはこの世界の人間だった兄さんなら、今朝ナルナイに言われたことを断っても……」

「そういう甲斐性は期待しない方がいいわリィン。わかるでしょ・・・・・・? 彼なのよ・・・・?」

「ど、どどどーしましょう! このままじゃ兄さん。特別な一日で、ルーリィ姉さまをほったらかしてしまいますっ!」


(まぁ……ね?)


 明らかに焦燥にかられたリィンに畳みかけられたエメロード。しかし椅子の背もたれに体を預けてため息をついた。


(だから本来は、貴女が先手を打つべきなのですよルーリィ様。山本一徹では、こうなった時に狼狽えるばかりってことくらい予測できたはず。これは……)


「はぁ、明らかに今回ばかりは、ルーリィ様の負け。というか、ルーリィ様も悪いのかもしれないわね」

「え。エメロード様?」


(婚約者として、いえ……恋人として失格・・・・・・・。だから正統派の女性らしいナルナイに水を開けられた。そこは反省するべきところではないかしら) 


 エメロードの思わぬ発言に驚いてしまったリィン。

 しかし、それ以上何も言えないまま、思案にふけった友達を見やるしかできなかった。


(貴女が本来シッカリするべきところでしょ? 彼方の世界ではフランベルジュに託され、こちらではトモカに託された貴女が、繋ぎとめておかなきゃならないのに)


「あの、お、お顔がとても、怖いのですけれど……」


(恋人としてそれは、あまりにふがいない。彼が貴女の手を取ったところを目の前でまざまざ見せつけられた私に、なんてザマ見せるのですか? 貴女に彼を委ねた私が馬鹿みたいじゃない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


「あぁ、イライラしてきた」


 呟くとともに、クリスマスの夜に、男性に対しての実践を推奨された、かなりえげつないテクニック・・・・・・・・・・・・・が記載された女性誌のページを思いっきり閉じたエメロード。


(あぁもう。まだるっこしい! 二人とも早くこちらの世界でもくっついてよ! いつまでも山本一徹が宙に浮いている状況なんて、私も落ち着けないじゃない・・・・・・・・・・・・!)


「違う。何を考えているの私。私怨が生んだ因果応報。私怨で捻じ曲げるなんてもってのほか。それにそれは、義理立てたリィンに対しての裏切りにも……」


 苦虫を噛み潰しているような顔したエメロード。ふと自分を不安げに見つめるリィンの顔が目に入った。


「ごめんなさい。なんでもないの」


 無理やり、落ち着いたように笑って見せた。


「そんなに不安しないで。ちょっとストレーナスとアルシオーネのクリスイマスイブをどうするか考えていただけだから」

「どうにかできるんでしょうか?」

「正直そこはお手上げ。でもね……」


 一瞬胸の内が燃え盛って、だが、すぐに胸中では笑ってしまった。

 このリィンの取り乱しようがおかしかった。


 危機的な状況に陥ったとき、臆することなく行動できる彼女の心の強さをエメロードは知っている。

 それが、二人の間にある身分の大きな差を超えた友情を、確かにした理由。

 ある種、敬服の念をエメロードが常日頃から送っているリィンが、しかしこういうところでオロオロしてしまうのが可愛かった。


「恋人たちのクリスマスイブ特別な日を、特別な日にさせないやり方なら、きっと幾らでもあるのよ?」

「特別な日にさせない。ま、まぁ、ここまで私も言っていた癖に、ナルナイの楽しみを壊してしまうのは心苦しくありますけど……」

「そういうことじゃない。アレとの約束を承諾したのは山本一徹だもの。なら、彼はアレに対して筋を通す必要がある」


 エメロードにとって、何より大事なのは山本一徹……だけじゃない。

 リィンも同様。


 正直ルーリィを応援しているのも、ルーリィの為というよりは、リィンの心の安息の為。


「だから、それ以外の方法で……ね?」

「それ以外の方法?」

「私に任せなさい? これで私も《傾国の美女》なんて御大層な悪口を立てられ、かつては《害悪令嬢》とも呼ばれた悪徳公爵令嬢なんだから」


 リィンを安心させるため。

 そして、どうにかなりそうな葛藤を何とかするため、艶やかさにじみ出た笑顔を共に見せる。


 リィンにはわからない。

 それはエメロードにとっての、決意の表れだった。



「やれやれ、女の子ですね皆さん」


 教官としての仕事に、一息入れているシャリエール。

 やっと最近慣れてきたインターネットで、クリスマスイブの単語を見つけて思わず言葉を漏らしてしまった。


「嫌だなぁ。自分で口にして、自分が一番年齢が上だってことを改めて認識しちゃった」


 普段の彼女ならいつも敬語を使うところ。

 今は一人でいるからこそ、取り繕わない彼女の言葉遣いはなかなか可愛らしい。


「クリスマスイブ……恋人たちにとって特別な日。だから、こだわりたいんですね。本来それがどんな日なのかは別に関係ない。好きな人と一緒に、特別な日にしてしまう。そうやって毎日を二人の特別な日にして行って、互いの関係をさらに……」


 肩書は関係ない。本質に重点を置くべき。

  

 それが彼女の考えで、「必ずこの日でなければならない」というようなこだわりがないからこそ、余裕がにじみ出ていた。


「でも、まぁ、皆さんがクリスマスイブに固執するなら私は、クリスマスにしますかね」


 12月24日はクリスマスイブ。

 クリスマスの前日であって、厳密クリスマスではない。日本ではなぜかイブの日がもてはやされるが、彼女が考えたのは25日だった。

 結局どちらも肩書のある日付だが、きっと他の隊員は24日に執着し、周りが見えなくなってしまっているだろうと考えたうえで、そんな案が頭に浮かんだ。


 一歩引いて俯瞰的に両日を見れば気付くことだが、それができないところが猪突猛進な若さというものなのかもしれない。


 この世界では4つしか違わないとはいえ、20歳を超えているシャリエールは、そこに若さと大人、つまり少しの老いを感じてしまって自嘲気味に笑ってしまった。



「ハクショイ! バクショワァイ!」

『大丈夫か山本。またか? 今日は随分ひどいな』

『フン、まさかこの俺のクラスメートが、風邪を引いたとか抜かすなよ? 今日は早めに終わらせてやる。栄養補給をかかさず、十分に養生し、せいぜい回復に努めるがいい。移されたら迷惑だからな』

『ん、『風邪をひいたの? 大丈夫? 今日は早めに終わらせるから美味しいものを食べてゆっくり休んで直すのに集中してね。心配だよ』と、蓮杖院のセリフを翻訳してみた』

『君は本当に、天邪鬼な奴だな蓮杖院。もう少し素直になり給え』

『きょ、曲解するなよ猫観。邪推は貴様の悪い癖と知るがいい壬生狼』


 放課後、定期的に開催している英雄三組(俺は英雄じゃないが)の、5小隊隊長の会合。

 いつものファミレスに入ったところで、心配げな視線が俺に集まる。


『猫観の翻訳が曲解かは別として、体調管理には気を付けてくれ山本。お前はもう、俺たちのクラスの大事な一員なんだ。あまり心配かけさせないでくれよ?』


 不機嫌そうな《王子》と、やれやれとため息をつく《政治家》。《猫》なんざ相変わらず何考えているかわからない冷めた目を向けてくれるんだが……


(《主人公》がそう言ってくれるってことは、一応気にかけてはくれてるのか。わっかりづらいわ!)


 にしても、流石は我らが三組の中心人物、《主人公》だ。

 俺が女なら、真っ先に惚れてるね。で、徹底的に《ヒロイン》の泥沼の三角関係演じてやるんだよ。


(と、まぁ……冗談はこのくらいにして……)


「ッツ! ハークショイッ!」

『や、山本!』

『貴様、またか!』

『今日はもう帰り給え! 今日の会合の内容は、僕が議事録にしてまとめたものをのちに展開するから!』

『ん、ならルーリィに連絡する。迎えに来てもらう』


(ったく、本当に、わかりづらいんだよ。《主人公》除いたお前ら三人の好意ってのは)


 なんというか、今日は特にくしゃみが酷かった。

 授業中しかり、訓練中しかり。そしてこの場でもだ。

 風邪なら移すわけには行かない。なら、《王子》達が言うのももっともだろう。


 だが……


「か、風邪……だと良いなぁ」

『『『『え?』』』』


 風邪であれば俺にとって吉というのが正直なところだった。


『山本、何をいって……』

「ごめんごめん《主人公》。俺の言ってること、わからないよな。ただの迷信の話だ」


 健康には気遣ってきたつもりだ。

 それなのに、今日、急にこのこの体たらくだ。

 風邪をひくはずがない。だが止まらないこのくしゃみは本物だ。

 一つ、ある迷信が、俺の頭をよぎりっぱなしだった。


 ホラ、よくあるじゃない。

 くしゃみが出るのは、誰かがどこかで噂をしているからだって。


 そりゃ、俺の噂をするならここにいる以外の三組連中もいるだろうが。


「だけど結構切実に、ただの風邪だとうんげーありがたい」


 今朝、あんなことがあったばかりだから。

 ……ルーリィか? シャリエール? ナルナイ、アルシオーネ。リィンにエメロード。そのうちの誰かが、俺の噂をしてたりして。考えたくもない。


(ハッ! まさか、クリスマスの一件が、バレたとしたら!)


「あ、あぁ風邪だ。風邪であってくれ……とか、思うようになったら、心なしかお腹が痛くなってきた……」


 あぁ、憂鬱だ。

 なんだよ。クリスマスに悩まされる高校三年生って。

 俺が憧れたクリスマスは、決してこんなもののはずじゃないんだからねっ!



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クリスマス章、始まります。


また、ラブコメに戻れたらいいな。


いつもありがとうございます。


年末で、プライベートで日々死んでます。


ストックはありますので、体裁整い次第、なるはやで更新します(汗)

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