第114話 サシ飲み。対決!? 大切な女性の旦那さんっ!
『はぁぁぁぁ、可愛いなぁ♡』
(うん、あのね《ショタ》よ。顔真っ赤にデレデレした顔で、体くねらせ両手を顔に当てない。襲いたくなっちゃうから)
『母子ともに健康だと聞いている。まずは大事がなくて何よりだ』
(いや、つーか。なぜにお前がまんざらに笑って顎に指ぃ置いてるのよ《縁の下の力持ち》)
『や、やっぱり、死ぬほど痛かったのかしら。一般的には良くそういった話を聞くけれど』
『それを乗り越えることができるのは、ひとえに愛ゆえに出すわ♡ お嬢様♡』
(何を想像しているんだ《ヒロイン》は。ていうか、《美女メイド》さんまでなぁに言ってんだ)
『ん~。可愛い……』
(なっ! いつも淡白で感情をあまり表に出さない《猫》が、顔を紅潮させている……だと?)
『フン。まるで猿だな』
『そういう割に、口元が歪んでいるのだが? 蓮静院』
『黙れ壬生狼。余計なことは口にするな』
(《王子》に《政治家》のおめーらに至っては、この場で口にするこっちゃないんだよソレ)
『出産ですか。やっぱり、性別的に考えてはしまいますよね。にしても、お二人が無事でよかったぁ』
(ちょ、待って? ねぇ《委員長》。いま口にした出産ワード。それって相手を誰を想定しているんだ? まさかアイツ? アイツなの? その巨乳に、ぷっくり柔らかそうな唇を自由に無双しちゃったりなんだったりして……)
『なるほど。流石にこれを見せられたら、大変だったと納得せざるを得ないな。トリスクト』
「うむ」
『山本も』
「あん?」
『二人ともお疲れさま』
(いや、『お疲れさま』……じゃ、ねぇよ)
「なぁ、お前たち。なんでここにいんの?」
『『『『『『『『え?』』』』』』』』
場所は三縞市で一番大きな病院内。
出産から2,3日が経っていて、トモカさんと赤ちゃんの二人ともが現在入院中(生まれたばかりの赤ん坊に入院というのが正しいかはわからないが)。
「俺たちだって、出産日がてんやわんやしまくってたから、やっと落ち着いて見に来れたってのに」
二人のお見舞いに、俺とトリスクトさんとで訪れていたところ。思わず、そんなことが口から出てしまった。
保育ケースに入った赤ちゃん何人かいる大きな部屋の、これまた大きなガラス張りの窓を隔てて廊下から眺めるさなか、クラス全員が、視線を同じくしていたからだ(《美女メイドさん》はオ・マ・ケ)。
「なんか納得がいかねぇんだけども。出産日の夜、超絶修羅場だったの。リィンたちも頑張って、俺もヒィコラ言って。やっと落ち着けたの。こういうのは普通、部外者より先にゆっくり拝んで、お前らに対して優越感というのをだなぁ……」
そう、三組全員が集まっていた。
『良いじゃない。懐の小さなことを言っていると、ルーリィに嫌われるわよ?』
「ふんがっ!」
『こういうのは多い人数で訪れた方が一層楽しいじゃないか』
「ふんぬ~……」
そう、俺は授業終了後、彼女と二人きりで来るはずだった。
その後ろから、
ちびっと不満を言ってみる。
さっそく《ヒロイン》から「聞き耳持たぬ」を言い渡され、《主人公》は苦笑してやがった。
『まぁ、言いたいこともわかるけどな』
(おう、察しろやお前たち)
この三日間は……そりゃあもう、多忙でやんした。
何しろ、我が三泉温泉ホテルの総支配人も女将も不在である。
なかなか繁盛しているお宿の方は、ときたま山本小隊がお手伝いに入らないとなかなか業務が回りきらないときがあるほどだ。
手がいくつあっても足りない。よって抜けられてしまった穴二つは、非ん常~にデカかった。
特に旦那さんには困り者だ。
厳密、旦那さんが入院中のトモカさんの傍らにいて、泊まることはない。
できないことはないが、旦那さんのあまりのトモカさんラブに、「病院でいかがわしいことが起きるのではないか?」と院内の看護師長さんに危惧にされている。
だから、毎晩遅くには宿に帰ってくるのだが、それらは一日における宿の仕事があらかた収まった後の話。
(んでもって、朝はものすげー早い時間に起きて、「ラブワイフに会いに行くっ! キリッ!」なんて、胸張って飛び出しちまうもんなぁ……)
そんなこんなで、穴は、山本小隊が埋めた。
朝早く起き、学院登校時間直前まで。学院から帰ってきてからは、夜22時を回るまで。
『ねぇ、山本は鈍感だから念のために聞くけれど、ちゃんとルーリィのこと、気にかけているわよね?』
「鈍感は余計だっての。ってか、気にかからないわけがないでしょーがっ。ルーリィが感じてることは俺も同じ。こちとら二人、もう《三
なんだよ《ヒロイン》。俺に対して「アンタじゃなんか不安」みたいに言ってきやがって。
総支配人と女将さんが抜けて今日で三日目。
赤ん坊が生まれた翌日の穴。
リィンとエメロードとシャリエール以外の山本小隊で埋めた。
致し方ないこと。
実際に当事者として、トモカさんの赤ん坊を主として取り上げたリィンとエメロードの疲労は、想像を絶するものに違いない。
翌日くらいはゆっくりさせてやりたかった。
二日目の穴。
ナルナイとアルシオーネとシャリエール以外で埋めた。
ただでさえ出産のサポートに疲労困憊ながら、訓練まで学院でこなして、一日目はホテルのヘルプに入ったんだ。
目が、死んでいた。
なのに、俺が声を掛けると「ハッ! オークの体力舐めるんじゃねぇよ!」やら、「に、兄さま! 私は大丈夫ですからっ!」とか、宣ってやがった。
試しに甘いものを食べさせて、温泉にゆっくりつかってこいって言ったら……えっと……うん。そののち、ルーリィとシャリエールが、温泉に浮かんでいたドザエモンまであと一歩な
で、今日は、とうとう俺とルーリィの休養日だった。
基本、シャリエールがヘルプに入れないのは仕方がない。
彼女には教官として、訓練以外でも仕事があるみたいだから。
『アハハッ。でも山本って、本当にホテルの女将さんには律儀だよね。理由が理由なんだから、出産翌日くらい休養日を設ければよかったのに』
『ん、出産翌日もきっかり時間には教室にいた。ルーリィは真面目だから良いとして、山本はらしくないよね』
「き、君たちぃ……俺の事を、いったいどういう風に思っているのかなぁ?」
そこら辺の話はクラスメートたち皆が知っている。
だからいまや格好のネタになってしまって、《ショタ》には明るく、《猫》からは、若干馬鹿にされたように薄ら笑いを浮かべられた。
《主人公》が、「言いたいこともわかるけど」と言ったのは、その辺の苦労が伺えたからだろう。
「皆、あまり一徹をイジメないでやってくれ。この三日間で休みを入れたリィンやアルシオーネですら授業に出た。それは一徹が、疲れた体をおしても通学する背中を、示したからさ」
(ナイスフォローだ。ルーリィッ!)
「そう、そうだぞ皆! どんなに疲れていてもだ。俺たちの本分は、おベンキョ~なわけでぇ……」
『フン。大方トリスクトが学校に行こうとしてしまったから、本当は休みたくてならなかったのに、行かざるを得ないといったところなんじゃないのか?』
「うげっ……」
『や、山本。君は本当に嘘が下手な奴だな。気を付け給え。時々哀れだぞ』
「ふぬぅっ!」
ねぇ、なに。何なの?
ルーリィがせっかく持ち上げてくれて、俺もメンツが立つってもんだ。
なのに、なんでお前たち……言い当ててしまうんだ! 俺の事、わかりすぎじゃねぇ?
『まぁ笑い話になるのは、山本がゆえだろうな』
『私はそういうの、とってもいいと思います』
「それって、《縁の下の力持ち》さん。どういう意味っすか? 《委員長》も、理解しているだと?」
「フフッ、君達もわかってきたね。それが一徹さ」
(まったく、俺のことについて、俺にもわからないことを勝手に納得しないでほしいものだよ本当)
『それで……山本様。赤ん坊様のお名前はもう決まったのですか♡?』
「あ、『赤ん坊様』って……』
《美女メイド》さんの進めた話。言葉遣いに一瞬たじろいでしまう。
チラリとルーリィに目をやる。彼女は肩をすくめたように首を何度か横に振った。
「まだ、決まっていないみたいなんですよね。いくつか候補があるみたいなんですが」
「トモカ殿とご主人の考えた名前の候補を、少し前に見せてもらったのだけど、あれは……」
俺もルーリィも言いよどんでしまった。
仕方ないこと。トモカさんは別として、旦那さんの考えだした名前の候補が、首をかしげるものどころか、コメカミが引きつりそうなものばかりだったからだ。
「プリチー〇〇」とか「キューティー〇〇」とか「チャーミング〇〇」みたいなカタカナ形容詞が頭にくる。
(どれだけ旦那さんにとって赤ちゃんが可愛いかはわかるんだけど。オイオイ。そりゃキラキラネーム通り越して、もはやどピンクネームだぞ?)
「一徹、あのことはいいのかい?」
「ん、なんだっけ?」
「トモカ殿と赤ん坊の体調が落ち付いて、退院したら……」
「あぁ、あのことか。いや、むしろそれがあるから、今日皆に来てもらわなくても良いと思っていたんだけどさ」
そこでルーリィが笑って促した。
赤ん坊の名前を聞かれたこともあるし、いいタイミングかもしれない。
「俺が三縞校に編入して、皆も一気にトモカさんとの付き合いが増えたろ? トモカさんのお腹に赤ちゃんいたのは、随分前から知ってたようだし」
「この半年以上、常日頃から皆が気にかけてくれたこともあるから、トモカ殿は皆に感謝の場を設けたいと言っていてね」
「感謝の
『……ほう♡? 山本様ぁ♡? それは……いつ♡? 今月ではなく……来月という事で宜しいのでしょうかぁ♡』
「え? あ、まぁ……12月あたりにしようかと」
『へぇ♡?』
(ウヒィッ! ゾックゾクゥ!)
まさかの事だ。
クラスの皆は元から招待する予定だった。
《ヒロイン》と関係が深いなら、別に《美女メイド》さんが来るのだってやぶさかじゃない。
『ちょ、ちょっと! どうしてそこで貴女が反応するのよ!?』
『うふふ……♡』
《ヒロイン》。まったくである。
何かしら三組連中が言葉を返してくれるものだと思ったのだが、まさかの第一声が《美女メイド》さんという事が意外だった。
そして……
『も、もしかして、また何か良からぬことを企んでいるわね!?』
『悲しいですわ灯里お嬢様。私は常に、お嬢様のことを案じておりますのに♡』
『貴女には、これまでいろいろあったもの!』
『いえ。石楠グループ総帥の第一息女が正式に御呼ばれしたとなれば、こちらもそれ相応の礼は見せねばなりません。となりますと、色々時間が必要になりますので♡』
『だからいったい何をするつもりよ!』
『お嬢様は何も案じることなく、大船に乗ったつもりで私にお任せください♡』
『心配だから言っているのっ!』
もう一度言おう! ヒロイン。まったくである。
俺なんか、《美女メイド》さん
『そういう事なら、蓮静院家としても何かしら動いてやろう。感謝するがいい』
『ん、蓮静院は動いたよ。壬生狼はどうするの? 代議士の息子でしょ?』
『ね、猫観。そういう言い方は好きじゃない。代議士の名前で動いたら、収賄にも捉えかねない。気を付けなければ……』
『フン、口ほどにもない』
『ん、たわいもない』
『『口ほどに』って、僕がいつ、家の自慢をしたことがあった!?』
って、あれ、この流れ……いったいなんだぁ?
《美女メイド》さんが動きを見せて、《王子》が乗ってから……
「あ、あの、お前たち?」
三組連中全員が、ざわめき始めた。
石楠家と蓮静院家が動き出す。なら、自分たちは何ができるだろうかと?
先に出てきた二家とは家格が違いすぎて、自分たちが何かできたとして、見劣りしてしまうんじゃなかろうかと。
「そ、そんな気にしなくていいんだぞ? っていうかそもそも感謝の場なんだから。逆に何かしてもらうとか偲びないっつーか……ルーリィ、どーするよこれ」
「どうもこうもない……ね。こういう時は好意をありがたく頂戴しておくこと。してもらう事の価値が重要じゃない。何かを受けて、その価値に喜ぶんじゃない。何かをしてあげたいと思ってもらったその思いやりに感謝を見せるんだ」
色々と盛り上がり始まってしまって、逆に恐縮してしまう。
「……さすがはルーリィさん。勉強になる」
「うん」
で、ルーリィにどうすべきか聞いたところ、彼女らしく紳士的(?)な回答、しかも納得できるものだったから、少しだけホッとした。
こういう時、つーか、いつもだけど、ルーリィが傍にいるってなぁ本当に頼もしい。
『皆、とりあえずはそこまでだ。何ができるかはまた後で考えて、今日はただ、新しい命が生まれ出てくれたことを喜び合おう』
(さ、さっすが……《主人公》……)
あわや収集がつかなくなりそうな、赤ん坊に対して何ができるだろうという事。
このまま病院の廊下で、そして目の前で、そこまで悩まれては俺も心苦しい。
それを、赤ん坊の誕生を祝福しようという当初の目的に回帰させることで、一旦皆をなだめようとする《主人公》の手法は、きっと無意識のものなのだろうが見事だった。
『いつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。折角今日は全員が時間を取れたんだ。どうだろう。正式なお披露目は別でやるとして、今日のところはいつもの……』
『『『『『『『『「「ファミレス?」」』』』』』』』』
『あ、アハハ。気を張るよりも、気の置けない場の方が、俺たちらしいだろう?』
赤ん坊を一目見たい。その目的は果たされた。
興奮は冷めやらぬだろうが、俺とルーリィからその申し出があったのもこの場で立ち尽くし、悩む彼らに一時中断を刺せるだけの決定打の一つになったのかもしれない。
(それに、赤ん坊も理由の一つではあるかもしれないが。クラス全員で一緒にすごすっつーのも、チームワークの向上を図るに効果的かもしれないな。もしかして《主人公》のヤロウ。そのあたりも狙って……)
自分でそんなことを思って首を振った。
チームワークの向上か。三組全体の結束力は、きっともうレベル99のフルカンストをしている。
これ以上のレベルアップはなさそうなものではあるが……
「ゴメン。残念だけど……」
残念だ。
本当は俺も、その申し出には是非とも乗りたいところではあったのだが……
「あぁ、そうか一徹。君は今日……」
『山本は都合が悪いのか?』
俺の言いたいことに気付いて、ルーリィが見せたのは苦笑。
《主人公》も残念そうだった。
俺もせっかくだし、クラスの皆と遊びたい気持ちはやまやま。
しかしながら今日だけは、それができなかった。なぜなら……
「悪いな。今日はコレでね?」
親指とひとさし指で弧を作る。そのままクイックイっと、口の前で
「なら私は三組と。良いね。男同士というものは」
「緊張してならないけどね」
俺と、ルーリィにしかわからないことがあった。
たったいま、突然の提案をされる前から、俺には予定が入っていたのだ。
「
「俺はまだ未成年だよ?」
「フフ。そういう席は、
◇
「あ、ちょっ。だから俺はこれ以上酒は……」
『ま、いいじゃない。ちょっとね、深い話になるよ』
ふと優し気な眼差しながら、表情は寂しげなようで笑っているようで。はたまた何も感情を浮かべていないような貌を旦那さんが見せるものだから。
おもむろに、お銚子に入った日本酒を俺のお猪口にかたむけたとき、俺には断れなかった。
「君がいるとねぇ、トモカさんは……次々と
「……先におことわりしておきます。
「分かってる。そうだったらとっくに叩き出しているし。それに君には、
一瞬、言われたことにドキリとしてしまって、緊張に押されるように注がれた日本酒を飲みほした。
喉を熱いものが一筋通るのを感じながら、優しく語り掛ける旦那さんの「まぁまぁ」という言葉と共に、改めて注がれたお替りをお猪口に収めた。
ルーリィが先ほど病院で言及したことは、こういう事。
今日俺は、トモカさんの旦那さんと、
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