第22話 誰と一緒に、祭りを警備するかというお話でっ!
「肝試し? なんだよそれ」
「あっつい夏に涼しさを。夜の寺や墓場を行って、ゴール地点にある火のともった蝋燭から、自分が持ってきた蝋燭にこれを移して帰ってくる。一種の度胸試しだ」
「よ、夜の墓……かよ」
その日の夕食。下宿でいつものメンツでテーブルを囲むさなか、斜め右前に座っているアルシオーネの口角がひきつった。
「もしかしてアルシオーネ、心霊弱いのか?」
「ばっ! 俺に怖いものなんざあるものか!」
おい、焦っている様が、一層図星だとわからせるから、図らずもニヤァと笑ってしまった。
「に、兄さま」
「ナルナイは興味があるのか?」
「そういうわけではなく。その日は、三縞市内の夏祭り開催日と聞いています」
途中で呼びかけてきたナルナイは、何か、もじもじしながら口を開いた。
「おう。市の青年会議所から協力の申し出があったようでさ。怖い思いしてもらって、冷や汗をカキカキ涼をとるって寸法。祭りのイベントとしちゃピッタリだ」
異世界から突然来訪する脅威に備えるべし。
それが、士官学院の全訓練生が持つべき姿勢。
学院の所在地が三縞市にあることから、市は学院に、それら脅威から守ってもらうことへの期待を。
その代わりとして、市は、できうる限り学院と良好な関係を築こうとする相互関係があって交流は深かった。
今回、市から肝試し運営依頼を受けたのは、そういう背景もあったようだった。
「刀坂君。彼もやりますね」
「ちょっとわからないんだよな。『生徒会に顔を出す』って言ってたけど、確か生徒会メンバーじゃなかった気がするけど」
「一年生の頃から、市からの依頼を生徒会から代行する形でいろいろ動いていたようです」
「生徒会の仕事を、代行?」
「まぁ、早い話が市から依頼された、諸雑務やお使いのお手伝いしているようです。依頼は多種多様。数も多いみたいで、現在の生徒会人員では、ギリギリこなすかこなせないかというところまで忙しいようで」
「だからアイツが代行してると。だったらアイツが生徒会に入っちまえばいいのに」
「この学校にはホラ、家格主義の面が強いですから」
あぁ。そういうこと。
学生レベルの出来事における権力を、一組二組以外の奴らには、握らせたくない。シャリエールが伝えたいのは、そういうことに違いなかった。
「ほんっとうにくだらねぇなそういうところ」
「とはいえ、実態は猫の手も借りたいところですから」
「俺だったらバックレるね」
「そこは、なんと言いましょう。刀坂君が困っている人を捨て置けないタチであること。あとは先代、先々代、現生徒会長が人格者であるからとしか」
「他の生徒会メンバーは別として、あの生徒会長が相手なら受けて構わないと?」
(あぁ、そう考えたらわかるかも。だってあのキャワワでロリリな《非合法ロリ生徒会長》だぜ?)
「そうして3年。この街の役に立ってきた彼は、今では市の誰もが彼のことを快く思っているみたいです」
へぇ? 《主人公》はやっぱりすげぇな。そりゃあ《ヒロイン》がその頼りがいに惚れていて、その頼もしさに他の女子たちの信頼を集めるわけだよ。
(にしても、やっぱ《非合法ロリ生徒会長》だけは凄いね。だから会長になれたんだろうが。御剣みたいな雑魚(俺は何もしていないが)が学生内の実権握ったなら……)
「って、ちょっと待て。色々おかしい」
「おかしい……とは?」
「生徒会メンバーってことは、じゃああの会長は何組なんだ?」
そう、おかしいのだ。
残念ながら、彼女は三組の人間じゃない。
ってことは俺たちを見下す一組。見下してはこないが距離を置こうとする二組の生徒であるという事になる。
「なおさら、人格の良さが浮き上がるな。って言うか、考えてみたら生徒会長ってことは、俺たちと同い年なんだよな。同い年かぁ……」
(ロリリ……)
「確か二組だったな。家格で言えば一組には届かず、どこか退魔の
おっと、ちょっと初耳。
確かに、トリスクトさんは人に壁を作る方ではないが、クールな雰囲気が他人に距離を置かせる。
(あんなロリリが、それでもトリスクトさんと。あの人懐っこさは天賦の才だね)
「私から見たら非の打ち所がない女の子とも思ったが。ちょっと意外だったな。悩み事だけは、本人の意図とは関係ないから」
「そこまで深い話をされたのか」
「プロポーズされて、同じ屋根の下で暮らすと、どんなことが起きるのかと」
「ハァッ!?」
「ずっと実家から、先ほど話に出た、連なる
「なぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ちょっと、ショック。
あんなロリリを、物にせんとする野郎がどこぞにっ!
ってことはアレか! あのロリリな可愛い顔も、ロリリなオッパイも、その男に好き放題……
(が、頑張ってくれぇ《主人公》! 君に恋する乙女の白馬の騎士、いや、白馬の侍になって、お姫様を救ってあげてくれぇ!)
おい、人任せかよとか俺に言うな。
面倒事はごめん被る。
それに彼女は《主人公》にすでに堕とされているんだ。
え? 《
知るかっ! んなもの、救った後で、《主人公》に脳汁絞っていただきましょう!
「な、ナルナイとっ!」
「……あ、そうだった。ゴメン。話が脱線しちまってた」
いかんいかん。
シャリエールの補足情報に飛びついてしまった。
トリスクトさんからのショッキングな秘密にドキリっとしてしまったから、いつの間にかナルナイをないがしろにしてしまっていた。
(いや、すまんて。俺が悪かったから、そんな申し訳なさそうに遠慮した顔で、チラチラと様子をうかがうような顔しないでくれ。心苦しくなっちゃう)
「お、お祭り。一緒に行きませんか?」
「俺と? 誘ってくれたのは嬉しいけど、俺もこういう三組合同作業に関わるのは初めてのことだし、勝手もわからない以上いまは何とも……」
「却下だ」
「却下ですね」
嬉しいにゃ違いない……が、どのように答えるべきかわからない中、まさかのトリスクトさんとシャリエールが前に出た。
「なっ! 兄さまに聞いているんです!」
「お前たちがいると一徹に迷惑掛かる。先日の脂壷の一件で、それがよく分かったからな」
あ、トリスクトさん。めっちゃクール。
「私も、学院長と教頭に監督責任を問われました。それに心苦しかったんですから。その隣に一徹様が呼び出され、お嬢様たちの責任を一身に受け、叱責されているのを前に、何も言えませんでした」
シャリエールも努めて冷静だ。冷静に、辛辣な言葉を口にしながら、煮物をつついていた。
「ふみぃぃぃぃぃぃ!」
ちょっとナルナイが不憫。悔しそうに下唇をかんで、箸を握った手をプルプルさせていた。
はい、そこで見ない。俺のせいじゃないはずなんだから。
「一徹」
「ん」
「当日は肝試しの運営と別に、祭りの警備の手伝いもするらしい。とはいえ、自由行動ついでの見回り。何かあった時だけ動けばいいということだから、休憩時間は私と行動しないか?」
「それは構わないけれど」
無理のない案。それにいつも落ち着き、ほとんど取り乱すことのないトリスクトさんとなら、下手なことも起こるまい。
「ず、ずるいです!」
ずるいとか言われてしまった。でもまぁ、ナルナイたちには前科があるから。
プリプリと怒っているのは実に可愛らしい。が、起こす問題の質が質だから、ぶっちゃけ怖い。
「困りましたね。却下しても、これほどまで食い掛る。このままでは、祭りの当日に姿を現しかねませんか」
うげ、シャリエールの予想も十分考えられるな。
ナルナイたちと行動するのと、ナルナイたちが祭りに出るのとは、本質が違う。
(面倒くせぇ。そうなると世間知らずなコイツラが、またどんな問題を起こすか……)
「シャリエール。まさか、二人の行動に監督者が必要……とか言わないよな?」
「残念ながら」
「なっ!」
「やった!」
「よっしゃぁ!」
結論が出たらしい。
「ただお買い物に行く。何処かに行くとかでなく。お祭りという風習によるイレギュラーな催し。日本にいまだ慣れないお嬢様方にとって勝手はわからないでしょう」
悩まし気に語るシャリエールに対して目を見張る、トリスクトさんとは打って変わって、ナルナイとアルシオーネの表情はパァッと明るくなった。
「だがシャリエール。一徹は……」
「何か勘違いをしていませんか皆さん?」
だが、出た結論は、どうやら想像していた物とちょいとばかし違うらしい。いたずらっ子のように我らが教官殿は歯を見せていた。
「お嬢様方の監督者には、ルーリィ・トリスクト様がお願いしますね?」
「「「「……は?」」」」
予想外すぎる決定。
彼女以外、俺も含めて全員が固まってしまった。
「確かに一徹様は小隊長。お嬢様たちの監督者ではありますが、それを言うなら副隊長にも同じことが言えます」
「ちょっと待てシャリエール。私は……」
「あら、まさか先ほど、『これ以上迷惑をかけるな』と心配を見せた貴女が、肩代わりできないとは申しませんね?」
「くぅっ!」
その考え方は、ぶっちゃけなかった。
「今回お嬢様たちの責任は、ルーリィ・トリスクト様が。お祭りへの協力は三組全体の決定。なら教官にも責任の一端がある。一徹様のサポートは、私にお任せください」
「ひゃッ!」
論破とばかりに、この夕食の場で勢いを完全に握ってしまったシャリエール。
話の終わりは、俺の腕に抱き着きもたれかかることで示した。
「見回りは、私としましょうね♡」
「み、認められませんそんなこと!」
「教官の職権乱用も
「リンゴ飴ってぇの、一回食ってみたかったんだよ。あれだ、祭りのお好み焼きって、無駄にキャベツだけ多いんだろ?」
アカン。今日はいつもに増して、夕食の場が戦場レベルの激しさになってる。
「あら~、おじ様たちや忠勝さんと話らしい話はしなかったみたいだけど。却って一徹を放っておけなくなっちゃったみたいね。ルーリィもシャリエールも」
この状況を目に、何か思ったのか。トモカさんが苦笑いを浮かべて呟いた。
なんか最近、俺の耳がいろいろ取り溢しまくっている気がする。
もっと頑張ってくれ俺の耳! 怖いから! もう一度言ってもらったり、声を大きくしてもらったりなんて、お願いできないんだから。
「一徹?」
「ハイ、ハイッ!」
で、トモカさん、突然だった。
いきなり、俺のそばに座って、耳打ちをしてきたから、珍しかった。
「生徒会長の女の子は駄目だからね?」
「……え゛?」
「頭もよくて皆にも優しいし。生徒会長なんて責任ある仕事も任されて可愛い。好きでしょ。そういうの」
「ぐっ!」
なんだ。エスパー?
俺は、好きなタイプをトモカさんに伝えたことがあったろうか?
驚きを禁じ得ない。
トリスクトさんがいる前だから、あまりこういう話はしていけないのはわかっているが。
「言ったでしょ。筋を通せって。この娘たち以外、アンタは駄目だからね」
その言葉には得も言われぬ何かを感じて、慌てて首を縦に振るしかなかった。
わからない。
なんだって、トモカさんは、少し不機嫌なんだろうか。
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