8月 肝試し、夏祭り

第21話 《非合法ロリ生徒会長》から《鬼嫁》へと続くソウルクーリングッ(肝試し)!

『あ、鉄くぅ~ん』


 な、なんだあの、抱きしめたくなるような愛らしい小動物はっ!


 前の授業が明け、次の授業は場所を変更する。


 教材一式を担いで《主人公》とダベりながら(大半は先日の脂壺の一件に対する苦言)廊下を行くさなか、黄色い声と共に、パタパタと足音を傍目かせて背の低い少女が近づいてきた。


 認識した途端だ。周囲に目配せした。


 近づく少女は確かに超可愛い。それにオッパイも……

 しかし残念ながら《主人公》ロックオンな瞳はハートマーク。となれば気になってしまうのは《鬼嫁ヒロイン》の存在だった。

 慌てて索敵開始。


(大丈夫だ。いない……みたいだな)


『次の授業は場所を移動するんだねっ』

『そうなんだ。山本にも授業で使う備品運ぶの手伝ってもらって』


 あ、あのね《主人公》。この子のオーダーはお前だ。いきなりアウトオブ眼中な俺を巻き込んでくれるな。

 大体そういう場合って、巻き込まれた側のせいじゃないのに、「アンタはお呼びじゃない」みたいな顔を女子(《ヒロイン》と《猫》、ときどき《委員長》)はしてくるんだから。


『山本一徹君?』

「え? そうだけど」

『問題児のっ。学生恋愛どころか、プロポーズまでしておきながら、後輩ちゃんたちと海に遊びに行った?』

「うぐぅっ! 否定したい……否定……できない……」


 ほぅら、来たじゃないか!

 やっぱりアウトオブ眼中には恋する乙女は棘ばかり。って……


「あれ?」

『フフッ。ゴメン。冗談が過ぎちゃった』


 な……んだと?

 ハートブレイクショットを頂いてのけぞって。

 しかし、改めて少女を見てみると、敵意も侮蔑の色もなかった。


『学校にはもう慣れたかな? だったらいいんだけど』

「え?」


 それどころかニコニコと。

 背の低い彼女が背のまぁまぁ高い俺を見上げる。そんな本当にリスが見上げてくるような、あの……


『何か学院内について不便な点とか改善。要望点があったらいつでも言ってほしいなっ』


 なんだこの愛くるしさは!


『生徒会長として頑張っちゃうよっ』

「なぁぁぁぁぁぁっ!」


 せ、生徒……会長……だと?


 こ、こんな、オッパイの大きい小動物が制服を着こんだような。そう、トランジスタグラマと言ってしまおう!

 夏服シャツは、オッパイ付近がパッツンパツン。

 超ミニのスカートで、伸びるはぎはストッキングの光沢がなまめかしい。

 長いブラウンヘアを、髪先付近でひとまとめにしてフワッフワなエアリー。

 パッチリなつぶらなおめめ。あどけない面立ちが、超ロリッロリ。


 男なら誰しもが舌なめずりして、喉から手が出るプロポーションを、絶対に手を出してはいけない幼女然とした彼女が持ち合わせる。

 なんという背徳感っ! 


 決めた! 《非合法ロリ生徒会長》というあだ名を是非進呈したい!


『山本君大丈夫? なんか固まって……』

『あ、気にしないでくれ会長。山本は時々こうなるんだ』

『そ、そうなんだ。あ、もうこんな時間。ごめんね引き留めちゃって』

『何か俺に用だったのか? なら、あとで生徒会室に向かうけれど』

『だとありがたいなっ。待ってるね鉄君っ♪』


 《非合法ロリ生徒会長》、《非合法ロリ生徒会長》、《非合法ロリ生徒会長》、非合法ロリ生徒……


『山本? おーい山本。どうしたんだ? 帰ってこい』


 その出会いは、僕のひと夏に衝撃をもたらしました。


 僕をよそに、二人は何か話していたようですが、あまりの驚きに結局僕は、《主人公》にバチコンッ! やられるまで、何処かの世界に行ってしまいました。



 入道雲がどこまでも抜ける青い空にくっきり際立つ。照りつく日差し。うぜぇ暑さとうぜぇ蝉!


 8月。


 一学期の定期試験が終わり、世間様は、およそ長期夏季休暇期間といったところだろうか。


(士官学院はこの限りでないんだぁ)


 が、異世界脅威に常に備えなければならない俺たち訓練生は、いつも通りのスケジュールをこなしているのだよ。

 あぁ、青春最後の夏休みよっ!

 

(というかぁ、それは三組に限って……なのかぁ?)


 いや、陰陽道だか神道だかの名家の子息、息女の集う1から3年までの一組連中は違う。

 ちなみに、二組の奴らのお家は、一組に代々忠義を誓うようなところらしい。


 そういうわけで、やがて家を継いで、実家にかかわる他の家、過去から忠を尽くす家来一家、主一家同士での付き合い。

 特に一組共は、一大勢力をまとめ上げる帝王学を学ぶため、ひと月家に帰ることを許されていた。


「あっ……ぢぃぃぃ……」


 素直に羨ましいと言おう。


 そんな考えが頭の中にはびこってるから、クーラーのない教室で、俺は溶けだしそうなレベルで机に伏していた。


『あはは。山本が学院の夏を経験するのは、今年に入ってからだもんな』

「笑い事じゃないんだって刀坂」


 二年のキャリアは長いね。

 確かに熱そうではあるが、クラスメートたちには余裕が見えた。


(唯一の楽しみといやぁ……)

 

 女子の夏服のみである。

 が、いわゆるところの、汗でシャツが透けて、下着の柄が浮き出るところに興奮を感じることはできないのだよ。


 そこは厳格な士官学院。

 透けても構わない様、彼女たちが付けているのは、白かベージュの下着なのを俺は知っている(生徒手帳に書かれてるし、シャリエールから聞いているだけで、覗きを敢行したわけじゃないから誤解しないようにっ!)。


 いろいろ、絶対におかしいって。じゃあなんでスカートだけは、膝上何十センチあるのぉぉぉって、目ぇ見張るほどの短さなんだよ。


(お前ら女子ども職人だよ。そこまで短いのに、なぜかギリギリ見えないんだから)


 フッ。だがそんな一方が緩くて一方が厳しいアンバランスな夏服の縛りが、俺をマニアックな道に進ませることを、学院は知らないようだ。


 さすが士官学院。

 自堕落な生活で太ることを防止させるため、ピタッとしたサイズの制服を着ることを学則としたのが悪手。


 体の線は際立ち、妄想なら如何様にも……


 (お、流石は《委員長》。きょぬーによって張ったワイシャツ部分なんてもう……)


「あう?」


 ピスッと、音が聞こえた気がした。んでもって驚いて声を上げた……瞬間。


「ぎゃあああああ! 目がっ目がぁぁぁぁぁ!」


 二つの猛痛が眼球を襲った。


『ネコネちゃん!?』

『ん、なんか留め置けない視線を感じた』

『彼女で我慢しなさい山本。失礼じゃない。ねぇ、ルーリィ?』


 ゆえに目を閉じざるを得なくって、


『アハハ、なんか一年の頃の鉄と灯理を見ているようだね』

『鬼柳、なぜ俺が出てくるかわからないし。それにあれは事故だったのに』


 そんな中、暗闇の中で好き放題言われるのが心に来ちまっていた……時だった。


「なんだ一徹。見たいのか? 私の体が」


 何を驚くことがあるとでも言っているかのように、さも当然にトリスクトさんが告げてくる。

 やっとこさ、ボヤぁっと視界を取り戻して、認めた。

 トリスクトさんは机の前に腰に手を当て立っていて、真剣そのものの表情で俺のことを見下ろしていた。


「別に構わないが。君が望むのなら」

「んがぁっ!?」


 こちとら衝撃的すぎて、机から突っ伏していた状態からのけぞってしまって、結果、椅子に座ったまま後ろにひっくりカエル。


『ア、アンタたち。いよいよ真剣に、節度ってものを考えなさいよ』

『『『『『本当、そう思う』』』』』


 やっぱり、同じクラスで三年目っていうのはチームワークが違う。

 頭を抱えてため息交じりの《ヒロイン》のつぶやきに、三組全員がタイミングよく同じ言葉で、うんうんと腕を組んで頷いた。


『お後がよろしいようで』


 いやいやいや《主人公》。これのどこにお後よろしい要素あった?


『皆、聞いてくれ。先ほど生徒会より、三縞市からの依頼についての説明を受けた』


 って、無理やり話を進めやがってコイ……


『へぇ? 生徒会から。生徒会の誰から、かしら?』

「ひぅいっ!」


 いや、《主人公》を恨むどころじゃないかもしれない。

 後ろで、話を聞いた《鬼嫁ヒロイン》(恋人同士ではない)の冷たい気が膨れ上がって、ぞわぞわっと背中を駆け巡った。


『山本』

「ん?」

『あの時俺たち二人でいたときに話しかけてきたのはそれが理由だったらしい』

「おまっ、それをここで言うの……」

『へぇ? 貴方もいたの。山本ぉ』

「ひぐぃっ!」


 ねぇ、《主人公》って無意識異性攻略マスターであるとともに、無意識……敵作りマスターだとは思わねぇだろうか! 

 今、後ろからひしひしと感じる殺気に、《主人公》への殺意を覚えてならないんですけどっ!


『肝試しの準備と運営について、俺たちだけでもう一つ催しを作ってくれないかと。どうだろう。夏の強化合宿前に、三組で臨む最後の機会だ。だから皆と……』

『『『『『おお!』』』』』


 あぁもう。ったく。

 ……《主人公》補正ってのはやっぱ、現実世界にもあると思う。

 ガッツポーズして胸を張って堂々とした述べた《主人公》の口上。

 いま初めて伝えたばかりのはずなのに、皆が協力を誓った。

 

 即答かよ。疑問も何もない。皆の彼に向ける視線に、絶対の信頼が見えた。


『よし、じゃあ打ち合わせを始めよう』


 なんか、変に不安がられている俺とは違って、羨ましいね。


 う、羨ましいっても、ちょっとだけなんだからね。

 別に、自分もいつか絶対……なんて、強く思っているわけじゃないんだから!


『ねぇ、山本』

「はい。何でしょう石楠しゃくなさん」

『後で、詳細を希望ね♡(ニッコリ)』


 あ、違った。即答したのは皆じゃなかった。


 《鬼嫁ヒロイン》さま、なんでしょうか。その笑顔に秘めた氷のような寒さは。


「フッ。恋する乙女は大変だ」

「助けてくれないか? トリスクトさん」

「反面教師という奴だよ。灯里を通して、想いが伝わらないもどかしさを味わってみると良い」

「なんでっ!」


 そして、最近気づいたことがありまして。

 トリスクトさんと《ヒロイン》。新年度始まって4か月目に入り、結構仲がいい。


 もう、俺の肝だけは冷えてる。

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