文化祭初日 私が好きになったくらいの人だから、貴方が選んだ彼女はきっと素敵。

第62話 士官学院文化祭一日目 プロローグッ!

〘文化祭会場5分前ですっ♪〙

『ごふんまえ~!』

『ごふんまぇぇぇっ!!』


 つ・い・に、文化祭の当日が訪れたってよ(他人事かい)。


 校内アナウンスで、三縞校自慢の可愛っ! ロリッ! の《非合法ロリ生徒会長》の声が響き渡る。 

 それを聞いて、至る所から、周囲に情報を行き渡らせる復唱が聞こえてきた。


『皆、聞いてくれ』


 何はともあれ、俺たちの出し物の準備も、今日までに何とか片付いた。後は開場して、遊びに来たお客さんを接待するばかり。


 思い思いの表情で、開場を待っていた俺たち三組に、我らが《主人公》が声を挙げた。


『授業や訓練に忙しい中、準備を間に合わせることができたのは、皆のおかげだ』


 薄く笑って静かに言葉を紡ぐ《主人公》に、誰もが嬉しそうに笑みを返していた。


『退魔師の末裔。突然力に目覚めた者。人ならざる者妖魔……入学したときは、どんなクラスになるか俺自身も予想できなかった。でも、時に衝突したり、壁を共に乗り越えたり、いまや俺にとって、これほどかけがえのない物はない』


 《主人公》め、相も変わらず《主人公》してるじゃないか。

 胸に手を当て、心からのセリフであることをきっと無意識中にわからせてる。まったく、十八歳の青少年にしては恥ずかしくないのか。


『そして幸運にも、俺たちの人と人とのえにしは、最初から最後まで最良のものだった。トリスクト?』

「うむ」

「山本も」


 ちょっと、待てって。巻き込むなって。良い笑顔を向けるんじゃねぇよ。


『二人は今年編入して、これまでの二年で出来上がった、それまでの俺たち三組に戸惑ったこともあったはず。でも投げず、あきらめず。よく俺たちと関わることをやめてくれなかった。ありがとう』

「お、おう……」


 恥ずかしくなっちゃうじゃなぁぁぁいっ!


『ん、戸惑ったっていうなら、編入当時からラブラブだったルーリィと山本に、どう接しようかと悩んだ私たちだけどね』

『あ、ああ。猫観の言うとおりだ。時折、見ているこちらまで恥ずかしくなったぞ』

『フン、壬生狼と意見があうとは。訓練生の領分を弁えろというに、結局改善の兆しはなかったか』

『まぁ仕方ないだろう蓮静院。俺たちの前でプロポーズ宣言があってから、もう五か月が経つのか』


 って、《猫》よ。ただでさえ恥ずかしいんだ。含むような笑みでチラッと目だけこちらに向けない。


 《政治家》! 眼鏡をくいッと直して迷惑そう(ちょっと恥ずかしそう)に言うな。


 相っ変わらず憮然としやがって《王子》はぁ。


 《縁の下の力持ち》は、なんというかおおらかだね。なんだよこの、なんでもかんでも受け入れちゃう大自然的な雰囲気は。


『ねぇ、結婚式は呼んでくれるんだよね? 僕、絶対に参加するから』

「んなぁぁぁっ!?」

『卒業以降でしょうか? すぐにでも同窓会は開かれそうですね』

『しゃんとしなさいよね。招待状に書かれた新郎新婦名で、貴方の奥さんの名前が違う人の物だったら、破り捨てた後に殺しに行くから』

『三人でですね』

『ん、三人でだね』

「ヒィッ!」


 《ショタ》が話に乗りやがってニコニコしていて、《委員長》も楽しそうに口元を抑えていた。


 《ヒロイン》は……《ヒロイン》は怖い。っていうか……


(うちのクラスの《女子三人衆》が怖い……)


「一徹」

「ん?」

「人に恵まれたな。私たち」

「あ、ああ……って……えぇっ!?」


 そんなこと考えていたところ、隣にいたトリスクトさんが、手を握ってきた。

 周りのソレを見てからのヒューヒューなはやし立てよ。いと恥ずかしっ!


『ハハッ! やっぱりいいクラスだ』


 笑い事じゃねぇよ。《主人公》、手放しで笑いやがって。


『卒業後は……進路がバラバラになるだろう』


 が、にぎやかな空気は一気に静まり返った。


『魔装士官学院の卒業生は、必ず魔装士官にならなきゃならないわけじゃない。蓮静院は家を継ぐ勉強を始めるだろうし、委員長や壬生狼は大学受験をすると聞いている』

『俺は一族に一度帰るつもりだ。人と人ならざる者が、いままで以上に手を取り合える世界を作るため、何ができるか考える』

『ん、私は海外に出るよ。魔装士官制度がない国を回って、異世界関連で困っている人たちの助けになれるかもしれないから』


 (おっとぉ? ここで、そんな話になるかよ)


 俺なんて、自分が何者か突き止めることに躍起になってばっかりだったってのに。

 《主人公》の話もそうだが、《縁の下の力持ち》も、《猫》も、将来のことを考えていることに驚かされてしまった。


『そうなると、大切なこのメンバーで一挙に集まって何かをするというかけがえのない時間は、もう残り少ない。でも、それでも俺たちは悲嘆したりしない』


 卒業後のことを匂わされて、静まり返った場。しかし、《主人公》は話を終わらせなかった。


『だからこそ俺たちは、この文化祭という時間を、一分一秒たりとも無駄にはしない。思い出を確かな自分の宝物とし、卒業後も強く生きるための大きな糧にしたいじゃないか』

『えぇ、その通りよ鉄』

『フン、お前の青臭さも、三年経とうが薄れることはないな』

『これこそ僕たちの鉄だよね』

『あぁ、俺たちのリーダーだ』

『年度末の競技会では全小隊トーナメントの関係で敵同士になる。なら実質これがクラスで作る最後のイベントか。少し気恥ずかしいが、最後くらいは僕も全力でやろうじゃないか!』

『正直じゃないよね。蓮静院も壬生狼』

『『うるさい猫観! この男と一緒にするな/しないでくれ!』』

『あ、あはは。学院対抗模擬戦争のこと、忘れているんじゃ……』

「まぁ、良いじゃないか富緒」


 《委員長》にトリスクトさんが笑いかけたその時、繋いでいた手に力がこもった。俺も、答えるようにギュッと、感触を確かめるように握り手を強めた。


(ほんとに、本当に、やれやれだぜ。でも、運がよかったわ。マジで俺、良いクラスメートたちに恵まれた)


 本当、頼もしさっていうのは、言葉にならなくて……


『やろう皆! 第三魔装士官学院三縞校三年三組。これより文化祭、模擬店活動を開始する!』

『『『『『「「おうっ!」」』』』』』


 ガッツポーズとともに、はきはきとした号令が通った。

 熱意が、俺の背筋に電気を走らせた気がして、図らずも、気合を返してしまう。


〘これより文化祭を開催します。正門を開放、開場しますっ!〙


 俺のクラスも同様だが、他の至る所でも、開催に向けて気合や雄たけびなんかが上がっていた。


 それと同時。

 可愛っ! ロリッ! 《非合法ロリ生徒会長》のプリチーなアナウンスが、響き渡った。

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