第63話 模擬物産店が絶好調すぎて、波に乗り切れていない件についてっ!
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいませぇ! 安いよ安いよっ! 買わなきゃ損損いい品いっぱい! いらっしゃいませぇ!」
で、気合を入れて、文化祭開始を迎えられたのはいいのだけれどぉ……
『『『キャー! 蓮静院くぅーん/せんぱぁぁい!』』』
『フン、好きな品を買っていくがいい』
『あ、あの、サイン貰ってもいいですか!?』
『写真を一緒に足りたいんですけどっ!』
『フン、足りないんな。まぁ、あといまの三倍分買ったならいいだろう(ゴホンと恥ずかし気に咳払い)』
『『『キャァァァッ♡♡!』』』
先に言っておく。
我が三組の協賛店商品代理販売は大盛況だ。
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいませぇ! 安いよ安いよっ! 買わなきゃ損損いい品いっぱい! いらっしゃいませぇ(必死)!」
『壬生狼先輩、これなんかどうでしょうか?』
『に、似合うと思う。だが、これも。難しいな。どっちも似合うと思うんだが……』
『じゃあ二つとも買いますっ!』
『あ、ありがとう(ニコッ!)』
『いやぁぁあぁぁぁっ(悲鳴が高周波一定レベルを超えて、もはや音が聞こえない)♡♡!』
開場とともに、たくさんのお客さんが集まってくれた。
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいませぇ! 安いよ安いよっ! 買わなきゃ損損いい品いっぱい! いらっしゃいませぇ(必死プラス焦り)!」
『あらぁ、鬼柳君あいかわらず可愛いわねぇ。おばちゃんも一つ買っていこうかしら』
『あ、ありがとうございます。冷やして食べてください。本当においしいですよ(ニパッ)!』
『きゅぅぅぅん! おばちゃん、鬼柳君も食べちゃおうかしらぁ!』
『え? あの、それはどういう……』
『ちょっとどいてよオバさんっ! 鬼柳きゅん、これはどんな商品なの? 教えてくれないかなぁ!』
『まっ! この小娘っ! 割り込んでくるんじゃないわよ! 今私が話しているのよ!』
『は? ユキくんを、オバさんから守っているの見てわからない?』
『ななな、なんですってぇ!』
『あ、あの、お客さん。喧嘩は……』
いや、盛況というか、大盛況というか、むしろ一種のムーブメントが起きているといってもいいというか……
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいませぇ! 安いよ安いよっ! 買わなきゃ損損いい品いっぱい! いらっしゃいませぇ(必死プラス焦りプラス泣き)!」
『あ、あの牛馬頭……君?』
『来てくれてありがとう。とても嬉しい(お客としてきた女の子の頭を優しくナデナデ。きっと他意はない)』
『う……うん(恥じらい)♡』
いやね、ムーブメントなんだよ。
何だったら模擬店が取り扱う商品の売れ行き、開店直後からケミストリーが起きてんだよ
でもさ、でもさぁ……
「いらっしゃいませぇ! いらっしゃいま……せぇ。安い……安いよ。か、買わなきゃ、買わなきゃ損いい品……いらっしゃいま……(むしろ泣き。全力号泣)」
『ぬふっ! ぬふふっ! ネコネちゃんネコネちゃん!』
『ん、お釣りは返した。手を離し……て。他のお客さんのお勘定ができない』
『もしよかったら、会計済ませた後、学内の案内をしてくれないかなぁ?』
『え、えっと、そういうことでしたら、文化祭実行委員の本校生が別にいますから……』
ねぇ、なんだよいったい。この状況は。
そりゃ、予想以上の人気ぶりに、本当は心が躍るべきだってのは分かってるんだけどさぁ……
「い、いら……いらっしゃいませ……買わな……損。いい品……(もはや呆け)」
『大盛況のようだねぇ鉄君』
『いえ、どれもこれも、協賛してくれた社長の皆さんと、仲間の協力のおかげです』
『うんうん、謙虚ぶりもいい。魔装士官学院生というのが惜しいな。君ならいい市議にもなれそうなんだが。どれ、一つ私も買おうか』
『有難うございます』
「い、いら……いら……うぅ……(もはや声にならない)」
『少し、鉄様への押しが物足りないのではありませんか? 灯理お嬢様』
『ちょっと、父様傍付きのメイドの貴女がどうしてここに!?』
『愛しのお嬢様の最後の文化祭です。私も色々お手伝いしようと思いまして。特に、進展が見えない鉄様とのこととか♡』
『よ、余計のお世話だからぁっ!』
……どうしてだっ! どうしてなんだ! なんで、なんで……
「俺のところに全く客が集まってこないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の、俺の文化祭はこういう風なはずじゃない!
開店直後には、看護学校や、三縞市内もしくは他の街から、《王子ファンクラブ》の女性客がなだれ込むようにやってきた。
《王子》の前が、お花畑と化してるぅぅぅ(巻き舌調)。
《政治家》も女子から人気なのは知っていた。が、ここまで奴も人気があるとは。知的な彼に合わせて、知的文学チック少女が数えきれないほど訪れていた。
《王子》の乱暴な《だがイケメンに限る》接客とは打って変わって、一人ひとり丁寧に接するから、接客を受けた女の子たちは全員、ポーっと目がハートになっていた。
さりげなく、二人とも余計に女の子に売りつけていることに、彼ら目当ての客は誰一人として気付いていないっ。
《ショタ》は、年上のお姉さんやおばさんに取り合われていた。
そしてそれを、若い娘たちが遠巻きから羨ましそうに眺めていた。
《縁の下の力持ち》なんぞ、素朴な女の子が集まっていて、しどろもどろな女の子を、カッコいい先輩かカッコいいお兄ちゃん演じるかごとく、頭なでたり、優しく声を掛けていた。
軒並み、女の子は堕ちていた。
「ふこーへいだっ! やってらんねぇ!」
そんな中、俺のところには、ほとんどどころかまったくもってお客さんは来ないんだぜ? こぉんなに必死に声を上げているのにっ!
「あ、あのぉ! お待ちのお客様! こちらのレジも空いていまぁす!」
『は? 何あのモブ』
『空気読めないってあぁいうこと言うのよねぇ』
で、待っているレディ&ガールに声を掛けてみる。この仕打ちだ!
「男性客の皆様も、俺のところが開いていますから!」
『は、あり得ねぇし。せっかく可愛い娘の手に触れんのに、なんでわざわざ男を選ぶんだよ』
『あの必死さ、哀れだよなぁ』
助兵衛客の男どもは、《猫》や《委員長》の手をなかなか放そうとしない。これ幸いにと、口説こうともしていた。二人は苦笑い。
《主人公》は三年間、三縞市の依頼をこなしてきたから、仲のよさそうな街の人が挨拶に来ていたし。
《ヒロイン》は《ヒロイン》で……って、誰だよ。
いきなり俺たち模擬店戦列に加わって、販売活動に協力し始めたメイドさんはっ!。
(それに……)
チラッと、すぐ右隣りを見てみる。
『ねぇ、ねえ、名前なんていうの? 海外からの留学生?』
『すっごく綺麗だね。もしかして海外でモデルさんしてたんじゃないのっ!?』
『日本語超うまいねっ! どれだけ勉強してきたの? 俺も英語とか勉強したいし、もしよかったら今度、相互学習の意味も込めて……』
彼女も、とんでもなく大盛況だった。
他の女子に負けず劣らず、長蛇の列ができてきた。
(って、おい! いつまで手ぇ握ってやがるんだ!? アイドル握手会じゃねぇんだよ! お釣り受けたら、さっさとどこか行きやがれ!)
「申し訳ありません。お次に並びのお客様が待っておりますので、まずはそちらを優先させていただいてもよろしいでしょうか?」
(あぁ、クソッ! 客商売だから笑顔を見せるのは分かるが、あげな下郎どもにぃぃぃっ!)
個人的に、トリスクトさんの販売活動が一番見ていてハラハラした。
つーか男どもが、また狡すっからい。
どう見ても傍目から見て、奴らの財布には小銭もあって、購入分ピッタリ支払いも出来るはずなのに、わざわざ札券持ち出して、お釣り返しでのハンドタッチをもくろんでいるのが見て取れる。
『ねねっ、そういわずにさ』
『三縞市以外、回ったことある? もっといろんなところに行ってみたいんじゃない? 今度俺の外車で……』
「あ、あのっお客さまぁっ!」
見てられなくて、それが、トリスクトさんの手をさする助兵衛客と彼女の間に、俺を割り込ませてしまった。
「お客様? いつまでも彼女の手を取っているようですが、お釣りに不足がありましたでしょうか?」
客商売。特に他にもお客さんが溢れかえっているこの状況で不穏な空気にするわけにもいくまい。
『あん? 野郎はおよびじゃ……ンギィッ!』
(笑顔だ。スマァイ~ル俺)
決して、相手を不快にさせることなく、目の前のお客さまもさばかなくてはなるめぇよ。
えぇ、えぇ。いくらフテエ野郎だからって、だから最初彼女の手を取っていたお客さんの手を握り……
「んが、んぎぎぎぃ!」
「お釣りに……不足がありましたでしょうかぁ♡?」
笑顔を忘れちゃあいけねぇよな。
「……次のお客様」
だが、俺が手を握るお客さんが何かしらの反応を示す前に、声を挙げたのは、割り込んだことで背中に控えさせたトリスクトさんだった。
そのことに意表を突かれてしまって、フッと力を抜いた途端、目の前のお客さんは手を引き抜き、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
「それでは、お客さんが逃げてしまうよ一徹」
「と、トリスクトさん?」
それと同時に、彼女は俺の隣に立つ。
「ねぇ、いま、ヤキモチを焼いてくれたね。私に」
「ガッ!」
笑って、ぱちりとウインクした。
言われて、図星で、ドキッとしてしまった。
「さっそく初日からいい思い出ができた」
「えっ」
「君は、私を守ってくれた」
クスリと笑う彼女は、言いながら、お客さんの長蛇の列を見やる。
「大丈夫だよ。安心してほしい。言ったろう? 私が君以外に揺れることはないんだ。なのに駄目押し。いまの行動で、さらに強く思わせるなんて」
隣で聞いていた俺なんて、当たり前のような顔で恥ずかしいことを口にする彼女に、体全身が熱くなる想い。
しかも、腰のあたりに、手を添えてきた。
その言葉はあまりに衝撃的。
トリスクトさんは再びお客さんたちの前に出る。再び売り子活動を再開して、また助兵衛客と応対し始めたというのに、俺は黙って見ているしかできなかった。
『フン。無様だな山本一徹。トリスクトを助けたつもりだろうが、すぐに戻ったところを見ると、
「ほんぎゃ!」
『それで、どうだ貴様のところは。トリスクトの方も絶賛大人気のようだが。お前はどれだけ売った? 何か手渡したところを、俺は全くみていないんだがな』
「ふぐっ!」
『なんだ、まだ何も売れていないのか』
『くふぅっ!』
そんな俺に、声を掛けるのが王子。いや……三人が、俺に視線を向けていた。
『そういえば貴様はいつだったか、俺たちに販売活動をご高説してくれていたようだったが……』
『ん、ルーリィに手助け断られたんだ。なんならショック受けて固まっていないで、私の方で男性客さばくの手伝ってほしい。かなり、うざい』
『販売活動が振るわないというなら、僕から何かアドバイスができればいいのだが(俺の気も知らないで本気で心配)』
(テメェら。この、三組コミュ障三人組が、人の気も知らないでぇぇぇぇ!)
「……ふふ……フフフフフ……」
『や、山本。どうしたんだ?』
『ん、山本が壊れた』
『フン、ザマアないな。人にはそれぞれ似合った販売方法があると、この男もこれで思い知っただろう』
「クフフ……クフフフフ……」
なんか、言ってやがるな? 上から目線で。
「ざまぁ」なんて思っているんだろう? お前ら。
(そうか、そうかよ。お前ら三人、俺より販売活動が順調なのがそんなに嬉しいか?)
キッ! と、《王子》、《政治家》、《猫》を睨みつけてやった。
「お……い。テメェらぁ……」
『な、なんだ。この山本が発するオーラは……』
『えぇい! ただの冗談だというのに、殺気を纏う奴があるか!』
『危険度大幅増加。対人訓練でもここまでの殺気は見せたことないね』
いいだろう。
「テメェらは……怒らせたんだ」
そんなに俺より高い売り上げを叩き出したいというなら、あげさせてやる。
「お集りのお客様方っ!」
だから、俺は一際大きな声を張り上げた。
「本日の十三時、十五時、十七時よりそれぞれ、蓮静院、猫観、壬生狼の順番で、一時間の学院案内ツアーを実施いたしますっ!」
『『『なっ!』』』
瞬間だ。
三人をそれぞれ目的としていた模擬店客が大きくざわついたのは。
すぐそばのトリスクトさんがそれを聞いて、「やれやれまったく」と口にしていたが、まぁいいだろう。
「ツアー開始一時間前までに、当店で1万円以上お買い上げしたお客様にのみ、参加資格をお渡しいたします!」
『え? それってまさか、綾人様と……』
『猫観たん。ネコネたん(はぁはぁ)』
『壬生狼君とデート。学園デート……』
その発表に、三人がぎょっと目を剥いて、視線を寄越すが……もう遅いのだよっ!
「どうぞ参加したいツアーのガイドより、商品をお買い上げくださいませ!」
『買いだ! 買いだぁ!』
『どいてよっ! 綾人様のツアーは私が参加するのっ!』
『ネコネたん!』
『ちょっと割り込まないでよ阿婆擦れ!』
『ネコネたぁぁぁぁん!!』
あぁ、俺の営業トークに乗ってくれた、お客様たちの反応の波が心地よい。
「……うん、ここまで反応があると、模擬店活動も楽しくなるってもんだね」
周囲の容姿が凄すぎるから、ここで俺は売り子としては役に立たないらしいが、もしかしたら周囲を煽りに煽る、宣伝マンの方が、まだ様になるのかもしれない。
「と……いうわけで、ちょっと俺、外回りをしてくるよ。お客さんもっともっと呼び込まねぇとな」
『き、貴様、待てっ! この状況を放り出したまま何処かへ行くというのか! ツアーなど俺は聞いていない! そんな催しなかったろうが!』
『ルーリィには悪いけど。殺すから山本。絶対に殺すから』
『ま、待ちたまえ。や、やまも……ふわぁぁぁぁぁ!』
何か、三人とも言いたいことがあるようだが、彼らは、ファン共の怒涛の買いコールに圧され、もみくちゃにされていた。
いやぁ、なんというか、クラスメートとして、仲間として、三組の売り上げに貢献できたようで、良いことした気がして気持ちがいいね。
文化祭一日目が開場して三十分。そうして俺は、さっそく模擬店を脱出した。
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