記憶を追い求めて。お姉さんと一緒いざイかん。誰(た)が記憶の鶴聞へ
第44話 学校サボったら、心の読める綺麗で謎なお姉さんに誘拐されましたっ!
「サボタージュッ!」
そう、こーなりゃいっその事サボタージュなのである。サボりなのである!
学校、フけてみました。
それはそれはもう、朝四時半に起きて、こそこそ準備して。
流石は《ヒロイン》。女の子だね。
学校に行く前の身だしなみを整えるのに時間がかかるのね。五時にはもう彼女の部屋からゴソゴソと物音がし始めて……
流石は《主人公》。ストイックだね。
体力作りの一環か。同じ時間にはもう、トレーニングウェアを着て、外出してしまった(俺が泊まらせてもらったリビングルームを通るから、必死に寝たふりした)。
で、俺の方も、《主人公》が帰ってくる前に、《ヒロイン》が自室から出てくる前に、タイミングを見計らって彼らの愛の巣を後にした。
(にしても、減点一だろ《主人公》。部屋に《ヒロイン》と俺だけを残して外出するかね普通。《ヒロイン》襲われるんじゃないかって、もっと警戒しろよ。ほんっとーに心配になってきた。良い奴だから、善意を悪用するような間男が出てきたら……)
「いやいやいや、何考えてんだ俺も。曲がりなりにも一宿一飯の恩人。んな大それた考えは捨てろ。とりあえず思い出せ。今日の俺の目的はなんだ?」
一応な。このサボタージュにも理由がある。
「ほうほう。学び舎での勉学を放り出すとは、青春じゃのう?」
「そうそう。セーシュン……って、は?」
「それで、朝っぱらなり駅にやってきて、遠出かえ。
そんなわけで三縞駅にやってきて、目的の駅を探そうと路線図を見ていたところで、後ろから声を掛けられた。
「あ……」
「なんじゃ?
(この人、どこかで見たことがあるような……)
ゴイスーな美人さんだ。
褐色の肌に、長い黒髪は艶やか、
すんげぇオッパイおっきい、エキゾチックなお姉さまがそこにいた。
(おかしいな。これほどキレーな人なら、何処かであったとして、簡単には忘れないはずなのに)
「それとも……ここに興味があるのかえ?」
「ブ、ブフッ!」
(アカン、鼻血が……)
まじまじと見つめていたら、まさかの行動。
お姉たまが、ご自身のきょぬ~を両手で持ち上げて、揺さぶったりするじゃ~あーりませんかっ。
刺激的な光景やで。
こっち見んな。
オッパイ見たいのに、凝視返されたら恥ずかしゅうて注目できんじゃろがい。
(って、いやぁ? この感覚、やっぱり何処かで……)
「あの、もしかしてどこかで……」
「なぁんじゃ。二世代も前のナンパ常套句をふるってくるものじゃのう。お姉さんに欲情するのは仕方ないとして、もう少し口説き文句を磨かねばの?」
勘違いだったかもしれない。
年下の男を振り回すのがうますぎる言動に翻弄されながら、質問に対して肯定がないってなら、そういうことに違いない。
「それじゃあ、どうして声を掛けてきたんですか? 見た感じ、お巡りさんでもなさそうですし。学校フけた学生を、補導するためってわけじゃないんでしょう?」
「フム?」
なら、なんで俺に声を掛けてきたぁ?
「娘っ子たちから離れてしまったなら、誰かが見てやらねばのぅ?」
「は?」
「いやぁ……の? ククク……暇つぶしに、男漁りじゃっ♪」
「ま゛!」
なんか、聞こえなかったから聞き直したのだが。
返ってきた答えは、あまりに予想外だったよ?
「お姉さん、絶賛男をとっかひっかえしておってのぉ。とはいえ、ストック分のアッシーメッシーミツグ君に飽きてしまった。新たな獲物を探そうと思っていたところで、女慣れしておらなさそうな童を見つけた……というわけじゃよ」
そして……ビッチかっ!?
「あ、先に言っておくが、ビッチではないからの?」
うげぇっ! まるで、俺の心を読んでいるかのように……
「……フフーフ。確かに寝泊まりは、ストック分の男たちの部屋でしているが。お姉さん、男どもを意のままに操る手練手管は熟知してるからのぉ。さて?」
おい、このお姉さま何をするつもりだ?
突然券売機の前に立ったかと思えば、おもむろに財布を出して……
「どこに行くつもりじゃあ?」
「ま、まさか……」
「童についていこうと思っての。面白そうじゃし、暇も潰せる」
「いや、初対面の方に、いきなりそんなこと言われましても……ですね」
どーしてこうなった! お姉さん、今日初対面じゃねぇかっ!
「ホレ、答えてみぃ。どこを目指しておる?」
「あの、だからぁ……」
「ふぅむ。答えてくれなければ仕方ない。適当に、何処まで行ってもいいように。関東県内最長三千円分乗車券を、二枚買っておけば良いかの?」
「あぁ、わかった! ちょっと待って! 待ってください!」
だからね、お断り申し上げようとした。
とんでもねぇ。
俺が言わなければ言わないなりに、ついてくる気満々か。高額乗車券を買おうとしてやがった。
しかも二枚だぜ?
やめてくれよ。仮に二百五十円で行ける駅だったらどうすんだよ!
二千七百五十円無駄になっちゃう。したら、俺が申し訳ない気分になっちゃうでしょーがっ!
「コラァ、せっつくな!」
だから慌てちゃって。財布を持ったお姉さんの手首に手をかけた。
「あぁっ♡ 妾を押し倒したいなら構わぬが。せめてここではやめてくれ」
「ハァッ?」
「童が望むのなら、ボックス席とか電車内トイレで、幾らでも相手をしてやるから。ここでは……の?」
やっぱビッチじゃねぇかっ!
「だからビッチではないというにっ! バリバリ一途ゾッコンラブじゃわい!」
しかも言葉がだせぇ!
「ダサいとは失礼じゃぞっ!? あっ!」
「あ……」
やべぇ。確信した。
どうやらこのお姉さん、ガチポンで心が読めるのかもしれない(この人に対して、変な妄想はやめておこう←ここ重要っ!)。
が、そんなことより、財布を開いたままのお姉さんともみ合ったことで、ポロリと落ちてきたカード四、五枚が気になった。
「あ、すみません。そこまで強くするつもりはなかったんですが……」
「ひ、拾わんでいいから。自分で拾うっ!」
「……あれ?」
さすがに、そんなことを言われたとしても、それじゃあまりに礼儀知らず。
しゃがんで、落ちたカードに手をかけて……
「山田……太郎?」
「拾うなと言うにっ!」
朗らかそうで、優しそうな顔写真の乗った運転免許証。
拾い上げた俺は、免許書とお姉さん交互に見比べた。
(ちょ、ちょっと……待ってくれぇ?)
試しに、他のカードもめくってみた。
(鈴木一郎さん。佐藤一さん。田中……)
「ぜ、全部誰かの免許書と保険証じゃねぇかっ!」
「コラ! 声が大きいっ!」
まて、待てよこの状況。
「な、なんじゃ童。その目は……」
すっくりと立ち上がる。開いた財布の中身を凝視してみた。
超高級ブランドの長財布。これも俺にとって驚きだが、相当な厚み。
その、厚みの理由は……
(大量の現ナマぁぁぁぁぁぁぁぁ……)
千円、万円の札束。二センチくらいあった。
「はは、あははははははは♡」
これは……間違いないだろう。
先ほど聞いた。
男に居住スペースを提供してもらって、それでなお、彼らとはそういう関係になっていないということ。
そして、手元にある身分証明書はおそらく、話に出てきたその彼らの者。
さらにこの財布に大量の現金は詰まっていて、お姉さんの物でないゆえの、金銭感覚狂った乗車券購入に向かう姿勢。
(すべてを、繋げれば……)
「お、お巡りさぁぁぁぁん! こちらでぇぇぇぇすっ!」
大きく息を吸って、叫びとともに吐き出した……瞬間だった。
「あぁんもう!
シュドッという、速くそして鈍い音。
「ハウアッ!」
熱いものが、腹部に生じ。何か奥から、喉元にせりあがるものがあった。
「秘密を知られたからにはぁ、こりゃますます、童を手放すわけには行かないのぅ♡」
(ゆ、ゆーかいされるぅぅ!)
「こんな美女捕まえて、誘拐とは失礼な。デートじゃ。デート♡」
またもや、心を覗かれた……のはいい。
美女を捕まえたって。捕まえられたの間違いだよね?
「表裏一体という言葉を、童は知っているかえ?」
……あぁ、もうどうにでもなれ。
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