9月 婚約発覚 過保護女子、厳慮系お嬢様。

第29話 過保護娘、厳慮系お嬢様が、増えましてっ!

 残暑はまだまだ厳しいざんしょ・・・・


 九月。

 一月帰省していた由緒正しいお家柄の同級生たちも学校に帰ってきた。


 御剣ザコなど、廊下ですれ違いざま、「自分たち一組がいたなら、祭りの事件はもっと上手く解決していた」などと言ってきた。

 瞬間でシャリエールやトリスクトさんを召喚しようとも思ったのだが、そのすっごい後ろで、テヘペロ調に舌を出し、右目ウィンクの、両手を合わせた《非合法ロリ生徒会長》が「ごめんねっ」とばかりにこっちを見ていたから、その可愛さにやられてしまった。


 しょうがないから、怒りを抑え、奴の肩をバシバシ叩きながら、「いやぁ、そうだろうな! 大変だったな! 改めて一組がいてくれたらってどれだけ願ったものか!」なんて、ちゃんとメンツを立ててやった。

 いやぁ、俺も物わかりのいい大人になった(「分かればいい。だが、触れるな汚らわしい」と言われたから、思いっきり肩は叩いたが)ものだぜ。


「タオル」

「持った」

「替えの下着」

「持った」

「歯ブラシは」

「持った。持ったよ。ちゃんと」

「じゃああとは……」

「ちょ、ちょっと待って?」


 さて、そんなこんなでとうとう、夏季強化合宿の日がやってきた。


 五月に一年生をリクルートして小隊に迎え入れて三か月。

 それまでに組み立てた小隊の連携や戦略を一層強化するための、士官学院三縞校全体合宿に、今日出ることになっていた。


 そろそろ学院に向かわなければならない時間帯。

 朝食を済ませ、昨日のうちに備えた着替えやら、なんやらを詰め込んだバッグを、あとは背負って出るだけ……なんだが、簡単には許してくれない存在がいた。


「大丈夫、大丈夫だからなリィン。心配してくれるのは嬉しいんだけど、ちゃんと持っていく物チェックリストだって」


 十四、五歳の、純朴で優しく、利発な美少女。

 同じ下宿で共同生活を送るメンバーの中では最年少のリィンという少女が、この段になって、持ち物ひとつひとつを確認しようとするからたまらなかった。


「なっ? チェックマーク付いてるだろ。リストだってリィンがわざわざ手間をかけて作ってくれたんだし」

「そうだけど……本当に大丈夫?」

「細心の注意を払った。ここで抜けがあったら、流石にリィンに悪いしさ」

「なら、良いんだけど。兄さ……一徹さん、抜けているところあるし」

「……はい、すみません」


 なぜか、ジト目で見られてしまう。なんというか、情けなかった。


 シャリエールは教官だから別として、それ以外だけで見れば、この下宿にいるのは全員山本小隊の隊員であって、名目上は俺がトップ。

 ……最年少メンバーにここまで心配されてしまうとは。


(この合宿では、是が非でも、頼りになる隊長像を見せつけてだな。安心させてやらなけりゃな。よっし)


「山本一徹。いつまで時間をかけているわけ? 皆もう玄関をでているのだけれど」

「す、すまない。持ち物の最終確認も終わったし。やっと出れそうだよ」


 最後の最後までバタバタしていたからか、エメロードという、なんど顔を合わせても、緊張せずにはいられない、少しキツめの顔立ちをした、でもうんげー美人にため息をつかれてしまった。


 やめぃ。

 別嬪のガッカリ顔ほど、野郎のメンタルをガリガリ削るものはないのだよ。


「あまりカッコ悪いところ、私に見せないで? 貴方は私たちの隊長なんだから」

「お? おうとも! ウチの小隊に加入したばかりで、いろいろ不安なところはあるかもしれないけど、出来るだけ安心してもらうために、いっちょ頑張ってみますとも!」

「まぁ、せいぜい無理のない範囲で頑張りなさい。独りよがりにならないこと。苦しくなったら、いつだって私やリィンを頼っていいんだから」


 うむぅ、先日の祭りの一件で、初めてであった彼女たちだが、そこそこ……うまい関係はキープできてる? 

 いや、そう信じたいだけかもしんないけど。


 逆地堂看護学校二年生。

 リィン・ティーチシーフ並びに、エメロード・ファニ・アルファリカ。

 この二人が、先日の夏祭り以降、我が山本小隊に加入した新メンバーである。


 《主人公》達の小隊が、軒並み一年から三年生の計六,七人で構成されていることもある。

 ずっと二年生がおらず、四人で行動してきたわけだから、たとえ魔装士官学院生ではなく看護学校生であっても、加入してくれたことで他小隊と同じ人数にまで形作れたのはホッとしたところではあった。

 ぽっかり空いた二年生という穴が、二人によって埋まったことも、具合がいい。


 ただ……


(人数が埋まったからって、それと小隊事が万事OKかって言ったら、そんなことあるはずがないわけで)


 色々、悩みがないわけでもなかった。


 ぶっちゃけ夏祭りで思い知った。

 気づいていないわけじゃないが、自分で言うのもなんだが、小隊全員凄すぎて、「隊長として頼りなさすぎじゃないか俺?」なんて思うこの頃である。


(特にコイツら、結構シビアなんだよなぁ……)


 バランスは、彼女たちが加わるまでと比べて、随分よくなったとは思うんだ。


 破天荒、常識はずれ……というか世間知らずすぎる一年生のナルナイ・アルシオーネコンビに対し、リィンとエメロードはとても常識人。

 リィンは優等生タイプで、エメロードはとても大人。


 彼女たちが山本小隊に加わるようになってから、二年生として一年生に説教や苦言を与える場面はちょこちょこ目にしている。

 俺の指導による手間も省けているから助かってはいるんだが……


「何を呆けているわけ? とっとと行くわよ。あまり私を待たせないで」

「す、すみません……」

「あ、慌てないでよ一徹さん! 慌てると……ほら、これ忘れ物」

「がぁっ! ちゃんと準備したのに!」

「準備しておいて、私に心乱らせて、忘れてしまっては世話がないわね。もっとしっかりしなさい?」

「お恥ずかしい」


 はい、実は、僕も新メンバーからの指導対象だったり。


「頼りない」

「うぐぅっ!」


 アカン。アカンですよ。

 このままでは、「コイツ小隊長として大丈夫だろうか?」とか思われて……


「フフ」

「あ、あの……」


 あぁ、なんで笑っているかわからんが、すっげぇ冷たい笑顔してる。


「さっそく、私やリィンが頼られる場面かしら」

「は?」

「補佐にルーリィ様がいて、リィンもフォローして、私も協力する。それなら万に一つの不測の事態もないわよね」

「あ、ありがとう」


(エメロードは意外と小言は多いけど、その後のフォローは、それを帳消しにするほど嬉しく、頼もしいんだよな)


 先日の事件から、少しだけエメロードの印象は今日までに変わっていることだけは伝えておく。

 彼女はツンツンではない。ツンデレでもない。

 厳しさの中に厳しさがあって、さらに厳しさが中にこめられ、最後に気配りがあるというか。

 厳慮系お嬢様とでも言っておく(なんだよソレ)。


(とはいえ、あまり甘えてもいられないんだよなぁ。いまはまだ、小隊に加入したばかりだから、第一印象を悪くしないよう、小隊の空気を不穏なものにさせないよう、気を付けているだけかもしれないし)


『クォルラァァァァ! 師匠! いつまで待たせてやがる! 早く出てこいやっ!』


 そうこうもたついているうちに、玄関先から雷鳴がごとくとどろいた。


(この娘たちの爪の垢の一欠でも煎じてアルシオーネに飲ませたら、少しはお淑やかになってくれないかねぇ)


 豪快短慮な一年生には、ぜひ、落ち着きを持った新加入メンバーとの付き合いで何かを感じ取ってもらいたい。


 副隊長、トリスクトさん。女騎士かってくらいの超クールビューティ。

 凛とした気品と超高校級戦闘力が形成する、カリスマ的リーダーシップ。


 二年生隊員、エメロード。お姫様かってくらいのゴージャスビューティ。

 冷静な常識人。戦闘力については語る必要はなく、医療の知識と能力を有す。一年生の指導に期待。


 同じく二年生隊員、リィン。あぁ、ホッコリする純朴美少女が一番だと思う。

 小隊内最年少。周囲への気配りがピカイチ。戦闘力については語る必要はなく、医療の知識と能力を有す。

 

 一年生、ナルナイ。あどけなく、放っておけないようなコケティッシュビューティ。

 頭はいい。気配りも出来るが、どことなくまだ我儘な子供っぽいところが目立つような。ただ、二年生が来る前まではアルシオーネ関係で凄い助かっていた。


 一年生、アルシオーネ。暴力的グラマラスボディの超アグレッシブ健康的ビューティ。

 傍若無人とは、きっとコイツの為にある言葉だ。扱うのは大変だが、勢いと戦略にピタリとハマった時のコイツには、どれだけの頼もしさを覚えたものか。


(小隊長……モブ。おい……)


 えぇっと、イケメンかフツメンかって言われたら、ブサメンと言われなければいいかなとか思っているわけでして。

 三年生。成績、戦略趣味レーション、戦術講義、特殊能力以外の科目なら、ちょっとだけ自信がある(その三つが魔装士官に大切だったりする)。

 特殊能力なし。っていうか、学院一のザコ。以上


 こんな奴が、彼女たちの小隊長かよ。あ、俺のことか。

 あぁ、不安しかない。


「いまはまだバランスが保たれているだけで、いつかはキャラが違いすぎて小隊内の調和が崩れるなんてことになったら……いやいや、ガッツだ俺!」


 もちろん、いやな予想もあるのだが。

 とにかく、だからと言って何もしないではいられない。


 「行こうか?」と、改めてリィンとエメロードに声を掛け、俺は、俺たちは玄関を出て、他のメンバーと合流。

 下宿を後にした。


 何とか頑張って、卒業しなくては。

 ちゃんと彼女たちの小隊長をやっていたという実績を引っ提げて、見事魔装士官になれないと、俺のトモカさん一家恩返し目標は、立ち消えになってしまうんだ。

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