一年二人の新加入。俺様少女と箱入り娘?
第9話 新たなメンバー新たな火種? どうにも勘弁してくれんっ!?
「おーい。生きてるかぁ一徹少年」
トモカ姉さん、楽しそうな声で呼ばないで。全っ然楽しくないから。
「ど、ドモガザン……」
「あっはは、随分口の中切っちゃったみたいね。いやはや、想いが強いというかなんというか」
病床から虫の息で呼びかける。優しく笑った姉さんは、そっと額に手を当て、なでてくれた。
「おねがいじまず。がんがえなおじでぐだざい」
「ほーら。なるだけ喋らない。口内の傷がふさがらないから」
意識だけははっきりしている。だが、体が追い付いていなかった。
それが分かるから却って焦った。
このまま、訴えが姉さんに通らなければ、望まないことが実現してしまう。
「うーん。話すのもつらいとなると。今日明日。食べるのは難しいかな」
(そうじゃないんだ。気づいてくれ。考え直してくれ。その決定には悪い予感しかしない!)
「フォガ、フォフォガ!」
「フガフガ言わない。落ち着く」
ペチンとオデコを叩かれた。
小気味よい音が鳴って、力も強くないからどことなく気持ちいい。普段だったら照れてしまうところだ。
それどころじゃなかった。
『だからお前たち二人とも、そこをどけというに!』
『そういうわけにはいかねぇ。俺には友に果たすべき義理ってのがある。そしてトリスクト。その障害がアンタであることを、俺は知っている!』
『障害も何も、私はその立場にある存在だ。本来お前たちこそ出る幕じゃない!』
『ハッ! 御大層に言ってくれるじゃねぇか。これでも一応、アンタに恥をかかせないよう気ぃ使ってるんだぜ? 貴族家当主代行様が、まともな料理作れるのか? あぁ、元だったか』
『なんだと?』
『どうせ、家付きの料理人あたりにまかせっきりだったんだろうが!』
『くぅっ!』
寝込んでる俺の部屋から少し離れた、台所からなにやら聞こえてきた。
(俺が身動きできないのをいいことに、アイツら何してんのぉ!)
不安でしょうがないのよトモカさん!
『その点、俺の姉妹分は安心だ。軍師養成機関で嫁にしたい女子ナンバーワン。あの方の愛娘だから、当然花嫁修業も完璧。炊事洗濯面で、アンタと比較になるか?』
『ならないだろうな。もし仮に、彼が殺した男の娘でなければの話だが』
『……テメェ、良い歳して言っていいことと悪いことの区別もつかねぇのか。あぁ?』
どーしてこうなってしまったのか。
なぜなのか。なぜ事故で両親を失って、奇跡的に復活した俺の目の前に、こういう状況ばかり広がるのだろうか。
思う。まともな状況ではない事ばかりが起こる自分は、記憶をなくす前の何か悪い行いで、呪われているんじゃないかと。
(家族のこと、はじめ気になったけど、いまは知るのが逆に怖ぇ。俺になんか取り柄があるわけもなし。ならこの状況は、きっと失った家族にかかわる物なのか?)
つーかいま、とんでもない発言あったぞ。「殺した」ってなんだよ。
親父か兄貴、人殺しってわけじゃあなかろうな。
『キャ! 何をするんですか!?』
『何しやがる!』
『却下、却下だ! こんなもの! お前たち、一徹を殺す気かっ!』
『キャァァァァァ! お鍋がっ!』
『て……めぇ、何しやがる!』
あぁ、遠く台所の景色は知りようもないが、声が聞こえてくるから、イメージができてならない。
(トリスクトさん、問答無用で料理中の鍋の物捨てたな)
『こんな毒物っ、父親の敵を果たすつもりか!』
『酷いです! 完璧だったはずです! あの方に召し上がっていただくため、細心の注意を払いました!』
『煮干し出汁にオレンジジュースとヨーグルトを加えるものがあるか! 納豆を煮込むな! 下宿中に納豆の粘っこさがとらえた、甘い香りが拡散する! 毒霧か!』
『カルシウムが取れ、体のこわばりもほぐれる。腸内は綺麗になり、タンパク質は筋肉にいい。加えた野菜で、鬼に金棒! オークに戦斧! 何が
『兄さまの為を思って、味も栄養素も申し分……』
『貴様ら種族の味覚を持ち込むなぁぁぁぁ!』
これが、俺が元気だったら構わない。三泉温泉ホテルに逃げ込み、板長に媚を売って賄いを作ってもらう。
身動き一つできない状況。なら、トリスクトさんが捨てさえしなければ、食らうことになっていたこと請け合い。
(あ、頭が痛くなってきたぁ……)
「あぁそれは……まずそうね。あまり口にとどまらない、飲み込みやすくて栄養のある、冷静ポタージュでも作ろうか?」
最高です姉さん。僕のお嫁さんになってくれませんか?
旦那さんがめっちゃいい人なので、そんな大それたこと、面と向かって言えないけど。
遠くから聞こえるやり取りに頭が痛くなったことで、意識すら薄れていく気がした。
あ、足音が遠くなったということは、トモカさんは台所へ向かったのか。
「ここまで来たなら強くは出れないけど。せめて筋だけはシッカリ通しなさいよ一徹」
なんか言ってくれたようだけど、耳に入らない。
本当どーしてこうなった?
昨日の時点じゃ、まさかこうなるとは思わなかったんだ。
◇
『……何がどうなっているかわからないという顔をしているな山本』
『ん、仕方ないねトーマ。三年次での新規小隊編成とリクルート。先輩がやってきたのを見てきた私たちと違って、山本君たちには新鮮なはず』
『だろうな』
隣に立って腕を組む、背が高く、寡黙な青年が呼びかけてきた。
何も知らなければこのイケメン、少し威圧的に映る。が、その実、心根は優しく、編入したばかりの俺にも親切に接してくれたからこそのこの評価。
そこに乗ってきたのは、
青い髪、全体的にショートなヘアスタイル。右こめかみ部分に、エクステンションなのか、なん筋か編み込まれたものをぶら下げていた。
気まぐれ屋で。低血圧疑うほどの脱力系女子。反面、身軽で瞬発力が抜きんでた。
まさに俺が《猫》という通称を与えるにふさわしく……結構、サラリと毒を吐く。
はてさて、リクルートというのは、今年学院に入学した一年生を、三年生が指揮官務める小隊に、スカウトすることをさした。
実は俺の編入は、その入学式と同日だったのだが、一年生は入学式を終えてすぐ、基礎体力、知識を培うための新人合宿に一月もの期間を費やしていた。
この学院では毎年5月の恒例イベントらしい。
『フン、だからといってみすみす、有望株を譲るほど俺はお人よしではないぞ』
『あぁ、蓮静院は妥協しないもんね』
『茶化すな鬼柳』
……ほんと、このクラスを構築した人は有能だと思う。
厳しい言葉で割り込んできたのは
ここにワンクッション的に笑って見せたのは、
《王子》というのは言いすぎじゃない。
蓮静院と名前負けのない雅すぎる名家の御曹司らしく、いっけめーんとかじゃなくて美少年。鋭い瞳に華奢な細身。白い肌に、黄金色の髪。
上から目線の物言いが、いかにも由緒正しい家の出感を醸し出して、ぶっちゃけ鼻についた。
……が、男版ツンデレというやつで、けっして悪い奴じゃない。
系統的には先日あった御剣のような感じ。
しかし「蓮静院との付き合いを、諦めないでくれ」と俺の編入時にフォローしてきた《主人公》を信じた結果、単純に素直になれない奴だということを知った。
お約束とばかりに、「ふがいない働きは俺たちに迷惑がかかるから言っただけだ。別に、お前を心配して言ったわけじゃない」……なんてよく言ってくる。
その後ろに、「……んだからね?」ってつけたなら、なんだ、ただのツンデレか? ってなるやつだった。
そんな俺様だと誤解しやすくさせる《王子》と小隊を組む、《ショタ》が実のところ重要人物だった。
可愛い。男の俺にもそう思わせる。
カツラとフリフリのフリルがついたワンピースを
守ってやりたいと思わせるほどの、ナヨったらしい見た目で。半面、心は結構に強い。
個性的すぎる三組では、一、二位を争うほどの良心の持ち主と思っている。
誰に対しても公平で、物怖じせず誠実に接することができる《主人公》。
コワモテだが、責任感の強い心優しき強者の《縁の下の力持ち》。
この二人と、《ショタ》はよくつるんでいた。
三人は、入学して早い段階で親友になったらしいぞ。
個性的なメンツばかりの三組が、強い信頼関係で全員結ばれているのは、この三人が立役者となったからだろうというのがうかがえた。
『別に気負う必要はないだろう。あまり不安そうな表情はしない方がいい』
『ん、下級生は、上官になるだろう上級生のそういうところを見るからね』
『でも、僕も不安になる気持ちはわかるけどね』
『やめろ鬼柳。お前に恥じるところは何一つないことを俺は知っている。勝手に不安になって、下級生が俺たちを選ばないなどという迷惑を俺にかけるな』
これが俺の編入したクラスの構成だ。
《主人公・ヒロイン》小隊。
《政治家・委員長》小隊。
《縁の下の力持ち・猫》小隊。
《王子・ショタ》小隊。
強みを伸ばし、欠点を互いに補い合えるバランスのよく取れた小隊を実現させたクラス。
ほぉんと、よくもまぁここまで整ったクラスに編入できたもんだわ。
それでここに、《山本・トリスクト》小隊が加わることになった。
そうそう。この時まではまだ俺も……大けがをして数日の養生を必要とするなんて、思わなかったんだ。
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